博 士 ( 医 学 ) 富 岡 拓 志
学 ti 論 文 題 名
Relaxation in Different‑Sized Rat Blood Vessels Mediated by Endothelium‑Derived Hyperpolarizing Factor : Importance of Processes Ix/Iediating Precontractions
(内皮細胞由来過分極因子による血管弛緩反応の 特性に関する薬理学的研究)
学位論文内容の要旨
要旨
【 背 景 】 血 管 内 皮 細 胞 は ア セ チ ル コ リ ン(ACh), ブ ラ デ キ ニ ン 等 の 血管 作 動 物 質 に 反 応 し血 管 弛 緩 反 応 を 起 こ し 血 管 の ト ー ヌ ス を 調 節 し て い る 。 この 内 皮 依 存 性 の 弛緩 反 応 に は 内 皮 細胞 よ り 産 生 ・ 遊 離 され た ブ ロ ス タ サ イ ク リ ン(PGIめ とNOが 関 与 し て い る こ と は よ く 知 ら れ て い る 。 し か し プ ロ ス タ ノ イ ド お よ び NOの 産 生 を 阻 害 し た 状 況 に お い て も 内 皮 依 存 性 の 弛 緩 反 応 が 認 め ら れ 、 こ の 弛 緩 反 応 は 血 管平 滑 筋 細 胞 の過 分極 が関係 して いるこ とか ら、内 皮由 来過分 極因 子(en dot.h elium ‑de rived byperpola rizing fact.or:
EDHF)に よ る と 提 唱 さ れ た 。EDHFの 本 体 は 耒 だ 同 定 さ れ て い な い が 、 血 管 平 滑 筋 のK゛ チ ャ ネ ル を 開 口 して 過分 極を起 こす と考え られ ている 。
【 目 的 】 近 年 、EDHFは 抵 抗 血 管 で あ る 微 小 血 管 に お い てNOよ り 内 皮 依 存 性 弛 緩 反 応 に 寄 与 す る 程 度 が 大 き い と さ れ て お り 、 こ の こ と は 血 圧 の 調 節 や 臓 器 潅 流 にEDHFが 重 要 な 役 割 を 果 た して い る も の と 考 え ら れ る 。 し か し な が ら 、EDHFの 関 与 に っ い て の 血 管 径 に よ る 違 い が な ぜ 起 こ り 得 る の か に っ い て は 耒 だ 充 分 な 検 討 は さ れ て い な い 。 本 研 究 では ラ ッ ト よ り 径 の異 な っ た 血 管 を 摘出 し 、 そ の 等 尺 性 張力 及 び 血 管 平 滑 筋 膜 電 位 を 測 定 しEDHF反 応 性 の 血 管 径 に よ る 違 い に 関 与 す る 機 キ 冓 に っ い て 検 討 し た 。
【方 法】
血 管 標 本 の 作 製 ; 週 齢'20‑35週 、 体 重 約900‑4 00gのWist ar系 雄 性 ラ ッ ト を 使 用 し た 。 エ ー テ ル 麻 酔 下 に 胸 部 大 動 脈 お よ び 腸 間 膜 動 脈 主 幹 と 第 一 分 枝 を 摘 出 し た 。 酸 素 化 し た生 理 的 塩 類 溶 液(PSS)中 で 、 内 皮 を 損 傷 し な い よ う に 結 合 織 お よ び 脂 肪 組 織 を 剥 離 し て か ら 、 長 さ 約3 mmの 輪 状 標 本 を 作 製 . し た 。 等 尺 性 張 カ の 測 定 ; 温 度 を37゜Cに 保 っ た 、95%02と5%C02の 混 合 ガ ス で 通 気 し 、PSS溶 液 を 満 た し た 器 官 惜 内に 輪 状 標 本 を 懸 垂した 。各 擽本に 一定 の静止 張カ をかけ 、等 張性高 】〈 ゛溶液(80 ml¥l) によ る収縮 反 応 を 繰 り 返 し 惹 起 さ せ 、 安 定 し た 収 縮 が 得 ら れ る よ う に な っ た 後 、 実 験 を 開 始 し た 。 膜 電 位 測 定; 輪 状 標 本 を さ らに 長 軸 に 沿 っ て 切 断し 、 長 方 形 のlfii管 標 本 を作 製 し た 。 標 本 は 内皮 細 胞 側 を 上 而 に し て 約3 mlの 器 官 漕 内 に ピ ン で 固 定 し 、37゜CのPS,S溶 液 で 潅 流 し た 。3MのI¥CIに 満 た し た ガ ラ ス 電 極 を 内 皮 細 胞 側 よ り 血 管 平 滑 筋 に 刺入 し 、 約2分f瑚 の 安 定 し た 膜 電位 を 確 認 し た 後 に 膜電 位 変 化 を 記録 した 。
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【結果およ ひ考察】| ̄hPn3 1{ lill riMで前収 縮させた大動 脈、腸f瑚膜動 脈本幹、およ び第一分キ攴いずれに おLヽ て もf¥Chは 濃 度 依 存t生 に 弛 纏 反 応 を 惹 起 し 、 こ の 弛 緩 反 応 は 内 皮 細 胞 の 剥 離 に よ り 消 失 し た こ と か ら 、 内 皮 依 行f生 で ある と6竃認 さ れた 。 最大 弛 緩反 応は 三 群「i則 に 途い は 認め られ な かっ た が、 そ の感 受性 は 径の小さなmI管ほと高いf頃向が認められた。Cyclc)ox}.g c'n;}即ドIl害薬であるinLl川11t.|h鮒in( ̄前処遭は八Ch に よ る 弛 緩 反 応 に 影 響 せ ず 、 用 い ら れ た 血 管 で のAChに よ る 弛 緩 反 応 に ブ ロ ス タ 丿 イ ド の 関 与 は ほ と ん ど 無 い と 考 え ら れ た 。lndomefhacineとNO合 成 阻 害 薬 で あ るL.NNAで 処 置 し た 時 、AChに よ る 弛 緩 反 応 は 胸 部 大 動 脈 で は 認 め ら れ ず 、 腸 間 膜 動 脈 本 幹 で は 濃 度 反 応 曲 線 は 有 意 差 を も っ て 右 方 に 遍 位 し 、 最 大 弛 緩 反 応 も 有 意 差 を も っ て 減 少 し た 。 腸 間 膜 動 脈 第 一 分 枝 に お い て は 最 大 弛 緩 反 応 に は 影 響 は 認 め ら れ な か っ た がAChに 対 す る 感 受 性 は 有 意 に 低 下 し た 。 こ のNO、PG12非 依 存 性 の 内 皮 依 存 性 弛 緩 反 応 を EDHFに よ る も の と し た 。 す な わ ちEDHFを 介 す る 弛 緩 反 応 は 抵 抗 血 管 に 近 い 細 い 径 の 血 管 で よ り 強 く 、 一 方 、 大 動 脈 で の 内 皮 依 存 性 の 弛 緩 に はEDHFは ほ と ん ど 関 与 せ ずNOを 介 す る と 示 唆 さ れ た 。 血 管 平 滑 筋 の 静 止 膜 電 位 は 大 動 脈 で ―49土lmV、 腸 間 膜 動 脈 本 幹 で .52士1mV、 第 一 分 枝 で は .60土1mVと 細 い 血 管 で 深 い 傾 向 が み ら れ た 。AChは 内 皮 存 在 下 で 濃 度 依 存 的 な 過 分 極 反 応 を 引 き 起 こ し 、 そ の 程 度 は 、 大 動 脈 で .8土lmV、 腸 間 膜 動 脈 本 幹 で .16+ ―lmV、 腸 間 膜 動 脈 第 一 分 枝 で は .17土lmVと 細 い 血 管 で よ り 強 い 傾 向 が み ら れ 、 結 果 と し て 膜 電 位 は 小 さ な 径 の 血 管 で 深 い 膜 電 位 と な っ た 。EDHFは 血 管 平 滑 筋 細 胞 のK゛ チ ャ ネ ル を 開 ロ す る 事 が 知 ら れ て い る の で 、ATP感 受 性K゛ チ ャ ネ ル 開 口 菜 で あ るpin8cidilを 用 いEDHFと 弛 緩 反 応 及 び 過 分 極 反 応 を 測 定 し 比 較 し た 。PinacidiIは 濃 度 依 存 性 に ど の 群 に お い て も 内 皮 非 依 存 性 弛 緩 反 応 を 惹 起 し 、 最 大 弛 緩 反 応 は 三 群 問 で 差 は 認 め ら な か っ た が 、 細 い 血 管 で よ り 感 受 性 が 高 か っ た 。 一 方 、pinacidilに よ る 過 分 極 反 応 はEDHFに よ る 反 応 と は 逆 に 太 い 血 管 で よ り 強 い 傾 向 が み ら れ た 。EDHFは 血 管 平 滑 筋 の 過 分 極 を 引 き 起 こ し 、 そ の 過 分 極 に よ りL型Ca2゛ チ ャ ネ ル を 不 活 化 し 平 滑 筋 へ のC82゛ の 流 入 が 妨 げ ら れ 弛 緩 反 応 を 惹 起 す る と 考 え ら れ る 。 大 動 脈 で はphenylephrineの 収 縮 が niredipineに よ り ほ と ん ど 抑 制 さ れ な い こ と か ら 、 そ の 収 縮 にL型Ca2゛ チャ ンネ ル が関 与 して い ない ため 、 EDHFに よ り 弛 緩 反 応 が 惹 起 さ れ な い も の と 結 論 さ れ た 。 ー 方 、 腸 間 膜 動 脈 で はpheny】ephrineの 収 縮 はni『edipineに 強 い 感 受 性 を も つ こ と か ら 、 収 縮 にL型Ca2゛ チ ャ ン ネ ル 活 性 化 が 強 く 関 与 す る た めEDHF に よ る 弛 緩 反 応 が 顕 著 に 認 め ら れ る も の と 推 察 さ れ た 。 さ ら に 、niんdipine前 処 置 に てL型Ca2゛ チ ャ ネ ル を 抑 制 し た 状 態 でEDHFに よ る 弛 緩 反 応 を 検 討 し た と こ ろ 、 腸 間 膜 動 脈 本 幹 で ほ ば 完 全 に 抑 制 さ れ た に も か か わ ら ず 、 第 一 分 枝 に お い て は 最 大 弛 緩 反 応 は 部 分 的 に の み 抑 制 さ れ た こ と か ら 、 残 り の50% 近 い 部 分 はL型Ca2+ チ ャ ン ネ ル 不 活 性 化 以 外 の 収 縮 抑 制 に よ る も の と 考 え ら れ た 。Phorbolesterはprotein kinaseCを 介 し 収 縮 蛋 白 のCa2゛ 感 受 性 を 亢 進 さ せ る こ と に よ り 血 管 収 縮 を 惹 起 す る 事 か 報 告 さ れ て い る 。 Niんdipjn。 存 在 下 で の11hor| )oIeslf. rで 収 縮 させ た 血管 に おけ るEDHFによ る 弛緩 反 応は 大 動脈 およ び 腸 問 膜 動 脈 本 幹 ほ と ん ど 認 め ら れ な か っ た が 、 第 一 分 枝 に お い て は 部 分 的 に の み 抑 制 を 受 け た 。 こ の こ と か ら 径 の 細 い 向 管 で はED‖Fに よ る 弛 緩 反 応 に 収 縮 蛋 白 のCロ 卦 感 受 性 を 低 下 が 関 与 す る 磯 備 が 存 在 し て いることが示 唆された。
【 結 論 】EDllI を 介 し たJn| 管 弛 緩 反 応 は 径 の 小 さ な抵 抗mI管 に 近い 血 管系 にお ぃ てよ り 強く 認 めら れた 。 こ れ は 、EDlIFに よ るJm管 弛 緩 反 応 の 主 た る 機 序 が 過 分 極 に よ るL型Ca2゛ チ ャ ン ネ ル 不 活 性 化 で あ る た め 前 収 縮 過 程 に 導 |m倍 で はL型Ca2→ チ ャ ン ネ ル 活 性 の 関 与 の 少 な く 、 逆 に 微 小 血 管 で は 、 こ の チ ャ ネ ル の 活 性 の 寄 与 が ノ く き い こ と に よ る と 考 え ら れ る 。 さ ら に、 膜 電位 の 深い 微小 血 管で はI三DllFに よる 過分 極 反 応 が よ り 顕 著 と な ろ た め 、 収 縮 蛋 白のCaニ・ 感受 性 低下 作 ハ1を弓1き 起 こし て、 そ れが 血 管弛 緩 反応 に貢 献 するものと考 えられた。
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学 位 論 文 審査 の 要 旨
Relaxation in Different‑Sized Rat Blood Vessels Mediated by Endothelium‑Derived Hyperpolarizing Factor : Importance of Processes Mediating Precontractions
(内 皮 細 胞由 来過分極 因子による 血管弛緩 反応の 特性 に 関 する 薬 理学 的 研 究)
血管内皮細胞はアセチルコリン(ACh) 等の血管作動物質に反応しプロスタサイクリ ン (PGI2) とNO を産生・遊離し血管弛緩反応を起こす。しかしブロスタノイドおよび NO の産生を阻害した状況においても内皮依存性の弛緩反応が認められ、この弛緩には 血管平滑筋細胞の過分極を伴うことより、内皮由来過分極因子(enclothelium ‑derived hyperpolarizing factor: EDHF) によると提唱された。EDHF は血管平滑筋のK ゛チャネ ルを開口して過分極を起こすと考えられている。近年、 EDHF は抵抗血管である微小 血管においてNO より内皮依存性弛緩反応に寄与する程度が大きいとされており、血圧 の調節や臓器潅流に重要な役割を果たしていると考えられる。しかしEDHF 反応の血 管径による違いがなぜ起こるかについては充分な検討はされていない。本研究ではラッ トより径の異なった血管を摘出し、その等尺性張力及び血管平滑筋膜電位を測定し、
EDHF 反応性の血管径による違いに関与する機構について検討した。 Phenylephrine で前収縮させた大動脈、腸間膜動脈主幹部、腸間膜動脈第一分枝いずれにおいてもACh は濃 度依存性 に弛緩反 応を惹起 し、三群 とも100 %近い 最大弛緩反応を示した。
Cyclooxygena.se 阻害薬である indomet,hacine 前処置はACh による弛緩反応に影響せ ず、用いた血管ての ACh による弛緩反応にプ口スタノイドの関与はほとんど無いと考 え ら れた 。 Indomethacine と NO 合 成阻 害薬てあ るL‑NNA 前処置時 、 ACh による 弛 緩反応は胸部大動脈では消失、腸間膜動脈主幹部では最大弛緩反応は751 焔程度に減少、
第一分枝においては最大弛緩反応には影響は認めなかった。このNO 、PG12 非依存性 の内 皮依存性 弛緩反応 をEDHF によるものとした。すなわちEDHF を介する弛緩反応 は細い径の|nl 管でより強く、一方、大動脈での内皮依存性の弛緩はNO によると示唆さ れた。ACh は濃度依存的に過分極反応を弓|き起こし、その程度は静止膜電位の深い細
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秀 夫
顕
慶 盛
田 野
畠
安 菅
北
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
い血管でより強くみられた。EDFIF は血管平滑筋の過分極を弓I き起こし、L 型Ca'2 ゛チ ヤネルをブロックし、弛緩反応を惹起すると考えられる。大動脈ではphenylephrine の収縮がnife clipine によりほとんど抑制されないことから、その収縮にL 型Ca9 ゛チャ ネルが関与していないため、EDHF による弛緩反応が惹起されないものと結論された。
一方、腸間膜動脈ではphe nylephrine の収縮はnife clipine に強い感受性をもつことか ら、収縮にL 型 Ca2 ゛チャンネル活性化が強く関与するためEDFIF による弛緩反応が顕 著に認められると推察された。さらに、nife clipine 前処置下でEDHF による弛緩反応 を検討したところ、腸間膜動脈本幹でほぼ完全に抑制されたが、第一分枝では部分的 にのみ抑制され、L 型 Ca2 ゛チャンネルブロック以外の収縮抑制の機序が考えられた。
PDBu はpro ぬin kinaseC を介し収縮蛋白の Ca2 ゛感受性を亢進させることにより血管 収縮を惹起する事が報告されている。Nifedipine 存在下、 PDBu で収縮させた血管にお けるEDHF による弛緩反応は、第一分枝においてのみ部分的に抑制を受けた。このこ た。とから径の細い血管ではEDHF による弛緩反応に収縮蛋白のCa2 ゛感受性を低下が 関与する機構が存在していることが示唆された。口頭発表に際し、北畠教授から EDHF の候補因子、血管径によりEDHF 反応の違いに寄与する因子、アンギオテンシン変換 酵素阻害薬が EDHF 反応を改善する可能性についての質問がなされた。安田教授から モデル設定の理由、人の血管おけるEDHF 反応にづ。ヽて質問がなされた。菅野教授か ら過分極とCao+ 感受性低下作用の関連、病態時における変化について質問がなされた。
また出席者より各種血管における EDHF 反応性の機序に関する質問がなされた。いず れの質問に対しても、申請者は過去のデータや関連論文を弓I 用し、概ね妥当な回答を行 った。
この論文は、Journal of Vascular Research で高く評価され、今後の血管内皮機能な らびに微小循環の解明に貢献することが期待される。
審査員一同は、これらの研究成果を高く評価し、大学院課程における研鑚や取得単位 なども併せ申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充分な資格を有するものと判定し た。
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