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薄明視環境において光源の分光分布が不快グレアに及ぼす影響
税田 直尭 1. はじめに 近年、屋内外でLED の利用が進んでいる。特に屋外 では、LED を用いたサインや広告物、建築の装飾用照 明、街路照明などで幅広く LED が使用されるように なってきている。LED はその指向性の強さや分光分布 が従来の光源と大きく異なり、グレアを起こしやすい とされている。さらに、夜間は目の順応状態からグレ アを感じやすい。LED を利用する場合、よりグレアに 配慮した照明計画が必要である。 不快グレアの主な要因に、目に入射する光が角膜、 硝子体、水晶体などによって、眼球内で散乱すること、 高輝度の光刺激によって網膜内の光受容体の反応が飽 和すること、高輝度の光刺激により瞳孔が過度に縮小 し、制御系の応答が乱れる等が挙げられるが、光色や 分光分布もグレア感覚に影響すると言われている。 光色や分光分布と不快グレアとの関係について、謝 ら1)は、緑が最もグレアを感じにくく、青が最もグレ アを感じやすいと報告している。橋本ら2)は、青色光が 不快グレアに及ぼす影響に着目して視覚実験を行い、 光源の短波長側のエネルギーが増加すると、不快感が 増加することを示している。Bullough ら3)は、ピーク 波長の異なる 3 種類の光源を用いて実験を行い、桿体 の応答と不快グレアとの間に相関関係がないこと、短 波長側にピーク感度を持つS 錐体が不快グレアに寄与 していることを示唆した。また、グレア光源の位置の 変化と不快グレアの関係について、光源の分光分布の 変化よりも不快感への影響は小さいとしている。 本研究では、薄明視環境において分光分布が不快グ レアに与える影響を明らかにすることを目的とし、分 光分布の異なるグレア光源を用いた主観評価実験を行 った。 図1 グレア光源の発生装置 2. 実験装置と実験条件 実験は、遮光した室内に、表裏ともに黒色の箱(一辺 600 mm の立方体)を設置して行った。箱の中央に隔壁 を設け、隔壁の中央に覗き穴を設けた。隔壁の奥に半 径250 mm の半円状の枠を設け、その枠に沿ってグレ ア光源を設置した。箱の下部で視野に入らない位置に 白色LED 電球を設置し、間接的に箱の中を照らした。 白色LED 電球に調光を行って、背景輝度を変えた。グ レア光源の発生装置にはキセノンファイバー光源を用 い、遮光した箱の中でシャープカットフィルターまた はノッチフィルターを用いて分光分布を変化させた。 その後、光ファーバーライトガイドを通して箱の中に 導入し、グレア光源とした。 グレア光源は直径10 mm の円形で、覗き穴から見た グレア光源の立体角は0.0013 sr であった。グレア光 源の発光面にはトレーシングペーパーを貼り、発光面 の輝度が均一になるようにした。覗き穴から視野中央 0°の位置に白色の固視点を設けた。被験者には、箱の 中の固視点を注視させたまま、グレア光源に対する主 観評価を口頭で行わせた。グレア光源の呈示位置は、 上方10°、上方 5°、直視(視野中央 0°)、下方 5°の 4 通 りとした。図1 にグレア光源の発生装置、図 2 に実験 装置を示す。 図 2 実験装置45-2 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 y x 主波長 黒体軌跡 NF scf-440 scf-480 scf-520 nf-488 nf-532 薄明視条件として、実験装置内部の背景輝度を、直 視では0.02 cd/㎡、0.5 cd/㎡の 2 通り、その他の光源 呈示位置では 0.02 cd/㎡のみと設定した。背景輝度は 覗 き 穴 の 正 面 を 25 点輝度計で測定し、均斉度は 0.75(最小値/平均値)であった。 グレア光源の分光分布条件として、フィルターを用 いて532(±13.3) nm をカット(nf-532)、488(±13.3) nm をカット(nf-488)、520 nm 以下をカット(scf-520)、480 nm 480)、440 nm 以下をカット(scf-440)する 5 条件を設定し、対照条件としてフィルター 無し(NF)を設定した。グレア光源の強度は、覗き穴の 位置で測定した放射照度が、各波長条件について最小 値を 0.10 μW/cm2とし、最大放射照度まで 0.10 μ W/cm2間隔になるよう設定した。表1 に実験に用いた 背景輝度、光源呈示位置、各波長条件ごとの最大放射 照度、表2 に各分光分布条件のグレア光源の測光・測 色データ、図3 に放射照度が 2.0 μW/cm2のときのグ レア光源の分光分布、図4 に CIE1931 xy 色度図上で のグレア光源の色度を示す。 3. 実験手順 被験者は8 名(男性 6 名、女性 2 名:22~24 歳、コ ンタクト・眼鏡使用者を含む)であった。実験に先立ち、 被験者には色覚検査を行い、正常な色覚を持っている ことを確認した。はじめに、被験者に実験概要と主観 評価に関する説明を行い、20 分間の暗順応後、実験装 表 1 実験条件 背景輝度【cd/㎡】 0.02 0.5 光源呈示位置 下方5° 0° 上方5° 上方10° 0° 最大放 射照度 NF 2.4 2.81 2.5 2.33 3.24 scf-440 2.41 4.06 2.83 2.41 4.06 scf-480 2.41 5.58 2.82 2.82 4.21 scf-520 2.68 4.66 2.75 2.75 4.66 nf-488 2.83 4.29 3.22 3.22 4.77 nf-532 2.7 4.58 2.81 3.24 4.97 表 2 グレア光源データ NF scf-440 scf-480 scf-520 nf-488 nf-532 x 0.333 0.359 0.424 0.486 0.354 0.347 y 0.358 0.407 0.514 0.506 0.369 0.309 Tcp[K] 5496 4776 3904 3020 4762 4688 ⊿uv 0.008 0.021 0.042 0.029 0.005 -0.024 u' 0.201 0.200 0.204 0.240 0.211 0.231 v' 0.486 0.511 0.556 0.562 0.494 0.462 S/P 比 2.22 2.07 1.61 0.89 1.79 2.29 Ra 92 83 58 49 82 81 置内を覗かせた。その後、被験者には固視点を注視さ せ、光源を3 秒間呈示し、光源に対する不快グレアの 程度を口頭で回答させた。その後、箱の中の環境光で 順応させたまま1 分間待機させ、1 つ前から条件を変 えた光源を3 秒間呈示し、これを繰り返した。評価を 20 回行う度に、5 分間の休憩をとった。図 5 に実験の 流れを示す。 図 3 グレア光源の分光分布(放射照度 2.0μW/c ㎡) 図 4 グレア光源の色度(CIE1931 xy 色度図) 図 5 実験の流れ 図 6 実験に用いたグレア評価尺度 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 380 480 580 680 780 分光 放射 照度 【μW /c ㎡ /n m 】 波長【nm】 scf-440 scf-480 scf-520 nf-488 nf-532 フィルター無し 【μW/cm2】
45-3 不快グレアの評価尺度には、De Boer のグレア評価 尺度の数値を逆にしたものを用いた。被験者には1~9 の数値を口頭で回答させた。図6 に実験に用いたグレ ア評価尺度を示す。 実験を始める最初の 2 回の評価までは実験練習とし、 解析からは除外した。また、順序効果を避けるため、グ レア光源の強度はランダムに変化させた。1つの条件 に対して一人当たり3 回評価させた。 4. 実験結果 不快グレアの主観評価結果を放射照度について検討 した。図7 に、実験結果の一例として直視(背景輝度 0.02 cd/㎡)の NF、nf-532 の実験結果を示す。また、各放射 照度における主観評価の平均値と放射照度の対数との 関係について回帰分析を行った。重決定係数R2が最も 低かったのは、背景輝度 0.02 cd/㎡のときの nf-532 で、 0.84 であった。分散分析を行ったところ回帰は 5%の 有意水準で有意であった(f<0.05)。 分光分布の違いがグレア感に与える影響について検 討した。グレア感の評価では、『許容できる限界』の放 射照度レベルを被験者ごとの回帰分析から求め、これ
を BCD (boarder line between comfort and
discomfort) 放射照度とした。BCD 放射照度に対し、 各波長条件と被験者を因子とした二元配置分散分析を 行った。結果を表3 に示す。各波長条件の主効果と被 験者の主効果、各波長条件と被験者の交互作用はすべ て有意であった(p<0.0001、1%有意水準)。図 8 に各条 件のBCD 放射照度の計算結果を示す。図 8 の Y 軸は BCD 放射照度の対数値を表す。Y 軸の値の高い条件は グレア感が低く、Y 軸の値の低い条件と比較するとま ぶしいと感じさせにくいことを意味する。さらに、6 条 件の中で条件間のグレア感において有意差があるかど うかを確認するために、分光条件を対象とした多重比 較(Tukey の HSD 検定)を行った。表 4 に Tukey の HSD 検定による多重比較の結果を示す。表中では○が 両条件で5%有意差があること、×が両条件で 5%有意 差が無いことを表す。 次に、各実験結果の回帰式を比較した。図9 に一例 として直視(背景輝度 0.02 cd/㎡)と上方 10°における 波長条件ごとの回帰直線の比較を示す。図9 より、直 視においてNF が最もグレアを感じやすく、次いで scf-440 と scf-480、scf-520 と nf-532 が最もグレアを感じ にくかった。NF と比較して、すべての条件で傾きが小 さくなり、不快グレアの増分が減った。回帰直線の傾 きに対しても、BCD 放射照度と同様に検討を行ったと 図 7 実験結果 表 3 グレア感の二元配置分散分析(上方 10°) 変動要因 平方和 自由度 P-値 F 境界値 被験者 1.412 363.479 3.89E-66 2.106 波長条件 0.489 126.036 1.39E-40 2.309 交互作用 0.149 38.572 9.15E-43 1.545 誤差 0.003 図 8 分光条件によるグレア感(上方 10°) 表 4 グレア感の多重比較結果(上方 10°) ころ、NF と比べて直視(背景輝度 0.02cd/㎡)では nf-532 が有意差のある傾きの減少がみられ、下方 5°で はscf-480 と nf-488 で傾きの増加がみられた。 図10 に一例として scf-440、scf-532 の分光条件ごと の光源呈示位置、背景輝度による回帰直線の比較を示 す。背景輝度の違いによって、回帰直線の傾きはほ NF scf-440 scf-480 scf-520 nf-488 nf-532 NF × × × × ◯ scf-440 × × × × ◯ scf-480 × × × × ◯ scf-520 × × × × × nf-488 × × × × × nf-532 ◯ ◯ ◯ × × 1 3 5 7 9 0.01 0.1 1 10 主観 評価 放射照度【μW/c㎡】 NF R2=0.96 傾き:3.63 切片:5.13 1 3 5 7 9 0.01 0.1 1 10 主観 評価 放射照度【μW/c㎡】 nf-532 R2=0.84 傾き:3.01 切片:4.18 0 0.5 1 1.5 2 NF scf-440 scf-480 scf-520 nf-488 nf-532 BCD 放 射 照度の 対数 分光条件
45-4 ぼ変わらず、背景輝度が高いほうが全体的にグレア を感じにくくなった。直視と周辺視では直視のほう がグレア感は減少した。また、周辺視3 条件の間で 結果に大きな差は見られなかった。 5. 考察 実験結果から、薄明視条件で短波長をカットするこ とで、グレア感が低下することがわかった。直視にお いてカットする短波長域が増加するにつれ、よりグレ ア感は低下するが、周辺視においてはその効果は小さ い。既往の研究では短波長成分を多く含む光源を用い てグレア評価実験を行い、短波長が不快グレアに影響 するという結果を得ていたが、今回の実験で行った特 定の波長を除いた光源を用いるという実験方法でも同 様の結果を得られた。しかし、今回の実験条件では scf-480、scf-520 で大きく光色が変わってしまった。光色 による心理的不快感の影響を除外できていないため、 短波長光が不快グレアに影響すると断定はできない。 光色によるグレア感への影響について、矢野ら 4)は 高齢者を対象に実験を行い、光源の分光組成が異なっ ても光源の相関色温度が一定であれば、不快グレアの 程度は変わらないという結果を得ている。しかし、相 関色温度がほぼ等しい NF、nf-488、nf-532 を比較す ると、nf-532 のグレア感が低くなっていることから分 光組成の影響が無いとは言い切れない。ただし、今回 の被験者は若年者を対象としているため、加齢による グレア感への影響も考えられる。今後さらに被験者の 年齢層を広げ、実験を重ねる必要がある。 光色がほぼ等しく白色である残りの4 条件では NF、 scf-440、nf-488、nf-532 の順にグレアを感じにくくな っている。直視、周辺視ともに特定の波長域をカット したnf-532 が最もグレアを感じにくかったのは、中心 窩に多く存在するM 錐体の応答が関係しているためと 考える。短波長域をカットする scf-520 と特定の中波 長域をカットするnf-532 が同程度グレア感の低減に寄 与していることから、不快グレアにはS 錐体だけでな く桿体やM 錐体の影響が大きいことが示唆される。よ って、短波長光がグレアの要因であるとは考えられる が、中波長、長波長についても今後検討が必要である。 周辺視の方が直視に対してすべての分光条件で不快 グレアを感じやすいという結果を得られた。これは視 線から外れるほど不快グレア感じにくくなるという従 来の研究と異なる結果を示している。眼球内散乱が大 きな原因であると考えられるが、今後もデータの蓄積 が必要である。 図 9 光源呈示位置ごとの回帰直線の比較 図 10 分光条件ごとの回帰直線の比較 6. まとめ 今回の実験結果から、薄明視条件において特定の波 長が不快グレアに影響を及ぼすことがわかった。既往 の研究と同様に、短波長光の不快グレアへの影響を確 認できた。また、光源呈示位置によらず薄明視環境で はM 錐体が不快グレアの大きく寄与していると考えら れる。薄明視環境では、M 錐体のピーク感度に近い波 長が少ない光源を利用することでグレア感を低減でき ることが示唆される。 謝辞 本研究は、科学研究費補助金・基盤研究(B)(課題番号 24360237) によった。記して謝意を表する。 参考文献 1) 謝明、宗方淳、平手小太郎:光色の違いがグレア感の評価と 許容度に与える影響に関する研究、照明学会誌 89(11)、 pp.788-793 (2005) 2) 橋本博、野口昌弘、平尾保、元木正典:白色 LED の色温 度の違いによる眩しさへの影響、自動車研究 28 (10) pp.569-572 (2006)
3) Bullough,J.,Fu,Z.,and J.Van Derlofske.:Discomfort and disability glare from halogen and HID headlamp systems, Advanced Lighting Technology for Vehicles, pp.1-5, (SAE paper 2002-01-0010) 4) 矢野正、金谷末子、市川一夫:高齢者の不快グレア-光色と の関係-、照明学会誌 77(6)、pp.296-303 (1993) 1 3 5 7 9 0.01 0.1 1 10 主観 評価 放射照度【μW/c㎡】 0° 1 3 5 7 9 0.01 0.1 1 10 主観 評価 放射照度【μW/c㎡】 上方10° 1 3 5 7 9 0.01 0.1 1 10 主観 評価 放射照度【μW/c㎡】 scf-440 1 3 5 7 9 0.01 0.1 1 10 主観 評価 放射照度【μW/c㎡】 nf-532