放送におけるガ行鼻濁音について
—ァナウンサーの意識調査に甚づく考察――-
轟 木 靖 子 *
要
河 野 菓 子 * *
旨
放送音声におけるガ行鼻濁音の扱いについて考察するため、全国の放送局53局のアナウンサー 250名にアンケート調査をおこない、アナウンサーがガ行鼻濁音についてどのように考えているか を分析した。いくつかの項目については、アナウンサーの経験年数や成育地によって回答の傾向に 差が見られた。ガ行鼻濁音に関する規範意識はアナウンサーの経歴が長くなるにつれて高まる傾向 にあり、アナウンサーの成育地がガ行鼻濁音を使用していない地域の場合であっても、指導者の立 場であればガ行鼻濁音を使用するよう指導すると考えていることがわかった。
1 はじめに
現代日本語の標準語においては、助詞の「が」や「たまご(卵)」の「ご」のような語頭以外の ガ行音を、軟口蓋破裂音の
[ g ]
ではなく軟口蓋鼻音の[ I J ]
で発音することが理想的であるとさ れており、この[ I J ]
の音をガ行鼻濁音と呼んでいる。ガ行鼻濁音は、もともと方言音声として使 われていた地域もあれば、まったく使われていない地域もある。しかし、永田 (1987) や加藤 (1983) 、井上 (1998) 、馬瀬・渡辺• 清水・中東
( 1 9 9 9 )
での指摘 にもあるように、これまでガ行鼻濁音を使用しているとされてきた地域においても使用者は明らか に減少している。テレビやラジオなどのマス・メデイアにおいても、ガ行鼻濁音を使わない話し手,が出てきて全国にその音声が流れることも珍しくない。
では、一般に標準語の使い手であると考えられていて、放送の仕事に携わっているアナウンサー は、ガ行鼻濁音に対してどのような意識を持っているのだろうか。
本稿は、全国53放送局のアナウンサー250名の協力を得て、ガ行鼻濁音がアナウンサーにとって どの程度重要であると考えられているかを調査し、放送音声におけるガ行鼻濁音の位置づけについ て考察を試みたものである。
なお、調査票の作成は河野・轟木が共同で行い、調査票の発送及び集計は河野が行った。この結 果については河野
( 1 9 9 9 )
で詳細に報告されている。本稿は、轟木が、河野( 1 9 9 9 )
の調査結果に ついて一部のデータを再検討し、河野の了承を得て内容を整理して取りまとめたものである。2
ガ行鼻濁音が使用されている地域徳川編
( 1 9 7 9 )
では、国立国語研究所(1966‑1974)
の調杏結果の一部を紹介している。ガ行鼻 濁音については、「鏡(かがみ)」の「が」の発音の分布状況が示されており、これによると、*香川大学教育学部助教授 **香川大学教育学部平成
1 0
年度卒業‑47‑
轟 木 靖 子 河 野 葉 子
この図によって指摘できるのは、
n
の地域とg
の地域とが交互に存在しているということである。近畿・中部・東北の大部分には
n
が分布し、そのはざまにg
が帯状に分布している。中国・四国以 西ではgが圧倒的である。愛知、千葉などでの了はn
とgの中間的な微妙な音声であることを示す。..(中略)注目されるのは、
n
の領域に隣接する山形・新潟や奈良の十津川、および四国の高知、九州の一部などに、鼻音が直前にはいる音!Jgないし gが存在するという事実である。
とある。しかし、調査時期からかなりの年月が経過しており、現在の実態はかなり様子が異なっ てきていることは先に述べたとおりである。
3
ガ行鼻濁音を使用する箇所日本放送協会
( 1 9 8 7 )
によると、ガ行鼻濁音は以下の箇所で使われるとされている(注1 )
。( 1 )
語中・語尾のガ行子音 大群、工芸、佐賀 (2)助詞の「が」私が行きます。
(3)結びつきの強い複合語のガ行子音 小学校、中学校
( 4 )
連濁によって生じたガ行子音,株式会社、口車、飛行機雲
(5)外国語・外来語の中でも日本語化した語 イギリス、キング
(6)熟語や人名に用いられる数詞の「五」
十五夜、七五三、菊五郎
(3)については、「教育学部」「都議会」「素人芸」など、複合の結びつきが比較的弱いものについ ては、
[ g ]
と[ u J
の両方の可能性がある。また、( 6 )
は、NHK
『日本語発音アクセント辞典』の 1966年版に基づいていると考えられるが、馬瀬・渡辺• 清水・中東( 1 9 9 9 )
でも指摘されているよ うに、1 9 9 8
年版で「イギリス」はガ行濁音の表記になっている。外来語のガ行鼻濁音の使用につい ては明確な基準がなく、ガ行鼻濁音が必ずしも使われない可能性が高いことが推測される。4
アナウンサーのガ行鼻濁音について馬瀬・渡辺・清水・中東
( 1 9 9 9 )
では、ニュースの放送音声を分析し、アナウンサーのガ行鼻濁 音の使用率について調査を行っている。この結果、NHK
と民放ではNHK
アナウンサーのほうがガ 行鼻濁音を多く使用しており、ガ行鼻濁音の使用率は、3 5
歳以上のアナウンサーのほうが3 5
歳未満,のアナウンサーよりも高いこと、男性と女性では全体では男性のほうが使用率が高くなっているが、
3 5
歳以上では女性のほうが高いこと、また、非鼻濁音地域出身のアナウンサーの場合、民放ではガ 行鼻濁音の使用率が低くなっていることなどが報告されている。また、大西・柴田
( 2 0 0 0 a )
では、東京都出身のアナウンサーであっても2 0
歳代のアナウンサー の場合は、上の世代に比べて鼻濁音で発音するべきところを濁音で発音する率が高いことが報告さ れている。それでは、アナウンサー自身は、ガ行鼻濁音を使用することについてどのように考えているのだ、
‑48‑
放送におけるガ行鼻濁音について
ろうか。また、ガ行鼻濁音を使うことが望ましいとされている箇所について、アナウンサーはとく にどんな箇所が重要だと考えているのであろうか。今回の調査は、以上のような疑問点を明らかに することを目的として行ったものである。
5
アナウンサーのガ行鼻濁音に対する意識調査5 . 1
調査の概要 5•
1 . 1 調査方法調壺は
2
回行った。1
回目の調査は、香川県内のテレビ局、ラジオ局のアナウンス室宛に調査依 頼の手紙を出し、協力すると回答のあった2局のアナウンサー6名に対して郵送によるアンケート 調査を行った。この結果をもとに、アンケートを一部修正し、全国の放送局のアナウンサーに調査を依頼した。
全国調査では、各県からランダムに県内の半数の放送局(各県あたり約
3
局)を選び、計1 3 0
局 に調査依頼の手紙を出した。このうち5 8
局から協力するとの回答があった。各放送局に人数分のア ンケート用紙と返信用の封筒を送り、回答後返送してもらった。調査時期は1 9 9 8
年6
月から1 0
月ま でである。,また、当初は河野の卒業論文のためにのみ行った調査であったため、今回この稿をまとめるにあ たり、調査結果を公表することについて承諾をいただいた局のデータのみ扱っている。表
1
は、本 稿で扱う対象となるデータを提供していただいたアナウンサーの数を地域および経験年数ごとに分 けて示したものである。表 1 調査対象人数内訳(人)
経~
ご 域 北海道・東北男性 女性 順•鴨越・東悔•中栂男性 女性 男性北陸• 関西女性 男性中国・四国女性 男性九州・沖縄女性 '合計1 0
年 未 満1 5 1 4 , 1 9
11 11 111 4 1 3 1 4 1 3 1
1 0
年20
年5 1 1 3 6 1 3 5 8 5 8 4 6 8 2 0
年30
年8 1 6
゜ , 2 1 3 8 1 3 9
3 0
年 以 上4 1 3
゜ 2 ゜ 2 ゜
、0
・01 2
,,ロ6. 計
3 2 1 7 3 1 2 5 3 5 1 8 2 2 2 2 2 9 1 9 2 5 0
5 . 1 . 2
調査内容河野 (1999) では、調査日時、アナウンサーの氏名、性別、• 生年、居住暦、アナウンサーの経験 年数、ガ行鼻濁音について受けた指導内容や普段仕事以外の場面で使うことがあるかなどを尋ねた うえで、ガ行鼻濁音そのものに対する意識、ガ行鼻濁音の使用個所に関すること、ガ行鼻濁音が使 われていない地域でも放送ではガ行鼻濁音を使用するべきか、アナウンサーが注意するべきことの•
中におけるガ行鼻濁音の位置づけ等についての質問項目を設定している。本稿は、この中の、ガ行 鼻濁音そのものに対する意識、ガ行鼻濁音の使用個所に関することに関する回答結果をまとめ、分 析・考察するものである。
以下に質問項目を示す。
‑49‑
轟 木 靖 子 河 野 葉 子
質問
1
ガ行鼻濁音について、自分の考えにあてはまるかどうか。〇:非常によくあてはまる
△ :少しあてはまる
各項目について回答、あてはまらない場合は空欄
(1)ガ行鼻濁音を使うべき箇所で使った発音は美しいと思う。
( 2 )
ガ行鼻濁音は発音しにくい。(3) ガ行鼻濁音を使った発音は聞き取りにくい。
(4)放送を聞いて、ガ行鼻濁音を使い過ぎていると感じることがある。
( 5 )
ガ行鼻濁音を使うべき箇所で使っていない発音を聞くと、そのことにすぐ気が付く。(6) ガ行鼻濁音を使うべき箇所で使っていない放送を聞くと、「ガ行鼻濁音を使うべきなのに…」
と思い、マイナスに感じる。
、
( 7 )
男性アナウンサーと女性アナウンサーを比べて、ガ行鼻濁音を使うべき箇所で使っていな い放送を聞いて耳障りに感じるのは、女性アナウンサーの場合である。(8) 自分が指導者の立場にあるとしたら、ガ行鼻濁音を使っていないアナウンサーにガ行鼻濁 音を使うよう指導する。
質問
2
ガ行鼻濁音を使うべき箇所についての質問以下の (1)から
( 6 )
までのそれぞれについて、以下のa d
の中から一つ選ぶ。a .
絶対に使うべきだと思うb .
できるだけ使うべきだと思うC. 使っても使わなくてもよいと思う
d.
使う必要はまったくないと思う(1)語中・語尾のガ行音 例:磨く、柳
( 2 )
助詞の「が」 例:今日は晴れだが、明日は雨だ。(3)結びつきの強い複合語のガ行音 ,例:小学校、衆議院
( 4 )
連濁によって生じたガ行音 例:小切手、株式会社(5)外国語・外来語の中でも日本語化した語 例:ヨーグルト、オルガン (6)熟語や人名に用いられた数詞の「五」 例:十五夜、菊五郎
5 . 2
調査結果質問
l
及び質問2
の回答の調査結果を表2
から表5‑2
に示す。表2
及び表3
はそれぞれの回答 数の全合計を人数で示したものである。そして、これらの回答を以下のように点数化して集計した のが表4‑1
以降である。 ,質問
1
(表4‑ 1
、表4‑ 2)
の回答は、自分の考えに「非常によくあてはまる」を2
、「少し 当てはまる」を1
として合計及び平均を算出した。質問2
(表5‑ 1
、表5‑2 )
の回答は、質問 した箇所についてガ行鼻濁音を「絶対に使うべきだ」を4、「できるだけ使うべきだ」を 3、「使っ ても使わなくてもよい」を2
、「使う必要はまったくない」を1
として合計及び平均を算出した。表
4‑1
、表5‑ 1
は、アナウンサーの経験年数を、1 0
年未満、1 0
年以上2 0
年未満、2 0
年以上3 0
年未満、3 0
年以上の4
グループに分けて示している。表4‑2
、表5‑2
は、高校までの間居住地 が変わっていない回答者1 9 2
名を対象に、徳川編( 1 9 7 9 )
で示されているガ行子音の分布状況に応‑50‑
放送におけるガ行鼻濁音について
じて以下の6地 域 に 分 類 し 、 回 答 を 集 計 し た も の で あ る ( 注2)。
( 1 )
鼻 濁 音 の 地 域[ u J
(2)鼻 濁 音 .
i
蜀音の混在地域[ u J f a ]
(3)鼻 濁 音 ・ 直 前 に 鼻 音 が 入 る 濁 音 の 混 在 地 域
[ u J [g ]
(4)濁 音 の 地 域[ g ]
(5)
i
蜀 音 ・ 直 前 に 鼻 音 が 入 る 濁 音 の 混 在 地 域[ g ] [ g ]
(6) 中 間 音 の 地 域[ " ' f ]
表
2
ガ行鼻濁音について(0:
自分の考えによくあてはまる、△ :自分の考えに少しあてはまる)\
項 目゜
△1
ガ行鼻濁音を使うべき場所で使った発音は美しいと思う2 1 8
人( 8 7 .2%) 1 7
人( 6 .8%) 2
ガ行鼻濁音は発音しにくい1 3
人( 5 . 2%) 3 7
人( 1 4 .8%) 3
ガ行鼻濁音を使った発音は聞き取りにくい3
人(1.2%) 1 4 人 ( 5 .6%) 4
・
放送を聞いてガ行鼻濁音を使いすぎていると惑じることがある
2 3
人(9.2%) 2 4
人( 9 .6%)
ガ行鼻濁音を使うべき箇所で使っていない放送について5
使っていないことにすぐ気が付く1 5 9
人( 6 3 .6%) 5 4
人(21.6%) 6
マイナスに感じる1 1 3
人( 4 5 .2%) 6 0
人( 2 4 .0%) 7
男性より女性のアナウンサーのほうが耳障りに感じる2 8
人( 1 1 .2%) 4 0
人( 1 6 .0%) 8
自分が指導者だったら、ガ行鼻濁音を使うように指導する1 9 1
人(76.4%) 3 4
人( 1 3 .6%)
表3 ガ行鼻濁音を使うべき優先順位
~
絶 対 に 使 う べ き だ できるだけ使うべきだ 使っても使わなくてもよい 使う必要はまったくない 語 中 ・ 語 尾1 5 9
人( 6 3 .6%) 6 5
人( 2 6 . 0%) 1 1
人( 4 .4%) 2
人( 0 .8%)
助詞の「が」1 8 7
人( 7 4 .8%) 4 7
人( 1 8 .8%) 3
人( l .2%) 2
人(0.8%)
複 合 語 \1 3 6
人( 5 4 .4%) ' 7 3
人( 2 9 .2%) 2 1
人( 8 .4 %) 5
人( 2 .0%)
連 濁1 2 3
人( 4 9 .2%) 7 5
人( 3 0 .0%) 30
人( 1 2 .0%) 7
人(2.8%)
日 本 語 化 し た 外 来 語5 0
人( 2 0 .0%) 47
人( 1 8 .8%) 68
人(27.2%) 7 2
人( 2 8 .8%)
熟語・人名の「五」8 9
人( 3 5 .6%) 6 4
人( 2 5 .6%) 5 0
人( 2 0 .0%) 3 5
人( 1 4 .0%)
5 . 3
考 察5 . 3 . 1
全般的な傾向質問
l
ガ 行 鼻 濁 音 に つ い て の 考 え 方( 1 )
ガ行鼻濁音を使うべき箇所で使った発音は美しいと思う、( 8 )
自分が指導者の立場にあるとし た ら 、 ガ 行 鼻 濁 音 を 使 っ て い な い ア ナ ウ ン サ ー に ガ 行 鼻 濁 音 を 使 う よ う 指 導 す る 、 は 「 自 分 の 考 え によくあてはまる」 (0) とした回答者が全体の7
割を超えていた。ま た 、 半 数 前 後 の 回 答 者 が 「 自 分 の 考 え に よ く あ て は ま る 」 と し た の は 、 (5)ガ行鼻濁音を使う べ き 箇 所 で 使 っ て い な い 放 送 を 聞 く と そ の こ と に す ぐ 気 が 付 く
( 6 3 . 6%)
、( 6 )
ガ 行 鼻 濁 音 を 使 う べき 箇 所 で 使 っ て い な い 放 送 を 聞 く と 、 「 ガ 行 鼻 濁 音 を 使 う べ き な の に … 」 と 思 い 、 マ イ ナ ス に 感 じ る
( 4 5 .2%)
の2
項 目 で あ っ た 。 こ れ ら の 項 目 は 「 自 分 の 考 え に 少 し あ て は ま る 」 の 回 答 者 を 合 計 す る と 全 体 の7
割から8
割を占める。後述のように、これらの項目は経験年数の上昇に伴い、0
を‑51‑
轟 木 靖 子 河 野 葉 子
つける回答者が増える傾向が見られた。
いっぽう、「自分の考えによくあてはまる」 (0) とした回答者が少なかったのは、
( 3 )
ガ行鼻濁 音を使った発音は聞き取りにくい( 1 .2%)
、( 7 )
男性アナウンサーと女性アナウンサーを比べて、ガ行鼻濁音を使うべき箇所で使っていない放送を聞いて耳障りに感じるのは、女性アナウンサーの 場合である
( 1 1 .2%)
であった。( 7 )
は、「自分の考えに少しあてはまる」(△)も合計すると2 7 . 2
%であった。同様の数値を示したのは、
( 2 )
ガ行鼻濁音は発音しにくい( 2 0 .0%)
、( 4 )
放送を聞い てガ行鼻濁音を使いすぎていると感じることがある( 1 8 . 8 % )
である。これらは、アナウンサー全 体の考え方を示す数値としては低いが、5
分の1
前後のアナウンサーが、自分の考えに少し、ある いはよくあてはまるとしているのであり、完全に無視できるほど低いものではない。 、質問
2
ガ行鼻濁音を使うべき箇所「絶対に使うべきだと思う」が最も多かったのは
( 1 )
助詞の「が」で74.8%
、次いで( 2 )
語中・語 尾のガ行音の63.6%
であった。( 3 )
結びつきの強い複合語のガ行音、( 4 )
連濁によって生じたガ行音 は「絶対に使うべきだと思う」と答えたのは、それぞれ54.4%
、49.2%
と半数程度であるが、「で きるだけ使うべきだと思う」を合わせると、80%
前後となる。いっぽう、( 5 )
外国語・外来語の中 でも日本語化した語は「絶対に使うべきだと思う」「できるだけ使うべきだと思う」を合計しても38.8%
と最も少なく、「使っても使わなくてもよい」と「使う必要はまったくない」の合計のほう が56.0%
と上回っていた。( 6 )
熟語や人名に用いられる数詞の「五」は「絶対に使うべきだと思う」と「できるだけ使うべきだと思う」を合わせると
6 1 .2%
で、( 1 )
から(4)の項目と (5)の中間に 位置するといえる。5 . 3 . ‑2
経験年数による違いアナウンサーの経歴が
3 0
年以上の回答者は1 2
名と少なかったこともあり、3 0
年以上の経験者の回 答は他の年代に比べて回答にばらつきが少なかった。質問I
(表4‑ I )
において、3 0
年以上経験 者全員が「自分の考えによくあてはまる」としているのは、( 1 )
ガ行鼻濁音を使うべき場所で使っ た発音は美しいと思う、 (5)ガ行鼻濁音を使うべき箇所で使っていない発音を聞くと、そのことに すぐ気が付く、であった。( 1 )
については2 0
年以上3 0
年未満の回答者もほぽ全員が「自分の考えによくあてはまる」としている。 '
(6)ガ行鼻濁音を使うべき箇所で使っていない放送を聞くと、「ガ行鼻濁音を使うべきなのに…」
と思い、マイナスに感じる、について、
1 0
年未満のアナウンサー平均は0 . 9 5
、3 0
年以上のアナウン サーは1 .9 2
と差が見られる。 '質問
2 ( 表 5‑ I)
については、3 0
年以上経験者はすべての項目の平均が3
点以上で、とくに( 1 )
語中・語尾のガ行音 (2)助詞の「が」について無回答 1名を除く全員が「絶対に使うべきだと 思う」としているのが目立つ。また、 (5)外国語・外来語の中でも日本語化した語 (6)熟語や人名 に用いられた数詞の「五」の項目で1 0
年未満の回答者の平均がやや低め( 2 . 1 4
、2 . 6 6 )
であった。各年代のグループの回答傾向の違いをみるため、カイ
2
乗検定をおこなったところ、質問1
につ いては、経験年数1 0
年未満のアナウンサーの回答傾向は、2 0
年以上3 0
年未満のアナウンサー、およ び3 0
年以上のアナウンサーとの間でそれぞれ有意差が認められた( I O
未満v s 2 0
以上3 0
未満:x 2 = 5 8 . 9 0
、d f = 2 3
、p < O .0 1 , 1 0
未満v s 3 0
以上:x 2 = 3 9 . 3 3
、d f = 2 3
、p < 0 . 0 5 )
。3 0
年以上経験者の回答は、ほとんどの項目で、ほぽ全員が同じ回答を選ぶ傾向にあったっため、その影響が考えられる。
1 0
年/ 未満のアナウンサーと2 0
年以上3 0
年未満のアナウンサーの回答数の違いが大きかったのは、( 5 )
と (6)であった。これらの項目の、 0 (自分の考えによくあてはまる):△ (自分の考えに少しあては‑52‑
表
4‑1
質問1
経験年数別の回答結果(0:
自分の考えによくあてはまる=2
、△ :自分の考えに少しあてはまる=1
、 無 印 =0)
項 \ 目数
10 年 未 満 10年以上20年未満 20年以上30年未満 30 年 以 上
回答者数 点 回答者数 点 回答者数 点 回答者数 点
0(2)△ (1)無印(0)合 計 平 均 0(2)△ (1)無印(0)合計 平均 0(2)△ (1)無印(0)合 計 平 均 0(2)△ (1)無印(0)合 計 平 均 l ガ行鼻濁音を使うべき箇所で使った発音は美しいと思う 103 15 13 221 1. 69 62 4 2 128 1.88 38
゜
1 76 1. 95 12゜゜
24 2.002ガ行鼻濁音は発音しにくい 12 25 94 49 0.37 2 7 59 11 0. 16 2 4 33 8 0.21
゜
1 11 1 0.083
ガ行鼻濁音を使った発音は開き取りにくい 2 7 122 11 0.08 1 5 62 7 0. 10゜
2 37 2 0.05゜゜
12 0 .0.004 放送を開いてガ行鼻濁音を使いすぎていると感じることがある 16 17 98 49 0.37 7 7 54 2i 0. 31 1
゜
38 2 0. 05゜゜
12 0 0.00ガ行鼻濁音を使うべき箇所で使っていない放送について
5 使っていないことにすぐ気が付く 68 35 28 171 1. 31 44 15
,
103 1. 51 32 4 3 68 1. 74 12゜゜
24 2.006 マイナスに感じる 45 34 52 124 0.95 30 19 19 79 1. 16 27 5 7 59 l. 51 11 1
゜
23 l. 927 男性より女性のアナウンサーのほうが耳障りに感じる 11 19 101 41 0.31 11 10 46 32 0.48 3 10 26 16 0.41 1 2
,
4 0.33 8 自分が指導者だったら、ガ行鼻濁音を使うように指導する 89 20 22 198 l. 51 50 12 6 112 1. 65 36 1 2 73 1. 87 11゜
1 22 1. 83人 数 131人 68人 39人 12人
ー
5 3
ー
表
4‑2
質問1
成育地別の回答結果(0:
自分の考えによくあてはまる=2
、△:自分の考えに少しあてはまる=1
、ヽ無印=0)項 : ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ニ
鼻 濁 音 ([g)) 鼻濁音・濁音 ([g) [g)) 鼻濁音・鼻音が人る濁音 ((1))(‑g]) 濁 音 ([g]) 濁音鼻音が入る濁音 ([g][‑g]) 中 間 音 ([oll回答者数 点 回答者数 点 回答者数 点 回答者数 点 回答者数 点 回答者数 点
0(2)△ (1)無印(0)合 計 平 均 0(2)△ (I)蔦印(0)合 計 平 均 0(2)△ (1) 無 ~JHO) 合計平均 CC2)△ (I)鋼印IO)合 計 平 均 0(2)△ (I)無印(0)合計 平均 0(2)△ (I)艇印(O)合 計 平 均 1 ガ行鼻濁音を使うべき箇所で使った発音は美しいと思う 94 7 4 195 I 86 22 I I 45 I 88 4
゜
2 8 I 33 38 3 2 79 I 84 6 I゜
13 1 86 4 I 2 9 I 292ガ行鼻濁音は発音しにくい 6 12 87 24 0 23
゜
2 22 2 0 08 I゜
5 2 0. 33 5 14 24 24 0 56 2 I 4 ' 5 0 71゜
I 6 I O 143ガ行鼻濁音を使った発音は聞き取りにくい
゜
4 IOI 4 0 04゜
2 22 2 0 08゜゜
6 0 O 00 2 ・ 6 35 JO O 23゜゜
7 0 0 00゜
1 6 I O 144 放送を聞いてガ行鼻濁音を使いすぎていると感じることがある 7
,
89 23 0 22 I 2 21 4 0 17 I゜
5 2 0 33 6 2 35 14 0 33 I I 5 3 0 43 I I 5 3 0 43ガ行鼻濁音を使うべき箇所で使っていない放送について
5 使っていないことにすぐ気が付く 6S 20 17 156 I 4!l 13
,
2 35 I 46 C J゜
I 10 I 67 27,
7 63 I 47 5゜
2 10 I 43 4 I 2 9 I 296 マイナスに感じる 62 15 28 139 l 32
,
7 8 25 I 04 2 3 I 7 I. 17 15,
19 39 0 91 2 1 4 5 0 71 2 I 4 5 0 71 7 男性より女性のアナウンサーのはうが耳隠りに感じる II 20 73 42 0 40 I 3 20 5 0 21 2 1 3 5 0 83 8 3 32 19 0 44゜゜
7 0 0 00゜
I 6 ' I 0 148 自分が指導者だったら、ガ行鼻濁音を使うように指導する 59 8 ?8 12G I 20 14 4 ;( 32 I 33 5
゜
I JO I 67 35 I 7 71 I 65 5 2゜
12 1 71 ・4 2 I 10 I 29合計人数 105人 24人 6人 43人 7人 7人
淀涼 Eせ︱}が辻
1f 讚函 呻一 ぃ
0
ぐヽA
表5 ‑ 1 質問
2
経験年数別の回答結果(ガ行鼻濁音を絶対に使うべき
=‑4
、できるだけ使うべき=3
、使っても使わなくてもよい=2
、使う必要はまったくない=1 )
\
項目 ' 4 3 2 1回答者数10 年 未 満合 計 平 均点 4 3 2 1回 答 者 数10年 以 上20年未満合 計 平 均点 4 3 2 1回 答 者 数20年 以 上30年 未 満合 計 平 均点 ̲4 回 答 者 数3 2 1 30 年 以 上合 計 平 均点語 中 ・ 語 尾 75 42 7 1 441 3.53 41 19 4 1 230 3.54 32 4
゜
0 140 3.89 11゜゜゜
44 4.00助詞の「が」 90 34 2 1 467 3.68 53 li 1 0 247 3.80 33 2
゜
1 139 3.86 11゜゜゜
44 4.00複 合 語 64 43 15 3 418 3.34 34 22 6 2 216 3.38 28 7
゜
0 133 3.80 10 1゜゜
43 3.91連 濁 56 47 18 4 405 3.24 29 22 11 1 205 3.25 28 5 1 2 131 3.64 10 1
゜゜
43 3.91日本語化した外来語 18 24 42 42 270 2.14 18 8 19 19 153 2.39 8 14 5
,
93 2.58 6 ̲ 1 2 2 33 3.00 熟語・人名の「五」 35 37 32 23 338 2.66 24 18 16 6 188 2.94 21,
2 4 119 3.31,
゜゜
2 38 3.45合 計 人 数 131人(NR5) 68人(NR3) 39人(NR3) 12人(NRl) ,
│
5 4 │
表
5‑2
質問2
成育地別の回答結果(ガ行鼻濁音を絶対に使うべき
=4
、できるだけ使うべき=3
、使っても使わなくてもよい=2
、使う必要はまったくない=1 )
二
鼻 濁 音 ([IJ]) 鼻濁音・濁音 ([IJ][g]) 鼻濁音・鼻音が入る濁音([叫[‑g]) 濁 音 ([g]) 濁音鼻音が人る濁音([g][‑g]) 中 間 音 C[oJ)回答者数 点 回答者数 点* 回答者数 点 回答者数 点 回答者数 点 回答者数 点
4 3 2 l 合 計 平 均 4 3 2 1 合 計 平 均 4 3 2 1 合 計 平 均 4 3 2 1 合 計 平 均 4 3 2 1 合 計 平 均 4 3 2 1 合 計 平 均 語中・語尾 74 24 3 0 374 3.、70 17 4 2 0 87.5 3.65 4 1
゜゜
19 3.80 24 17゜
0 147 3.59 3 1゜゜
15 3.75 3 2 2゜
22 3.14助詞の「が」 85 18
゜
0 394 3.83 19 4゜
0 91. 5 3.81 4 1゜゜
19 3.I 80 32 8゜
1 153 3. 73 4゜゜゜
16 4.00 3 2 2゜
22 3. 14複合語 68 27 6 l 366 3.59 13 8 2 0 83.5 3.48 3 1
゜
1 16 3.20 21 16 3 0 138 3.45 3 1゜゜
15 3. 75 2 1 3 1 18 2.57 連濁 65 27 8 2 359 3.52 11 6 5 1 76.5 3.19 4 1゜ ゜
19 3.80 14 17 5 2 119 3.13 22 ゜゜
14 3.50 1 3 2 1 18 2.57 日本語化した外来語 36 24 24 18 282 2. 76 2 4 6 11 46.5 1. 94゜
3 1 l 12 2.40 ‑4 4 14 19 75 1. 83 1゜
2 1 9 2.25゜゜
3 3 9 1. 50熟語・人名の「五」 54 24 18 6 330 3.24 7 3 6 7 59.5 2.48
゜
3 1 1 12 2.40 9 13 7 12 101 2.46 2 1 1゜
13 3.25 1 l 4 1 16 2.29 合計人数 105人(NR2) 24人(NRl) 6人(NRl) 43人(NRl) 7人(NR3Y― 7人翫 汁
i H +
苺 唱 瀦
f
*4と3の中間に0をつけた回答者l名を含む
放送におけるガ行鼻濁音について
まる):無印
(0
も△もつけていない)回答者の数は以下のとおりであった。( 5 )
ガ行鼻濁音を使うべき箇所で使っていない発音を聞くと、そのことにすぐ気が付く1 0
年未満のアナウンンサー6 8 : 3 5 : 2 8
2 0
年以上3 0
年未満のアナウンサー3 2 : 4 : 3
(6) ガ行鼻濁音を使うべき箇所で使っていない放送を聞くと、「ガ行鼻濁音を使うべきなのに…」
と思い、マイナスに感じる
1 0
年未満のアナウンンサー4 5 : 3 4 : 5 2
2 0
年以上3 0
年未満のアナウンサー2 7 : 5 : 7
経験年数
1 0
年未満のアナウンサーの場合、ガ行鼻濁音を使っていない放送を聞いて、そのことに すぐ気がつくのは約半数( 5 1 .9%)
、マイナスに感じるのは約三分の一( 3 4 .3%)
であるが、2 0
年 以上3 0
年未満のアナウンサーの場合は、それぞれ8
割から7
割前後である( 8 2 . 1
%、6 9 .2%)
。こ の2
項 目 及 び(8)自分が指導者の立場にあるとしたら、ガ行鼻濁音を使っていないアナウンサーに ガ行鼻濁音を使うよう指導する、は経験年数が長くなるにつれて、0,
(自分の考えによくあてはま る)の人数の割合が増え、アナウンサーとしての経験を重ねる中で、規範意識が高まっていること がうかがえる。質問
2
については、有意差が見られなかったのは、1 0
年未満のアナウンサー対1 0
年以上2 0
年未満 のアナウンサー、および2 0
年以上3 0
年未満のアナウンサー対3 0
年以上のアナウンサーの組み合わせであり、経験年数20年を境に回答の傾向に違いが見られた。馬瀬・渡辺•
清水・中東( 1 9 9 9 )
では、3 5
歳でガ行鼻濁音の使用率に違いが見られることを報告しているが、今回おこなった調査では、3 5
歳のアナウンサーは経験年数1 0
年以上2 0
年未満のグループに入ると考えられる。アナウンサーの経 歴が長くなるにつれて、ガ行鼻濁音もよく使用するようになり、それに伴って意識も変化すると考 えるべきであろうか。 '質問
2
については、男性( 1 4 9
名)女性( 1 0 1
名)でも差が見られるため(X2 = 3 9 . 7 0
、d f = 2 3 、 p <
0 . 0 5 )
、各年代ごとの男女比が影響していることが考えられる。以下、ガ行鼻濁音を「絶対に使う べきだ」「できるだけ使うべきだ」「使っても使わなくてもよい」「使う必要はまったくない」の各 回答数を示す。(1)語中・語尾のガ行音
m 9 6 : 3 7 : 7 : 2 v s . f 6 3 : 28 : 3 : 0 ( 2 )
助詞の「が」m 1 0 9 : 2 9 : 3 : 2 v s .
f7 8 : 1 8 : 0 : 0 ( 3 )
結びつきの強い複合語のガ行音m 8 1 : 4 4 : 1 2 : 3 v s . f 5 5 : 2 9 : 9 : 2 ( 4 )
連濁によって生じたガ行音m 7 8 : 4 1 : ‑ 1 8 : 5 v s .
f45 : 34 : 1 2 : 2 ( 5 )
外国語・外来語の中でも日本語化した語m 3 5 : 3 6 : 3 8 : 3 2 v s . f 1 5 :
・1 1: 3 0 : 4 0 ( 6 )
熟語や人名に用いられた数詞の「五」m 6 2 : 3 6 : 3 2 : 1 2 v s . f 2 7 : 2 8 : 1 8 : 2 3
馬瀬・渡辺•清 水 ・ 中 東
( 1 9 9 9 )
では、女性アナウンサーの場合、3 5
歳未満ではガ行鼻濁音の使 用率が37.8%
であるのが3 5
歳以上では73.4%
ととなり、年齢による差がみられることが報告されて いる。今回の調査の女性回答者1 0 1
名のうち7 2
名は経験年数1 0
年未満、2 1
名 が1 0
年以上2 0
年未満で あり、3 5
歳未満が大多数を占めている。語中・語尾のガ行音や助詞の「が」については「使う必要 はまったくない」という回答者がゼロであるいっぽうで、外来語や熟語・人名の「五」については ガ行鼻濁音を使う必要はないと答えている回答者の比率が男性と比べて高くなっており、ガ行鼻濁‑55‑
轟 木 靖 子 河 野 葉 子
音を使うべき箇所について重点をおいている傾向がみられる。
5 . 3 . 3
成育地による違い今回調査をおこなったアナウンサー
2 5 0
名のうち、高校までの居住地が同じである回答者1 9 2
名に ついて、回答の傾向を分析した。質問 1のガ行鼻濁音についての考え方(表 4‑ 2) では、 (1)ガ行鼻濁音を使うべき箇所で使っ た発音は美しいと思う、の平均が、鼻濁音・直前に鼻音が入る濁音の混在地域と中間音の地域で
1 .
3 前後とやや低く、他の地域で1 .
8以上とやや差がみられる。 (6)ガ行鼻濁音を使うべき箇所で使って いない放送を聞くと、「ガ行鼻濁音を使うべきなのに…」と思い、マイナスに感じる、は、他の地 域に比べて鼻濁音の地域がやや高め( 1 . 3 2 )
で、とくに濁音・直前に鼻音が入る濁音の混在地域、中間音の地域
( 0 .7 1 )
との差が大きい。( 8 )
自分が指導者だったら、ガ行鼻濁音を使うように指導 する、はとくに鼻濁音の地域が高いわけではない。質問 2のガ行鼻濁音を使う箇所(表 5‑ 2) については、鼻濁音の地域で各項目とも全般的に点 数が高く、 (5)外国語・外来語の中でも日本語化した語以外は平均 3点以上である。 (5)は他の地域 でも他の項目に比べて点数が低かった。
( 5 )
以外で点数が低かったのは、中間音の地域における (3)結びつきの強い複合語のガ行音、 (4) 連濁によって生じたガ行音であった。以上の地域間の回答傾向の違いをみるため、カイ
2
乗検定をおこなった。質問
l
については、鼻濁音の地域と濁音の地域で有意差が見られた(X2 = 4 5 . 2 2 、 d f = 2 3 , p < O . 0 1 )
。 回答の数の差が比較的目立った項目は (2)(6) (8)であった。各項目の、0 ‑
(自分の考えによくあて はまる):△ ((自分の考えに少しあてはまる):無印 (0も△もどちらもつけなかった)の回答者 の数は、以下のとおりである。(2)ガ行鼻濁音は発音しにくい 鼻濁音の地域: 6 :
1 2 : 87
濁 音 の 地 域 :5 : 1 4 : 2 4
(6)ガ行鼻濁音を使うべき箇所で使っていない放送を聞くと、「ガ行鼻濁音を使うべきなのに…」
と思い、マイナスに感じる 鼻濁音の地域:
6 2 : 1 5 : 2 8
濁音の地域・:1 5 : 9 : 1 9
(8) 自分が指導者の立場にあるとしたら、ガ行鼻濁音を使っていないアナウンサーにガ行鼻濁音 を使うよう指導する
鼻濁音の地域:
59 : 8 : 38
濁 音 の 地 域 :35: 1 ・ : 7
濁音の地域出身者の、ガ行鼻濁音が発音しにくいと考えていない比率 (55.
8%)
は、鼻濁音の地 域出身者( 8 2 .9%)
より低く、また、ガ行鼻濁音を使っていない放送についてマイナスに感じると 回答している比率( 3 4 .9%)
は鼻濁音の地域出身者(59.0%)
ほど高くはないが、指導者の立場を 想定した場合は鼻濁音の地域出身者よりもむしろ濁音の地域出身者のほうがガ行鼻濁音の使用につ いて積極的であるように見える。質問
2
(表5‑ 2)については、鼻濁音の地域の地域は鼻濁音・濁音の混在地域(①)、濁音の地 域(②)、中間音の地域(③)の各地域との間で有意差が見られた。(① : X2 = 3 4 . 3 9 , d f = 2 0 , . p<
0 . 0 5
、② :x2=59.BO
、d f = 2 1
、p < 0 . 0 1
、③ :x2=87.18
、d f = 2 1 , p < O . 0 1 )
。先に述べたように、質問‑56‑
!
., I (
放送におけるガ行鼻濁音について
2
は鼻濁音の地域で各項目とも点数が高かったことが、他の地域の回答傾向との差を導いているよ うである。しかしながら、回答者の数の違いが大きいため、さらに詳しい検討が必要である。6
まとめ全国のアナウンサーの鼻濁音に関する意識を尋ねるアンケートをおこない、経験年数および成育 地の鼻濁音使用状況によってどのような違いがあるかを考察した。全般的に、アナウンサーの経験 年数が高くなれば規範意識も高くなり、また、成育地が鼻濁音地の域か濁音の地域かでは、「鼻濁 音を使っていない放送を聞いてマイナスに感じる」では鼻濁音地域出身者が「自分の考えによくあ てはまる」とした回答が多かったものの、「自分が指導者の立場の場合、鼻濁音を使っていないア ナウンサーに鼻濁音を使うよう指導する」については濁音の地域出身者のほうが「自分の考えによ くあてはまる」とした回答者の比率が高かった。大西・柴田
( 2 0 0 0 a , b )
で報告されているように、ガ行鼻濁音の発音は新人アナウンサーの研修に含まれている項目であり、濁音の地域で生まれ育っ てアナウンサーになった場合、鼻濁音は研修をとおして身につけることになり、その経験がこのよ うな回答結果の背景となったのかもしれない。
反省点としては、まず、成育地の分類を細かくしすぎた。鼻濁音、
i
蜀音、混在地域の3種類程度 にしたほうが、人数の差が大きくなりすぎず、よかったと思う。また、質問2は無回答のものが あった。実際の発音で鼻濁音になりにくいものであっても、「使うべきかどうか」ということでい えば、アナウンサーの立場では「鼻濁音を使うべき」とされている場合はすべて使うのが望ましい と考えると、この質問は答えにくかったのではないかと思われる。「日本語化した外来語」で、今回例にあげたヨーグルト、オルガンは、馬瀬・渡辺•
清水・中東( 1 9 9 9 )
、大西・柴田( 2 0 0 0 a )
の分析によれば、どちらかといえば鼻濁音になりにくい環境あるい は音価である。ペンギンのよぅな例を含めて示した場合、鼻濁音を使うべきと答える回答者が多少 増えたかもしれない。アナウンサーが、正しい日本語の発音で話すという場合、注意するべき項目は、ガ行鼻濁音だけ ではなく、アクセントや母音の無声化など、他にもある。いっぽうで、昨今のテレビやラジオでは、
話者が多様であり、ニュースを伝えている番組だからといってかならずしもアナウンサーが話して いるとはかぎらない。ガ行鼻濁音は全国的に使われなくなってきており、その傾向は放送において も認められるが、今回の調査では、アナウンサーの意識としては、外来語などを除けば、やはり鼻 濁音を使うべきであると考えていることがわかった。
謝辞
アンケートにご協力いただいたアナウンサーの方々に心より感謝いたします。
注
1. 一部抜粋している。
2. 鼻濁音と直前に鼻音が入る濁音及び濁音の混在地域 ([uJ [‑gJ [gJ)、
i
蜀音と中間音の混在地域 ([g] 叩)はそれぞれ人数が非常に少なかったたため、それぞれ鼻濁音・直前に鼻音が入る濁音の混在地域、濁音・直前に鼻音が入る濁音の混在地域に含めて集計した。また、徳川絹
( 1 9 7 9 )
では、直前に鼻音が入 る濁音は [‑g] [ug]の2
種類が示されているが、ここでは・[‑g]であらわした。‑57‑
轟 木 靖 子 河 野 葉 子
参考文献
井上史雄
( 1 9 9 8 )
『日本語ウォッチング』岩波書店NHK放送文化研究所編
( 1 9 9 8 )
『NHK日本語発音アクセント辞典 新版』日本放送出版協会大西勝也・ 柴田 実
( 2 0 0 0 a )
「アナウンサーの鼻濁音使用実態と音声分析ソフトによる判定について」『放送研 究と調査』50‑4, 3 0 ‑ 4 7 .
大西勝也・柴田 実
( 2 0 0 0 b )
「ガ行鼻音(鼻濁音)教育への試み〜新人アナウンサー研修から〜」『放送研究と 調査』5 0 一 1 1 , 4 2 ‑ 5 9 . . ・
加藤正信
( 1 9 8 3 )
「東京における年齢別音声調査」井上史雄編『〈新方言〉と〈言葉の乱れ〉に関する社会言語 学的研究一東京・首都圏・山形・北海道一』昭和5 7
年度科学研究費補助金(総合研究A)
研究成果報告書,7 1 ‑ 9 1 .
河野葉子
( 1 9 9 9 )
「放送音声におけるガ行鼻濁音について」平成1 0
年度香川大学教育学部卒業論文 国立国語研究所( 1 9 6 6 ' ‑ 1 9 7 4 )
『日本言語地図 第1
集〜第6
集』徳川宗賢編
( 1 9 7 9 )
『日本の方言地図』中央公論社永田高志
( 1 9 8 7 )
「東京におけるガ行鼻濁音の消失」『言語生活』N o 4 3 0 , 6 6 ‑ 7 2 .
日本放送協会編( 1 9 6 6 )
『日本語発音アクセント辞典』日本放送出版協会日本放送協会編
( 1 9 8 5 )
『日本語発音アクセント辞典』日本放送出版協会 日本放送協会編( 1 9 8 7 )
『NHK放送のことばハンドブック』日本放送出版協会馬瀬良雄
( 1 9 8 7 )
「山村留学生のことばー地元長中学生のことばに与えた影響を中心に」『言語生活』N o 4 2 9 , 40‑
5 0 .
V馬瀬良雄・渡辺喜代子・清水千寿子・中東靖恵