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ウマの腱組織における腫瘍壊死因子

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Academic year: 2021

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博 士 ( 獣医 学 ) 保 坂善 真

学 位 論 文 題 名

ウマの腱組織における腫瘍壊死因子(TNF) ぱの      機能に関する研究

   学位論文内容の要旨

  本研究 は、ウマ 腱細胞 を用いて 腱炎の 発症から 組織修 復に至る一連の過程での腫瘍壊 死因子(TNF)aの機能を詳細に検討したものである。

  浅指屈筋腱炎は、ウマの運動器障害のーつで、我が国の競走馬の1,100‑1,200頭が本障 害に罹 患してい る。本 障害は発 症する と完治が 困難であ る上に炎症経過後に生ずる瘢痕 が腱組 織を脆弱化させ、トレーニング再開の際に腱炎を再発させる要因ともなっている。

TNFaは 、結 合 組 織疾 患 に おいて組 織変性 、アポト ーシス や細胞増 殖など の病態進 行に 深 く関 わ っ てい る が 、腱 炎発 生から 瘢痕形成 に至る一 連の治 癒過程で のTNFaに関 する 情 報不 足 は 、効 果 的 な予 防お よび治 療法の確 立を妨げ ている 。腱にお けるTNFaの 機能 解明す ることは 、腱組 織の動態 、特に 炎症によ る組織変 性の進行を理解し、腱炎の進行 をくい 止め、早 期治療 を行う上 で有効 な手段を 提供する 。本論文では、ウマ腱細胞を用 い 炎症 性 サ イト カ イ ンの ーつ であるTNFaに焦点を 当て、 以下の総 合的研 究を行っ た。

  すなわ ち、第1章で はウマの 浅指屈 筋腱にお ける正常 腱、炎 症腱およ び瘢痕 形成腱を 観 察し 、TNFaの 発現 とTNF‑R1を 介 す る細 胞 内 シ グナ ル 伝 達因 子 の 分布 を 明 らか にし た 。第2章 では 、 ウ マ損 傷 腱 組織 で ア ポト ー シ スがTNF‑RIを介する 機構に よって誘 導 さ れて い る こと を 解 明し た 。 さら に 、 第3章 で は培 養 ウマ腱 細胞を用 いTNFa添加 によ る腱細胞の応答性を明らかにした。

第1章 ウ マ の 正 常 腱 、 炎 症腱 お よ び瘢 痕 形 成 腱組 織 に おけ る 腫 瘍壌 死 因 子(TNF)aと TNF‑receptorl(TNF‑R1)の発現

  炎 症性サイ トカイ ンの発現 と動態 を、ウマ 浅指屈筋 正常腱、炎症腱そして瘢痕形成腱 で 比 較 した 。 さ らに 、TNFaの 発現とTNF‑R1を介す る細胞内 シグナル 伝達因 子の分布 を 明 ら か にし た 。TNFaを含 む4種類 の 炎 症性 サ イ ト カイ ンを免 疫組織化 学的に 検索した と ころ、い ずれの 炎症性サ イトカイ ンも正 常腱では 検出さ れなかったのに対し、炎症腱 で は4種 類すべて のサイ トカイン に対し て高い割 合で腱 細胞が陽 性を示し た。次 に生存 と ア ポ トー シ ス とい う 全 く相 反 す る作 用 を 細胞 に 誘 導するTNFaに注目 しTNF‑R1、TNF receptor‑associated factor‑2 (IRAF‑2)ヽcaspase‑3の動態を形態学的、生化学的に検索した。

そ の 結 果、 ウ マ の浅 指 屈 筋正常腱 、炎症 腱および 瘢痕形 成腱のい ずれもlrNFa mRNAお

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よびタン パク質の持続的な発現を認めた一方で、TNF‑R1、IRAF‑2および.caspase‑3は炎 症 腱で のみ 強い 発現を示した。これらは正常および瘢痕形成腱ではきわ めて微弱であっ た。さら に、活性型caspase‑3は炎症 腱でのみ検出された。本研究によルウマ腱細胞にも TNFaに よ るTNF‑R1を 介 し た シ グ ナ ル 伝 達 経 路 の 存 在 す る こ と が 明 ら か と な っ た 。

第2章ウマ 腱炎における細胞死関連因子の発現

  炎 症腱 組織 中に お ける アポ トー シス の有 無を 検索 し、 その メカ ニズ ムを 考察した。

TUNEL法 、caspase‑3、ssDNA免 疫染 色に よっ て、 正常 腱で はア ポ トー シス 細胞 が検 出 されなかったのに対し、炎症腱では多数の陽性細胞が認められた。さらに活性型caspase‑3 が炎 症腱 のみ から 検 出さ れた こと より 、腱 細胞 のアポトーシスがcaspase依存性経路を 介することが示された。

  本 結果 より 、炎 症 時のウマ腱細胞に、アポトーシスの出現す ることが示された。腱細 胞の アポ トー シス 亢 進は、腱細胞数の大幅な減少をもたらし、 腱組織におけるコラーゲ ンの 合成 能と 分解 能 の低下に関連することから、腱の機能的破 綻を意味する。炎症時に おけ る腱 細胞 のア ポ トーシス亢進は、腱組織の脆弱化、腱炎の 再発、治癒遅延の危険因 子と考えられた。

第3章培養ウマ腱細胞におけるTNFaの意義  .

  TNFa刺 激 とTNF受 容 体 お よ び 細 胞 内 シ グ ナ ル 伝 達 因 子 と の 関 連 性 を 明 らか にす る た め 、5種 類 の シ グ ナ ル 伝 達 因 子 、 す な わ ち 、TNF‑R1、TNF‑R2、IRAF‑2、NF‑KBそ し てcaspase‑3に注目し、これら因子の培養腱細胞における動態を検索した。その結果、TNFa の 腱細 胞に 対す る生 物活性は濃度依存性であることが明らかとなっ た。すなわち、TNFa の 添加 量が 中濃 度で は細胞数の増加傾向を、高濃度では細胞数の減 少傾向を、低濃度で は 細 胞 数 の 維 持 傾向 を示 した 。TNF受容 体の 存在 は培 養液 中のTNFa存在 の 有無 によ っ て 大 き く 変 化 し た。 成長 培地 にTNFaを10 ng/ml添 加し たTNFa処 理細 胞(Tt細胞 )は 、 抗TNF‑R1抗 体に 対し て免 疫染 色で 強い 陽性 反応 を示 した が 、正 常細 胞に おける反応は 明 ら か にTt細 胞 よ り 弱 か っ た 。 一 方 、 抗TNF‑R2抗体 に対 して は正 常細 胞 もTt細胞 も 強 い 陽 性 反 応 を 示 し た 。 正 常 細 胞 に お け る2種類 のTNF受 容体 の分 布を 比 較す ると 、 TNF‑R2がRlよ り 広 範 囲 で あ っ た 。 さ ら に 、IRAF2、NF‑KBお よ びcaspase‑3もTt細 胞 で は正 常細 胞と 比較 して強い反応が現れるようになった。以上のこ とより、培養腱細胞 の 増 殖 性 はTNFaの 濃 度 に 依 存 す る こ と 、 そ して それ はTNF‑R2からTNF‑R1へのIigand passingに 起因 する こと 、さ ら にTNF‑R1、TNF‑R2、IRAF‑2、NF‑KBおよびcaspase‑3は、

腱細胞の動態を反映すること が明らかとなった。

  本 研 究に より 、TNFaに 対す る腱 細胞 の細 胞 応答 の詳 細が 明ら かと なり 、TNF受容 体 を 介し た細 胞内シグナル伝達機構を明らかにすることができた。腱 細胞の細胞動態に関 す る知 見と 本研 究に よっ て明 らか にし たウマ腱細胞におけるTNF受 容体を介した細胞内 シ グナ ル伝 達機構の特性を応用することで、腱炎の発症予防と治癒 促進が可能であると 考 えら れた 。

    ‑ 191−

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

ウマの腱 組織にお ける腫瘍 壊死因子(TNF) ぱの      機能 に関する 研究

  本 研究 はウ マの 腱組 織を 用い て、 腱炎 の 発症から組織修 復に至る一連の過程での腫瘍壊 死因 子( rNF)aの 機能 を検 討し たも ので ある 。

  第1章 で は 、 炎 症 性 サ イ ト カ イ ン の 発 現 と 動 態 を 、 ウ マ 浅 指 屈 筋 正 常 腱 、 炎 症 腱 な ら び に 瘢 痕 形 成 腱 で 比 較 し た 。4種 類 の 炎 症 性 サ イ ト カ イ ン を 免 疫 組 織 化 学 的 に 検 索 し た と こ ろ 、 い ず れ の 炎 症 性 サ イ ト カ イ ン も 正 常 腱 で は 検 出 さ れ な か っ た の に 対 し 、 炎 症 腱 で は す ぺ て の サ イ ト カ イ ン に 対 し て 高 い 割 合 で 腱 細胞 が 陽 性 を示 し た 。 次に 、TNFa、TNF‑receptor l (TNF‑RI)ヽ.rNF receptor‑associated factoI.‐2(1R簡‐2)ヽca叩a鴕‐3の動態を形態学的、生化学 的 に 検 索 し た 結 果 、 正 常 腱 、 炎 症 腱 お よ び 瘢痕 形 成 腱 のぃ ゝ ず れ もTNFaの持 続 的 な 発現 を 認 め た 。 一 方 、1NF.Rl、 弧AF2お よ びcaSp慾e−3は炎 症 腱 で のみ 強 い 発 現を 示 し た 。さ ら に 、 活 性 型ca叩a闘 .3は 炎 症 腱 で の み 検 出 さ れ た 。 本 研 究 に よ ル ウ マ 腱 細 胞 に もTNFaに よ る 1NF‐Rlを介したシグナル伝達経路の存在することが明らかとなった。

  第2章で は、 ウマ 炎症 腱組 織に おけ るア ポト ー シス の有 無を 検索 し、 その発現機構を検 討し た。 その 結果 、炎症腱細胞で のアポトーシスはcaspase依 存性に誘導されることが明ら かと なっ た。 また 、 腱細 胞の アポ トー シス 亢進がコラーゲン 合成能・分解能を低下させ腱 機能 を破 綻さ せて い るこ とか ら、 アポ トー シスは腱炎の再発 ・治癒遅延の危険因子である 可能 性が 示さ れた 。

  第3章 で は 、 ウ マ 培 養 腱 細 胞 を 用 いTNFa刺 激 と シ グ ナ ル 伝 達因 子[TNF‑R1、TNFーR2、 TRAF2、nuclear factor (NF)‑KB、caspase‑3]との関連を検討した。その結果、腱細胞に対する TNFaの 生物 活性 は濃 度 依存 性で ある こと が明 らか とな った 。す なわち、TNFaの添加量 が中 濃 度で は細 胞数の増加傾向を、 高濃度ではその減少傾向を、低濃度ではその維持傾向を 示し た 。TNF受 容 体 発 現 は 培 養 液 中 のTNFa量 に よ っ て 大 き く 変 化 した 。す なわ ち、TNFa感作 細 胞(Tt細胞 )は 、TNF‑R1を強 く発 現し たが、正常細胞のそれは弱かった。ー方、TNF‑R2は 正 常 細 胞 もTt細 胞 も 強 い 発 現 を 示し た。 正常 細胞 に おけ る2種類 のTNF受容 体の 細胞 内分 布 を 比較 する とTNF‑R2がRlよ り広 範囲 であ った 。さ らに 、IRAF2、NF‑KBお よびcaspase‑3

寛 典

司 裕

泰 幹

孝 正

   

   

原 村

昆 桑

梅 奥

授 授

授 授

   

   

教 教

教 助

査 査

査 査

主 副

副 副

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もTt細胞では正常細胞に比較して強く発現していた。以上のことより、培養腱細胞の増殖 性はTNFaの濃度に依存すること、それはTNF‑R2からTNF‑R1へのligand passingに起因す ること、さらにTNF‑R1、TNF‑R2、'IRAF2、NF‑KBおよびcaspase‑3は、腱細胞の動態を反 映することが明らかとなった。

  本研究は、ウマ腱細胞とTNFaとの直接の相関関係を明らかにしたものであり、TNFaのコ ントロールが腱炎治療においてきわめて重要であることを提示した優れた研究内容であると 評価できる。よって、審査員一同は、上記学位論文提出者保坂善真氏が博士(獣医学)の学 位を授与されるに十分な資格を有するものと認めた。

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参照

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