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博士(農学)柴田英昭 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(農学)柴田英昭 学位論文題名

森林生態系の物質循環における土壌―植物系の役割

〜酸性降下物に対する緩衡機構を中心として〜

学位論文内容の要旨

  森林生態系の物質循環は土壌と植物の密接な相互関係のもとに,自己 施肥系といった独自の循環系を形成している.すナょわち,森林植生は土 壌 から可給態養分を吸収し,その元素を樹体内ヘ蓄積するとともに,林 冠 からの溶脱あるいは落葉・落枝の形態で元素を土壌ヘ還元するといっ た サイクルを繰り返している.近年,大気からの酸性降下物の沈着がこ れらの循環系を損ね,樹木の生育に悪影響を及ぼす.という懸念が欧米を 中 心に議論されてきた.大気から生態系へ供給されたプロトンと土壌一 植物系内部に存在する塩基(Ca,M馨,KおよびNa)との交換反応によって.

土 壌から排出される塩基フラックスが生態系内部での塩基循環フラック スを上回る条、件下では,土壌の塩基飽和度が次第に低下し,それによる 土 壌pHの低下に伴って土壌溶液中のAl3+イオン濃度が上昇する可能性が ある.Al3゛は植物にとって有害であり,これによる森林植生の衰退が欧 州 を中心にして報告されてきた,ー方,酸性降下物による土壌酸性化の 進 行と同時に,土壌はその酸を中和する働きを持つことが知られている 生 態系の物質循環過程においてこの緩衝機構を明らかにするためには生 態 系 の 物 質 収 支 に 基 づ い て 議 論 す る こ と が 重 要 で あ る ,   そこで,本研究では森林生態系の物質循環過程における酸性降下物に 対 する緩衝機構を明らかにするために,同じ土壌に立地する異なる植生 の 森林生態系において物質循環フラックスを調査し,各部位(植生,土 壌 )の物質収 支に基づぃ て研究を行 い,以下の ことを明ら かにした.

  苫小牧市高丘の火山放出物未熟土に立地する広葉樹林(ミズナラを主 体とする落葉広葉樹林の二次林)と針葉樹林(ストローブマツを主体とす る 常緑針葉樹林ガ人工林)では,大気からの湿性降下物による年間のプ 口トン沈着量は平均O. 65kmolc haー1y‥,降水の年平均pHは4.31に達し 欧 米において森林衰退が顕著である地域と匹敵した値であった.しかし な がら,森林の著しい衰退や土壌の酸性化は現段階では生じていない.

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気 象 パ ラ メ ー 夕 一 を 用 い た 重 回 帰 分 析 の 結 果 , 苫 小 牧 に お い て 降 水の pHを 低 下 させ て い る主 因 は南 東 か らの 季 節風 に よ って 臨 海 工業 地 帯か ら 供給される非海塩起源のS042ーに伴うH+であった,

  降 水 と して 生 態 系へ 流 入す る 物 質フ ラ ック ス が 植生 タ イ プに 関 わら ず 地 点間 で ほ ぼ同 じ で あっ た のに 対 し ,針 葉 樹林 の 林 冠は そ の物 理 的 性質 に よ っ て , 大 気 か ら の 乾 性 沈 着 フ ラ ッ クス が 同‑地 域の 広 葉樹 林 よ り大 き く, 林 内 雨と 樹 幹 流に よ るS042− フ ラ ック ス は降 雨 に よるS042― の約 2.5倍 に 相当 し た .ま た ,針 葉 樹 林の 林 内雨pHは降 雨pHと 有 意な 差 が 認 め ら れな い の に対 し , 広葉 樹 林に お け る林 内 雨pHは林 冠の着葉 期間(6〜 10月 ) で は降 雨pHよ り 有意 に 上 昇し , そ の主 要 なメ カ ニ ズム は 葉面 に お けるH+とK+の交換反応であった,

  林 冠 で の化 学 的 修飾 反 応を 経 た 後に 林 内雨 や 樹 幹流 と し て土 壌 へ流 入 す る 酸に 対 し て, 林 床 に存 在 する 堆 積 祖腐 植 層(0層 )は鉱質 土壌へ流 入 す る 酸 を 中 和 す る 重 要 な 役 割 を 担 っ て いた . 林 内雨 と 樹 幹流 に よっ てO 層 に供給さ れたH+フラッ クスの83% (広葉樹 林),60% (針葉樹林)がO層 を 通過 す る 際に 中 和 きれ , その 主 要 な機 作 は,II+とO層 固相 の 塩基 性 イ オ ン , 特 にCa2+と の 交 換 反 応 で あ っ た . ま た , 鉱 質 土 層 で は 外 部 供 給 H+よ り 土 壌内 部 生 成H゛量 が 多く , そ れは 主 とし てA層 で の硝 酸 化成 に 由 来 し てい た . ただ し , その 内 部生 成H+ に 対し て土壌 からCa2+,Mg2+を 主 と し た 交 換 態 塩 基 が 溶 液 中 に 交 換 放 出 さ れ る こ と に よ っ て 土 壌 浸 透水 pHの低下が緩衝された.

  上 に 述 べ た 林 冠 ―O層 系 の 高 い 酸 緩 衝 カは 植 生 の塩 基 吸 収と そ の還 元 に よ り 維 持 さ れ て い る . 植 生 のCa,Mgお よ びK吸収 フ ラ ック ス の合 計 は 広 葉樹林で8. 3kmolc ha‑iyー1と針葉 樹林の2.8kmolc  ha−1y‑lより約3 倍 大き か っ た. こ の 広葉 樹 林の 大 き な塩 基 吸収 能 が ,根 群 域下 へ の 塩基 排 出フラッ クスを広葉 樹林で1. 8kmolc ha−1y−iと針 葉樹林の3.8kmolc ha−1y―1より約1/2小さくした原因と考えられた,

  土 壌の酸中 和容量(ANC cs)) の滅少速 度から求 められる 土壌の酸性化速 度(4 ANC(8))は広葉樹林で−4.O,針葉樹林でー2.3kmolc  ha−1yー1と見 積 も られ た , ただ し , この4 ANCくs)の 内 容 は地点 間で異な り,広葉 樹林 で は土 壌 か らの 植 生 によ る 塩基 の 正 味蓄 積 の影 響 が 強か っ たの に 対 し,

針 葉樹 林 で は根 群 域 下へ の 塩基 溶 脱 の影 響 をよ り 強 く受 け てい た . 広葉 樹 林 で の 植 生 に よ る 塩 基 吸 収 は 林 冠‑O層 系 の 高 い 酸 緩 衝 機 能 を 維持 す る と共 に , 樹体 内 へ 塩基 を 蓄積 す る こと に よっ て 次 世代 の ため の 酸 緩衝 カを保持する役割を担っていると考えられる.

  ま た , 酸中 和 の ため の 塩基 量 は ,鉱 質 土壌 で は 溶液 中 のAl3+濃 度 を 上

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昇させ ないpH4.5以 上に維持す る根群域の 交換態塩基量と0層の全塩基 現存量であり,広葉樹林で77,針葉樹林で57kmolc ha−1存在する.これ らの値 は現況の土 壌からの塩 基減少速度 に対して,それぞれ17.2年,

21.O年分の量に相当する.両地点の母材1ま約250〜300年前に堆積したも のであ り,その交 換態塩基は堆積後1年目の自然降雨によって80%以上 が溶脱され得る.したがって,現況の土壌の塩基飽和度は平衡状態にあ り,土壌中の塩基滅少量は鉱物の風化によって補われていると考えられ る.この風化速度は広葉樹林で1.O,針葉樹林でO. 9kmolc  haー1y‑lと見 積もられ,外部供給と溶脱にバランスしていた.なお,土壌の全塩基現 存量はそれらの鉱物風化速度において,それぞれ28000年,31000年分に 相当している.これらのことは本調査地の土壌が現況の塩基収支のもと で 十 分 大 き な 緩 衝 容 量 を 有 し て い る こ と を 示 し て い た .   以上のように植生による土壌からの塩基の吸収および林床への濃縮・

還元過程は,土壌―植物系の酸緩衝機能や系外への元素排出フラックス に強く影響していた.言い換えると,酸性降下物に対する森林生態系の 緩衝機構は元素の生物地球化学的循環過程によって支配されており,本 調査地の広葉樹林ではその過程が元素の地球化学的循環より顕著に大き いことによって生態系の酸緩衝機構が維持されていた.今後の研究課題 としては,広葉樹林と針葉樹林の物質循環に対する,広葉樹と針葉樹の 混交林生態系連鎖の意義やその相互作用を明らかにすることであろう.

本研究で得た・知見ならびに評価方法を他の地域にも適用することによっ て,人為の影響下にある森林資源にっいて各生態系あるいは流域単位で 維 持 ・ 管 理 す る 上 で の 具 体 的 な 方 策 が 明 ら か に な る で あ ろ う .

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学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教 授 教 授 教 授 助 教授

波多 野 但 野 佐 藤

学 位 論 文 題 名

隆 介利 秋     I 賀 一 郎     丶 冬 樹

森林生態系の物質循環における土壌一植物系の役割

〜酸性降下物に対する緩衡機構を中心として〜

  本 論 文 は12章 で 構 成 さ れ , 表45, 図45, ぢI用 文 献145を 含 む 総 頁 数 131頁 の 和 文 論 文 で あ る . 別 に , 参 考 論 文4編 が 添 え ら れ て い る .   森 林 生 態 系 に お け る 物 質 循 環 は @ 地 球 化 学 的 循 環 ( 大 気 か ら の 流 入 と 土 壌 か ら の 溶 脱 ) ◎ 生 物 地 球 化 学 的 循 環 ( 植 物 吸 収 , 林 冠 か ら の 溶 脱 , 落 葉 ・ 落 枝 の 還 元 ) ◎ 生 物 化 学 的 循 環 ( 植 物 体 内 に お け る 転 流 ) か ら 構 成 さ れ る . 生 態 系 は こ れ ら の 物 質 循 環 フ ラ ッ ク ス の バ ラ ン ス に お い て 維 持 さ れ て い る の で , 大 気 か ら の 酸 性 降 下 物 の 生 態 系 へ の 影 響 評 価 は 物 質 収 支 に 基 づ ぃ て 定 量 的 に 行 う 必 要 が あ る . 本 研 究 は , 樽 前 火 山 放 出 物 未 熟 土 に 立 地 す る 北 海 道 大 学 附 属 苫 小 牧 地 方 演 習 林 内 の 広 葉 樹 林 ( ミ ズ ナ ラ 主 体 ) と 針 葉 樹 林 ( ス ト ロ ー ブ マ ` ソ ) に お い て , 物 質 循 環 構 成 フ ラ ッ ク ス を 測 定 し , 土 壌 と 植 物 の 酸 緩 衝 機 構 の 定 量 化 を 試 み た も の で あ る . そ の 成 果 を 要 約 す る と 以 下 の 通 り で あ る .

  1.降 水 の 年 平 均pH431で あ っ た . そ れ に よ るH+流 入 フ ラ ッ ク ス は 針 葉 樹 林 , 広 葉 樹 林 と も0 65kmolc ha1y‑lに 達 し , こ れ は , 欧 米 の 森 林 衰 退 地 域 に 匹 敵 し て い た . こ の 主 因 は 非 海 塩 起 源 のS042― に 伴 うH+ で あ り , 南 東 か ら の 季 節 風 に よ り 供 給 さ れ て い る と 推 察 さ れ た .   2.乾 性 降 下 物 に よ るS042― 流 入 フ ラ ッ ク ス は , 針 葉 樹 林 で 広 葉 樹 林 の 約9倍 に 達 し た . 針 葉 樹 林 の 林 内 雨pHは 降 雨 と 差 が な く 低 か っ た の に 対 し , 広 葉 樹 林 の 林 内 雨pHは 降 雨 よ り 有 意 に 上 昇 し て い た . そ の 主 要 機 構 は , 葉 面 に お け るH゛ とK゛ の 交 換 反 応 で あ っ た . 林 床 に 流 入 す るH゛ は 広 葉 樹 林 で 0  13, 針 葉 樹 林 で 0 4kmolc  ha1y1で あ っ た ,   3.林 床 流 入H+は , 広 葉 樹 林 の 粗 腐 植 層 で83% が , 針 葉 樹 林 で は60 中 和 さ れ た . そ の 機 構 は , 両 組 腐 植 層 が 持 つCa2゛ と の 交 換 反 応 で あ っ た

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  4.鉱 質土層で生 成したN03ー量は,広 葉樹林で4.5,針葉樹林で3.9 kmolc ha‑ユyー1であ り,硝酸化 成による大きな内部生成H+が認められ た .そのH+は土壌の交換態塩基と交換し吸着され,土壌溶液pHは5〜6に 緩衝されていた.

  5.交換 放出した塩 基の植生に よる吸収フ ラックスは ,広葉樹林 では 8. 3kmolc  haー1y←1と針葉樹林の2.8kmolc ha―1y−1より約3倍大きかっ た . 一方,土壌 からの塩基 の流出フラ ックスは, 広葉樹で1. 8kmolc haー ユyー1と針葉 樹林の3.8kmolc  haー1y−1より約1/2小さかった.

  6.外部 供給・内部 発生酸の中 和物質とし ての交換態 塩基の減少 速度 から見積もった土壌の酸性化速度は,広葉樹林では一4. Okmolc  ha−1 y‥,針葉樹林では−2. 3kmolc ha‑iy−1であった.その酸性化の主体は 針 葉樹林では土壌からの溶脱であるのに対して,広葉樹林では植物吸収 で あった.広葉樹林は土壌の酸性化と引換えに,林冠と粗腐植層の高い 酸緩衝能を得ているように見受けられた.

  7.植生 に被害を与 えるAl 3+が 溶出しない 土壌pH4.5以 上を維持す る た めの塩基現存量は,広葉樹林で77,針葉樹林で57kmolc ha‑1であった こ れらは現況の土壌からの塩基減少速度に対して,.それぞれ17.2年,

21.O年 分である.しかし,現況の土壌の交換態塩基は平衡状態にあるこ と を考慮して,塩基滅少を補う鉱物の風化速度を見積もったところ,広 葉樹林で1.O,針葉樹林でO. 9kmolc  ha−1y―1と大気からの流入と土壌か らの溶脱にパ.ランスしていた.なお,土壌の全塩基現存量はこれらの鉱 物 風 化 速 度 に 対 し て , そ れ ぞ れ28000年 ,31000年 分 で あ っ た .   以 上のように,本研究は森林生態系の物質循環フラックスの内容を定 量 化したと同時に,酸に対する生態系の緩衝機構にっいて解析し,植生 の 違いが土壌と植生の保有する酸緩衝能カの現れ方を変えていることを 定 量的に明らかにした.この研究は森林生態系の物質循環が保持する機 能 を評価する方法の構築とその応用に大きく貢献するものである.よっ て 審査員一同は,別に行った最終試験の結果と合わせて,本論文の提出 者柴田英昭は博士(農学)の学位を受けるのに十分ナょ資格があるものと認 定した,

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