博士(水産科学)安部幸樹 学位論文 題名
スケト ウダラの 音響資源量調査における 面積後方散乱係数の昼夜変動に関する研究
学位論文内容の要旨
目的
漁獲制限 のあるTAC管理下では,従来のVPAなど漁業情報を利用する間 接的な資源評価法では偏りを含む可能性が指摘されており,漁業情報に依 存しない,直接的な資源評価法が重要視されることとなった。この直接的 な資源評価法として注目されているのが,計量魚群探知機を用いた,音響 資源量推定である。
一方,本論文の対象魚であるスケトウダラTheragra chalcogrammaは,我 が国のTAC指定魚種であり,底曳き網漁業や沿岸刺網,延繩漁業の漁獲対 象となる重要産業魚種である。
丶
スケトウダラ音響資源量調査における問題で,スケトウタラの日周行動 によってもたらされる,面積後方散乱係数SAの昼夜変動がある。これは音 響資源量調査における昼夜間誤差とぃうことができる。本論文では,スケ トウダラ音響資源量調査の昼夜間における推定誤差の減少,そして推定精 度の向上への指針を示すことを目的とした。
材料および方法
1.SAの墨 夜変動の観 測実験は道 立稚内水試 調査船北洋丸を用いて行つ た。使用した計量魚探はSIMRAD EK500で,周波数38kHz,ビーム幅6.8゜ パル ス幅Imsである 。実験は1996年8月に武 蔵堆で,1997年10月 に積丹 沖で行った 。武蔵堆西部の大陸棚斜面部分に,水深280m,450m,800mの
各等深線に沿ったトランセクトを設定し,船速約10ktで昼間と夜間で同じ コースを航走して魚探データを収集した。また,積丹沖では,等深線に直 角および平行なトランセクトで構成した,長方形周回コースを設定し,日 没をは さむ15時から21時にかけて5ktで航走し,3周分の魚探データを収 集した。
2.TSの 昼夜 変 動の 影 響実験は2001年7月3日〜6日に道東太 平洋の水深 およそ70mの地点で,(株)日本海洋所属,第3開洋丸を錨泊させて行った。
TS測定は,57時間連続して行った。本実験では,トランスデューサを搭載 したRemotely Operated Vehicle(ROV)を降ろし,TS測定を実施した。使用し た魚探 はSIMRAD EK60科学 魚探で,周 波数70kHz, パルス幅0.512ms,ビ ーム幅11゜で使用した。得られた音響データは,EK60内蔵のハードデイス クに保 存し,後日 デー夕収録 解析ソフトSIMRAD BI500を用いて再生,解 析を行 った。また ,7月7,8日にTS測定地 点で離底お よび着底トロール を実施し,魚種と体長組成の確認を行った。
3.微小生物 の積分加入 の影嘗実験 は1999年10月,道立 稚内水試調査船 北洋丸による,スケトウダラ音響調査の中で行った。この調査で昼夜同一 ラインを航走してそれぞれの音響データを得た。使用した魚探は同船装備 のSIMRAD EK500で,周 波数38kHz, ビーム幅6.8°,パル ス幅l.Omsで用 いた。 魚探データ はSIMRAD BI500解析装置を用いて記録し,調査終了後 スクルーテイナイズ処理を施した。この処理において,積分閾値を―94dB,‐
85dB,―76dB,−66dBの4通りに設定し,それぞれSA値を算出した。さらに そのSA値の比をとり,閥値設定の影響を調ベ,微小生物の積分加入につい て考察した。
4.海底デッドゾ―ンの影嘗最初に,Mitsonの理論に従い,海底デッドゾー ン体積を求め,スケトウダラの日周鉛直移動に伴うSAへの影響を理論計算 で求め た。次に1999年10月の北洋丸による音響調査で得られたデータを 用いて,実測値と理論値の比較を行い,海底デッドゾーンがSAの昼夜変動 に及ぽす影響について考察した。
結果と考察
1.SAの 昼 夜 変 動 の 観 測 武 蔵 堆 で280m,450m,800mそ れ ぞ れ の 等 深 線 の Sハを算 出し たと ころ ,昼 夜変 動が 観測 され た。 いずれの調査線においても 昼 間 より も夜 間の 方が 大き いと ぃう 結果 であ った 。こ の結果 より ,着 底魚 群 に つい ては ,海 底デ ッド ゾー ンがSAの 昼夜 変動 に寄 与して いる もの と推 察 さ れた 。さ らに ,積 丹沖 の調 査に おい ては ,海 底デ ッドゾ ーン の影 響を 少 な くす るた めに ,等 深線 に直 角な 調査 線を 設定 した 。しか し, 中層 魚群 においても昼夜変動が観測さた。
中 層魚 群のSA変 動の 要因 とし て,TSの 昼夜 変動 が予 想され たた め, 武蔵 堆 ,積 丹沖 ,そ れぞ れの調査で得られたin situ TSを解析したところ,SAの 昼 夜 変動 を説 明で きる よう なTSの昼 夜変 動は 認め られ なかっ た。 しか し,
ス ケト ウダ ラの 分布 深度が深いため,北海道西部日本海におけるin situ TS の 測 定 精 度 に 関 し て は 疑 い が 持 た れ , さ ら な る 調 査 が 必 要 と さ れ た 。 TSの 昼 夜 変 動 以 外 の , 中 層 魚 群SAの 昼 夜 変動 要 因 と し て 考 え られ るの が , 微小 生物 の積 分加 入に よる 昼夜 変動 であ る。 微小 生物は ,計 量魚 探を 用 いた 音響 調査 にお いて ,音 響散乱 層(SSL)とし て,しばしば観測される。
こ のSSLは ス ケ トウ ダ ラ 同 様 に 日 周 期的 に分 布を 変え ること が知 られ てお り , ス ケ ト ウ ダ ラ 音 響 調 査 の 結 果 に 影 響 を およ ぼ す こ と が 考 え られ た。
2.TSの 墨 夜 変 勁の 影 響 道 東 太 平 洋 にお いて ,測 定条 件を向 上さ せた 状態 で ,ス ケト ウダ ラのin situ TS測定を行ったところ,TSの昼夜変動が観測さ れ た 。 こ の 変 化 は , 昼 間 のTSが 大 き く , 夜 間のTSは 小 さ い と い う, 日本 海 のSA変 動と は逆 の結 果で あっ た。 これ は, 測定 対象 となっ たス ケト ウダ ラの年齢や,環境の違いで,行動が異なるためと考えられた。そこで,in situ TS測 定 が 行 わ れ た 付 近 で 得 ら れ たSAを 調 べ たと こ ろ , 昼 間 のSAが大 きく な って いた 。こ のこ とよ り,TSの昼 夜変 動がSハ の昼夜変動に寄与すること が示唆された。
3. 微 小 生 物 の 積 分 加 入 の 影 響 積 分 閾 値 を 変 化 させ て 解 析 す る こ と に よ り , ー76dB未 満の 弱い 反応 がSAの昼 夜変 動に およ ぼす 影響は 小さ いこ とが 示 され た。 また ,弱 い反 応がSよに 占め る割 合は 夜間よりも昼間の方が大き
く,仮に積分加入するとするならば,夜間よりも昼間とぃうことになる。
しかし,Sカの昼夜変動に寄与する微小生物の影響はあまり大きいとは考え られず,無視できる程度であった。
4.海底デッドゾーンの影響理論計算によルデッドゾーンの体積を算出し,
それがSハの昼夜変動に与える影響について考察した。この計算によると,
海底デッドゾーンの存在によるSハの昼夜変動への影響は,非常に大きいこ とが分かった。また,実際の調査で得られたSハの昼夜変動にデッドゾーン の影響をあてはめたところ,海底デッドゾーンのマスキング効果でSAの昼 夜変動を説明できた。このように,計量魚探で得られた音響データを,理 論的に解析することによって,SAの昼夜変動を補正することが可能になる と考えられた。
5.今後の音響調査への指針以上の結果を総合すると,中層魚群のSー変動 はTSの昼夜変動に起因するものと考えられ,着底魚群のSA変動は海底デ ッドゾーンの影響によって発生すると考えられる。
TSについては,状況に応じた基礎データの蓄積が重要になるであろう。
今後は,簡便にかつ精度の高いin situ TSを得られる技術を発展させていく 必要がある。
海底デッドゾーンについては,その影響が大きいため,あらかじめ調査 計画段階での配慮が重要である。影響の予想も可能と考えられるため,そ の海域を夜間航走するような調査計画を立てることで,推定精度の向上に っなげることができるであろう。
学位 論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教 授 飯 教 授 三 教 授 齊 助教授 向
田 浩 二 浦 汀 介 藤 誠 一 井 徹
学 位 論 文 題 名
スケ トウダラの音響資源量調査における 面積 後方散乱 係数の昼夜変動に関する研究
国 連 海 洋 法 条 約 締 結 以 降 、 我 国 で は 漁 獲 可 能 量(TAC)の 割 り 当 て に よる 資源 管理 が実 施 され るよ うに なり ,漁 業情 報に依存しない直接的な資源 評価法が求められている。本論文は我 国 の 代 表 的TAC指定 魚種 であ るス ケト ウダ ラ につ いて 、そ の直 接的 資源 評価 法で ある 音響 資 源 調 査 に お い て し ば し ば 問 題 と な る ス ケ ト ウダ ラの 面積 後方 散乱 係数(SA)の昼 夜変 動現 象 を、 ◎タ ーゲ ット スト レン グ ス(TS)の 昼夜 変動 、◎ 微小 生物 の濃 縮に よる エコ ー積分への加 入、◎スケトウダラの日周鉛 直移動に伴う海底デッドゾーンの影響、の3っの仮説からその検証 を試 み、 音響 資源 調査 おけ る 昼夜 間誤 差の 減少 、お よび 推定 精度 の向 上に つい て考察したも のである。
1.SAの昼夜変 動現象の証明
本研 究で はま ず、 スケ トウ ダ ラのSAの 昼夜 変動 現象 を明 らか にす るた め、 日本 海武蔵堆西部 の大 陸棚 斜面 部分 に, 水深280m,450m,800mの 各等 深線 に沿 った トラ ンセ クト を設定し,船 速約10ktで昼 間と 夜間 で同 じコースを航走して魚探デー タを収集した。さらに,積丹半島沖に おいて,等深線に直角およぴ平行なトラン セクトで構成した,長方形周回コースを設定し,昼夜 連続の魚探データを収集した。
武蔵 堆に おけ る各 等深 線のSAを算 出し たと ころ 、い ずれ の調 査線 にお いて も昼 間よりも夜間 の 方 が 約3倍 大 きいSA変 動が 観測 され た。 ま た、 積丹 沖の 調査 にお いて は、 中層 魚群 にお い ても昼間より夜間の方が約1.4倍大きいSAの昼夜変動が観測された。
2.TSの昼夜変 動について
次 に ス ケ ト ウ ダ ラのTSの 昼夜 変動 を明 らか にす るた め、 道東 太平 洋の 水 深約70mの地 点に 錨 泊し、ROVを用いてトランスデューサを魚群に近づけるな ど、測定条件を向上させてスケトウダ ラのTS測 定を 行っ たと ころ 、TSの昼夜変動が観測された 。しかし、この変化は、昼間のTSが夜
間より大きく、日本海のSAの変化とは逆の現象であった。そこで、観測点付近で得られたSAを 調べたところ、昼間のSAの方が大きかった。このことから、TSの昼夜変動がSAの昼夜変動に寄 与することが明らかとなった。
3.微小生物の積分加入の影響
次に、動物プランクトンなどが夜間に濃縮し、鉛直移動する結果、エコー積分値が増加する 微小生物の積分加入の現象を調べるため、日本海において昼夜同一ラインを航走して音響デ ータを得た。解析は、積分閾値を―94dB、−85dB、‑76dB、―66dBの4通りについてSA値を求め、
さらにそれらの比をとり、閾値設定の影響を調べた。
結果は積分閾値を通常より低く設定してもSAの変化はあまり見られず、また、弱い反応がSA に占める割合は夜間よりも昼間の方が大きく、微小生物加入の仮説とは逆の結果を呈した。し かし、―76dB未満の弱い反応がSAの昼夜変動におよばす影響は小さく、微小生物がSAの昼夜 変動に与える影響は無視できる程度と考えられた。
4.海底デッドゾーンの影響
最後にスケトウダラの日周鉛直移動が海底エコーにマスキングされる現象(デッドゾーン効 果)の影響の度合いを検証した。まず、デッドゾーン体積を求め、スケトウダラの日周鉛直移動 に伴うSAへの影響を理論計算で求めた。次に実際の音響調査で得られたデータを用いて、実 測値と理論値の比較を行い、海底デッドゾーンがSAの昼夜変動に及ぼす影響について考察 した。
理論計算の結果、海底デッドゾーンの存在によるSAの昼夜変動への影響は、非常に大きい ことが分かった。また、実際の調査で得られたSAの昼夜変動にデッドゾーンの影響をあてはめ たところ、海底デッドゾーンのマスキング効果でSAの昼夜変動を合理的に説明できた。したが って、計量魚探で得られた音響データを、理論的に解析することによって、SAの昼夜変動を補 正することが可能であると考えられた。
審査員一同が評価した点は以下の通りである。
1.道西日本海の武蔵堆と積丹沖において、往復および周回コースを設定し昼夜連続観測 を実 施 し た結 果 、夜 間 のSAが 昼間 よ り1.4‑‑3倍大 き いこ とを明ら かにした 点。
2.道東太平洋において、特殊プラットフオームを用いてスケトウダラの由situ TS測定を行っ たところ、昼間のTSが夜間より約5dB大きく、TSの変化を用いてSAの昼夜変動現象を説 明することができた点。
3.計量魚探の積分閾値を変化させて、魚類以外の微小生物のSAへの寄与率を調べたとこ ろ、―76dB未満の弱い反応がSAの昼夜変動に与える影響が小さいことを明らかにした 点。
4.海底デッドゾーンが着底魚群のSAの寄与に及ぼす影響は非常に大きいことを示した点。
また、デッドゾーン仮説をもとに理論計算し、海底デッドゾーンのマスキング効果でSAの
昼夜変動を説明することができ、SAの昼夜変動を補正できる可能性を示した点。
審 査員一同 は本研究 が、今後の 音響資源量調査の設計に重要な指針を示すものと高く評 価 し 、 申 請 者 が 博 士 ( 水 産 科 学 ) の 学 位 を 授与 さ れ る資 格 のあ る も のと 判 定し た