Title
蛋白プレニル化阻害剤によるヒト肝癌由来細胞株に対する
アポトーシスの誘導( 内容の要旨(Summary) )
Author(s)
植松, 孝広
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(医学)乙 第1071号
Issue Date
1996-09-11
Type
博士論文
Version
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/15197
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氏名 (本籍) 学位の種類 学位授与番号 学位授与日付 学位授与の要件 学位論文題目 審 査 委 員 植 松 孝 広(京都府) 博 士(医学) 乙第 1071 号 平成 8 年 9 月11日 学位規則第4条第2項該当 蛋白プレニル化阻害剤によるヒト肝癌由来細胞株に対するアポトーシスの誘導 (主査)教授 武 藤 泰 敏 (副査)教授 森 秀 樹 教授 佐 治 重 豊 論 文 内 容 の 要 旨 癌原遺伝子(proto-OnCOgene)rasの遺伝子産物p21(ms)は,細胞の増殖と分化のシグナル伝達因子として,チロ
シンキナーゼ型受容体からのシグナルをMAP(mitogen activated protein)キナーゼ系に伝え,核内転写因子群を 活性化し遺伝子発現をひきおこしている。一方,ヒト腫瘍において化ぶ遺伝子の点突然変異はt 発癌に伴う遺伝子変 異の中で最も普遍的に観察されている。その機序の詳細は不明であるが,点突然変異によりp21(mぶ)は高い活性型 レベルを維持し,常に細胞増殖を刺激してしまうと考えられている。最近になり,p21(rαぶ)の活性制御機構には, 翻訳後修飾としてC末端側に付加されるイソプレノイドの一種であるファルネシル基(C.5)が必須の役割を果たして いることが明らかとなった。このファルネシル化を触媒する酵素としてFPT(farnesylprotein transferase)が見 いだされており.FPTの酵素活性を阻害する物質の抗腫瘍効果が検討され始めている。ヒト肝癌においてm5遺伝子 の点突然変異は約5%程度であるが,肝癌郎においてFPTの発現の増大やN-mぶ遺伝子の発現量の増大が報告されて いる。したがって,点突然変異の有無にかかわらずp21(rαS)が活性化されている可能性が高く,ヒト肝癌において もp21(ms)の活性制御により癌の増殖・進展の抑制が期待できる。 そこで申請者は,FPTを特異的に阻害するファルネシルアミンを中心に各種イソプレノイド誘導体の抗腫瘍効果を, ヒト肝癌由来細胞株に対する増殖抑制効果,特にアポトーシスによる殺細胞効果の面から検討した。 対象および方法 イソプレノイド誘導体として,ファルネソイン酸アミド,ファルネソール,ファルネソイン酸,ファルネシルアミ ン,イソペンテニルアミン,ゲラニルアミン,ゲラニルゲラニルアミンを用いた。ヒト肝癌由来細胞株はt PLC/ PRF-5(ras野生型),HuH-7(ras野生型)およびHepG-2(N-mSコドン61変異型)の3種を用い,10%牛胎仔血 清を含んだα-MEMにペニシリン50units/ml.ストレプトマイシン50mg/mlの濃度になるように添加し,37℃で 5%CO2存在下で培養した。マウス初代培養肝細胞は,8過齢の雄性Balb/cマウスよりコラゲナーゼ潅流法で分離 し,同様に培養した。上記4種の細胞を5×.10個/mlの濃度に懸濁し,イソプレノイドのエタノール溶液を最終濃 度1∼500〟Mになるように添加した。イソプレノイド処理24時間後に,トリバンプルー色素排除法にて生細胞数の 計測を行なった。また.アポトーシス誘導の証明としてゲノムDNAを抽出し電気泳動を行なった。25FLMファルネ シルアミン処理後24時間のHuH-7細胞についてはカルノア固定液にて固定後,へキスト33258で30分間染色し,蛍光 顕微鏡を剛、クロマチンの濃縮像を観察した。[ニ堅]-メバロノラクトンによるp21(mぶ)の代謝標識を以下の方法で 行なった。5×10個のHuH-7細胞を24時間培養した後,30/ノMのプラバスタチンナトリウムで前処理し,1時間後 に100fLCi(3・70MBq)の[:.H]-!バロノラクトンと,5∼50pMのファルネシルアミンまたはゲラニルゲラニルア ミンを同時に添加し,16時間培養した。培養後,培地を除去し細胞を生理食塩水で洗浄した。細胞をRIPA緩衝液に 溶解した後,抗p21(Ⅴ-Ha-Ras)モノクローナルラットIgG抗体を添加し,4℃で16時間静置した。その後,抗ラッ トIgG山羊ポリクローナル抗体を添加し,さらに4℃で16時間静置した。反応後,ホルマリン固定した黄色ブドウ球 菌の懸濁液を加え,8,000×g.25分間遠尤、した。RIPA緩衝液で洗浄した沈殿物を4%プロトゾールを含むシンチレー ク一に溶解し,24時間後に[‥-H]の放射能を計数した。 結 果 1)ファルネシルアミンの腫瘍特異的殺細胞効果:10%牛胎仔血清存在下でt ファルネシルアミンは,HuH-7細胞, HepGT2紬肱 PLC/PRF-5細胞に対して濃度依存性に殺細胞効果を示し,50FLMでは生細胞は認められなかった。 一ん初代増産肝朝晩に対しては,50〟Mでは全く殺細胞効果はなく,200〃Mでも80%の生細胞を認めた。
-61-2)HuH-7細胞におけるファルネシル誘導体のアミン特異的殺細胞効果:ファルネソイン酸アミド,ファルネソイ ン酸は500〟Mでもほとんど殺細胞効果を認めなかった。ファルネソールでは.200〟M以上の濃度において,濃度依 存性の殺細胞効果を示したが,ファルネシルアミンに比し明らかにその効果は弱かった。 3)イソプレニルアミンの鎖長依存的殺細胞効果:鎖長の異なるイソプレノイドにアミン基を導入してt そのHuH-7細胞に対する殺細胞効果を検討した。イソペンテニルアミン(G),ゲラニルアミン(C川)は200〟Mでも全く殺細 胞効果を示さなかった。ファルネシルアミン(C.5)よりイソプレン1単位長いゲラニルゲラニルアミン(C讃,)は, 濃度依存性に殺細胞効果を示し,40FLMで生細胞はほぼ0(LD5。=12.5pM)となり,ファルネシルアミン(LD舗= 28〟M)より強い殺細胞効果を示した。 4)殺細胞効果の解析:ファルネシルアミンならびにゲラニルゲラニルアミン処理において,ゲノムDNAの電気泳 動パターンは180塩基対の整数倍にバンドを認める,ステップラダーパターンを示した。また,へキスト33258染色後 の蛍光顕微鏡像で,ファルネシルアミン処至引こよりクロマチンの濃縮像が観察された。これらの生化学的および形態 学的特徴より,ファルネシルアミンおよびゲラニルゲラニルアミンの殺細胞効果の機序はアポトーシスによることが 明らかになった。 5)HuH-7細胞におけるファルネシルアミンによるp21(ms)のイソプレニル化阻害作用:ファルネシルアミンは濃 度依存性に,抗v-Ha-Ras抗体に反応するp21(ras)のイソプレニル化を阻害した(IC5。=16〟M)。一方,ゲラニルゲ ラニルアミンも濃度依存性にp21(rαぶ)イソプレニル化を阻害したが,IC瓢は50〃M以上であり,ファルネシルアミン に比しその作用は弱いものであった。 考 察 本研究は,新規イソプレノイド化合物であるファルネシルアミンが.rasig伝子の点突然変異を有するHepG-2細 胞のみならず,変異のないHu汁7細胞に対しても腫瘍細胞特異的な殺細胞効果を示し,その作用機序としてアポトー シスの誘導が関与していることを明らかにした。ファルネシルアミンはCarrollらにより開発された化合物で,濃度 依存性にFPT活性を阻害することが報告されている。本研究では.FPT活性に与える各種イソプレニルアミンの阻害 活性を測定していないが,おそらくFPTのような蛋白質がイソプレニルアミンの長さを認識して,ファルネシルアミ ンとゲラニルゲラニルアミンにアポトーシス誘導活性をもたらしたと考えられた。また,各種ファルネシル誘導体で は,官能基をアミンからアルコール,カルポン酸.アミドなどに変換すると殺細胞効果が著しく減弱したことより, ファルネシルアミンのアポトーシス誘導能は.アミン基に特異的といえる。これらファルネシル誘導体における殺細 胞効果の差は,やはりFPTなどに対する結合親和性や,活性阻害作用の差異に基づくものと考えられた。ファルネシ ルアミンは,初代培養肝細胞に対しては殺細胞効果を示さず腫瘍特異的であった。さらに,rαぶ遺伝子の点突然変異 によりp21(ras)が活性化しているHepG-2細胞のみならずt rus遺伝子の点突然変異のないHuH-7細胞においても 同等の殺細胞効果を示した。また,ファルネシルアミンは25FLMで.HuH-7細胞におけるp21(ras)のイソプレニル 化を3分の1以下に抑制した。HuH-7細胞は,TGF(transforminggrowth factor)-a,TGF-βなどの増殖因子 を合成分泌し,特にTGF一αは明らかなオートクライン増殖因子として作用していることより,ファルネシルアミン はチロシンキナーゼ型受容体からのシグナル伝達を担っているp21(rα5)のイソプレニル化を阻害し,その機能を抑 制することで,殺細胞効果を示したものと考えた。なお,HuH-7細胞において,ファルネシルアミンよりもp21(rαS) のイソプレニル化阻害作用が弱いゲラニルゲラニルアミンの方が.より強くアポトーシスを誘導しており,p21(rαS) のイソプレニル化阻害のみがアポトーシスに関与しているのではない可能性もある。 本研究において.ファルネシルアミンがrαぶ遺伝子の点突然変異のないと卜肝癌由来細胞株HuH-7細胞にアポトー シスを誘導したことは,rαS遺伝子の点突然変異の少ないと卜肝癌においても,ファルネシルアミンのような蛋白プ レニル化阻害剤が抗腫瘍効果を示す可能性 さらに,臨床応用の可能性を強く示唆するものといえよう。 論文審査の結果の要旨 申請者植松孝広は,蛋白プレニル化阻害剤であるファルネシルアミンがrαS遺伝子の点突然変異のないと卜肝癌吊二J 来細胞株に対して腫瘍特異的殺細胞効果を有すること,ならびにこの効果がp21(化S)のイソプレニル化阻害に伴う アポトーシスの誘導によることを示した。これらの新知見は,肝臓病学および腫瘍学の進歩に少なからず寄与するも のと認める。 [主論文公表誌] 蛋白プレニル化阻害剤によると卜肝癌由来細1胞株に対するアポトーシスの誘導 岐阜大医紀 44(3):415∼426,1996