5. 所得と生活時間を考慮した環境負荷の計測
5.3. データと初期設定
この消費者モデルと消費・廃棄行動分析用
WIO
モデル(2.1節)を組み合わせることによ り,消費者の所得水準と生活時間を考慮した環境負荷の分析を行うことが出来る。すなわち,各消 費技術を稼動することによって直接・間接に排出される環境負荷を計測することが出来る。シナリ オ消費パターンでの環境負荷は,(14)式(2.1 節)で定義したq
iを用いて,次式のように計算でき る。I I
* * *
1 1
n n
i i i
i i
Q Q q x
= =
= ∑ = ∑ (29)
また,現状消費パターンと仮想的消費パターンのどちらがより「環境にやさしい」かに答えるために は,(29)式で計算された
Q
*と現状の環境負荷排出量Q
(o)を比較すればよい。(27)式の制約付き最適化問題にデータを対応させるためには,効用関数 u
の関数形を特定する必要がある。本研究では,最も基本的な関数形の一つであるコブ=ダグラス型効用関数
(対数線型関数)
1
log log
1 2 2 mlog
mu = α z + α z + " + α z (30)
を採用した。ここで
α
jは効用関数のパラメータである(j=1,...,m)。予算制約のみを課した場合,α
j は第j
消費技術に対する支出と総支出との比(支出シェア)で与えられることがよく知られている(た とえばChung (1994)
など)。本研究でも,このようなコブ=ダグラス型効用関数の性質を用い,I
1
( 1,..., )
n
j i i ij
j
z p b
j m
α = ∑ M
== (31)
として,(27)式の効用最大化問題に利用している。しかし,予算制約に加え,時間制約と技術に関 する制約を課した場合の,効用関数の関数形およびパラメータ推定に関しては検討の余地がある ため,今後の課題としたい。
(WIO2000 表,中村愼一郎研究室,新エネルギー・産業技術総合開発機構 (2004))を用いた16)。 動脈部門は平成
12
年(2000 年)産業連関表(総務省 (2004))の基本表部門レベルの396
部門(再生資源回収・加工処理および廃棄物処理・処分を除く),静脈部門は
13
部門,廃棄物は家庭 系・事業系一般廃棄物,産業廃棄物の合計78
種類である(nI=396,n
II=13,n
W=78)。現状の家計
消費行動に起因して直接・間接に排出されるCO
2排出量は,(15)
式(2.1
節)から,180.0
百万t-C
, 埋立容積は49.5
百万m
3,10,763.5
百万GJ
となった。(26)
式の消費技術を表す投入係数行列B
の各要素は,平成12
年家計調査(総務省統 計局),平成13
年社会生活基本調査(総務省統計局)より作成した。まずは,社会生活基本調査 に報告されている62
詳細行動分類を,#1.
自家用車での移動#2.
鉄道での移動#3.
バスでの移動#4.
内食(食材を購入し,家計による調理を経た食事,含・食器洗い等)#5.
中食(惣菜や弁当を購入する食事,含・食器洗い等)#6.
外食(食堂やレストランでの食事)#7.
睡眠・休息#8.
家事(除・炊事)#9.
仕事#10. 勉強
#11. 教養・娯楽(除・別掲)
#12.
テレビ・ラジオ・ビデオ#13.
スポーツ#14. 軽飲食
#15. その他
16) 平成
12
年(2000
年)廃棄物産業連関表(WIO2000
表)を用いた各財の家計消費額と直接・間接に誘発される 環境負荷(CO2排出量,埋立容積,エネルギー消費量)を,付録の表 18にまとめた。のように
15
種類の消費技術に整理した(m=15)。消費技術#1,#2,および#3 は移動という消費活動をもたらす消費技術である。社会生活 基本調査の詳細行動分類には手段別の移動の項目はなく,移動に費やす時間の総計のみが報 告されている。そこで,移動時間の総計(1.10 時間)を乗用車,鉄道,バスに割り振る必要がある。
国土交通省総合政策局情報管理部資料によれば,平成
12
年度における国内旅客輸送量は,乗 用車8,639
億人km
,鉄道(除・新幹線)3,133
億人km
,バス873
億人km
である。輸送手段別の 平均旅行速度を国土交通省の道路交通センサス(国土交通省道路局資料)および東京都交通局(東京都交通局資料)からとり,乗用車
34.3km/h,鉄道 32.23km/h,バス 11.26km/h
と設定した。こ れらの基礎データを元に,移動に関する必要時間(=旅客輸送量/平均時速)を,乗用車251.9
億 時間,鉄道97.2
億時間,バス77.5
億時間とした。以上のように求めた延べ必要時間の比,乗用車:鉄道:バス=0.59:0.23:0.18を移動時間の交通機関別割合の初期値とした。各消費技術の稼動水準 の初期設定を表 17 に示す。移動に関する消費技術については,10 人kmの移動を単位とした。
また,後のシナリオ分析では,総移動距離が消費パターンの変化前後で一定となるように,
(27)
式 に総移動距離の制約式を加える。したがって,常にz
1+ z
2+ z
3= 2.72
(10
人km
)が成り立つ。表 17: 消費技術の稼動水準と環境負荷
「消費技術」の稼動水準
現状消費パターン(初期設定) 現状消費パターンからの変化率
[%]
「消費技術」
(
z
) シナリオ1
シナリオ2
#1.
自家用車での移動1.860 [10
人-km]
-10.000
-1.437
#2.
鉄道での移動0.674 19.651 0.803
#3.
バスでの移動0.188 28.440 11.340
#4.
内食0.786 [
一日分の -0.054
-10.000
#5.
中食0.039
食料摂取量比] 0.954 9.289
#6.
外食0.175 0.029 42.804
#7.
睡眠・休息8.255 [時間] 0.000 0.000
#8.
家事(除・炊事)2.463 0.000 0.000
#9.
仕事3.662 0.000 0.000
#10.
勉強0.849 0.000 0.000
#11.
教養・娯楽(除・別掲)1.298 1.016
-1.524
#12.
テレビ・ラジオ・ビデオ2.397
-3.0254.785
#13.
スポーツ0.283 1.304
-1.129#14.
軽飲食0.266 1.653
-1.238
#15.
その他0.799 1.308
-1.887
直接・間接排出量
現状消費パターン(初期設定) 現状消費パターンからの変化率
[%]
環境負荷
(
Q
(o) ) シナリオ1
シナリオ2
CO
2 排出量180,045 [千 t-C]
-1.128
-0.590
埋立容積
49,504 [千 m
3]
-0.885
-0.620
エネルギー消費10,763,461 [千 GJ]
-1.102 -0.474次に食事に関する消費技術として,内食(#4),中食(#5),および外食(#6)による炊事お よび食事を考える。ここで,内食とは,食材を各家庭で調理する食事を指す。また,中食は,惣菜 や弁当を購入し,家庭で食すことを指す。社会生活基本調査の詳細行動分類には,消費技術別 の食事時間や炊事時間の項目はない。そのため,移動時間と同様に,食事時間の総計(1.71 時 間)についても,内食,中食,外食に割り振った。同額(生産者価格評価)の食材を摂取するため
の時間は一定であると仮定し,食事時間の比を内食:中食:外食=0.786:0.039:0.175 と設定した。元 データは平成
12
年(2000 年)産業連関表(総務省 (2004))からとった。中食および外食について は,平成12
年(2000年)産業連関表の投入表より,部門別に食材投入比率(=食材投入額/国内 生産額)を求め,中食および外食での消費者の食材摂取割合をとった。また,炊事時間の総計(
0.92
時間)については,経験則により,内食:
中食で3:1
と設定し,内食と中食による食材摂取量に 応じて必要時間に加えた。食事に関する消費技術については,1
日分の食事を各消費技術のみ で摂取するケースを一単位とした。また,後のシナリオ分析では,移動に関する消費技術と同様に 総食材摂取量が消費パターンの変化前後で一定となるように,(27)式に制約式を加える。したがっ て,常にz
4+ z
5+ z
6= 1
が成り立つ(表 17)。その他の消費技術は,#7睡眠・休息,#8家事(除・炊事),#9仕事,#10勉強,#11教養・
娯楽(除・別掲),#12テレビ・ラジオ・ビデオ鑑賞,#13スポーツ,#14軽飲食,#15その他である。こ れらの消費技術の稼動水準は,各消費技術に費やした時間で計られている(表 17)。なお,消費 技術
#7
から#10
に関しては,消費者が稼動水準を自由に変更することが困難な消費技術とみなし,シナリオ分析の際には,これらの消費技術の稼働水準は変化しないものと設定した。