家計の消費・廃棄行動に起因する 環境負荷分析用モデルの開発と応用
―廃棄物産業連関モデルによる「持続可能な消費」の分析―
Development and Application of Economics Models of Environmental Loads Induced by Households:
Analyses of Sustainable Consumption by the Waste Input-Output Model
2007 年 10 月
早稲田大学大学院 経済学研究科 理論経済学・経済史専攻 計量経済学専修
高瀬 浩二
Koji Takase
はしがき
この博士学位申請論文は,以下の初出論文を全面的に再構成・修正・加筆し,作成され たものである。
[1]
高瀬浩二・鷲津明由, 2004, 「持続可能な消費社会の産業連関分析」『産業連関-イノベ ーション&I-Oテクニーク-』, 12(1), pp.25-33.[2] Takase, K., Y. Kondo and A. Washizu, 2005, “An analysis of sustainable consumption by the waste input-output model,” Journal of Industrial Ecology, 9(1-2), pp.201-219.
[3]
高瀬浩二・近藤康之・鷲津明由, 2006, 「廃棄物産業連関モデルによる消費者行動の分 析:所得と生活時間を考慮した環境負荷の計測」『日本LCA
学会誌』, 2(1), pp.48-55.本論文をまとめるにあたって,全体の用語や表記法を統一した。また,上記初出論文の執筆時期 以降のデータベースの更新および分析モデルの改良を分析結果に反映させるため,本研究の一 部については再計算を行った。その過程で,かねてからの共同研究者である鷲津明由先生(早稲 田大学・社会科学総合学術院・教授),近藤康之先生(早稲田大学・政治経済学術院・教授)の協 力を得た。
本研究と上記初出論文との対応は以下である。すべての節および章について,大幅な 加筆を行った。
第
1
章(1.2節)論文 [2] (203-204頁)
第
1
章(1.3節)論文 [1] (27-28頁)
第
2
章(2.1節)論文 [2] (204-206頁),および論文 [3] (49-50頁)
第
2
章(2.2節)論文 [2] (207-212頁)
第
3
章論文 [1] (29-33頁)
第
4
章(4.1節)論文 [2] (206-207頁,分析モデルの改良),および論文 [3] (50-51頁)
第
4
章(4.2節)論文 [2] (212-218頁,分析モデルの改良に伴う再計算)
第
5
章論文 [3] (51-54頁,データベースの更新に伴う再計算)
その他の節および章については,本論文で初出のものである。
本研究の遂行にあたり,大学院修士課程入学以来の指導教授であり,かつ廃棄物産業 連関分析の開発者である中村愼一郎先生(早稲田大学・政治経済学術院・教授)には,研究に対 する姿勢や研究の方向性について,貴重なご指導,ご示唆をいただきました。また,審査委員の西 郷浩先生(早稲田大学・政治経済学術院・教授),栗山浩一先生(早稲田大学・政治経済学術院・
教授),早見均先生(慶応義塾大学・商学部・教授)には,予備審査論文に対して,多くの建設的 なコメントをいただきました。また,近藤康之先生(早稲田大学・政治経済学術院・教授),横山一 代先生(東北大学・大学院環境科学研究科・助教)には,草稿段階から本論文に目を通していた だき,多くの貴重なアドバイスをいただきました。心よりお礼申し上げます。
2007
年8
月 高瀬 浩二目次
1.
「持続可能な消費」と廃棄物産業連関... - 1 -
1.1.
背景と目的... - 1 -
1.2.
廃棄物産業連関モデル... -3 -
1.3.
廃棄物産業連関表... - 8 -
2.
廃棄物産業連関モデルの消費者分析モデルへの拡張... - 14 -
2.1.
家計の消費・廃棄行動に起因する環境負荷... - 14 -
2.2.
平成7
年(1995年)廃棄物産業連関表を用いた実証結果... - 21 -
3.
環境家計簿への応用:廃棄物環境家計簿の作成と分析... - 27 -
3.1.
環境家計簿研究の背景... -27 -
3.2.
国民一人あたり消費による誘発埋立容積... - 29 -
3.3.
埋立容積点数表... - 31 -
3.4.
廃棄物環境家計簿の実践例... -35 -
3.5.
まとめ... -35 -
4.
シナリオ分析への応用:所得に関するリバウンド効果の分析... - 37 -4.1.
リバウンド効果... - 37 -
4.2.
シナリオ分析... - 43 -
4.2.1.
シナリオ分析1:
交通手段の振替シナリオ...- 43 -4.2.2.
シナリオ分析2:
家庭用電化製品の長寿命化シナリオ...- 47 -
4.2.3.
シナリオ分析3:
炊事・食事のシフト...- 50 -
4.3.
まとめ... -52 -
5.
所得と生活時間を考慮した環境負荷の計測... - 54 -5.1.
問題の背景... - 54 -
5.2.
予算制約と時間制約を同時に考慮する消費者モデル... - 55 -
5.3.
データと初期設定... - 59 -
5.4.
シナリオ分析... - 63 -
5.5.
まとめ... -64 -
6.
本研究のまとめと今後の課題... - 66 -参考文献
...- 69 -
付録
... - 75 -
図目次
図
1: WIO
モデルにおける反復計算過程... - 7 -
図
2:
廃棄物産業連関表の雛形... - 9 -
図
3:
廃棄物純排出量で表した廃棄物処理表の雛形... - 10 -
図
4:
廃棄物処理投入量で表した廃棄物産業連関表の雛形... - 11 -
図
5:
直接・間接CO
2排出量の費目別シェア... - 25 -
図
6:
国民1
人あたり誘発埋立容積... - 30 -
図
7:
年間収入階級別誘発埋立容積... - 35 -
図
8:
リバウンド効果と代替的な消費パターン... - 39 -
図
9:
消費者モデル(消費活動,「消費技術」,投入財)... - 57 -
表目次
表
1:
生産者価格評価と購入者価格評価の水産物の家計消費... -16 -
表
2:
家計による水産物消費に起因する家庭系廃棄物発生および直接環境負荷... - 18 -
表
3:
家計の化石燃料消費による直接CO
2排出... - 22 -
表
4: WIO1995
表を用いた各財の家計消費額と直接・間接に誘発される環境負荷... - 23 -
表
5:
家計消費額と誘発埋立容積... -29 -
表
6:
埋立容積点数表(家計消費1万円あたりの埋立容積)... - 31 -
表
7:
家計の乗用車消費による誘発埋立容積... -33 -
表
8:
家計の飲料・飼料・たばこ消費による誘発埋立容積... -34 -
表
9:
交通シナリオ:自家用車による移動の鉄道利用への振替... - 44 -
表
10:
自家用車による移動の鉄道利用への振替シナリオ(推定結果)... - 45 -
表
11:
交通シナリオ:自家用車による移動のバス利用への振替... -46 -
表
12:
自家用車による移動のバス利用への振替シナリオ(推定結果)... - 47 -
表
13:
家電の長寿命化シナリオ... -48 -
表
14:
家電の長寿命化シナリオ(推定結果)... -49 -
表
15:
自炊・外食の振替シナリオ... - 51 -
表
16:
自炊・外食の振替シナリオ(推定結果)... - 52 -
表
17:
消費技術の稼動水準と環境負荷... - 62 -
表
18: WIO2000
表を用いた各財の家計消費額と直接・間接に誘発される環境負荷... - 76 -
1. 「持続可能な消費」と廃棄物産業連関
1.1. 背景と目的
環境問題の高まりとともに,工場でのエネルギーの有効活用や廃棄物の再資源化など,
生産部門で環境負荷のより低い技術(cleaner productionあるいは
sustainable production,「持続可
能な生産」)が採用されるようになってきた。しかし,社会全体での環境負荷を減らすには,生産技 術の改善だけでは十分でない。それに加えて,消費者自らがライフスタイルを転換し,積極的に環 境負荷排出のより少ない消費生活,あるいは「持続可能な消費」(sustainable consumption)を行う ことが必要である。「持続可能な消費」とは,現状の生活水準を維持しつつ,消費に起因する環境 負荷排出のより少ない消費パターンを探る研究分野のことである。実際,UNEP(国連環境プログラ ム)等で行われている持続可能な社会の議論では,生産者による「持続可能な生産」と消費者によ る「持続可能な消費」が一組で論じられている(UNEP(2002)など)。また,財の生産は,我々の生 活を維持するために行われるものであるため,生産者による環境負荷排出も,消費者の行動に起 因することになる。そのため,持続可能な社会の実現を目指して,産業界での「持続可能な生産」への取り組みとともに,消費者を「持続可能な消費」へと誘導することが重視されている(稲葉
(2005))。
家計による消費パターンに起因する環境負荷の分析には,直接効果と間接効果を適切 に評価することが必要であることが知られている(たとえば,Herring and Roy (2002)など)。直接効 果とは,家計が直接の排出源となっている環境負荷である。たとえば,家庭での暖房のための灯 油の燃焼や自家用車利用によって排出される環境負荷がそれにあたる。一方,間接効果は,家計 が消費する財やサービスの生産および輸送過程とそれに付随する廃棄物処理,さらには,家計か ら発生する廃棄物の処理過程で排出される環境負荷である。伝統的な産業連関モデル(IO モデ ル: input-output model)では,間接効果を容易に計算することが出来る。さらに,IOモデルは明確 なシステム境界(当該の国や地域)を持っている点が,「持続可能な消費」の分析に
IO
モデルが多 用される要因である。Lenzen (1998),Weber and Perrels (2000),Jalas (2002),さらにはHertwich
(2002)
に収録されている多くの研究例は,伝統的なIO
モデルを用いた消費分析の例である。ただし,伝統的
IO
モデルでは,廃棄物の物質フローを明示的に考慮していないために,その適用範 囲には限界がある。この問題点を克服するのが,以下で紹介する廃棄物産業連関分析である。伝統的な
IO
モデルでは詳細に扱われない廃棄物処理およびその再生利用について,特別な考慮を払うために開発された分析モデルとして,廃棄物産業連関モデル(WIO モデル:
waste input-output model)がある。Nakamura (1999),中村 (2000),Nakamura and Kondo (2002)に
よって開発されたWIO
モデルを用いれば,財・サービス生産部門(動脈部門)と廃棄物処理・資源 化部門(静脈部門)とのあいだの財と廃棄物の循環を定量的に把握できる。特に,一国(一地域)経済の中での財と廃棄物の流れを適切に考慮している点は,WIO モデルの顕著な特徴の一つで ある。この特徴により,家計による消費行動のみならず,廃棄行動を含めたライフスタイルに起因す る環境負荷を適切にモデル化し,定量評価をすることが出来る。本研究の主な目的は,WIO モデ ルを家計の消費・廃棄行動に起因する環境負荷分析用モデルへと拡張し,それを用い,「持続可 能な消費」に関する応用分析を行うことである。
WIO
モデルは,LCA(ライフサイクルアセスメント)の分析道具としても用いられる。LCAと は,製品やサービスのライフサイクル全体を考慮し,その環境負荷を定量化して評価する手法であ る。LCA のうち,ライフサイクル全体の環境負荷を計量することをインベントリ分析というが,その手 法には,主に積み上げ法と産業連関分析法がある。前者は製品がどのように製造され,廃棄され るかを生産・流通過程を具体的に追って積み上げて環境負荷を評価する方法であり,後者は産業 連関モデルの波及効果を用いて評価する方法である(吉岡・大平・早見・鷲津・松橋 (2003),第6
章)。積み上げ法によるインベントリ分析は,財の生産・使用・廃棄過程に関するプロセスデー タを積み上げて環境負荷を計測する方法である。積み上げ法による
LCA
では,詳細なプロセスデ ータを収集することで,精度の高い分析が可能となる一方で,その作業には膨大な時間と労力を 必要とする(Suh, et al. (2004))。そのため,生産の波及をどこまで追うか(すなわちシステム境界)が 恣意的に決定されることが常に問題とされる(中村 (2005))。一方,産業連関分析法では,そのシ ステム境界が産業連関表の対象である国や地域全体と自明である点で,積み上げ法と比較して優 れている。他の国におけるLCA
分析と比較すると,日本では産業連関分析法が多用されていることが特徴的である(森口(2003))。
本研究の構成は以下である。1.2節および
1.3
節で,本研究の基礎であるWIO
モデルおよび 勘定体系である廃棄物産業連関表(WIO表)について概説する。次に,第2
章でWIO
モデルを,家計の消費・廃棄行動に起因する環境負荷分析用モデルへと拡張する。さらに,このモデルと平 成
7
年(1995年)WIO表(WIO1995表)を用いた実証分析を行う。第3
章では,第2
章で行った実 証結果を,一般消費者に分かりやすい形である環境家計簿として整理する。第4
章では,同じモ デルをシナリオ分析に応用する。同時に,所得に関するリバウンド効果についての簡便な調整方 法を提唱し,それを用いてシナリオ分析を行う。第5
章では,消費者が直面する予算と時間の2
つ の制約の下での家計の消費・廃棄行動に起因する環境負荷を分析するために,新たに消費者モ デルを導入する。この消費者モデルと第2
章で拡張するWIO
モデルを組み合わせ,それを用いた シナリオ分析を行う。最後に,第6
章で,この研究全体の成果をまとめる。1.2. 廃棄物産業連関モデル
1)この節では,まず,中村 (2000) および
Nakamura and Kondo (2002)
による廃棄物産業 連関モデル(WIOモデル)を概観する。以下,財・サービス生産部門(動脈部門)の数をn
I,廃棄物 処理・資源化部門(静脈部門)の数をn
II,全産業部門数をn
(=n
I+n
II)とする。また,添字I,II,F
は,それぞれ,動脈部門,静脈部門,最終需要部門に対応することとする。ここで,最終需要部門 には,家計消費,家計外消費,固定資本形成,政府支出が含まれる。xIおよびx
II は,それぞれ,動脈部門の生産量ベクトル(nI
×1),静脈部門の活動量ベクトル(n
II×1)を表すこととする。さらに,
X
I,FおよびX
II,Fは,それぞれ,動脈部門に対する最終需要ベクトル(nI×1),静脈部門に対する最終
需要ベクトル(nII×1)である。WIO
モデルの動脈部門の生産および静脈部門の活動に関する需給 均衡式は以下のように表される。I I,I I I,II II I,F
x = A x + A x + X (1)
II II,I I II,II II II,F
x = A x + A x + X (2)
ここで,AI,I,AI,II は,それぞれ,動脈部門の投入係数行列(nI
×n
I),静脈部門の投入係数行列1) この節の解説は,Takase, Kondo and Washizu (2005) をもとにしたものである。
(nI
×n
II)である。AI,Iは伝統的なIO
モデルの投入係数行列に相当する。また,AI,IIの各要素は廃棄 物処理一単位あたりの財の中間財需要量を表す。さらに,AII,Iは一単位の財生産に伴って排出さ れる廃棄物の処理方法別の処理量行列(nII×n
I)であり,AII,IIは一単位の廃棄物処理に伴って排出 される廃棄物の処理量行列(nII×n
II)である。WIO
モデルでは,静脈部門の活動量は当該部門で処理された廃棄物量で測られる。以 下,nW種類の廃棄物を考慮する。G
⋅,Iを動脈部門の廃棄物純排出係数行列(nW×n
I),G
⋅,IIを静脈 部門の廃棄物純排出係数行列(nW×n
II)とする。純排出量は,その部門から排出される廃棄物組 成別の粗排出量とその廃棄物を再生原料とした場合の粗投入量の差である。また,純排出係数は,各廃棄物組成について定義され,それは,ある部門の生産量・活動量一単位あたりの当該廃棄物 の純排出量である。
W
⋅,Fで最終需要部門からの廃棄物発生量ベクトル(nW×1)を表すと,(2)式は,
以下のように書き換えられる。
II ,I I ,II II ,F
x = S G x
⋅+ S G
⋅x + S W
⋅(3)
ここで,S は廃棄物純排出量を廃棄物処理・処分部門の活動量に対応させる配分行列(nII
×n
W)で ある。配分行列の要素は,各廃棄物処理部門で処理される廃棄物の比率を表す。すなわち,配分 行列S
の(i, k )要素 s
ikは廃棄物組成k(たとえば厨芥や紙ごみ)が廃棄物処理・処分部門 i
(たと えば焼却や埋立)で処理・処分される割合である。定義により,配分行列S
の各要素s
ikは,s
ik≥ 0
,II
1
1
n i=
s
ik=
∑
を満たす(i= 1,...,n
II,k= 1,...,n
W)。配分行列S
を用いると,静脈部門の投入係数およ び最終需要ベクトルのあいだに,以下の等式が成り立つ。,I II,I
,
,II II,II ,F II,FS G
⋅= A S G
⋅= A , S W
⋅= X (4)
すなわち,純排出係数行列(
G
⋅,I,G
⋅,II)および最終需要部門の廃棄物排出量(W
⋅,F)に配分行列S
をかけることにより,静脈部門の投入係数および静脈部門に対する最終需要ベクトルが得られる。(4)式を用いると,(1)式および(3)式をまとめて,以下のように表すことが出来る。
1
I,I I,II I,F
I
,I ,II ,F
II n
A A X
x I
S G S G S W
x
⎡ ⎤ − ⎡ ⎤
⎡ ⎤
⎢ ⎥ ⎢ ⎥
⎢ ⎥
⎢ ⎥ ⎢ ⎥
⎢ ⎥
⎢ ⎥ ⎢ ⎥
⎢ ⎥
⎢ ⎥ ⎢ ⋅ ⋅ ⎥ ⎢ ⋅ ⎥
⎣ ⎦ ⎣ ⎦ ⎣ ⎦
⎛ ⎞
= ⎜ ⎜ ⎝ − ⎟ ⎟ ⎠ (5)
ここで,
I
nは,n 次(nI+n
II次)の単位行列である。財の最終需要ベクトルX
I,Fと最終需要部門の廃 棄物排出量W
⋅,Fを所与とすると,(5)式から財生産部門の生産量と廃棄物処理部門の活動量が得られる。なお,(5)式の右辺の逆行列は,WIOモデルにおける
Leontief
逆行列である。WIO
モデルにより,最終需要部門の消費・廃棄行動が直接・間接に引き起こす環境負荷 を計測することが可能となる。以下,nE種類の環境負荷因子を考慮することとする。R
⋅,Iを動脈部門 の環境負荷排出係数行列(nE×n
I)とし,その要素は一単位の財生産を行う際に排出される環境負 荷排出量を表すこととする。同様に,R
⋅,IIは静脈部門の環境負荷排出係数行列(nE×n
II)であり,そ の要素は一単位の廃棄物処理を行う際に排出される環境負荷排出量を表すこととする。さらに,E
⋅,Fは最終需要部門から直接排出される環境負荷ベクトル(nE×1)とする。このとき,経済全体の環
境負荷排出量ベクトルe
(nE×1)は以下のように表される。
,I I ,II II ,F
e = R x
⋅+ R x
⋅+ E
⋅(6)
ここで,(6)式の右辺第
1
項は,動脈部門の財生産に伴って排出される環境負荷排出量,右辺第2
項は静脈部門から排出される環境負荷排出量に対応する。(5)式を用いると,(6)式は,以下のよう に書き換えられる。1
I,I I,II I,F
,I ,II ,F
,I ,II ,F
n
A A X
e R R I E
S G S G S W
⎡ ⎤ − ⎡ ⎤
⎢ ⎥ ⎢ ⎥
⎡ ⎤ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥
⎢ ⋅ ⋅ ⎥ ⋅
⎣ ⎦ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥
⋅ ⋅ ⋅
⎢ ⎥ ⎢⎣ ⎥⎦
⎣ ⎦
⎛ ⎞
= ⎜ ⎜ ⎝ − ⎟ ⎟ ⎠ + (7)
ここで,(7)式の右辺第
1
項は,最終需要部門の消費・廃棄行動が誘発する環境負荷のうち最終需 要部門以外で排出される環境負荷(間接効果)であり,右辺第2
項は最終需要部門が直接に排出 する環境負荷(直接効果)である。(7)式は,経済全体の環境負荷排出量(e)と,最終消費者のライ フスタイル(XI,F,W
⋅,FおよびE
⋅,F),生産者の技術や廃棄物管理政策(R,A,G,S)との関係を表して いる。これまでは議論を簡単にするため,各投入係数行列を固定であると仮定していた。実際,
動脈部門の投入係数について,WIOモデルは,伝統的な
IO
モデルと同様に,固定係数であらわ される投入産出関係を基礎としている。しかし,現実には,少なくとも静脈部門については,固定的 な投入係数を仮定することは適当ではない。廃棄物処理部門の活動は,処理対象である廃棄物を 受動的に受け入れ,それを適正処理することである。したがって,静脈部門では,熱量,水分,灰 分,可燃分などの投入される廃棄物の組成が,その部門の中間財投入量や環境負荷排出量に大 きく影響する。たとえば,受け入れた廃棄物の熱量が低ければ,焼却処理には,重油などの助燃剤が必要となり,それに伴って排出される
CO
2などの環境負荷が増加する。また,灰分が多い廃棄 物を処理すれば,最終的な埋立容積の増加につながる。このことは,動脈部門が,たとえば利潤を 上げるために能動的に財の生産活動を行っていることとは対照的である。静脈部門のこのような性格を反映させるため,WIOモデルでは,静脈部門の投入係数に ついて,北海道大学の研究グループによって開発された廃棄物処理に関する工学モデル(田中・
松藤 (1998))を内包している。また,実際の計算に際しては非線形演算を行っている。図 1 は
WIO
モデルにおける非線形演算の解法を図示したものである。廃棄物排出量の初期値W
(0)を廃 棄物処理モデルF
に与えると,受け入れた廃棄物の組成を反映して,静脈部門の投入係数行列A
I,II,廃棄物純排出係数行列G
⋅,II,環境負荷排出係数行列R
⋅,IIが得られる。これらを用いて,(5)式 のように,動脈部門の生産量x
Iおよび静脈部門の活動量x
IIが求められる。同時に,新たな廃棄物 純排出量ベクトルW
が得られる。このようにして求められたW
と初期値W
(0) を比較し,収束するま で反復計算を行う(近藤 (2002))。以上の手続きにより,WIO モデルでは,廃棄物の流れを適切に考慮することが可能とな る。すなわち,動脈部門から排出される廃棄物の量とその組成(
G
⋅,I)や生産技術(AI,I,R
⋅,I)や廃棄 物管理に関わる制度(S)が,廃棄物処理部門の投入産出関係を表現する静脈部門の投入係数お よび環境負荷排出係数(AI,II,G
⋅,II,およびR
⋅,II)に重要な影響を与えることとなる。この点は,伝統 的なIO
モデルとの比較において,WIOモデルの顕著な特徴の一つである。本研究2.2
節以降の 実証分析でも,この特徴を利用してはいるものの,数式の煩雑さを避けるため,以下の解説でも,静脈部門の投入係数を固定係数であるかのごとく扱うこととする。
図 1: WIOモデルにおける反復計算過程
注: 中村 (2005) の図 1 を本研究の表記法に変更した。
START
動脈部門技術:
A
I,I,G
⋅,I,R
⋅,I ライフスタイル:X
I,F,W
⋅,F廃棄物の廃棄物処理への配分: S
生産・廃棄物初期水準
(
I)
1(0)
I n I,I I,F
x = I − A
−X
(0) (0)
,I I ,F
W = G x
⋅+ W
⋅廃棄物処理工学モデル
( A
I,II, G
⋅,II, R
⋅,II) = F S W ( ,
(0))
更新された生産・処理・廃棄物水準
1
I,I I,II I,F
I
,I ,II ,F
II n
A A X
x I
S G S G S W
x
⎡ ⎤ − ⎡ ⎤
⎡ ⎤
⎢ ⎥ ⎢ ⎥
⎢ ⎥
⎢ ⎥ ⎢ ⎥
⎢ ⎥
⎢ ⎥ ⎢ ⎥
⎢ ⎥
⎢ ⎥ ⎢ ⋅ ⋅ ⎥ ⎢ ⋅ ⎥
⎣ ⎦ ⎣ ⎦ ⎣ ⎦
⎛ ⎞
= ⎜ ⎜ ⎝ − ⎟ ⎟ ⎠
,I I ,II II ,F
W = G x
⋅+ G x
⋅+ W
⋅W
(0)= W W − W
(0)< ε ?
END
Yes
No
WIO
モデルは,さまざまな分野への応用がなされている。廃棄物回収の広域化と廃棄物 発電(サーマルリサイクル)の評価として,中村 (2001)が挙げられる。中村・近藤・平井 (2001)では,複数の厨芥処理技術(焼却,堆肥化,メタン発酵)の環境評価を行っている。Kondo and Nakamura
(2004)は,家電リサイクル法に対応した使用済み家電製品の代替的処理技術の環境評価をおこな
っている。また,布施・鹿島・八木田 (2006) は,WIOモデルを自動車関連の産業部門を細分化し,使用済み自動車のリサイクル技術の環境負荷測定に応用している。
一方,WIO モデルの理論的拡張も行われている。廃棄物の流れを適切に考慮した上で 財の価格変化を分析するモデルとして,WIO価格モデルがある。WIO価格モデルを財のライフサ イクルコスト分析(LLC; life cycle costing)に応用した例として,Nakamura and Kondo (2006a),
Nakamura and Kondo (2006b) があげられる。また,線形計画問題への拡張(近藤・中村(2004),
Kondo and Nakamura (2005)),動学モデルへの拡張(横山(2004),横山・恩田・長坂 (2006)),マ
テリアルフロー分析(MFA; material flow analysis)への拡張(Nakamura and Nakajima (2005)),地 域間モデルへの拡張(Kagawa, Nakamura, Inamura and Yamada (2007))がある。さらに,本研究の もととなる高瀬・鷲津 (2004),Takase, Kondo and Washizu (2005),高瀬・近藤・鷲津 (2006)は,WIO
モデルを消費者分析に拡張した例である。以下,この節で紹介したWIO
モデルを,WIO 基 本モデルと呼び,WIO基本モデルおよびその拡張モデルの総称として,WIO モデルと呼ぶことに する。WIO基本モデルに関する議論は,中村 (2000) およびNakamura and Kondo (2002)
に詳し い。1.3. 廃棄物産業連関表
2)この節では,本研究の基礎データである廃棄物産業連関表(WIO表)について概観する。
図 2は,勘定体系としての
WIO
表の雛形である。2) この節の解説は,高瀬・鷲津 (2004) をもとにしたものである。
産業
動脈部門 静脈部門
最終需要
財投入 (金額)
X
I,IX
I,IIX
I,F廃棄物排出 (重量)
W
⋅,I⊕W
⋅,II⊕W
⋅,F⊕ 廃棄物投入 (重量)W
⋅,I:W
⋅,II:W
⋅,F: 環境負荷因子排出E
⋅,IE
⋅,IIE
⋅,F 付加価値 (金額)V
⋅,IV
⋅,II図 2: 廃棄物産業連関表の雛形
1.2
節の定義と同様に,下添え字のI
は動脈部門,IIは静脈部門,Fは最終需要部門を表す。図 2 のX
I,I,XI,II,XI,Fは財の取引額を表す行列(それぞれ,nI×n
I,nI×n
II,nI×1), E
⋅,I,E
⋅,II,E
⋅,Fは環境 負荷因子の排出量行列(それぞれ,nE×n
I,nE×n
II,nE×1)である。また, V
⋅,I,V
⋅,IIは付加価値額行 列(それぞれ,nV×n
I,nV×n
II,nVは付加価値の種類)である。さらに,廃棄物排出量および投入量 を表すW
の上添え字で廃棄物の粗排出量(⊕
)および粗投入量(:
)を表すこととする。すなわち,W
⋅,I⊕,W
⋅,II⊕,W
⋅,F⊕は,組成別廃棄物排出量行列(それぞれ,nW×n
I,nW×n
II,nW×1)であり,同様に W
⋅,I:,W
⋅,II:,W
⋅,F:は,組成別廃棄物投入量行列(それぞれ,nW×n
I,nW×n
II,nW×1)である。
伝統的な産業連関表との比較における
WIO
表の特徴としては,(1)
廃棄物処理活動を堆肥化,焼却,埋立,破砕などの処理工程の違いに沿って詳細に分類し ている,(2)
廃棄物の排出および投入を重量で計量しているため,金額(X,V)と物量(W,E)が混在して いることがあげられる。これにより,WIO 表では,動脈部門と静脈部門とあいだの財・廃棄物の循環を,
廃棄物の物質収支を保持しつつ,定量的に把握できる。
図 2において,廃棄物排出量と廃棄物投入量(再生利用量)の差が,適正処理を必要と する廃棄物純排出量(
W
⋅,I,W
⋅,II,W
⋅,F)である。すなわち,W
⋅,I= W
⋅,I⊕-W
⋅,I:,W
⋅,II= W
⋅,II⊕-W
⋅,II:,W
⋅,F= W
⋅,F⊕-W
⋅,F:が成り立つ。勘定体系としてのWIO
表を廃棄物純排出の形で表したものが図 3である。
産業
動脈部門 静脈部門
最終需要
財投入 (金額)
X
I,IX
I,IIX
I,F 廃棄物純排出 (重量)W
⋅,I⊕-W
⋅,I:W
⋅,II⊕-W
⋅,II:W
⋅,F⊕-W
⋅,F: 環境負荷因子排出E
⋅,IE
⋅,IIE
⋅,F 付加価値 (金額)V
⋅,IV
⋅,II図 3: 廃棄物純排出量で表した廃棄物処理表の雛形
図 3 の灰色で塗られた行列は伝統的な産業連関表の中間財取引に対応する。現実には,廃プラ スチックや紙ごみに代表される廃棄物組成数は,堆肥化,焼却,埋立,破砕などの廃棄物処理部 門数よりも多いことが一般的である。したがって,図 3 の中間取引行列は非正方である。勘定体系 としての
WIO
表の情報を最終需要部門の消費・廃棄活動が経済全体に与える波及効果等を評価 する分析モデルに応用するためには,動脈・静脈部門の取引行列を正方化する必要がある。その ために用いられるものが配分行列S
である。1.2節でも解説したとおり,配分行列S
の( i, k )要素s
ikは廃棄物組成
k
が廃棄物処理・処分部門i
によって処理される比率を表す。たとえば,処理対象の 廃プラスチックの6
割が焼却され,残りの4
割が直接埋立をされるなどが,配分行列S
によって表さ れる。図 4に廃棄物純排出と配分行列を用いたWIO
表の雛形を記す。図 3とは対照的に,図 4 の灰色で塗られた部分が正方行列となり,1.2 節で解説した静脈部門の投入係数についての非線 型性を無視すれば,数学的には伝統的なIO
モデルの中間財取引行列と同様に取り扱うことが可 能となる。産業
動脈部門 静脈部門
最終需要
財投入 (金額)
X
I,IX
I,IIX
I,F廃棄物処理 (重量)
S( W
⋅,I⊕-W
⋅,I:) S( W
⋅,II⊕-W
⋅,II:) S( W
⋅,F⊕-W
⋅,F:)
環境負荷因子排出E
⋅,IE
⋅,IIE
⋅,F 付加価値 (金額)V
⋅,IV
⋅,II図 4: 廃棄物処理投入量で表した廃棄物産業連関表の雛形
WIO
モデルによる分析では,一部の生産部門に関しては,廃棄物処理投入が負となるこ とがある。負の廃棄物処理投入は,当該産業が他の産業から排出される廃棄物を受け入れ,再資 源化を行っていることを表す。例えば,耕種農業は畜産業から大量の動物ふん尿を受け入れ,再 資源化を行っている。そのため,財別に見れば,負の誘発廃棄物処理投入もありうる。このことは,WIO
モデルの最大の特色である。したがって,WIOの特徴には,上であげたものの他に,(3)
負の誘発活動量に再資源化活動という積極的な意味を持たせている,ことが追加される。
以下の
2.2
節,第3
章および第4
章の分析で用いるデータは,平成7
年(1995年)廃棄 物産業連関表3.1
版(WIO1995 表,中村愼一郎研究室,近藤・高瀬・中村 (2002))である。WIO1995
表は,80部門の動脈部門と14
部門の静脈部門(焼却3
種類,埋立,堆肥化,破砕9
種 類),産業廃棄物,事業系・家庭系一般廃棄物を合わせた42
種類の廃棄物を含んでいる。また,環境負荷因子としては,二酸化炭素排出量(CO2),最終処分場消費(埋立容積),最終処分場面 積(埋立面積)の
3
種類を計上している。すなわち,nI= 80,n
II= 14,n
W= 42,n
E= 3
である。また,第
5
章の分析には,平成12
年(2000 年)廃棄物産業連関表version 0.04b
(WIO2000表,中村愼一郎研究室,新エネルギー・産業技術総合開発機構 (2004))を用いている。
WIO2000
表は,396部門の動脈部門と13
部門の静脈部門(焼却3
種類,埋立,破砕9
種類),産 業廃棄物,事業系・家庭系一般廃棄物を合わせた78
種類の廃棄物を含む。また,環境負荷因子 としては,二酸化炭素排出量(CO2),最終処分場面積(埋立容積),最終処分場面積(埋立面積),エネルギー消費量の
4
種類を計上している(nI= 396,n
II= 13,n
W= 78,n
E= 4)
3)。WIO
表(WIO1995表およびWIO2000
表)に計上されているCO
2排出量には,化石燃料 の燃焼起源のもの,セメント製造過程での石灰石起源のものが含まれる。これらは,南齋・森口・東 野 (2002) の数値を元にしている。また,最終処分場に埋め立てられた生分解性の廃棄物の分解 により発生するメタン(CH4),廃家電製品(冷蔵庫およびエアコン)の破砕により排出されるフロン(CFCs)については,それらを地球温暖化係数(GWP100)で評価した CO2 換算値を求め,WIO 表の
CO
2排出量に加えた。国外動脈産業の投入産出構造が日本のそれと同様のものであると仮定すれば,本研究 の二酸化炭素排出量を温暖化ガス排出量の代表的な環境負荷因子であるとみなすことが出来る。
また,最終処分場消費は,少なくとも日本では,それ自体が希少な資源である。近い将来,閉鎖さ れた最終処分場の再利用が技術的に可能とならない限り,埋立容積を環境への影響指標として利 用できる。また,エネルギー消費量は消費生活および生産活動の効率性を示す環境影響指標とし て代表的なものである。以下の分析では,環境負荷因子として,二酸化炭素排出量,埋立容積,
およびエネルギー消費(第
5
章のみ)を考慮する。例えば,EUによる消費の
LCA
研究プロジェクトであるEIPRO (2005) は,1,344
種類も の環境負荷因子を計測している。また,南齋・森口・東野 (2002) は,二酸化炭素のみではなく,窒素酸化物(NOx),硫黄酸化物(SOx),浮遊粒子状物質(SPM)の排出量を,平成
7
年(1995年)産業連関表(総務庁 (1999))の基本部門分類について計測している。これらの典型的な
LCA
研 究と比較すると,本研究で考慮する環境負荷因子の数は少ない。しかし,環境負荷因子の数につ いては,WIO モデル自体に理論上の制限があるわけではない。その他の環境負荷指標を本研究 で使用しない理由は,それらに関する十分に信頼できる情報が得られないためである。動脈部門 から排出されるCO
2については,本研究で用いたWIO
表でも,南齋・森口・東野 (2002) を基礎 データとして用いている。しかしながら,WIO モデルに取り込んでいる静脈部門のサブモデル(田 中・松藤 (1998))には,NOx,SOx,SPMの評価が含まれていないため,本研究ではCO
2以外の環 境負荷排出量を考慮しない。現時点ではCO
2と同等程度に信頼性のあるデータが利用可能では3) 中村愼一郎研究室
Web Site
では,動脈部門を統合しnI= 103
部門としたWIO2000
表を公開している。ないため,その他の環境負荷因子の利用については,今後の課題である。
以上のように推計された
WIO
表を用いることにより,本研究では,日本国内で生産された 財と国内の廃棄物処理によって,日本国内で排出される環境負荷を考慮することになる。1.2 節で のモデルの解説では,輸入については触れていないが,投入係数A
および最終需要ベクトルX
I,F に,国産率(1−輸入係数)をかけた上でモデルを導出している。ここで,輸入係数は国内の総需要 に占める輸入財の比率である。したがって,本研究の分析では,日本の家計の消費・廃棄行動に 起因して日本国内で発生する環境負荷が考慮されていることとなる。2. 廃棄物産業連関モデルの消費者分析モデルへの拡張
家計による消費・廃棄行動の変化が廃棄物処理を含めた環境負荷に与える影響を総合的な 視点から分析するには,WIO 表(廃棄物産業連関表)および
WIO
モデル(廃棄物産業連関モデ ル)を用いた分析が有効である。第1
章で解説したように,中村(2000)によって開発されたWIO
表 およびWIO
基本モデルは,財・サービス生産部門(動脈部門),最終需要部門,廃棄物管理部門(静脈部門)とのあいだの財,廃棄物の循環を定量的に把握する勘定体系と分析モデルである。
WIO
表およびWIO
基本モデルを用いると,消費財そのものの生産過程ばかりでなく,その財の原 材料,さらに原材料の原材料等の生産,さらにはそれらの過程で発生する廃棄物の処理で排出さ れる環境負荷を計算することができる。以下,2.1 節で,WIO 基本モデルを家計の消費・廃棄行動 の分析用に拡張する。2.2節では,平成7
年(1995 年)廃棄物産業連関表(WIO1995表,中村愼 一郎研究室,近藤・高瀬・中村 (2002))を用いた実証分析を行う。2.1. 家計の消費・廃棄行動に起因する環境負荷
4)この節では,家計の消費・廃棄行動に起因して直接・間接に排出される環境負荷を分析 するために,1.2節で解説した
WIO
基本モデルを拡張する。消費者行動に起因する環境負荷の分 析には,直接効果と間接効果を適切に評価するべきであることが良く知られている(たとえば,Munksgaard, et al. (2000),Wier, et al. (2001)
など)。直接効果には,家庭での暖房や炊事での化 石燃料の燃焼や自家用車の運転により排出される環境負荷が含まれる。一方,間接効果には,家 計が消費する財の生産(原料採掘を含む)や輸送・流通の過程で排出される環境負荷が含まれる。伝統的な産業連関モデル(IO モデル)を用いれば,ある財の生産や輸送・流通が引き起こす間接 効果が容易に計測できる。さらに,IOモデルを用いることで,LCAにおいて,常に問題とされるシス テム境界は明確に定められる。すなわち,システム境界は利用する産業連関表の範囲であり,一 般にはある国あるいはある地域である。これらの理由により,「持続可能な消費」(sustainable
consumption)の研究では IO
モデルが頻繁に用いられている(Hertwich (2005a)など)。4) この節の解説は,Takase, Kondo and Washizu (2005) および高瀬・近藤・鷲津 (2006) をもとにしたものである。
任意の財の消費過程は,購入・使用・廃棄の
3
つのステージに分割することが出来る。た とえば,家庭用電化製品の購入ステージは,小売店等で消費者が当該商品を購入する段階であ る。また,その使用ステージは,家庭での当該商品の使用,あるいはその修理補修である。さらに,その廃棄ステージは,当該商品が廃棄され,適正な廃棄物処理される過程である。伝統的な
IO
モ デルでは,財の生産を上流(原料採掘・中間処理・材料生産など)にまでさかのぼって考慮し,さら には,消費者の手に渡るまでの流通過程を考慮できるため,消費者が財を購入するまでの過程(購入ステージ)を評価することが可能である。また,その特徴は,IOモデルの拡張である
WIO
基 本モデルにも引き継がれる。しかし,IO モデルそのままの形では,消費過程全体のうち,廃棄ステ ージを考慮することは困難である。一方,WIO基本モデルでは廃棄物の流れを適切に考慮出来る ため,WIO基本モデルを家計の消費・廃棄行動分析用に拡張することにより,財の購入ステージと 廃棄ステージを適切に評価することが出来る。ある財の使用ステージは,その財の使用に必要な エネルギーや修理・補修の購入ステージに対応するため,IOモデルやWIO
基本モデルによって,財の使用ステージを考慮することは,原理的には可能である。しかしながら,すべての財とサービス について,その使用ステージを取り扱うことは非常に困難である。そのため,後のシナリオ分析(第
4
章,第5
章)では,購入・使用・廃棄の3
つのステージの関係をモデル化する方法を解説する。1.2
節で解説したWIO
基本モデルの解である(7)式は,最終需要部門の消費・廃棄行動 に起因して排出される環境負荷を表す。最終需要部門は家計消費とその他の最終需要に分けら れる。後者には,投資,政府支出,企業による接待費および福利厚生費が含まれる。本研究では,一般家庭の消費・廃棄行動に起因する環境負荷排出量に焦点を絞るため,(7)式から家計消費に 関連する部分を取り出すこととする。
まずは,最終需要部門の消費ベクトル
X
I,F,廃棄物排出量ベクトルW
⋅,F,および直接環境 負荷ベクトルE
⋅,Fから,家計による消費および排出量を分離する。以下,XI,H,W
⋅,H,E
⋅,Hで,それぞ れ,財およびサービスの家計消費(nI×1),家計からの廃棄物発生量(n
W×1),家計からの直接環
境負荷排出量(nE×1)を表すこととする。さらに,家計消費ベクトル X
I,Hのi
番目の要素(スカラー)を (XI,H
)
i と表す。また,以下,他のベクトルに関しても,同様の表記を用いることとする。一般に,購入者価格評価の取引額(小売価格)には,財そのものの価格に加え,商業マ
ージンと国内輸送費が含まれる。そのため,家計が (XI,H
)
i単位の第i
財を購入するとき,その家計 は (XI,H)
i 以上の代金を支払う必要がある。WIOモデル(およびIO
モデル)では,商業マージンと 国内輸送費に対応する産業がn
I種の動脈産業の中に含まれている。たとえば,小売マージンは小 売業に対応し,鉄道輸送運賃は鉄道輸送業に対応する。すなわち,家計による第i
財の購入は,小売業や鉄道輸送業やその他の商業・輸送関連業の活動をも誘発することになる。表 1 に,1995 年における家計の水産物消費を,生産者価格評価の取引額,商業マージン,国内輸送費の各要 素に分解した数値をまとめた。家計による水産物消費は,購入者価格評価の取引額では
12,726
億円である。一方,生産者価格評価の取引額では6,156
億円である。また,商業マージンと国内輸 送費は,それぞれ合計で6,298
億円,273 億円である5)。したがって,家計による水産物消費量が 変化することは,漁業のみならず,商業や輸送業の複数の産業の生産量に影響を与える。表 1: 生産者価格評価と購入者価格評価の水産物の家計消費
生産者価格評価の家計消費
[百万円]
漁業
( X
I,H fish) = ( Y
(fish) fish) = 615,584
商業マージン 卸売
( Y
(fish) wholesale) = 163,025
小売
( Y
(fish) retail) = 466,788
国内輸送費 鉄道
( Y
(fish) railway) = 68
道路
( Y
(fish) road) = 17,866
その他
( Y
(fish) other) = 9,317
購入者価格評価の家計消費
x
fish= ι
FY
(fish)= 1,272,648
資料:
平成7
年(1995
年)産業連関表(総務庁(1999)
).
消費者のライフスタイルすなわち消費・廃棄行動は
X
I,H,W
⋅,H,およびE
⋅,Hに反映される。ライフスタイルの変更をシナリオとして
WIO
モデルに与えるため,家計による第i
財の消費行動を 表現する以下のようなベクトル(nI×1)を定義する。
5) 伝統的な産業連関表における生産者価格評価と購入者価格評価の取引額については,たとえば宮沢
(2002)
にそれらの解説がある。N
( )i
[ 0…0 (
( )i)
i0…0 (
( ) wholesalei) (
( ) retaili) (
( ) railwayi) (
( ) roadi) (
( ) otheri) 0…0]
i
Y = Y Y Y Y Y Y
生産者価格の取引額 商業マージン 国内輸送費
F
(i = 1,…nI) (8) ここで,上添え字の
F
はベクトルの転置を表す。このベクトルのi
番目の要素は,第i
財の生産者価 格評価の取引額であり,商業マージンおよび輸送費に対応する要素については非ゼロ,その他の 要素についてはゼロとなる。(8)式は,家計による第 i
財の購入ステージを表している。(8)式右辺の各要素は,消費者 が第i
財を消費する際に支払う代金の構成(表 1で示したような構成)を表す。(Y(i))
iは第i
財の消 費量(生産者価格評価の取引額)である。工場等で生産された第i
財は,流通・輸送を経たうえで 消費者の手に届けられる。消費者による第i
財の消費に起因する環境負荷を適切に評価するため には,第i
財が誘発する流通・輸送で排出される環境負荷をも評価する必要がある。(Y(i))
wholesale,(Y
(i))
retailは第i
財にともなう商業マージン(卸売,小売),(Y(i))
railway, (Y(i))
road, (Y(i))
otherは第i
財に ともなう輸送マージン(鉄道輸送運賃,道路輸送運賃,その他の輸送運賃)である。(8)式の各要素 の合計( )
(
( )) (
( ) wholesale) (
( ) retail) (
( ) railway) (
( ) road) (
( ) other)
i i i i i i i i i
x = ι
FY = Y + Y + Y + Y + Y + Y (9)
は購入者価格評価の取引額となる。ここで,
ι = [11 1] "
Fである。表 1 で示したように,商業マージ ン関連部門である卸売業および小売業,さらには輸送関連部門である鉄道業や道路輸送業以外 の財については,( Y
( )i)
i= ( X
I,H)
iが成り立つ。また,各財の消費ベクトルY
(i) (i= 1,…n
I)と家計消 費ベクトルX
I,Hのあいだには,I,H (1) (2) ( )nI
X = Y + Y + " + Y (10)
が成り立つ。すなわち,各財の消費ベクトル
Y
(i) をすべての財(i = 1,...,nI)について合計したものは 家計消費ベクトルX
I,Hに等しい。以上のように定義された
Y
(i) と同様に,第i
財の廃棄ステージで排出される廃棄物排出量 ベクトル(nW×1)を,U
(i) と表す。U(i) の各要素は,廃棄物組成別の家庭系廃棄物排出量である。先の水産物消費の例では,スーパーマーケット等で水産物を購入した後,それらを包装していた 容器や包装紙等は家庭系廃棄物となる。また,購入された水産物のすべてが摂取されるとは限ら
ず,そのうちのある部分は厨芥として廃棄される。家計による水産物消費に起因する廃棄物排出 量を表 2 にまとめる。厨芥は食べ残しであり,紙ごみや廃プラスチックの起源は包装材である。ま た,高瀬(2002)で分析したように,食生活には最終的に排泄物という廃棄物排出が伴うが,それら の排泄物処理については,本研究では財別に扱わず,し尿処理・下水処理の家計需要としてまと めて扱っている。同様に,第
i
財の使用ステージで排出される直接の環境負荷ベクトル(nE×1)を,
F
(i) と表す。家計による水産物の消費そのものは環境負荷を直接には排出しないため,表 2のよう に,F(i) はゼロベクトルである。表 2: 家計による水産物消費に起因する家庭系廃棄物発生および直接環境負荷 家庭系廃棄物 厨芥
( U
(fish) food) = 265,549 [t]
紙ごみ
( U
(fish) paper) = 5,412
廃プラスチック
( U
(fish) plastic) = 44,047
その他の廃棄物( U
(fish) other) = 0
直接環境負荷 二酸化炭素( F
(fish) CO)
2= 0 [t-C]
埋立容積
( F
(fish) landfill) = 0 [m
3]
資料
:
平成7
年(1995
年)廃棄物産業連関表(中村愼一郎研究室,近藤・高瀬・中村(2002)
).
現実には,たとえば水産物の消費には,それを調理するために都市ガス等のエネルギー が必要であり,その際の都市ガスの使用により,家計から直接に