4. シナリオ分析への応用:所得に関するリバウンド効果の分析
4.2. シナリオ分析
4.2.1. シナリオ分析 1: 交通手段の振替シナリオ
まずは,「持続可能な消費」に関する典型的な例として,交通手段の振替シナリオを考え る。交通シナリオの
1
番目として,家計が自家用車の使用を10%減らし,それを鉄道輸送へ振り替
える場合を考える。国土交通省総合政策局情報管理部の資料によると,1995 年の国内交通需要 は自家用車8,201
億人km,鉄道 4,001
億人km
である。このとき,自家用車による移動の10%(820
12) この節のシナリオ分析は,Takase, Kondo and Washizu (2005) をもとにしたものである。4.1節での分析モデルの 改良に伴って,再計算を行った。分析には,当該論文執筆段階で最新の
WIO1995
表を用いている。WIO2000
表を用いたシナリオ分析を行った研究として,高瀬 (2007)がある。億人
km)は,鉄道輸送の 20.5%(4,001
億人km×20.5%=820
億人km)に相当する。そこで,仮想
的消費パターンとして,シナリオに関連する財別の家計消費の変化,廃棄物発生量,直接環境負 荷を表 9のように設定した13)。消費財の購入ステージに関しては,このシナリオは,以下のように表 現される。すなわち,「乗用車」(#35)および「その他の自動車」(#36)の変化分は-10%,「鉄道 業」(#47)のそれは+20.5%である。消費財の使用ステージに関しては,「石油製品」(#18)に属す るガソリンや軽油および「自動車整備業」(#52)が-10%である。ガソリンと軽油は,「石油製品」(#18)のうちの
82.7%を占めるのみなので,「石油製品」(#18)の変化は-8.3%にとどまる。また,こ
の仮想的な消費パターンの変更に伴って変化する商業マージンや国内輸送費,家庭から排出さ れる廃棄物(使用済み自動車),直接CO
2排出については,表 9のように変化分を設定した。表 9: 交通シナリオ:自家用車による移動の鉄道利用への振替
財,廃棄物,環境負荷 現状消費からの変化
家計消費
18
石油製品 -2,429 [
億円 注]
-8.3 %
35
乗用車 -5,156
-10.0 %
36
その他の自動車 -868
-10.0 %
47
鉄道業7,147 20.5 %
52
自動車整備業 -2,787 -10.0 % 商業マージンおよ 卸売 -2,532 [
億円]
-1.4 %
国内貨物運賃 小売 -2,868
-0.9 %
鉄道貨物輸送 -6 -1.8 %
道路貨物輸送 -118 -0.5 % その他の貨物輸送 -
90
-1.7 %
家庭系廃棄物 使用済み自動車 -502,000 [t]
-10.0 %
直接環境負荷排出 直接CO
2排出 -2,052,306 [t-C] -5.0 %注 生産者価格評価
表 9 の設定を用い,(15)式(2.1 節)により仮想的消費パターンが直接・間接に誘発する
13) 財そのものの価額と商業マージン・国内輸送費等を区別するために,この章の仮想的消費シナリオの設定(表
9
,表11
,表13
,表15
)に際しては,生産者価格評価の取引額を用いている。これにより,たとえば,家計が直 接消費する鉄道旅客輸送と財の国内貨物運賃である鉄道貨物輸送を区別することが出来る。環境負荷を評価した。乗用車の移動の
10%を鉄道に振り替えることにより,家計消費全体が直接・
間接に誘発する
CO
2排出量は,現状消費パターンと比較して,3,381千t-C(1.82%)減少し,同時
に埋立容積は630
千m
3(1.21%)減少すると推定された。現状消費パターンの家計支出総額は,2,665,843
億円であり,そのうち,シナリオ関連の支出(自家用車移動,鉄道移動,バス移動に関す る財への支出)が216,677
億円,その他のシナリオ関連以外の財への支出が2,449,165
億円である。このシナリオ消費パターンの家計支出総額は
2,656,135
億円であり,現状消費パターンの支出総額より
9,708
億円少ない。現状消費パターンとこのシナリオ消費パターンに起因する環境負荷排出量を適切な比較するために,(19)式のように,シナリオ関連以外の財への支出額を
1.004
倍(=1+9,708/2,449,165)し,所得に関するリバウンド効果を考慮した上で消費・廃棄行動に起因する 環境負荷排出量を求めた。所得に関するリバウンド効果を考慮した場合,シナリオ消費パターンで は,現状消費パターンと比較して,CO2排出量が
2,810
千t-C(1.51%)減少し,同時に埋立容積は 453
千m
3(0.87%)減少すると推定された。したがって,所得に関するリバウンド効果の調整分は,CO
2排出量で570
千t-C(=3,381
千-2,810千t-C),埋立容積で 177
千m
3(=630千-453千m
3)となる。この結果の要約を表 10に記す。CO2排出量,埋立容積の両方について,所得に関す るリバウンド効果の調整分は正である。表 10 により,このシナリオ消費パターンは,現状消費パタ ーンと比較して環境負荷排出がより少ないことが示された。所得に関するリバウンド効果を考慮した 場合でも,考慮しない場合でも,シナリオ消費パターンへの変更はCO
2排出量および埋立容積を 低減させることになる。したがって,乗用車による移動の鉄道旅客輸送へのシフトは,現状消費パ ターンより低環境負荷であると結論付けることが出来る。表 10: 自家用車による移動の鉄道利用への振替シナリオ(推定結果)
CO
2排出量 埋立容積現状からの変化
Q
( )sc− Q
( )o -3,380,670 [t-C]
-1.82 %
-629,745 [m
3]
-1.21 %
現状からの変化Q
( *)sc− Q
( )o -2,810,837 [t-C]
-1.51 %
-452,932 [m
3]
-0.87 %
(リバウンド効果調整済み)
リバウンド効果の調整分
Q
RE569,833 [t-C] 176,813 [m
3]
注:数値は現状消費パターンからの変化分および変化率次に,2番目の交通手段の振替シナリオとして,家計が自家用車の使用を
10%減らし,そ
れを鉄道輸送ではなく,今度はバス輸送に振り替える場合を考える。国土交通省総合政策局情報 管理部の資料によると,1995年のバス輸送需要は973
億人km
である。このとき,自家用車による 移動の10%(820
億人km)は,鉄道輸送の 84.3%(973
億人km×84.3%=820
億人km)に相当す
る。そこで,仮想的消費パターンとして,シナリオに関連する財別の家計消費の変化,廃棄物排出 量,直接環境負荷を表 11のように設定した。表 11: 交通シナリオ:自家用車による移動のバス利用への振替
財,廃棄物,環境負荷 現状消費からの変化
家計消費
18
石油製品 -2,429 [億円 注]
-8.3 %35
乗用車 -5,156 -10.0 %36
その他の自動車 -868
-10.0 %
48
道路輸送業11,177 23.7 %
52
自動車整備業 -2,787 -10.0 % 商業マージンおよび 卸売 -2,532 [
億円]
-1.4 %
国内貨物運賃 小売 -2,868
-0.9 %
鉄道貨物輸送 -6
-1.8 %
道路貨物輸送 -118
-0.5 %
その他の貨物輸送 -90 -1.7 % 家庭系廃棄物 使用済み自動車 -502,000 [t]
-10.0 %
直接環境負荷排出 直接CO
2排出 -2,052,306 [t-C]
-5.0 %
注 生産者価格評価
(15)式(2.1
節)でこのシナリオ消費パターンによる環境負荷を評価した結果,乗用車の移 動10%をバスに振り替えることにより,家計消費全体が直接・間接に誘発する CO
2排出量は,現状 消費パターンと比較して,1,950千t-C(1.05%)減少し,同時に埋立容積は 629
千m
3(1.21%)減少 すると推定された。ここで,このシナリオ消費パターンの家計支出総額は2,660,165
億円であり,現 状消費パターンの支出総額より5,678
億円少ない。そこで,(19)式のように,シナリオ関連以外の財 への支出額を1.002
倍(=1+5,678/2,449,165)し,所得に関するリバウンド効果を考慮した上で消費・廃棄行動に起因する環境負荷排出量を求めた。このシナリオでは,所得に関するリバウンド効 果については,CO2排出量の調整分は
333
千t-C,埋立容積の調整分は 103
千m
3である。これら のリバウンド効果の調整分は,現状消費からシナリオ消費へのシフトによって低減した環境負荷量 に比較して相対的に小さい。したがって,鉄道輸送へのシフトと同様に,所得に関するリバウンド効 果を考慮した場合でも考慮しない場合でも,シナリオ消費の方が現状消費より低環境負荷であると いう結論に変化はなかった。以上の結果を表 12にまとめる。表 12: 自家用車による移動のバス利用への振替シナリオ(推定結果)
CO
2排出量 埋立容積現状からの変化
Q
( )sc− Q
( )o -1,950,230[t-C]
-1.05 % -629,399[m
3]
-1.21 % 現状からの変化Q
( *)sc− Q
( )o -1,616,929[t-C]
-0.87 % -525,979[m
3]
-1.01 %(リバウンド効果調整済み)
リバウンド効果の調整分