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旧函館軍事要塞施設の現況調査報告

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Academic year: 2022

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旧函館軍事要塞施設の現況調査報告

Investigation Report of Current State of Hakodate Military Fortress Facilities

函館市土木部 正会員 大久保 市郎(Ichiro Ohkubo) (株) ドーコン 正会員 小林 竜太(Ryuta Kobayashi) (株) リテック 正会員 朝倉 啓仁(Keiji Asakura)

(株) リテック 〇正会員 関下 裕太(Yuta Sekishita)

1.序 論

旧函館軍事要塞(以下,函館要塞)は,日露戦争を

控えた 1898(明治 31)年に函館港の防備を目的として

旧陸軍が函館山に建設した軍事施設である。要塞施設は 貴重な歴史的戦争遺跡であり,同時に建設当時の土木技 術の中でも高度な技術を持って建設された建造物である ことから土木遺構としても高い価値を有している。

このような背景から,函館要塞はその歴史的あるいは 文化財的に価値ある近代土木遺産として注目されており,

後世に伝承すべく保存対策や教育資源および観光資源の 1つとしての利活用が強く望まれている。

本論文は,函館要塞の保存および活用を目的として,

函館市が平成14年度から16年度の3ヵ年に渡って実施 した要塞施設の現況調査についてその調査結果の概要に ついて報告するものである。

2.現況調査の概要とその手法 2.1 調査対象施設

現況調査の対象とした施設は,御殿山第一・第二砲台,

千畳敷砲台,薬師山砲台および入江山観測所の計5箇所 の施設跡地とし,御殿山第一・第二砲台は平成 14 年度,

千畳敷砲台,薬師山砲台は平成 15 年度,入江山観測所 は平成 16 年度にそれぞれ実施している。表-1 は現況 調査の対象とした要塞施設の一覧,図-1 に調査対象施 設の位置図を示している。

2.2 調査手法

本調査では函館要塞全体の劣化度や損傷状況を把握す ることを目的として,先ず各要塞施設の外観調査を実施 することとした。外観調査は,主として目視,触診,打 診により行うものとし,崩落あるいは倒壊のような損傷 規模が大きい場合には,その範囲や性状をスケッチや写 真撮影により記録している。なお,コンクリート部材

(壁面,天井等)の損傷に関しては浮きや剥離の他にひ び割れ等が挙げられるが,浮き・剥離に対してはその範 囲を,ひび割れに関してはその分布とひび割れ幅を計測 してそれぞれスケッチや写真撮影により記録することと した。また,一部では赤外線カメラを用いた非破壊,非 接触調査による浮きや剥離等の損傷箇所推定も試みてい る。外観調査結果は,最終的に各施設別に損傷図とそれ に対応する損傷写真台帳として整理している。

3.外観調査結果の概要

各要塞施設別に実施した外観調査に関して,その調査

表-1 現況調査の対象とした要塞施設 要 塞 名 調査実施年度 御殿山第一砲台

御殿山第二砲台

平成14年度実施

千畳敷砲台 薬師山砲台

平成15年度実施

入江山観測所 平成16年度実施

図-1 調査対象位置図

結果の概要について示す。ここで,調査結果によると,

同一の砲台跡地でかつ同種の施設においても,その施設 によって損傷状況が異なっていることが確認されており,

各々の施設別に対してその損傷状況を示した場合には紙 面上膨大な量となる。従って,要塞施設を構成する材料 が,コンクリート,煉瓦,石材の3種類であることに着 目して,ここでは各施設別ではなく各材料別に区分して その主要な損傷を取り上げて整理することとする。表

2 には各材料別における主要損傷項目の一覧を示して いる。また,表中には推定される損傷劣化損傷要因に関 しても併せて示している。

これより,コンクリート材に着目すると,掩蔽部にお けるアーチ天井部では,アーチの円弧に沿ったひび割れ やそれに直交する方向のひび割れが見受けられた。一方 で,千畳敷砲台(特に戦闘司令所)ではこれとは異なり,

方向性のない不規則なひび割れが卓越して発生していた。

ひび割れは,そのほとんどが補修を要するひび割れ幅の

0.2 mm以上であり,それが最も大きい箇所では30 mm

程度にも達している。いずれのひび割れも漏水やエフロ

Ⅳ-13

平成16年度 土木学会北海道支部 論文報告集 第61号

(2)

レッセンスの析出を伴ったものが多く,これは背面土砂 から水分が供給されていることを示唆している。また,

千畳敷砲台の戦闘司令所下部構造や観測座や入江山観測 所の観測座では広範囲に渡るスケーリング(凍害により コンクリートペースト部分が劣化して粗骨材が露出する 現象)が確認された。ひび割れの発生要因は,掩蔽部の アーチ天井に関してはアーチ部を支持する腰壁(煉瓦)

の剥落や倒壊によるアーチ全体の不同沈下が主要因であ るものと考えられる。また,千畳敷砲台で見られた方向 性のないひび割れは,その性状と損傷状況から判断する と凍害劣化による可能性が高いものと推定される。

次に煉瓦材に着目して考察する。煉瓦は主として掩蔽 部の腰壁に用いられているが,その損傷は特に外気に曝 される領域において顕著である。損傷度合いが大きい箇 所では,あたかも人為的に粉砕されたかのような状態と なっており,レンガが広範囲に渡って剥落し脚壁部材と しての断面が大きく欠損している。この要因は紛れもな く凍害(凍結融解作用)によるものであり,レンガ表面 の漏水やエフロレッセンスの析出状況から判断しても水 が常時絶え間なく供給されており,これが更なる凍結融 解作用を助長しているものと推察される。掩蔽部の脚壁 は,コンクリートアーチ部材を支持する重要部材である ことから,現在の状況のまま放置しておけば掩蔽部全体 の崩壊に繋がる可能性が高い。従って,早急に対応策を 講じる必要性があるものと判断される。

最後に石材に着目して考察する。石材は,石積み擁壁 と石積みアーチトンネルに用いられているが,擁壁に関 しては,壁全体あるいは壁頂部(笠石部)の前面移動や はらみ出しが主たる損傷である。これは壁背面に樹木が 繁茂しており,この樹木の根先端が発達して石積みを前 面側に押し出しているためである。一方,御殿山第二砲 台の石積みアーチトンネルでは,延長方向中央部におい て側壁が倒壊しており背面土砂が流出している状況が確 認された。また,アーチ天井中心部でも一部の石材が崩 落している。これらの要因は今後の詳細調査が必要であ

るものと考えられるが,損傷区間ではトンネル上部の土 被りが大きい区間であるため,側壁が耐え得る以上の土 圧力が作用したためと推察される。

以上,材料別にその主要な損傷を取り上げ,推定され る損傷要因について考察を行った。これより,函館要塞 の損傷状況を全体的に見てみると,それらは凍害による 劣化がほとんどであるものと考えられる。写真-1 は御 殿山第二砲台で撮影した煉瓦部の状況を示したものであ るが,ひび割れや背面土砂から供給される水が凍結して 膨張し,その結果,煉瓦材が前面側に押し出されている 様子がはっきりと分かる。写真-2 ~ 写真-6 には各 要塞施設の主要損傷状況を示している。

写真-1 煉瓦材の凍害劣化の状況写真

アーチ天井 ひび割れ部 からの供給 水の凍結

凍結膨張に よる煉瓦の 押し出し

表-2 各材料別における主要損傷項目一覧

材料種類 損傷項目 推定損傷劣化要因 備 考

コンクリート

・ひび割れ ・倒壊

・剥離 ・漏水

・剥落

・エフロレッセンス

・欠損

・構造的要因(不同沈下)

・凍害(凍結融解作用)

・漏水

・乾燥収縮

・掩蔽部 アーチ天井部

・戦闘司令所

・観測座

煉 瓦

・ひび割れ ・倒壊

・剥離 ・漏水

・剥落

・エフロレッセンス

・欠損

・凍害(凍結融解作用)

・漏水

・レンガ積み壁

・便所

石 材

・ひび割れ ・目地割れ

・剥離 ・倒壊

・剥落

・欠損

・前面移動(傾斜)

・裏込め土の影響(樹木)

・凍害(凍結融解作用)

・作用外力(土圧)の増加

・石積み擁壁

・石積みアーチトンネル

平成16年度 土木学会北海道支部 論文報告集 第61号

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写真-2 御殿山第一砲台跡地の主要損傷

御殿山 第一砲台

コンクリートアーチ部のひび割れ 石積み擁壁(笠石)の前面移動

写真-3 御殿山第二砲台跡地の主要損傷

御殿山 第二砲台

レンガ積み壁の剥離・剥落 石積みトンネル側壁の倒壊

写真-4 薬師山砲台跡地の主要損傷

薬師山砲台

レンガ積み壁の剥離・剥落 コンクリートアーチ部のひび割れ・エフロ析出

写真-5 千畳敷砲台跡地の主要損傷

千畳敷砲台

コンクリートアーチ部のひび割れ コンクリート表面のスケーリング

平成16年度 土木学会北海道支部 論文報告集 第61号

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4.赤外線カメラによる損傷箇所推定

赤外線カメラによる調査は,赤外線サーモグラフィー 法とも呼ばれており,コンクリート構造物の浮きや剥離 等の損傷を,非破壊,非接触でかつ短時間に推定可能な 調査方法である。従って,作業の効率性に優れ,安全か つその結果を視覚的な熱画像として表示可能であること から合理的な調査方法の1つとして採用されている。

赤外線カメラの原理についてその概要を示す。絶対零 度以上の全ての物体は,その表面から赤外線を放射して いる。この赤外線の量および波長は,物体の表面温度や 放射率によって決定されることから,赤外線センサを用 いて物体が放射する赤外線を測定することでその表面温 度を知ることができる。従って,浮きや剥離あるいは空 洞等の損傷が存在する場合には,これが断熱層となって 日射や気温変化に起因して生じる表面温度の中で欠陥部 と健全部との間に温度差が生じることになる。そこで,

本調査ではこれらの原理に着目して,温度差を熱画像と して捉えて部材欠陥部の検出を試みることとした。

写真-7 には赤外線カメラの設置状況を,写真-8 に は損傷箇所推定結果の一例を示している。なお,本調査 ではジェットヒーターを熱源として使用した。これより,

いずれの撮影結果ともに欠陥部が赤色で鮮明に示されて おり,浮きや剥離の損傷が視覚的に確認できることが分 かる。これより,赤外線カメラによる損傷箇所の推定は 十分可能であり,短時間に結果が得られることから合理 的かつ有効な調査手法であるものと考えられる。

5.まとめ

函館要塞施設群の内,御殿山第一砲台,御殿山第二砲 台,千畳敷砲台,薬師山砲台および入江山観測所の計5 箇所の施設に対して現況調査を実施した。本調査では,

函館要塞全体の劣化度や損傷状況を把握することを第一 の目的としていることから,それらを外観調査により実 施した。調査の結果,水の凍結融解作用による劣化,す なわち凍害が要因である劣化がその大半を占めているこ とが明らかとなった。凍害は材料がコンクリートであれ ばスケーリング,煉瓦であれば押し出しによる剥落とい った劣化形態が代表的であるが,このような劣化がいた る箇所で確認された。また,別途実施した閉鎖空間内に おける熱源を用いた赤外線カメラによる調査は,合理的 かつ有効な調査手法であることが確認できた。

写真-7 赤外線カメラの設置状況

写真-8 損傷箇所推定結果の一例 撮影対象および撮影結果(熱画像)

↓ ↓

写真-6 入江山観測所跡地の主要損傷

入江山 観測所

コンクリート表面のスケーリングとひび割れ コンクリート壁の剥落・倒壊

平成16年度 土木学会北海道支部 論文報告集 第61号

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