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細胞学会誌32号.indb

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2012年7月の岡山県支部会総会で新支部長を拝命いたしました川崎医科大学病理学 2の鹿股直樹です.何分,若輩者でございますので,諸先生方の御指導を仰がねばな らないことが少なからずあろうかと思いますが,なにとぞよろしくお願いいたします. 日本臨床細胞学会は,2012年4月1日をもって公益社団法人として内閣府より認可 されました.このため,各都道府県支部会もその立場,役割が変わりつつあります. 既に他県では,支部会の名称変更を行っている所もあります.また,資格更新の際の ポイント制度にも支部会所属の有無が明示的に関与することとなりました.岡山県に おいても円滑に新制度に移行していきたいと思っておりますので,会員の皆様のご協 力を頂きたく思っております. 皆様ご存じの通り岡山県支部会では,年1回の学術集会を行い,またこの集会での 講演,発表演題を中心とした内容で支部会誌を発行するのが主な活動内容となってお ります.集会では,発表経験の乏しい若手会員でも気軽に演題を出せるようにして行 きたいと思っています.また,集会当日には参加できなかった方であっても,支部会 誌への投稿は歓迎いたしますので,よろしくお願いいたします.岡山県支部会誌は, 医中誌web(http://search.jamas.or.jp/)に登録をいたしました.このため,支部会 誌への投稿文献は,今後長い間検索が容易に可能となりました.編集委員の先生方の 御尽力で,毎年定期的に発行されておりますが,委員ではない方々にも査読などをお 願いすることがありますので,無理のない範囲でお願いいたします.投稿も編集も, 厳しい日常業務の合間に行うのは決して楽なことではありません.今後は省力化のた めにオンライン・ペーパーレスでの出版なども検討して行かねばならないかもしれま せんが,形式はともかく支部会誌は継続させたく思っております. なお,会員情報管理,会費徴収や支部会誌の発送などは,全て川崎医科大学病理学 2の事務局で引き続き遂行いたします.海外留学・病気療養・妊娠出産・育児・介護 等,特段の理由のある場合は会費の一時的な免除なども考慮していきたく思っており ますので,事務局まで御相談下さい. 川崎医科大学 病理学2 

鹿 股 直 樹

支 部

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猛暑も終わり,数や被害が記録的だった台風もやっと収まり,なおも続くPM2.5を 気にしているうちにすっかり冬ですが,皆様いかがお過ごしでしょう. さて,前号の編集委員会委員長の柳井先生からの引き継ぎで,今回は副委員長の小 林がこの巻頭言を担当させていただきます.いつもは編集後記で気楽な内容だったの ですが,今回は一時的な昇格を有効活用させていただき,学会内容と雑誌編集に関し ていつもよりもう少し詳細にお伝えしたいと思います. 早速,支部会から振り返ってみましょう.今回の岡山県支部会は,倉敷中央病院 病理検査科の能登原先生を会長に同院大原記念ホールにて2013年7月6日(土)に盛 大に行われました.内容は一般演題7題に加え,シンポジウム「EUS-FNA:基礎か ら実践へ」が行われました.一般演題では症例報告4題とLBC,婦人科ASC-H, gangliocytic paraganglioma(GP)の細胞像の検討でいずれも,稀少な症例と世相を 反映する貴重な研究の発表でした.特にGPの細胞像では,その後に続くEUS-FNAの シンポジウムの布石となるタイムリーな発表でした.このシンポジウムで印象に残っ たのは,検体採取後の処理に皆さん工夫されていることで,手作り感満載から製品レ ベルの器具まで様々でしたが,これがよりよい診断に直結するのだと大変勉強になり ました. また,学術発表以外でも今回の総会では人事面でも重要な発表がありました.支部 長が森谷先生から鹿股(かのまた)先生に交代いたしました.森谷先生には役員人事 を始め,本会の名称変更,ホームページ開設,雑誌サイズの変替,投稿規定,カジュ アルな学会参加等々にご尽力いただき本会の発展に大変貢献していただきました.今 後は中央との橋渡しとしてまた,本会の監事としてご指導,ご協力いただけるものと 存じます.新会長の鹿股先生は乳腺は元より泌尿器もご専門で,細胞診に関係の深い 分野であることから今後のご活躍に大変期待されます. さて,最後になりましたが会誌については,前回より査読制導入やB5版からA4版 へとサイズを大きくし,体裁の統一を行っています.前号でも委員長が述べられてい ましたが査読に関しては,投稿者だけではなく査読に不慣れな委員についてもとても 良い勉強と刺激になっています.サイズに関しては,B5版からA4版にサイズが変 更したことで掲載文字数が増え,また図表のサイズが大きくなり非常に見やすくなっ たと感じています.特にB5では書き足りなかった人や,小さな写真が見づらかった 人には喜ばれていると想像しています.体裁についても委員の努力により親学会であ る日本臨床細胞学会雑誌に準拠させていただきましたが,大変良くなったと好評をい ただいています.今回からは印刷所に依頼することとなりますが,今後もクオリティ の高い雑誌を目指し努力していく所存です.今後とも,会員の皆様のご支援とご協力 を心からお願い申し上げます. 編集副委員長 

小 林 博 久

巻 頭 言

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9

原  著

日本臨床細胞学会岡山県支部会誌

 はじめに ASC-H( atypical squamous cell, cannot exclude HSIL, 以下ASC-H)は,高度異型扁平 上皮内病変を除外できない所見を呈しつつ,良性疾患の細胞像と区別する必要があるカテゴリーであ る。婦人科細胞診LBC法におけるASC-Hと診断された標本の再検討及び追跡調査をしたので報告する。  対象と方法 2009年10月~2012年9月の過去3年間でLBC(Sure PathTM)法にて組織診結果と の対比ができた40症例を対象とした。方法として,組織診断との照合可能な症例を対比し,比較検討 を行った。  結果 組織診との対比の結果の内訳は,良性疾患が2例(5%),異型扁平上皮細胞が1例(2.5%), CIN1が 6 例(15%),CIN2が16例(40%),CIN3が14例(35%), 浸 潤 癌 が1例(2.5%) で あ っ た。 ASC-Hと判定した理由は,未熟化生様細胞や予備細胞類似の細胞集塊を伴う深層型の異型細胞が多 くみられ,典型的な細胞が認められなかった。また,良性疾患ではN/C比が高い核異型を伴う化生様 細胞が見られたこと,浸潤癌では,化生様細胞集塊に混じって異型細胞がみられたが,明らかな癌細 胞は出現していなかった。  まとめ 追跡調査では,ASC-Hと判定した症例の75%の割合で組織診の結果はCIN2~3であった。 ASC-Hの判定は,深層型の異型扁平上皮細胞に対して用いられる傾向があり,特有の細胞像がない ため,標本全体の判断で行う。また,組織診断との対比を定期的に行う必要がある。

 Key words:atypical squamous cell,cannot exclude HSIL,liquid-based cytology,histology,Follow up

当研究所における過去3年間にみられた婦人科細胞診LBC法に

おけるASC-Hと診断された症例の追跡調査

岡本 哲夫

1)

,真田 拓史

1)

,松本 智穂

1)

,徳田 清香

1)

,亀田 あい子

1)

物部 泰昌

2) 西日本病理研究所1),川崎医科大学附属川崎病院病理部2) Ⅰ.は じ め に ASC-Hは,高度異型扁平上皮内病変を除外できな い所見を呈しつつ,未熟化生細胞などの良性疾患の細 胞像と区別する必要があるカテゴリーである.今回, 我々は婦人科細胞診LBC法におけるASC-Hと診断さ れた標本の再検討及び追跡調査をしたので報告する. Ⅱ.対象と方法 2009年10月~2012年9月の過去3年間でLBC(Sure PathTM)法にて組織診結果との対比ができた40症例 を対象とした. 方法として,組織診断との照合可能な症例を対比し, それぞれの細胞所見について比較検討を行なった. Ⅲ.結   果 組織診との対比の結果の内訳は,良性疾患が2例 (5%),異型扁平上皮細胞が1例(2.5%),CIN1が6 例(15%),CIN2が16例(40%),CIN3が14例(35%), 浸潤癌が1例(2.5%)であった(表1). 良性疾患の細胞像では,両方とも,20歳代で少数な がら,正常化生細胞に類似するもやや極性を失いつつ,

Tetsuo OKAMOTO,C.T.I.A.C1), Hiroshi SANADA, C.T.I.A.C1), Chiho

MATSUMOTO, C.T.I.A.C1), Sayaka TOKUDA, C.T.I.A.C1), Aiko

KAMEDA, C.T.I.A.C1), Yasumasa MONOBE,M.D2)

West Japan Pathology Laboratory1)

Kawasaki Medical school attached Kawasaki hospital,Department of pathology2)

  論文請求先 〒710-0834 倉敷市笹沖463-1         西日本病理研究所 岡本 哲夫

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やや核クロマチン増量と核/細胞質比の高い細胞が認 められた.核に立体不整は認められなかった.組織診 では慢性頸管炎と化生であった.未熟化生細胞の一部 を見ていたものと考えられた.異型扁平上皮細胞の細 胞像では,20歳代でかつ異型細胞が少数しか認められ なかった.しかし,明らかな細胞の大小不同と核クロ マチンの増量が認められた.細胞質がやや厚い特徴が みられた.組織診では,軽度の化生細胞に異型が認め られたため,Atypical squamous cell と診断された(写 真1,2). CIN1の細胞像では,年齢分布としては,30~40 歳代を占めていた.細胞像では,表層型の異型細胞は 目立たず,中層型類似の異型細胞が少数認められた. 核のしわはなく,核クロマチンの増量がみられたが, 異形成と診断することができず,ASC-Hと判定して いた.組織診では,表層型の異型細胞が認められたこ とから,CIN1であった.CIN2の細胞像では,年齢分 布としては,30~40歳代が主体を占めていていた.細 胞像では,比較的中層~深層型の異型細胞が少数認め られた.核のしわは目立たず,一部には集塊状に出現 している異型細胞がみられたが,異形成と診断するこ とができなかった.しかし,核に立体不整が認められ た.組織診では,中層型の異型異型細胞が主体に認め られたことから,CIN2であった(写真3,4). 表1.ASC-H 症例の組織診断の内訳 組織診断 症例数 割合(%) Chronic cervicitis 1 2.5 Mataplasia 1 2.5 Atypical squamous cell 1 2.5 CIN 1 6 15.0 CIN 2 16 40.0 CIN 3 14 35.0 Adenocarcnoma(EM) 1 2.5

写真2.HE染色 ×20倍 Atypical sqaumous cellが認められた.

写真1.パパニコロウ染色 ×40倍 核クロマチン増量,大小不同を示すN/C比の高い細胞集塊が認 められた. 写真4.HE染色 ×20倍 中層~深層型にかけて異型細胞が認められた. 写真3.パパニコロウ染色 ×40倍 裸核状の異型細胞が散在性に認められた.

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11 VOL. 32 2013 CIN3の細胞像では,年齢分布としては,40~50歳 代が主体を占めていた.細胞像では,比較的中層型と 深層型の異型細胞が認められた.核のしわは一部しか なく,断定はできなかった.また,集塊状に多く出現 していて,細胞境界はっきりみえにくいことから,細 胞診断を確実にとらえにくい症例も一部にみられた. 再度見直すと少数の深層型の異型細胞も認められた. 組織診では,深層型の異型細胞が主体に認められたこ とから,CIN3であった. Adenocarcinoma(EM)の細胞像では,化生様細胞 が多く認められた.一部,核/細胞質比の高い細胞と 核クロマチンの増量が認められたため,ASC-Hと判 定していた.組織診では,子宮体部由来の内膜腺癌で あった. Ⅳ.ま と め ASC-H は,細胞検査士会より発刊されたテキスト 1)等で記載されている通り,診断基準はあるものの 特有な細胞像がないために,正確にASC-H と判定す ることは容易でないものと考えられる. 三上等によると,ASC-H と判定された約60%の例 でCIN2以上の病変が検出されていた2)が,今回我々 の施設における3年間の追跡調査では,ASC-Hと判 定した症例の75%の割合で組織診の結果はCIN2~3で あった.今回の追跡調査で,ASC-Hと正しく判定す るには,液状細胞診の細胞の出現傾向に注意しながら, 小型の異型細胞に注目して注意深くスクリーニングを 行なうことが必要である.細胞像では,標本の全体像 で判断を行なうことが重要であると考えられる.また, 判定に苦慮したASC-H症例を集めて組織診との結果 を照らし合わせる症例検討会を定期的に行って,細胞 検査士のスクーニング技術を常に磨いていく姿勢が必 要であると思われる.そして,その後のfollow upを 行ないながら,組織診断との対比を定期的に行なうこ とが必要と考えられる. 文   献 1) 日本細胞診断学推進協会細胞検査士会.ベセスダ・システ ムの基礎と実践−その理解のために−.東京:2010;44-44 2) 細胞診の基本から実践へ.病理と臨床臨時増刊号vol.31. 文光堂.東京:2013;164-166

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原  著

 背景 近年普及しつつあるliquid-based cytology (LBC)法は1検体より複数枚の標本を作製するこ とが可能だが,作製した複数枚の標本に出現する細胞数を定量的に解析した報告はない.  目的 2社(A社,B社)のLBC法において,保存液中の細胞数と,標本中に出現する細胞数,お よび複数枚の標本を作製した場合の細胞の出現頻度について定量的に解析を行った.  結果 B社はA社に比し,1標本あたりに出現する細胞数が有意に多かった.LBC標本においてin situ hybridization法による高リスクHPV DNAの検出が可能であった.

 結語 LBC法により作製した複数枚の標本を用いて,遺伝子解析を含めた形態学的解析が可能であ ると思われた.

 Key words:liquid based cytology, in situ hybridization

LBCにおける細胞出現率の定量的解析

宮本 朋幸

1, 2)

,遠藤  南

3)

,富安  聡

3)

,大野 節代

1, 2)

,三宅 康之

1, 2, 3)

坂口 卓也

1, 2, 3)

,大野 英治

1, 2, 3) 倉敷芸術科学大学生命科学部生命医科学科1),加計学園細胞病理学研究所2) 倉敷芸術科学大学大学院産業科学技術研究科分子細胞病理学系3) Ⅰ.緒   言 近年,子宮頸部擦過検体を中心とした細胞診標本作 製法には,標本作製手技の標準化,固定不良による不 適正標本の減少,鏡検時間の効率化,検体の長期保存 等を目的とした液状化細胞診(liquid-based cytology; LBC法)が普及しつつある1).LBC 法は採取した細胞 を専用の保存液バイアルに回収し細胞浮遊液とするこ とで,同一検体から複数の標本が作製可能であり,形 態学的解析や免疫細胞化学的解析,遺伝子解析等への 応用が可能である.しかし,一検体から複数枚の標本 を作製し種々の解析を行う為には,作製した標本すべ てに標的とする細胞が出現する必要がある.現在,複 数社から LBC システムが市販されており,作製した 複数枚の標本には均等に標的の細胞が出現するとされ ている.しかし,検体中に含まれる細胞数と, LBC 法で作製した標本中に出現する細胞数について詳細に 解析した報告は未だない. そこで本研究では,2社(A社,B社)のLBC法に おいて,保存液中の細胞数と,標本中に出現する細胞 数,および複数枚の標本を作製した場合の細胞の出現 頻度について定量的に解析を行った. Ⅱ.対象および方法 対 象 と し て 子 宮 頸 癌 培 養 細 胞 株 HeLa(RIKEN BRC, RCB0007)を用いた.HeLa 細胞を10000, 1000, 500,100個ずつ計数し,各社の専用バイアルにて固定 した.標本作製方法は各社のプロトコルに従い,標本 を5枚作製した.塗抹標本はパパニコロウ染色を施し, 標本1枚当たりの出現細胞数および作製標本5枚に対 する細胞出現標本の割合を比較した.統計学的解析に はMann Whitney U-test を用い,p値が0.05未満の群 間に有意差があるものとした.

Tomoyuki MIYAMOTO,C.T.,I.A.C1,2), Minami ENDOU,C.T.3),

Satoshi TOMIYASU,C.T.,I.A.C3), Setsuyo OHNO,MS1,2), Yasuyuki

MIYAKE,PhD.1,2,3), Takuya SAKAGUCHI,PhD.1,2,3), Eiji OHNO,

PhD1,2,3).

Department of Medical Life Science, College of Life Science, Kurashiki University of Science and the Arts1)

Kake Institute of Cytopathology2)

Graduate School of Science and Industrial Technology, Department of Chemical Technology, Kurashiki University of Science and the Arts3)

  別刷請求先 〒712-8505 倉敷市連島町西浦2640番地         倉敷芸術科学大学生命科学部生命医科学科         宮本 朋幸

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13 VOL. 32 2013 Ⅲ.結   果 各社プロトコルに従い標本を作製した場合の標本1 枚当たりに出現する細胞数の理論値を求めた(表1). A社およびB社とも理論値に大きな差はないが,標本 1枚当たりの出現細胞数を解析した結果,算出した理 論値に比し両社とも少ない結果となった.また,固定 液中の細胞数が10000,1000,500個の場合,B社はA 社に比し有意に出現細胞数が多かった(図1,表2). 作製標本5枚に対する細胞出現標本の割合は,A社 では保存液中の細胞数が少なくなるに従い細胞出現率 が低下するのに対し, B社では保存液中の細胞数に関係 なく,全ての標本において細胞を認めた(図2,表3). 観察された細胞の形態は,A社およびB社に明確な 差は認められなかった(写真1).また,子宮頸部 HSIL 症例の臨床検体から標本を5枚作製し,高リス ク HPV DNAに 対 す る in situ hybridization(ISH) を行った結果,5枚目の標本においても標的の HSIL 相当の細胞が出現し, ISH 法にて陽性シグナルを認め た(写真2). Ⅳ.考   察 A社の標本作製は,分離剤を添加して密度勾配法に よって血性成分を分離し細胞を集め,沈下した細胞を 荷電によりスライドグラスに塗抹する.一方B社は遠 細胞数(個) 10,000 1,000 500 100 A社(%) 1,600 160 80 16 B社(%) 1,500 150 75 15 細胞数(個) 10,000 1,000 500 100 A社(個) 27.6±24.6 3.3±3.1 3.0±0.8 2.5±1.4 B社(個) 518.3±117.8 47.1±21.0 40.8±17.5 6.4±3.6 細胞数(個) 10,000 1,000 500 100 A社(%) 93.3±11.5 73.3±30.6 66.7±11.5 53.3±23.1 B社(%) 100±0 100±0 100±0 100±0 表1.標本1枚当たりに出現する細胞数の理論値 表2.標本1枚当たりの出現細胞数 表3.作製標本5枚に対する細胞出現標本の割合 図1.標本1枚当たりの出現細胞数の比較(Ave.±SD) 0 100 200 300 400 500 600 700 * * * *p<0.05, Mann-Whitney U-test 固定液中の細胞数 (個) 500 100 10000 1000 A社 B社 標 本 1 枚 当 た り の 出 現 細 胞 数( 個 ) 標本 1 枚当たりの出現細胞数︵個︶

(10)

図2.作製標本5枚に対する細胞出現標本の割合(%) 0 20 40 60 80 100 固定液中の細胞数 (個) 500 100 * * * * *p<0.05, Mann-Whitney U-test 10000 1000 A社 B社 細 胞 の 出 現 し た 標 本 の 割 合 ︵ % ︶ 写真1.LBC 標本におけるHeLa細胞.(Pap. x100) A, B)A社.C, D)B社.

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15 VOL. 32 2013 心して細胞を集めた後,細胞吸着ポリマーによって専 用のスライドグラスに塗抹する2).B社がバイアルの まま遠心分離のみで標本作製が可能であることに比 べ, A社は分離剤やチャンバーを使用する必要があ り,また工程が多く,作製手技が煩雑である.以上よ り,A社では標本作製工程において検体中の細胞が失 われ,理論値との差が大きく,出現細胞数に有意な差 が出たと考えられる. LBC 法により作製した複数枚の標本には目的の細 胞が出現し, ISH 法による陽性シグナルも認めたこと から, LBC 法は遺伝子解析を含めた形態学的解析に も応用が可能であると思われる. 参 考 文 献

1) Jin XW, et al. Cervical cancer screening : Less testing, smarter testing. Cleveland Clinic Journal of Medicine. 2011 ; 78(11): 737-747.

2) 久布白兼行. 液状検体細胞診.日産婦誌. 2010 ; 62 : 194-199. 写真2. LBC標本におけるISH法(高リスクHPVプローブ)に

よる陽性所見.(x100)

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原  著

目的 超音波内視鏡下穿刺吸引法(Endoscopic Ultrasonography-guided Fine Needle Aspiration 以下EUS-FNA)で採取された検体の処理方法と,診断精度を検討した.

検体処理方法 細胞検査士がEUS-FNAで採取された検体をその場で処理し,圧挫細胞診標本を作 製しDiff-Quik®染色で採取の適否を確認した後,Cell block(以下CB)標本とフィルター細胞診標本

を作製した. 対象と方法 2011年~2012年の2年間で病理診断の得られた75例を対象に,細胞診断精度を検討し た.さらに,手術施行例の組織診断で悪性とされた13例を対象に,細胞診断とCB組織診断の感度を 比較した. 診断精度の結果 対象の細胞診断精度は,感度は95.0%,特異度80.0%,正診率92.0%であった.手 術組織診断悪性13例のCB組織診断の内訳は,検体不良1例,陰性3例,疑陽性1例,陽性8例で感 度は69.2%であった.いっぽう細胞診断は,疑陽性3例,陽性10例で感度は100%であった. まとめ 今回の検討ではEUS-FNA細胞診断がCB組織診断より良好な結果を得た.  Key words:EUS-FNA,On-site cytology,Sampling technique,Quality control

超音波内視鏡下穿刺吸引法で得られた検体処理の工夫と

病理・細胞診の精度

高須賀 博久

1)

,畠  榮

1)

,成富 真理

1)

,日野 寛子

1)

,物部 泰昌

2) 川崎医学大学附属川崎病院病理部 1),川崎医学大学附属川崎病院病理科2) Ⅰ.は じ め に 腹腔内病変等に対し,EUS-FNAは低侵襲の検査法 で質的診断に有用な手段として普及している.今回 我々は,EUS-FNAで得られた検体での当院の処理方 法を紹介し,病理診断と細胞診断の精度について検討 した. Ⅱ.検体処理方法とその工夫 当院では細胞検査士が採取現場に出向き,その場で 検体処理を行い(いわゆるon-site cytology),その結 果を臨床に報告した.持参する器具は,固定液,スラ イドガラス,カバーガラス,滅菌シャーレ,ピンセッ ト,ライト,Diff-Quik®染色セット,細胞保存液(Cyto Rich®)および10%ホルマリン固定液などである. EUS-FNAにより生検針内に採取された検体をスタ イレットの挿入により圧をかけてシャーレに押し出 し,透明感のある白色調の微小組織片をピンセットで 摘みスライドガラスに載せ,2枚の圧挫細胞診標本を 作製した.そのうち1枚の標本は,Diff-Quik®染色を 行い検体採取の適否を確認した.採取された検体中に 凝血塊が認められた場合は10%ホルマリンで固定し, 通常の方法でパラフィン包埋組織標本を作製した.採 取された検体に細胞保存液を加え,その中の微小組織 片を用いてCB組織標本を作製した.残りの検体はFile Cup Super®を使用したフィルター法で細胞診標本を 作製した.各種標本の作製過程を図1に示した. CB組織標本の作製方法(図2)は,細胞固化法で行っ た.①シャーレの検体をピペットで遠沈管に入れ, 2,000回転5分遠心し,②沈渣に10%ホルマリンを加え て1時間固定した.固定後再度2,000回転5分遠心し, ③沈渣に1%エオジンを1滴加え撹拌し局方エタノー ルを加えた.次にその液をアジア器材の綿棒チューブ® に移し2,000回転5分遠心し,④沈渣にHOLDGEL110® Hirohisa TAKASUGA,C.T.,I.A.C.1), Sakae HATA,C.T.,C.F.I.A.C.1),

Mari NARITOMI,C.T.,I.A.C.1), Hiroko HINO, C.T.,I.A.C.1), Yasumasa

MONOBE,M.D2).

Department of Pathology,Kawasaki Hospital Kawasaki Medical School

  論文別冊請求先:〒700-8505 岡山県岡山市北区中山下2-1-80       川崎医科大学附属川崎病院病理部

(13)

17 VOL. 32 2013 を数滴滴下した.その上にメタノールを重層し,固化 のため1晩放置した.固化したHOLDGEL110®は,綿 棒チューブ®の底をハサミで切断して局方エタノール の中に取り出し,通常の方法でパラフィン包埋組織標 本を作製した. Ⅲ.診断精度の対象と方法 2011年~2012年の2年間に行われたEUS-FNAは 79 症例で,そのうち病理診断で検体不良とされた4例を 除く75症例を対象に,EUS-FNA細胞診断の精度につ いて検討した. 方法は,CB組織診断または手術組織診断での最終 病理診断を基に陰性,疑陽性および陽性に区分し,陰 性には非腫瘍性病変,疑陽性には良性腫瘍性病変・異 型細胞・境界腫瘍性病変,陽性には悪性腫瘍性病変を 分類した.EUS-FNA細胞診断も病理診断と同様に陰 性,疑陽性および陽性に区分し,陰性はパパニコロウ 分 類 のClass1~2, 疑 陽 性 は パ パ ニ コ ロ ウ 分 類 の Class3,陽性はパパニコロウ分類のClass4~5に分類 し,EUS-FNA細胞診断の感度,特異度および正診率 をもとめた.さらに,75症例のうち手術施行例で組織 診断が悪性とされた13症例を対象として,CB組織診 断とEUS-FNA細胞診断の感度をもとめ比較検討し た. Ⅳ.診断精度の結果 a) CB組織診断または手術組織診断とEUS-FNA細胞 診断の比較 CB組織診断または手術組織診断で陰性とした症例 は15例(20.0%)あり,その細胞診断の内訳は,陰性 12例,陽性2例および検体不良1例であった.細胞診 断が陰性の12例の内訳は,非悪性1例,膵嚢胞性病変 2例,慢性膵炎4例,胆管炎1例,自己免疫性膵炎 (IgG4+)1例,肝膿瘍1例,脾膿瘍1例およびリン パ節転移無1例であった.細胞診断が陽性の2例は明 らかな腺癌細胞(図3)を認め陽性としたが,CB組 織診断では異型細胞を認めず非悪性とされた.しかし, これら2例は臨床的には明らかな浸潤性膵癌であっ た.細胞診断が検体不良の1例は,上皮細胞成分を認 めず検体不良とした. 図1 EUS-FNAで採取された検体から各種標本の作製過程 図2 Cell block組織標本の作製方法 パラフィン 包埋 細胞保存液を 遠心管 10%ホルマリン1時間固定 綿棒チューブに 移す HOLDGEL110 ®メタノールを重層し 固化後、ハサミで切断 遠心※ 遠心※ 遠心※ ※ 2000回転5分遠心 ① ② ③ ④ ※ 2000回転5分遠心 ① ② ③ ④

(14)

病理診断で疑陽性とした症例は11例(14.7%)あり, その細胞診断の内訳は,疑陽性5例,陽性3例,陰性 2例および検体不良1例であった.疑陽性5例の細胞 診断は,異型上皮細胞1例,膵Intraductal papillary mucinous adenoma(以下IPMA)疑い1例および紡錘 形細胞性腫瘍3例であった.これらの病理診断は順に 膵異型上皮細胞1例,IPMA1例,胃Gastrointestinal stromal tumor (以下GIST)2例および腹膜デスモイ ド1例であった.細胞診断で陽性とした3例のCB組

織診断は,膵Intraductal papillary mucinous neoplasia (以下IPMN)1例と膵異型上皮細胞2例であった. しかし,これら3例は臨床的には明らかな浸潤性膵癌 であった.細胞診断が陰性の2例は1例が悪性リンパ 腫症例で,CB組織診断では異常リンパ球の集簇を伴 う膵異型上皮細胞とされたが,細胞診では異常リンパ 球等の異型細胞は認められなかった.他の1例は,手 術組織標本で膵粘液性嚢胞性腺腫と診断された.細胞 診断で検体不良の1例は,上皮細胞成分を認めず検体 図3 EUS-FNA細胞診断陽性でCB組織診断陰性の細胞像2症例 (臨床診断:膵癌) (左;症例1 パパニコロウ染色 ×60,右;症例2 パパニコロウ染色 ×60) 図4 胃GIST症例 (左;EUS-FNA細胞診 パパニコロウ染色 ×20, 右上;CB組織標本 HE染色 ×20,右下;C-KIT免疫染色 ×20)

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19 VOL. 32 2013 不良とした.その病理診断は,十二指腸GISTであった. 病理診断陽性は49例(65.3%)で,その細胞診断の 内訳は,陽性45例と疑陽性4例であった.細胞診断が 陽性の45例の内訳は,膵癌25例,転移性膵神経内分泌 癌1例,肝内胆管癌1例,胆管癌6例,胆嚢癌2例, 食道癌1例,腎盂癌1例,悪性リンパ腫2例,腹膜ユー イング肉腫1例,転移性肺癌3例,転移性子宮頸部癌 1例および胃癌又は胆嚢癌1例であった.細胞診断が 疑陽性の4例は,異型細胞の出現数が少なかったため 確定診断に至らず疑陽性とした.その内訳は,膵癌1 例,肝門部胆管癌2例および胆嚢癌1例であった.疑 陽性を正診としたEUS-FNA細胞診断の感度は95.0%, 特異度80.0%および正診率92.0%であった.以上を表1 に示した. b) 手術組織診断で悪性とされた症例のCB組織診断 とEUS-FNA細胞診断の比較 対象の75症例のうち,手術組織診断で悪性とされた 13症例の内訳は,膵癌5例,肝内胆管癌1例,肝門部 胆管癌1例,中部胆管癌1例,下部胆管癌3例,胆嚢 癌1例および悪性リンパ腫1例であった.CB組織診 断の陽性は8例(61.5%)で,その細胞診断の内訳は, 陽性7例と疑陽性1例であった.細胞診断が疑陽性の 1例は,異型細胞がごく少数のため確定診断に至らず 疑陽性とした.CB組織診断で疑陽性は1例(7.7%)で, その細胞診断は陽性であった.CB組織診断で陰性は 3例(23.1%)で,その細胞診断の内訳は,疑陽性2 例と陽性1例であった.細胞診断が疑陽性の2例は, 異型細胞を認めたがごく少数のため確定診断に至らず 疑陽性とした. CB組織診断で検体不良とされた1例 (7.7%)は,細胞診断では腺癌細胞を認め陽性とした. それらを表2に示す.疑陽性を正診とした場合のCB 組織診断の感度は69.2%で,細胞診断は100%であった. Ⅴ.考   察 腹腔内腫瘤性病変に対し,これまでは画像診断によ る存在診断がなされてきたが,EUS-FNAの普及によ 表1 病理診断とEUS-FNA細胞診断の比較 表2 手術施行例で組織診断陽性のCB組織診断とEUS-FNA細胞診断の比較

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り簡便で安全に組織採取が得られるようになり,質的 診断が可能となった.しかしながら,EUS-FNAで採 取される検体は微小なことが多く,組織標本の作製に は工夫が必要である.そのためには細胞検査士が現場 に出向き,EUS-FNAで採取された検体を的確に処理 し,良好な標本を作製することが大切である(図1). また,その場で細胞検査士が,検体採取の適否を術者 に伝えることで穿刺回数を減らし患者の侵襲を低減で きると考える. 我々は,EUS-FNAで採取された検体から組織標本 を作製するためにCBを用いている.CB組織標本の作 製で細胞を効率よく収集する方法には,大きく分けて 2通りの方法が行われている.一つは遠心分離細胞収 集法としてのクロロホルム重層法,ナイロンメッシュ 法,コロイジオンバッグ法,クライオバイアル法など がある.もう一つは細胞固化法として寒天やセルロー ス,アルギン酸ナトリウム,グルコマンナンなどを使 用する方法である1).当院では,EUS-FNAで採取さ れた検体に細胞保存液を加え,細胞固化法のグルコマ ンナンを成分とするHOLDGEL110®を用いてCB組織 標本を作製している.そのため採取された検体の多く を組織標本にすることが可能で,微量な検体でも容易 にCB組織標本を作製できる.CB組織標本の有用性に ついては多くの報告がある1, 2).たとえば、連続切片 を作製し免疫染色等を並行して行うことで,HE標本 と同一細胞を免疫組織学的に観察することが可能とな り,診断に対する高い有用性を得ることができる.今 回検討した胃GIST(図4)の症例を例にとると,細 胞診断では紡錘形細胞性腫瘍としか診断できなかった が,CB組織標本でC-KIT免疫染色を行うことで最終 診断が可能であった. CB組織診断または手術組織断診での最終病理診断 におけるEUS-FNA細胞診断の検討では,感度95.0%, 特異度80.0%および正診率92.0%であった.EUS-FNA の成績についてのこれまでの報告例では,感度83.3~ 97.2%,特異度100%,正確度84.3~97.9%と報告されて いる2~5).今回の検討結果の比較では,細胞診断の特 異度がやや低かった.この理由としては,細胞診断陽 性でCB組織診断陰性とされた症例が2例あったこと が挙げられる.これら2例の細胞所見は,偏在性の核 を有し核腫大や核小体の腫大がみられ明らかな腺癌で あった(図3).さらに,これら2例は臨床的にも浸 潤性膵癌と診断されていた.しかし,CB組織診断で は異型細胞を認めず陰性とされていたためである.こ れら2例を細胞診断が正診として陽性に扱った場合の EUS-FNA細胞診断の成績は,感度95.2%,特異度は 92.3%および正診率は94.7%と向上した. 次に,EUS-FNA細胞診断とCB組織診断の感度を比 較するため,手術施行例の組織診断で悪性とされた13 例で検討した結果では,CB組織診断の感度は69.2%に 対し,EUS-FNA細胞診断の感度は100%であった.こ れらのことより,腺癌等の通常型の悪性症例において は,CB組織診断と比較してEUS-FNA細胞診断は,微 量な検体であっても的確に異型細胞を塗抹でき,良好 な標本作製が可能であるため診断精度が向上したと考 えられた.しかしながら,胃GIST症例や腹膜デスモ イド症例のように,細胞診断では紡錘形細胞性腫瘍と しか診断できない症例があり,CB組織標本などの手 法を用いて免疫染色を行うことで最終的な診断が可能 であると考えられた.今回のEUS-FNA細胞診の検討 は,圧挫細胞診標本とフィルターを用いた細胞診標本 で行ったが,鮮明な細胞像と細胞保存が行えるLiquid-based cytology技術の応用もさらなる精度向上に期待 できると考える. Ⅵ.ま と め EUS-FNAで得られる検体は微小な組織片のため, オンサイドで細胞検査士の目で確認し,的確にサンプ リングを行い検体採取の適否を報告することは重要で ある.そして,細胞診標本ならびにCB組織標本の両 方を作製することが,診断精度の向上に寄与すると考 えられた. 文   献 1) 西 国広,國實久秋,渋田秀美,羽原利幸,濱川真治,藤 田 勝.細胞診標本作製マニュアル(体腔液).細胞検査 士会 2008;1:16-18. 2) 白波瀬浩幸,小畑彩子,平田勝啓,白井孝夫,辻眞里子, 南口早智子,et al.超音波内視鏡下針穿刺吸引細胞診にお けるセルブロック併用の有用性.日臨細胞誌 2011; 50: 472. 3) 渋谷信介,河野幸治,松永 徹,本山睦美,大道清美,串 田吉生,et al.当院における超音波内視鏡下穿刺吸引細胞 診(EUS-FNA)の現状.日臨細胞誌 2012;51:367. 4) 井上博文,藤田 勝,松岡博美,今井みどり,那須篤子, 森下由美子,et al.超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診におけ る検体の取り扱いとその有用性【第二法】. 日本臨床細胞 学会中国四国連合会会報 2009;24:39. 5) 羽場 真,山雄健次,水野伸匡,原 和生,肱岡 範,清 水泰博.胆膵癌実施臨床の最前線−膵・胆道癌の診断と治 療.内科 2011;107:375-382.

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症  例

日本臨床細胞学会岡山県支部会誌  背景 若年者に発生した尿膜管癌の1例経験したので,細胞学的形態を中心に報告する.  症例 10歳代後半,男性.肉眼的血尿を自覚し近医を受診した.CTやMRI検査で膀胱頂部に3㎝ 大の腫瘤病変があり,尿膜管腫瘍が疑われた.尿細胞診では,多くの好中球,壊死物質とともに上皮 細胞が集合性および散在性に認められた.これらの細胞は核が腫大しN/C比が増大,核形不整が強く, 核クロマチンも増量しており,癌と判断した.一部の細胞には核の偏在がみられた.TUR-Btおよび 切除材料では,膀胱壁内から腹壁の線維性索状物に連続する腫瘍で,一部は膀胱粘膜に露出していた. 組織学的には腺癌で,尿膜管癌と診断した.  考察とまとめ 若年者に尿膜管癌が発生することは極めて稀である.細胞学的診断には核の位置お よび細胞質の性状などを注意深く観察することが重要である.また,Sure Path法とFilter法の2種類 の検体処理方法で背景や出現様式が異なったことより,両者を相補的に利用することも有効と思われ る.確定診断のためには,さらに画像を含む臨床所見との十分な対比が必要である.

 Key words:Urinary bladder carcinoma, Urachal carcinoma, Urinary cytology, Case report

10歳代後半に発生した尿膜管癌の1例

小林 江利

1)

,荒木 豊子

1)

,米 亮祐

1)

,鐵原 拓雄

1)

,畠  榮

4)

伊禮 功

1,2)

,鹿股 直樹

1,3)

,森谷 卓也

1,3) 川崎医科大学附属病院 病院病理部1),川崎医科大学病理学12),同病理学23) 川崎医科大学附属川崎病院病理部4) Ⅰ.は じ め に 尿膜管癌は,膀胱腫瘍のうち0.34~0.7%程度を占め る稀な腫瘍である1).今回,われわれは尿細胞診を契 機に発見された,若年者発症尿膜管癌の1例を経験し たので,細胞学的所見を中心に報告する. Ⅱ.症 例 報 告 症例:10歳代後半,男性 主訴:肉眼的血尿 臨床経過:誘因なく肉眼的血尿を自覚したため近医 を受診し,CTで尿膜管癌を疑われ,当院に紹介された. MRIでは,膀胱頂部に3㎝大の腫瘤(写真1)が認め られた.この腫瘍は腹壁の線維索状物から連続してお り,尿膜管癌や腸間膜由来の腫瘍が鑑別に挙げられた. 細胞診で悪性と診断されたため,TUR-Btを施行し, 尿膜管癌との確定診断がなされたため,摘出術が施行 された. Ⅲ.細胞学的所見 自排尿について,Sure Path法とFilter法で標本を作 製した(写真2).いずれの標本も背景に赤血球,好 中球,壊死物質がみられたが,粘液等はみられなかっ た.また,壊死物質はSure Path法の方でより多かった. この中に,乳頭状集塊および散在性に上皮細胞を認め たが,Filter法では平面的な集塊も混在していた.こ れらの上皮細胞は大小不同があり,細胞形は類円形で, 細胞質はライトグリーンに淡染,核は概して腫大して おり,N/C比が増大していた.核形は不規則で,核 クロマチンの増量も認めた.また,一部の細胞では核 が偏在する傾向を示した.(表1)

Eri KOBAYASHI,C.T.,I.A.C1), Toyoko ARAKI,C.T.,I.A.C1), Ryousuke

YONE, C.T.,I.A.C1), Takuo KANAHARA,C.T.,I.A.C1), Sakae HATA,C.

T.,I.A.C,CFIAC4), Isao IREI,M.D.1,2), Naoki KANOMATA,M.D.1,3),

Takuya MORIYA,M.D., MIAC.1,3)

Department of Pathology, Kawasaki Medical School Hospital1)

Department of Pathology 1, Kawasaki Medical School2)

Department of Pathology 2, Kawasaki Medical School3)

Kawasaki Hospital , Kawasaki Medical School4)

  論文別冊請求先:〒701-0192 岡山県倉敷市松島577       川崎医科大学附属病院 病院病理部       小林 江利

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Ⅳ.病理組織学的所見 1,TUR-Bt所見 粘膜固有層を主座として,複雑に癒合した管状・乳 頭状を示す腺癌の像が見られた(写真3).背景には 出血・壊死が目立っていた. 2,手術摘出材料組織学的所見 腹壁の線維索状物~膀胱頂部にかけて12.2×4.8× 4.0㎝大(写真4a)の組織が摘出された.割面では3.7 ×2.8×2.5㎝の白色充実性の結節性病変(写真4b)が あり,乳頭状・管状の異型上皮からなる腺癌の像であっ た.膀胱頂部では一部潰瘍が形成され,腫瘍は膀胱内 腔へ露出しており(写真4c),膀胱壁内(粘膜固有層 写真1 MRI T2 強調画像 膀胱頂部に3cm大の腫瘤(丸印部分)が認められ,尿膜管腫 瘍が疑われた. 写真2 自排尿の細胞像

a.背景に壊死が目立つ(Sure Path法.Pap.染色×10),b.乳頭状集塊(Sure Path法. Pap染色×100),c.背景の壊死が少ない(Filter法.Pap染色×10),d.平面的な集 塊(Filter法.Pap染色×100)

Sure Path法 Filter 法

a

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23 VOL. 32 2013 ~筋層)から腹壁の線維性索状物に連続増殖していた. 尿路上皮の介在は認めなかった. Ⅴ.考   察 尿膜管癌は,尿膜管の遺残に由来して発生した癌, と定義される.厳密には,Sheldenら1)の診断基準を 改定した4項目からなる基準2, 3)があり,それは,1) 腫瘍が膀胱頂部・前壁に存在すること.2)腫瘍の中 心が膀胱壁内にあること.3)膀胱頂部・前壁外に広 範な嚢胞性あるいは腺性膀胱炎がないこと.4)他に 原発を考えるような腫瘍がないこと.を満たすことが 必要である.今回の腫瘍は膀胱頂部に存在し,腫瘍の 中心が膀胱壁内(筋層~粘膜固有層)にあり,嚢胞や 炎症などもみられなかった.また,他臓器原発を示唆 する所見も得られず,尿膜管癌に矛盾しないもので あった. 原ら4)が行った尿膜管癌の本邦症例集計では,1994 年までに311症例の報告がなされており,男女比は2.6: 1と男性に多かった.発症年齢は31~70歳が全体の 81.7%を占め,10歳代は1例のみであった.組織学的 には腺癌が86.3%と圧倒的に多かった.特に,粘液産 生傾向が強い例が目立ち,奥村ら5)の報告では53.4% が粘液産生性を示していた.尿所見に関しても,塩沢 ら6)は5症例中2症例が粘液尿であったと述べている. 細胞像に関する報告は,本例を含めて7症例7-11) り,その概要を表2にまとめた.まず,背景について は6例で壊死を認めたが,粘液については3例のみで, 自験例でも明らかではなかった.癌胞巣の出現形態に ついては,高円柱状と乳頭状がそれぞれ3例ずつ示さ

Sure Path法 Filter法 背景 出血・壊死(多) 出血・壊死(少) 出現様式 乳頭状~重積性 乳頭状~重積性~平面的 細胞形 類円形 類円形 細胞質 ライトグリーン淡染 ライトグリーン淡染 核 不整形が強い,一部偏在 不整形が強い,一部偏在 表1 自験例における,2種の検体処理法による細胞像の特徴 写真3 TUR-Btの組織像 出血・壊死を背景に複雑に癒合した管状を示す腺癌の像 (HE染色,×40)

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れており,自験例は乳頭状集塊を主体としていた.核 異型については,癌であることが比較的容易に判断可 能と思われた.さらに,自験例を含む7例で核の偏在 傾向が認められており,腺癌を推定する根拠になり得 る所見と考えられた. 尿膜管癌の局在は膀胱壁内を基準とするが,浸潤し 膀胱粘膜に露出すると尿中にも癌細胞が出現しうる. 尿細胞診で腺癌と判断した場合,尿膜管由来以外の膀 胱原発の腺癌の可能性を考慮すべきであり,今回の症 例は臨床像もそれに一致するものであった.しかし, 他にも腺系への分化を示す尿路上皮癌や,消化管癌か らの転移も考慮しておく必要がある.しかし,細胞学 的所見のみから原発巣と発生起源を確定させるのは必 ずしも容易ではなく,臨床所見を合わせた総合判断が 望まれる. 細胞所見を観察する際には,検体処理法の差による 所見の差についても考慮する必要がある.われわれが 実施した2種類の方法に関しては,Filter法は5μm径 の穴より壊死物質が除去されるためより清明な背景が 得られ,上皮細胞の観察がしやすい.一方,Sure Path法は壊死性背景がそのまま残存するために,腫 瘍性背景を認識するのに役立つ.出現様式については, 年齢 主訴 背景 出現様式 細胞形 細胞質 核 自験例 18歳・男 肉眼的血尿 出血・壊死 乳頭状および 集塊状・散在性 類円形 ライトグリーン淡染 一部に泡沫状 一部偏在 不整が強い 1981年 萩本ら 47歳・男性 血尿・排尿痛下腹部しこり 出血・好中球・壊死・粘液性 重積性細胞集塊 高円柱状 細胞質内空胞 偏在小型円形の 核小体1個 1987年 笹生ら 40歳・男性 排尿疼痛・白色調粘液尿 出血・壊死・粘液性 散在性~集塊と種々 粘液空胞 偏在核小体1~数個 1991年 本多ら 63歳・男性 無症候性血尿 重積性のある集塊 ライトグリーン淡染,泡沫状 ないしレース状 偏在 好酸性核小体 1~2個 1997年 下田ら 60歳・男性 定期健診にて発見 壊死 散在性・集塊性・一部柵状配列 高円柱状 ライトグリーン淡染 一部偏在・長楕円形 2002年 中村ら① 50歳・女性 無症候性肉眼的血尿 出血・壊死 大小不同の乳頭状集塊を形成し 散在性に出現 泡沫状 やや偏在性 核小体1~2個 2002年 中村ら② 43歳・男性 肉眼的血尿・背部痛 出血・壊死・粘液性 乳頭状および柵状配列 高円柱状 泡沫状 軽度不整 表2 尿膜管癌の細胞像に関する報告とその所見 写真 4a,膀胱頂部~腹壁にかけての切除肉眼標本. 4b,線維性索状物部分の腫瘍割面で白色充実性の肉眼病変. 4c,膀胱内腔へ露出した腫瘍部分のHE標本(×10)

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25 VOL. 32 2013 Filter法では平面的な集塊もみられ,腺癌の特徴であ る立体的構築像を必ずしも十分に反映していない可能 性が示唆された.以上の差は,本腫瘍に限らず両処理 法の一般的特徴でもあり,観察の際に注意すること, 2法を併用する際には両者を相補的に観察することが 肝要と思われた. Ⅵ.ま と め 10歳代後半の若年男性に発生した尿膜管原発性の腺 癌について,細胞学的形態を中心に報告した.細胞観 察に際しては,背景に粘液が存在しないか注意するこ と,核偏在傾向を把握することが,腺癌の判定に役立 つものと考えられた.また,検体処理法の特徴を意識 することも必要である.さらに,腺癌の診断が得られ た場合にも,尿路上皮癌や転移性腺癌との鑑別を試み る必要があり,臨床所見も合わせた総合判断が望まれ る. 謝辞;稿を終えるにあたり,ご指導を賜った川崎医 科大学泌尿器学教室,永井 敦教授ならびに横山光彦 講師に深謝致します. 【文   献】

1) Sheldon CA, Clayman RV, Gonzalez R et al : Malignant urachal lesion. J Urol 1984 ; 131 : 1-8

2) Beck AD, Gaudin HJ, Bonham DG : Carcinoma of urachus. Br J Urol 1970 ; 555-562

3) Gopalan A, Sharp DS, Fine SW et al : Urachal carcinoma : a clinico-pathological analysis of 24 cases with outcome correlation. Am J Surg Pathol 2009 ; 33 : 659-668

4) 原 芳紀,井田時雄.尿膜管癌の3例と本邦311例の臨床 的検討.西日泌尿器科.1994;56:570-572 5) 奥村 哲,西村泰司,長谷川潤,金村幸男,阿部裕行,秋 元成太.尿膜管癌の3例−本邦237例の臨床統計−.泌尿 器科紀要.1984;30:1255-1261 6) 塩沢勇治,上井良夫,垣添忠生,岸 紀代三,尿膜管癌の 細胞診.日臨細胞誌,1981;20:356, 7) 萩本美都子,松田 実,泉 春暁,松瀬幸太郎,上田陽彦, 細胞診で診断し得た尿膜管癌の1例.日臨細胞誌,1981; 20:798, 8) 笹生俊一,菅井 有,高山和夫,渡辺綾子,高金 弘,大 堀 勉,尿膜管癌の1例−細胞診を中心に−.日臨細胞誌, 1987;26:644-646 9) 本多健康,久原 肇,岡山道明,山田 修,丹羽京太郎, 平野善子,清水康子,田村 潤.尿細胞診陽性を示した尿 膜管癌の1例.日臨細胞誌,1991;30:913 10) 下田昌司,田路奈津子,松田 実,上田 浩,西 時男. 検診時の尿細胞診により発見された尿膜管癌の1例.日臨 細胞誌,1997;36:550-551 11) 中村 博,岡崎哲也,古谷津純一,鈴木不二彦,川地義雄. 尿膜管癌の2例.日臨細胞誌,2002;41:298-299

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症  例

乳癌において稀な腺様嚢胞癌の細胞診を経験したので報告する.80歳代女性.右乳腺腫瘤を自覚し 乳癌の診断にて乳房温存切除術および腋窩リンパ節郭清が施行された.腫瘤捺印細胞診では比較的き れいな背景にオレンジGとライトグリーンに染まる粘液様物質とともに,腺腔を有する重積性細胞集 塊が出現.集塊はN/C比大の小型腫瘍細胞からなり,核異型が強くクロマチンは顆粒状,小型核小体 が1~2個見られた.また,豊かで淡明な胞体を持つ大型異型細胞やオレンジG好性の細胞が主に集 塊の中心部に混在していた.組織学的には,粘液種様背景に偽腺腔を有する基底細胞様腫瘍細胞の充 実性胞巣が浸潤性に増殖し,1.2×1.0㎝大の腫瘍を形成していた.また,腫瘍胞巣には,多形性の目 立つ大型細胞や,扁平上皮や脂腺への分化など多彩な像が見られた.免疫染色では偽腺腔を取り囲む 小型細胞はp63陽性,真の腺腔はCEA,EMA陽性を示し,腺様嚢胞癌と診断された.細胞診におい て粘液様物質とともに小型異型細胞と胞体が豊かな大型異型細胞の混在する重積性集塊が観察される ときは,腺様嚢胞癌を考慮する必要があると思われる.

 Key words:Mammary gland, Adenoidcystic carcinoma, Cytology, Imprint cytology, Case report

乳腺腺様嚢胞癌の一例

西本 菜美

1)

,渡辺 律子

1)

,物部 美佳

1)

,豊田 博

1)

,大森 昌子

2) 総合病院岡山協立病院 病理部1) 岡山大学病院病理診断科2) Ⅰ.は じ め に 乳腺腺様嚢胞癌は全乳癌中,0.1%未満のまれな腫 瘍で,好発平均年齢は64歳,完全切除により多くの症 例が治癒し,リンパ節転移も少ない低悪性度腫瘍であ る.典型的な篩状構造がなく,扁平上皮への分化など 多彩な像を示した乳腺腺様嚢胞癌の一例を報告する. Ⅱ.症   例 80歳代,女性.右乳腺腫瘤を自覚し,他院で施行さ れた穿刺吸引細胞診でclass5(癌肉腫疑い)が指摘 され,手術目的で当院に入院した.マンモグラフィー ではカテゴリー5,造影CTでは右乳房C領域に軽度 増強される9mm大の腫瘤を認めた.乳癌の臨床診断で, 乳房温存切除術および腋窩リンパ節郭清が行われた. Ⅲ.細胞診所見 当院手術時に得られた捺印細胞診では比較的きれい な背景にオレンジGとライトグリーンに染まる無構造 で分厚い粘液様物質とともに,腺腔を有する重積性細 胞集塊が出現していた.集塊はN/C比大の小型腫瘍細 胞からなり,核異型が強くクロマチンは顆粒状で,小 型核小体が1~2個見られた.また,豊かで淡明な胞 体を持つ大型異型細胞やオレンジG好性の細胞が主に 集塊の中心部に混在している個所も見られた(写真1 -a).他にも,木目込み様や,箱型集塊状に見える個 所もあり,多彩な細胞像を示していた.ディフクイッ ク染色では,ひとつの細胞集塊に小型で均一な異型細 胞と胞体の広い大型異型細胞の混在が見られた.(写 真1-b). Ⅳ.病 理 所 見 肉眼的には,腫瘤は充実性で光沢のある割面を示し た.組織学的には,粘液腫様背景に大小の腫瘍胞巣が

Nami NISHIMOTO,C.T.,I.A.C1), Ritsuko WATANABE,C.T.,I.A.C1),

Mika MONOBE,C.T.,I.A.C1), Hiroshi TOYODA,M.D.1), Masako

OHMORI,M.D.2)

Okayama Kyoritsu Genaral Hospital1)

Department of Pathology,Okayama University Hospital2)

  論文別冊請求先:〒703-8511 岡山市中区赤坂本町8-10       総合病院岡山協立病院病理部       西本 菜美

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27 VOL. 32 2013 浸潤性に増殖していた.基底細胞様の腫瘍細胞の充実 性胞巣が多数形成され,偽腺腔を伴っていた(写真2 -a,b).また,腫瘍胞巣には,多形性の目立つ大型細 胞も混在しており,扁平上皮や脂腺への分化(写真2 -c,d)や,管腔形成を伴う胞巣も観察された. 免疫染色では,CEA,EMAは,真の腺腔内の分泌物, 角化物に陽性.P63は胞巣周囲や偽腺腔周囲の小型細 胞に陽性,Collagen type Ⅳは偽腺腔に陽性であった. 以上の所見より腺様嚢胞癌と診断された.ER,PgR, HER2はいずれも陰性であった. Ⅴ.考   察 腺様嚢胞癌の組織学的特徴は,腺上皮細胞と筋上皮 細胞の性格を有する二種類の腫瘍細胞が出現すること にある1).細胞診では真の腺腔と粘液球など間質成分 を含む偽腺腔からなる篩状構造が特徴的所見で,扁平 上皮などへの分化2)や多彩な細胞像3)を示す報告例も ある.自験症例では,典型的な細胞像である篩状構造 は観察されなかったが,N/C比が高い小型異型細胞と 胞体が豊かな大型異型細胞の二種類の細胞からなる重 積性集塊が見られた. 写真1 捺印細胞診 a:パパニコロウ染色(×20) N/C比が高い小型異型細胞の集塊の中心部に豊かで淡明な胞体を持つ大 型異型細胞が見られる. b:ディフクイック染色(×20) ひとつの細胞集塊に比較的均一な小型異型細胞と胞体の広い大型異型細 胞が混在してみられる. 写真2 HE染色 a:充実性胞巣,b:偽腺腔の形成,c:扁平上皮分化,d:脂腺分化

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当院の捺印細胞診標本にみられた小型異型細胞は筋 上皮由来,胞体の広い大型異型細胞は腺上皮由来の細 胞であり,さらに扁平上皮や脂腺への分化を示してい ると考えられる.鑑別診断としては,乳頭腺管癌,粘 液癌および低悪性度腺扁平上皮癌,扁平上皮癌,基質 産生癌などを含む化生癌が挙げられるが,粘液様物質 とともに小型異型細胞と胞体が豊かな大型異型細胞の 混在する重積性集塊が観察されるときは,腺様嚢胞癌 を考慮する必要があると思われる. 参 考 文 献 1) 黒住昌史,森谷卓也,腫瘍病理鑑別アトラス 乳癌.文光堂: 2010.84-88. 2) 中村佳世子,平野耕一,向野晶,橋本和明,北野正文,高 橋玲・ほか.扁平上皮化生を伴う乳腺原発腺様嚢胞癌の一 例.日本臨床細胞学会雑誌 2007;46(2):110-114 3) 今井みどり,濱田香菜,那須篤子,井上博文,松岡博美, 藤田勝・ほか.乳腺腺様嚢胞癌の一例 ~細胞像の多彩性 について~.日本臨床細胞学会岡山県支部会誌 2011; 30:34-35

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症  例

日本臨床細胞学会岡山県支部会誌

 背景 超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診(以下EUS-FNA)において,膵 solid-pseudopapillary neoplasm(以下SPN)のclear cell variantを経験したので報告する.

 症例 40歳代,男性.造影CTにて膵尾部に約17mm大の腫瘤を指摘.EUS-FNAが施行され,比較 的均一な,小型類円形の偏在核を有する形質細胞様の腫瘍細胞が,単在性あるいは小集塊で多数認め られた.多くの腫瘍細胞の細胞質に細胞質内空胞が見られ,集塊内部や腫瘍細胞近傍にライトグリー ン好染性の球状無構造物が観察された.集塊の結合性は緩く,一部でロゼット様配列を示し,細い血 管結合織を軸とする集塊も見られた.以上の所見より細胞診では膵神経内分泌腫瘍が疑われた.組織 学的検索においても,生検材料,手術材料ともに膵神経内分泌腫瘍との診断を得たが,その後の再検 討により,SPN(clear cell variant)と診断された.

 結論 SPNは男性に発生する頻度は低く,組織学的にも膵神経内分泌腫瘍と鑑別困難な場合があり, 細胞診判定に苦慮した.本亜型の特徴所見である細胞質内空胞を認識することが組織型推定への手が かりとなる.

 Key Words:Pancreatic solid-pseudopapillary neoplasm, clear cell variant, EUS-FNA, cytology,        case report

膵Solid-pseudopapillary neoplasm(clear cell variant)の一例

濵田 香菜,那須 篤子,井上 博文,今井 みどり

松岡 博美,藤田 勝,市村 浩一,柳井 広之

岡山大学病院 病理部 Ⅰ.は じ め に 膵solid-pseudopapillary neoplasm(SPN)は,膵非 内分泌腫瘍の約1~2%と,比較的まれな腫瘍である が,画像診断の進歩により発見率が上がり,それに伴っ て細胞像についての報告例も増えている.若年女性に 発生する傾向のある本腫瘍は,低悪性度腫瘍と考えら れているが,再発や転移を認める例もあり,組織型の 同定は重要である.SPNには,空胞を有する淡明な細 胞質を特徴としたclear cell variantと呼ばれる亜型が 報告されており1)~3),形態学的には膵内分泌腫瘍

(Pancreatic neuroendocrine tumor:PNET) と の 鑑 別が問題となる.

今回我々は,中年男性に発生したclear cell variant のSPNを経験したので,そのEUS-FNAの細胞像を中 心に報告する. Ⅱ.症   例 患者:40歳代,男性 既往歴:腎炎,尿路結石 現病歴:健康診断において指摘された脂肪肝,便潜 血の精査目的で当院紹介となった. 入院後経過:入院時生化学検査では,CEA 0.41 ng/ml,CA19-9 4.4U/mlと腫瘍マーカーは正常範囲内 であった.画像検査において膵尾部に結節を認め, EUS-FNAが施行された.生検の結果膵内分泌腫瘍と 診断され,膵体尾部切除術が施行された.以後,再発 はない. 画像所見:15~17mm大の境界明瞭な腫瘤を認めた (写真1).明らかな周囲への浸潤は認められなかった. 造影CT・造影MRIでは早期相の造影効果は乏しく, 徐々に造影される漸増性パターンであった.決め手と

Kana HAMADA,C.T.,I.A.C, Atsuko NASU,C.T.,I.A.C, Hirofumi INOUE,C.T.,I.A.C, Midori IMAI,C.T.,I.A.C, Hiromi MATSUOKA,C. T.,I.A.C, Masaru FUJITA,C.T.,I.A.C, Koichi ICHIMURA,M.D., Hiroyuki YANAI,M.D.

Department of Pathology,Okayama University Hospital   論文別刷請求先:〒700-8558 岡山県岡山市北区鹿田町2-5-1       岡山大学病院病理部

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なる所見がなく,鑑別として,膵管癌,腫瘤形成性膵 炎,腺房細胞癌,内分泌腫瘍の変性を伴うもの等が挙 げられた. Ⅲ.細 胞 所 見 EUS-FNAの細胞像およびセルブロック標本の組織 像を写真2に示す.比較的均一な,小型類円形の偏在 核を有する形質細胞様の腫瘍細胞が,単在性あるいは 小集塊状に多数認められた.核クロマチンは細顆粒状 で小型核小体が数個認められた.パパニコロウ染色標 本では,多くの腫瘍細胞の細胞質に1個ないし数個の 大小の空胞を認めたが,乾燥固定後のヘマカラー染色 標本では不明瞭であった.集塊の結合性は比較的緩く, 一部ではロゼット様配列を示し,細い血管結合織を軸 写真1 造影MRI画像 比較的境界明瞭な1.5×1cm大の腫瘤を膵体尾部に認める 写真2 EUS-FNAの細胞像 (a)形質細胞様の孤在性腫瘍細胞と球状無構造物(矢印) (b)空砲を有する孤在性腫瘍細胞(ヘマカラー染色×100) (c)ロゼット様集塊(パパニコロウ染色×100)(d, e)血管を軸とした偽乳頭状集塊(パパニコロウ染色×40) (f ~ h)球状無構造物(f, g; パパニコロウ染色×100,h.ヘマカラー染色×100) (i)セルブロック標本HE染色(×20)

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31 VOL. 32 2013 とする集塊も見られ,少数ながら偽乳頭状を示す集塊 も認められた.背景には,泡沫細胞や間質成分が散見 された.また,集塊内部や腫瘍細胞の近傍にはライト グリーン好染性の球状無構造物が観察され,ヘマカ ラー染色ではメタクロマジーを呈した. LBC検体よりセルブロックを作製し,HE染色およ び免疫染色を行った.HE染色では細胞質に空胞を有 する形質細胞様の孤在性腫瘍細胞を認めた.免疫染色 は表1の通りであった. 比較的均一な出現パターンやロゼット様小集塊,ラ イトグリーン好染性の球状無構造物をアミロイドと判 断し,細胞診判定はendocrine tumor疑いとした. Ⅳ.組 織 所 見 胞体淡明な腫瘍細胞が充実性に増生し,狭い間質に 区切られた島状構造を形成していた.被膜を欠き,腫 瘍が周囲膵実質の中に指を伸ばすように進展していた (写真3-a).嚢胞形成は認めず,胞巣内に泡沫状組織 球の集簇やPAS染色陽性を示すhyaline globulesが散 見された(写真3-b,c). 免疫染色はセルブロックの結果に加えCD10,vimentin, α1-antitrypsinが 陽 性 で あ っ た( 表 1). ま た, 抗 mitochondria抗体は細胞質に顆粒状に陽性反応を認め た(写真2-d). Ⅴ.考   察

Clear cell variantのSPNは,Albores-Saavedraら に より2006年に報告されたSPNの亜型であり, SPNに特 徴的とされる偽乳頭状構造を欠き,細胞質内に空胞を 有する淡明な腫瘍細胞の充実性増殖が90%以上に見ら れるもの,と定義される1) 特徴所見である細胞質内空胞には,グリコーゲンや ムチン,脂質などを認めず,その発生機序は必ずしも 明らかではないが,Albores-Saavedraらは超微形態学 的検索から膨化・変性したミトコンドリアや滑面小胞 体と考察している.本症例における抗mitochondria抗 体での免疫組織学的検索では,腫瘍細胞内に陽性所見 をみたものの空胞以外の狭い細胞質領域に顆粒状の陽 性像がみられたのみであり,ミトコンドリアの膨化に よる空胞形成は否定的と思われた.組織学的に,毛細 血管近傍の腫瘍細胞では細胞質が好酸性を呈し,そこ から離れた腫瘍細胞には細胞質の空胞化がみられると の報告がある.このような現象は虚血によって生じた と解釈され,ミトコンドリアの関与のもとに起こる オートファジーが空胞化発生の機序の基礎となる可能 性を示唆している3).本症例においては,膵組織と腫 瘍領域との境界部に,好酸性の細胞質を有する腫瘍細 胞が部分的に観察された. 本症例は,細胞診判定および組織診断において PNETとの鑑別に難渋した.過去の報告例においても, clear cell variantのSPN,あるいは細胞質の空胞化が 目立つSPNはPNETとの鑑別が困難であったとの記載 がある1)~3).SPNの大部分は良性の経過をとり,と きに再発・転移を起こすものの死亡例はほとんど見ら れないのに対し,PNET(とくに非機能性)症例の生 存率は低く3),明らかな悪性度の差が認められること から,これらの組織型を正しく同定する意義は大きい. SPNとPNETはともに血管豊富な腫瘍であり,その 細胞像は小型類円形の腫瘍細胞が一様に出現する点で 類似している.とくに嚢胞形成を伴わない充実性腫瘍 セルブロック 手術材料 Synaptophysin − − Chromogranin A ±*1 ± CD56 + + ER − − PgR + + CD99 ±*1 − CD10 + + β-catenin +*2 + vimentin ND + α1-antitrypsin ND + mitochondria ND + *1:非特異的な陽性反応(顆粒状の陽性所見なし) *2:核・細胞質陽性  ND : Not done 表1 セルブロックおよび手術材料の免疫染色結果 写真3 手術材料の組織像 (a)間質により島状に区切られた腫瘍細胞.(HE染色×40) (b,c)好酸性球状物(b.HE染色×100,c.PAS染色×100) (d,e,f)免疫染色(d.β-catenin×20,e.CD10×20, f.mitochondria×100)

参照

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