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面材釘打ち耐力壁の性能評価法に関する研究 学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 矢 永 国 良

学 位 論 文 題 名

面材釘打ち耐力壁の性能評価法に関する研究 学位論文内容の要旨

  建築物の必須要求性能のーっに、地震や風などの水平カに対して損傷・倒壊しないことがある。大 半の木造住宅では、これらのカに対し、筋かい軸組や面材釘打ち耐力壁などのせん断耐カで抵抗する 方式が採用されている。在来軸組構法では従来、筋かい軸組が水平耐力要素の中心であったが、近年 は面材釘打ち耐力壁も増える傾向にあり、特に北海道などの寒冷地域でその比率が高まっている。ま た、枠組壁工法や各種のパネル構法は、構造原理自体が壁式構造のため、導入当初から面材釘打ち耐 力壁が用いられてきた。

  面材釘打ち耐力壁は、木材の枠材や軸組材に合板や構造用パネルなどの面材を、多数の釘で打ち付 けて一体化したものである。これらのせん断耐カは、一般に実大せん断耐力試験によって評価される が、実務的な簡便さから、一定の基本仕様に対しては同一の許容せん断耐力(壁倍率)が与えられて いる。しかし、実際のせん断耐カは、使用する木材の材質や現場施工の良否によって大きく変動する。

また、実大せん断耐力試験は耐力壁脚部の浮き上がりを強固に拘束して行われるのが普通であるが、

実 際 の 建 物 に お け る 浮 き 上 が り 拘 束 効 果 は 、 設 計 ・ 施 工 に よ っ て 大 き く 異 な る 。   基本的な仕様の面材釘打ち耐力壁に対しては、釘1本あたりのせん断耐カに基づく理論計算法も示 さ れ て い る が 、 そ の 適 用 限 界 は こ れ ま で の と こ ろ 、 上 記 の 実 験 的 評 価 法 と 同 様 で あ る 。   以上のように、面材釘打ち耐力壁のせん断耐力評価は、現在極めて概算的な範疇に留まっており、

より信頼度の高い性能評価を実現するための、各種試験法や理論解析法の開発が必要とされている。

  本研究では以上の背景から、枠組壁工法用面材釘打ち耐力壁を取り上げ、次の3点に着目して、実 験的、解析的検討を試みた。

1)面材釘打ち耐力壁のせん断耐力評価の基本となる釘接合耐カの評価

2) 木 材 の 狂 い や 現 場 施 工 不 良 等 に よ る 接 合 耐 力 変 動 が 与 え る 影 響 の 推 定 3)建物中の浮上り拘束効果を考慮に入れた耐力壁の性能評価

  各論に先 立ち、第1章では研究背景と研究目的について、第2章では既往の研究と本研究の着目点 に つ い て 、 第 3章 で は 本 研 究 で 用 い た 基 礎 理 論 と 数 値 解 析 法 に つ い て 述 べ た 。   第4章では上記1)について検討した。面材釘打ち耐力壁のせん断耐カは、主として面材と木材の釘 接合耐カに支配される。釘接合部が単体でカを負担する場合、その許容耐カは実験から得られる統計 的下限値(信頼水準を考慮した5%下限推定値)とするのが一般的である。これに対し、面材釘打ち 耐力壁の許容せん断耐カに対応する釘接合部単体の許容耐カは、耐力壁には多数の釘が並列使用され

(2)

ること を考慮し て、平 均値(信 頼水準 を考慮し た50%下限推定値)を用いてよいとされている。

  しかし、面材釘打ち耐力壁における釘接合部は、位置によって負担カが異なるため、上記のような 理想的並列モデルを前提とする考え方には疑問がある。そこでこの研究では、多数の釘1面せん断試 験から得られた荷重一すべり曲線の確率密度分布を基に推定された、数段階の下限荷重―すべり曲線 を用いて、耐力壁のせん断耐力解析を行った。

  その結果、耐力壁の許容せん断耐カに対応する釘1本あたりの許容1面せん断耐カは、その40〜50% 下限耐カとなること、その適正値は建物の規模に応じて異なることが明らかとなった。これにより、

釘1面せん断耐カとして一律に平均値(50%下限値)を用いるのは、厳密には誤りであるが、実用的 概算値としては大きな問題のなぃことが分かった。

  第5章では上記2)について検討した。面材釘打ち耐力壁における釘接合耐カは、不可避的な基本変 動の他にも、様々な要因によって変動する。そのーっに、釘打ち位置のバラツキによるマージン(釘 から木材の縁端までの距離)不足が挙げられる。面材釘打ち耐力壁は、施工現場または工場で枠材に 面材を釘打ちして作られるが、その際、枠材の狂いや人的作業の不備(ヒューマンエラー)による、

釘打ち位置のバラツキが避けられない。

  そこで、これらのバラツキが耐力壁のせん断耐カに与える影響を推定するため、釘1面せん断耐カ のマージンによる変動を考慮したモンテカルロシミュレーション(乱数発生による数値シミュレーシ ヨン)を試みた。ここではまず、枠材の狂いのうち最も影響が大きいと考えられる反りを取り上げ、

市販の枠組壁工法用縦枠材について反りの確率密度分布を実測した。人的作業のバラツキについては、

事実上実態調査が困難なため、起こり得るバラツキの範囲と確率密度分布特性、頻度を机上で想定し た。

  以上の確率密度分布と、マージン不足を想定した釘1面せん断試験から得られた、荷重一すべり曲 線の確率密度分布に基づき、各釘の初期位置をランダムに与えながら、多数回の数値シミュレーショ ンを行った。その結果、釘接合部のマージン不足は特に最大耐カに影響し、施工精度が低いと大地震 時の倒壊危険度が増すことが分かった。

  また、シミュレーションの結果から、この耐力低下は施工工程管理の程度によって大きく異なるた め、工程管理レベルに応じて耐力壁の許容せん断耐カを増減するなどの実効策を導入し、木造住宅全 体の性能向上を促すことが重要であることが示唆された。

  第6章では上記3)について検討した。実際の建物における耐力壁は、脚部接合部や横架材との接合 部が弱点となり、そこから先行破壊して転倒する危険性を持っている。現在はこれを避けるために、

接合部許容耐カの確認を別に行うことになっているが、脚部の浮上りを考慮した耐力壁の変形性状や 終局耐力、靭性の評価は行われていなぃ。

  ここでは、耐力壁自体の真のせん断変形と脚部の浮上り変形を一旦分解し、脚部接合仕様や鉛直荷 重を考慮した性能評価補正を行った上で改めて合成し、建物中における耐力壁の実際の変形挙動を推 定するための解析方法を誘導した。脚部の浮上り抵抗要素としては、面材と下枠との釘接合、金物に よる柱脚接合、鉛直荷重などを想定した。この方法による数値解析結果を実大せん断耐力試験結果と 比 較 し 、 実 用 的 に 支 障 の な ぃ 精 度 で 、 耐 力 壁 の せ ん 断 耐 力 推 定 が 可 能 な こ と を 示 し た。

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(3)

  上記の検証結果に基づき、実条件に合った鉛直荷重や脚部接合仕様を考慮に入れた数値シミュレー ションを行った。その結果、現行の評価法は、鉛直荷重の大きさによっては最大耐カを過大評価して いる危険性のあること、同種の耐力壁でも、鉛直荷重と接合仕様が異なれば剛性・耐カに差が生じ、

想定されている耐カが発揮されなぃことが明らかとなった。

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学位論文審査の要旨

主 査  教 授  平 井 卓 郎 副 査  教 授  端  俊 一 副 査  助 教 授  小 泉 章 夫

副 査  教 授  平 嶋 義 彦 ( 名 古 屋 大 学 生 命 農 学 研 究 科 )

学 位 論 文 題 名

面材釘打ち耐力壁の性能評価法に関する研究

  本 論 文 は7章 か ら な る 総 頁 数127の 和 文 論 文 で 、 他 に 参 考 論 文5編 が 添 え ら れ て い る 。   地震や風など の水平カに対する、木造住宅の主要な抵抗要素のーっに 、木材の枠材や軸組材に合 板や構造用パネ ルなどの面材を、多数の釘で打ち付けた面材釘打ち耐力 壁がある。面材釘打ち耐力 壁には各種の仕 様があるが、現行法規では同一仕様に対しては一律の許 容耐カが与えられている。

しかし、その実 際の性能は、同一仕様でも木材の材質や現場施工の良否 によって大きく変動し、ま た建物中におけ る脚部浮き上がり拘束の程度によっても大きく異なる。

  本 論 文 で は 上 記 の 問 題 点 に 着 目 し 、 以 下 の よ う な 実 験 的 、 解 析 的 検 討 を 試 み て い る 。 1)面材釘打ち耐力壁のせん断耐力評価の基 本となる釘接合耐カの評価

  面材釘打ち耐 力壁のせん断耐カは、面材と木材の釘接合耐カに支配さ れる。釘接合部が単体でカ を負担する場合 、その許容耐カは統計的下限値から導かれるが、耐力壁 に対応する釘接合部の許容 耐 カ は 、 多 数 の 釘 が 並 列 使 用 さ れ る こ と を 考 慮 し 、 平 均 値 か ら 導 い て よ い と さ れ て い る 。   しかし、面材 釘打ち耐力壁の釘接合部は、位置によって負担カが異な り、無条件に理想的並列モ デルを適用する ことはできない。本論文では、釘1面せん断荷重一すべり曲線の確率密度分布から、

数段階の下限荷 重一すべり曲線を推定し、これを用いた耐力壁のせん断 耐力解析を行った。これに よ り、 耐力 壁の 許容 せん 断耐 カ に対 応す る、 釘1本あ たりの許容1面せん断耐カは 、その40〜50% 下限耐カとなる こと、その適正値は建物の規模に応じて異なることを示 した。この結果から、現行 の 評 価 法 は 原 理 的 に は 正 し く な ぃ が 、 実 用 的 概 算 法 と し て は 許容 可能 なこ とが 確認 され た 。 2) 木 材 の 狂 い や 現 場 施 工 不 良 等 に よ る 接 合 耐 力 変 動 が 与 え る 影 響 の 推 定   面材釘打ち耐 力壁の釘接合耐カは、不可避的な基本変動の他にも、様々な要因によって変動する。

そのーっに、釘 打ち位置のバラツキによるマージン(釘から木材の縁端 までの距離)不足が挙げら れる。面材釘打 ち耐力壁は枠材に面材を釘打ちして作られるが、その際 、枠材の狂いやヒューマン エラーによる釘 打ち位置のバラツキが避けられない。

  本論 文で は、 マー ジンによる釘1面せん断耐カの変動を考慮したモンテカルロシ ミュレーション により、これら のバラツキが耐力壁のせん断耐カに与える影響を推定した。枠材の狂いについては、

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(5)

最も影響の大きい反りの確率密度分布を実測し、ヒューマンエラーについては、確率密度分布を机 上で想定した。これらの確率密度分布と、マージン不足を想定した釘1面せん断試験から得られた、

せん断荷重一すべり曲線の確率密度分布に基づき、各釘の初期位置をランダムに与えながら、数値 シミュレーションを行った。これにより、釘接合部のマージン不足は特に最大耐カに影響し、施工 精度が低いと大地震時の倒壊危険度が増すことを明らかにした。

3

)建物中の浮上り拘束効果を考慮に入れた耐力壁の性能評価。

  

実際の建物における耐力壁は、脚部などの接合部が弱点となり、そこから先行破壊して転倒する 危険性を持っている。現在はこれを避けるため、別途接合耐カの確認を行うことになっているが、

脚 部の 浮 上 りを 考 慮し た 耐 力壁 の 変 形性状や終 局耐力、 靭性の評 価は行わ れていな い。

  

本論文では、建物中における耐力壁の変形挙動を解析するため、耐力壁自体のせん断変形と脚部 の浮上り変形を一旦分解し、脚部接合仕様や鉛直荷重を考慮した性能評価補正を行った上で改めて 合成する方法を誘導し、その有効性を実験的に検証した。この検証結果に基づき、実条件に合った 鉛直荷重や脚部接合仕様を考慮に入れた数値シミュレーションを行い、現行の評価法は鉛直荷重に よっては最大耐カを過大評価している危険性のあること、同種の耐力壁でも鉛直荷重と接合仕様が 異なれぱ、剛性・耐カに大きな差が生じることを明らかにした。

  

以上のように本論文は、木造住宅の耐震、耐風性能評価の信頼性を高めるための、面材釘打ち耐 力壁の新しい性能評価法を提案しており、その成果は学術上、応用上高く評価される。よって審査 員一同 は、矢永国良が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を有するものと認めた。

参照

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