博 士 ( 文 学 ) 菅 原 崇
学 位論 文 題名
Onomatopoeia in Spoken and Written English:
Corpus―and Usage―based Analysis
( 英語 の話 し 言葉 ・書 き言 葉に おけ るオ ノマ トベ :コ ーパ スと 用法 に 基づ く分析)
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
本論 文は 、英 語のオノマトペ、例えばpopやcrashのような語彙、の研究である。オノマトペは、
通 常の 語彙 と異 なり音が意味(あるいは指示対 象)とある程度直接的に結ぴっく語彙と考えられて い る。 欧米 の言 語学では、オノマトペを「言語 の中心要素ではなく、数も少なぃ」と考えたソシュ ールの影響もあルオノマ トペヘの関心が低かった。
本論 文の 目的 は以 下の3点で ある 。第 ーに、 従来よりも信憑性の高いオノマトペ語彙集を作成す る こと 、第 二は 、コーパスを用いて英語オノマ トペの頻度別ランキングを作成し、高頻度で使用さ れ るオ ノマ トベ の文法範疇と意味を明らかにす ることである。第三は、話し言葉と書き言葉とでは 高 頻度 で使 われ るオノマトペの種類と文法的・ 意味的特徴がどのように異なるのかを明らかにする ことである。
本論 文の 構成 は以 下の7章か らな る。1章 では 、 本論 の目 的、 分析 方法、使用するデータ、本論 の構成が紹介される。分 析方法としては、Oxford English Dictionary(以後、OED)に基づくオノマト ベ の特 定、 母語 話者によるオノマトペ度判定、 およぴコーパス・データからの実例収集が述べられ る。さらに、使用される話し言葉と書き言葉それぞれのコーパス、London―Lund Corpus(以後、LLC) とLancaster‑Oslo/Bergen Corpus(以後、LOBC)の規模と構成が紹介される。本論の構成について は 、2章 は 先 行 研 究 の 紹 介 と その 不備 な点 の指 摘 、3章はOEDか らの オノ マト ペ・ リス ト作 成、4 章 は話 し言 葉に おけ る高 頻度 オノ マト ペの りスト作成と個々のオノマトペ の分析、5章は書き言葉 に お け る 高 頻 度 の オ ノ マ ト ペ の り ス ト 作 成 お よ ぴ 個 々 の オ ノ マ ト ペ の 分 析 と な っ て い る 。 2章 は先 行研 究の 紹 介を し、 っぎ に先 行研 究の 不備 な点 とし て、 以下の3点が挙げられている。
第 一に 、英 語オ ノマトペ語彙の選択の仕方が一 名かニ名の編者の直感に基づぃており信憑性と客観 性 に欠 ける こと 、第二に、議論が作例に依存し ていて実例の分析がほとんどなぃこと、第三に、同 一 の語 彙で も話 し言 葉と 書き 言葉 の問 には 使用 法 に大 きな 違い があ る可能性があるにもかかわら ずその違いを考慮してい なぃ、ことである。
3章 ではOEDの 記載 に基 づい てオ ノマ トペ のり ス トを 作成 して いる 。この結果、語源欄の記述か らOEDで は 英 語 語 彙287語 を オ ノ マ ト ペ と 認 定 し て い る こ とが 明ら かに なり 、こ のう ち252語が 動 詞、226語が 名詞 と して 機能 し、 この うち194語 っま り名 詞と して 機能する語のうち85.8%、が 動 詞と して も名 詞と して も機 能す るこ とを 報告 し てい る。 さら に副 詞が32語、間投詞が12語、動
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名 詞 が155語 、‑ing型 形 容 詞 が123語 、‑ed型 形 容 詞 が78語 あ る こ と を 報 告 し て い る 。 4章 か ら6章 が 本 論 文 の 主 要 部 で あ る 。4章 で は 、 話 し 言 葉 を 集 めたLLCを 用い て3章で 得ら れ たす べて の オノ マト ペを 頻度 順に ラン キン グし てい る。っぎに、5名の英語母語話者をインフオー マ ン ト に し て 各 々 の オ ノ マ ト ペ 度 を 測 り 、 そ の 合 計 点 が (10点 満点 のう ち )8点以 上の 上位14 語を 絞り 込 み以 下の 事実 を報告している。話し言葉のコーパ スで最も高頻度でかっオノマトペ度の 高 い 語 彙 はpop, dash, bash, bouncetick, clash, crash, paちbump, clatterchatter, crisp, flap, jabberで ある 。こ のう ち4語(pop bash, bounce,出 由) は 「位 置変 化」、3語 (crash, clash, paと)は「衝突」、2語(chat ter, jabber)は「会話」をそれぞれ典型的に表す。またtick は 「 チ ェ ック マー ク 」、bumpは「 遭遇 」、crispは「 もろ い・ 砕け やす い状 態」 、flapは 「パ ニ ックの状態」、clatとerは「音の 発散」をそれぞれ典型的に表す。
5章 で は 、 書 き 言 葉 を 集 め たLOBCを 用い て3章 で得 られ たす べて のオ ノマ トペ を頻 度順 にラ ン キン グし て いる 。っ ぎに 、4章と 同様 に 各々 のオ ノマ トペ 度を 測り 、そ の合 計点が8点以上の上位 13語 を絞 り 込み 、実 例を 分析 して いる 。主 な分 析結 果は 以下 のも の であ る。 書き言葉の中で最も 高頻度のオノマトペはmurmur, flap,mutter, crash, dash, clash,umblらquiver, chatter, 1ash, bump, pop, puffで あり 、こ のう ち4語 (crash, clash, 1ash, bump)は 「衝 突」、3語 (murmur, muとterchatむer) は「 会話 」、2語(dash, pop)は 「位 置変 化」 をそ れぞ れ典 型的 に表 す。 ま た 、flapは 「 揺 れ て い る 状 態 」 、fumbleは「 手 の動 き」 、quiverは「 揺れ 」、puffは「 煙の 発 散」をそれぞれ典型的に表す。
6章 で は 、4章の 話 し言 葉の オノ マト ペと5章 の 書き 言葉 のオ ノマ トペ の分 析結 果を 比較 し、 以 下の 成果 を 報告 して いる 。第 一に 、話 し言 葉で 最も 高頻度で最もオノマトペらしいトッ プ5の語彙 (pop,bash, bounce,tick, clash)は 書き 言葉 のそ れ(murmurflap, muttercrash, dash) と は 全 く 異 な る 。 特 に 書 き 言 葉 で ト ップ5に入 ったmurmurとmutterの2つの 語は 、動 詞の 用法 が 多く 、そ の 際「 引用 」や 「that節」、「会話の内容を表す目 的語」を伴うことが多かった。このよ う な 用 法 の語 は、 話 し言 葉で はト ップ5は おろ か 今回 調査 対象 とし たト ップ14の 語彙 にす ら入 ら なか った 。 第二 に、 動詞 用法が話し言葉・書き言葉、ニつの レジスターで最も一般的に用いられる オ ノ マ ト ベの 品詞 で ある 。話 し言 葉で は対 象で ある14語 中9語 が動 詞で 用い られ るこ とが 最も 多 く、 書き 言 葉で は13語中10語 が動 詞で 用い られ るこ とが 最も 多か っ た。 第三 に、動詞用法に注目 する と、 話 し言 葉で は「 位置変化」を、書き言葉では「衝突 」を高頻度で表す語がそれぞれ最も多 かっ た。 具 体的 には 、話 し言 葉で は5っ の語 (pop, bash, bounce,dasb, clatとer)が動詞で用 いられる際、 pop in, bash through, bounce up and down, dash from, clatter out と い っ た 方向 を表 す 語句 を伴 い「 位置 変化 」を 表す こと が多 いの に対 し、 書 き言 葉で は4つの 語
(crash, clash, lash, bump) が 動 詞 で 用 い ら れ る 際 「 衝 突 」 を 表 す こ と が 多 か っ た 。 7章 は結 論と して 本論 文の 成果 が要 約 され ると ともに、本 論の残された課題と類型論的研究との 接点に触れている。
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学位論文審査の要旨 主 査 教授 高橋英光 副 査 教授 小野芳彦 副査 准教授 野村益寛
学位論文題名
Onomatopoeia in Spoken and Written English:
Corpus一and Usage―based Analysis
(英語の話し言葉・書き言葉におけるオノマトペ:コーパスと用法に基づく分析)
欧米の言語学では、オノマトペを「言語の中心要素ではなく、数も少なぃ」と考えたソシュール の影響もあルオノマトペへの関心が低かった。このため現在でもオノマトペは言語学の中で最も研 究の遅れた分野のーっとなっている。英語のオノマトペも英語の他の現象に比べて研究が遅れてい ると言える。既存の数少なぃオノマトペ研究・語彙集では、実例がほとんど分析されておらず、話 し言葉と書き言葉の区別にも考慮がなされてこなかった。加えて、オノマトベの収集法・認定法も 研究者個人の直感に委ねられていることが多い。一方で、英語のオノマトペの文法範疇と意味特徴 を詳細に調べることは、なぜオノマトペの多い言語と少ない言語があるのか、オノマトペの数の大 小と文法的・意味的特徴との問に何か相関関係はあるのか、という新しい言語類型研究にっながる 可能性を秘めている。
本論の特筆すべき点は3点である。第一に、従来よりも信憑性の高い英語オノマトベ語彙集を作 成したこと。第二は、コーパスを用いて英語オノマトペの頻度別ランキングを作成し、高頻度で使 用されるオノマトベの文法範疇と意味を明らかにしたこと。第三は、従来の研究ではまったく見落 とされていた話し言葉と書き言葉とでは高頻度で使われるオノマトペの種類と文法的・意味的特徴 がどのように異なるのかを明らかにしたことである。
本論の具体的な成果は以下の3点に要約される。第一に、話し言葉・書き言葉ごとの高頻度のオ ノマトペの語彙集を作成し、かつ豊富な使用例を提示したこと。第二に、「英語オノマトペは名詞 か動詞で用いられることが多い」という定説に計量的な裏付けを与えたことである。話し言葉では 対象で ある14語中9語(pop,bash, bouncらcrash, dash, pat, bump,clatterjabber)が動 詞で用いられることが最も多く、書き言葉では13語中10語(murmur, mutter, crash, dash, fumblら quiver, chatterJ6叩p p〇pJpUぱ)が動詞で用いられることが最も多いことを報告している。
第三として、英語の話し言葉と書き言葉とにおけるオノマトペの共通点と相違点を明確に指摘した ことである。具体的に言えば、動詞では「位置変化」と「衝突」を意味する動詞が際立っことを指 摘したこと、さらに、書き言葉のコーパスでトップ5に入った田U珊UrとmUtterの2つの語は用法
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も 独 特 で あ るこ と、 話し 言葉 では5つの 語(pop,bash, bounce,dash, clatter)が 動詞 で 用い られる際、 pop in, ぬ曲through,〃 bounce up and down ″ dash from″ clatter outとい った 方向 を表 す語 句を 伴い 「位 置変 化」 を表 す こと が多 いの に対 し、書 き言葉では4つの 語 (crash, clash, lash, bump)が 動詞 で用 いら れる 際「 衝突 」を 表す こと が多かったことを明 らかにしたことなどが高く評価される。
この よう に本 論は 、現 在の言語学で注目されている コーパスを用いた使用依拠的な分析方法を英 語オノマトペ 研究に採用した初めての試みとして当該分野に大きな貢 献をするものである。しかし、
本 論に 不備 がな いわ けで はなぃ。先行研究のオノマト ペ推定法に対する吟味がやや不十分な点と、
分 析結 果の 一部 はサ イズ の大きなコーパスによる検証 が望まれることが審査委員から指摘された。
さ らに 、本 論で 得ら れた 知見が、英語の一般的特性と どのように関連するのか、という考察をする 余 地も 残さ れて いる 。し かし、これらの点は本論の今 後の発展性を示唆するものであり、本論がオ ノマトペ研究のひとつの新しい分析モデルを提示した意義は大きい。
最後 に、 本論 文の 内容 の一部はすでに日本認知言語 学会などの全国学会で発表されており、一定 の 評価 を得 たも ので ある ことを付記しておく。本委員 会は、申請論文を慎重に審査し、また口述試 験 を実 施し て十 分に 審議 を重ね、全員一致して本論文 が博士(文学)の学位を授与されるにふさわ しいものであるとの結論に達した。
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