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博士(歯学) 岡田知之 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(歯学)   岡田知之 学位論文題名

口腔癌におけるPTP4A1 のシスプラチン内因性耐性メカニズム

学位論文内容の要旨

  口 腔 癌 の 標 準 的 治 療 は 根 治 性 の 観 点 か ら 手 術 に よ る 外 科 的 切 除 が 中 心 で あ る が , 進 行癌 に 対 し て 外 科 的 切 除 に よ る 広 範 囲 な 浸 襲 は , 口 腔 機 能 及 び 審 美 性 に 多 大 な る 影 響 を 及 ば し , 患 者の QOLの 著 し い 低 下 を 招 く . 近 年 で は 手 術 前 に 化 学 療 法 を 行 い , が ん を 縮 小 さ せ て 口 腔 の 機 能 温 存 を 期 待 す る 術 前 化 学 療 法 を 手 術 に 併用 す る 場 合 が増 加 し て お り, シ ス プ ラ チン は そ の 中 心 的薬 剤 の ー っ で あ る . そ の 主 な 作 用 はDNAに 直 接 結 合 し て 複 合 体 を 形 成 し , 細 胞 分 裂 や 転 写 な ど の 細 胞 の 生 存 に 必 要 な 働 き を 阻 害 す る こと で , ア ポ トー シ ス 経 路 を活 性 化 し 強 カな 殺 細 胞 効 果 を示 す . し か し なが ら , シ ス プラ チ ン に 対 して 抵抗性 を示す 腫瘍も 存在 し,現 在のと ころ、 腫瘍 の抗癌 剤 感 受 性 ま た は 耐 性 は , 実 際 に 治 療 を 行な っ て 初 め て明 ら か と な る。 化 学 療 法 施行 前 に 感 受 性 の有 無 を 予 測 で き る と 的 確 な 治 療 法 の 選 択が 可 能 に な るた め 、 抗 が ん剤 に 対 す る 感受 性 を 予 測 で きる シ ス テ ム の 構築 は 大 き な 意義 を も っ と 考え ら れ る .

  抗 癌 剤 に 対 す る 抵 抗 性 の 原 因 の ー っ と し て , 耐 性 遺 伝 子 の 発 現 上 昇 が 知 ら れ て い る .耐 性 遺 伝 子 に は 内 因 性 耐 性 遺 伝 子 と 獲 得 性 耐 性 遺 伝 子 の2種 類 が 存 在 し , 内 因 性 耐 性 遺 伝 子 と は , 癌 細 胞 内 で 本 質 的 に 発 現 が 亢 進 し て お り, そ れ に よ って 腫 瘍 が 耐 性を 示 す よ う な遺 伝 子 で あ る ,そ れ に 対 し 獲 得 性 耐 性 遺 伝 子 は , 元 来 癌 細 胞 内 で 発 現 が 低 い が , 抗 癌 剤 で 処 理 さ れ る と 発 現 が上 昇 し , そ れ が 耐 性 に 寄 与 す る 遺 伝 子 であ る , 抗 癌 剤耐 性 遺 伝 子 を検 索 す る 一 般的 な 方 法 は , まず 細 胞 株 を 抗 癌 剤 で 処 理 し , 生 き 残 っ た細 胞 を 耐 性 細胞 株 と し て 樹立 す る . そ して 耐 性 株 と 親 株の 遺 伝 子 発 現 を比 較 し て , 耐性 株 で 強 く 発現 し て い る も のを 耐 性 遺 伝 子と す る 方 法 であ るが ,この 方 法 で 同 定 さ れ た 遺 伝 子 は , 内 因 性 か あ る い は 獲 得 性 か は 不 明 で あ る , 術 前 の 抗 癌 剤 感 受 性 予測 マ ー カ ー を 検 索 す る 場 合 , 獲 得 性 耐 性 遺 伝 子 で は そ の 要 件 を 満 た さ ず , 内 因 性 耐 性 遺 伝 子 のみ を 同 定 す る 必要 が あ る . そこ で , ヒ ト 口腔 が ん 細 胞 株HSC―3よル シ ン グ セ ルク ロ ー ニン グを行 い内 因 性 耐 性 遺 伝 子 の み を 検 索 で き る 実 験方 法 を 考 案 し, シ ス プ ラ チン 耐 性 を 術 前に 予 測 で き る マー カ ー の 検 索 を目 的 と し て 研究 を 行 っ て きた ,

  口 腔 病 理 病 態 学 教 室 で は , 以 前に ヒ ト 口 腔 がん 細 胞 株HSC―3よ ル シン グ ル セ ル クロ ー ニ ン グ 法 で , シ ス プ ラチ ン 感 受 性 株お よ び 耐 性 株を 樹 立 し た . 培養 細 胞 は へ テロ の 集 団 で ,そ こか らシン グ

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ル セル ク ロ ー ニ ング 法 に よ っ て 細胞 を 分 離 し ,そ の ひ と っ の細 胞 か ら 細 胞株 を 樹 立 す る と, そ れ ぞ れ わず か に 異 な る性 質 を も つ 細 胞株 を 得 る こ とが で き る . 実際 に そ れ ぞ れの 細 胞 株 に シ スプ ラ チ ン を 作用 さ せ る と ,生 き 残 る 細 胞 数が 異 な っ た .次 に , そ れ ぞれ の 細 胞 株 の遺 伝 子 の 発 現 をマ イ ク ロ ア レイ に よ っ て 検索 し , シ ス プ ラチ ン の 抵 抗 性を 示 す 細 胞 株で は 多 く 発 現し , 感 受 性 を 示す 細 胞 で は 発 現 が 低 い 遺 伝 子 を 検 索 す る こ と で , 幾 っ か の 内 因 性 耐性 遺 伝 子 の 候補 を 同 定 し た .そ の う ち の ーっ で あ るPTP4A1遺伝 子 に つ い て解 析 を 行 っ た ,

  PTP4Al(Protein Tyrosine Phosphatase type 4A1)別 名PRL―1は , チ ロシ ン フオ スファ ターゼ のひ と っで あ り , 肝 臓の 再 生 時 に 発 現が 上 昇 す る タン パ ク 質と して同 定され た. その後 正常組 織の脳 や,

消 化 管 上 皮 に 発 現 を 認 め , ま た , い く っ か の 腫 瘍 組 織 に お い て 発 現 が 亢 進 し ,PTP4A1の 過 剰 発 現 が 細 胞 増 殖 の 亢 進 や 転 移 に 関 与 す る と い う 報 告 が あ る . 著 者 が 渉 猟 し た 限 り で はPTP4A1の 発 現 量 と 抗 癌 剤 耐 性 の 関 係 を 示 し た 報 告 は な く , 今 回PTP4A1の シ ス プ ラ チ ン に 対 す る 耐 性 機 序 に つ いて 検 討 す る こと と し た .

  PTP4A1を 強 制 発 現 さ せ た 口 腔 が ん 細 胞 株HSC―3,SAS細 胞 は 、 細 胞 増 殖 能 が 亢 進 す る こ と が 明 らか と な っ た .こ の こ と は , 以前 に 小 細 胞 肺癌 細 胞 株 に おい て 報 告 さ れて お り 、 口 腔 がん 細 胞 株 に お い て もPTP4A1の 発 現 が 細 胞 増 殖 能 の 調 節 に 関 与 し , シ ス プ ラ チ ン 耐 性 以 外 に も 細 胞 増 殖 能 を 亢進 さ せ て 悪 性度 を 増 加 し て いる と 考 え ら れた .

  PTP4A1を 強 制 発 現 さ せ たHSC―3細 胞 で は シ ス プ ラ チ ン に 対 し て 抵 抗 性 を 示 し ,SAS細 胞 で も 同 様 にPTP4A1の 強 制 発 現 に よ っ て シ ス プ ラ チ ン に 抵 抗 性 を 示 し た こ と か ら ,PTP4A1の シ ス プ ラ チ ン抵 抗 性 はHSC―3細 胞 固有 の 現 象 で ない こ と が 明 らか と な っ た .

  AKTは 多 く の が ん 組 織 に お い て 活 性 が 亢 進 し て い る こ と が 知 ら れ て い る , 著 者は ,PTP4A1の シ ス プ ラ チ ン 耐 性 の メ カ ニ ズ ム を 調べ る た め , 細胞 生 存 シ グ ナル で あ るAKTの り ン 酸 化と ア ポ ト ー シ ス シ グ ナ ル で あ る 活 性 型PARPに つ い て 解 析 を 行 っ た ,HSC―3にPTP4A1を 過 剰 発 現 さ せ る と AKTの り ン 酸 化 が 上 昇 し , シ ス プ ラ チ ン 存 在 下 で もAKTの り ン 酸 化 は 高 く 維 持 さ れ , 活 性 型PARP は 減 少 し て い た . 逆 にPTP4A1の 発 現 をsiRNAに よ っ て ノッ ク ダ ウ ン する と ,AKTの り ン 酸 化 の低 下 と 活 性 型PARPの 発 現 増 加 を 認 め ,PTP4A1が シ ス プ ラ チ ン に 対 す る 抵 抗 性 に 関 与 し て い る こ と が 示 され た .

  ま た 、EGFP‑PTP4A1の 分布 は , 細 胞 質お よ び , 細 胞膜 に 分 布 し 細 胞膜 に 強 く 局 在す る こ と か ら,

細 胞 膜 に 局 在 , あ る い は 細 胞 膜 か ら 細 胞 質 に 局 在 を 変 化 さ せ る タ ン パ ク 質 でAKTの 上 流 に 位 置 す る タ ン パ ク 質 がPTP4A1と 相 互 作 用 す る の で は な い か と 考 え ,PTP4A1の 発 現 とEGFRお よ び PTENの 活 性 化 に つ い て 検 索 し た , し か し , そ れ ら の 活 性 はPTP4A1の 発 現 と は 相 関 が み ら れ な か っ た, リ ン 酸 化 およ び 脱 リ ン 酸 化は , 転 写 調 節, ア ポ トー シス, 細胞周 期進 行,タ ンパク 質分解 とタ ン パ ク 質 輸 送 な ど の 様 々 な タ ン パ ク 質 の 機 能 的 活 動 に 大 きな 影 響 を 及 ばし て い る .PTP4A1は そ の ア ミノ 酸 配 列から チロ シンフ オスフ ァター ゼと考 えら れてお り,タ ンパク 質リ ン酸化 の調節 の役割 を果 た す酵 素 で あ る と考 え ら れ て い る. し か し ,PTP4A1の タ ーゲッ トは未 だに明 らか ではな く,今 後更な る 研究 が 必 要 と 考え ら れ る .

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(3)

学位論文審査の要旨 主 査    教 授    鄭    漢 忠 副 査    教 授    進 藤 正 信 副 査    教 授    北 川 善 政

     学位論文題名

口腔癌におけるPTP4A1 のシスプラチン内因性耐性メカニズム

     審査は、上記担当者による申請者に対する提出論文と関連事項についての 口頭試問により執り行われた。審査を行った論文の概要は以下の通りである。

   シスプラチンは頭頚部癌の治療でもっとも一般的に用いられる薬剤である。

しかし、ときに期待した治療効果が得られないことがあり、そのことを予測す るのは難しい。抗がん剤耐性遺伝子には、細胞内でもともと発現は低いが、抗 がん剤に曝露されたとき発現が上昇して耐性の原因となる獲得性耐性遺伝子と    もともと発現が高く、それが原因で耐性を示す内因性遺伝子の2 種類がある。

   ヒト口腔がん細胞株 HSC ―3 よルシングルセルクローニングを行い、シスプラ チン投与前に、当該がんのシスプラチン感受性を評価するマーカーを見っける ため内因性遺伝子のみを同定し、いくっかの内因性耐性遺伝子の候補を見いだ した(北村ら投稿中)。本研究の目的は、そのうち、チ口シンフォスファター ゼのひとつである PTP4A1 (Protein Tyrosine Phosphatase type 4A1) 遺伝子に着 目し 、 シス プ ラチ ン の薬 剤 耐性 と の関連 について検 討すること である。

   樹立した耐性株と感受性株で PTP4AlmRNA の発現を比較したところ、耐性細胞 株では感受性細胞株に比べて PTP4A1 の発現量が高かった。次に、PTP4A1 を過剰 発現させた細胞および knockdown させた細胞を用いてシスプラチン感受性を検 討したところ、過剰発現した細胞はシスプラチン抵抗性が上昇し、knockdown し た細胞ではシスプラチン抵抗性が減弱した。

   生存シグナルである AKT のりン酸化とアポトーシスシグナルであるcleaved PARP を western blotting で検索したところ、 PTP4A1 を過剰発現させると AKT のりン酸化が上昇し、シスプラチン存在下でも AKT のりン酸化は高く、cleaved

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(4)

PARP は減 少 し た 。 逆 に PTP4A1 を knockdown さ せ る と AKT の り ン 酸化 の 低 下 と cleaved PARP の 増加 を認 めた 。以上の結果からPTP4A1 はシスプラチン耐性に関 連す る遺 伝子で あり 、そ のメ カニ ズム には AKT の りン 酸化 が重要であることが 示唆 され た。

   論文 審査 にあ たっ ては 、申 請者 による学位論文要旨についての説明後、担当 者により研究内容および関連事項についての質問を行った。主な質問事項は、1 ) 通 常phosphat ase は スイ ッチ をoff にす るが 、今 回の 実験 計画 全体においてそ の 部分 をどのように考えているか、2 )細胞の生存率の縦軸は何を意味するか、

そ のデ ータはどのように測定して得られたのか、3 )内因性耐性と獲得性耐性に つ いて 、4 )遺伝 子の 過剰 発現 、knockdown の実験あるいはりン酸化などを直接 阻 害す る実験の各々の持つ意味と信頼性は、5 ) AKT の上流たんぱく質の検索は negative data だったが今後どの系でみようと考えているか、などであった。こ れ らの 質問 に対 して は申 請者 から 適切かつ明快な回答および説明が得られ、研 究 の立 案と 遂行 なら びに 結果 の収 集とその評価について、申請者が十分な能カ を 有し てい るこ とが 確認 され た。 本研究結果はPTP4A1 がシスプラチンの抵抗性 に 関連 する こと を示 唆す るも のと して意義深いものであることが高く評価され た 。申 請者 は、 関連 分野 にも 幅広 い学識を有し発展的研究にも意欲的であり、

今 後の 研究 につ いて の将 来性 も期 待される。本研究業績は口腔外科領域のみな ら ず癌 の化 学療 法領 域に も寄 与す ること大であり、博士(歯学)の学位に値す るものと認められた。

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参照

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