高 度 専 門 職 業 人 と し て の 医 師 の マ ネ ジ メ ン ト に 関 す る 研 究
ー バ ラ ン ス ト ・ ス コ ア カ ー ド の 導 入 ・ 実 践 に 着 目 し て
(要旨)
学 生 番 号
201382
多田 昌弘 指 導 教 授 名 ・ 加 藤 敬 太 准 教 授 平 成27
年 度 提 出1 .
本 研 究 の 巨 的わ が 国 の 医 療 界 を 取 り 巻 く 環 境 は 厳 し さ を 増 し て い る 。 先 進 的 な 病 院 に お い て は 、 営 利 企 業 の マ ネ ジ メ ン ト を モ デ ル に し て 、 経 営 改 革 を 実 践 し て い る 。 な かでも、
1992
年 にKaplanand Norton
が 開 発 ・ 提 唱 し た バ ラ ン ス ト ・ ス コ ア カ ー ド(Balanced Scorecard
;以下、BSC
と 記 す ) は 、 わ が 国 の 医 療 組 織 に も 導 入 ・ 実 践 が 進 む 傾 向 に あ る ロ2003
年には、 「 日 本 医 療 バ ラ ン ス ト ・ ス コ ア カ ー ド 研 究 学 会jが 創 設 さ れ る な ど 、 医 療BSC
の 実 践 と 研 究 が 活 発 化 し て い る 。し か し 、 医 療 組 織 に は 、 病 院 長 を は じ め と し た 管 理 職 の 管 理 的 権 限 と 、 高 度 専 門 職 業 人 で あ る 医 師 の 専 門 職 的 権 限 の 二 重 権 威 構 造 が あ る た め に 、 医 師 の 専 門 職 的 権 限 の 方 が 時 と し て 上 回 り 、 経 営 改 革 に 失 敗 す る 病 院 も あ る 。 わ が 国 の 医療
BSC
の導入研究に目を向けても、 「医師による抵抗」の存在指摘に留まっ ており、医師による抵抗の実態はほとんどわかっていない。こ の こ と か ら 、 本 研 究 で は 、 医 師 が な ぜ 抵 抗 す る の か に つ い て
BSC
の導入・実践 プロセスに着 目し なが ら明 らか にす るこ とを 研究 目的 とす る。
医 師 の 抵 抗 を 究 明 す る た め に 、 医 師 系 高 度 専 門 職 業 人 で あ る 獣 医 師 が 働 く 動 物 病 院 で
2
年 間 ( 公 表 可 能 延 べ 時 間301
時 間 ) の フ ィ ー ル ド ・ リ サ ー チ を 実 施 し ている。また、BSC
の 実 践 を 通 じ た 院 長 と 獣 医 師 の 相 互 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に 着目しながら獣医師の抵抗の実態を示していることが最大の特徴である。また、医師がなぜ抵抗するのかについては、獣医師の意識と行動の変遷過程に着目し、
5
つの視点から考察して明らかにしている。2 .
本 研 究 に お い て 明 ら か に さ れ た 内 容第 l章 で は 、 高 度 専 門 職 業 人 で あ る 医 師 の 権 限 に 起 凶 す る 対 立 構 図 を 整 理 し 、 医 療 経 営 の 効 率 化 の た め に は 医 師 の マ ネ ジ メ ン ト が 課 題 で あ る こ と を 示 し た 。 ま た 、 わ が 国 の 医 師 の 希 少 性 が 高 い ゆ え に 、 医 師 の 専 門 職 的 権 限 や 権 威 は ト ッ プ ・ マ ネ ジ メ ン ト の 管 理 的 権 限 を 上 回 る 可 能 性 が 高 い こ と を 指 摘 し て い る 。 さ ら に 、 ト ッ プ ・ マ ネ ジ メ ン ト と 医 師 と の 対 立 事 例 を 考 察 し た 結 果 、 医 師 の 上 方 向 の 影 響 戦 術 は 下 位 者 が 使 用 す る に は 不 適 切 と さ れ て
いる「制裁」 (退職)を活用していることを明らかにしている。
その結果、 「 埋 念 主 導 の 経 営 ( 直 接 的 ・ 間 接 的 方 法 ) 」 と 「 対 話 」 が 医 師 の 意 識 変 革 を 促 し 、 経 営 に コ ミ ッ ト メ ン ト さ せ る 要 因 で あ る こ と を 見 出 し て い る 。 経 営 理 念 の 浸 透 や 対 話 の 実 現 を 図 る 上 で ト ッ プ ・ マ ネ ジ メ ン ト の リ ー ダ ー シ ッ プ は 不 可 欠 で あ る も の の 、 リ ー ダ ー シ ッ プ は リ ー ダ ー と メ ン パ ー の 参 加 プ ロ セ ス に よ っ て 成 立 す る 。 こ の こ と か ら 、 管 理 的 権 限 と 専 門 職 的 権 隈 と の 対 立 、 さ ら に は 、 医 師 の 抵 抗 に つ い て 考 察 す る に あ た っ て は 、 フ ォ ロ ワ ー シ ッ プ に つ い て 考 慮 す る 必 要 性 を 指 摘 し た 上 で 、 フ ォ ロ ワ ー シ ッ プ ・ ス タ イ ル 診 断 テ ス ト に ついて概観している。
第
3章 で は 、 わ が 国 の 医 療 組 織 に お け る BSC
の 導 入 実 態 を 概 観 し た 上 で 、 医 療BSCの導入に関する先行研究のレビューを実施している。また、 BSCの 実 践
に お け る コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 機 能 に 関 す る 先 行 研 究 の レ ビ ュ ー に つ い て も 実 施 している。まず、BSC
の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 機 能 に 関 す る 既 存 研 究 は 少 な く 、 残 さ れ た 課 題 と し て は 、 ど の よ う な 状 況 で 戦 略 が 共 有 さ れ る の か 、 ま た 、 ど の よ う な 使 い 方 が 方 向 的 な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に 該 当 す る の か を 究 明 す る こ と で あ る こ と を 指 摘 し て い る 。 医 療BSC
の導入に関する先行研究のレビューでは、医療
BSCの 導 入 に 関 す る 促 進 要 因 ・ 阻 害 要 因 を 、 大 企 業 を 中 心 と し た 先 行 研 究
に 倣 っ て 、 体 系 的 に 整 理 し て い る 。 そ の 結 果 、 医 療BSCの 促 進 要 因 は 「 ト ッ プ
の コ ミ ッ ト メ ン ト 」 で あ り 、 医 療BSCの 限 害 要 因 は 「 戦 略 思 考 不 足
j と「医師 に よ る 抵 抗 」 で あ る こ と を 見 出 し て い る 。 た だ し 、 「医師の希少性」の高いわ が 国 の 医 師 に 緩 み れ ば [ 医 師 に よ る 抵 抗 」 理 由 を 明 ら か に で き れ ば 、BSCによ
っ て マ ネ ジ メ ン ト す る 可 能 性 が あ る こ と を 指 摘 し て い る 。 ま た 、 わ が 国 の 医 療 組 織BSCの 導 入 プ ロ セ ス 研 究 は 、 医 師 か ら の 証 言 を 得 て い な い こ と や 医 師 そ れ
自 体 に 焦 点 が 当 て ら れ て い な い こ と を 指 摘 し て い る 。 そ の 上 で 、 BSC
導 入 前 の 組 織 状 態 を 十 分 に 検 討 さ れ て い な い こ と 、 「トップのコミットメント」とはな にか、また、 「 ト ッ プ の コ ミ ッ ト メ ン ト 」 が 「 医 師 に よ る 抵 抗j に ど の よ う に 関 係 し て い る の か 明 ら か に さ れ て い な い こ と 、 対 立 を 解 消 す る た め の 下 位 者 の 行 動 、 あ る い は 、 フ ォ ロ ワ ー シ ッ プ ・ ス タ イ ル に 着 目 し て 対 象 医 獅 を 分 析 さ れ ていないことさと指摘している。最後に、医療BSC
研究における研究方法として、フ ィ ー ル ド ・ リ サ ー チ を 実 施 す る こ と が 最 適 な 研 究 方 法 で あ る こ と を 示 し て い る。
2
第
4章 で は 、 調 査 概 要 を 示 し て い る 。 具 体 的 に は 、 研 究 の 視 点 、 調 査 先 の 選
定、調査方法、A
動物病院の概要について示している。第
5章では、 A
動 物 病 院 の 事 例 研 究 を 行 っ て い る 。 事 例 研 究 で は 、BSCの導
入 ・ 実 践 プ ロ セ ス を ①BSC導 入 前 、 ② BSCの導入、③BSCの実践、④ BSCの導
入 ・ 実 践 の 成 果 、 と 持 系 列 で 記 述 し て い る 。 ま た 、 ト ッ プ の コ ミ ッ ト メ ン ト に 関 す る フ ォ ロ ワ ー の 認 識 と フ ォ ロ ワ ー シ ッ プ ・ ス タ イ ル 診 断 テ ス ト の 結 果 を 示 している。その上で、医師がなぜ抵抗するのかを究明するために、先行研究で指摘され るBSC
導入プロセスの促進要因と獣医師による抵抗の関係、マネジメントの変遷と獣医師 による抵抗との関係、 「トップのコミットメント」と獣医師による抵抗との関係について 考察している。さらに、獣医師の抵抗とフォロワーシップの関係を検討した後に、考察の 結果をまとめている。事例研究で明らかになったことは、①BSC導 入 プ ロ セ ス の 5
つ の 促 進 要 因 を 実 施 し て い て も 、 獣 医 師 の 抵 抗 は 回 避 ・ 緩 和 で き な い と と 、②
BSCの導入前の「潜干史的な対立」の影響が大きい場合には、獣医師の抵抗は
回 避 ・ 緩 和 で き な い こ と 、 ③BSCの 導 入 ・ 実 践 に お い て 、 ト ッ プ の コ ミ ッ ト メ ント(関与・責任)が十分に発揮されていても、獣医師の抵抗は発生すること、また、トップ・マネジメントにおいては、
BSC
の 導 入 訴 の 対 立 関 係 の 記 憶 が 心 理的な足初日となり、BSC
の 使 用 法 に 影 響 を 与 え る 可 能 性 が あ る こ と 、 ④BSCを
通じたトップのあり方が獣医師にフォロワーシップに影響を及ぼすこと、⑤「トップの
BSCの使用法」は
fトップの支援Jに 影 響 を 及 ぼ す と 同 時 に 「 ト ッ プ の 信 頼 感 」 に 影 響 す る こ と で あ る 。 こ れ ら を 踏 ま え た 上 で 得 ら れ た 結 論 は 、 ト ッ プがBSCを ト ッ プ ダ ウ ン ・ コ ン ト ロ ー ル と し て 使 用 す る こ と が 、 高 度 専 門 職 業
人 で あ る 獣 医 師 の 抵 抗 を 招 く 根 本 的 な 原 因 で あ る こ と を 明 ら か に し て い る 。3
今 後 の 研 究 課 題本 研 究 で 示 し た 結 論 は 、 単 一 事 例 に 基 づ く 結 論 で あ り 、 そ こ に 1つ の 限 界 が あ る 。 ま た 、 本 研 究 の 問 題 点 を 分 け れ ば 、 次 の 5点 に 絞 ら れ る こ と を 示 し て い る。
1
つ 目 は 、 医 師 系 高 度 専 門 職 業 人 の 獣 医 師 だ け の 事 例 で あ る 。2
つ目は、院 長 を は じ め と す る ト ッ プ ・ マ ネ ジ メ ン ト と 副 院 長 お よ び 幹 部 職 員 ( 実 行 委 員 会 メンバー)に焦点を当てた事例である。3つめは、 BSCの 導 入 ・ 実 践 の 一 局 面
ト ッ プ の 特 性 か ら 検 討 さ れ て い な い こ と で あ る 。 以 上 の 課 題 を 踏 ま え て 、 ま ず は 、 本 研 究 の 結 論 を 一 般 化 す る た め に 、 他 の 動 物 病 院 や 病 院 を 対 象 に 調 査 研 究 を実施し、順次、
5
つ の 問 題 点 を 克 服 し て 行 く こ と が 今 後 の 研 究 課 題 で あ る こ とを示している。4