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強震動を受けた面材耐力壁の地震後の補修方法とその耐力評価 [ PDF

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Academic year: 2021

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強震動を受けた面材耐力壁の地震後の補修方法とその耐力評価

時里 耕平 1.序 熊本地震により,多くの木造住宅が被害を受けた.現 行法に適合したものでさえ,4 割程度に損傷が見られ た.地震により損傷が生じた建物は,剛性や耐力が低 下し構造性能や居住性の悪化が予想され,継続使用す るには補強や補修を行わなければならない.文献 1)に よれば,新潟県中越地震で被災した木造住宅のうち復 旧した建物の割合は,一部損傷と判断された損傷度合 いの建物で約 8 割,半壊と判断された建物でさえ 4 割 近くであることから,被災した建物の補修は社会的ニ ーズであることがわかる.木造建築物の耐震性は,現 在法規的にも,実用面においても耐力壁などによって 確保されている.被災した木造建築物の耐震性を確保 するには耐力壁の補修方法の確立が急務である. 本研究では,木造住宅に使用される壁として一般的 な面材釘打ち耐力壁に着目した.地震等により被災し た面材釘打ち耐力壁には釘の浮き等の損傷が生じる. 文献 2)では,釘の増し打ちが復旧工法として示されて いるが,実際にどの程度の量を増し打ちすれば被災前 の構造性能を確保できるかは明らかでない.そこで, 本研究では地震に被災したことを想定し面材耐力壁に 初期損傷を与え,釘を増し打ちし,補修後の耐震性能 を把握することを目的とした実験を行った. 2.提案する補修方法 建築基準法で面材張り大壁は,壁倍率 2.5 倍と定め られている.面材耐力壁は,面材―軸材間の接合部の 強度が面材や軸材の材料強度と比べて相対的に弱い. 本研究では面材耐力壁の補修方法として釘の増し打ち を採用することで,各接合部の負担を減らし,初期剛 性の向上を図った. 3.実験概要 3.1 試験体概要 試験体は W1,W2 の 2 体であり,補修方法の効果を 調べることを目的としたので,試験体の形状は同様で ある.試験体の種類を表 1 に示す.試験体 W1,W2 は 柱・土台・梁・間柱及び横桟の軸組に合板を釘で緊結し た構成とし,試験体の軸組寸法は幅 1820mm,高さ 2730mm である(図 1).各部材の断面寸法,材種を表 2 に示す.合板は JAS 構造用合板 特類 2 級 12mm (1820×910:2 枚,910×910:2 枚)を使用し,釘 N50 を 150mm ピッチの日型で軸組と緊結し,試験体を製作 した.各接合部に用いた金物を表 3 に示す.土台の加 力装置への固定は M16 のボルトで各柱脚部を固定した. 各試験体ともに初期損傷として,変傾角 1/50rad.まで 加力をした後,それぞれ補修を行った.W1 は,間柱を 除く既存の釘すべての中央に釘の増し打ちを行った. W2 は,両側の柱の釘の中央だけに増し打ちを行った. 補修前の試験体を W1,W2 とし,補修後の試験体を W1R,W2R とする. 図1 試験体の形状,変位・ひずみ測定位置 (単位:mm) 部材 断面寸法 材種 柱 105x105 スギ(機械式等級区分E50) 間柱 30x105 スギ(機械式等級区分E50) 梁 105x180 ベイマツ(目視等級区分3級) 土台 105x105 スギ(機械式等級区分E50) 横桟 45x105 スギ(目視等級区分3級) 表 2 各部材の断面寸法,材種 試験体 W1 W2 初期損傷で与える変形角(rad.) 1/50 1/50 既存の釘(本) 152 152 増し打ち釘(本) 120 36 接合部 詳細 土台ー柱、梁ー柱 短ほぞ差し+釘 N90 2本打ち、HD金物、金物による補強 土台ー間柱、梁ー間柱 釘 N75 2本打ち 間柱ー横桟 釘 N75 2本打ち 表 3 各接合部の詳細 HD 金物:ビスどめホールダウン金物 25kN 用(タナカ製) 金物:フラットプレート(タナカ製) 表 1 試験体の種類

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62-2 3.2 試験方法 実験は文献 3)に基づいて行った.載荷プログラムを 図 2 に,加力装置を図 3 に,試験体の載荷中の様子を 写真 1 に示す.加力方法は,鉛直荷重無載荷で柱脚固 定式の静的水平載荷とした.正負交番繰り返し加力で, 履歴の同一変形段階で3 回繰り返し加力を行った.試 験体を押す方向を正,引く方向を負とした. ま ず , 面 材 耐 力 壁 が 被 災 し た と 想 定 し , 試 験 体 W1,W2 に初期損傷として図 2 のように,見かけのせん 断変形角が±1/450,±1/300,±1/200,±1/150,±1/100, ±1/75,±1/50rad.まで加力を行った.その後,釘の浮き が生じた箇所を打ち直し,更に釘の増し打ちを行って W1R,W2R を製作し,ホールダウン金物を締め直して 条件をW1,W2 と同様にした.再度,見かけのせん断 変形角が±1/450,±1/300…±1/75,±1/50 まで加力を 行い,その後+1/15rad.まで押しきった.各箇所の変位に 加え,柱脚部の2 本の引き寄せボルトと軸組に緊結し ている合板4 枚のひずみも計測した(図 1). 3.3 壁倍率の算定 木造建築物は,地震や風などの水平荷重に耐力壁で 抵抗する.耐力壁の性能を表す指標として,壁倍率が ある.壁倍率が高いほど,大きな水平荷重に対して耐 えることができ,壁倍率 1.0 は幅 1m 当たり 1.96kN (200kgf)の力を加えた際に変形角が 1/120rad 以内に 収まる剛性を指す. 既に規定されている壁倍率の他に,耐力壁の性能試 験を行うことで壁倍率や耐力壁の力学特性値を算出す ることができる.本研究においては,文献 3)に従い壁 倍率や耐力壁の力学特性値を算出した. 4.実験結果及び考察 4.1 水平荷重―変形角関係と変形性状 図 5 は,各試験体の水平荷重と変形角の関係を示し たものである.変形角 1/50rad.までの各試験体の最大荷 重は,W1:13.1kN,W1R:19.4kN,W2:12.8kN,W2R: 14.3kN となり,変形角 1/50rad.以内では耐力の低下は みられなかった.間柱以外の既存の釘すべての中央に 増し打ちした試験体 W1R では変形角 1/50rad.時で W1 よりも耐力が大きくなり補修の効果が見られた.両側 の柱の既存の釘の中央にのみ増し打ちした試験体 W2R は,変形角 1/450~1/75rad.では W2 を下回ったが,変形 角 1/50rad.では W2 を上回った.試験体 W1R は,軸組 が平行四辺形に変形しようとするのに対して,図 4 の ように面材は長方形を保ち補修効果が現れた.それに 対し試験体 W2R では,両側の柱のみ増し打ちを行った ため,面材が軸組に追随し補修効果が現れなかった. 変形角 1/50rad.時には合板同士が接触し,合板が軸組に 追随せず拘束したため W2R のほうが W2 よりも耐力 が大きくなったと考えられる.変形角 1/15rad.までの各 試験体の最大荷重は,W1R:27.6kN,W2R:19.4kN と なり,各試験体とも高い靭性が確認された. 文献 4)を参考にし,試験体の変形性状を調べた.試 験体に働くせん断力とモーメントによる変形を求め, 試験体頂部の水平変位に及ぼす影響について調べた. 図 4 合板の抵抗メカニズム W1R W2R 図 3 加力装置 図 2 載荷プログラム 写真 1 載荷状況 変傾角(rad.) step 1/450 1/300 1/200 1/150 1/100 1/75 1/50 1/400 1/300 1/50 1/15 W1,W2(初期損傷) W1R,W2R

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62-3 図 6 に変形性状とその割合を示す.各試験体ともにせ ん断変形と曲げ変形による水平変位の割合が大部分を 占めている.変形角が増大するにつれてせん断変形の 割合が増加するのに対し,曲げ変形の割合は小さくな った. 4.2 各部のひずみと変形角の関係 図 7 は各試験体の柱脚部の引き寄せボルトのひずみ と変形角の関係を示したものである.各試験体で,加 力側と自由端側ボルトに大きな差はなく,ボルトに降 伏は生じなかった.W1R は加力側で 22.9kN,W2R は 加力側で 23.9kN の最大の引き抜け力が生じた. 図 8 は合板のひずみと変形角の関係を示したもので ある.軸組に緊結している合板 4 枚にひずみの差はあ まり見られず,変形角 3%に達した後,ひずみの増減は 小さくなった.これは,軸材と面材の接合部にゆるみ が生じたためである.軸材―面材の接合部以外には損 傷がなかったため,釘の補強本数を増やすことにより 試験体の耐力を向上させることができると予想される. また,最大主ひずみの方向は,おおよそ 45°,135°と なり,軸組が変形しようとするのに対し,面材が図 4 (左図)のように抵抗したのがわかる. 4.3 壁倍率 文献3)に従い,荷重―変形角曲線より正方向の包絡 線を求め,試験体W1R,W2R の完全弾塑性モデルを作 成した(図9).このモデルより,規定の評価方法に従 い,耐力壁の正方向の力学特性値を算出した.得られ た各力学特性値を表 4 に示す.得られた力学特性値か ら壁倍率を算出した.得られた壁倍率を表 5 に示す. 試験体W1R は,壁倍率 3.2 倍となった.補修前の試験 体は壁倍率2.5 倍の仕様である.試験体 W1R は壁倍率 -30 -20 -10 0 10 20 30 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6 7 変形角(×10⁻²rad.) 水平荷重(kN) -30 -20 -10 0 10 20 30 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6 7 変形角(×10⁻²rad.) 水平荷重(kN) -30 -20 -10 0 10 20 30 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6 7 変形角(×10⁻²rad.) 水平荷重(kN) -30 -20 -10 0 10 20 30 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6 7 変形角(×10⁻²rad.) 水平荷重(kN) 図 5 水平荷重と変形角の関係 図 7 引き寄せボルトのひずみと変形角の関係 0 100 200 300 400 500 600 700 800 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6 7 変形角(×10⁻²rad.) ひずみ(×10-6) 図 8 合板のひずみと変形角の関係 0 100 200 300 400 500 600 700 800 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6 7 変形角(×10⁻²rad.) ひずみ(×10-6) W1 W1R W1 W2R -25 -15 -5 5 15 25 -70 -50 -30 -10 10 30 50 70 水平荷重(kN) 水平変位(mm) -2000 -1500 -1000 -500 0 500 1000 1500 2000 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6 7 変形角(×10⁻²rad.) ひずみ(×10-6) -2000 -1500 -1000 -500 0 500 1000 1500 2000 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6 7 変形角(×10⁻²rad.) ひずみ(×10-6) W1R 加力下 斜め 図 6 変形性状 0% 20% 40% 60% 80% 100% 2 1.5 1 0.5 0.25 変形角(×10⁻²rad.) W1R W1R W2 W2R 加力側 自由側 加力側 自由側 頂部水平変位 曲げ変形+ せん断変形 -1500 -1000 -500 0 500 1000 1500 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6 7 変形角(×10⁻²rad.) ひずみ(×10-6) -1500 -1000 -500 0 500 1000 1500 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6 7 変形角(×10⁻²rad.) ひずみ(×10-6) W2R 加力下 斜め W2R W1R 最小主ひずみ 最大主ひずみ 最大主 ひずみ 最小主ひずみ 0% 20% 40% 60% 80% 100% 0.25 0.5 1 1.5 2 その他 柱下部せん断変形 柱上部せん断変形 変形角(×10⁻²rad.)

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62-4 3.2 倍であり,基準となる壁倍率を確保できた.一方で, 試験体W2R は両側の柱のみ増し打ちを行ったため,軸 組に追随して変形し初期剛性が得られず壁倍率を算定 できなかった.特定変形時の耐力から壁倍率は 1.9 倍 となり,試験体 W2R の壁倍率は 1.9 倍以下になる.こ れは,釘の補強本数の影響ではなく,釘の増し打ち箇 所が柱のみであったためと考えられる.軸材が変形す るのに抵抗するよう釘を増し打ちすることで初期剛性 は確保できると考えられる. 4.4 試験体の損傷 補修前,補修後ともに各試験体の損傷個所は,軸組と 合板の接合部に集中しており,それ以外のホールダウ ン金物等には損傷がみられなかった.変形角 1/50rad.ま で載荷した試験体 W1,W2 では,釘の軽い浮きが見受 けられた.補修した試験体 W1R では,両側の柱と合板 の接合部に損傷が集中しており,釘の引き抜けが顕著 であった.この結果から,試験体 W2R は,両側の柱に のみ釘を増し打ちする補修を行った.試験体 W2R の損 傷は両側の柱と合板の接合部は釘の浮き程度であり軸 材から釘の引き抜け等はみられなかった.試験体 W1R ではみられなかった継手間柱と合板の接合部に損傷が 集中しており,釘の引き抜けが顕著であった.下側の 合板の接合部が上側の合板に比べて釘の引き抜け等の 損傷が大きかった.これは,下側の合板のほうが面積 が大きいためと考えられる.また,下側の合板のほう が単位面積あたりの釘本数が少なく,釘一本あたりに かかる負担が大きいことも一因とみられる.接合部で は,写真 2 のように,釘の引き抜け,釘のせん断破壊, パンチングアウト,合板端部の切れが生じた. 5.まとめ 本研究では,初期損傷を与えた面材釘打ち耐力壁を 釘の増し打ちで補修し,再度,水平載荷実験を行って 補修後の耐力を調べた.得られた知見を以下に示す. (1) 変形角 1/50rad.まで載荷した試験体 W1,W2 には 釘のわずかな浮きなどが発生したが急激な耐力劣 化や剛性の低下は生じなかった. (2) 間柱以外の既存の釘すべての中央に増し打ちした W1R は 3.2 倍の壁倍率が得られた. (3) 両側の柱の釘の中央にのみ増し打ちした W2R は 初期剛性が得られず,壁倍率が算定できなかった. W1R は壁倍率 2.5 倍を大きく上回ったことから,間 柱以外の既存の釘すべての中央に釘を増し打ちするこ とは有効な補修方法であることが確認された.より効 率的な本数や箇所の釘打ち補修を行って,壁体の耐力 を確保することが今後の課題である. 参考文献 1) 佐藤基志,五十田博,佐藤友彦,三宅辰哉:木造住宅用耐震技術の 費 用 対 効 果 に 関 す る 試 算 , 日 本 建 築 学 会 構 造 系 論 文 集 No.637 pp.519-526,2009.3 2) 日本建築防災協会:震災建築物の被災度区分判定基準および復旧技 術指針,2001.9 3) 財団法人日本住宅・木材技術センター:木造軸組工法住宅の許容応 力度設計,2017.3 4) 田中明洋:型枠コンクリートブロック造建物の耐力壁および壁梁の 耐震性能に関する実験的研究,大分大学博士論文,2001 年 図 9 包絡線と完全弾塑性モデル 0 5 10 15 20 25 30 0 1 2 3 4 5 6 7 変形角(×10⁻²rad.) 水平荷重(kN) Pmax σu 0 5 10 15 20 25 30 0 1 2 3 4 5 6 7 変形角(×10⁻²rad.) Py σy 水平荷重(kN) Pmax Pu Py σv σu K W1 W1R W2 W2R W1R W2R 27.56 19.39 11.53 -0.78 -24.49 -6.43 6.46 14.85 -3.90 -0.38 -初期剛性K(kN/×10-2rad.) 塑性率μ 構造特性係数Ds 終局変形角δu(×10-2rad.) 完全弾塑性モデルの 降伏点変形角δv(×10-2rad.) 1.65 -試験体 力 学 特 性 値 最大荷重Pmax(kN) 降伏耐力Py(kN) 降伏変形角δy(×10-2rad.) 終局耐力Pu(kN) 写真 2 接合部の破壊性状 釘の引き抜け 釘のせん断破壊 パンチングアウト 合板端部の切れ W1R W1R W1R W1R 評価項目と壁倍率 ※評価項目が不足し壁倍率が算出で きなかったものは( )で表記し た. 表 5 壁倍率算出に用いた W1 W1R W2 W2R - 11.5 - -- 12.8 - -- 18.4 - 12.9 9.6 12.1 9.6 6.7 (2.7) 3.2 (2.7) (1.9) 壁倍率(倍) 試験体 Py(kN) (0.2/Ds)Pu(kN) 2/3Pmax(kN) 1/120rad耐力(kN) 表 4 力学特性値

参照

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