論 文
鉄(VI)酸カリウムによる下水および
フルボ酸の酸化
風間ふたば
(昭和58年8月31日受理)
Oxidation of Organic Matters in Waste Waters and
Fluvic Acid by Potassium Ferrate (VI)
FutabaKAZAMA
Abstract Ferrate is a powerful oxidizing agent promising in sanitary use, but there are very few investigations about its mode of action on complex organic matters in waste waters. In the present study, change in values of TOC and CODM、 of soluble and insoluble fractions of waste waters, and change in UV.absorptioll profile of且uvic acid extracted from sewage sludge after treatment with potassium ferrate were investigated, and the following results were obtaind: 1) Increase in TOC value of filtrate and decrease in CODM、 of waste waters were noted after treatment with ferrate, probably because of solubilization of particulate organic substances and partial oxidation of them by ferrate. 2) Decrease in UV.absorption of fluvic acid after treatment with ferrate was dependet on its molecular weight, and especially marked in fractions of molecular weight 100 to 10001.はじめに
鉄は通常2価または3価で存在するが,最高6価ま での原子価を持つことが可能であり,MFeO4の組成 を持ったこれらの塩は鉄酸塩と呼ばれている。 表一1は鉄⑩酸イオンの酸化還元反応および純水中で の分解反応である。鉄⑱酸塩は,酸性およびアルカリ 性で高い標準酸化還元電位を持つ酸化剤で,純水中で 分解すれば酸素と水酸化鉄を生成しアルカリ性を呈す る性質を持っている。 多種の鉄酸塩が存在するといわれているが,常温で 安定で,かつ高純度の化合物が得られているものは数 少なく,もっぱら鉄(Vi)酸カリウム(K2FeO4)を用いた 研究が行われている。 Schreyer1}らにより高純度のK2FeO4を収率高く合 成する方法が開発され,さらにその分析方法が確立さ れてからは,Schreyer2}, Wood3), Wagner4)らによっ てK2FeO4の物理化学的特性や分析化学への適用に関 する検討がなされていたが,近年,水処理剤としての 適用が検討されるようになり5)・6)など,著者らも殺菌作 用についての実験結果を報告している7)・8)。 K2FeO4の酸化作用に関してはCarr9)やWaite1°) らの報告があり,酸化条件の検討のほか,酸化反応速 度の測定も行われている。これらは数種の有機化合物 *環境整備工学科,DePartment of Engineering 表一1鉄(W)酸イオンの反応 Environmental 純水中での分解反応 2FeO42−十3H20→2FeO(OH)十3/202十40H一 酸化還元反応 酸性条件 FeO42−十8H+十3e→Fe3+十4H20 Ee=2.2±0.03 V アルカリ性条件 FeO42−十4H20十3e→Fe(OH)3十50H− Eo =O.72±0.03 Vを用いて緩衝溶液中で実験を行ったもので,その結果 有機物との酸化反応と並行してK2FeO4による水の酸 化分解反応が進行していること9)や,酸化力を持った 中間体が存在する可能性が推察されている1°)。 このように,K2FeO4の酸化反応の過程は複雑で反 応機構についてはいまだ不明な点が少なくないが,水 処理剤としてのK2FeO4の特性を明確にするためには 下水などを対象に,K2FeO4の酸化による水中の有機 物の質的な変化の特徴を把握しておくことも必要であ ろう。 本報では,下水処理工程水(初沈水,終沈水)のほ か初沈汚泥より分離したフルポ酸を実験材料とし,下 水処理工程水の場合にはK2FeO4添加前後のCODM。, TOCの測定を,またフルポ酸の場合にはその分子量 分画を行った結果を報告する。 2. 実験材料および実験方法 (1)下水処理工程水の酸化実験 甲府市大津終末処理場より初沈水と終沈水を採取し 試料水とした。 試料水40mlにK2FeO4粉末を125∼1000 mg/1と なるよう一定量ずつ添加したものを二組作成し,暗所 に24時間放置した。 K2FeO4添加直後はFeO42一の存在を示す紫色の溶 液となるが,放置する間に除々に紫色は消失し,水酸 化鉄を含む沈殿部分と上澄み部分に分離した。この溶 液のpHは表一2にまとめて示したようにK2FeO4添加 量が多くなると強いアルカリ性を呈していた。 K2FeO4を添加した一組のうち一方で,上澄み液の CODM、(S−CODM。)および0.45μmメンブランフィ ルター炉過液のTOC(F−TOC)を測定し,他の一方 では沈殿部分も一緒に撹梓した懸濁液のCODM。(T− CODM.)を測定した。 (2)フルポ酸の酸化実験 実験に用いたフルポ酸は,甲府市住吉終末処理場の 初沈汚泥よりシモン変法11)に従い分離した。 約150mg−c/1のフルポ酸を含む15/M Sφrensen 表一2K2FeO4添加量とpH (添加後24時間)
K・F…(m・/1)1初沈水終淋
0 125 250 500 1000 7.4 8.4 9.0 9.7 10.3 8.1 9.0 9.6 10.3 11.6 リン酸i援衝溶液に125mg/1,250 mg/1となるように K2FeO4溶液またはK2FeO4粉末を添加して,25°Cの 水浴中に2時間放置した。この間に紫色は完全に消失 したが,リン酸緩衝溶液を用いたために水酸化鉄の沈 殿は観察されず,透明な黄色溶液となった。また試水 のpHはほとんど変化していなかった。 これを内径2.1cm,長さ58 cmのセファデックス G−15ゲルカムに注入し,0.01MNaC1溶液を溶離液 にして分子量分画を行った。カラム溶出液はフラクシ ョンコレクターで5m1ずつ分取して,そのTOCおよ び220nm,260・nmの紫外部吸収を測定した。 なお実験にはSchreyer1)の方法に準じて合成した 純度94.5%のK2FeO4を使用した。 3.結果と考察 3.1K2FeO4の酸化による下水処理工程水のCODM、 TOCの変動
下水処理工程水にK2FeO4を添加すると, K2FeO4 は最終的に水酸化鉄の沈殿を生成するので,K2FeO4 添加後の試水中には 1)生成した水酸化鉄とともに 沈殿している有機物,2)上澄み液中に懸濁している 有機物,3)上澄み液中に溶存している有機物が存在 している。そこで,測定した各有機物量とこれらの有 機物とを表一3のように関係づけて考えることにする。 図一1,図一2はK2FeO4添加量と各有機物測定値との 関係である。 初沈水は終沈水に比べT−CODM。として約6倍の 有機物を含み,しかもその70%ほどは沈降しやすい懸 濁態の有機物である。一方終沈水のT−CODM。は約 9mg−02/1で有機物濃度は低く, T−CODM・とS−CO DM.との差が少ないことから,溶存性有機物の割合が 高いことがわかる。 K2FeO4添加量を増加すると,初沈水,終沈水の場 合ともK2FeO4添加量500 mg/1まで0・45μmメンブ ランフィルターを通過する有機物(F−TOC)が顕著に 増加しているのが特徴的で,K2FeO4の酸化により懸 濁態の有機物が可溶化したものと考えられる。 ここで,K2FeO4添加量500 mg/1の場合のTOC値 とK2FeO4を添加しない場合の値とからK2FeO4の酸 表一3試水中の有機物§欝:1:::::/ T−CODMn
昭和58年12月 山梨大学工学部研究報告 第34号 70 60 ミ
950
菖 ご240
≡ 、930
ぎ 三820
0
10 一一一一△一メレ’F−TOC 15・0
0 250 500 750 1bOO K、FeO、(mg/1) 図一1K2FeO4による初沈水の酸化40
ミ9
旦30
8
巳ミ20
6
旦 皇 108
⇔ 0 ミ 910・0 旦8
b 5.0隅O l5 20 25 30 35 40
フラクションNo. 図一3初沈汚泥より分離したフルポ酸のゲルクロマトグラム 画群1 画群1 画群皿 P−CODMn 0 250 500 750 1000 K2 FeO4(mg/の 図一2K2FeO4による終沈水の酸化 化によるTOCの増加量を算出すると,終沈水は11.・4 mg−C/1,初沈水では35.5mg−C/1となる。 K2FeO4 添加前の試水のP−CODMnは終沈水で0.76mg−02/1, 初沈水では41.1mg−02/1なので,下水処理工程水の 場合には懸濁態の有機物が多いほど,TOCの増加量 も多くなった。 CODM・の変動をみると,初沈水ではK2FeO4添加 量の増加につれてT−CODMn, P−CODM、が20 mg− 02/1∼30 mg−02/1も減少している。 S−CODM、はF− TOCと同様に増大する傾向があるが, F−TOCに比べ ればその増加は緩慢である。 終沈水の場合にはP−CODM、の変動はほとんど認め られないが,T−CODM。, S−COD.nともわずかなが ら減少していた。KMnO4によるCOD値は,一定条件下で反応した
45 ときに消費されるKMnO4量を表すもので,当然のこ とながら試料水中の全有機物量を表しているものでは ない。 今回の場合には,初沈水も終沈水もK2FeO4の添加 により溶存性の全有機物量を表すF−TOCが増加して いるので,T−CODM。やS−CODM。の減少は,有機物 が酸化によって無機化されたり,水酸化鉄とともに有 機物が沈降して上澄み液中の有機物量が減少したと考 えるには無理があろう。 試料水中の有機物がKMnO4の酸化をうけにくい化 合物へと変化したかまたは有機物中の炭素量あたりの 酸素量が増加したためCOD値が減少し,見かけ上有 機物濃度が減少しているように見えると考えた方が適 当ではなかろうか。 3.2K2Fe仇によるフルポ酸のゲルクロマトグラ ムの変動 つぎに,初沈汚泥より分離したフルポ酸を対象にゲ ルクロマトグラフィーを行い,K2FeO4の酸化による 溶存性有機物の分子量分布の変動を調べた。 図一3は実験に用いたフルポ酸のゲルクロマトグラム である。このフルポ酸は図中に示したように分子量が 1000以上の画群1,分子量100∼1000の画li,分子量 100以下の画群皿に分画できた。 Carr9}はK2FeO4による溶存性有機物の酸化に関 し,生下水の炉過水をK2FeO4で酸化後にCODc,が 増加することを報告しており,腐植質のようなK2Cr2 07の酸化をうけにくい高分子の化合物がK2FeO4の 酸化により低分子化したのではないかと考えている。 そこで,まずK2FeO4の酸化によるフルポ酸の分子 量分布の変動を調べるために,K2FeO4添加前後の各 画群中のTOC割合を算出した。 表一4はフルポ酸にK2FeO4を125 mg/1,250 mg/1 添加したときの実験結果をまとめたものである。画 群1にはもともと40%程度の有機物が存在したが,表一4 K2FeO4濃度と各画群中のTOC割合 (%)
K・F…(m・/1)陣群1嚇H画群皿
0 125 250 43.4 40.4 43.7 41.0 48.0 38.9 16.2 15.3 13.1 K2FeO4の酸化後もその割合はほとんど変化し ていない。むしろK2FeO4添加量を増加すると 画群皿,皿中のTOC割合は減少して画群1の 割合が増加したようにさえ見うけられて,今回 の実験では分子量の大きい有機物の低分子化は 認められなかった。 一方図一4は,実験に用いたフルポ酸の紫外部 吸収を測定したゲルクロマトグラムを示してい る。 画群皿には強い紫外部吸収を示す化合物が存 在したが,K2FeO4の酸化によりこの画群の紫 外部吸収が急激に減少しており,とくにフラク ション番号31での減少は顕著である。n
1・.9∼ 220nm .4 一一一一一 Q60nm .3 0.2 0.4 一’ 、 0.1 0.3 ’ 、 j2FeO4 ノ _へ Omg〃 /一一一一” 一 一、 _ 一 一 一 一、 0 02 ノ’、、,、 ’ 、 ’ 、 P25mg〃 ,___ノ ’ 、 、 ’、一’、 、 、 _ 0.1 0 ’⇔、 @、一一 ,一一一! Q50mg/」 / ’ ’ 、、`一ン、 ∼一∼ 10 15 20 25 30 35 フラクションNo. 40 0.3 0.2 O.1 0 45 図一4K2FeO4処理によるフルポ酸のゲルクPマトグラムの変化 高分子の有機物の低分子化は認められなかったもの の,たとえば芳香族環の開裂のように一部の分子構造 が紫外部吸収の少ない形へと変化したことは明らかで ある。また,このような酸化作用が分子量100∼1000 の画群皿で著しいことは,Waite12)らが指摘している ようにK2FeO4の酸化が選択的であることを示唆して いるようにも考えられる。 4. 要 約 鉄⑭酸塩はいずれのpH範囲でも高い標準酸化還元 電位を有する酸化剤だが,その酸化作用に関してはい まだ不明な点が多い。 とくに下水のように種々の形態の有機物を含む系を 対象に実験した例はほとんどないので,本実験で下水 処理工程水や,初沈汚泥より分離したフルポ酸に K2FeO4を添加して試水中の有機物の大まかな形態変 化の特徴を把握することを目的とした。以下にその結 果を要約する。 1)下水処理場の初沈水および終沈水に125mg/1 ∼1000mg/1となるようK2FeO4を添加したとこ ろ,いずれの場合も溶存性有機物の増加が確認さ れた。 溶存性有機物の増加量は懸濁態有機物が多いほ ど,またK2FeO4添加量500 mg/1まではその添 加量が増加するほど多くなり,懸濁態有機物が可 溶化したことは明らかである。 一方,K2FeO4による酸化により,試水のCO DM、は減少する傾向がみられたので,溶存性の有 機物もKMnO4消費量が減少する方向に形態が変 化したものと考えられた。 2) 下水処理場の初沈汚泥より分離したフルポ酸に K2FeO4を125 mg/1,250 mg/1添加した後分子 量分画を行ったところ,分子量分布には著しい変 化が現われなかったが,分子量数百部分の紫外部 吸収が急激に減少することが確認された。 今後も有機性排水や都市下水などを対象に同様な実 験を継続し,溶存性有機物と懸濁態有機物それぞれの 場合についてより詳細な検討を行いK2FeO4処理の特 性を明らかにしたいと考えている。 謝 辞 本研究を進めるにあたり,終始懇切にご指導いただ いた加藤健司教授に深く謝意を表す。 また,実験に協力いただいた新保文規君にも感謝す る。 なお本研究は文部省科学研究費補助金奨励研究(A)の 補助をうけたことを付記する。参考文献
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