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博士 (水 産科 学 )加川 尚

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Academic year: 2021

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博士 (水 産科 学 )加川    尚

    学 位論 文題 名

    Studies on the ExpresslonofStreSSProtein70

byPSyChogeniCStreSSinGOldfiSh,C勿 門 卿 浴Z銘 Sロ 勿 0´ ロf勿S.

( キンギョの精神的ストレスに伴うストレスタンパク質の発現に関する研究)

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  生物 は絶えず変動する環境下で様々なストレスを受けており、それらに対して 種 々の 応答を示す。水産増養殖では、輸送、捕獲およぴ混み合いなどによるスト レスが、魚類の成長率、摂餌率およぴ免疫抵抗カの低下を弓1き起こすことから、

魚類におけるストレス応答に関する研究が不可欠である。これまで、高温条件下、

重 金属 存在下、低酸素状態またはハンドリングなどの物理的および化学的ストレ ス に対 する応答に関する多くの研究が、魚類、爬虫類および哺乳類など多くの種 で 行わ れてきた。なかでも、ストレス時に細胞内で一過性に発現するストレスタ ンバク質(Heat shock protein; HSP70)の増加や血中コーチゾル濃度の上昇は、ス ト レス 応答 の指 標と して 広く 用い られ てい る。 HSP70には スト レス起因性と常 在 性の2種 があ り、い ずれ もタ ンバ ク質の変性を防ぐと共に膜透過を可能にする 機 能を 有する。また血中コーチゾル濃度の上昇は、ストレス回避に必要となるエ ネルギー代謝に不可欠な肝臓における糖新生を促進する。

  一方 、これら物理的およぴ化学的ストレスに加え、魚類は弱肉強食の生態環境 に 棲ん でおり、補食者に遭遇した場合など、極度の精神的ストレスを受けること が 考え られる。しかし、魚類を用いて、このような精神的ストレスに対する応答 に関して調べた研究は未だない。

  そこ で本 研究 では 、小 型で 雑食 性のブルーギル(Lepomis macrochirus)とキン ギョ( Carassius aurcuus)との混合飼育を行い、キンギョにおける精神的ストレス に 対 す る 応 答 の 指 標 に つ い て 検 討 す る た め 、 次 の4項 目 に つ い て 調 べ た 。

I.精 神的 スト レス に伴 うHSP70の 発現

  本 章では キン ギョ (平 均体 重20g)と ブル ーギ ル( 平均 体重120g)の混合飼育     ―1269―

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に伴い、キンギョの諸器官にHSP70が発現するか否か調べた。キンギョおよぴ ブルーギルは、別々の水槽にて20℃で2週間馴化後、次の4実験に供した。実 験1:1つの水槽でキンギョとブルーギルを混合飼育した。実験2:網で仕切っ た1つの水槽を用いて、キンギョがブルーギルを視覚および嗅覚によって認知で きるが、直接ブルーギルに攻撃されることのない条件下で飼育した。実験3:プ ルーギルの水槽中に透明なキンギョの水槽を置き、キンギョがプルーギルを視覚 によってのみ認知できる条件下で飼育した。実験4:キンギョの水槽とブルーギ ルの水槽間を暗幕で仕切り、飼育水を循環させ、キンギョがブルーギルを嗅覚に よってのみ認知できる条件下で飼育した。実験開始6およぴ12時間後にキンギ ヨの脳、肝膵臓、心臓、腎臓およぴ筋肉を摘出し、HSP70の発現についてウエ スタンブロットにより調べた。実験1において、HSP70の発現は脳およぴ肝膵 臓で認められたが、心臓、腎臓およぴ筋肉では認められなかった。また肝膵臓に おけるHSP70の発現量は両群間で差は認められなかったため、以後の実験は脳 のみを分析 対象とした。実験1および3では、6およぴ12時間後の脳における HSP70の発現 量が、対照群と比ベ有意に増加した。さらに、実験1で6時間混 合飼育したキンギョの脳におけるHSP70の局在について免疫組織化学的手法に より調べた結果、HSP70は特に視覚に関与する視葉および味覚や運動中枢に関 与する迷走 葉に強く発現していた。実験2では、6時間後におけるHSP70の発 現量が、対照群と比ベ有意に増加した。実験4では、HSP70の発現量は両群間 で差はなかった。以上のことから、キンギョはプルーギルとの混合飼育によって 精神的ストレスを受け、特に脳でHSP70が発現することが分かり、HSP70の発 現が精神的ストレス応答の指標となることが示された。またこの際、プルーギル の姿や動きを視覚で認知することが主なストレス要因となっていることが示唆 された。

II.精神的ストレスに伴うHSP70 mRNAの発現

  前章で精神的ストレス応答の指標として示したHSP70の発現がストレス起因 性であるこ とをより明確にするため、本章では、ストレス起因性のHSP70の cDNAを用いて、前章で述べた4実験と同様の条件下で飼育したキンギョの脳の HSP70 mRNAの発現についてノーザンブロットにより調べた。その結果、すべ ての実験条 件下で、脳 におけるHSP70mRNAの発現は、前章で述べたHSP70の

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発現と同様の変動を示した。このことから、ブルーギルとの混合飼育による精神 的ストレスによってキンギョの脳で発現するHSP70は、ストレス起因性のもの で あることが 分かり、HSP70 mRNAの発現もHSP70と同様、精神的ストレス応 答の指標となることが示された。

III.精神的ストレスに伴う血中コーチゾル濃度の変化

  本章では、ブルーギルとの混合飼育による精神的ストレスを与えたキンギョの 血中コーチゾル濃度について調べた。キンギョは第IおよぴII章と同様の実験 1‑4の条件下で飼育した後採血し、血中コーチゾル濃度をELISAにより測定した

(実 験2に ついては2時間後 も測定)。 実験1お よび3では、6およぴ12時間 後の血中コーチゾル濃度が対照群と比ベ上昇した。実験2では、2時間後の血中 コーチゾル濃度が対照群と比ベ上昇し、その後対照群レベルまで低下した。実験 4では、血中コーチゾル濃度に両群間で差はなかった。以上の結果から、血中コ ーチゾル濃度もHSP70と同様、ブルーギルを視覚で認知することによる精神的 ストレス応答の指標となることが示された。

IV.精 神 的ス ト レ ス時 の 脳に お けるHSP70発 現と血中コ ーチゾルと の関係   一般に血中コーチゾル濃度の上昇は、視床下部からの副腎皮質刺激ホルモン 放出 因子(CRF)の分泌、次に下垂体からの副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の 分泌、次いで副腎皮質からのコーチゾルの分泌といった一連の内分泌反応系に より引き起こされる。第I‑III章で、ブルーギルとの混合飼育による精神的スト レスに伴い、キンギョの脳におけるHSP70の発現と血中コーチゾル濃度が共に 増加することを述べたが、これら2つのストレス応答間に相互関係があるか否 か不明である。本章で倣、血中コーチゾル濃度を薬理的に変化させることによ って、脳のHSP70発現と血中コーチゾル濃度との相互関係について調べた。コ ーチゾル濃度の上昇促進剤としてCRFまたはコーチゾルを投与したキンギョで は、 ストレスを与えなくとも血中コーチゾル濃度が上昇し、HSP70mRNAの発 現も 増加した。次に、コーチゾル濃度の上昇阻害剤としてCRFおよぴACTH分 泌阻害剤であるべタメタゾンまたはコーチゾル合成酵素阻害剤であるメチラポ ンを投与後、同一水槽でプルーギルと6時間混合飼育したキンギョでは、血中 コー チゾル濃度の上昇およぴHSP70mRNAの発現増加は認められなかった。こ

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れらのことから、精神的ストレスに伴う脳のHSP70mRNAの発現増加は、血中 コ ー チ ゾ ル 濃 度 の 上 昇 に よ っ て 引 き 起 こ さ れ る と 考 え ら れ た 。   以上の結果から、キンギョはブルーギルとの混合飼育によって精神的ストレ スを受け、脳のHSP70およぴHSP70 mRNAの発現ならぴに血中コーチゾル濃度 が増加することが分かり、これらが精神的ストレス応答の指標と社ることが示 された。さらにこのような精神的ストレスは、混合飼育した他魚種を主に視覚 で認知することにより、引き起こされることが示唆された。また、精神的スト レス時の脳におけるHSP70およびHSP70 mRNA,の発現増加には、血中コーチゾ ルの増加が深く関与することが示唆された。

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学位論文審査の要旨 主 査    教授    麦谷泰 雄 副 査    教授    山内晧 平 副査   助教授   清水幹博

    学位論文題名

    Studies on the Express10nofStreSSProtein70

byPSyChogeniCStreSSinGOldfiSh,C勿 門 鯲Sぎ 勿Sロ 勿 ダ 口f勿S・

(キンギョの精神的ストレスに伴うストレスタンパク質の発現に関する研究)

  魚類の増養殖では、輸送、捕獲、混み合いなどに伴うストレスが成長率、摂餌 率および免疫抵抗カの低下を引き起こすことから、魚類のストレス応答に関する 研究は重要である。従来、水温や容存酸素の変動、またはハンドリングなど物 理・化学的ストレスに対する応答に関する生理・生化学的研究は多数行われてき た。しかし魚類は弱肉強食の生態環境に棲んでおり、捕食者に遭遇した場合など 極度の精神的ストレスを受けることが考えられる。しかし魚類の¨精神的ストレ ス¨に関する研究分野は未知の領域であるり、精神的ストレスと生体の応答反応 を調べた研究は未だない。本研究は、捕食者対被捕食者の関係を利用して、被捕 食者に精神的ストレスを与え得ることを示し、それに伴う生体の応答反応を生理 的、生化学的レベルで解析したものであ。得られた研究結果の概要は次ぎの通り である。

  1.キンギョ(被捕食者)とブルーギル(捕食者)を4つの異なる条件(O仕 切のない1個の水槽での混合飼育、@網で仕切った1つの水槽のそれぞれのコン パートメントでキンギョとブルーギルを別々に飼育、◎キンギョの入っている透 明な水槽をブルーギルの入っている大型水槽に設置、@両魚を別々の水槽で飼育 し、お互いの視覚を遮り、飼育水のみを循環した場合)で6時間または12時間混 合飼育することにより、キンギョに精神的にストレスを与えることが可能であっ た。

  2.この場合、キンギョは視覚により捕食者を認識し、血中コーチゾール濃度 が顕著に上昇し、脳のHSP70(ストレスタンパク質)およびHSP70mRNAの発現

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が増加した。臭覚は関与していなかった。

  3.また混合飼育によルキンギョの脳の視蓋にHSP70が強く発現していることを 免疫組織化学により示した。

4.脳以外に、肝膵臓、心臓、腎臓および筋肉についても調べたが、精神的スト レスに伴うHSP70の発現増加は認められなかった。

5.血 中コ ーチゾ ール の変 動とHSP70mRNAの発 現に強い相関が認められたの で、両者の生体内での関係を明らかにするために、副腎皮質刺激ホルモン放出因 子またはコーチゾールをキンギョに投与し、血中コーチゾールを人為的に上昇さ せる実験を行った。その結果、ストレス負荷のない条件下でも脳のHSP70mRNA が増えた。

  6.反対に、コーチゾールの合成・分泌を阻害する薬物(ベタメタゾンまたは メチラポン)を投与することにより、混合飼育に伴うストレス負荷後も脳の HSP70mRNAの発現増加は認められなかった。

  以上の結果は、魚類も精神的にストレスを感知することを初めて示したもので あり、その際捕食者の姿や動きを視覚で認知することが主なストレス要因になっ て い るこ とを明 らか にし た。 また、 血中 コー チゾー ル、HSP70mRNAお よび HSP70は魚類の精神的ストレス応答の指標となり得ることを示した。さらにこの 場合、コーチゾールがストレス応答の一義的役割を果たしていることを明らかに した。このような成果は魚類のストレスに関する研究分野に新知見をもたらすも のであり、審査員一同は申請者が博士(水産科学)の学位を授与される資格のあ るものと判定した。

参照

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