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     数値流体力学解析による

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Academic year: 2021

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博 士 ( 工 学 ) 矢 野 哲 也

,   学 位 論 文 題 名

     数値流体力学解析による

血液適合性軸流型血液ポンプの設計に関する研究 学位論文内容の要旨

  現在日 本において心疾患は死亡原因の第2位となっている.末期重症心不全患者に対す る治療と して心職移植が行われ,その有効性が示されているが,患者数に対し提供心が圧 倒的に不 足している状況である,そこで,提供に問題の無い人工心臓の開発が望まれてい る.近年 ,患者の自然心臓を残し血液ポンプを循環系に設置することにより心臓のポンプ 機能を補 助するタイプの人工心臓(補助人工心臓)が開発され,臨床で利用されている・

自然心を 残しているので,移植までの橋渡しだけでなく,自然心臓の負荷を低減させた状 態で内科 的治療を進め心機能が回復すれぱ補助人工心臓を外すという選択肢があり,実際 に拡張型 心筋症,虚血性心筋症の患者を救命,回復し得た例が報告されている.ただし,

欧米で広 く臨床応用されている人工心職は拍動型血液ポンプで大型であるため,日本人の ような小 柄な患者には適していない.そこで小型化に有利な連続流ポンプの開発が行われ ている.

  連続流 血液ポンプでは,ハウジング内でインベラが高速回転することによって生じる高 せん断応 力領域における赤血球の破壊(溶血)や流れの停滞領域における血栓形成が問題 と なる .過 去10年 間に 血液 ポンプ内部 の数値流体力学解析(CFD)が いくっかのグループ で行われ ,ポンプ内の流速分布,局所的せん断速度,停滞領域の位置や大きさなどの定量 的な評価 に関する報告がなされた,血液ポンプ開発においては,水力性能と同時に血液適 合性を考 慮した設計が必要となるが,従来の経験に頼った方法には限界がある.これを実 現するCFDを用いた統合設計手法が提 案されているが,複雑な流れ場でどのようにして溶 血や血栓 形成が発生するかは明らかでなく,モデルが確立されていない状態である.現在 のところ ,実験的に溶血量を測定する方法がとられるが,この場合試験回路中のポンプ単 体の溶血 量を見積もることはできない.また別の方法として流れの可視化によるポンプ内 の局所的 溶血の定量的評価が行われているが,いずれも多大な時間およぴ費用を要する.

そ れに対し ,CFDによる溶血量予測は時 間および費用を低減できる.そこで,CFD解析結 果により 溶血量を見積もり,またこの手法をもとに改良設計を行うことを本研究の目的と した.

  まず, 現在開発中の軸流型血液ポンプ(VAI′VOPunlp)内部の流れの状態を調べるために 計算機モ デルを作成した.ポンプ羽根車(インペラ)の回転による影響を考慮した計算を 行うため ,ポンプ全体の領域を流入部,インペラ部,流出部に分割しそれぞれモデリング

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した .流れの 支配方 程式であ るナビ エ.スト ークス 方程式と 連続の式 を汎用 流体解析ソフ ト(CFX‑5.7,ANSYS,Inc.)を 用いて 解くこと によルポ ンプ内 血流解析 を行っ た.CFD解析 にお いて,回 転領域 であるイ ンペラ 領域につ いては ,ナビェ ・ストー クス方 程式にインペ ラ回 転による 向心カ の効果を 考慮す る項を付 加し, インペラ 周りの流 れが準 定常であると いう 仮定の下 で定常 解析を行 った. 解析の結 果,補 助人工心 臓として の標準 的ポンプ動作 点 で ある 流 量5 L/min,差圧100 mmHgにおいて ポンプを 駆動し たとき, インペ ラ上流領 域 では 旋回逆流 が,イ ンペラ下 流の案 内羽根問 では負 圧面に沿 って逆流 が発生 することがわ かっ た.この ような 逆流は可視化実験で確認された流れのパターンとよく一致した.また,

解析 の結果か ら予測 されたポンプ特性はポンプ動作点付近でよく一致した.このことから,

本研究で用いた計算手法の一定の妥当性が示された.

  次にCFD解 析 による 溶血量 予測を行 った. 過去の報 告にお いて,溶 血は赤血 球に印 加さ れる せん断応 カとそ の印加時 間によ ることが 実験的 に示され ており, 実験式 の形で溶血率 との 関係が定 式化さ れている ,本研 究では, ポンプ 入口を起 点とし出 口まで 達する流線を 計算 し,赤血 球がこ の流線に 沿って 流れると 仮定し たときの 血液損傷 の進行 をこの実験式 に基 づき計算 した. 流量一定 の条件 下で回転 数を変 化させる ことによ り差圧 を変化させた とき ,溶血量 は差圧 にほぽ比 例する ことが予 測され ,この傾 向は過去 の実験 とよく一致し た. また,羽 根形状 を変更し たモデ ルについ ても溶 血量予測 結果は, 実験結 果と同様の大 小関係を示し,改良設計の指標として使用できることを示した.

  予測 された 血液損傷 度を,循 環血液 量1L,ヘマ トクリ ット35%, 血中ヘ モグロビン濃度 を15 g/dLとして 標準溶血指標NmげlooL]に換算すると,O.092であった.実験で得られた 溶血 指標は0.049土O,029であった.開心術中の循環補助装置として使用されている大型の 遠心血液ポンプBi0−Pump(BP.80,BiomedicuS)の溶血試験を対照実験として行ったところ,

こ の ポン プ を 用いた 過去の 報告との 比較か ら,本実 験で得ら れた溶 血指標ほ 通常よ り3倍 程度 多く見積 もられ ているこ とが確 認された ,細胞 を用いた 実験であ る以上 ,採血,保存 など の初期操 作の影 響でこの 程度の 誤差が確 認され たので, 現在のと ころ絶 対値について 議 論 する こ と はで き な いが , 相 対値 に つ いて議 論するこ とは可 能である と考え られる.

  ポン プ 後 部形 状,案 内羽根 形状を変 更した モデルを 作成し ,CFD解 析によル ポンプ 性能 およ び溶血量 の評価 を行った ところ ,インベ ラ下流 の案内羽 根問の逆 流が低 減され,標準 的動作点におけるポンプ効率の向上が確認され,溶血予測値も現行モデルの1/3程度になり,

Bi01nlmpと同程度まで溶血特性が改善される可能性が示された.

  最後 に , 大動 脈弁位 置に軸 流型血液 ポンプ を設置し たとき の血行動 態につい てCFD解析 によ り検討し た‐旋 回逆流に より, 大動脈弁 下に渦 の発生が 確認され た.こ の旋回逆流が 存在 するため に,心 室内には 常に一 定以上の 流速を もった流 れが存在 するこ とになり,心 室内 の流れの 淀みを 減少させ ,血栓 形成の防 止に寄 与する可 能性があ る.一 般的に連続流 ポン プは,ポ ンプ動 作点近く に設計 流量を置 き,流 入側の予 旋回を低 減させ るように設計 され るが,解 析の結 果,大動 脈弁位 置装着時 の心室 内流れを 考えた場 合には ,旋回流が有 利に 作用する ことが 示唆され,設計においても考慮されるべき点となると考えられる.  ′   以上 より, 軸流型血 液ポンプ の設計 において 重要と なる,水 力学的 特性,血液適合性の 両 面 につ い てCFD解 析によ る予測可 能性が 示され, 連続流血 液ポン プの改良 設計に 広く適 用可能な手法を提案できた.

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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主,査   教授   三田村好矩 副 査    教 授    山 本 克 之 副 査    教 授    狩 野    猛 副 査    教 授    藤 川 重 雄

学 位 論 文 題 名

     数 値 流 体 力 学 解 析 に よ る

血 液 適 合 性 軸 流 型 血 液 ポ ン プ の 設 計 に 関 す る 研 究

  現在日本において心疾患は死亡原 因の第2位となっている.末期重症心不全患者に対する治療 として心臓移植が行われ,その有効性が示されているが,患者数に対し提供心が圧倒的に不足し ている状況である.そこで,提供に問題の無い人工心臓の開発が望まれている.近年,患者の自 然心臓を残し血液ポンプを循環系に設置することにより心臓のポンプ機能を補助するタイプの人 工心臓(補助人工心臓)が開発され,臨床で利用されている.人工心臓として,連続流型の血液 ポンプの開発が盛んに行われている.連続流血液ポンプでは,ハウジング内でインベラが高速回 転することによって生じる高せん断応力領域における赤血球の破壊(溶血)や流れの停滞領域に おけ る血 栓形 成 が問 題と なる .過 去10年間 に血 液ポ ンプ 内部 の数値 流体力学解析(CFD)がい くっかのグループで行われ,ポンプ内の流速分布,局所的せん断速度,停滞領域の位置や大きさ などの定量的な評価に関する報告がなされた.血液ポンプ開発においては,水力性能と同時に血 液適合性を考慮した設計が必要となるが,従来の経験に頼った方法には限界がある.そこで,CFD を用いた統合設計手法が提案されているが,複雑な流れ場でどのようにして溶血や血栓形成が発 生するかは明らかでなく,モデルが確立されていない状態である.このため現在,実験的に溶血 量を測定する方法がとられるが,この場合試験回路中のポンプ単体の溶血量を見積もることはで きない.また別の方法として流れの可視化によるポンプ内の局所的溶血の定量的評価が行われて いるが,いずれも多大な時間および 費用を要する.

  本論文は,このような現況にある血液ポンプ開発手法について,流れによる血球損傷に関して 計算流体力学的に研究し,改良設計を効率化する手法を提案することを目的としたものである.

  第1章で は,人工心臓開発の現況および 機械的作用による血液損傷について記述している.

  第2章 では,現在開発中の軸流型血液ポンプ(耽虹」vOPump)内部の流れの状態を調べるため に計算機モデルを作成し,ポンプ羽根車(インペラ)の回転による影響を考慮した計算を行うた

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め,ポンプ全体の領域を流入部,インベラ部,流出部に分割しそれぞれモデリングした,流れの 支配方程式であるナビエ・ストークス方程式と連続の式を汎用流体解析ソフト(CFX‑5.7,ANSYS, Inc.)を 用いて解 くことに よルポ ンプ内血流解析を行った.CFD解析において,回転領域である インペラ領域については,ナビ工・ストークス方程式にインペラ回転による向心カの効果を考慮 する項を付加し,インペラ周りの流れが準定常であるとぃう仮定の下で定常解析を行った.解析 により明 らかに された, 標準的 ポンプ動 作点で ある流量5 L/min,差圧100 mmHgにおけるポン プ内の流れのパターン,すなわち旋回逆流,案内羽根問の逆流は,可視化実験で確認されたそれ とよく一致すること,また,解析の結果から予測されたポンプ特性はポンプ動作点付近で実験値 とよく一致することを確認し,計算手法の一定の妥当性を示した.

  第3章 では,CFD解析 による 溶血量予測を行った.過去の報告において,溶血は赤血球に印加 されるせん断応カとその印加時間によることが実験的に示されており,実験式の形で溶血率との 関係が定式化されている.本研究では,ポンプ入口を起点とし出口まで達する流線を計算し,赤 血球がこの流線に沿って流れると仮定したときの血液損傷の進行をこの実験式に基づき計算した.

流量一定の条件下で回転数を変化させることにより差圧を変化させたとき,溶血量は差圧にほぼ 比例することが予測され,この傾向は過去の実験とよく一致した.また,羽根形状を変更したモ デルについても溶血量予測結果は,実験結果と同様の大小関係を示し,改良設計の指標としての 使用可能性を示した.

  第4章 では, ポンプ後 部形状 ,案内羽根形状を変更したモデルを作成し,CFD解析によルポン プ性能および溶血量の評価を行ったところ,インペラ下流の案内羽根問の逆流が低減され,標準 的動作点 におけるポンプ効率の向上が確認され,溶血予測値も現行モデルの1/3程度になり,臨 床で使用 されて いる大型 の遠心 血液ポンプBio‑Pump (BP‑80,Biomedicus)と同程度まで溶血特 性が改善される可能性を示した.

  第5章 におい て,大動 脈弁位 置に軸流 型血液 ポンプを 設置した ときの 血行動態 についてCFD 解析により検討した.旋回逆流により,大動脈弁下に渦の発生が確認された,この旋回逆流が存 在するために,心室内には常に一定以上の流速をもった流れが存在することになり,心室内の流 れの淀みを減少させ,血栓形成の防止に寄与する可能性がある.一般的に連続流ポンプは,ポン プ動作点近くに設計流量を置き,流入側の予旋回を低減させるように設計されるが,解析の結果,

大動脈弁 位置装 着時の心 室内流 れを考えた場合には,旋回流が有利に作用することを示した.

  これを 要するに,著者は,CFD解析による血液ポンプの水力学的特性および溶血量予測の可能 性を示し,連続流血液ポンプの改良設計に広く適用可能な手法を提案したものであり,人工心臓 開発の分野に貢献するところ大なるものがある.よって著者は,北海道大学博士(工学)の学位 を授与される資格あるものと認める.

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