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ブタ卵母細胞顆粒層細胞複合体の体外発育条件に関する研究

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京 農 業 大 学

位 論 文

ブタ卵母細胞顆粒層細胞複合体の

体外発育条件に関する研究

In vitro growth of porcine oocyte-granulosa cell complexes

2015 年

農学研究科 畜産学専攻

﨑 秀 尚

指導教官

教授 岩田尚孝

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論文題目 ブタ卵母細胞顆粒層細胞複合体の体外発育条件に関する研究 博士学位論文 目次 第一章 緒論 1 第二章 体内および体外で発育したブタ卵母細胞の比較 第一節 緒言 5 第二節 材料および方法 7 第三節 結果 12 第四節 考察 14 付表および付図 16 第三章 エネルギー環境がブタ卵母細胞に及ぼす影響 第一節 緒言 29 第二節 材料および方法 31 第三節 結果 35 第四節 考察 37 付表および付図 40 第四章 ステロイドホルモンがブタ卵母細胞の体外発育に及ぼす影響 第一節 緒言 48 第二節 材料および方法 50 第三節 結果 52 第四節 考察 54 付表および付図 56 第五章 総括 62 Summary 66 謝辞 69 引用文献 70

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1 第一章 緒論 哺乳動物の始原生殖細胞はブタでは胎生期初期に原始外胚葉より分化し,生 殖隆起へ移動する。メスではこれらの始原生殖細胞は有糸分裂ののち卵原細胞 になる。卵原細胞は周囲の顆粒層細胞と原始卵胞を形成し,その後出生するま でにその数を減らす。原始卵胞の一部は活性化され発育が誘導されると一次, 二次そして三次卵胞へと発育する (Bielańska-Osuchowska, 2006)。この発育過 程で一部の卵胞が選抜され残りは退行するため,ヒトでは約 90% (Baker, 1963),

ウシでは約95% (Erickson, 1966),そしてブタでは約 60% (Guthrie and Garrett,

2001) の卵胞が消失し,実際に成熟・排卵に至る卵胞は 0.1%未満である。卵母

細胞はその発育能力を成長中に獲得するが,ブタやウシでは直径 3 mm 以上に

発育した胞状卵胞内の卵母細胞には減数分裂の遂行能力や受精・発生能力が備 わ っ て お り , よ り 小 さ な 卵 胞 内 卵 母 細 胞 は こ の よ う な 能 力 を 獲 得 し て い な い (Blondin and Sirard, 1995; Marchal et al., 2002)。そのため人工授精,体外受 精の対象となるのは胞状卵胞由来卵母細胞であり,採取できる発育卵母細胞数 には限りがあるため優秀なメス個体からの産仔の生産数には限界がある。 卵巣中の未利用資源である未発育な卵胞卵母細胞を体外で発育させ産仔を獲 得することが可能になれば,生殖医療や畜産業,動物の保護等に大きな福音を もたらす。例えば,希少,優秀もしくは高齢な個体の卵巣組織に残存する卵母 細胞の有効利用がそれに該当する。さらに,近年 iPS 細胞から始原生殖細胞の 誘導に成功し (Hayashi et al., 2011),体細胞からの卵祖細胞生産への道が開き つつある。そこで卵母細胞の体外での発育を可能にする培養系が確立できれば, 無限の生殖細胞の供給が可能になる。 実験動物のマウスでは卵子の形成に要する時間が非常に短いため ,卵巣組織 を体外培養し前胞状卵胞にまで発育した卵胞を切り出し,これを再度培養する

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二段階培養方法を用いることで完全に成長した卵母細胞が得られるようになっ てきている (Eppig and O’Brien, 1996)。しかし,卵母細胞の成長に長期間を有 する大型動物では,効率良く卵母細胞を体外成長させることが難しく,卵母細 胞の体外発育技術は依然黎明期にある。特に家畜では,発育の進んだ初期胞状 卵 胞 卵 母 細 胞 の 体 外 発 育 に よ っ て 仔 ウ シ が 得 ら れ た 報 告 (Yamamoto et al., 1999; Hirao et al., 2004) がある他に仔畜の生産に未発育卵母細胞を利用した 報告はなされていない。さらに体外で発育した卵母細胞の質はマウスにおいて も家畜においても体内で成長した卵母細胞に比べ劣っている。例えば体外で発 育した卵母細胞の受精率や発生率が著しく低いこと,卵子の紡錘体の形成異常 が多いこと (Senbon et al., 2004; Liu et al., 2008) が挙げられる。そのため卵 母細胞を体外で培養する上でどのような要因が卵母細胞に悪影響を与えている かを明らかにする必要がある。 卵母細胞の質を測る手法としては,産仔を得てその効率や正常性を検討する のが最も確実な方法であるが,その胚の生産効率,妊娠期間の長さ,飼養に要 するコストなどを考えると現実的ではない。そのため卵母細胞の成長や成熟度 合を推測する指標を選定し,これを用いて体外と体内の卵母細胞と比べること によりその状態を推測するのが現実的と考えられる。卵母細胞の能力を測定す る 指 標 と し て 現 在 報 告 さ れ て い る も の は ク ロ マ チ ン の 形 状 や 直 径 が あ る (Schramm et al., 1993; Zuccotti et al., 1995)。また,卵母細胞やこれを取り囲 む細胞群の遺伝子発現プロファイルを比較することも有効である。一方でこれ らの性状の比較に基づく知見とは別に,一般的に細胞の増殖に直接関係がある 所要な要因の意義や最適条件を検証することでも体外での卵胞培養方法を改善 することができる。例えば細胞の増殖を担う基質としてはグルコースのような エネルギー源がある。一般に細胞の生理状態の維持にはこのようなエネルギー 源が必要であり,さらには卵胞特有の糖タンパク質の分泌にも用いられている。

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3 しかし卵胞形成においてこのようなエネルギー源がどのような働きをするのか については明らかとなっていない。またエネルギー源は個体の生理状態によっ て変化するため,高泌乳の動物や逆に糖尿病の女性などを想定した場合,糖の 意義を明らかにすることは多くの知見を与えてくれる。 体外で卵胞を培養した時の最大の特徴は ,細胞群の高次構造の変化に伴う 腔 の形成とエストラジオール (E2) やヒアルロン酸などの細胞外基質であるグリ コサミノグリカンの分泌である。大型動物の卵胞の培養を試みた多くの報告に おいて,この腔形成を維持するために Polyvinyl pyrrolidone (PVP) やマトリッ

クスが用いられている (Hirao et al., 2004; Hashimoto et al., 2007)。一方で, どのような要因がこの腔形成に関わっているのかは不明である。また,E2 レセ プターノックアウトマウスでは顆粒層細胞の増殖や,排卵異常が観察されるこ とが報告されている (Dupont et al., 2000)。さらにはアロマターゼノックアウ ト マ ウ ス で は 卵 胞 の 成 熟 や 排 卵 機 構 が 不 完 全 に な る こ と が 指 摘 さ れ て い る (Britt et al., 2001)。そのため E2 は卵胞内部の細胞の分化に重要な働きを持つ と推測される。さらに E2 にはテロメアの維持やアポトーシスの抑制 (Ling et

al., 2006; Bayne et al., 2011) などの働きも報告されており,卵胞の培養におけ る意義について明らかになっていない。 本研究の第二章においてブタ卵巣の前胞状および初期胞状卵胞から卵母細胞 を切り出し,既存の方法で体外培養した。そしてその卵母細胞と発育の進んだ 大型の卵胞から回収した卵母細胞を対象に上記に示した卵母細胞の直径,クロ マチン,核成熟能力を比較し,現行の体外培養系で得られる卵母細胞が直径 2 m m前後の小卵胞卵母細胞に該当する事を示した。さらにこの小卵胞卵母細胞, 初期胞状卵胞卵母細胞を対象に,その卵母細胞および顆粒層細胞の遺伝子発現 を網羅的に解析し,卵胞発育と共に起こる変化を明らかにした。そしてそれら の中から大きな変化が起こる要因としてグルコース,E2 を選定し,第三章では,

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糖の卵胞発育に及ぼす影響について,第四章では卵胞の体外発育に E2 の持つ意

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5 第二章 体内および体外で発育したブタ卵母細胞の比較 第一節 緒言 ブタの未成熟卵胞の体外発育を改善するには ,未成熟卵胞を構成する卵母細 胞および顆粒層細胞が発育過程でどのように変化するのかを知る必要がある。 しかしながら,体外培養を経て発育した卵母細胞はその能力やサイズが体内の 胞状卵胞卵母細胞と比べて小さく,比較に当たっては体内の卵母細胞のどの発 育ステージの卵母細胞に体外発育卵子が該当するかをまず明らかにする必要が あ る 。 卵 母 細 胞 は 卵 胞 の 発 育 に 伴 い 成 長 を 進 行 す る こ と が 知 ら れ て お り (Griffin et al., 2006),ブタやウシでは 3 mm 以上に発育した胞状卵胞内には減 数分裂遂行能力,その後の受精能および発生能を獲得した卵母細胞が存在する (Blondin and Sirard, 1995; Marchal et al., 2002)。そのため,卵胞の大きさは 卵母細胞の発育段階を推測する指標として古くから用いられている。しかし, 未発育卵母細胞の体外培養では,ゲル包埋法や卵胞から取り出した卵母細胞顆 粒層細胞複合体 (OGCs) を供試するため,卵胞の大きさを指標として卵母細胞 の発育段階を評価することは不可能である。 卵母細胞の質を評価する上で,その直径が指標として広く用いられており , ブタ卵母細胞では減数分裂能を獲得するには 115 µm 以上に発育する必要があ

り (Motlík and Fulka, 1986),またウシにおいては直径の大きな卵母細胞はそ の後の胚盤胞期胚率が高いことが報告されている (Otoi et al., 1997)。また,卵 母細胞の直径の増加と共に核膜内のクロマチンの形状が,核膜内に散在した状

態 (NSN; Nonsurrounded nucleolus) か ら , 核 小 体 を 取 り 囲 む 状 態 (SN;

Surrounded nucleolus) に変化する (Pesty et al., 2007)。卵母細胞を体外で培

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6 は 2 細胞期胚で発生が停止することが報告されている (Bellone et al., 2009)。 本章では体外発育により得られた卵母細胞を評価するため,生体内の卵胞発 育に伴う卵母細胞の直径,卵核胞内クロマチンの動態および減数分裂再開能力 について調査しさらに,体外発育卵母細胞を上記 3 つの項目について調べ,体 外発育卵胞卵母細胞が体内発育卵母細胞のどのステージに該当するかについて 検討した。加えて体内で発育した様々なサイズの卵胞および体外で発育した卵 胞の顆粒層細胞を用いて遺伝子の網羅解析を行い,卵母細胞の発育に必要な項 目のスクリーニングを行った。

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7 第二節 材料および方法 1) 試薬 以下,特に記述のない試薬および培地はナカライテスク (Kyoto, Japan) の製 品を用いた。 2) 供試卵巣 神奈川県食肉センターにて入手した未経産ブタ卵巣は ,抗生物質を添加した 37ºC の PBS (+) 中に保存し,一時間以内に実験室に持ち帰った。 持ち帰った卵巣は,37°C に温めた PBS (-) にて数回洗浄後,滅菌ペーパー タオルに乗せ,血液およびPBS を除去した。 3) 卵母細胞の採取 卵巣表面に存在する卵胞を直径 0.2~0.3,0.3~0.5,0.5~0.7,0.7~1,1~3, 3~5 および 5 mm 以上の 7 区に区分した。まず,1~3,3~5 および 5 mm 以

上の 3 区は,それぞれ注射針 (21G×5/8; Terumo, Tokyo, Japan) を取り付けた

10 mL シリンジ (Terumo) を用いて吸引採取を行った。吸引した卵丘細胞卵母

細胞複合体 (COCs) を含む卵胞液は,37.5°C に設定したヒートブロック内の滅

菌コニカルチューブ (50 mL; TPP, Switzerland)に集め,10~15 分間の静置に

よ り 自 然 沈 降 さ せ た 。 沈 殿 物 を プ ラ ス チ ッ ク シ ャ ー レ に 移 し , 修 正 North

Carolina State University 23 (NCSU23) 培地 (Yoshioka et al., 2002) を用い

て希釈後,実体顕微鏡下にて COCs を回収した。

次に,吸引採取後の卵巣表層をメス (替刃メス No. 11; Keisei, Tokyo, Japan)

とピンセットを用いて薄切後,卵巣切片は MEM (Sigma-Aldrich, ST. Louis,

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L-8 グルタミン,0.1% BSA (Fraction-Ⅴ) および抗生物質をそれぞれ添加した培地 (以下,切り出し培地) 中に集めた。実体顕微鏡下にて接眼ミクロメーターを用 い,卵胞を直径0.2~0.3,0.3~0.5,0.5~0.7,および 0.7~1 mm の 4 区に分 類し,それぞれ注射針 (18G×1 1/2; Terumo) を取り付けた 1 mL シリンジ (Terumo) と精密ピンセットを用いて卵母細胞顆粒層細胞複合体 (OGCs) を取 り出し,パスツールピペットにて流動パラフィンオイルで覆った切り出し培地 のドロップ (10 µL) 中に個別に集めた。 4) 卵母細胞の発育培養

光学顕微鏡 (BZ-8000; KEYENCE, Osaka, Japan) を用いて,採取直後に切

り出し培地のドロップ中に個別に集めた OGCs の卵母細胞の内径を測定した。 直径0.2~0.3 mm の前胞状卵胞から取り出した卵母細胞は内径が 70~80 µm 未 満,直径 0.5~0.7 mm の初期胞状卵胞から取り出した卵母細胞は内径が 90~ 100 µm 未満のものを選別し培養に供試した。 発育培地は αMEM (Sigma-Aldrich) を基礎培地とし,2% PVP (分子量 36 万; Sigma-Aldrich),26 mM NaHCO3,2 mM ヒポキサンチン,10 mM タウリン,

0.3% BSA (Fraction-Ⅴ),1 µg/mL 17β-Estradiol (E2),0.1m AU/mL FSH (川 崎三鷹製薬株式会社,神奈川),Insulin-Transferrin-Selenium×100 (Gibco BRL, Paisley, UK) および抗生物質をそれぞれ添加した。

発育培地を 96 ウェルマイクロプレート (Falcon 3072; Becton Dickinson,

Franklin Lakes, NJ, USA) に 200 µL ずつ加え,採取した OGCs を各ウェルに

一つずつ中央に静置し,38.5°C,5% CO2,95% Air および湿度飽和状態の気相

条件下で個別培養した。Hashimoto ら (2007) の報告より,培養期間は初期胞

状卵胞由来 OGCs は 16 日間と設定した。より小さい前胞状卵胞由来 OGCs は

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9 を半量交換した。 5) 卵母細胞の直径の測定 パスツールピペットを用いて卵丘細胞および顆粒層細胞を剥離した 卵母細胞 を,流動パラフィンオイルで覆った切り出し培地のドロップ内 (10 µL) に移し た。30 分間平衡 (38.5°C,5% CO2,95% Air および湿度飽和状態の気相条件下) 後,光学顕微鏡 (BZ-8000) を用い,卵母細胞の内径を測定した。 6) 卵母細胞の固定および染色 卵丘細胞および顆粒層細胞を剥離した卵母細胞を用いてホールマウント標本 を作製後,エタノール酢酸 (3:1, v/v) に一週間浸漬し,固定および脱脂した。 2% アセトオルセイン染色液で一時間染色後,アセトグリセロールを用いて染 色液を流し,マニュキュアでカバーガラスを固定,封入した。 7) クロマチン凝集動態と核相の判定 卵 核 胞 (GV) 期 卵 母 細 胞 ク ロ マ チ ン 形 態 の 観 察 評 価 は 既 報 (Sun et al., 2004) の 5 段階評価,すなわち,核膜と核小体が明白で,クロマチンが拡散し ているもの (GV0),核小体の周囲にクロマチンがリング状に凝集しているもの (GV1),凝集塊が核膜周辺に存在するもの (GV2),クロマチンがさらに凝集し, 凝集塊が膜内全体に存在するもの (GV3),GV3 のようなクロマチン凝集を示し, 核膜が不明瞭で核小体が完全に消失しているもの (GV4) に分類した(Fig. 2.)。 核相は,GV 期,卵核胞崩壊 (GVBD) を起こし,染色体が赤道面に並ぶ時期 を第一減数分裂中 (MI) 期,第一極体を放出したものを第二減数分裂中 (MII) 期,MI 期から MII 期への移行期を第一減数分裂後期・終期 (AT) として観察し た。

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8) 卵母細胞の成熟培養

成熟培地には NCSU23 を用い,ブタ卵胞液 (pFF) を添加した (10%, v/v)。

吸引採取したCOCs を成熟培地で 3 回洗浄後,直径 60 mm のシャーレ (150288;

Nunk, Roskilde, Denmark) 中に作成した流動パラフィンオイルで覆った成熟

培 地 の ド ロ ッ プ 内 (COCs/10 µL) で 培 養 し た 。 培 養 開 始 20 時 間 は 1 mM

dibutyryl-cAMP (dbcAMP; Sigma-Aldrich) およびホルモン (eCG 10IU,hCG

10IU) 添加修正 NCSU23 にて,38.5°C,5% CO2,95% Air および湿度飽和状

態の気相条件下で培養した。その後,COCs を修正 NCSU23 で 3 回洗浄し, dbcAMP およびホルモン非添加の修正 NCSU23 に移し,24 時間同様の条件下 で培養した。 体外で発育した卵母細胞の成熟培養には,発育培養後に腔を形成した OGCs を選別し,成熟培地で 3 回洗浄した。成熟培地中にて注射針を取り付けた 1 mL シ リ ン ジ と 精 密 ピ ン セ ッ ト を 用 い て 複 合 体 を 開 き , 余 分 な 細 胞 を 取 り 除 い た COCs を取り出し体外成熟培養を行った。 pFF は直径 3 mm 以上の卵胞から吸引採取後,20 分間遠心分離 (10,000×g, 4°C) し,上澄みを 0.2 µm 滅菌フィルターにて濾過し,実験直前まで-20°C で 保存した。 9) 遺伝子発現解析 東京農業大学生物資源ゲノム解析センターの川原玲香氏の協力の下行った。 直径 0.5~0.7 mm の初期胞状卵胞由来 OGCs および直径 1~3 mm の胞状卵 胞由来 COCs をそれぞれ 30 個採取し,0.2% PVA-PBS で 3 回洗浄後,パスツ ールピペットを用いたピペッティングにより卵母細胞のみ取り除いた。細胞を 含む 0.2% PVA-PBS を 1.5 mL チューブに移し,ピペットマンを用いたピペッ

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ティングにより懸濁した。細胞懸濁液 10 µL を RNA 抽出に供試し,これを 10

回繰り返し,合計 300 個を用いた。RNA 抽出には RNAqueous kit (Agilent

Technologies, Palo Alto, CA, USA) を使用し,ライブラリーおよびクラスター

の作成にはTruseq RNA sample preparation kit (Illumina Inc., San Diego, CA,

USA) を使用した。用いたライブラリーおよびクラスターは Illumina cBot 上 に作成し,Illumina Hiseq sequencing sysytem により 2 グループそれぞれ 2

レーンを50 bp (single-end) シーケンシングを行った。画像解析,base-calling

およびquality filtering は CASAVA ver 1.8.3 (Illumina) の取扱書に準じて行

った。得られたシーケンシングデータはブタゲノム配列に並べリード数を測定 した。

10) 統計処理

全ての統計解析は分散分析後,Fisher の LSD 法により P 値が 0.05 以下を有

意差ありとした。遺伝子発現の解析は edgeR (Robinson et al., 2010) を用いて

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12 第三節 結果 卵母細胞の平均直径は,卵胞直径0.2〜0.3 mm 区において 78.3 ± 0.7 µm (N = 100) であり,卵母細胞の由来する卵胞の大きさに比例して有為に増加した (P < 0.05)。3 mm 以上の卵胞区では直径に差は認められなかった (Fig. 3A.)。 卵母細胞の直径と卵胞の直径の間には対数近似曲線y = 13.327ln (x) + 102.48 が算出でき,決定係数が0.8444 となり強い相関が認められた (Fig. 3B.)。 GV 内クロマチン形態は卵胞直径の増大に伴い GV0 の割合が減少 (85.2 vs. 0%) し,GV1 の割合が増加した (0 vs. 83.0%)。GV2~4 ではそれぞれに増大の ピークが観察され,その後減少する傾向がみられた (Table 1.)。 MII 期に達した卵子は,直径 1〜3 mm 区と比べ,3〜5 および 5 mm 以上の 卵胞区で有為に高い割合となった (1〜3,3〜5,>5 mm; 43.6,82.4,84.6%, Table 2.)。 体外発育における前胞状卵胞 OGCs は培養 8 日目から腔を形成し,培養 14 日目に腔の形成率は最大となりその後減少した。最終的な腔形成率は 50%とな

った (Fig. 4A.)。初期胞状卵胞 OGCs は培養 6 日目で 20%が腔を形成し,12 日 目から培養終了時までその割合を維持した (Fig. 4B.)。

前胞状卵胞 OGCs は培養に伴い直径を増大させ,28 日目において最大の直径

(112.7 ± 2.6 µm,Fig. 5A.) に到達した。また初期胞状卵胞 OGCs は培養 12, 14 および 16 日の間で直径に差はなかった (116.8 ± 2.1,117.1 ± 1.6,117.7 ± 1.9 µm,Fig. 5B.)。 前胞胞状卵胞由来卵母細胞は培養に伴い GV0 の割合を減少させ,GV1 の割合 が増加した。GV1 の割合は培養 28 日目において該当区との間に差は観察され なかった (35.0 vs. 31.3%)。初期胞状卵胞由来卵母細胞では培養後,GV0 は観 察されず,培養に伴いGV1 の割合,は増加し,培養 16 日目で 79.2%となり,5

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13 mm 以上の卵胞区と同等の割合が観察された (79.2 vs. 79.2%,Table 3.)。 培養 28 日間から得られた前胞状卵胞由来卵母細胞を体外成熟培養後,供試卵 子の内,30.5%が MⅡ期に到達した (Table 4.)。初期胞状卵胞由来卵母細胞では 培養 14 日目において MⅡ期に達した卵子が最も多く,該当区との間に差は観察 されなかった (46.3 vs. 43.6%, Table 4.)。しかし,どちらの卵胞由来卵子も 5 mm 以上の卵胞区 (84.6%) と比べ MⅡ卵子の割合は低い値であった (Table 2.)。 遺伝子の発現解析においては,未発育卵胞の培養液を構成する成分であるエ ネルギー源,アミノ酸およびホルモン等に関与する遺伝子の中で,特に代表的 な遺伝子群を Table 5.に示す。解糖系に関与する遺伝子の多くが発育した卵胞 において高発現していた (Fig. 6.)。一方で,ペントースリン酸回路系では遺伝 子発現の低下が認められた(Fig. 7.)。また,ステロイド産生においては,卵胞の 発育段階が進むことで関連遺伝子の発現も増加した (Fig. 9.)。

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第四節 考察

体内で発育した卵子において GV1 卵子の割合は卵胞の発育に伴い増加し,直

径 3 mm 以上の卵胞区で高い割合が得られ (3~5 mm; 58.1,>5 mm; 79.2%,

Table 1.),これは過去の Nagai ら (1997) の 58% (4~6 mm) や,Sun ら (2004)

の 67% (3~6 mm) と同様の値となり,クロマチン凝集動態の評価が適切であっ たと考えられた。また,卵胞の直径の増大に伴いGV0 卵子は観察されなくなり, GV2~4 卵子にはそれぞれピーク値が観察された。これまで卵胞の直径を細分し 卵子のクロマチンの動態を調査した報告はなく,本章より,GV2~4 は GV0 か ら GV1 への移行の段階である可能性が示された。卵子の直径は卵胞の大きさに 伴い増加し,0.2~0.3 mm 区から 1~3 mm 区間の発育途上にある卵子はその直 径の増大率は大きく (78.3 ± 0.7~116.1 ± 0.6 µm),3 mm 区以上から得ら れた卵子は直径の増加が低調となった (120.7 ± 0.4~121.9 ± 0.4 µm,Fig. 3A.)。卵子の発育には卵細胞質内の細胞器官の増加や,タンパク質および脂質 の蓄積を伴い,それらの変化はタンパク質合成およびRNA 合成が関与しており

(Picton et al., 1998),卵子内部の RNA 合成は放射性標識ウリジンの取り込みを

用いて検討した報告によると,卵子の直径が 110 µm に達するとその転写が停 止すると報告されている (Hyttel et al., 2001)。さらにマウスにおいて核内クロ マチンの凝集した SN 卵子では RNA 合成が停止していると報告されている (Bouniol-Baly et al., 1999)。これらのことから,本章より得られた GV1 の割合 が高く観察された 3 mm 以上の卵胞区の卵子はその発育の大部分を終了してお り完全に発育能を有していることが,クロマチンの凝集動態からも裏付けられ た。これを支持する結果として,1~3 mm 区では 3~5 mm 区と比べ,MII 期 卵子の割合が有意に低い値を示している (43.6 vs. 84.6%,Table 2.)。 未発育卵胞の体外発育の例はブタでは著しく低く ,特に前胞状卵胞を対象と

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15 した報告はない。本章の培養後に得られた卵母細胞直径 (前胞状卵胞; 28 日,初 期胞状卵胞; 12,14,16 日) を体内卵胞卵子のデータより得られた卵胞直径と 卵 子 直 径 の 間 に 算 出 さ れ た 対 数 近 似 曲 線 y = 13.321ln (x) + 102.53 (R2 = 0.8399) を用い,該当する卵胞直径を算出したところ 2.2,2.9,3.0 および 3.1 mm となった。上述の通り 3 mm以上の卵胞内卵母細胞が発育能力を有してい る事を考慮に入れると,未発育卵胞の培養システムを改善する必要があること を意味していると考えた。また,培養システムを構築する成分として,エネル ギー源,アミノ酸,塩およびホルモンの添加がある。卵胞の発育におけるこれ らに関与する遺伝子群の発現解析の中で,著しい変化が認められた糖代謝では, 発育後の卵胞ではペントースリン酸回路系に関与する遺伝子群が低下していた (Fig. 6.)。これは,BCB 染色を用いた卵子のペントースリン酸回路を評価する 結果と一致する。また,解糖系に関与する遺伝子群が増加していることが示さ れたため,グルコースの添加が顆粒層細胞の質を向上させると考える。次に, 変化があったものとしてステロイド産生関連遺伝子群の亢進が認められ,未発 育卵胞の体外発育におけるホルモン産生の意義を明らかにする必要があると考 えた。培養環境の改善を目的として,三章ではグルコースの添加による影響, 四章ではステロイドホルモンの役割について調査する。

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29 第三章 エネルギー環境がブタ卵母細胞に及ぼす影響 第一節 緒言 前章より,本研究の培養システムを用いることでブタ未発育卵母細胞が体外 で発育できることが示された。しかしながら,体内発育卵母細胞と比較しその 質は低く,更なる培養システムの改善が必要と考えられた。また,顆粒層細胞 群の遺伝子発現の網羅的解析結果より,ミトコンドリアの酸化的リン酸化の低 下と逆に解糖系の亢進が認められ細胞のエネルギー源である糖代謝が著しく変 化することが認められた。細胞培養液中のグルコース濃度は 5.5 mM であり, これは卵胞液中のグルコース濃度とほぼ同等である。しかしながら,血流のあ る生体内環境とは異なり,培養容器内では OGCs 周囲のグルコースが不足して いることが予測される。そこでグルコースの濃度の上昇が,OGCs の代謝変化 により適しているのではないかと推測した。一方で,糖尿病や高血糖症は生殖

機 能 に 障 害 を 及 ぼ す こ と が 報 告 さ れ て い る (Johnson and Lukert, 1992;

Greene, 1996)。実験動物を用いた研究では,ストレプトゾトシン誘導糖尿病マ ウスの卵子の質は低く,排卵された卵子は減数分裂進行の遅延および紡錘体形 成の異常およびミトコンドリア機能障害が報告されている (Ratchford et al., 2007; Wang et al., 2009)。加えて,糖尿病マウスの卵子の大きさは小さく,ア ポトーシス陽性の顆粒層細胞の割合も高い (Chang et al., 2005)。さらには,通 常,ヒストン H4 の 12 番目のリジン残基 (H4K12) のアセチル化は,MII 期卵

子と比べGV 期において高いレベルにある (Maalouf et al., 2008; Franciosi et

al., 2012) のに対し,糖尿病モデルマウス由来卵母細胞では低アセチル化状態で あることが報告されている (Chang et al., 2005)。しかしながら,糖尿病モデル

(32)

30 動物における卵母細胞の異常は,高血糖環境そのものにもたらされたかどうか については明らかとなっていない。 本節では,現在の培養条件で胚盤胞期までの胚発生率の検証が可能な卵胞の 腔形成が開始した初期胞状卵胞由来 OGCs を対象とし,グルコースの最終濃度 が 5.5 mM および 11 mM に調整した培養液中で発育培養を行い,卵母細胞の発 育に及ぼすグルコースの影響を調べた。また,発育培養後の卵母細胞を成熟培 養し,成熟能力および活性化処理後の発生能力を調べた。さらに,体内で発育 完了した卵母細胞の成熟培養中のグルコースが卵子の質に及ぼす影響について 検討した。

(33)

31 第二節 材料および方法 1) 試薬 以下,特に記述のない試薬および培地はナカライテスク (Kyoto, Japan) の 製品を用いた。 2) 培養液中グルコース濃度 卵胞液中のグルコース濃度は血清中のグルコース濃度をよく反映し (Leroy et al., 2004),血清中グルコース濃度と比べわずかに低いことがウシ (2.0 vs.

5.1 mM) (Tanaka et al., 2013) とブタ (4.1 vs. 5.9 mM) (Chang et al., 1976)

で報告されている。世界保健機構は血中グルコース濃度が11 mM 以上の場合,

糖尿病であると定義している (World Health Organization, 2006)。これらの情

報を基に,グルコース濃度が 11 mM である培養液を高濃度グルコース区,5.5 mM である培養液を通常グルコース区とした。 3) 供試卵巣 第二章第二節参照。 4) 卵母細胞の採取 第二章第二節と同様に,直径 0.5~0.7 mm の初期胞状卵胞より OGCs を,直 径 3~5 mm の胞状卵胞より COCs を採取した。 5) 卵母細胞の発育培養 第二章第二節と同様に,直径 0.5~0.7 mm の初期胞状卵胞から取り出した卵 母細胞は内径が90~100 µm 未満のものを選別し培養に供試した。

(34)

32

6) グルコース濃度の測定

培養終了時に OGCs の生存性を考慮しクラス分けを行った。培養終了時に腔

を有している OGCs を生存区 (viable OGCs),腔を有していない OGCs を非生

存区 (nonviable OGCs) とした。培養 4 日および 12 日目に培養液を回収した。

回収 し た 培養 液 は測 定時 ま で −20°C で保存した。サンプルは,スポットケム

TMD-グルコースシングル試薬 (Arkray Inc., Kyoto, Japan),スポットケム TMD-00 および D-20 の乾式臨床科学分析測定ユニット (Arkray Inc.) を用い

て,グルコース濃度を測定した。通常グルコース濃度区から 17 サンプル (viable

OGCs, N = 10; nonviable OGCs, N = 7),そして高グルコース濃度区から 16 サ ンプル (viable OGCs, N = 10; nonviable OGCs, N = 6) を無作為に選び,測定 に供試した。 7) 卵母細胞の直径測定とクロマチン凝集動態の観察 第二章第二節参照。 8) H4K12 の免疫染色 培養 12 日目の OGCs をパスツールで裸化し,4% パラホルムアルデヒドに 4°C 下で一晩浸漬し固定した。固定後,卵母細胞を 0.2% PVA-PBS で 3 回洗浄

し,0.25% TritonX-100 (Sigma-Aldrich) を含む 0.2% PVA-PBS で 30 分間透過

処理した。その後,0.2% PVA-PBS で 3 回洗浄し,ブロッキング処理 (5% BSA,

1% Tween20,5% ヤギ血清 0.2% PVA-PBS) を 1 時間行った。ブロッキング処 理後,一次抗体処理を遮光して一晩行った。一次抗体はウサギポリクローナル

抗アセチル化ヒストン H4K12 抗体を用いた (1:500, Millipore, Milford, MA,

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33

浄し,二次抗体と遮光下で1 時間処理した。二次抗体は Anti-rabbit IgG Fab2

Alexa Fluor (R) 555 Molecular Probes (Cell Signaling Technology, Massachusetts, USA) を 1:1000 の濃度で用いた。二次抗体処理後,卵母細胞

を 0.2% PVA-PBS で 9 回洗浄し,スライドガラス上にマウントした。マウント

の際に,DAPI を含む退光防止剤 (Invitrogen) にて卵母細胞を処理した。蛍光 顕微鏡 (BZ-8000) 下での観察像は CCD カメラ (Penguin 150CL; Pixera, Los Gatos, CA, USA) で撮影し,卵核胞内の蛍光輝度を Image-J software (NIH Bethesda, MD, USA) を用いて測定した。

9) 卵母細胞の成熟培養 第二章第二節参照。

10) 活性酸素種量の測定

卵子内活性酸素種 (ROS) 量は,ROS 測定試薬 (Invitrogen) を用いて測定し た。蛍光顕微鏡 (BZ-8000) 下での観察像は CCD カメラ (Penguin 150CL) で

撮影し,卵細胞質内の蛍光輝度を Image-J software (NIH Bethesda, MD, USA)

を用いて測定した。

11) 卵母細胞の活性処理と発生培養

44 時 間 の 体 外 成 熟 培 養 後 , 得 ら れ た 卵 子 を Porcine Zygote medium-4 (PZM-4) 中に移し,ピペッティングにより裸化処理を行った。

裸化した卵子をそれぞれ10 µg/mL イオノマイシンを添加した PZM-3 に移し,

5 分間静置した。その後,卵子を PZM-3 で 3 回洗浄し,10 µg/mL シクロヘキ

シミドおよび10 µg/mL サイトカラシン B を添加した PZM-3 で作成したドロッ

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34 相条件下にて 5 時間培養した。活性処理後の卵子を PZM-3 で 3 回洗浄し,100 µL のドロップに 20〜30 個ずつ入れ 38.5°C,5% CO2,5% O2,90% N2および 湿度飽和気相条件下にて8 日間培養した。 12) 胚盤胞期胚の細胞数の観察 体外培養8 日後の胚盤胞期胚を選抜し,0.2% PVA-PBS を用いて数回洗浄後, エタノールで洗浄し,25 µg/mL Hoechst 33342 (Sigma-Aldrich) を含む 99.5% エタノールに移し,4°C 下で 3 時間染色した。染色後,数回エタノールで洗浄 しスライドガラス上にマウントし,細胞数を蛍光顕微鏡 (BZ-8000) 下で計測し た。 13) 統計処理 得られたデータは二元配置の分散分析後,Tukey’s post-hoc 検定を行い,P 値が 0.05 以下を有意差ありとした。腔の形成率,クロマチン凝集の割合,核成 熟率および発生率はアークサイン変換後に検定に用いた。

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35 第三節 結果 体外発育培養における OGCs のグルコース消費量の変化を Fig. 9.に示す。グ ルコース消費量は,11 mM 区,5.5 mM 区ともに培養 4 日目と比べ 12 日目にお いて有意に増加した。また,11 mM 区のグルコース消費量は,5.5 mM 区と比 較し有意い高い値であった (4 日目; 0.7 vs. 0.4 mM,12 日目; 3.1 vs. 2.3 mM)。 さらに,両濃度区ともに培養 12 日目において,生存性 OGCs で非生存性 OGCs より有意に多くのグルコースを消費した (5.5 mM; 2.3 vs. 0.8 mM,11 mM; 3.1 vs. 0.7 mM) のに対し,この差は培養 4 日目では観察されなかった。 腔の形成は OGCs の発育能力の指標である。本章では培養 4 日目から 6 日目 にかけて腔の形成が開始し,培養終了時には,5.5 mM 区で 69.0%,11 mM 区 で 75.1%の OGCs が腔を形成した。しかしながら両区間で有意な差は認められ なかった (Fig. 10.)。 卵巣より採取直後の初期胞状卵胞内の卵母細胞の直径は,97.6 ± 0.5 µm で あり,培養終了時には,5.5 mM 区では 112.4 ± 1.0 µm,11 mM 区では 114.6 ± 0.9 µm へと増加した。しかし,体内で発育した卵母細胞の直径には到達し なかった。また,初期胞状卵胞内の卵母細胞のクロマチン形態は,全てが GV0 に分類された。その割合は両区ともに培養終了時には減少し,GV1 の割合が増 加した (5.5 mM; 48.5,11 mM; 62.0%)。この割合は体内発育卵母細胞と近い 値であった (59.5%, Table 6.)。 体外発育培養により卵母細胞のヒストンのアセチル化状態は向上した。 しか しながら,両グルコース濃度間に差は認められず,また,両区のアセチル化状 態は体内発育卵母細胞と比べ有意に低い値であった (Fig. 11.)。 5.5 あるいは 11 mM のグルコース濃度条件下において発育した卵母細胞は成 熟培養後,それぞれ 50.8 または 56.5%が MII 期に到達した。しかし,その割

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36 合は体内発育卵母細胞と比べ有意に低い値であった (Table 7.)。さらに,それ らの卵子を活性化処理したところ,5.5 mM 区では 4.8%,11 mM 区では 4.9% が胚盤胞期胚まで発生した (Table 8.)。しかしながら,体内発育卵母細胞に由 来する胚盤胞期胚率には到達しなかった (21.1%,Table 9.)。 上述の実験に加え,胞状卵胞由来 COCs を採取しグルコース濃度を 5.5 ある いは 11 mM に調整した成熟培養液中で培養した。どちらの濃度条件下において も高い割合で MII 期卵子に到達した (80.2 vs. 81.1%)。一方で,高グルコース 条件で核成熟を行った卵子の胚盤胞期胚率は有意に低く,得られた胚の総細胞 数も有意に低い値となった (Table 9.)。また,成熟培養後の卵子中 ROS 量は 5.5 mM 区と比較し 11 mM 区で有意に高い値となった (1 vs. 1.17; P < 0.05; Fig. 12.)。

(39)

37 第四節 考察 初期胞状卵胞由来 OGCs のグルコース消費量は高グルコース濃度条件下で有 意に高い値を示したが,発育培養後の卵母細胞の質は,高濃度および通常グル コース濃度の両濃度間で差異は認められなかった。また,成熟培養における高 グルコース濃度はROS の産生を促し卵子に有害であることが明らかとなった。 減数分裂時の卵子のグルコース代謝と培養液中のグルコース濃度との間には 密接な関係があることが報告されている (Schuster and Skliar, 1991; Krisher and Bavister, 1999) が,初期胞状卵胞由来 OGCs へのグルコース濃度の影響を 示した報告はわずかである。本章の結果より発育培養液中の高濃度のグルコー スは OGCs のグルコース消費量を増加させ,その後の炭水化物代謝に影響を及 ぼすことが示唆された。また,培養 12 日目では発生の良好な OGCs と不良な OGCs 間にグルコース消費量に明確な差が見られたが,培養 4 日目でのグルコ ース消費量の差は卵母細胞の発育能力の差を反映しなかった。既報では初期の ステロイドの産生能力がその後の発育の可否と関係していることが示されてい る (Endo et al., 2013) が,グルコースの代謝能力の差をその後の培養成績の指 標に用いることは難しいと考えられた。

続く実験では,既報で報告のある発育の指標 (Motlik and Fulka, 1986; Bui et al., 2009; Pan et al., 2012) を用いて異なるグルコース濃度条件下で発育し た卵母細胞の質を比較した。OGCs を異なるグルコースを含む培養液中で培養 したところ腔の形成率は両濃度間で近い値を得た。 腔形成は,OGCs の体外培 養の指標であり,腔の形成とその構造の維持は卵母細胞と周囲の顆粒層細胞と の間の相互作用ならびに両細胞群の生存性と密接に関連している。本章の結果 では,高濃度のグルコースは OGCs の生存性に影響を及ぼさないと考えられた。 さらに,体外培養後の卵母細胞のクロマチン形態および H4K12 のアセチル化レ

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38 ベルは両グルコース濃度区間で同等の値であった。加えて,成熟培養後の核成 熟率,胚発生率ともに差は認められなかった。Chang ら (2005) は,糖尿病モ デルマウス卵母細胞の H4K12 のアセチル化状態が未熟であることを報告して おり,本章の結果よりヒストンのアセチル化度合の異常は,グルコースの濃度 ではなく糖尿病に付随した細胞や内分泌因子が関与することが示唆された。そ して,初期胞状卵胞から胞状卵胞への発育時における高いグルコースの濃度自 体が卵母細胞の質に影響を与えないことを示した。興味深いことに,体外発育 培養によって卵母細胞のGV1 の割合は有意に増加し,体内発育卵母細胞の割合 と近い値となったが,体内発育卵母細胞と比べ H4K12 のアセチル化度合は有意 に低く,培養後の卵母細胞の発育は不十分であることが考えられた。成熟培養 および胚発生の実験結果より,体内発育卵母細胞と比べ体外発育卵母細胞が低 率であるという結果を踏まえると,卵母細胞の発育の指標としてはクロマチン 形態よりヒストンアセチル化状態を検証した方がより正確であると考えられた。 体内で発育した胞状卵胞より採取した COCs を,高グルコース濃度条件下で 成熟培養した場合,胚盤胞期胚までの発生率は低下し,その総細胞数は有意に 低い値となった。さらに,成熟培養液中の高グルコースは卵子中の ROS 産生量 を有意に増加させた。高グルコース濃度によるROS 産生が増大することは,体

細胞を用いた研究で示されており(Escudero-Lourdes et al., 2012; Mortuzaz et al., 2013),さらにウシの卵子および胚においても成熟および発生培養液中のグ

ル コ ー ス は ROS の 産 生 を 促 す こ と が 報 告 さ れ て い る (Iwata et al., 1998;

Hashimoto et al., 2000)。Ou ら (2012) の報告では高インシュリン血症マウス

の血中グルコース量は高く,これらの GV 期および MII 期の卵子中 ROS 量は正

常マウスと比べ多い。また胚の発生率も低率であることを示している。さらに Chang ら (2005) も,高血糖マウスの卵子が低質であることを報告している。

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39

な分子メカニズムは不明である。本実験は,高酸素 環境下 (20% O2) で行われ

ており,グルコースは炭水化物を含む代謝 (酸化的リン酸化,脂質の β 酸化, 解糖) に影響し (Su et al.,2010; Vazquez-Martin et al., 2013),酸素濃度も同様 にこれらの代謝に影響を与える (Papandreou et al., 2006; Taylor, 2008) こと

から,高濃度のグルコースによって誘発された ROS の生成は,高酸素環境が影 響を及ぼした可能性も考えられる。本章では,初期胞状卵胞卵母細胞の体外発 育には長期間を要するため,比較するのに十分な卵母細胞の数の確保が困難で あり ROS 量の測定を行っていない。しかし,高グルコース条件下で培養した卵 母細胞は通常のグルコース濃度と同等の発生率を示したことを考慮すると,高 グルコース濃度は初期胞状卵胞から胞状卵胞への発育時より成熟段階において 毒性を示すことが示唆された。これは,糖尿病などの高血糖環境下の卵母細胞 を減数分裂時に体外で処理することで,その卵母細胞の質を維持することがで きる可能性が示唆され,疾患者への生殖医療技術への応用が期待される。

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48 第四章 ステロイドホルモンがブタ卵母細胞の体外発育に及ぼす影響 第一節 緒言 二次卵胞から三次卵胞へと移行する発育後期の卵胞の特徴は,性腺刺激ホル モンによるステロイドホルモン生産と腔の形成である。特にステロイドホルモ ンのひとつである E2 は,莢膜細胞から供給されたアンドロステンジオン (A4) を基質とし,FSH の刺激を受けた顆粒層細胞においてアロマターゼにより生産 され,FSH による顆粒膜細胞の増殖を助長する働きを持つ (Reilly et al., 1996)。 またE2 は顆粒層細胞の FSH 受容体を増加させることで FSH の作用を増強し, これにより大量のE2 が分泌される。産生された E2 濃度は卵胞の成長に伴い増 加する (Chang et al., 1976)。また莢膜細胞を含む未発育卵胞を体外で培養した 場合も発育に伴い培地中 E2 濃度が増加することが多くの動物種で報告されて

いる (Itoh et al., 2002)。一方で,卵胞から OGCs を採取し,莢膜細胞を取り除

いた培養方法では培地中へ E2 を加えることにより発育した卵子を獲得してい る (Hashimoto et al., 2007)。さらに第二章の実験において E2 の産生に関わる 遺伝子の発現の顕著な亢進が顆粒層細胞に観察されている。そのため,体外培 養環境を構成する要因として E2 は重要な役割を担うと考えられるが,ブタ未発 育卵母細胞の体外培養における最適な E2 濃度について報告した例はない。また, E2 の前駆体である A4 添加が E2 同様,顆粒層細胞の増殖を促進することや, 最 近 の 研 究 に よ り 卵 子 の 減 数 分 裂 能 力 獲 得 を 促 進 す る こ と が 報 告 さ れ て い る (Ikeda et al., 1999; Taketsuru et al., 2011)。A4 の効果を検証した論文の多く

は E2 の卵胞形成に対する働きに対しては懐疑的であり,E2 は卵胞の成熟や排

卵 に の み 効 果 を 有 す る の で は な い か と 考 察 し て い る (Hu et al., 2002;

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49 よ っ て 抑 制 的 な 効 果 を 持 つ こ と も 報 告 さ れ て い る (Walters et al., 2008; Okutsu et al., 2010)。 ステロイドホルモンの生合成と代謝経路は複雑であり,個々のホルモンの作 用機序を検証することは非常に困難である。そこで本章では,ブタ前胞状卵胞 由来 OGCs の体外発育環境に E2 の前駆体である A4 を添加することで,産生さ れた内因的な E2 の効果を調査し,E2 が直接卵胞の発育に重要かどうかについ て検証した。

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50 第二節 材料および方法 1) 試薬 以下,特に記述のない試薬および培地はナカライテスク (Kyoto, Japan) の 製品を用いた。 2) 供試卵巣 第二章第二節参照。 3) 卵母細胞の採取と発育培養 第二章第二節と同様に,直径 0.2~0.3 mm の前胞状卵胞,0.5~0.7 mmの初 期胞状卵胞より OGCs を採取し,14 日間の個別培養を行った。発育培地は,0 ~10 µg/mL E2 あるいは 0~10 µg/mL A4 をそれぞれ添加した。 E2 添加 (1 µg/mL) あるいは非添加条件下で 4 日間培養し,E2 前処理を行っ た。4 日後,回収した OGCs をそれぞれ E2 非添加培地で 3 回洗浄した。その後, OGCs をそれぞれ無作為に二分し,E2 添加 (1 µg/mL) あるいは非添加条件下 で 10 日間培養した。 4) E2 濃度の測定 A4 添加 (0.1 µg/mL) 条件で 14 日間の培養終了時に OGCs の生存性を考慮し クラス分けを行った。培養終了時に腔を有している OGCs を腔形成 (+) 区, 腔を有していないOGCs を腔形成 (-) 区とした。培養 4 日および 14 日目に培 養液を回収した。回収した培養液は測定時まで−20°C で保存した。培地中 E2

濃 度 の 測 定 は E2 測 定 キ ッ ト (DELFIA estradiol reagents; PerkinElmer,

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51 で測定した。E2 濃度は DELFIA Research 蛍光光度計により蛍光強度を測定し, MulitCale ソフトによりサンプル中の E2 濃度を算出した。測定内変動係数は 1.04 であった。 5) 統計処理 全ての統計解析は分散分析後,Fisher の LSD 法により P 値が 0.05 以下を有 意差ありとした。培地中E2 濃度は Student’s T-test を用いて腔形成 (+) 区と (-) 区を比較し,それぞれ P 値が 0.05 以下を有意差ありとした。

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52 第三節 結果 前胞状卵胞由来 OGCs の培養最終日における腔形成率は,E2 濃度 1 µg/mL 区において最も高い値を示し (69.3%),0.1 µg/mL,10 µg/mL 区間において有 意な差は見られなかった (49.6 vs. 40.2%)。また,0 µg/mL 区では腔形成は観察 されなかった (Fig. 13.)。E2 の前駆体である A4 を 0~10 µg/mL 添加した場合, 0.1 µg/mL 区 に お い て 腔 形 成 率 が 他 の 濃 度 に 比 べ 有 意 に 高 い 結 果 と な っ た (35.2%)。また 0 µg/mL 区,10 µg/mL 区では腔形成がほとんど見られなかった (2.8 vs. 3.0%,Fig. 14.)。 A4 0.1µg/mL 添加条件において培養最終日に腔形成が観察され,(-) 区と比 べ培養 4 日目における培地中 E2 濃度が有意に高い値となった (8.3 vs. 3.2 ng/mL,Table 10.)。 E2 あるいは A4 添加培養液に,さらに E2 レセプター阻害剤であるフルベス トラントを 1 µg/mL 加えると,両ホルモン添加条件ともに腔の形成が阻害され た。しかし,E2 濃度を 0.1 µg/mL から 1 µg/mL に高めることで 0.1 µg/mL E2 のみ添加した対照区に匹敵する腔の形成率が得られた (65.2 vs. 63.1%) ことか ら,本実験に用いたフルベストラント濃度は毒性がなく,E2 レセプターの競合 阻害効果が確認された (Table 11.)。 上述の実験とは異なり,卵巣内から卵胞腔を形成を開始した,最初の実験で 用いた卵胞卵母細胞よりさらに発育の進んだ初期胞状卵胞由来 OGCs を E2 濃 度 0~10 µg/mL の条件で培養したところ,E2 添加濃度に関わらず高い腔形成 率を示し,E2 非添加区においても腔の形成が観察された (Fig. 15.)。 続いて,前胞状卵胞由来 OGCs を E2 添加条件下で 4 日間培養した後に E2 非添加の条件下で培養したところ,腔の形成が起こることが確認できた。さら

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53

に,E2 非添加培地で 4 日間培養し,その後 E2 を添加したところ,腔の形成は E2 添加区と比べ非添加期間に値する 4 日間の遅れが観察された (Fig. 16.)。

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54 第四節 考察 前章の実験では体内発育卵母細胞に比べて体外で発育した卵母細胞の性状が 著しく劣っていることが示されている。一方で卵胞の体外培養条件を構成する 因子は非常に多い。そこでまず,前胞状卵胞の最も大きな特徴である腔形成と E2 の分泌を対象に実験を行った。 前胞状卵胞由来 OGCs は E2 濃度により異なる腔形成率を示し,1 µg/mL 区 において培養 14 日目で最も高い割合となった。E2 の前駆体である A4 では 0.1 µg/mL 区において最も高い促進効果が観察されたが,高濃度区 (1,10 µg/mL) ではその腔形成率は低下し,培養 14 日目まで卵母細胞と顆粒層細胞で構成され る複合体の形態を維持できなかった。ウシを用いた実験では,初期胞状卵胞由 来 OGCs の最適な濃度は 0.01 µg/mL であり,これより高濃条件では腔の形成

率が減少することが報告されている (Taketsuru et al., 2011)。また Walters ら (2008) の報告であるように,A4 は発育促進的な効果と抑制的な効果を持って いること,そしてマウス前胞状卵胞卵母細胞を体外培養した場合では,A4 は顆 粒 層 細 胞 の 分 化 を 促 進 し , ア ポ ト ー シ ス を 誘 起 す る こ と が 報 告 さ れ て い る (Okutsu et al., 2010)。従って本章においても,高濃度の A4 は顆粒層細胞に対 し悪影響をもたらしたのではないかと考察した。 A4 添加条件において培養終了時に腔形成が確認された区は,培養 4 日目にお いてすでにE2 の産生能力が高いことが明らかとなった。過去の報告では,OGCs の E2 産生能力と発育能力との間には正の相関があることを示している (Xu et

al., 2006; Walters et al., 2008)。また,第二章における遺伝子の網羅解析結果

に お い て , 発 育 が 進 ん だ 卵 胞 中 の 顆 粒 層 細 胞 は E2 産 生 酵 素 を コ ー ド す る

CYP19A1 と HSD17B1 の発現増加を確認している。一方で,この時に得られた E2 濃度は 8.3 ng/mL であり,前述の至適添加濃度である 1 µg/mL に比べ著し

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55 く低い値であった。しかし,これは本研究で用いた培養システムには培養液に PVP を用いているため,その粘性により培地中に濃度勾配が生じ,OGCs 周囲 の E2 濃度は高く維持されている一方で培地全体を撹拌すると薄くなってしま った結果ではないかと予想した。 E2 添加条件下にさらに E2 レセプター阻害剤であるフルベストラントを添加 することにより腔形成効果は消失し,またE2 濃度を高めることにより,再び腔 の形成が観察されたことから本章に用いたフルベストラント濃度に毒性はなく, E2 の効果を十分に阻害できたと考えられた。さらに A4 の効果がフルベストラ ントにより抑制されたことは培養液中に添加した A4 は E2 に変換されたのち OGCs の形成を促進していると考えられた。これらの結果より,内因的および 外因的な E2 が OGCs の腔形成に重要であることが示された。一方で,初期胞 状卵胞由来 OGCs は E2 非存在下においても腔の形成を示した。体内での卵胞 発育では,E2 の産生と腔の形成が共調されており,採取時において既に初期胞 状卵胞由来OGCs は卵胞液中の E2 に暴露されていることが示唆された。また, 前胞状卵胞由来OGCs を E2 で前処理したあと,E2 非添加条件で培養した場合 でも腔形成を示したこと,さらに非添加条件下で培養後 E2 添加条件で培養した 場合,非添加期間同等の遅延が認められたことより,E2 は腔の形成の発起点で あることを結論付けた。

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62 第五章 総括 卵母細胞の発育は顆粒層細胞との相互作用の下行われるが,大型の哺乳動物 では発育に要する時間が長く,未熟な卵胞卵母細胞を効率よく発育させる体外 培養条件は未だ確立されていない。本研究では,ブタをモデルに未熟な卵母細 胞顆粒層細胞複合体 (OGCs) の体外培養条件を改善するため,1) 現状の体外培 養にて得られる発育卵母細胞が,体内発育ではどのサイズの卵胞内卵母細胞に 該当するのか,また該当した卵胞サイズへの発育過程で,体内ではどのような 変化が起こっているのか,2) 解糖系が卵胞発育中に亢進することを受け,糖の 効果と意義,3) ステロイド合成が亢進することを受け,エストラジオールの効 果と意義の解明に取り組んだ。 1) 体内および体外で発育したブタ卵母細胞の比較 まず,生体内におけるブタ卵母細胞が発育に伴いどのように変化するのかを 把握するため,卵巣より様々なサイズの卵胞を切り出し,内包される卵母細胞 のサイズ,クロマチンの形状および核成熟能力を比較した。次に,前胞状卵胞 (直径 0.2-0.3 mm) と初期胞状卵胞 (直径 0.5-0.7 mm) から OGCs を切り出し, それぞれ28 日および 16 日間体外発育培養を行い,培養後に OGCs から回収し た卵母細胞の直径,クロマチンの形状および体外成熟培養後の核成熟率を比較 した。その結果,前胞状卵胞由来で,体外発育した卵母細胞は,直径2 mm,初 期胞状卵胞由来では直径 3 mm の卵胞に内包される卵母細胞に相当することが 示された。そこで次に,これらの卵胞内の顆粒層細胞群の特徴を調べるため, 直径 0.5-0.7 (培養前の卵母細胞に該当),1-3 (培養後の卵母細胞に該当) および 5 mm 以上 (発育を完了した卵母細胞に該当) の卵胞から OGCs を取り出し,そ れらの顆粒層細胞を対象に網羅的遺伝子解析を行った。その結果,卵母細胞を

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63 取り巻く顆粒層細胞に起こる変化では,OGCs の発育に伴い解糖系が有意に増 加することやエストラジオール (E2) の合成に関わる遺伝子群の有意な亢進が 認められた。OGCs の体外培養に用いられる基礎培地は塩類,アミノ酸,糖, そしてステロイドホルモンから構成される。そこでまず ,糖の利用および E2 に着目して検討を進めることにした。 2) エネルギー環境がブタ卵母細胞に及ぼす影響 卵胞液中に含まれるグルコース濃度はおよそ 5.5 mM であり,これは一般に OGCs の培養に用いられる培地 (αMEM) の含有量と類似する。しかし,血流の 無い培養容器中では OGCs 近位部でグルコース濃度が低くなっていると考えら れる。また,糖尿病モデルのマウスの卵子は小さく,減数分裂時に異常が起こ ることが示されているが,高濃度のグルコースが OGCs の発育を促進するのか, 逆に卵子の質低下を招くかは不明である。そこで高グルコース濃度条件として 11 mM を設定し,これと 5.5 mM (通常グルコース濃度) の間で卵母細胞の発育 を比較することにした。卵胞液の蓄積が開始した初期胞状卵胞を対象とし,採 取したOGCs を 2 つのグルコース濃度で培養した。すると高グルコース濃度条 件は通常濃度に比べ細胞のグルコース消費量を有意に増やし,培養中の腔形成 も向上させる傾向が観察された。しかし,体外発育後の卵母細胞の直径,クロ マチンの形状,ヒストンのアセチル化状態,核成熟および活性化処理による発 生率のいずれの指標においても 2 つのグルコース濃度間に差は観察されなかっ た。このため,高グルコース濃度条件は OGCs の体外発育を大きく改善させる 効果が少ないと考えた。一方で,体内発育を終了した直径 3-5 mm の胞状卵胞 由来卵母細胞の体外成熟培養時には,高グルコース濃度条件は卵子の活性酸素 含量を有意に増加し,さらに胚盤胞期胚への発生能力を低下させた。このこと

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64 から,高グルコースの濃度の障害は,卵母細胞の体外発育時よりも,後期の減 数分裂再開以降に起こることが明らかになった。 3) ステロイドホルモンがブタ卵母細胞の体外発育に及ぼす影響 前胞状卵胞以降の発育における形態的に大きな変化として,ステロイドホル モン産生と卵胞腔の形成がある。特にステロイドホルモンである E2 は,卵胞の 発育に伴い卵胞液中に蓄積し,これは体外で OGCs を培養した場合にも観察さ れる現象である。一方で,E2 の前駆体であるアンドロステンジオン (A4) の添 加が未発育卵胞の発育を促進する報告もあり,E2 の卵胞発育に対する効果に対 してはE2 そのものなのか,A4 なのか議論が分かれている。そこで,前胞状卵 胞由来のOGCs を対象に E2 または A4 が体外発育に及ぼす影響を調査した。前

胞状卵胞由来 OGCs の腔の形成は,E2 1 µg/mL,A4 0.1 µg/mL 添加時にそれ

ぞれ最大の促進効果が観察された。また,A4 添加培地では,腔の形成以前に既 に多くの E2 を産生している OGCs にその後高い発育能力が認められることが 明らかとなった。さらに,E2 レセプターの阻害剤であるフルベストラントの添 加によって,E2,A4 共に腔形成促進効果が阻害されたことから,添加もしくは 分泌したE2 が OGCs の発育に重要な役割を持つことが示された。この E2 の感 受性には卵胞のステージ間で差が認められ,卵胞腔形成を開始した初期胞状卵 胞由来OGCs の場合,E2 非添加条件において発育が観察された。そこで E2 は 腔形成を惹起し,一度刺激されると必要性が低下するのではないかと考えた。 前胞状卵胞由来 OGCs を培養初期の 4 日間だけ E2 暴露したところ,予想どお りその後 E2 非添加の条件下でも発育した。さらに,E2 非添加条件で 4 日間培 養後にE2 を添加した場合では,腔の形成を含む発育が 4 日の遅延が見られたこ とから,E2 は OGCs の発育のきっかけとして働くことが明らかとなった。

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65 本研究より,1) 体外発育卵母細胞の質は,体内の発育が完了する以前の小さ な卵胞内卵母細胞の質と同等であること,2) 発育培養時のグルコースは卵母細 胞の発育能に影響を及ぼさないが,減数分裂時に卵子の質の低下を招くこと, そして3) 外因性および内因性の E2 が卵胞腔の形成に必須であることが明らか となった。 家畜大動物の未発育卵母細胞の体外培養法の確立は,優良個体のメス遺伝資 源を有効利用するだけでなく,近年の高齢化に伴う生殖医療の発展に寄与する。 さらには,体細胞より派生した多能性幹細胞から分化誘導した生殖幹細胞の培 養法を確立する足がかりとなりうる。ブタの前胞状卵胞および初期胞状卵胞よ り採取した OGCs から,減数分裂能力を有した卵子を高率で得た報告は,本研 究が初めてである。また,培養液の組成の改良や培養途中の操作が容易である ため,これまで困難であった大動物の卵子形成を解明するツールになると思わ れる。

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Summary

In vitro growth of porcine oocyte-granulosa cell complexes Hidetaka TASAKI

Establishment of culture methods for the in vitro development of oocytes derived from immature ovarian follicles could be useful for the production of embryo of livestock animals and would be beneficial for assisted reproductive technology in humans. However, a culture method has not yet been established for large domestic animals; the efficiency of oocyte growth is still low and the time required for oocyte growth is very long. In the present study, I established a culture system for porcine oocytes derived from early antral follicles (EAFs). First, I compared oocytes grown in vitro with those derived from follicles and determined the follicle diameter that corresponded to the size of oocytes grown in vitro. I then examined oocytes-granulosa cells complexes (OGCs) during oocyte growth from EAFs to antral follicles (AFs) using next-generation sequencing technology and identified glucose and steroid in culture media as targets for the following experiment and determined that genes involved in glucose and steroid synthesis were important during development. Next, I examined the effect of hyperglycemic culture conditions on the quality of oocytes derived from EAFs. Finally, the role of estradiol (E2) on antrum formation of OGCs derived from preantral follicles (PAFs) was assessed.

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vitro with those derived from follicles of various diameters grown in vivo. Oocyte diameter, chromatin configuration, and nuclear maturation were examined. In the culture conditions exmined, in vitro oocytes corresponded to oocytes collected from AFs that were 2 mm in diameter. Thus, I conducted a comprehensive gene expression analysis of the granulosa cells collected from EAFs, small AFs (2 mm in diameter), and large AFs (5 mm in diameter), and found that the development of oocytes from EAFs to AFs (2 mm in diameter) was characterized by increasing expression of glycolysis and steroid synthesis genes.

In the next study, I examined the effect of hyperglycemic culture conditions on the development of oocytes derived from EAFs. OGCs derived from EAFs were cultured for 12 days in medium containing 5.5 mM or 11 mM glucose. The rate of antrum formation and glucose consumption by the OGCs and the characteristics of the oocytes grown in vitro were studied. The results were compared with those obtained for oocytes derived from antral follicles (AFs; 3–6 mm in diameter) in vivo. In addition, the effect of a high glucose concentration in the maturation medium on the quality of oocytes derived from AFs was examined. The high glucose condition resulted in increased glucose consumption of the OGCs but did not affect antrum formation, oocyte diameter, chromatin configuration, levels of H4K12 acetylation, nuclear maturation, or the developmental ability of oocytes grown in vitro. In contrast, high glucose maturation medium for full grown oocytes resulted in increased reactive oxygen species and adversely affected the developmental ability of the oocytes. The results of this study suggest

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that culture under hyperglycemic conditions is detrimental to oocyte maturation but not oocyte growth from the EAF stage to the AF stage.

Finally, I examined the effect of estradiol on oocyte growth in vitro. Antrum formation and E2 secretion are specific events during early folliculogenesis. This study investigated the role of E2 in antrum formation of OGCs derived from PAFs. Supplementation of the culture medium with E2 (1 µg/mL) improved antrum formation of OGCs during the 14-day in vitro culture Supplementation of the culture medium with androstenedione (a precursor of E2, A4; 0.1 µg/mL) also improved antrum formation of OGCs, and a higher E2 concentration was detected in the medium of developmentally competent OGCs than that of incompetent OGCs (8.5 vs 3.5 ng/mL, P < 0.05). Fulvestrant (1 µg/mL), a competitive inhibitor of E2, completely inhibited antrum formation of OGCs that were cultured in medium containing either E2 (0.1 µg/mL) or A4 (0.1 µg/mL). However, increasing the E2 concentration to 1 µg/mL ameliorated the inhibitory effect. In the case of EAFs, OGCs formed antrums without E2 supplementation. Pretreatment of OGCs with E2 derived from PAFs resulted in antrum formation, even when the OGCs were subsequently cultured in medium without E2. Furthermore, antrums formed in a culture of OGCs in medium without E2 followed by an additional in vitro culture in medium with E2, albeit with a delay that corresponds with the pretreatment period. In conclusion, the presence of E2 in the culture medium is indispensable for in vitro antrum formation of OGCs derived from PAFs, and E2 is involved in the initiation of antrum formation.

参照

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