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最近の人工血管の動向 ─大口径人工血管を中心に─

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●人工臓器 ─最近の進歩

最近の人工血管の動向 ─大口径人工血管を中心に─

東京医科大学心臓血管外科

荻野 均

Hitoshi OGINO ■ 著者連絡先 東京医科大学心臓血管外科 (〒160-0023 東京都新宿区西新宿6-7-1) E-mail. hogino@tokyo-med.ac.jp

1. はじめに

近年,社会の高齢化に伴い,頸動脈疾患,冠動脈疾患,下 肢閉塞性動脈硬化症(arteriosclerosis obliterans:ASO), 大動脈疾患などの動脈硬化性疾患の患者数が増えている。 同時に,「急性大動脈症候群」の診断率が向上し,従来の手 術だけではなく,ステントグラフト内挿術を中心とした血 管内治療が開発・導入され,人工血管の必要性は増加傾向 にある。本稿では,筆者の専門とする大血管領域を中心に, 臨床面での使用状況を概説する。

2. 人工血管の必要条件

一般的な必要条件として,生体適合性,耐久性,抗感染性, 滅菌の行いやすさ,汎用性,高いハンドリング性,低出血性, 抗血栓性,弾力性,低価格,製造の行いやすさなどがある1)

3. 人工血管・代用血管の分類

表1に示すごとく,人工血管は,①同種血管を中心とし た生体材料グラフトbiologic graftと,②合成高分子材料グ ラフトsynthetic graftに二分される1)。①の特に同種血管 はドナー不足の問題から供給に限界があり,感染性病変な ど特殊例での使用に限られ,②の使用が一般的である。更 に,②はtextileとnon-textileに分類され,前者の代表がポ リエステル系のDacron製であり,後者の代表がテフロン のexpanded polytetrafluoloethylene(ePTFE)製である。 1) Dacron 製 メリヤス編み(knitted)と平織り(woven)に分類される。 このDacron製は1956年のDeBakeyの最初の臨床使用以 来,60年を超える使用実績がある。多孔性(porosity)のた め移植後に血液の漏出が発生しうる。当初は自己血液によ るプレクロティング,あるいはアルブミン処理(浸漬+乾 燥)により対応されたが,十分なものではなかった。1980 年半ばになると,ウシ由来のゼラチン,コラーゲン,アル ブミンなどによる「coating技術」が応用され,この血液漏 出の問題がかなり解決された。しかしながら,ウシ由来の 生体材料への免疫反応および生体材料をグラフトに固定す るための架橋剤への炎症反応により,発熱や浸出液貯留を 来 す 恐 れ が あ る。 そ れ を 解 決 す る た め,薄 いknitted Dacron製人工血管を二枚重ねにし,中間層に高分子エラス トマー素材を挿入して3層構造として,針穴出血を防止す ると同時に柔軟性を持たせた人工血管が国内で開発され た。 2) ePTFE 製 樹脂を加工してできた「non-textile graft」であり,歴史的 に本邦で開発された経緯がある2)。臨床使用は1972年の アメリカのSoyerが最初である3)。Dacron製と異なり血 液漏出の問題はないが,血漿成分の漏出によりseromaが 5%に発生する。最近ではゼラチンでコーティングされた ものが開発・市販されており,seromaの発生や針穴出血 の防止にも役立っている。 3) 合成高分子素材グラフト ポリウレタン製がある。人工透析のバスキュラーアクセ スとして臨床使用されている。 4) 組織工学グラフト ヘパリンコーティング人工血管を中心に,様々な抗血栓 薬をグラフト内膜面に付着させる試みが行われてきたが, 時間とともに抗血栓薬が消失する。そこでShin’okaらは, 長期開存性と耐久性を求め,自己細胞を用いたハイブリッ

(2)

表1 人工血管(代用血管)の分類 synthetic graft biologic graft Textile Allograft

 woven/knitted Dacron  arterial homograft  velour  venous allograft  biologically coated  umbilical vein Non-textile Xenograft

 Teflon (ePTFE)  bovine/canine carotid  Polyurethane Fibrocollagenous tubes  bioabsorbable  autogenous

 heterogenous

ePTFE: expanded polytetrafluoloethylene

ド(バイオ)グラフトを作成した4)。現時点では臨床使用 は小児例の肺動脈再建用のものであり,高圧系人工血管も しくは小口径グラフトの開発が今後の課題として残されて いる。

4. 市販人工血管の用途

1) 口径 Dacron製は内径が6∼40 mmまでで,それ以下の小口径 のものはなく,対象血管も大・中口径血管が一般的である。 一方,ePTFE製は抗血栓性に優れ,中・小口径の用途が主 体である。内径3 mmのものからあり,主に新生児に対す る(大)動脈−肺動脈間短絡術などに使用される。成人に おいては,5/6 mmの小口径のものが末梢動脈バイパスや 人工透析用バスキュラーアクセスに使用される。中口径の ものは静脈バイパスにも用いられる。 2) 使用部位1) 表2に示すごとく,Dacron製は十分な強度を有し,主に 大動脈領域に使用される。特にwoven Dacron製は長期の 耐拡張性に優れ,胸部大動脈を中心に高圧系に使用される。 一方,knitted Dacron製は遠隔期の過拡張の問題もあり, 主に腹部大動脈以下の動脈系に使用される1),5)。先の二重 構造のknitted Dacron製に関しては胸部大動脈での使用も 可能である。一方,ePTEF製はDacron製に比べこの耐圧 能の点で劣り,腹部大動脈以下の末梢血管が主な使用部位 となる。抗血栓性の面ではDacron製より優れ,小・中口 径動脈の再建や静脈再建に優先して使用される。更に,多 孔性でないため抗感染性の点で有利とされ,感染性血管病 変に対しても使用される。この感染性血管病変に対しては, 最近ではリファンピシン浸漬Dacron製(ゼラチンコー ティング)が汎用されている。

5. 特殊な専用グラフト

使用目的別に専用にデザイン,加工された大血管用人工 血管について記述する。 1) ステントグラフト Dacron製もしくはePTFE製人工血管にニチノールまた はステンレス製の金属骨格(ステント)を縫着することで 人工血管に自己拡張能を持たせ,グラフトと大動脈内膜面 表2 人工血管の使用部位

Location Knitted Dacron Woven Dacron ePTFE Auto. artery Auto. vein Allo-graft

Thoracic Aorta a P A a

Ruptured Aneurysm A P A a

Infrarenal Aorta P a A a a

Aorta – visceral bypass A a A P P

Femoro-popliteal bypass A A P A Femoro-tibial bypass A P A Axillo-femoral bypass P P Femoro-femoral bypass a P Extrathoracic bypass P A Arteriovenous shunt A P Venous replacement A A P

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の隙間をなくし,グラフトの擦れを防ぐようにした(大)動 脈瘤治療用デバイスである。1992年のParodiによる臨床 応用から始まる6)。本邦では当初,「井上ステントグラフト」 を除けば,商用製人工血管に他分野で認可されていたステ ンレス製ステント(Zステント)を縫着したものが中心で あった。2007年に海外の商用製デバイスの国内使用が認 可され,同時に日本製のデバイスも加わり,胸部・腹部ス テ ン ト グ ラ フ ト 内 挿 術(thoracic endovascular aortic repair:TEVAR,endovascular aortic repair:EVAR)が広く 施行されるようになった。表3に現在使用可能な商用 TEVAR用デバイスの特徴を示す。 最近では,高齢者をはじめ手術ハイリスク症例が増加す る中で,TEVAR・EVARの適応症例は増加傾向にあり, 2014年の日本胸部外科学会年次集計では胸部大動脈外科 治療の33%がTEVARであり7),今後も増加が予想される。 日本血管外科学会年次集計においても,腹部大動脈瘤に対 する治療の50%以上がEVARとなっている。表4に現在の 承認EVAR用デバイスの特徴を示す。非常に有用な方法で あるが,問題点としてエンドリーク,ステントグラフト自 体の変形,内膜損傷(解離),食道・肺ろう形成,デバイス 感染などの合併症が発生し,追加治療やデバイス摘出を含 めた外科治療(open conversion)の必要性がある。 2) フローズンエレファントトランク(図 1) 本邦においては以前からの手技であったオープンステン ト(open stent graft:OSG)法8)がフローズンエレファント

トランク(Frozen elephant trunk:FET)法9),10)としてヨー

表3 TEVAR用デバイス

デバイス TX2 PF, TXD Zenith TX2, Conformable TAG TAG, Talent, Valiant Relay Plus Najuta 製造 COOK Medical GORE Medtronic Bolton medical  川澄化学工業

製造(国) アメリカ アメリカ アメリカ アメリカ 日本

承認(年) 2011, 2012, 2014 2008, 2013 2009, 2012 2013 2012 グラフト材料 Woven polyester ePTFE Woven polyester Woven polyester ePTFE ステント材料 Stainless steel Nitinol Nitinol Nitinol Stainless steel

SG長(mm) 115∼216 100∼200 105∼212 100∼250 100∼175

SG径(mm) 22∼42 21∼5 22∼46 22∼46 24∼42

Delivery sheath(Fr) 20, 22 18, 20, 22, 24 22, 24, 25 22, 23, 24, 25, 26 21, 22, 23

ePTFE, expanded polytetrafluoloethylene; SG, stent graft.

表4 EVAR用デバイス

デバイス Zenith Flex C3 Excluder EndurantⅡ AorFix AFX

製造 Cook Gore Medtronic Lombard Endologix

製造(国) アメリカ アメリカ アメリカ イギリス アメリカ

承認(年) 2010 2013 2013 2014 2015

グラフト材料 Woven polyester ePTFE Woven polyester Polyester duraply multilayer ePTFE ステント材料 Stainless steel Nitinol Nitinol Nitinol Cobalt chromium

alloy メインボディ(mm) 22, 24, 26, 28, 30, 32, 36 23, 26, 28.5, 31, 35 23, 25, 28, 32, 36 24, 27, 31 22, 25, 28 メインボディ長(cm) 8.2, 9.5, 9.6, 11.1, 11.3, 12.5, 13.1, 14.0, 14.9 12, 13, 14, 15, 16, 17, 18 12.4, 14.5, 16.6 8.1, 9.6, 11.1, 12.6 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12 メインボディ・デリバ リーシステム径(F) 20, 23, 26 16, 18 18, 20 20 17 メインボディ・シース 径(F)

N.A. 18.6, 20.4 N.A. N.A. 9(対側), 19(同側)

固定 腎動脈上 腎動脈下 腎動脈上 腎動脈下 大動脈分岐・腎動

脈上/下

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表5 Frozen elephant trunk用デバイス

デバイス Cronus E-vita open (Plus) Thoraflex Hybrid Frozenix 製造 MicroPort Medical Jotec Terumo-Vascutek Japan Lifeline

製造(国) 中国 ドイツ イギリス 日本 承認(年) 2003 2008 2012 2014 グラフト材料 Non-coating woven polyester Non-coating woven polyester

Coating woven polyester Non-coating woven polyester

ステント材料 Conichrome Nitinol Nitinol Nitinol

FET長さ 2, 4, 6, 8, 9, 10, 11, 12, 15 cm 13, 15, 16 cm 10, 15 cm 6, 9, 12 cm FET口径 21∼32 mm 20∼40 mm 28∼40 mm 21∼39 mm Guidewire system − + + + ロッパを中心に再度脚光を浴びてきている。表5に示すよ うな専用のデバイスが国内外で承認され,急性解離や非解 離性弓部瘤に対する弓部全置換術の遠位側吻合部の処理と して定着しつつある11),12)。急性A・B型大動脈解離に対 しては,真腔内に挿入し,真腔の拡大,遠位側吻合部の補強, 遠隔期の偽腔閉塞(Aortic remodeling)を目的とし,慢性 A・B型大動脈解離に対しては,真腔内に挿入し急性解離 同等の効果を期待するか,解離内膜を切除し両腔への血流 を維持し,二期的治療(主にTEVAR)へつなげる。非解離 性瘤に対しては,瘤の末梢端を越えた箇所までFETを挿入 し一期的根治術とするか,瘤の途中まで挿入してTEVAR 中心の二期的治療に備える方法がある。 3) 分枝グラフト 部分弓部大動脈置換や下行大動脈置換用の1分岐,全弓 部大動脈置換や胸腹部大動脈置換用の4分岐,腹部大動脈 置換用の2分岐もしくは4分岐(+内腸骨動脈再建用)があ る。これらに加え,最近の特殊な分岐人工血管として,カ ラー付き4分岐弓部置換用人工血管や変則2分岐弓部置換 用人工血管などがある。 4) Valsalva グラフト 大動脈基部置換用に開発されたValsalva洞付きグラフト である。このグラフトを用いて自己弁温存大動脈基部置換 術を,主にDavid reimplantation法により施行する13)

Yacoub remodeling法や人工弁を縫着して行うBentall手術 図1 Frozen elephant trunk

(5)

も当然のごとく施行可能である。この人工血管の特徴は,

図2に示すごとく,下部からCollar,Skirt, Bodyの3つの

パーツからなる。拡張した状態では,ventricular-arterial junction(VAJ)およびsinotubular junction(STJ)に対し, Valsalva洞に一致するSkirt部分が正常の基部構造と同様に 30%大きめになるよう専用にデザインされている。なお, 同様のデザインの国産グラフトとして,J Graft SHIELD NEO VALSALVA®があり,同じ目的で使用される。

6. おわりに

主に取り上げた中・大口径人工血管の素材の中心は,依 然としてDacronもしくはePTFEであり,ステントグラフ トを含め操作性や耐久性の点では,ほぼ満足のいくレベル にある。しかしながら,縫合に際しての針穴出血やグラフ ト感染の問題は依然として解決しておらず,今後の更なる 開発,改良が期待される。 利益相反の開示 荻野 均: 【役員・顧問職】テルモ株式会社(メディカルアドバ イザー) 文  献

1) Kempczinski RF: Vascular conduits: An over view. Rutherford Vascular Surgery, ed by Rutherford RB, W.B. Saunders, Phiradelphia, 527-618

2) Matsumoto H, Hasegawa T, Fuse K, et al: A new vascular prosthesis for a small caliber artery. Surgery 74: 519-23, 1973

3) Soyer T, Lempinen M, Cooper P, et al: A new venous prosthesis. Surgery 72: 864-72, 1972

4) Shin’oka T, Matsumura G, Hibino N, et al: Midterm clinical

result of tissue-engineered vascular autografts seeded with autologous bone marrow cells. J Thorac Cardiovasc Surg 129: 1330-8, 2005

5) Schroeder TV, Eldrup N, Just S, et al: Dilatation of aortic grafts over time: what to expect and when to be concerned. Semin Vasc Surg 22: 119-24, 2009

6) Parodi JC, Palmaz JC, Barone HD: T ransfemoral intraluminal graft implantation for abdominal aor tic aneurysms. Ann Vasc Surg 5: 491-9, 1991

7) Committee for Scientific Affairs, The Japanese Association for Thoracic Surgery, Masuda M, Okumura M, Doki Y, et al: Thoracic and cardiovascular surgery in Japan during 2014: Annual repor t by The Japanese Association for Thoracic Surgery. Gen Thorac Cardiovasc Surg 64: 665-97, 2016

8) Kato M, Kuratani T, Kaneko M, et al: The results of total arch graft implantation with open stent-graft placement for type A aortic dissection. J Thorac Cardiovasc Surg 124: 531-40, 2002

9) Usui A, Fujimoto K, Ishiguchi T, et al: Cerebrospinal dysfunction after endovascular stent-grafting via a median sternotomy: the frozen elephant trunk procedure. Ann Thorac Surg 74: S1821-4, 2002

10) Karck M, Chavan A, Hagl C, et al: The frozen elephant trunk technique: a new treatment for thoracic aor tic aneurysms. J Thorac Cardiovasc Surg 125:1550-3, 2003 11) Di Bartolomeo R, Di Marco L, Armaro A, et al: Treatment of

complex disease of the thoracic aorta: the frozen elephant trunk technique with the E-vita open prosthesis. Eur J Cardiothorac Surg 35: 671-5, 2009

12) Uchida N, Shibamura H, Katayama A, et al: Operative strategy for acute type a aortic dissection: ascending aortic or hemiarch versus total arch replacement with frozen elephant trunk. Ann Thorac Surg 87: 773-7, 2009

13) De Paulis R, De Matteis GM, Nardi P, et al: Opening and closing characteristics of the aortic valve after valve-sparing procedures using a new aortic root conduit. Ann Thorac Surg 72: 487-94, 2001

図2 大動脈基部用人工血管(バルサルバ・グラフト)

① ②

Body/ Collar Skirt height max. Skirt ② ÷ ① size (mm) diameter (mm) (mm) 24 24 32 1.33 26 26 34 1.31 28 28 36 1.29 30 30 38 1.27

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