学位論文
木質ラーメン及び木質ラーメン内に耐力壁を
設置した構面の許容せん断耐力評価に関する研究
2020 年 3 月
坂槇 義夫
ハウスプラス住宅保証(株)
論 文 の 要 旨(和文)
(2,000 字程度)
論文提出者
坂槇 義夫
論 文 主 題 木質ラーメン及び木質ラーメン内に耐力壁を設置した構面の 許容せん断耐力評価に関する研究
(論文要旨)
狭小間口におけるインナーガレージを有する住宅等に、木質ラーメンを取り入れた建物が増えている。
また、木質構造に関する研究は、兵庫県南部地震以降多く行われ、現在では、耐力壁を用いる軸組工法 を対象とした新壁量計算法や許容応力度計算法等の設計法が整備されている。ただし、校舎などの中規 模施設、また住宅においても開口部を広く設けた構造物やインナーガレージを有する木質ラーメンの設 計法は、まだ、確立されているとは言いがたい。その理由として、木質ラーメン接合部が半剛接合とな り、回転を考慮した設計が求められることや木質ラーメン接合部の構造方法が多種多様であり、それぞ れの構法ごとに設計法が開発されていることが挙げられる。木質ラーメン接合部の構造方法は、モーメ ント抵抗型として、ガセット板接合型、ドリフトピン接合型、ボルト接合型などがある。
一方、2009 年施行の「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」は、住宅に可変性を求めている。さ らに、2010 年施行の「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」を受けて、中規模及び 4 階建て以上の中層建築物を木造で建築するための研究が勢力的になされている。このとき、大空間また は大開口を実現するための手段として大断面で長大な部材で構成される木質ラーメンは有効である。
木質ラーメンは、地震力等の水平力に対して、柱-はり接合部でモーメント抵抗する。しかし、柱-
はり接合部を接合金物で構成していることから、半剛節接合となる。そして、木材のめり込み剛性、曲 げ剛性が小さいことから、建築物の変形角の制限値を満足することが難しい。そのため、軸材の断面寸 法は過大となる傾向があり、不経済な設計を強いられている。そこで、木質ラーメン構面内に構造用合 板を配置する構法を考える。本構法は、木質ラーメンで不足となりやすい初期剛性と耐力を補うことが できる。木質ラーメンに構造用合板などの面材耐力壁を配置し補剛する手法は、近年実設計で採用され るようになってきている。また、木質ラーメンを取り入れたスケルトンインフィル住宅においても、構 造用合板壁を木質ラーメンに配置するフレームが存在することがある。その際、構造用合板壁が木質ラ ーメン柱に応力の影響を与える可能性があるため、木質ラーメンとは別に、管柱を設置し、構造用合板 を張ることが多い。木質ラーメンフレームに直接構造用合板壁を設置した場合の挙動が解明できれば、
別途配置した軸組がなくても良い。そこで、木質ラーメンを面材耐力壁で補剛する構法の許容せん断耐力の 評価方法を考える。
本研究では、近年開発され、施工が容易な接合具である“ラグスクリューボルト(以下、LSB)”を用 いる木質ラーメンを取り上げる。そして、木質ラーメン及び木質ラーメン内に耐力壁を設置した構面の 許容せん断耐力評価法を提案する。(1)~(6)が、本研究の成果である。
(1) LSB を用いた木質ラーメンの力学特性を門型ラーメンと柱-はり接合部の試験及び解析で明らか にした。
(2) LSB を用いた柱-はり接合部の応力状態を試験と解析で解明した。押し込み側の応力状態は、LSB の押し込み力と木材へのめり込み力の加算で表せる。また、木材へのめり込み位置は、柱脚の回転角に 応じて変化する等を示した。
(3) 木質ラーメンと面材耐力壁を併用した住宅の荷重-変形角関係を加算することで木造住宅の耐力 を考察した。各耐力の単純加算は、木造住宅の耐力を高く評価する可能性があること示した。
(4) 門型ラーメンフレームを中央でカットした試験体(ハーフラーメン)の実験と解析を実施した。こ のとき、解析しやすくするため、実験では非接触の柱脚とし、木材へのめり込み力を排除した。その結 果、① 壁付ラーメンの短期許容せん断耐力は、ラーメン単体と合板壁単体のそれぞれの短期許容せん断
耐力に係数を乗じて加算することを提案した、② 合板壁をラーメン柱にくぎで直張りするとき、ラーメ ン柱の外側よりも内側に直張りする方が耐力で有効である、などの結論を示した。
(5) 柱を柱脚金物に接触させた門型ラーメンフレームとハーフフレームの試験を実施し、ハーフラー メン試験の加算とラーメンフレーム試験を比較した。水平加力時の逆対称性の確認と加算の確認を行っ た。
(6) ① ラーメン柱に合板壁の片側を直張りして耐力壁を設置した場合、② ラーメンフレームの中央 部に、耐力壁を設置した場合、③ ラーメンフレームの端部に耐力壁を設置した場合、の 3 種類の壁付ラ ーメンフレームのシミュレーション解析を実施した。その結果、壁付ラーメンフレームの短期許容せん 断耐力の評価方法を以下のように提案した。
1) 木質ラーメンだけで、建築物を構築する場合は、木質ラーメンの許容せん断耐力を加算する。
2) 木質ラーメンと耐力壁をそれぞれ独立させて混在させる場合は、木質ラーメンと耐力壁のそれぞれの 荷重-変形角関係を加算する。そして、加算した荷重-変形角関係から特性値を求め、許容せん断耐力 を算出する。
3) 木質ラーメンフレーム内に合板壁を設置する構面を混在させる場合は、木質ラーメン単体と合板壁単 体のそれぞれの荷重-変形角関係に係数を乗じて、加算する。
(2,097 字)
木質ラー メン及 び 木質ラ ー メン内 に耐力壁 を設置した 構面 の 許容 せん 断耐力 評 価に関す る研究
目 次 第 1 章 序 論
1.1 概 要
1.1.1 本研 究 の目 的 1.1.2 本論 文 の構 成
1.1.3 LSB を 用 いた 木質 ラ ーメ ンの 概 要
・・・・・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・
1 1 4 5 1.2 木質 ラー メ ンの 法律 の 扱い と 設計 上の 注 意点
1.2.1 木質 ラ ーメ ンの 歴 史と 関連 法 令の 変 遷 1.2.2 木造 関 連法 令
1.2.3 木質 ラ ーメ ンと す る場 合の 注 意点 1.2.4 構造 計 画上 の留 意 点
・・・・・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・
7 7 8 10 11 1.3 既往 の研 究
1.3.1 ラー メ ン工 法の 基 本概 念 1.3.2 接合 部 の形 式
1.3.3 既往 の 研究
・・・・・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・
12 12 13 19
第 2 章 ラグ スク リ ュー ボル ト を用 い た木 質ラ ー メン の構 造特 性
2.1 概 要 ・・・・・・・ 45
2.2 木質 ラー メ ン及 び接 合 部の 水 平耐 力試 験 ・・・・・・・ 46 2.3 木質 ラー メ ンの 解析 ・・・・・・・ 60
2.4 結 論 ・・・・・・・ 68
第 3 章 木質 ラー メ ンと 耐力 壁 の並 列 加算
3.1 概 要 ・・・・・・・ 69
3.2 木質 ラー メ ンと 合板 壁 の並 列 加算 3.2.1 構造 用 合板 壁の 構 造性 能
3.2.2 木質 ラ ーメ ンと 構 造用 合板 壁 の並 列 加算
・・・・・・・
・・・・・
・・・・・
71 71 74 3.3 木質 ラー メ ンと 耐力 壁 ・準 耐 力壁 の並 列 加算
3.3.1 木質 ラ ーメ ンと 併 用す る 耐力 壁・ 準 耐力 壁
3.3.2 住宅 性 能表 示対 応 住宅 の間 取 り分 析 3.3.3 特性 値 加算 と包 絡 線加 算の 比 較
・・・・・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・
78
78 80 81
3.4 結 論 ・・・・・・・ 84
第 4 章 柱・ はり 接 合部 の応 力 性状
4.1 概 要 ・・・・・・・ 85
4.2 柱・ はり 接 合部 の試 験 ・・・・・・・ 87 4.3 柱・ はり 接 合部 耐力 の 耐力 成 分の 分析 ・・・・・・・ 98
4.4 結 論 ・・・・・・・ 105
第 5 章 面材 耐力 壁 を設 置し た 木質 ラ ーメ ン架 構 の構 造特 性
~柱 脚を 非 接触 とし た 場合 ~
5.1 概 要 ・・・・・・・ 107
5.2 柱 脚 を 非 接 触 と し た 木 質 ハ ー フ ラ ー メ ン 構 面 内
に構 造用 合 板壁 を設 置 した 耐 力要 素の 試 験 ・・・・・・・ 109 5.3 試験 結果 と 加算 比較
5.3.1 試験 結 果 5.3.2 加算 比 較
・・・・・・・
・・・・・
・・・・・
115 115 117 5.4 分析 と考 察
5.4.1 耐力 要 素の 応力 状 態 5.4.2 完全 弾 塑性 モデ ル
・・・・・・
・・・・・
・・・・・
119 119 130
5.5 結 論 ・・・・・・・ 143
第 6 章 面材 耐力 壁 を設 置し た 木質 ラ ーメ ン架 構 の構 造特 性
~柱 脚を 接 触と した 場 合~
6.1 概 要 ・・・・・・・ 145
6.2 柱 脚 を 接 触 と し た 木 質 ラ ー メ ン 構 面 内 に 構 造 用
合板 壁を 設 置し た耐 力 要素 の 試験 ・・・・・・・ 146
6.3 試験 結果 ・・・・・・・ 152
6.4 試験 加算 の 比較 ・・・・・・・ 153
6.5 結 論 ・・・・・・・ 168
第 7 章 木質ラーメン構面内に面材耐力要素を設置した架構の数値解析
7.1 概 要 ・・・・・・・ 169
7.2 耐力 要素 の 解析 7.2.1 解析 モ デル
7.2.2 弾塑 性 バネ の設 定
・・・・・・・
・・・・・
・・・・・
170 170 172
7.3 モデ ル化 の 検証 ・・・・・・・ 176 7.4 シミ ュレ ー ショ ン解 析
7.4.1 解析 ケ ース 7.4.2 解析 結 果
・・・・・・・
・・・・・
・・・・・
178 178 181
7.5 結 論 ・・・・・・・ 189
第 8 章 まと め
8.1 本研 究の 結 論 ・・・・・・・ 191
8.2 まと め ・・・・・・・ 192
【参 考文 献 】
【学 会誌 に 発表 した 論 文リ ス ト 】
【謝 辞 】
・・・・・・・
・・・・・・・
199 207
指導教授 : 大橋好光教授
(東京都市大学工学部建築学 科)
第 1 章 序 論
-1- 1.1 概 要
1.1.1 本研 究 の目 的
狭 小間 口 にお け るイ ンナ ー ガレ ージ を 有す る住 宅等 に 、木 質 ラー メン を 取り 入れ た建 物 が増 え てい る。 ま た、 木質 構 造に 関す る研 究 は、 兵 庫県 南部 地 震以 降多 く行 わ れ、 現 在で は、 耐 力壁 を用 い る軸 組工 法を 対 象と し た新 壁量 計 算法 や許 容応 力 度計 算 法等 の設 計 法が 整備 さ れて いる 。た だ し、 校 舎な どの 中 規模 施設 、ま た 住宅 に おい ても 開 口部 を広 く 設け た構 造物 や イン ナ ーガ レー ジ を有 する 木質 ラ ーメ ン の設 計法 は 、ま だ、 確 立さ れて いる と は言 い がた い。 そ の理 由と して 、 ラー メ ン接 合部 が 半剛 接合 と なり 、回 転を 考 慮し た 設計 が求 め られ るこ とや 木 質ラ ー メン 接合 部 の構 造方 法 が多 種多 様で あ り、 そ れぞ れの 構 法ご とに 設計 法 が開 発 され てい る こと が挙 げ られ る。 木質 ラ ーメ ン 接合 部の 構 造方 法は 、モ ー メン ト 抵抗 型と し て、 ガセ ッ ト板 接合 型、 ド リフ ト ピン 接合 型 、ボ ルト 接合 型 など があ る 。
一方 、2009 年施行の「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」は、住宅に 可変 性を 求 めて いる 。さら に、2010 年施行の「公共建築物等における木材の利 用の 促進 に 関す る法 律 」を 受 けて 、中 規 模及 び 4 階建て以上の中層建築物を木 造で 建築 す るた め の研 究が 勢 力的 にな さ れて いる 。こ の とき 、 大空 間ま た は大 開口 を実 現 する た めの 手段 と して 大断 面 で長 大な 部材 で 構成 さ れる 木質 ラ ーメ ンは 有効 で ある 。 よっ て、 木 質ラ ーメ ン を設 計す るた め 、構 造 特性 を解 明 する こと は重 要 であ る。
木質 ラー メ ンは 、地 震 力等 の 水平 力に 対 して 、柱 -は り 接合 部で モ ーメ ン ト 抵抗 する 。 しか し 、柱 -は り 接合 部を 接 合金 物で 構成 し てい る こと から 、 半剛 節接 合と な る。 そ して 、木 材 のめ り込 み 剛性 、曲 げ剛 性 が小 さ いこ とか ら 、建 築物 の変 形 角の 制限 値 (1/200 または 1/120rad.)を満足することが難しい。そ のた め、 軸 材の 断 面寸 法は 過 大と なる 傾 向が あり 、不 経 済な 設 計を 強い ら れて いる 。そ こ で、 木 質ラ ーメ ン に耐 力壁 を 併用 して 、層 間 変形 を 調整 する こ とが 想定 され る 。併 用の 組 み合 わ せは 、次 の 2 種類が考えられる。
① 木質ラーメンと耐力壁を、剛床を介して用いる並列配置する場合( Fig.1- 1)
② 木質ラーメンフレーム内に耐力壁を配置する場合( Fig.1-2)
2 種類の方法は、木質ラーメンで不足となりやすい初期剛性と耐力を補うこ とが でき る 。木 質 ラー メン に 構造 用合 板 など の面 材耐 力 壁を 配 置し 補剛 す る 手
法は 、近 年 実設 計 で採 用さ れ るよ うに な って きて いる 。 また 、 木質 ラー メ ンを 取り 入れ た スケ ル トン イン フ ィル 住宅 に おい ても 、構 造 用合 板 壁を 木質 ラ ーメ ンに 配置 す るフ レー ム が存 在 する こと が ある 。
①の 場合 は 、文 献 1-1)に「異なる仕様の耐力壁の許容せん断力に加算則を適 応で きる か 否か の確 認 に留 意 する こと が 必要 であ る。」と 指 摘さ れて い る。
また 、② の 場合 、構 造 用合 板 壁が 木質 ラ ーメ ン フ レー ム に応 力の 影 響を 与 え る可 能性 が ある 。 木質 ラー メ ンフ レー ム に直 接構 造用 合 板壁 を 設置 した 場 合の 挙動 が解 明 でき れ ば、 合理 的 な設 計が 可 能と なる 。そ こ で、 木 質ラ ーメ ン を面 材耐 力壁 で 補剛 す る構 法の 許 容せ ん断 耐 力の 評価 方法 を 考え る 。本 研究 で は、
近年 開発 さ れ、施 工が 容 易な 接合 具 であ る“ラ グス クリ ュ ーボ ルト( 以 下、LSB)”
を用 いる 木 質ラ ーメ ン を取 り 上げ る。
本研 究の 目 的は 、次 の 2 つである。
① 木質ラーメンの構造性能を確認し、その許容せん断耐力を求める設計法を 構築 する こ と。
② 木質ラ ーメ ンと 面材 耐力壁 を併 用し た構 面 の許容 せん 断耐 力を 求める 設 計法 を構 築 する こと 。
なお 、木質 ラ ーメ ンの 柱 はり 接 合部 は 、柱 及 びは りに 埋 め込 まれ た LSB と金 属プ レー ト を特 殊 ナッ トで 固 定し 、 柱 - はり 相互 のプ レ ート を くさ び状 の 金物 で接 合す る 構法 と した 。ま た 、木 質ラ ー メン 柱に 直張 り する 面 材耐 力壁 は 、構 造用 合板 壁 を想 定し た 。
剛床 木質ラーメン
フレーム 軸組
耐力壁
Fig.1-1 木質ラーメンフレームと耐力壁の並列加算
-3- 木質ラーメン フレーム
耐力壁
管柱 管柱
耐力壁
管柱
木質ラーメン フレーム
管柱
管柱 耐力壁
土台 加力
加力 加力
土台
土台
木質ラーメン フレーム
(a). 木質ラーメンに耐力壁を直張り
柱
はり 柱 柱
柱
はり はり
柱
柱
(b). 木質ラーメン内の耐力壁を配置
端部配置 中央部配置
Fig.1-2 木質ラーメンフレーム内に耐力壁を配置する場合
1.1.2 本論 文 の構 成
本論 文の 章 の構 成は 、 以下 と なる 。
第 1 章では、既往の研究を整理した。
第 2 章では、LSB を用いた木質ラーメンの力学特性を門型ラーメンと柱-は り接 合部 の 試験 及び 解 析で 明 らか にし た 。
第 3 章では、文献 1-1)で指摘されている「異なる仕様の耐力壁の許容せん断 力 に 加 算 則 を 適 応 で き る か 否 か の 確 認 に 留 意 す る こ と が 必 要 で あ る 。」 こ と を 確認 した 。 木質 ラ ーメ ンと 耐 力壁 を併 用 した 住宅 につ い て、 耐 力要 素の 耐 力加 算と 加算 し た荷 重- 変 形角 関 係か ら特 性 値を 求め 比較 し た。
第 4 章では、LSB を用いた柱-はり接合部の応力状態を試験で解明した。試 験は 、LSB を片側だけに設置した試験体と柱とはり間に 30mm のすき間を設置 した 試験 体 から 標準 試 験体 の 応力 状態 を 示し た。
第 5 章では、木質ラーメンに構造用合板を直張りした耐力要素を想定した。
そし て、 門 型ラ ー メン フレ ー ムを 中央 で カッ トし た試 験 体( ハ ーフ ラー メ ン)
の実 験と 解 析を 実 施し た。 こ のと き、 解 析し やす くす る ため 、 実験 では 非 接触 の柱 脚と し、木材 へ のめ り 込み 力を 排 除し た 。その 結 果、① 壁付ラーメンの短 期許 容せ ん 断耐 力 は、 ラー メ ン単 体と 合 板壁 単体 のそ れ ぞれ の 短期 許容 せ ん断 耐 力 に 低 減 係 数 を 乗 じ て 加 算 す る 、 ② 合 板 壁をラー メン柱 にく ぎで直 張り す ると き、 ラ ーメ ン 柱の 外側 よ りも 内側 に 直張 りす る方 が 耐力 で 有効 であ る 、な どの 結論 を 示し た。
第 6 章では、第 5 章に加えて門型ラーメンフレームとハーフフレームの試験 を実 施し 、 試験 結 果を 考察 し た。 そし て 、ハ ーフ ラー メ ン試 験 の加 算と ラ ーメ ンフ レー ム 試験 を 比較 した 。 水平 加力 時 の逆 対称 性の 確 認と 加 算の 確認 を 行っ た。 なお 、 試験 体の 柱 は、 柱 脚金 物に 接 触さ せた 。
第 7 章では、壁付ラーメンフレームとして、 3 種類の構面を設定し、シミュ レー ショ ン 解析 を実 施 した 。3 種類とは、① ラーメン柱に合板壁の片側を直張 りし て耐 力 壁を 設置 し た場 合 、② ラーメンフレームの中央部に、耐力壁を設置 した 場合 、③ ラーメンフレームの端部に耐力壁を設置した場合、である。そし て、 これ ら の壁 付 ラー メン フ レー ムの 短 期許 容せ ん断 耐 力の 算 出方 法を 提 案し た。
第 8 章は、第 1~7 章のまとめである。
-5- 1.1.3 LSB を 用 いた 木質 ラ ーメ ンの 概 要
本研 究対 象 とし たラ グ スク リ ュー ボル ト を用 いた 接合 部 の構 成をPhoto1-1(a)、
(b)に示す。また、Photo1-2 に木質ラーメンフレーム、Photo1-3 に木質ラーメン を用 いた 建 築物 を示 し た。
柱- はり 接 合部 は、 柱 及び は りに 埋め 込 まれ た特 殊ボ ル トと 金属 プ レー ト を 特殊 ナッ ト で固 定 し、 柱・ は り相 互の プ レー トを くさ び 状の 金 物で 接合 し た。
柱脚 部は 、 柱に 埋め 込 まれ た 特殊 ボル ト と柱 脚金 物を 特 殊ナ ット で 接合 し た。
プレート
ナット
くさび状のプレート
ラグスクリュー
ボルト
Photo1-1(a) 柱-はり接合部の金物 Photo1-1(b) 柱脚接合の金物
Photo1-2 木質ラーメンフレーム
Photo1-3 木質ラーメを用いた建築物 (事務所)
柱・ はり 接 合 部
柱脚 接合
-7-
1.2 木 質ラ ー メン の法 律 の扱 いと 設 計上 の 注意 点
1.2.1 木質 ラ ーメ ンの 歴 史と 関係 法 令の 変 遷
1901 年にドイツ人のオットー・ヘッツァーがスイスでフランジとウェブを接 着し た材 料 につ い て特 許を 取 得し たの が 始ま りと され る 。ラ ー メン とは ド イツ 語の Rahmen(額縁、枠)であり、英語では rigid frame または moment resisting frame となる。
わが 国で は 1951 年の森林記念館(東京)が最初とされ、1950 年代後半の集 成材 の出 現 とと もに 1960 年代前半にかけて一時は年間建設 100 棟を超えるま でに 発展 し た。しか し、1959 年の伊勢湾台風後の木造排除主義や、集成材を用 いた 学校 建 築へ の補 助 金の 打 ち切 り等 に よっ て年 間数 棟 まで 落ち 込 んだ 。
これ に対 し て、1961 年の日本建築学会によって「集成材構造設計基準」や 1966 年の 集成 材 JAS 規格が制定された。1971 年には建設大臣通達と翌年の建設省告 示で 、集成 材に 製 材よ りも 高 い許 容 応力 度が 初め て認 め られ た 。JAS では 1974 年の 改定 で 構造 用 1、2 級(2 級は枠組壁工法適用を想定)とともに FJ、レゾル シノ ール 樹 脂接 着剤 が 規定 さ れ、1986 年に幅 7.5 ㎝、厚さ 15 ㎝以上の構造用 大断 面集 成 材が 加え ら れた 。さ らに 1996 年には等級区分による挽板構成、大中 小断 面の 区 分、 使用 環 境に よ る区 分と 接 着剤 の規 定な ど が行 われ た 。
建築 基準 法 では 1982 年に特殊建築物として大臣の特認による軒高 9m、棟高 13m を超える大規模建築の道が開かれた(法 38 条)。1987 年には施行令 46 条 で小 径 15 ㎝、断面積 300cm2以 上 の木 材 が大 断面 木造 建 築の 概念 に 要求 さ れる とと もに 、耐火 被 覆・燃 えし ろ 設計 など を 条 件に 高さ 制 限 、1,000 ㎡防火区画の 解除 も認 め られ る よう にな っ た。 こう し て耐 力壁 構造 以 外の 多 様な 木構 造 への 門戸 が開 か れた 。こ れ らの 設 計法 は、 新 耐震 基準 にお け るい わゆ る ルー ト 2 以 降の 構造 設 計フ ロー を 用い る もの であ る 。
1986 年には、建設省主催の「新・都市型ハウジングシステム」提案競技で木 質ラ ーメ ン を提 案し た(株 )綜建築研究所・稲山正弘や (株)市浦都市開発コンサル タ ン ツ の グ ル ー プ が 、 共 同 で 都 市 型 集 合 住 宅 向 け の 木 質 ラ ー メ ン 構 造 の 研 究
((財)日本住宅・木材技術センター委託)を開始している。 1991 年には、林野 庁 助 成 に よ る(財)日本住宅・木材技術センタ ーでの「新木質建材住宅適用技術 推進 事業 ・ 木質 架構 委 員会 」 で、 木造 純 ラー メン 構造 に よる 3 階建程度の架構 を実 現す る 構造 設計 方 法が 検 討さ れて い る。この よう に して 、1980 年代後半か ら木 質ラ ー メン 構造 が 再び 隆 盛す る傾 向 がみ られ る。
1.2.2 木造 関 連法 令
木造 建築 物 は、構 造計 算を 必 要し ない 場 合で も、(1)~(9)の仕様規定を順守す る必 要が あ る。ただ し、茶屋、あ ずま や等 や 延べ 床面 積が 10m2以 内 の 物置 、納 屋等 につ い ては これ ら の規 定 は適 用さ れ ない (令 40 条)。木造建築物に係わる 建基 法の 仕 様規 定の 概 要を 示 す。
(1) 木材(令 41 条)
(2) 土台及び基礎(令 42 条)
(3) 柱の小径(令 43 条)
(4) はり等の横架材(令 44 条)
(5) 筋かい(令 45 条)
(6) 構造耐力上必要な軸組等(令 46 条)
(7) 継手又は仕口(令 47 条)
(8) 学校の木造の校舎(令 48 条)
(9) 防腐措置(令 49 条)
Table1-1 に建築基準法の構造規定による木造建築の分類を構造安全性の確認 方法 の概 略 、Table1-2 に木造建築物に関する近年の建築基準の改正等を示す。
本研 究で 採 用し た木 質 ラー メ ン建 築物 の 設計 は、Table1-1 の集成材等建築物
(令 46 条 2 項)で構造安全性の確認を行う。
-9-
Table1-1 建築基準法の構造規定による木造建築物の分類 と構 造安 全 性の 確認 方 法の 概 略
Table1-2 木造建築物に関する近年の建築基準の改正等
許容応力度 層間変形角 剛性率・偏心率等 保有水平耐力
令82条各号 令82条の2 令82条の6 令82条の3
令82条の4 2号および3号
階数2以下、面積500m2以下、高さ13m
以下かつ軒の高さ9m以下 - - - -
階数3以上 ○ - - -
延べ面積500m2超 ○ - - -
高さ13m超または軒の高さ9m超 ○ ○ 高さ31m以下
階数2以下、面積500m2以下、高さ13m
以下かつ軒の高さ9m以下 ○ ○ ○ -
階数3以上 ○ ○ ○ -
延べ面積500m2超 ○ ○ ○ -
高さ13m超または軒の高さ9m超 ○ ○ 高さ31m以下
階数2以下、面積500m2以下、高さ13m
以下かつ軒の高さ9m以下 - - - - 壁量計算(告示第1~第7)
階数3以上 ○ - - -
延べ面積500m2超 ○ - - -
木造3階建て共同住宅かつ高さ13m以
下かつ軒の高さ9m ○ ○ - - 耐力壁の降伏せん断耐力を計
算し、架構のじん性を確保する
高さ13m超または軒の高さ9m超 ○ ○ 高さ31m以下
部位の仕様が告示仕様からはずれる
建築物 ○ - - -
空間・開口のサイズが告示仕様から
はずれる建築物 ○ - ○ -
1階建てまたは小屋裏利用2階建てか つ延べ面積300m2以下かつ高さ8.5m 以下
- - - - 告示第1第1項による仕様規定
延べ面積300m2超または高さ8.5m超 または2階建て以上(小屋裏利用2階 建てを除く)
○ - - - 令82条1号~3号までに定める構
造計算
上より一部、仕様の適用除外 ○ - - - 令82条1号~4号までに定める構
造計算
高さ13m超または軒の高さ9m超 ○ ○ ○ - 高さ31m以下
丸太組構法
(平成14年国交 告示第411号)
令46条の壁量等の規定(所要壁 率の確保および軸組の釣り合い 良い配置は必要)
高さ13m以下かつ軒の高さ9m以 下に限る
高さ13m以下かつ軒の高さ9m以 下に限る
高さ13m以下かつ軒の高さ9m以 下に限る
○ または ○
○ または ○
○ または ○ 在来軸組構法
(令3章3節)
枠組壁工法
(平成13年国交 省第1540号)
対象工法 条 件
確認方法
備 考
集成材等建築物
(令46条2項)
(昭和62年建告 第1899号)
根拠法令告示 内 容
1987 昭和62年 建築基準法改正 高さ13m、軒高9mを超える大規模木造が建築可能になった 準防火地域で木造3階建てが建築可能になった
1993 平成5年 建築基準法改正 準耐火構造・準耐火建築物を規定し、防火地域・準防火地域以外で木造3階建て共同住宅が建築可能に なった
1999 平成11年 建築基準法施行令改正 準防火地域で木造3階建て共同住宅が建築可能になった
2000 平成12年 建築基準法改正
性能規定化により木造による耐火構造や木質材料の不燃材料等としての認定が可能となった 耐火性能検証法により大規模木造建築物が建築可能になった
避難安全検証法により内装制限等の緩和が可能になった
耐力壁の配置方法に関する技術基準を明確化した(平成12年建告1352号)
継手・仕口の形状、接合部材の種類等の技術基準を明確化した(平成12年建告1460号)
2001 平成13年 告示改正等 乾式間柱壁の外壁の仕様が防火構造として例示された(平成12年建告1359号)
加工処理木材が不燃材料として認定された
2003 平成15年 告示改正 土塗り壁、面格子壁、落とし込み板壁の壁倍率追加(昭和56年建告1100号)
2004 平成16年 告示改正等
製材の燃えしろ設計による準耐火建築物が可能になった(昭和62年建告1898号、1901号、1902号)
伝統的構法による外壁や軒裏の仕様を防火構造等に追加(平成12年建告1359号)
ログハウス外壁の準耐火構造認定 枠組壁工法による耐火構造認定
木質複合部材(鋼材内蔵型)の耐火構造認定
2006 平成18年 木造軸組構法による耐火構造認定
2009 平成21年 告示制定 内装制限の合理化(平成21年国交告225号)
2009 平成21年 告示改正 4号木造建築物における既存不適格建築物の増改築時の基準の見直し(平成17年国交告566号)
年
1.2.3 木質 ラ ーメ ンと す る場 合の 注 意点
木造 建築 を「 ラー メ ン構 造」とす る 場合 は、建築 基準 法 施行 令第 46 条第 2 項 に定 めら れ た基 準に 適 合さ せ なけ れば な らな い。
施行 令 第 46 条では、一般的な木造建築の構造に関する法律的な位置づけと して 、「 構 造耐 力 上主 要な 部 分で ある 壁 、柱及 び横 架材 を 木造 とし た 建築 物 にあ って は、 す べて の 方向 の水 平 力に 対し て 安全 であ るよ う に、 各 階の 張り 間 方向 およ びけ た 行方 向 に、 それ ぞ れ壁 を設 け 又は 筋か いを 入 れた 軸 組を 釣合 い よく 配置 しな け れば な らな い」 と の規 定が あ る。 現在 建設 さ れる 木 造住 宅の ほ とん どが これ に あた り 、水 平力 に 対し て壁 で 抵抗 させ る軸 組 構法 あ るい は枠 組 壁工 法の よう な 壁構 造が 想 定さ れ てい る。
その 中で 、第 2 項では「前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する木造 の建 築物 又 は建 築 物の 構造 部 分に つい て は、 適用 しな い 」と し て、 耐力 壁 及び 筋か いを 用 いな い 構造 に関 す る技 術規 準 が定 めら れて い る。 こ れが 「大 断 面木 造の 技術 規 準」 と 言わ れる も ので 、木 質 ラー メン 構造 を 可能 に する 法令 規 定と なっ てい る 。こ の 規準 には 、 材料 の強 度 品質 、柱 脚部 の 固定 、 柱と 梁等 の 部材 断面 積、 さ らに 接 合部 の構 造 計算 によ る 確認 が義 務づ け られ 、 構造 耐力 上 安全 であ るこ と が確 かめ ら れた 構 造で なけ れ ばな らな いと さ れて いる 。
ただ し例 外 規定 があ り 、国 土 交通 大臣 が 定め る基 準に 従 った 構造 計 算に よ っ て構 造耐 力 上安 全 であ るこ と が確 か め ら れた もの につ い ては 上 記の 項は 適 用さ れな い。
しか し現 実 には 、「柱 と梁 の 接合 部の 抵 抗力 だけ で持 ち こた える 構 造 」つ ま り ラ ー メ ン 構 造 と す る に は 剛 性 の 高 い 接 合 部 の 設 計 が 必 要 と な る た め 、「 大 断 面 木造 の技 術 規準 」の 部 材制 限 寸法 であ る 最小 径 150 ㎜以上、断面積 300 ㎝ 2以 上を 下回 る 部材 寸 法と はな り にく いこ と 、ラ ーメ ン構 造 を採 用 する 建築 物 の用 途や 規模 が 耐火 設計 を 必要 と する もの も 多い 。
-11- 1.2.4 構造 計 画上 の留 意 点
木質 ラー メ ンに おけ る 構造 設 計の 考え 方 の中 心は 水平 力 に対 する も ので あ る。
S 造や RC 造と同様に、許容応力度計算による 1 次設計と、層間変形角・剛性 率・ 偏心 率 等に よ る保 有水 平 耐力 検討 の 免除 の判 定を 含 めた 塑 性設 計に よ る 2 次設 計が あ る。
耐震 設計 に おい ては 鉄 骨多 層 ラー メン 構 造の 設計 法が 参 考に なる が 、木 材 の 強度 性状 ・ 変形 性 状が 鋼素 材 とは 全く 異 なる もの であ る こと ( 例え ば、 木 材は 脆性 的で 鋼 素材 は延 性 的材 料 であ るこ と)や、接合 法に も 差異 があ る こと な ど、
木質 構造 特 有の 問 題点 に留 意 する 。ま た 、現 時点 では 木 質ラ ー メン 構造 に おけ る部 材や 建 物全 体 の性 状の 解 明は 十分 で はな く、 体系 化 され た 評価 法・ 解 析法 が定 まっ て いな い ため 、具 体 的 に 構造 計 算を すす める に あた っ ては 、新 た な実 験を 行う な ど設 計者 自 身に よ る高 度な 工 学的 判断 が求 め られ る。
許容 応力 度 設計 に際 し ては 、 設計 外力 と 設計 荷重 を特 定 した 上で 部 材の 断 面 設計 と接 合 部の 設 計を 行う 。 部材 の設 計 は、 引張 ・圧 縮 ・曲 げ 応力 など が 許容 応力 度を 超 えな い こと や、 切 り欠 き・ 座 屈・ 複合 応力 に 配慮 す る。 接合 部 の設 計は 、樹種( 比 重)・設 計 断面・荷重 角 度・接合 具配 置 間隔・荷重 条 件・偏 心・
含水 率な ど を考 慮 する 。接 合 具に は、 接 合部 に作 用す る 材軸 に 対し て平 行 ・垂 直・ 回転 方 向の 荷 重が せん 断 力と して 作 用し 、そ れら の 合計 値 が許 容応 力 度を 超え ない よ うに する 。
応力 計算 法 とし ては 、 一般 に 木造 仕口 で は完 全な 剛性 を 得る こと は 難し い た め、 反剛 節 ラー メ ンと して 解 く。 部材 両 端の 仕口 部剛 性 (柔 性 )を 回転 バ ネあ るい は伸 縮 バネ に よっ て表 わ した 半剛 節 ラー メン の線 形 弾性 応 力計 算法 に は、
たわ み角 法 ・固 定法 ・ マト リ ック ス法 が ある 。
1.3 既 往の 研 究
1.3.1 ラー メ ン工 法の 基 本概 念
ラー メン 構 造と は「 各 節点 で 部材 が剛 に 接合 され てい る 骨組 。力 学 的に は 曲 げ材・圧 縮 材・引張 材 が結 合さ れ てい る形 式(建 築大 辞 典)」で あり 、外 力 に対 して 曲げ モ ーメ ン ト、 せん 断 力、 圧縮 ・ 引張 軸力 によ り 抵抗 す る構 造で あ る。
木質 ラー メ ン工 法 は、 構造 用 合板 ・筋 か いな どに よる 耐 力壁 を もた ず、 柱 ・は り接 合部 の 回転 モ ーメ ント に 対す る抵 抗 力に よっ て水 平 力に 耐 える 木造 の 架構 であ る。集成 材・LVL・PSL はどのはり・柱部材を用い、ボルト・ラグスクリュ ー(LSB)・釘・ドリフトピンといった単純な接合具(ファスナー)によって構 成さ れて い る。
「ラ ーメ ン 構造 」の 定 義は 、 鉄筋 コン ク リー トや 鉄骨 造 を前 提と し たも の で ある 。こ れ らの 構 造体 では 、 部材 の中 心 線を なす 角度 が 力を 受 けて もほ と んど 変化 しな い 接合 部 (剛 接合 ) と架 構( 剛 節架 構) が可 能 であ る ため 、一 般 に接 合部 (パ ネ ルゾ ー ン) の変 形 は無 視さ れ て部 材の 変形 の みを 考 慮し て設 計 され る。 しか し 、木 材 ・木 質材 料 を用 いた ラ ーメ ン構 造で は 、接 合 具に より 伝 達さ れる 応力 が 木部 に 局部 的に か かっ て接 合 部に 大き な変 形 が生 じ やす く、 そ れを 無視 する こ とは でき な い。
木質 ラー メ ン構 造で は 接合 部 で完 全に 剛 節で ある とみ な せる よう な 剛性 を 得 るこ とは 難 しい 。 した がっ て 、木 質ラ ー メン 構造 は構 造 力学 的 には 純ラ ー メン 構造 では な く、 半剛 接 ラー メ ン構 造と 呼 ぶに 近い とい え る。
-13- 1.3.2 接合 部 の形 式
こ こで は 、木 質ラ ー メン 工 法を 接合 部 形式 で分 類し て 記述 する 。
(1) 柱 ‐は り 接合 部( 仕 口)
柱・ はり 部 材に は、 断 面が 大 きく 曲げ 剛 性の 高い もの が 使用 され る こと が 多 い。 この こ とか ら 架構 の挙 動 は部 材接 合 部の 挙動 に左 右 され る 。よ って 、 接合 部に は十 分 な耐 力・剛 性・変形 能 力・安定 性 が要 求さ れ る。こう し た接 合は「 モ ーメ ント 抵 抗接 合 (Moment-Resisting Joint)」と呼ばれ、接合具と補強のための くさ び・ 接 着剤 ・樹 脂 注入 等 より 成っ て いる 。
仕口 形式 を 大別 する と 次の よ うに なる 。
① 鋼板 接 合( 添 え板 型・挿 入 型)
部 材の 両 側 面 を 鋼板 ガ セ ッ ト板 で 挟 み 込ん で 多 数の 接 合 具 ( 釘・ ボ ル ト ・ド リ フト ピ ン な ど) で 固 定 し、 そ の 回 転 抵抗 を 利 用し て モ ー メン ト を 伝 達す る 方 式で ある 。(Fig.1-3)
鋼 板を 柱 ・ は り 部材 の 内 部 (ス リ ッ ト )に 挿 入 する タ イ プ も ある 。 ド リ フト ピ ンの 場 合 は この 接 合 が 一般 的 で あ る 。接 合 具 の特 性 が そ のま ま 接 合 部の 特 性 に 反映 す る 最 も基 本 的 な 形式 で 実 験 デー タ も 豊 富で あ る 。「 ガ セ ッ ト板 接 合 型」
とも 呼ば れ てい る。
Fig.1-3 鋼板接合(添え板型・挿入型)
② 引張 ボ ルト 型接 合
梁端 部の 上 下の 位置 に 通し ボ ルト を挿 入 し、ナッ トを 回 して 梁と 柱 を引 き 寄 せる 形式 で ある(Fig.1-4)。はり端モーメントについて、引張力はボルトで、圧 縮 力は は り 小 口で 柱 に 伝達 さ せ る 。木 材 の 弱 点 であ る 繊 維 直交 方 向 の割 り 裂 き 破 壊を 起 こ さ ない よ う に意 図 し て いる 。 力 の 流 れは 鉄 骨 造 のブ ラ ケ ット 方 式 と 似通 って い る。
Fig.1-4 引張ボルト型接合
③ フラ ン ジ接 合型
梁 材 の 上 下 面 に 帯 金 物 を 添 え 、 こ れ を ラ グ ス ク リ ュ ー や 通 し ボ ル ト 等 で 木 部 に 固定 す る 。 帯金 物 か ら 羽子 板 ボ ル ト のよ う に 引張 ボ ル ト を出 し て 柱 材と 緊 結 する 。
④ 合わ せ はり 接合
添え 板鋼 板 の代 わり に 2 枚の梁部材で直接柱材を挟み込む。そして、スプリ ット リン グ やシ アプ レ ート、ブ ルド ッ クジ ベ ル等 の接 合 具で 固定 す る(Fig.1-5)。
接 合部 の 力 の 伝達 を 接 合 具の せ ん 断 耐力 に 依 存 する 点 で 、 鋼板 添 板 / 挿入 型 接 合 と似 通 っ た 形式 で あ る 。接 合 具 を 用い ず 全 て 接着 だ け で 接合 す る 特 殊な 例 も ある 。「 交差 重 ね合 わせ 型 」と も呼 ば れる 。
-15-
Fig.1-5 合わせはり接合
⑤ 貫鋼 板 接合
柱に あら か じめ 通さ れ た上 下 2 枚の貫鋼板を挟みこむように、はり側に取り つけ られ た 鋼板 と高 力 ボル ト 接合 する(Fig.1-6)。引張ボルト接合と似た構造原 理で ある 。
Fig.1-6 貫鋼板接合
⑥ その 他 1) 接着接合
集成 材の ラ ミナ を接 着 積層 す る段 階で 、あら かじ め十 字 形や T 字形の接合部 を工 場で 製 作す るも の 。
2) 通し貫接合
鎌倉 時代 の 仏教 建築 以 来 、伝 統 構法 に用 い ら れて きた 柱 と横 架材 の 接合 方 式。
3) 混合方式
モ ーメ ン ト と せ ん断 力 を 別 々に 伝 達 す るこ と を 意図 し た ハ イ ブリ ッ ド 的 なも のな ど。
-17- (2) 柱 脚接 合 部
柱- はり 接 合部 の鋼 板 接合 で は、1 方向ラーメンが前提であることが多い。
その ため 、 柱脚 接 合部 はめ り こみ の問 題 がな い分 、剛 節 を実 現 しや すい 。 よっ て、 柱と 基 礎を 剛 に接 合す る 方法 は、 柱 -梁 接合 部に 比 べて 研 究が 少な い 。し かし 、2 方向ラーメンでは両方向からのモーメントが柱脚にかかるため、構造 的配 慮が 必 要と なる 。
1 方向ラーメンの柱脚部にはアンカーボルト接着型など、 2 方向ラーメンの 柱脚 部に は 、掘 立 柱型 、露 出 鋼管 型、 引 張角 鋼型 、長 ア ンカ ー ボル ト型 な どが ある 。
(3) 架 構の 形 式
木質 ラー メ ン構 造の 架 構形 式 には 1方 向 ラー メンと 2 方向ラーメンがある。
門型 ラー メ ン・山 形ラ ー メン・アー チ ラー メ ンな どは 、1 方向ラーメンであり、
原則 とし て 耐力 壁 や筋 かい 等 と併 用さ れ るた め、 全ラ ー メン ・ 均等 ラー メ ン・
純ラ ーメ ン と称 され る 2 方向ラーメンとは区別される。
これ まで 集 成材 構造 物 と言 え ば、 湾曲 集 成材 を用 いた 3 ヒンジ山形ラーメン やラ ジア ル アー チ 構造 が大 半 であ った 。 しか し昨 今は 、 湾曲 集 成材 に比 べ て有 利な 製造 コ スト ・ 運搬 性や デ ザイ ンの 多 様性 など から 、 通直 集 成材 が見 直 され る傾 向に あ る。 ま た住 宅等 の 小規 模建 築 に対 して も、 安 全性 や 経済 性で 不 利と さ れ て い た ラ ー メ ン 構 造 の 適 用 が 増 え て い る 。 近 年 の 住 宅 プ ラ ン の 傾 向 - 上 下階 の耐 力 壁配 置 が大 きく ず れ、 力の 伝 達が 不明 確で 、 南面 は 大開 口に よ って 著し く壁 量 が不 足 し偏 心率 が 増大 して い る- とい うこ と や、3 階建て程度の多 層の 場合 、 モー メ ント 力を 各 接合 部が 分 散負 担す るラ ー メン 構 造の 方が 、1 階 脚部 に集 中 負担 させ る 壁式 構 造よ りも 有 利と する 考え 方 によ るも の であ る 。
また 、木 質 ラー メン 構 造の 接 合部 にも 鉄 骨ラ ーメ ン構 造 相当 の剛 性 や耐 力 を 有す るも の が要 求 され るた め 、純 ラー メ ンよ りも 実現 し やす い ブレ ース 材 を適 宜配 置し た 筋か い 入り ラー メ ンな どが み られ る。 さら に 、一 部 に鉄 筋コ ン ク リ ート 造の 耐 震壁 を 取り 入れ る もの や、 下 層を 鉄骨 造や 鉄 筋コ ン クリ ート 造 とす るよ うな 混 構造 もあ る 。
(4) 特 長
木質 ラー メ ン構 造の 特 長と し て、 以下 が 考え られ る。
① 重量 比強 度 が他 の無 機 系材 料 より 高い た め、 比較 的軽 量 の架 構と な る。
② 大ス パン を とば すこ と によ っ て大 空間 を 設け るこ とが で き、設計 の自 由 度が 高ま る。
③ 温度 に対 す る寸 法安 定 性が 高 い。
④ 構造 部材 を 露出 させ 、内装 仕上 げ と兼 ねう る 。湾 曲材 は 容易 に製 造 でき 、意 匠的 にも 生 かせ る。
⑤ 酸・塩分・水 分 等に 対 して 安定 で 、海 岸や 源 泉地 の建 物 、水 泳施 設 等に も用 いる こと が でき る。
⑥ 精度 の高 い 安定 した 加 工に よ る単 純形 状 の接 合部 が多 く、効 率的 な作 業 によ って 工期 を 短縮 しう る 。
-19- 1.3.3 既往 の 研究
(1) 主 な参 考 文献 や総 合 的な 研究
以下 の文 献 にお いて 、既往 の研 究 から 得ら れ た知 見や 参 照研 究な ど が整 理 さ れて いる 。
① 建築 耐震 設 計に おけ る 保有 耐 力と 変形 性 能
② 木質 構造 設 計ノ ート 、 日本 建 築学 会
③ 木質 構造 研 究の 現状 と 今後 の 課題
・P.14-16、日本木材学会木材強度・木質構造研究会、 1987
④ 木質 構造 研 究の 現状 と 今後 の 課題 Part2
・P.125-141、日本木材学会木材強度・木質構造研究会、 1994
⑤ 木材 の科 学 と利 用技 術 Ⅲ 5.大規模木構造、日本木材学会編、1993
⑥ 木 材 の め り こ み 理 論 と そ の 応 用 ― 靱 性 に 期 待 し た 木 質 ラ ー メ ン 接 合 部 の耐 震設 計 法に 関す る 研究
・稲 山正 弘 、1991(平成 3)年、東京大学学位論文
⑦ 集 成 材 骨 組 み 構 造 に お け る 接 合 の 研 究 、 小 松 幸 平 、 木 材 学 会 誌 vol.38、
No.11、1992
⑧ 木質 ラー メ ン構 造に 関 する 基 礎研 究
・五 十田 博 、1997(平成 9)年、東京大学学位論文
(2) 初 期( 1985 年ま で )の 研 究
1985 年頃までは、以下のような経過で研究がなされていた。
「節 点を で きる だけ 剛 に接 合 しよ うと す る試 みは 、最 初 、合 板ガ セ ット 釘 打 ち接 着法 に よる 山形 ラ ーメ ン の開 発研 究 から 始ま った 。わ が 国で は、1967 年ご ろ北 大の 宮 島ら が 合板 ガセ ッ ト接 着構 法 に注 目し 、一 連 の基 礎 実験 なら び に各 種木 造ラ ー メン の 応力 解析 と 実験 によ る 検証 を行 って い る。 そ の後 、北 林 産試 の伊 藤ら が 合板 ガ セッ ト接 着 法に よる 集 成材 山形 ラー メ ンの 実 大強 度実 験 を実 施 し た 。こ の 時 期 、 永 大 産 業中 央 研 究 所 で は 単 板 積 層材 (LVL)を木造ラーメ ン架 構へ 応 用す る ため の実 大 実験 を行 っ てい る。 わが 国 での 木 造ラ ーメ ン 架構 の開 発研 究 はそ の後 し ばら く 大き な進 展 は見 られ なか っ たが 、1983 年になって、
北 林 産 試 の 小松 は 、NZ で発達しつつあった通直集成材を用いたラーメン構法 を伝 承し た 研究 を 開始 した 。 最初 に厚 さ 40 ㎜程度の原盤を数枚互いに交差重
ね合 わせ 接 着し て 剛接 合を 構 成す る『 交 差重 ね合 わせ 接 着接 合 法』 の強 度 設計 法を 提案 し た。」
近年 の研 究 につ いて は 、以 下 で項 目別 に 取り 上げ る。
(3) 架 構・ 骨 組の 挙動 に 関す る研 究 (解 析 的、 実大 加 力試 験)
1). 辻野の「釘着合板ガセット接合部を有する木造フレームの変形解析」、1988 接 合 部 を ジ ョ イ ン ト 要 素 と 考 え 、 そ の 剛 性 マ ト リ ッ ク ス を 単 一 力 が 作 用 す る とし たフ ァ スナ ー 単体 の復 元 力の 重ね 合 わせ によ るバ ネ 定数 か ら構 築し 、 直交 異方 性材 料 であ る 木材 にお い ては 、バ ネ 定数 のこ の決 定 法は 理 論的 には 整 合し ない とし た うえ で、 概 略的 に は適 用可 能 であ るこ とを 明 らか にし て いる 。
2). 小松の「接 合部の非線形 特性を考慮に 入れた集成材骨組 み構造の解析 」、
1988~89
第 1 報(解析法の誘導、1988)・第 2 報(実験による検証、1989)では、ファ スナ ーを ひ ずみ エ ネル ギー を 蓄え る「 接 合要 素」 とみ な すこ と によ り、 理 論的 に整 合し た マト リ ック ス誘 導 がで きる こ とを 示し てい る 。ま た 、実 験結 果 と解 析が よく 適 合し て いる 。シ ア プレ ート 単 体の 荷重 -す べ り関 係 は実 験に よ り求 める 必要 が ある と した うえ で 、鋼 板で 接 合さ れた 柱梁 接 合部 に つい て、 前 述の
「接 合要 素 」と みな し た解 析 手法 から 、 変形 計算 の可 能 性を 示し て いる 。 平井 、小松 らの「 鋼板 添 え板 を 用い たボ ル ト 接合 部の 非 線形 荷重-すべり関係 (第 2 報)、1983」を発展させた研究で、これらの接合部の計算の前提となって いる 個々 の ファ スナ ー の荷 重-すべり関係に関する研究は、表現方法は異なるも のの 、弾 性 床上 の 梁理 論を 適 用し て、 非 線形 挙動 まで そ の適 合 性を 確認 し てい る。
3). 小松の「集成材 2 層門型ラーメンの実大加力実験」、 1991
筆者 らに よ る2 層集 成 材ラ ー メン 構造 の 実大 実験 に関 す る一 連の 研 究発 表 の ひと つで 、 通直 集 成材 によ る 実大 規模 の 2層 門型 ラー メ ン架 構 の実 験を 日 本で 最初 に行 っ たも の。
部材 寸法 は 同じ で接 合 形式 の み変 化さ せた 3 種類の接合形式(鋼板添え板釘 打ち 、鋼 板 挿入 ド リフ トピ ン 打ち 、鋼 板 添え 板ボ ルト 締 )に つ いて 、地 震 荷重 を想 定し た 水平 加 力実 験か ら 、剛 性と 強 度を 確認 して い る。 そ の結 果、 剛 性・
耐力 は釘 打 ち・ ボ ルト 締め が 完全 剛節 と して 扱え るほ ど 優れ て いる こと 、 構造
-21-
計算 どお り の挙 動 を示 すの は 釘打 ちで あ るこ と、 接合 部 にお け る割 り裂 け の発 生の 仕方 が 明確 に なっ てい な い現 状で は 、集 成材 ラー メ ン構 造 の終 局耐 力 を正 確に 推定 す るこ とは 困 難で あ るこ と、 を 明ら かに して い る。
な お、 結 果は 「Full-Size Test and Analysis on Glulam Two-Storied Portal Frames Subjected to Horizontal Load、小松・神谷・平嶋、 1987」、「通直集成材剛節フレ ーム 加力 実 験、 小 松幸 平、 木 造化 推進 標 準設 計施 工マ ニ ュア ル 作成 等事 業 報告 書(3)」、「 木造 化 技術 開 発、小松 幸平 、Ⅳ1-Ⅳ60、日本住宅・木材技術センター、
1987」でも報告されている。
4). 菊池の「木造ラーメン構造の耐震性(その 1~4)」 1991~94
架構 の挙 動 を対 象と し た数 少 ない 研究 の ひと つで 、木 造 多層 構造 の 耐震 性 を 検討 して い る。1 層 1 スパンと 4 層 1 スパンの架構について、合わせ梁形式の 柱梁・柱 脚接 合部 の 剛性( 回 転柔 性)をピ ン から 固定 ま で変 化さ せ、弾 性応 力・
弾性 変形 の 計算 、 およ び部 材 ・接 合部 を 完全 弾塑 性体 と 仮定 し た場 合の 保 有耐 力計 算を 行 い、 半 固定 接合 部 をも つラ ー メン 架構 につ い て定 性 的に 結論 を 出し てい る。柱梁 接 合部 の固 定 度の 大小 が 架構 の 応力 分布 に 与え る影 響 は少 な いが、
変形 と固 有 周期 に 与え る影 響 が大 きい こ と、 架構 の崩 壊 型は 梁 崩壊 型と な るこ と、 必要 保 有耐 力 を上 回る 保 有耐 力を 確 保す るた めに は 、接 合 部に 高い 曲 げ強 度が 要求 さ れる こと を 述べ て いる 。
その 1( 半 剛節 ラー メ ンの 応 力、 変形 性 状、1991)では、1 層 1 スパンの弾 性応 力・ 変 形に 及 ぼす 部材 の 仕口 柔性 や 部材 寸法 の影 響 を調 べ てい る。 そ の結 果、 対称 変 形ラ ー メン では 仕 口柔 性や 部 材寸 法の 応力 ・ 変形 へ の影 響が 大 きい こと 、逆 対 称変 形 ラー メン で は仕 口柔 性 や部 材寸 法の 応 力へ の 影響 は小 さ いが 仕口 柔性 の 変形 へ の影 響は 大 きい こと 、 ブレ ース 入り ラ ーメ ン では 仕口 柔 性や 部材 寸法 の 応力 へ の影 響は 小 さい が柱 高 スパ ン比 の影 響 が非 常 に大 きい こ と、
ブレ ース 端 部の 伸 縮柔 性・ ブ レー ス断 面 の大 きさ の応 力 ・変 形 の影 響は ブ レー ス軸 力を 除 いて 大き い こと 、 を明 らか に し て いる 。
その 2(1層半剛節ラーメンの弾塑性応答、1992)では、地震荷重第一案(建 築学 会「 地震 荷 重と 建 築構 造の 耐 震性 」1976 参照)による設計用応答スペクト ルを 用い 、 最大 級 の地 震動 に 対す る1 層 1ス パン の逆 対 称変 形 ラー メン の 弾塑 性応 答性 状 を調 べ てい る。 そ の結 果、 応 答変 位を 小さ く する た めに は、 接 合部 の回 転剛 性 を大 きく し 、降伏 層 せん 断力 を 高 め 、ス パ ン非 L/H を小さくすると 良い とし て いる 。
その 3(多層ラーメンの固有周期と地震層せん断力の検討、1993)では、4 層 モデ ルを 用 いて 架構 の 固有 周 期と 地震 層 せん 断力 につ い て、合わ せ梁 形 式の 柱・
梁接 合部 の 回転 柔 性を パラ メ ータ とし て 検討 した 結果 、 柔性 が 架構 の固 有 周期 へ大 きく 影 響す る ため 、地 震 力の 算定 で は固 有周 期を 精 算に よ って 求め る こと が必 要と し てい る。
その 4(多層ラーメンの地震時水平変位と保有水平耐力の検討、1994)では、
4 層モデルを用いて架構の地震時の水平変位と回転柔性について、合わせ梁形 式の 柱・ 梁 接合 部 の回 転柔 性 をパ ラメ ー タと して 検討 し た結 果 、柔 性に よ るフ レー ムの 水 平変 位 への 影響 が 大き いた め 高い 剛性 が求 め られ る こと 、ピ ン 支承 の架 構は 耐 震設 計 上き わめ て 不利 であ る こと 、終 局 時 は 梁崩 壊 型と なる た め接 合部 に高 い 曲げ 強度 や 大き な 塑性 変形 性 能が 要求 され る こと 、を 述 べて い る。
5). 坂本、大橋、稲山、五十田の「木質ラーメン構造の地震応答計算例」、1992 シア プレ ー トに よる 十 字型 合 わせ 梁形 式 の接 合部 をも つ 3 階建の架構に関す る研 究。 既 往の 静 的加 力試 験 結果 から 、 非線 形性 をも つ 回転 バ ネを 有す る 構造 とし てモ デ ル化 し 、層 せん 断 力と 変位 の 関係 を求 めて い る。 そ の後 、剛 性 劣化 や 残 留 変 形 を 考 慮 し て モ デ ル 化 さ れ た 復 元 力 特 性 (I.Sakamoto and Y.Ohashi, Seismic Response and Required Lateral Strength of Wooden Dwelling, Proc. of ICTE, Vol.2, 1988 参照)から、純せん断型の 3 質点系の地震応答計算を行っている。
以上 より 、 この 木 質ラ ーメ ン では 剛性 が 低い こと によ っ て大 き な層 間変 形 角が 生じ がち で ある こと 、剛 性 の向 上に よ って 実 用性 が向 上 する こと を 述べ て いる。
6). 小松らの「長期荷重を受ける集成材半剛節門形ラーメンの変形解析」、1993
7). 中島、有馬、鴛海「単板積層材を用いた屋外構造物の性能」、 1994
第1 報( 木 質ダ ボ接 合 を用 い た木 製車 庫 フレ ーム の載 荷 実験 、1994)では、
LVL(単板積層材)の軸組と木質ダボ接合による木製車庫について、鉛直加力 試験 によ る 水平 ・ 鉛直 変位 や 脚部 接合 金 物の 浮き 上が り の測 定 から 、吹 き 上げ 荷重 に対 す る耐 力 を考 察し て いる 。門 型 架構 につ いて は 十分 な 耐力 を有 す るが 片持 梁型 架 構で は 十分 でな い こと 、木 質 ダボ の破 壊や 変 形は な く、 結露 し にく い材 料と し て期 待が 高 いこ と を述 べて い る。
8). 前田、宮澤の「木質耐力壁を含む剛接架構に関する研究」、 1994
通直 集成 材 によ る半 剛 接合 架 構と 枠 組 壁 工法 によ る木 質 耐力 壁の 併 用構 造 の 力学 的特 性 、耐 震特 性 につ い て明 らか に した もの 。
その 1( 静 的加 力実 験 、1994)では、架構のみ及び耐力壁つきの試験体につ いて 実大 加 力実 験 を行 って い る。 釘打 ち 面材 耐力 壁に は 高い 剛 性・ 強度 ・ 靱性
-23-
があ るこ と 、架 構 によ る耐 力 壁の 拘束 効 果と 変形 性能 が 大き い こと 、合 板 の座 屈防 止の た めの 補剛 材 を水 平 に配 置す れ ば耐 力が あが る こと を述 べ てい る 。
その 2( 非 線形 応力 解 析、1994)では、有限要素法による非線形応力解析を 行い 、構 造 特性 と 解析 手法 を 検討 して い る。 その 結果 、 耐力 壁 ・架 構お よ び接 合部 の非 線 形挙 動 と応 力状 態 をよ くシ ミ ュレ ート した 解 析手 法 であ るこ と 、合 板釘 打ち 接 合の 非線 形 特性 の 数値 また は 理論 解が 切望 さ れる こ とを 述べ て いる 。
9). 小松、軽部、福田、原の「接合具の降伏を一部許容した集成材一層門型ラ ーメ ンの 耐 力・ 変形 能 力」、1995
小松 が提 案 して いた モ ーメ ン ト抵 抗接 合 部の 設計 法「 接 合具 に作 用 する 力 が 一ヶ 所で も AIJ 規準の許容耐力を超えたら、その時点をもって接合部全体の許 容耐 力と す る( 木質 構造 設 計ノ ー ト、P.184-221)」という考え方では、不経済な 設計 とな り がち で ある こと を 指摘 し、 適 正 な 安全 率と 靱 性が 確 保で きる こ とを 大前 提と し て、 ガ セッ ト板 接 合型 モー メ ント 抵抗 接合 部 の許 容 耐力 設計 に 新た な提 案を 行 って いる 。さ ら に、実大 試験 体 の静 的正 負繰 り 返し 加力 実 験に よ り、
この 設計 法 の妥 当性 を 検討 し てい る。
その 結果 、ド リフ ト ピン の径 長比 l/d の大きい試験体であったため、大変形 に至 るま で ピン 孔 から の破 壊 が発 生せ ず 非常 にね ばり 強 い接 合 性能 を示 し たこ と、 荷重 係 数も 満 足す べき レ ベル であ る こと から 、新 提 案の 設 計法 の妥 当 性を 述べ てい る 。
10). 泉、笹川、押川の「木質壁式ラーメン構造の耐震性能に関する研究 -静 的加 力に 対 する 鉛直 構 面の 弾 塑性 挙動 -」、1999
木質 壁式 ラ ーメ ン構 造 の鉛 直 構面 の弾 塑 性挙 動を 実験 的 に明 らか に し 、部 材 の線 形特 性 およ び 接合 部の 非 線形 特性 を 考慮 した 鉛直 構 面モ デ ルの 提案 を 行っ て、 静的 加 力に 対す る 鉛直 構 面の 弾塑 性 挙動 を明 らか に して いる 。
(4) 接 合部 の 強度・挙動 に 関す る研 究( 代表 的な 柱‐ は り仕 口形 式 の静 加 力試 験)
1). 神山らの「スプリットリング、シアプレートを用いた集成材接合部の耐力」、
1984
ファ スナ ー はブ ルド ッ クジ ベ ル・ スプ リ ット リン グ・ シ アプ レー ト で、 そ の
荷 重-す べ り関 係は ジベ ル 類の 許容 耐力 決 定 のも とと なっ た 実験 から の 引用 で ある 。そ の結 果、大 橋ら の実 験 で実 験結 果 との 良い 整合 が みら れな か った の は、
集成 材の 交 差部 で 摩擦 力が 作 用し てい る こと 、単 体挙 動 が単 純 な重 ね合 わ せに なら ない こ と、 など が 原因 で はな いか と 指摘 して いる 。
2). 小松らの「挿入型鋼板ガセットとシアプレートボルト締め工法 (仮称)によ る集 成材 軒 肩接 合部 実 大試 験 体の 非線 形 半剛 節解 析」、1985
シア プレ ー トを 埋め 込 んだ 鋼 板挿 入式 ボ ルト 接 合 によ る 山形 ラー メ ン肩 部 の 開発 実験 。 鋼板 を 介す るも の と比 べて 接 合部 分が 一カ 所 のた め 変形 が少 な いと 考え られ る とし て いる が、 接 合フ ァス ナ ーの 数が 少な い 分、1 ファスナーの挙 動の 影響 が 大き く 、加 工孔 と ファ スナ ー の間 のあ そび が 生じ や すい 接合 法 では 初期 すべ り が大 きい た めに 初 期剛 性が 高 くな らな い、とい う こと を述 べ てい る。
なお 、こ れ らの 知見 は 「挿 入 型鋼 板ガ セ ット とシ アプ レ ート コネ ク ター を 用 いた 集成 材 軒肩 接合 部 の許 容 応力 度設 計 と実 大実 験、小松 幸 平ら 、林 産試 月 報、
№409、1986」でも述べられている。
3). 小松の「正 負交番モーメントを受ける集成材 T 字型接合部の挙動 -鋼板 ガセ ット と 集成 材と の 間の 相 対回 転角 と モー メン トの 関 係」、1986
T 字型柱-梁モーメント抵抗接合部の正負繰り返し試験から、接合部の回転 変形 挙動 に 及ぼ す 接合 法の 違 い、 接合 具 の数 等の 影響 に つい て 、検 討し た もの であ る。 そ の結 果 、鋼 板ガ セ ット 釘打 ち 構法 は初 期剛 性 が高 く 、エ ネル ギ ー吸 収能 力も 高 く有 望 な方 法で あ るが 、鋼 板 の座 掘に 対す る 考慮 が 大切 であ る こと を述 べて い る。
4). 平 井 の 「 釘 打 ち 合 板 ガ セ ッ ト 接合 工 法 に よ る 木 造 門 形 ラ ー メ ンの 変 形 性 能」、1987
5). 平 井 の 「 釘 打 ち 合 板 ガ セ ッ ト 接合 工 法 に よ る 木 造 山 形 ラ ー メ ンの 変 形 性 能」、1987
両表 題に つ いて 、個 々 のフ ァ スナ ーの 非 線形 性状 を考 慮 しつ つ、 最 小仕 事 法
(仮 想仕 事 法) に もと づく 非 線形 数値 解 析手 法を 提案 し 、実 験 を行 って 解 析の 妥当 性を 示 して い る。 その 結 果、 接合 部 がモ ーメ ント を 受け る よう なフ レ ーム にお いて 、 釘接 合 部で はな く 骨組 部材 に 割れ を生 じ、 そ こで 最 大耐 力に 達 して しま うこ と があ っ たた め、 釘 接合 部の 性 能評 価の 際に は 単に す べり 変位 の みで はな く、 釘 1 本あたりの最大耐力を適切に評価できる試験方法を検討する必要
-25-
性を 述べ て いる 。 また 、接 合 部の 釘配 置 法に つい て示 唆 が得 ら れた と述 べ てい る。
6). 宮澤の「大断面集成材の剛接合法に関する実験的研究」、 1988
鋼板 を介 し 接合 する 引 張ボ ル ト型 接合 部 の提 案。 この 接 合方 法は 、 曲げ 抵 抗 とせ ん断 抵 抗を 異 なる ファ ス ナー に負 担 させ るこ とを 意 図し た とし た上 で 、母 材の 短期 曲 げ許 容 耐力 より 大 きな 最大 耐 力を 示す が、 脆 性的 な 破壊 形状 と なる こと を述 べ てい る。
7). 坂本、大橋、稲山、五十田、安達の「集成材による柱‐梁接合部の強度実 験」、1988~94
通 直 集 成 材 に よ る 木 質 ラ ー メ ン 架 構 に お け る 、 柱 - 梁 モ ー メ ン ト の 抵 抗 接 合 の実 大実 験 に関 する 報 告。
そ の 1・2(1988)では、釘接合は剛性が高いこと、ボルト・ドリフトピンを 用 い た 接 合 は 加 工 孔 と フ ァ ス ナ ー の 間 に 隙 間 が あ っ て 初 期 す べ り を 起 こ す こ とな どを 、 実験 から 明 らか に して いる 。
その 3・4(1989)は、鋼板を介さず柱あるいは梁を分割しその交差部にシア プレ ート ・ ブル ド ック ジベ ル など を挿 入 した ボル ト締 め によ る 合わ せ梁 接 合に 関す る実 験 報告 であ る 。柱 梁 の間 には さ むジ ベル の種 類 と数 を変 化 させ た 9 種 の接 合部 の 正負 交番 加 力試 験 にお ける 最 大モ ーメ ント・初 期 剛性・残 留 変形 率・
等価 粘性 減 衰定 数に つ いて 述 べて いる 。
その 5(引きボルト型接合部に関する実験、1990)・その 6(引きボルト接合部 の実 験結 果 の考 察 、1990)では、在来軸組の差し鴨居構法に近いプロポーショ ンの 柱梁 を 想定 し た試 験体 に つい て、 ボ ルト によ り柱 ・ 梁を 引 きつ ける 接 合部 の実 験( その 3・4 と同様の方法)を行っている。その結果、この大入れホゾ差 しで ボル ト 締め す る形 式の 接 合部 は高 い 強度 ・靱 性を 示 すが 、 大入 れや ホ ゾ部 分の 加工 精 度に よ り柱 に局 部 的な めり 込 み破 壊を 生じ さ せて し まう こと を 明ら かに して い る。 ま た、 引き ボ ルト 型の 接 合部 は、 ボル ト の降 伏 によ り塑 性 化し てい く破 壊 モー ド とな る形 式 の方 が靱 性 の点 で優 れ、 柱 材の め り込 み変 形 も柱 が曲 げ破 壊 に至 らな い 限り 、 同様 であ る こと を述 べて い る。
その 7(モーメント抵抗接合の分類と実験の概要、1994)では、試験体のモー メン ト抵 抗 接合 部を 鋼 板添 え 板接 合/ 鋼 板挿 入接 合タ イ プ・引 っ 張り ボ ルト タ イプ ・合 わせ 梁 タイ プの 3 つの基本形態に分類し、T字接合部と十字接合部の 2 種類の接合形態について、繰り返し正負交番載荷試験を行っている。そして、
その 8(履歴特性と破壊性 状、1994)で以下の結果を述べている。履歴特性は、