対抗文化認識をめざす社会科の授業設計 : 山村生活者の視点から見た現代社会
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(2) 目. 次. 序論・………・……・・…・?……・・…・…・… ………・・… …・・… …・1. 第1章 林政学に見られる「森林」・「林業」・「山村」問題の諸相…… …・∵…4. 第1節 日本的森林観の変遷……・……・…… ……・・∵・……・…・・…4. 1。イメージとしての「森林」,「林業」,「山村」…………・…………4 2.伝統的森林観の崩壊・・・・……・………・………?…・……・・…・10. 3.森林文化論の源流…・……………・……………・・…・…・・…lg 第2節 林政学とは何か…・……・…・・…・… ……・………… ……・25 1。林政学の概念… …・……・……… …… …・・……・◎……・・…25. 2.「森林学」と「林政学」の位相・………・・…・…… ……………・32 3.林政学の内容… …・・………・・・… …・_.___.__..._37. 第3節 林政学における山村問題・…………・… …・……・…………・40 1。山村概念の多様性……・…・………・… …………・…・・……・40 2。山村問題の本質………∵・・…………・・…・・……・…・…・…・42. 3.山村分析の視座・・………………・…………・・……・・……・・47 第4節 社会科授業における「森林」・「林業」・「山村」問題の捉え方…・・…・53. 1.学習指導要領の変遷に見える日本林政の姿勢……・・…・…・… …・・53 2。学習内容に見られる「森林」・「林業」・「山村」観・・……・……・…・・60. 第H章対抗文化の視点から見た山村問題………一・…・…・・…・………・64 第1節 社会科教科書に見られる対抗関係・…………・……・・… …・…・64 1。社会科教科書に見られる「偏った論理」…・・……・∴・… ……・…・64. 2。社会科教科書に見られる対抗関係マ・・………・……… …………・73. 第2節 対抗文化の視点………・…・……・・…・………… …・……・76 1.対抗文化の概念……………・・…・・…____._....__76 2.山村生活者の視点・…・……・…・・……・・…………・・…………79.
(3) 第皿章. 「森林」・「林業」・「山村」問題を扱った社会科授業の分析・・………・・82. 第1節分析視点と方法・………・・…・…・・……・…………………82 1。分析視点…・・・… …・・……・…… …・……・_._.._.__82. 2.分析フレームワーク……・・…………・………・…・・………一87 3.授業分析の対象… …』・…………・・…・……・・…・…・…・… …88. 第2節 授業分析の結果と考察・・…・……… …・… ……・・………・…gO 第IV章 対抗文化認識をめざす社会科の授業設計の実際…・…・…………・・100 第1節 授業設計の実際・・………・……・・……・・……・…・・… …・・100. 1.授業設計の視点・・…………・…・…・_.__.___.__100. 2.題材について………・………・・………………・・…・……・101. 3.知識の構造…・…………・…・一………………・…………103 4.問いの構造……・……・……・・……・…………・……;・・…120 5。・授業モデル・…………・…・…………・・……・・∴…・……・・126 第2節 授業モデル作成の成果と課題・・…・・…・………・・…・・… ……・213. 結論・……・…・……・・・・…、……・・……… …・・……・・……・… …214. 1.本研究の意義・・…………・・…・・………………・・…・……・215. 2.今後の課:題……・………… ………………・・……………217.
(4) 序 論 1.問題の所在. 1968年,国内の木材総需要量に占める国産材と外材の比率に逆転現象が生じた。1960 年代以降の急激な外材需給率の上昇は;単に外材が安価であるということだけではなく,. ①住宅着工数の増加にともなう国産材の供給不足,②トータルパフォーマンスを求める 住宅産業の構造上の問題,③素材産業としての「川上」と木材産業としての「川下」の. 協力体制1の遅れ,などが要因として考えられる。いずれにしても,外材の広がりは国 産材の低迷を招き,国内の林業不振はより深刻化している。. 農林業以外にこれといった産業に恵まれない山村は,ダム建設や企業の工場誘致,あ るいはゴルフ場・ホテル建設といったリゾート化に走り,自らの手で山村の貴重な財産 である自然を破壊し,山村固有の伝統文化を観光用の道具にしてきた。このような山村 に共通してみられる画一的傾向の背景には,都市・山村間における政治的,経済的な対 抗関係が存在する。市場原理が優先する社会が確立する過程で,急激な産業構造の変化 に対応しきれなかった山村社会には,さらに都市権力の圧迫によってさまざまな病巣が もたらされている。その典型が「産業廃棄物」である。. 「山村崩壊の危機」が叫ばれて久しいが,行政は過疎山村地域を立て直すための手だ てを一向に打とうとしない。それどころか,山村振興策と称して必要なき大規模林道建 設等に多額の資金を拠出しているありさまである。2「山村」や「林業」の本質的な部分 に目を向けようとしない政治姿勢は,昭和52年版小学校学習指導要領から「林業」記述 を削除させるというところまでいたった。富山和子が山村住民から聴いた「私たちは都 市に,まず地上の資源を持って行かれた。ついで,地下の資源を持って行かれた。そして,. 人間まで持って行かれた。最後に水資源を持って行かれた。すっからかんになったところ で,今度は選挙権までも取り上げられる。」3という嘆きの声は;山村問題の本質を鋭く 突いている。定数是正によって山村地域選出の議員数が削減され,もはや「山村の声を国 会へ」という役割は果たせなくなっている。. このような行政の姿勢を後押ししてきたのは紛れもなくメディアである。人工林批判 ・割り箸バッシングを繰り返してきたマスコミの論調には,いつも「木を伐らないことこ そが環境保護である」という考え方が見える。しかし,こういつた人間生活を無視した環. .1.
(5) 境保護の考え方こそが,森林を利用することによって成立してきた山村や林業を窮地に追 い込んでいるのである。. 以上のことから,このような一面的・固定的な「山村」・「林業」観を払拭するためには,. 行政が長期的展望を持ち,市場原理,経済効率性,財源のみにとらわれない総合的な山村 対策を示すことが重要である。また,山村地域に対する都市住民の理解が求められるとと もに,山村自らも内発的発展の方途を模索する必要がある。4. 2。研究の目的. (1)「山村」,「林業」を対抗文化の視点5から再評価し,「森林」を単にその多面的機能. のみに限定した「環境としての森林」だけでなく,人々の生活との関わりを重視した 「経済・環境・文化としての森林」6として,総合的に捉え直す。 (2)(1)の成果を組み込んだ中学校社会科授業モデルを設計する。. 3.研究の仮説. 対抗文化の視点を組み込んだ社会科授業の内容構成をすれば,支配的文化のみにとらわ れない幅広い社会認識形成と偏りのない価値観形成をはかることができる。. 4.研究の方法 (1) 林政学の研究成果をもとに,日本林政の変遷と社会科教育における「森林」・「林業」 ・「山村」問題の学習内容を考察する。. (2) 小・中学校社会科および高等学校地歴科地理教科書の記述にある「偏った論理」を 抽出し,対抗文化の視点から捉え直した社会科授業の方向性を探る。 (3) (D,(2)の成果をもとに分析フレームワークを構築し,授業分析を行う。. (4)対抗文化の視点を組み込んだ社会科授業モデルを構築する。. 一2..
(6) 【註および引用文献】. 1. 「川上ゴと「川下」の連携について,林野庁は林業における「流域管理システム」を. 提唱している。このシステムは,地域材の生産基地となる流域を対象にして,森林整備 の推進と地域材の生産から流通・加工に至る一体的な整備を行う事業を指す。具体的に は,「流域森林・林業活性化センター」を設置し,その活動を支援している。 林業における「流域管理システム」の運用については以下の文献を参考にした。. 林野庁『平成12年度 林業白書』農林統計協会,p259 2 大規模林道は,大型観光バスが通行できる観光道路として利用するために作られた幅 7メートル(通常の林道の2倍),二車線の完全舗装道路である。山村振興を目的にし ているものの,林道維持にかかる地元負担が大きく,林業へのテコ入れにはなり得てい ないのが現状である。大規模林道の問題については,以下の著書が詳しい。. 大規模林道ネットワーク『大規模林道はいらない』緑風出版,1999 3 富山和子『環境問題とは何か』PHP新書,2001, p.167 4 「内発的発展」という言葉は1975年忌スウェーデン・ハマージョルド財団が国連経済 特別総会の際に作成した報告「なにをなすべきか」で用いたのが最初である。なお,保 母武彦は,内発的発展の考え方を過疎地域の村おこしに援用し,以下の著書で論じてい る。. 保母武彦『内発的発展論と日本の農山村』岩波書店,1996 5 「対抗文化の視点」を設定するにあたり,明治期の新政府による近代化・産業化政策 における弊害を国民生活との関わりから批判的に論じた林政学者・本多静六氏の理論を 基底とした。. 6 「経済・環境・文化としての森林」という考え方は,本多静六の理論に依拠している。 また,現在その流れを受けて,衙井面夫が提唱している「森林文化論」も参考にした。 筒井の理論的支柱である「二焦点林政」(「入会の思想」を原点とし,用材生産と保全. 林政を組み合わせ,森林を文化的・人間的視点から総合的に捉え直す林政)について は,以下の著書を参考にした。 筒井迫夫『森林文化論への道』朝日新聞社,1995,pp.64−65. .3一.
(7) 第1章 林政学に見られる「森林」・「林業」・「山村」問題の諸相. 本章ではまず,日本の伝統的森林観の崩壊要因を明らかにする。次に,森林学との違い を明確にしながら,林政学の概念規定を行う。さらに,林政学において論じられてきた「森 林」・「林業」・「山村」問題の諸相を探り,日本林政の変遷と社会科学習指導要領との関連 について考察する。. 第1節 日本的森林観の変遷. 本節では,「森林」・「林業」・「山村」問題の本質を捉えていない都市的「森林」・「林業」. ・「山村」観(=日本的森林観〉が形成された要因を考察する。このような一面的,固定 的な見方が形成された原因を明治期に導入された林政学と日本林政,それを助長させたメ ディアに求める。また,近年,その反省をもとに,日本古来からの「入会の思想」を精神 的支柱として生まれた森林文化論の現代的意義を明らかにする。. 1.イメージとしての「森林」,「林業」,「山村」. (1)「森林・林業基本法」に見られる「森林」・「林業」・「山村」観. 「林業」という言葉の持つ響きやイメージが国民に受け入れられにくいとして,「林業」. を消滅させようとする動きがある。林野庁の営林局は森林管理局に,営林署は森林管理署 に,林業試験場は森林総合研究所に,改名された。この流れは,大学の林政学教室などに も見られ,伝統ある「林学科」という名称は消え,「森林資源科」,「森林科学科」,「森林. 政策科」へと改名されつつある。「林業基本法」から「森林・林業基本法」への改名も, そういった流れの延長上にある。. さて,「林業基本法」に代わり「森林・林業基本法」が制定されたのは,いかなる意味 があるのだろう。その点について,林野庁は「森林・林業基本法制定の背景」と題して, 以下のように説明している。1. 「旧林業基本法は,昭和39年,その当時における社会経済の動向や見通しを踏ま え,我が国林業の向かうべき道すじを明らかにするものとして制定された。しかし. 一4..
(8) ながら,基本法制定後37年が経過し,急速な経済成長,国際化の著しい進展等に よりわが国の経済・社会が大きな変化を遂げた。さらに,森林に対する国民の要請 は多様化し,そのような背景のもと,時代に合わない旧法を改め新法を制定した」. この説明によれば,「森林・林業基本法」は林業関係者や国民の要請に応えてっくられ たものである,と解釈できる。しかし,内容はそういったものとはほど遠いものである。. このように,地域林業の実態をふまえず,全国一律に林野庁が示した林業政策を反映さ せようというスタンスは,明治以降何ら変化していない。 本来,「森林・林業基本法」は日本林政の精神的支柱と言えるものでなければならない。. なぜなら,この支柱が政策スタンスを明確にしていないと,日本の林業は迷走し,森林は 荒廃してしまうからである。よって,「林業基本法」から「森林・林業基本法」への転換 が真に国民の要請によってなされたものであるとするとジこの法律の趣旨や内容を解明す ることで,現在の人々の持つ「森林」・「林業」・「山村」観が読み取れることになる。そこ. で,まず「森林・林業基本法」の5つの柱を以下に示すことにする。2. ①基本理念の明確化 ②森林・林業基本計画の策定 ③ 森林の有する多面的な機能の発揮する施策について ④ 林業の持続的かっ健全な発展に関する施策について ⑤ 林産物の供給及び利用の確保に関する施策について. ①で基本理念を明確に位置づけているのが大きな特徴である。ところが,この理念にあ. たるものは旧林業基本法にはないことから,森林管理の責任者たる林野庁は日本林政の 長期的ビジョンを持たず,成り行き任せで林政をすすめてきたことがわかる。しかも,. 日本の経済,社会の急速な変化にもかかわらず,約40年近くも「林業基本法」の抜本的 な見直しをせず放置してきたことから考えて,林業の置かれている立場は明らかである。. 矢部三雄は,新法の基本理念及び概要を旧林業基本法と比較・整理し, 本法が目指す方向」【図1−1−1】として以下のように表している。3. 一5.. 「森林・林業基.
(9) 旧林業基本. 国. 林・林業基本. 森林の多面的機能の持続的発揮 林業の安定的発展. ム業の純生産の増大. E国土の保全,水源のかん養,自然環境の保全,公 Oの保健,地球温暖化防止,林産物の供給等の多面 I機能が持続的に発揮されるよう整備・保全 E定住の促進等により山村の振興が図れるよう配慮. 林業従事者の地位の向 林業の持続的かっ健全な発展. ム業生産活動による森林の整備・保全. ⇒. @民 @生 @活 曹フ ッ安 o定 マ及 フび 酎S・な発展. 林産物の供給及び利用の確保 走ッの要請に即した木材の供給,木材利用の促進. 政策方向 O森林の多面的機能の発揮,林産物の供給及び利用に関する目標の設定 O森林資源に関する基本計 諱C林産物の需給に関する長 @・森林の整備・保全並びに林業・木材産業の事業活動及び木材の消費に ヨする指針として,森林所有者等の関係者の取組課題を明確化 卲ゥ通しの作成 O森林の有する多面的機能の持続的発揮 尢ム業の安定的な発展 @拡大造林等による森林の @・多面的機能の発揮を旨とした森林の整備. 政策方向. ?ヌ,小規模森林所有 メによる林業経営の近代化,. ]事者の育成確保等を実施. @・保安林制度等森林の保全 @・ボランティア等の活動の促進 @・山村地域における定住の促進 尢ム業の持続的かっ健全な発展 @・担い手’(林業経営体・林業事業体)への施策の集中. @・担い手ぺの施業・経営の集約化 尢ム産物の供給及び利用の確保 @・木材産業の振興,流通加工の合理化 @・木材利用の促進 @・輸入に関する措置. 【図卜1−1】森林・林業基本法が目指す方向. 森林・林業基本法は,山の守り手4や国民の要請を受けた法律なのか。それを解明する ために,林業経済研究所が主催したシンポジウム「森林・林業基本法により日本林業はど う変わるか(2001.10.20)」における林野庁・大学などの研究者・森林組合などのメンバー. の報告内容を引用する。ここでは討論内容は割愛し,森林・林業基本法について提案した 3っの報告を【表1−1−1】森林・林業基本法の評価と課題として整理する。5. 6一.
(10) 【表1−1−1】森林・林業基本法の評価と課題. 評価すべき点 ・基本理念を明確にしたこと ・定住の促進等による山村の振興が図 られるよう配慮したこと ・森林の多面的機能を持続的に発揮す 林 るという目標の設定 野 ・5年ごとの見直しを前提にした「森 庁 林・林業計画」の策定 ・ゾーニングの設定 ・緑資源公団,林業公社による森林整 備の促進(植林放棄地のサポート). 課 題 ・林業,木材産業の構造改革 ・森林組合等の森林整備の担い手の育成. 国会審議のポイント ・木材自給率を入れるかどうか ・基本法第2条「山村問題」の追加 ・水産基本法,森林・林業基本法の同時 提出による時間的制約 ・木材産業の位置づけ. (林野庁 矢部三雄). ・もっと長期を見通した,時間に耐える内 容を持つべきである ・日本林政の方向性が明確ではない ・農業,水産業への配慮がないこと こと (農業との一体化という認識がない) (島根大学 井口隆史) ・女性と高齢者への言及が抜けていること ・「中身はあとからつけよう」というこ ・森林組合の組織拡充と中核的な担い手へ とで,理念のみが先行していることは の位置づけ 周知のことであり,まずは法案化する ・森林所有者への「ゾーニング」の説明 ・自給率は明示すべき 森 ことに目標があったということ ・財源対策 林 ・国産材需要の拡大と外材輸入の適正化 組 ξ森林認証制度(FSC)の活用 合 ・バイオマスエネルギーの活用. ・5年ごとの見直しを前提にした「森 研 林・林業計画」の策定 究 ・森林・林業の担い手を従来の林家中 者 心から林業経営意欲を有する者とした. ・μ」村振興対策(高次医療・進学補助). (全国森林組合連合会 岩川尚美). ・総合的かっ計画的に林業政策を進め ・生産重視の林政から,環境保全を柱とし ようとしていることは,’理念としては た多面的機能重視の林政へとシフトしてい 賛同できる ・林業生産活動の維持のため,「定住促. る. ・本来国が行うべき施策を,地方公共団体 の施策として位置づけている ・セーフガードなどで緊急避難的に林家を ・「担い手」育成と生産性の向上 筆 ・地域の特性に応じた造林を進めよう 保護することを否定するわけではないが, 林産物をつくっている林家の経営強化策の としている 者 ・研究者と森林組合・現場が連携を図 見直しや,日本の流通上問題点の検討なし り,地域に応じた林業の推進を図ろう に体質改善は図れない ・理念のみが先行しており,中身がない と試みている ・安易な環境,経済同時追求の林政の姿勢 ・森林ボランティアへの理解 ・森林高高を効率的に行う組織を核と が見える した地域林業の推進. 進と山村振興」が掲げられている. 一7一.
(11) 森林・林業基本法は森林の危機を踏まえておらず,内容はすでに各地で行われている先 進的な取り組みをつぎはぎしたものにすぎない。理念ばかりが先行して中身がともなわな い「森林・林業基本法」の成立は,山村地域の現状を直視しない林政の姿勢そのものであ る。このような新法では林業には展望は持てないし,山村社会は崩壊するしかない。. (2)つくられた「森林」・「林業」・「山村」観. 長期的な展望を持たず,しかも財政難に苦しむ国や地方公共団体は,林業不振にともな う人工林の手入れ不足を,森林ボランティアの活動に委ねようとしている。森林ボランテ ィアは,参加者の意図とは裏腹に,行政の下請けにされつつある。森林保護の必要性を人 々に啓蒙していくという森林ボランティアの役割は重要である。しかし,森林ボランティ アだけで森林は守れないし,林業も山村も守れない。都市の人々が森林ボランティアに参 加することにより,「山はいいな。自然はいいな。山村は空気がきれいだし。たまにはこ ういう自然の中で汗を流すのもいいな。」といった感覚で,山村や林業の表面的な部分だ けを捉えて論じる可能性は少なくない。また,「観念の世界としての森林」といった捉え から,「森林は守るべきだ」,「森林の機能をもっと知ろう」などという表面的な理解に落 ち着くことにもなりかねない。. 単なる財政難の打開策として森林ボランティアを位置づけようとしている行政を後押し しているのが,メディアである。マスコミは「林業」を古くさいものとして論じたり,偏 った環境保護認識形成に多大な影響を与え,山村を混乱に陥れている。富山和子は,メデ ィアによってっくられた環境保全論者の意識を,以下のように厳しく批判している。6. 「木はあり余っている。伐らないということこそ破壊なのである。そして,そうい うことも見えなくなってしまった都市の感覚こそ,意識の破壊といえるだろう。」. 富山の述べる環境保護は,「木を伐らない」といった短絡的な考え方ではない。持続可 能な社会の構築に向けて,「木を伐らない」ことが環境保護になるわけではなく,そこに 「意識の破壊」が存在するというのである。林業を「純粋な林業」として捉え,伐採林業. を悪の根元だとして非難中傷する環境保護団体の運動や,それを煽るマスコミの論調には さまざまな問題が内在している。というのも,近年の風潮が「環境を守り維持していくた めの森林」,「われわれの心を癒してくれるための森林」に偏重しすぎて,「山の守り手」. 一8..
(12) や「山村」の問題を本質的に捉えきれていないからである。. 割り箸が自然破壊であるというのも,この考え方の延長線上にある。アメリカの捕鯨な どは,鯨のすべてを利用する日本とは対照的で,捕鯨の利用価値を燃料にしか見いださな い消費文化(使い捨て)の象徴である。割り箸は,本来使い物にならない端材を利用して っくられてきた。無駄を出さずに,できるだけ使おうとする割り箸への思いは,はたして 環境破壊と断言できるものなのか。 杉や檜に対する批判がある。「杉・檜はいけない,広葉樹ならよろしい。ブナは神聖」, 「広葉樹は水を貯えるが杉は貯えないから,破壊だ」といった批判も,割り箸批判と同様, 誤った見方に他ならない。. 富山は樹種を論ずる前に行政がすべきことがあるとして,以下のように述べている。7. 「もしも,暑広葉樹を望むのであれば,広葉樹でも山村の経済がやっていけるように. 政治の仕組みを変え,林政の施策を整え,そしてはじめて,さあどうぞ広葉樹の森 林を作ってくださいとお願いするのが,順序というものであろう。」. 富山の主張は終始一貫している。山の守り手や山村を支援しないで,森林など守れるは ずがないのである。山の守り手を支援することこそが,林業を守ることになり,森林を守 ることになるという理屈を,改めて確認する必要がある。. 富山の述苓る以下の言葉はそれを端的にあらわしている。8. 「自然を守るとは,基本的には自然を利用することである。利用している産業,即 ち農業,林業,漁業をまず大切にすることである。」. まず,われわれが「山村」や「森林」に対して先入観として持っている意識そのものを 問い直す必要がある。その手がかりが,「入会の思想」にあるのではないか。森林を利用. しっっ,荒らさないようにお互いが注意を払うという「入会の思想」の考え方は,環境 破壊が深刻化し,生活環境が悪化している現在だからこそ,必要なものではないか。. .9一.
(13) 2.伝統的森林観の崩壊. 都市的森林観はどのようにして形成されたのか。また,日本人の伝統的森林観とはい かなるものか。その手がかりは,「入会の思想」にある。日本は古来より,たたら鉄の生. 産製塩,瓦・やきもののための燃料,薪炭燃料,建築用材としての必要性から,森林を 開発してきた。また,肥料としての草の使用量の増大が,やがて森林破壊をもたらし,砂 害,雪害,風水害などの自然災害を起こした。そのような中で,三輪山などのように山を 祀る信仰’(神体山信仰)が始まったとされる。入会の思想の原点はここにある。. 筒井迫夫は「入会の思想」について,以下のように述べている。9. 「入会の思想とは,入会地として共有している森林から生産される草木を節度ある. 仕組みで利用し,森林の荒廃をもたらさないでいつまでも利用し続けるために行う 規制管理の方法で,古くから農民たちが実行していた慣習であった。入会農民たち は,牛馬の飼料にしたり田畑に入れて肥料にする下草や燃料にする薪炭材等を共同 で採る時『山を荒らさないように,資源がなくならないように』と心がけていた。. つまり,草や薪の生産の場である林野が荒廃するのを防ぎながら,それらの生産を 永続きさせる知恵を働かせていたのである。」. 具体的には,入会の思想をもとに①「山の明け口を決める」,②採取の制限,③採取場 所の制限(番山または番繰山)を行ったのである。古来より「森林」は,その作用や用途 によってつくられている目的がそれぞれ異なる。現在,保安林として維持されている森林. の大部分は原点を入会の思想に持ち,人間生活との関わりからつくられてきたものばか りである。. そこで,現在指定されている保安林の種類と機能を整理したものを次項の【表14−2】 に示す。’。. 一10一.
(14) 【表1−1−2】保安林指定一覧表. 保安林の種類 水源かん養保安林. 保安林の機能 流域保全上重要な地域にある森林の貯水機能を高度に. 面積(千㌶). 6052. ロち,河川の流量を調節することにより,. 土砂流出防備保安 表土の侵食による土砂の流出を防止する. ム 土砂崩壊防備保安 ム. 1945. 46. 飛砂防備保安林 防風保安林 水害防備保安林 潮害防備保安林 干害防備保安林 防雪保安林 防霧保安林 なだれ防止保安林. 地盤の不安定な急傾斜地の崩壊を防止して,家屋,農 n道路,その他施設を直接に保護する 飛砂の発生および被害を防止する 風速を緩和して強風などによる被害を防止する 洪水時の砂礫の州流や高水位による被害を防止する 津波または高潮の害を防止する かんがい用貯水池の水枯れを防止する 吹雪,吹きだまりその他の雪害を防止する 海霧の発生による被害を防止する なだれの発生を防止し,または発生したなだれの被害を. 落石防止保安林 防火保安林. 地盤を固定して落石による危険を防止する 耐火樹または防火樹によって防火樹帯を設け,森林など. 『. 墨つき保安林. フ火災の被害を防止する 水面に投影する森林の陰影,森林の水質汚濁の防止作. 28. 16 55 1. 13. 42 『. 52 19. h止する. 航行目標保安林 保健保安林 風致保安林. pなどにより,魚類の生息と繁殖を助ける 主として漁船の航行目標となって航行の安全を確保する 空気の浄化,騒音の防止などにより生活環境を守る。森 ムレクリエーションの場を提供する 名所や旧跡の趣のある景色などを保存する. 2. 1. 1. 27. (注)一は面積がごく少ないもの. 古代より,どの山村にも「入会の思想」が存在し,そこには森を崇め,森から得られる 恵みを大切にし,森とともに生きようとする山村の人々の強い意志がはたらいていた。歴 史のなかで,天然林の乱伐といった多くの失敗を繰り返しながらも,その都度山村の人々 はその問題を真摯に受け止め,共同行為によって事態の収拾を図ってきた。しかし,今「入. 会の思想」は存在しない。明治以降の国有林政策によって「入会」がことごとく葬り去ら れ,森林との接点(里山)は人々の意識から消えてしまったのである。「入会の思想」の 希薄化とともに,山村の人々の意識は明らかに変化している。その点について,内山節は. 以下の5点を挙げている。n. ll一.
(15) ①燃料としての薪や炭の役割の低下 ②喰:生活を支えていた森の役割の低下 ③牛馬の採草地としての森の役割の低下 ④堆肥の生産や,柴をすき込む農業の喪失 ⑤ 木材生産としての林業の役割の低下. ①∼⑤は,森林と農山村の人々を結びつける重要な働きをしていた。ところが,経済や 社会の急速な変化によって,これらは萌らかに失われつつある。それに加えて,高度経済 成長がもたらした貨幣主導型の生活が一般化したことも大きく影響している。山村の生活 の中に組み入れられていた「森林」を中心に据えた伝統的な生活基盤が,市場経済の原理 に伴う貨幣経済の浸透によって崩壊したのである。経済優先,コスト重視の考え方が高度 経済成長期の木材輸入を奨励し,山村を瀕死の状態に陥らせたと言っても過言ではない。 「森が危ない」という意識は,「都市の人々」にも当然ある。それは,「環境維持のため. の装置としての森林」という捉えであり,水源林問題野生生物の保護と生物種の多様性 を保障できる森林への関心,快適さのための装置としての森林の3つが考えられる。こう. いつた傾向は,地球的規模での環境問題例えば砂漠化の進行・地球温暖化といった問題 によるもので,農山村の人々が捉えている森林観とは大きく異なる。. それでは,いっから日本人の伝統的森林観は崩壊し始めたのか。その点を明らかにす るために,北村昌美による「森林環境に対する住民意識の国際比較」12 の研究を参考に する。日本では明治期から「人間が支配する森林」という捉えをし始めた。ならば,それ 以前,日本人は「森林」をどのように捉えていたのか。. その点について,北村は森林を対象とする科学との関連から次のように述べている。13. 「森林を対象とする科学の多くは,これまであまりにも自然科学という範疇にとど. まろうとしすぎたのではなかろうか。とくに森林に対する人間の働きかけを主題と する林学の分野が,人間の意思やそれを支える民族の文化をほとんど無視して,た んなる技術の対象として森林を捉えてきたのは不可解としかいいようがない。森林 は自然条件によって規制されることはもちろんだが,多くの場合,それ以上に人間 の意思によって制約を受けるのである。技術はその人間の意思を具体化するための 手段として位置づけることができよう。」. 一12一.
(16) 北村は,民族の歴史や文化,それにもとつく住民の意識が自然や森林を変貌させていく のであり,日本の林業があまりにも経済的要請に忠実に応えすぎた結果,最近になって自 然保護論者の批判を一手に受けている,と分析している。また,住民意識が森林の酋己置や. 林相を左右する決定的要因であるとして,「森林環境に対する住民意識の国際比較」の研 究を行ってきた。というのも,自然環境の影響のもとにその土地の文化が形成され,その 文化が自然環境を創造していくのであり,住民意識の比較によってそれぞれの国の森林の 現況を知ることができるからである。. 調査対象は,日本・ドイツ・フランス・オーストリア・フィンランドの5一国17都市 である。アンケートは13項目で,そのうち,森林観形成にかかわる項目を取り上げ,結 果を考察する。調査地は【表1−1−3】のとおりである。ヨーロッパにある調査地の都市の 位置については,【図Ll−2】に示す。. 【表1−1−3】調査地一覧表. 調査実施. N. 国 名. 1978 日本 P980. 1980 ドイツ. 調査地名 東京 旭川 鶴岡 櫛引 伊那 宮崎 フライブルク ノイエンビュルク. ゲッチンゲン. 1980 フランス. ハノーバー ナンシー. 壌982 オーストリア. ウイーン リンツ. 1984 フィンランド. ザルツブルク ヘルシンキ ユバスキュラ ソダンキュラ. 13. 調査法 面接 郵送 郵送 郵送 郵送 郵送 郵送 郵送 郵送 郵送 面接 郵送 郵送 郵送 郵送 郵送 郵送. 回答者数 回収率 499. 81. 421. 60.6. 404 313 364 440. 33.9. 32.2 41.5 40.3. 186. 37.4. 258 229 230. 32.5. 43 32.4. 411 241. 34.4. 241. 37.1. 193 506. 404 232. 83.2. 29.7 63.3 67.3. 58.
(17) 【図1−1−2】ヨーロッパの調査地. 「Q1 あなたは,森の中を散歩するのが好きですか,きらいですか。」【表1−1−4】の回答につ. いては,日本とヨーロッパでは歴然とした差があり,目本人に散歩の習慣がないことがわ かる。ここからは森林との接点である里山が減少した日本人の生活のようすがうかがえる。. 【表1−1−4】 「Q1 あなたは,森を散歩するのが好きですか,きらいですか。」. 調査地名.. あまり好きでない. 好き. きらい. 東京 旭川 鶴岡 櫛引 伊那 宮崎. 61.6. 24.8. 7. 71. 24. 1.4. 75.3. 21. 2. 65:2. 26.8. 4.2. 79.4. 18.4. 0.8. 78.8. 16.4. 05. フライブルク. 96.2. 3.8. 0. ノイエンビュルク. 98.4. 1.6. ゲッチンゲン ハノーバー ナンシーへ. 96.1. 2.2. 95.7. 3.9. 9t7. 7.1. 0.7. ウイーン. 95.5. 4.1. 0.4. リンツ. 94.7. ザルツブルク ヘルシンキ ユバスキュラ. 92.8. 6.2. 1. 93.1. 6.3. 0.2. 95.3. 4.5. 0.2. 94. 6. 0. ソダンキュラ. 、. 一14一. 0 0 0. 12. 3.7.
(18) 「Q2 あなたが旅行するとしたら,次のうちどこにいちばん行きたいと思いますか。」【表1−1−5】. の回答については,ドイツ・オーストリアでは「深い森」が多く,日本は分散している。. これは,自然を観光地としてしか位置づけていない日本人の感覚である。それに対し,ヨ ーロッパ人は散歩の延長として旅行を考えている点が大きく異なる。. 【表卜1−5】 「Q2 あなたが旅行するとしたら,次のうちどこにいちばん行きたいと思いますか。」. 調査地名. 深い森. 古い寺 広い砂 高原の牧 見晴らし けわしい 静かな湖 その他. @ 東京 旭川 鶴岡 櫛引. l. フよい山. 竡R. 2.8. 17.8. 9.6. 19.2. 22.6. 0.6. 21.8. 1.4. 5.2. 20.2. 4.8. 13.1. 24. 0.5. 27.4. 1.9. 2.7. 3. 24.3. 2.2. 18.8. 25.3. 0.2. 20. 5.8. 259. 4.2. 14.4. 27. 0.3. ‘16.9. t3. 6.9. 24.7. 47. 9.6. 30.2. 0. 184. 2.2. 7.7. 19.5. 2.5. 23.6. 26.3. 0.2. 16.4. 1.8. フライブルク. 54.8. 1.1. 3.2. 8.6. 16.7. 4.3. 8.6. α5. ノイエンビュルク. 61.9. 1.6. 2.7. 9.7. 10.5. 5.8. 5. 1.6. ゲッチンゲン. 56.4. 0.4. 6.1. 7.4. 10.9. 5.7. 9.6. 0.9. ハノーバー. 57.1. 7.4. 6.5. 7.8. 3.9. 13. 1.3. ナンシー. 21.2. 7.3. 24.8. .11.9. 14.6. 8. 2.9. 8.8. ウイーン. 46.7. 1.2. 29. 14.9. 17.8. 6.2. 8.7. 1.2. リンツ. 43.1. 0. 2.5. 15.4. 17.8. 7.1. 11.6. 2.1. ザルツブルク. 32.2. 0.5. 5.7. 20.7. 23.3. 6.7. 8.8. 2.1. ヘルシンキ ユバスキュラ. 11.7. 3.6. 5.5. 6.7. 6.3. 3.6. 53.1. 65. 12.4. 2. 3. 6.7. 6.2. 27. 61.6. 2.2. ソダンキュラ. 28.9. 2.2. 3.9. 5.6. 9.9. 4.7. 37.9. 2.6. 伊那 宮崎. ・ 」.3. 「Q3 あなたは,大きな古い木を見たときに,何か神々しい気持ちをいだきますか。」【表1−1−6】. の回答については,神秘的に森をとらえる点では,日本とヨーロッパの差はほとんどみら れない。. 一15一.
(19) 【表卜1−6】「Q3あなたは大きな古い木を見たときに,何か神々しい気持ちをいだきますか。」. 調査地名 @ 東京 旭川 鶴岡 櫛引 伊那 宮崎. 大きな古い木深い森に入っ日の出, 日没,山川草木に霊 を見た時の神たときの神秘山中でのあらがやどっている スまった気持ちような気持ち 々しい気持ち @ 的な気持ち 24 57.1 53.3一 85.5. 83.6. 85.7. 57.2. .88.9. 88.3. 889. 63.9. 87.3. 86.9. 78.3. 51.8. 87.1. 87.4. 841. 47.8. 909. 57. フライブルク ノイエンビュルク. 90.3. 90 86. 94.7. 46.8. 92.2. 83.7. 973. 44.2. ゲッチンゲン. 89.5. 84.7. 97.4. 40.2. ハノーバー ナンシー. 9t3. 87.4. 96」. 43.9. 69.6. 79.6. 91.8. 66.2. 89.5. ウイーン. 95.9. 89.6. 97」. 48.5. リンツ. 88.4. 88.4. 96.7. 46.1. ザルツブルク ヘルシンキ ユバスキュラ. 93.3’. 88.6. 97.4. 52.8. 93.1. 89.7. 96.6. 60.5. 93.3. 9L6. 97.5. 59.9. 94. 94. 94.8. 66.8. ソダンキュラ. 「Q4 あなたは,『農場や牧場や森がいりまじっている,人の加わった自然』と,『まったく人手の 加わらない森林や荒地の,ありのままの目然』と,どちらが好ましいと思いますか。」【表1−1−7】の. 回答については,日本は「人工的な森林」より「ありのままの自然」を好む傾向が強い。. しかし,現実に都市から森林がなくなり,人々と森林との関わりが薄らいでいる以上,日 本人の回答が「心象の中に描かれた抽象的景観」を判断の対象にしているのは推測できる。. 北村は,この結果を次の2っのパターンでとらえている。1つは,日常の接触というより,. 情緒的なものをたいせつにし,そのために好きだとするもの。もう1つは,日常の生活に とってかけがえなく,そのために好きだとするもの。前者がヨーロッパ的で,後者が日本 的であるとしている。. 一16一.
(20) 【表1−1−7】. 「Q4 あなたは『農場や牧場や森がいりまじっている,人手の加わった自然』と,『まったく人手 の加わらない森林や荒れ地のありのままの自然』とどちらが好ましいと思いますか。」. 調査地名 東京 旭川 鶴岡 櫛引 伊那 宮崎. 人手の加わった自然. ありのままの自然. 41.1. 50.9. 53.2. 43.7. 57.5. 40.3. 59.1. 39. 60.2. 37.9. 47. 51.6. フライブルク. 82.2. 15.6. ノイエンビュルク. 82.9. 15.5. ゲッチンゲン ハノーバー ナンシー. 74.7. 23.6. 77.4. 21.7. 28. 71.3. 81.3. 18.3. リンツ. 83.8. 15.4. ザルツブルク ヘルシンキ ユバスキュラ. 81.9. 17.1. 39.1. 59.1. 41.8. 56.5. ソダンキュラ. 32.8. 66.3. 幽ウイーン. さらに,アンケート対象にしたこれらの都市で,林相好みの傾向を把握する調査も実施 し,その結果,いかに日本人が人工的な森林を好むかというデータも集めている。. 以上のことから,日常生活と森林の関わりが薄い日本人が,観念的・抽象的に自然や 森林を保護しようとしていることがわかる。ヨーロッパの人々と違い,日本人は日常生活 の中でほとんど森林と接点がない。しかしながら,メディアなどを通じて入一倍自然保護 に敏感な面を持つ。だから,自然や森林に対する観念的な知識だけが膨らみ,実体験に基 づかない,観念的・抽象的理解ばかりがすすむのである。 菅原聡は,その点について,以下のように述べている。互4. 「森林といえば,誰もが森林について何らかのイメージ(図式的理解)をすでに. 持っている。森林に関するメディアの饒舌さは,現実の森林を見えにくくしてい る。(中略)必要とされるのは,メディアにすべてをゆだねるのではなく実際の 姿を『裸眼で』みること,そして実在の森林に身を置いて新たな森林観を得る一. 一17一.
(21) 概念を再構築する一ことである。」. つまり,林業を生活の糧にしている山の守り手は,森林を木材の生産一消肇という循環 の概念で捉える(=動的森林観)。その一方で,森林をメディアを通して概念的に理解し なければならない人々は,森林を制止したもの(=静的森林観)と見てしまう。したがっ て,環境破壊に荷担しているという後ろめたさから割り箸バッシングや杉などの人工林批. 判へと発展するというわけである。しかし,その一方で都市生活者は森林ボランティア や森林体験をすることにより,自らの概念(静的森林観)に修正を加えることができ, その行為が動的森林観形成への第一歩へとつながるのである。. 日本人の自然観について・北村昌美は自然観の違いが宗教観と密接に関係している≒し て,以下のように述べている。’5. 「自然認識にとってきわめて重要なのは,行動の面では,生の自然との接触,内的. な面では宗教観であろう。」. ’. 日本人の自然観が観念的なものになってしまったのはいつからか。大野晋の「大和言葉 4)中に自然に該当する言葉が見あたらない」’6 という指摘から考えて,やはり明治にな. ってはじめて日本人は自然を「物」として認識するようになったと考えられる。北村は日 本人の自然認識が観念的になる原因を探るため,万葉集・古今和歌集・新古今和歌集など に見られる「やま」「もり」の歌に注目する。そこに見られる歌は森林に畏敬の念を払っ たり神秘観を抱くものが多く,人間は自然を「物」として捉えてはいない。したがって,. かつて人間の生活は自然とともにあったことは言うまでもない。それが,ある時点から庶 民の生活とともにあった「日本文化」が遊離し,「伝統文化」といわれる「道」「芸術」と. いったものが「粋」であるとして,自然は住民の意識から離れたものとなってしまったの である。ここに,当時の庶民の自然・森林観とは遊離した「観念の象徴」としての「目本 文化」がっくりあげられたのである。しかし,自然・森林とともに生きる庶民の文化はす べてなくなったわけではなく,それらは今も「伝説」や「昔話」という形で生き続けてい る。. 日本人は里山的な人々の生活空間の一部として捉えられてきた森と,奥山のように人々. 一18一.
(22) の生活とは切り離された「人外境の森」という位置づけをした。このような日本人の自然 観を指して,菅原は「遠い森・近い林」と命名している。さらに「人外境の森」は,「死 者を埋葬する森」,「神々の住む森」,「現実の恐ろしい動物や盗賊の住む森」,というよう. に3つに分類され,民俗学で舜これを「異界」としたのである。この考え方は,ヨーロッ パでも同様で,森には精霊が住み,神々が支配しているという考え方があった。グリム童 話で森林が多く扱われているのも,森林破壊によりそのような神や精霊の住む土地が奪わ れていったことに対する危機感もあったと考えられる。ヨーロッパでは,森林の破壊とキ リスト教の広がりによって,「異界」は消え.,わずかにキリスト教の祭典として形式的に. 存在している。これは,日本でも農林水産業に従事している人々の間で見られる豊作・豊 漁の祈願や,地域ゐ年中行事に見られるものと同様である。ヨーロッパでも旧本でも森林 破壊とともに「異界」が消え,森を崇める「森の心」が失われたのである。. 以上見てきたように,「観念としての自然」に走る目本入の精神構造やその原因となる 「自然」・「森林」との接触の欠如が住民意識に一定の影響を与えることが明らかとなって. きた。現在,人間と「自然」・「森林」との接点を重視した森林文化論が注目を集めている. のも,人間の自然・森林に対するおごり・高ぶりに対して警鐘を鳴らそうとしている神の 仕業なのかもしれない。. 3。森林文化論の源流. 平成6年度林業白書(以下ジ白書)は特集テーマを「森林文化の新たな展開を目指し て」とし,政府としてはじめてF森林文化」という言葉を以下のように使用している。’7. 「我が国やヨーロッパ諸国においては,森林や木材との密接なかかわりのなかで,. 森林を保全しながらこれを有効に利用していくための知恵やその結晶としての技 術,制度及びこれらを基礎とした生活様式が育まれ,現在まで引き継がれてきた。. この報告では,これを端的に『森林文化』と呼ぶことにする。このような意味での 『森林文化』は,(中略)人類と森林との『共生』関係や『循環』作用の認識が基 礎となって形成されるものである。」. 白書は「森林の恵みと文明の発達との関係」を「共生」と捉え,「森林の物質的循環と. 一19一.
(23) 国土の保全及び酒養といった公的機能」を「循環」と記している。つまり,「『共生』と『循. 環』による『森林文化』」こそ,これからの林業に求められるものである,というのであ る。白書で使用されている「森林文化」という言葉がいかにも抽象的であることから,「森. 林」を人間にとって必要な暮らしの文化の源泉という視点から捉えた内山節の「森林の文 化的装置」という言葉を以下に引用する。18. ① 木に触れ,生活の中に木を取り入れることによって創造される文化 ② 森林があることによって実現されている森と川と流域と海の文化 ③ 森林に触れることによって獲得される文化 ④ 森林があることによって確立されている,山村を中心とした文化 ⑤ 森林を活用するために生まれた技術の文化 ⑥ 森林の中で働き,森林にかかわることによって自らの生活を文化的に再確立し ようとする,森林ボランティアをはじめとする都市住民の文化. 以上のように,内山によれば,森林は環境に優しい持続可能な資源として,貴重な文化 的装置として位置づけられるのである。. 林政学の分野で昨今注目を集めている「森林文化論」は,森林の文化的価値を再評価 するために提唱されているものであり,今後の日本林政の方向性を占う意味でも大きな. 位置を占める可能性のある理論である。したがって,ここで2人の林政学者の論を引用 し,「森林文化」の現代的意義を明らかにする。. 菅原聡は「森林文化」について,以下のように述べている。’9. 「微妙に変化するわが国の多様で多彩な森林風景によって磨かれてきた月本人の技. 術は,風趣とか風韻といった自然に対する感覚の鋭さのなかで育てられ,日本人は きわめて繊細で緻密な技術に基づいて目本文化を展開させてきた。こうして伝統的 な日本文化は,アミニズムを基底とし,繊細な技術によって聖なる美を創り上げ, 自然性と風圭性の高いものとして育まれてきたのである。. このような伝統的な日本文化としての森林は,わが国社会の近代化のなかで大き く姿を変えるようになった。西欧から受け入れた近代的な自然観は,自然を:心のな. 一20..
(24) い物と考えるものであったから,近代的な森林観によって自然科学的な手法で人手 が加えられるようになった森林は,単なる物になってしまって,人間との精神的な つながりが断ち切られ,伝統的な日本文化としての森林の崩壊が進んだ。」. 菅原聡は森林を単なる自然とはせず,それぞれの風土のなかで長い時間をかけて,「人 間と自然との共同によって創り.とげてきた文化的創造物」であると捉えている。したが って,「森林文化」として「森林」と「文化」を峻別するのではなく,森林そのものを「文 化」としてみる立場をとっている。. 「森林文化」論の提唱者である筒井迫夫は,「森林文化」について以下のように述べて いる。20. 「『森林文化』とは,人間と森林がひとつに融け合ってつくりあげた文化である。. 人間と森林が融け合う関係とは,『自然』としての森林を畏れ,尊び,愛し,その 森林の自然性を活かすことに人間の生きがいを見い出し,またその山と木を人の暮 らしの中で活かす方法や仕組みをつくる関係のことである。そしてこの関係をつく り維持するために投じた精神的営為(知恵や工夫)の総体を『森林文化』と定義し ている。」. 菅原とは異なり,筒井の「森林文化」概念は「人間と森林」は融合するものの,その 間には一線を画しているのが特徴である。つまり,「木を利用する文化」という意味合い が強く,菅原のように精神文化的要素は少ない。 筒井の「森林文化」思想の特長は,「二焦点林政」という考え方によくあらわれている。 これは,杉・檜を中心とする生産第一主義の林政と保全林政の総体を指している。かつて, 高度経済成長期には収益重視の観点から保全林政は低い位置に置かれていた。ところが,. 森林の多面的機能重視の観点から「環境資源としての森林」が注目されるようになった。 その双方をともに重視した上で,バランスよく行う林政のあり方をさすものである。これ を土台にして,筒井は人間と森林がある意味での一体感を保持しっっ営まれる林業をめざ した森林文化構想を提案している。それを具現化したのが,以下の「中国山地森林文化圏 構想」21である。. 一21一.
(25) 森林文化社会. 都市住民の壮丁による二村社会の再生. 広域的総合的運営主体の確立 森林産業デザインセンタ」の整備. クラインドルフ(小さな森の村づくり). 雑木林広域オーナー活用事業 豊かな川の森づくり事業. 森林文化産業の振興 源流域産物総合開発事業 木の文化ルネサンス事業. 豊かな自然の保全と創造. グリーンヅーリズム(農山村で ゆとりある休暇を)の整備事業. 自・然生態研究所の整備事業 の「騨ρ’蝸℃禽の @ 喝.ρ. .,.・・’“’‘’:ア…“…’覧’㌦・一、・. ./. ド も. \ やき. らリコ. !. ∫‘. ㍉. ㌔ 、、 ノ. ’. 噺…. 9’囁 へら. 1←「. VN><鰍灘融. ‘二’曜一…. .り●・一一噂.剛, ロ. ぜ. 広域環境生態森林の整備事業 集落グランドワーク形成事業 巨樹と神々の森づくり事業. ヴ. 森林を活かしこ●∼㍉・嚇λ一幅…一一・一む》’ノ. \(環境的視点). チ. ,ノ札魏ρ転. めぐみを得る. ’り\. (経済的視点). 唱’\∼.一.._.__..一、一__一パ”. (文化的視点). 【図1−1−3】 「中国山地森林文化圏構想」. 1993年11,月に広島・島根両県にまたがる中央四国L〕地を対象とする,「中国山地森林 文化圏構想」が公表された。これは,この地域にある森林文化資源を,県域を越えた一大 プロジェグト事業によって活性化しようとした試みである。筒井は,構想の最終的な到達 点として「森林文化社会」を目指し,以下のように述べている。22. 「古代から受け継いだ森林と共生する知恵をよみがえらせ,そして未来の指針とし. て再び確立し,それを広く世界の国々へ向かって発信しようというこのプロジェク トは,森林文化理念の具体化の姿であり. 今後の林政改革の1つのモデルを示した. ということができる」. このプロジェクトには,今までには見られない経済的・文化的・環墳的視点からのアブ. 一22一.
(26) ローチが試みられている。とかく,最近の林業政策は環境的視点ばかりが強調され,戦後 すぐの林業政策は経済的視点ばかりを重視した。そういう意味では,文化的視点を含めた 三位一体型の森林文化構想のモデルはよくできている。. 第二次世界大戦後,日本は経済優先の論理で突き進んできた。そこには,第一次産業切 り捨ての思想が見える。特に林業はその最たる物である。環境保全が叫ばれて,「森林を 保護しよう」という動きが活発に行われているが,それらの運動には山の守り手を支援し,. 山村問題の本質を問い直すアプローチはほとんど見られない。森林を支えていくのは,山 の守り手である。都市の生活者ではない。今こそ,自然を「物」とみなし,さまざまな弊 害をもたらしてきた時代に終止符を打ち,「入会の思想」を精神的な源流とする森林文化 論を提唱することが大切ではないだろうか。しかし,森林文化論の基本的スタンスには共 感できるものの,どうしても「森林文化」という言葉力1美辞麗句のように思えてならない。. そこで,理論は「森林文化論」に依拠しつつも,山村問題を語る際には比較的響きのよく 都市側の論理がはたらいている「森林文化」という言葉を用いず,あえて「山村文化」23 を使用する。それは,「山の守り手」や「山村住民」の立場を大切にし,文化の原点を山 村に求めるという意味合いからである。. 次節では,林政学の研究成果をもとに,「山の守り手」や「山村住民」の立場を重視し た山村問題研究のあり方について言及する。. 【註および引用文献】. 1 http:www.rinya.ma任.gojp/seisaku/kihonhou/hakei.htm1. 2 矢部三雄,森林・林業基本法と新たな林政の展開,林業経済641号,2002,pp.7−8 3 矢部,同上書,p.7. 4 「山の守り手」という言葉は,筆者の造語である。同義に使われるものとして,林業 就業者,山林労働者,林業労働者,林業従事者,等が挙げられる。ここでは,山村に住 み長年にわたって森林を維持してきた人々という意味合いを込めている。 5 矢部,前掲書,pp.4−24の内容を筆者が整理。. 富山和子『環境問題とは何か』PHP新書,2001, p27 富山,前掲書,p.64. 8 富山,前掲書,P.40. 一23一.
(27) 9 筒井迫夫『森林文化への道』面目新聞社,1995,p.62 ’o. @菅原聡『森林 日本文化としての』地人書館,p249. ’1. @内山節編『緑の列島に暮らす』コモンズ,2001,p.54. ’2. @この調査は,北村昌美が所属する森林環境研究会が森林に対する住民意識の国際比較. を行ったものである。なお,この調査は2度にわたって実施されており,「森林環境に 対する住民意識の国際比較に対する研究(1981)」,「森林環境に対する国民意識の研究 一森山国フィンランドと日本の比較一(1986)」に掲載されている。北村は,、上記の2 つの調査を以下の著書に整理している。 北村昌美『森林と日本人』小学館,1995,pp.15−56 13. @同上書,p.13. ’4. @菅原聡『遠い森・近い林 一森応需の変遷と文明一』画室出版,1995,pp.l16−l17. 15. @北村,前掲書,p56. 16. @「大和言葉」については,以下の文献が詳しい。. 大野晋『東日本と西日本』日本エディタースクール出版 ’7. @林野庁『平成6年度 林業白書』農林統計協会. 18. @内山,前掲書,p.l17. 19. @菅原聡『森林 日本文化としての』地人書房,1996,はじめに. 20. @筒井,前掲書,p。8. 21. @筒井,前掲書,p。249. 22. @筒井,前掲書,p。250. 23. @筒井は「森林文化」という言葉を使用しているが,ここでは「森林文化」を使用せず, 半田良一が提唱している「山村文化」を使用する。というのも,「森林文化」という言. 葉が都市住民を意図している傾向が強く,「山村文化」には森林を守る主体である山村 の立場に立って,山村固有の伝統文化を継承・発展させるという意味合いが込められて いるからである。「森林文化」と「山村文化」の違いについては,以下の半田の論文に 掲載されている 半田良一,林業技術と山村文化,林業経済1.月号,1998,pp.24−25. 一24一.
(28) 第2節 林政学とは何か. ここではまず,本多静六が体系化した林政学を紹介する。次に,本多静六,塩谷勉,島 田錦蔵の理論をもとに,多義的に用いられている林政学の概念規定を行う。さらに,ドイ ツ森林学を簸小化して導入した白本林政学の問題性について言及する。. 1.林政学の概念 (1)本多静六の「林学」. 本多静六は科学における「林学」を,以下のように位置づけている。1. 神学 哲学 法学 経済学 純正学術 歴史学 博言学 数学 理化学 博物学 学術界. 鉱山学. 一〔難 【図1−2−1】一般学術界における林学の位置. 本来「林学」は,博勅学・数学・経済学のカを借りて大成し,倒民生活に生かすことが 求められた応用学問であり,鉱山学,農学,工学,商業学等と伺様の位置づけがなされて いる。本多は「林学」の特徴を「医学」と対比させながら,以下のとおり巧みに説明して いる。2. 一25一.
(29) 「すなわち,医学と林学は共に博物学及び数学をその基礎とし,互いにこれを有機 物の上に応用する学問で,林学はこれを森林の上に応用し,医学はこれを人体上に 応用しているにすぎない。(筆者による現代語訳)」. また,本多は林学の研究領域を以下のように整理している。3 純正数学(算術,代数,幾何,微積分). 物理学,化学,動物学,植物学 鉱物学,地質学. 純正理学. 理学 予科. 応用数学(測量学,力学). 森林立地学(気候及び土壌学). 囲. 応用化学 森林椋物学,森林動物学. 応用理学 法律学 経済学. 造林学 保護学 利用学(造道学を含む) 経理学(森林測量,測留学を含む) 林価算法 較利学 森林管理学 森林警察学. 〔. 生産学. 本科. 〔. 経営学. 〔. 囲(森林統計学を含む). 圃. 森林法律学 補助科. 応用経済学. 農学大意 工芸学大意(特に木材工芸) 建築工学大意 狩猟学 養魚術 森林文学. 【図1−2−2】林学の学問体系. 一26一.
(30) 「林学」は本科・予科・補助科より構成され,その研究領域は理学,法律,経済,生産,. 経営,林政,と広範にわたっている。扱う対象が「森林」という性格上,関連するすべて の分野を網羅するとなると,必然的にこのような体系にならざるを得ないのである。また,. 「林政学」については広義・狭義の捉えがあり,その概念規定も研究者によって大きく異 なる。さらに,「林学」が「狩猟学」,「養魚術」,「森林文学」などを補助科として取り入. れているのも,対象が「森林」ならではという特徴の1っである。 本多は「林学」という学問について,以下のように説明している。4. 「林学とは最も有効な方法で林業を行い,森林及び林産物によって直接または間接. に人々の生活に関わる理論及び講究するところの学問である。林学の始まりにおい ては,単に古来からの林業上の経験より得られた知識を寄せ集めたものにすぎず,. いかなる理由によってその知識が生まれたのかという研究がなされていない。林学 はそもそも職人達が幼児期より自身の親方を見習って,単にその経験説を見聞し,. かつ,自らの経験により修行するような知識にすぎないものであった。しかし,よ うやく前世紀後半になって博物学が進歩し,これを林業上に応用するようになって はじめて学術的なものとなった。すなわち,従来の経験上より得たる林業上の方法 知識を博物学,数学及び経済学等の助けを借りて案出または解釈し,従来の経験説 と共にこれをその原因に従って系統的に編成し,初めて従来の実験的知識を1っの 林学なる学術に改良するに至った」(筆者による現代語訳)。. 上記の本多による説明によれば,「林学」は以下のように整理できる。. ①森林及び林産物を媒介にした「人々の生活に関わる理論」を研究する学問 ② 個々の林業知識の系統化を試みる学問 ③ 林業上の方法知識を隣接諸科学の助けを借りて成立した学問. 明治当初には「林学」が体系づけられておらず,ドイツかち輸入した森林学の体系をも とにして,従来から持っていた日本の林学知識を組み合わせて体裁を整えている。したが って,文字通り寄せ集めであるが故に,学問としての基盤も弱く,世子でも認知されてい ないことから,体系づけられた林学をいかに実証し,成果を上げるかに林政学者の労力が 費やされていたのである。. 一27一.
(31) 「林学」の研究領域は広範であることから,明治以降日本では「林学」の一分科である 「林政学」をもとに,技術面から「森林」に手を施してきた。. 本多は「林政学」について,次のように述べている。5. 「林政は1っの学術としては森林及び森林事業の国家及び国民事業に関するものを 論ずる学問である。だから,林政学は主として国家及び社会学上の観念を持って,. 森林に関する諸件を論究するものであり,造林学,林価算法等,生産及び経営学に 属する諸学科は専ら工芸経済的の観念を持って森林を論究するものである。林政は また1つの技術(林政術)としては公共事業,殊に政府の事業中における森林に関 する部分をいう。しかしながら,時には保守的干渉をし,時には進取的奨励をする こともある。」(筆者による現代語訳). 本多によると,「林政」は文字通り狭義には林業政策のことを指す。つまり,「林政学」. は,国家の林業政策の策定及びそのための林業技術の向上に主眼をおき,明治政府のすす める殖産興業政策の一環として,国家の政策的・技術的関与が大きいことがうかがえる。. 本多はドイツ林政学をそのまま導入しようとしたわけではなく,ドイツ林政学を日本の土 壌にあったものとして再構成し,各林業地への普及を試みたのである。その点で,本多が. 土倉庄三郎の体系化した吉野林業を範としていることの意味は,きわめて大きいのであ る。6. 本多は明治期を代表する林政学者で,この時期にすでに国民生活との関わりに注目し,. 森林を経済的・環境的・文化的側面からアプロビチしょうと試みていた。昨今話題にのぼ っている魚付き林や水源滴養のはたらきなどについても,詳細に解説している。本多理論. の特長は,ドイツ林政学者であるレール理論7と吉野密植方式を体系化した土倉庄三郎理 論を融合させたところにある。本多理論の概要【図1−2−3】を以下に示す。. 一28..
(32) 経済としての森林 (1)林業における自然条件 ・絶対的林地(自然上の制約によ って林地にしかならない林地). ・経済的林地(経済的に採算が. 合わない奥地). 日本の各林業地に 急速に浸透する (天竜・久万など). ・自然条件との関係 (気候・位置・土地の高低・傾. 日. 士 口 野. 常 生. 斜度・土質・±:壌). 林業. 活に. 9麟9齢資本としての欄. (2)林業における社会的条件. 土倉庄三郎の理論 の. 方 式. (技術・経営の体系. (林木及びその材木が生育する. お け. 土地). ・土倉式密植法. る. :籍雛・間伐による収入. 〈人間. ②林業の労働力 ・林業労働および賃金. 化). リ難誉としての聯. ・吉野杉のプラン ド化. V 木. ④木材輸送 ・木材の採算性 ⑤林業の収益 ・農業収益との比較. の 関. 環境としての森林 (1)水源酒髪上の森林の効用. と. 〈. V. 本 多 静 六 理論. (学問→実証). ドイツ林政学と. 吉野林業方式をモ デルにして,独自 の林政学理論を展. ・科学的データによる実証. わ. 8激白扇蚕繭の燗. り ↓ 〈木V. 講艦無二の関係・防雪林の必要性. を. ③飛砂及び暴風と森林 ・防砂林,防風林の必要性. ]お普幾雑難. 利. (3)わが国の地力の衰え. 用 ド. する. 羅鍵響七三惧. 文化. ・魚付林の必要性 i5)衛生上森林の効用 ・伝染病予防と森林. レールの理論. φ. 鯉鑛季籔. 林 政 学. ての林政学をはじ めて提唱. の. 重 文化としての森林. 要. 携鑑榛喉喜懲. 性. 森林荒廃に苦しむ ヨーロッパ各地に 並 した. 【図卜2−3】本多静六理論の概要(筆者作成). 一29一.
(33) (2)政策学としての林政学. 塩谷勉は林業に関する学問の一体系として「林学」を位置づけ,以下のように体系づけ ている。8. 1 林業哲学(総論). H 林業技術学. A林業生産学(罐簗的課程 B 林産加工学(物理・化学的課程) 皿 A 林業経営経済学… 森林経理学など. B 林業国民経済学… 囲など 【図1−2−4】 「林学」における「林政学」の位置. 国民生活との関わりで林政学を捉えるという立場からすると,「III−B 林業国民経済 学としての林政学」という捉え方が妥当であり,塩谷は,以下のように述べている。9. 「国民経済の中で林業が果たすべき役割から,さらにそのあるべき姿をも研究し,. 林業政策はどのような政策目標を設定すべきか,そしてその達成のためにどのよう な手段が採用されるべきか。そのような課題に答えを出していこうとするのが林業 政策学,すなわち林政学である。」. 塩谷による「林政学」の概念規定は,第二次世界大戦直後の林政学研究の第一人者であ. る島田錦蔵の「林政学」概念によって裏付けられるIo。以下に示す。. 「林政学は,その主たる内容を林業政策の研究におくことは素よりいうまでもない。 しかし,政策の本来の意義にしたがって;いきなり林業の目的ないし理想を設定し,. これに到達するための手段の選定ないしその適合性の判断などに範囲を限定して取 り扱うことが適当なりやといえば,必ずしもそうではない。われわれは,林業の現 状を国民生活との関係において具体的に観察し,これを確定し,その底に流れる法 則性を把握した上で,政策の目標をたてることが必要なのである。」. 一30一.
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