博 士 ( 歯 学 ) 高 野 知 承
学 位 論 文 題 名
非 う蝕 性 歯 頚 部欠 損と歯 磨き習 慣,咬 合力,
咬 合 接 触 面 積 お よ び 平 均 圧 カ と の 関係
学 位 論 文 内 容の 要 旨
【目的】
本 研 究 は , 成 人 男 性 集 団 で のNCCLの発 現頻 度, さ らにNCCLと歯 磨 き習 慣, 歯ぎ しり , 咬 合 力 , 咬 合 接 触 面 積 お よ び 平 均 圧 カ と の 関 連 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し た . 【対象および方法】
対 象は 陸上 自衛 隊 丘珠 駐屯 地医 務室 歯 科を 受診 した 男 性自 衛官130名(20〜54歳) である。
初診 時, 従来 の問 診 ・口 腔内 診査に加えて,全歯を対象 に,NCCLの診査,面接法によ る歯磨き および歯ぎしりに関する質問 調査および咬合力,咬合接 触面積および平均圧カの測定を行った.
歯 磨き 習慣 に関 す る質 問内 容は,歯磨きの回数,歯磨 剤使用の有無,歯ブラシの毛 の硬さ,
利 き 手 , ブ ラ ッ シ ン グ 方 法 , ブ ラ ッ シ ン グ 圧 お よ び 歯 ぎ し り の 有 無 と し た 。 NCCLに 関 す る 診 査 は ,Tooth Wear Index (TWI)に よ る 分 類 , 形 態 ( く さ び .V字 状 型, 皿・ 椀状 型) を 記録 した 。対象歯は,欠損部の底部 に軟化歯質およぴ着色を認め ないもの と し た 。 歯 頚 部 に 充 填 な ど の 処 置 を 受 け て い る 歯 は , 診 査 か ら 除 外 し た 。 咬 合力,咬合接触面積およ び平均圧カの診査は,被検者 にデンタルプレスケール 50Hタイプ R(富 士写 真 フイ ルム 社製 ) を咬合させ,これをオクルー ザー。(Fuji Film Dental Occlusion Pressuregraph FPD―705,富士写真フイルム社製)にて測定し,咬合接触面積(而),咬合力(N), 平均圧力(MPa)を求めた。
NCCLの みら れる 歯を1歯 以上 保 有す る者 をNCCL保 有 者と した .年 齢 ,現 在歯 数,DMFT, 咬 合力 ,咬 合接 触面 積 およ び平 均圧力,ブラッシング回数 ,歯ブラシの毛の硬さ,ブラ ッシング 方法 ,ブ ラッ シン グ 圧, 歯磨 剤使用および歯ぎしりの習 慣とNCCLの有無の関連をロジ スティツ ク回帰分析にて検討した。
【結果および考察】
NCCL保 有 者 は ,130人 中78人(60.0%) にみ られ た ,ま た, 保有 者 率は ,年 齢層 が高 く な るとともに,増加する傾向が 認められた.
総 被 検 歯数 (3,708歯 )に 対す るNCCL歯率 は8.0%(298歯) に認 め られ た, また ,グ レ ー ド 分 類 に おい て, グレ ー ド2が 最 も多 く208歯(5.6%) であ り ,最 も少 なぃ のは グ レー ド4で 9歯(0.2% ) であ った .さ らに , 形態 によ る分 類で は くさ ぴ・V字 状型260歯(7.0% ), 皿 ・ 椀状型38歯(1.0%)であった .また,全て唇・頬側に認 められた.
大 臼歯 ,小 臼歯 お よび 前歯 にお ける 対 象歯 数に 対す るNCCL出現 頻度 は, 前歯(3.1%),大 臼歯(6.1%),小臼歯(17.7% )の順に出現率が高くなっ ており,各歯種間全てで有意 差を認め た(pく0.01).また,上下顎 においては,上顎の方が下 顎に比べて有意に高い出現頻 度であっ た(pく0.001).左右差は認 められなかった.
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右利 き で は 右側 お よ び 左側 と も 上 顎の 方 が下顎 よりNCCLの 出現頻 度は有 意に高 くなっ てい た(pく0.01). しかし ,左右 差は, 認めら れなか った. また,左利きでは右側においてのみ,
上 顎 の方 が 下 顎 よりNCCLの 出 現 頻度 は 有 意に 高くな ってい た(pく0.05)が, 左右差は 認めら れなかった.
ブラ ッシン グ回数 につい て,回 数による 統計的 有意差 は認め られな かった .歯磨 剤は,ほと んどの者が使用しており,未使用者は1名のみであった.
NCCL保 有 群は , 非 保 有群 に 比 べ て有 意 に 「ふ っう」 および 「硬い 毛」の 歯ブラ シを使 用して いた(pく0.01).
その 他 に , 利き 手 , ブ ラッ シ ン グ 方法 , ブラッ シング 圧,歯 ぎしり の有無で みてもNCCLと の関連はみられなかった.
咬合 カ に お いてNCCL保 有 者 の割 合 は ,780N以 下と 比 ベ991〜1200N(pく0.05)お よび1201N 以上 (pく0.01) では有 意に高 かった ,咬合接触面積においてNCCL保有者の割合は,18.Orrrrr12 以下および18.0〜 23.0 1111112と比べ28.1 IIlII12以上(pく0.05)で有意に高かった.平均圧カにお いては,有意差は認められなかった.
単変 量 ロ ジ ステ ィ ッ ク 回帰 解 析 の 結果 ,NCCLの 有 無に 対 し , 危険 率5% で有意 な項目 は歯 ブラ シの毛 の硬さ と咬合力 ,また 危険率1%で有 意な項 目は, 年齢,ブラッシング圧および咬合 接 触 面積 で あ っ た. 多変量 ロジス ティッ ク回帰 分析を行 った結 果、危 険率5% で有意 な項目 は 年 齢 と 咬 合 接 触 面 積 , 危 険 率 1% で 有 意 な 項 目 は ブ ラ ッ シ ン グ 圧 で あ っ た . 以上 の結果 より,NCCLは多因 子性の 疾患で あり, 年齢, ブラッ シング圧 および 咬合接触面積 が関連していたことが示された.
歯に 加わる 荷重に は,大 別して 生理的な ものと 非生理 的なも のに分 けられ る.非 生理的な荷 重の 代表的 なもの としてはbruxismやく いしば り等の 口腔習 癖であ る.本 調査にお いてbruxism とNCCLと の関 連 を 検 討し た 結 果 ,有 意 な 関 連は 認 め ら れな か っ た .し かし,bruxismは,無 意識 に行わ れてい て,気づ ぃてい ない可 能性が あるた め,質 問調査 では正 確に把握 できなかっ た の かも し れ な い.Bruxismと 関 連 する 咬 耗 に つい て も 調 査す る 必 要があ ると考 えられ た,
生 理 的 な 荷 重 の 影 響 も 考 慮 す べ き で あ る と 思 わ れ , 今 後 の 検 討 課 題 で あ る . NCCLの原 因 と し てabraSionも考 え ら れ てい る.歯 磨き圧に 関して は,圧 が「強 い」と 回答 した 人は「 弱い」 および「 ふっう 」と回 答した 人に比 べNCCL有病 のオッズ比が4.88であった,
歯 磨 き圧 とNCCLの 関 連性 を 示 唆 した も の と考 えられ る.一 方,歯 ブラシ の毛の 硬さに ついて は, 単変量 解析で は,「ふ っう」 または 「硬い」歯ブラシ使用者は,「やわらかい」歯ブラシ使 用 者 より も , 有 意にNCCL保 有 者 率が 高 か った .今回 は,歯 磨剤の 種類に よる機 能面の 違いや 1回 あ た りの 時 間 や歯 磨剤の 量など を考慮 してい なぃた めとも考 えられ ,今後 の検討 課題で あ る.
一般 に , 加 齢と と も にNCCLの発 生 頻 度 は高 くなると 報告さ れてお り,今 回の調 査でも 発生 頻度 では同 様の傾 向が認め られた .多変 量解析 を行っ た結果 からも ,出現 頻度と年 齢には関連 のあることが示唆された.
Erosionに 関 し て の 調 査 は 今回 行 っ て いな い が , 口蓋 側 に 認 めら れ た も のは な か っ た.
【結論】
今回 の調査 により ,年齢20歳〜54歳 の男性 自衛官 を被検 者とし て,デン タルプ レスケール@
を用 いた咬 合力, 咬合接触 面積お よび平 均圧カ の測定 結果と 面接法 による 歯磨き習 慣,歯ぎし り に 関 す る 質 問 調 査 とNCCLの 有 無 と の 関 連 を 検 討 し た 結 果 よ り 以 下 の 結 論 を 得 た . 1.NCCLは小臼 歯部,上 顎に有 意に高 い出現 率で認 められ たが,左右での差は認められなかっ た.
2. 年 齢 , ブ ラ ッ シ ン グ 圧 お よ び 咬 合 接 触 面 積 に お い て 関 連 し て い る と 考 え ら れた . ―540ー
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
非う蝕性歯頚部欠損と歯磨き習慣,咬合力,
咬合接触面積および平均圧カとの関係
審 査は主査 ,副査 全員出席のもとに,申請者に対して学位申請論文の内容とそれに関連 した学問分野について口頭試問の形式で行われた.提出論文の要旨と審査内容は,以下の とおりである.
非う蝕性の歯頸部欠損(Non‑carious Cervical Lesion,以下NCCL)については,出現部位や 左右差など不明な点が多いと言われてきた.また,その原因として咬合要因が関連してい ることが指摘されていたが,咬合要因の客観的な測定法が使われているものは少なく,疫 学的な検証は未だなされていない。近年,咬合感圧紙を用いて,咬合要因(咬合力,咬合 接触面積および平均圧力)を客観的に測定する方法が疫学調査において汎用されてきた,
そこ で本研 究は,成 人男性 集団でのNCCLの発現頻度,さらに歯磨き習慣,歯ぎしり,咬 合 力 , 咬 合 接 触 面 積 お よ び 平 均 圧 カ と の 関 連を 明 ら かに す る こと を 目 的と し た . 対象 は陸上 自衛隊丘珠駐屯地医務室歯科を受診した男性自衛官130名である.初診時,
従来の問診・口腔内診査に加えて,全歯を対象に,NCCLの診査,面接法による歯磨きおよ び歯ぎしりに関する質問調査および咬合力,咬合接触面積および平均圧カの測定を行った.
NCCLに関する診査は,Tooth WearIndex (TWI)による分類,形態(くさぴ・V字状型,皿・
椀状型)を記録した.対象歯は,欠損部の底部に軟化歯質および着色を認めなぃものとし た.歯頸部に充填などの処置を受けている歯は,診査から除外した.咬合力,咬合接触面 積お よび平 均圧カの 診査は,被検者に咬合感圧紙(デンタルプレスケール 50HタイプR) を咬合させ,これをオクルーザー@にて測定した,
NCCL保 有者は,130人 中78人(60.0%)に みられた.また,保有者率は,年齢層が高く なるとともに,増加する傾向が認められた.総被検歯数(3。708歯)に対するNCCL歯率は 8.0%(298歯)に認められた.さらに,形態による分類ではくさび.V字状型260歯(7.0%),
皿 ・ 椀 状 型 38歯 ( 1.0% ) で あ っ た . ま た , 全 て 唇 ・ 頬 側 に 認 め ら れ た . 単変 量ロジ スティック回帰解析の結果,NCCLの有無に対し,危険率5%で有意な項目は ―5411
学
光
彦
雅 英
田
浪
野
森 川
佐
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
歯ブラシの毛の硬さと咬合力,また危険率1%で有意な項目は,年齢,ブラッシング圧およ び咬合接触面積であった,多変量ロジスティック回帰分析を行った結果,危険率5%で有意 な項目は年齢と咬合接触面積,危険率1%で有意な項目はブラッシング圧であった.以上の 結果より,NCCLは多因子性の疾患であり,年齢,ブラッシング圧および咬合接触面積が関 連していたことが示された,
歯に加わる荷重には,大別して生理的なものと非生理的なものに分けられる,非生理的 な荷重の代表的なものとしてはbruxismやくいしばり等の口腔習癖である.本調査において bruxismとNCCLとの関連を検討した結果,有意な関連は認められなかった.しかし,bruxism は,無意識に行われていて,気づいていない可能性があるため,質問調査では正確に把握 できなかったのかもしれない,Bruxismと関連する咬耗についても調査する必要があると考 えられた.
NCCLの 原因と してabrasionも 考えられ ている.歯磨き圧に関しては,圧が「強い」と 回 答した人 は「弱 い」およ び「ふ っう」と 回答した人に比べNCCL有病のオッズ比が4.88 で あった. 歯磨き 圧とNCCLの 関連性を 示唆したものと考えられる.一方,歯ブラシの毛 の硬さについては,単変量解析では,「ふっう」または「硬い」歯ブラシ使用者は,「やわ ら かい」歯 ブラシ 使用者よ りも, 有意にNCCL保有者率が高かった.今回は,歯磨剤の種 類 による機 能面の 違いや1回あたりの時間や歯磨剤の量などを考慮していないためとも考 えられ,今後の検討課題である.Erosionに関しての調査は今回行っていないが,口蓋側に 認められたものはなかった.
今回の調査により,年齢20歳〜 54歳の男性自衛官を被検者として,デンタルプレスケー ル@を用いた咬合力,咬合接触面積およぴ平均圧カの測定結果と面接法による歯磨き習慣,
歯 ぎ し りに 関する 質問調査 とNCCLの有 無との関 連を検 討した結 果,NCCLは 小臼歯部 , 上顎に有意に高い出現率で認められたが,左右での差は認められなかった.年齢,ブラッ シ ン グ 圧 お よ び 咬 合 接 触 面 積 に お い て 関 連 し て い る と 考 え ら れ た .
本論文申請者に対して,主査および副査からまず本論文の概要についての説明が求めら れた.続いて行われた口頭試問において,歯単位における診査を行っているのか,歯磨剤 の研磨剤について考慮しているのか,NCCLを予防するためにはどうすれば良いのか等,詳 細にわたって行われた.
申請者はこれらの設問に対しそれぞれ適切な回答を行った.したがって,申請者は研究 の立案と実行,結果の収集とその評価について,十分な能カがあることが理解され,本研 究に直接関係する事項のみならず,予防歯科学および疫学全般にわたり広い学識を有して い ると認 められた .また ,本研究 はNCCLと歯磨き習慣,咬合力,咬合接触面積および平 均圧カとの関連を明らかにするものであり,貴重な情報を提供するものであると高く評価 された.したがって,本学位申請者は博士(歯学)の学位授与に値するものと認められた,
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