博士課程用(甲)
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(様式4)
学 位 論 文 の 内 容 の 要 旨
( 吉田 知典 ) 印
(学位論文のタイトル)
CD36 expression is associated with cancer aggressiveness and energy source in esophageal squamous cell carcinoma
(食道扁平上皮癌におけるCD36発現は癌の悪性度とエネルギー源に関連する)
(学位論文の要旨)
【背景】
食道扁平上皮癌は早期から転移浸潤をきたす高悪性度の癌腫である。食道扁平上皮癌の診断、
治療の進歩により生命予後は改善しているが、進行癌症例の治療成績はいまだに不十分である。
一方で、癌細胞は、増殖や浸潤に必要なエネルギーを得るために正常細胞と異なる代謝活動をし ていることが知られており、グルコースに加えて脂肪酸や必須アミノ酸が癌代謝、癌悪性度亢進 における重要なエネルギー源となることが知られている。本研究で注目したCD36は血小板、マク ロファージ、脂肪細胞、肝細胞、筋細胞および一部の上皮細胞に存在する膜糖蛋白質であり、長 鎖脂肪酸の受容体として知られている。近年、ヒト口腔扁平上皮癌由来細胞にCD36を高発現させ ることで癌細胞の脂肪酸を利用したエネルギー産生が亢進すること、担癌モデルマウスにおける 転移能が促進されることが報告された。しかし、食道扁平上皮癌におけるCD36の発現意義や機能 についてはほとんど知られていない。本研究の目的は、食道扁平上皮癌におけるCD36発現と臨床 病理学的意義の関係、ならびに増殖・浸潤・癌エネルギー代謝におけるCD36の機能を明らかにす ることである。
【対象と方法】
160例の術前無治療の食道扁平上皮癌切除標本におけるCD36発現を免疫組織化学染色にて評価 し、癌部CD36発現と臨床病理学的因子、予後との相関を解析した。また、食道扁平上皮癌細胞株 を用いて、CD36発現が増殖能、浸潤能に与える影響を評価した。さらに、CD36依存性のエネルギ ー産生メカニズムおよび脂肪酸代謝が食道扁平上皮癌の生存に果たす役割を、siRNAによるCD36 抑制株およびウイルスベクターを利用したCD36強制発現株を用いて解析した。
【結果】
CD36は癌細胞の細胞膜に特異的に発現を認め、正常扁平上皮細胞には発現を認めなかった。癌 部CD36高発現は壁深達度、リンパ節転移、静脈浸潤、リンパ管浸潤の進行と有意に正の相関を認 めた。CD36高発現群の全生存率、疾患特異的生存率は低発現群よりも有意に低かった。
CD36高発現の食道扁平上皮癌細胞株TE15において、siRNAを用いてCD36発現を抑制すると、有 意に増殖能、浸潤能が低下した。またCD36抑制に伴い、脂肪酸β酸化の律速酵素であるcarnitin e palmitoyltransferase 1 (CPT1)、long-chain acyl-CoA dehydrogenase (LCAD)の発現は有意 に抑制された。無血清培地に脂肪酸を添加して培養すると、CD36抑制に伴い増殖能も有意に低下 した。CD36低発現の食道扁平上皮癌細胞株TE1にCD36を強制発現させると、増殖能は有意に亢進 した。
博士課程用(甲)
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TE15のコントロール株とCD36抑制株でのメタボローム解析では、TCA回路の中間代謝物には有 意差はなかったが、必須アミノ酸のうちロイシン、イソロイシンは有意に抑制株で低く、他の必 須アミノ酸も低い傾向にあった。分岐鎖アミノ酸分解の律速酵素であるBranched-chain aminotr ansferase(BCAT)のmRNA発現は、CD36抑制により有意に亢進した。
TE15のコントロール株とCD36抑制株で、無血清培地にパルミチン酸(長鎖脂肪酸)、必須アミ ノ酸をそれぞれ添加して増殖能を比較すると、コントロール株では、増殖能はパルミチン酸(長 鎖脂肪酸)添加で亢進したが、CD36抑制株では必須アミノ酸添加で増殖能が亢進した。また、CD 36を発現していない細胞株では、パルミチン酸(長鎖脂肪酸)添加では増殖能に影響がなかった が、必須アミノ酸添加により増殖能が亢進した。さらに、TE1のCD36強制発現株では、必須アミ ノ酸のみの添加より、必須アミノ酸に加えパルミチン酸(長鎖脂肪酸)を添加すると増殖能が亢 進した。
【考察】
臨床検体においてCD36高発現は食道扁平上皮癌の高悪性度と正の相関があり、細胞株における 増殖能や浸潤能は、CD36発現を抑制することにより阻害された。食道扁平上皮癌におけるCD36発 現は転移浸潤および生命予後の有用なバイオマーカーとなり得る。また、CD36は食道扁平上皮癌 の進行を制御する治療標的となるかもしれない。
細胞実験の結果からは、内因性のCD36発現食道扁平上皮癌細胞は、脂肪酸のβ酸化を増殖およ びエネルギー産生に利用していることが示唆された。メタボローム解析の結果からは、CD36抑制 により食道扁平上皮癌細胞は脂肪酸のβ酸化を利用できなくなるが、代替として必須アミノ酸を 代謝してTCA回路を維持することが示唆された。CD36を欠損する細胞株において、増殖能は脂肪 酸ではなく必須アミノ酸に依存していた。一方、CD36強制発現株においては、必須アミノ酸に加 えて脂肪酸を添加すると、増殖能が有意に亢進した。食道扁平上皮癌細胞増殖におけるエネルギ ー源として脂肪酸を利用する際の主要な制御因子としてCD36は機能すると考えられる。
進行食道扁平上皮癌患者は食事摂取困難なことも多く、治療経過における栄養管理は非常に重 要である。CD36発現食道扁平上皮癌患者に脂肪製剤投与すると癌進行を促進する可能性も示唆さ れ、CD36発現評価により不適切な栄養管理を避けることができるかもしれない。
【結語】
CD36は食道扁平上皮癌において有望な癌進行、予後マーカー、治療標的となり得る。食道扁平 上皮癌が増殖、転移、浸潤のためのエネルギー源として脂肪酸を利用する際に、CD36は重要な制 御因子として機能することが示唆された。