マウス autoimmune regulator( aire )タンパク質の 局在に関する組織学的解析
増 田 淳 大1、三 谷 匡2、加 藤 博 己2、松 本 和 也1 , 2、 佐 伯 和 弘1 , 2、細 井 美 彦1 , 2、入 谷 明1 , 2
要 約
近年、多腺性自己免疫性内分泌不全症Ⅰ型(APECED)の原因遺伝子
aire
のノックアウトマウス解析に おいて、卵胞が欠損することが報告された。このことから、生殖巣において AIRE が何らかの働きをして いる可能性が考えられる。しかしながら、AIRE の発現は非常に微量であり、胸腺や脾臓以外の発現部位に 関する報告は一致していない。そこで、本研究では、免疫蛍光抗体染色により、生殖巣及び胸腺における AIRE 発現及びその局在を組織学的に検討した。その結果、生後1週齢のマウス胸腺及び生後8週齢のマウ ス卵胞から AIRE タンパク質が検出された。これらの組織においては、AIRE タンパク質が細胞核内で Nuclear dots(核内において形成される点状構造)を形成していることが確認され、マウス卵巣において AIRE が何らかの働きをしていることが示唆された。なお、マウス胚盤胞期胚の内部細胞塊において AIRE 発現がみられたという報告があることから、ES 細胞における AIRE 発現の有無についても検討したところ、AIRE タンパクが検出され、細胞核内において形成される Nuclear dots も観察された。このことから、ES 細胞においても AIRE が何らかの機能を果たしている可能性があると考えられる。
1.緒 言
多腺性自己免疫性内分泌不全症Ⅰ型(APECED : Autoimmune polyendocrinopathy candidiasis ectodermal dystrophy)と呼ばれる自己免疫疾患の原因遺伝子
aire
は、1997 年にポジショナルクローニングにより同 定され、自己免疫調節遺伝子aire(Autoimmune regulater)と名づけられた。APECED は自己免疫性甲状
腺疾患、皮膚粘膜カンジダ症、特発性副腎機能低下症(Addison 病)、特発性甲状腺機能低下症、インスリ ン依存性糖尿病(IDDM)、性腺機能低下症、内分泌腺の自己免疫疾患などを特徴とする常染色体劣性の遺 伝形式を示す単一遺伝子疾患である( 1 )。aire
遺伝子は 14 エキソンからなる約 12 kb の比較的小さい遺伝子であり、545 アミノ酸残基からなる 分子量 58 kDa のタンパク質をコードしている。AIRE タンパク質は2つの PHD 型 Zn フィンガードメイン、HSR(homogeneously staining reagion)あるいは ASS ドメイン、核移行シグナル、DNA 結合ドメインと 推定されている SAND ドメイン、プロリンリッチ領域、4 つの LXXLL モチーフ(核レセプター結合モチー フ)などを有しており、その構造上の特徴から転写因子として働くと考えられている。また、AIRE タンパ ク質は核内に局在していることが既に報告されており、このことからも転写因子として働くことが示唆さ
れている( 1 )。さらに、核内で PML ボディー様の Nuclear dots 構造(図1)をとることも知られている( 2 )。
Nuclear dots とは、タンパク質(タンパク質複合体)が核内全体に散在することによって構成されるタン パク質の点である。この Nuclear dots の形成には HRS ドメインが関与していると考えられており、同様 に Nuclear dots を 構 成 し て い る Sp100 に お い て は、HSR ド メ イ ン が Sp100 ホ モ ダ イ マ ー の 形 成 と Nuclear dots への局在に必要であることが報告されている。
1. 近畿大学大学院生物理工学研究科 〒649-6493 和歌山県紀の川市西三谷 930 2.近畿大学先端技術総合研究所 〒642-0017 和歌山県海南市南赤坂 14-1
AIRE は主に胸腺の髄質上皮細胞や一部の単球系樹状細胞で発現し、自己反応性T細胞クローンの除去
(未熟T細胞クローンの成熟過程におけるネガティブセレクション)に関与していると考えられる( 3 ‑ 4 )。 しかしながら、精巣( 5 ‑ 7 )、卵巣( 5 , 6 , 8 )、脾臓( 5 ‑ 9 )、リンパ節( 5 ‑ 9 )、肺( 5 , 6 )、脳( 5 )、胎仔肝臓(5 , 9)、
小腸( 5 )など様々な組織においても
aire
発現が、RT-PCR やin situ
ハイブリダイゼーションなどにより、mRNA レベルで確認されている。さらに、aireノックアウトマウス解析において、卵胞が欠損することも 報告されている(10)。したがって、免疫系以外に、生殖巣においても AIRE は何らかの機能を果たしている 可能性がある。しかし、AIRE の発現は、最も強く発現している胸腺においてでさえ非常に微量であり、そ の上、胸腺や脾臓以外の発現部位に関する報告は一致していない( 1 )。そこで本研究では、免疫蛍光抗体 染色により、マウス生殖巣における AIRE の発現及び局在を組織学的に検討した。また、aireプロモーター を用いて
lacZ
を発現させ、マウス胚における時期特異的 AIRE 発現を解析したところ、マウス胚盤胞期胚 の内部細胞塊において AIRE が発現することが示唆されたという報告があることから、マウス胚由来の ES 細胞においても AIRE 発現が見られるのではないかと考え、その検出を試みた。2.材料と方法
・マウス組織凍結ブロックの作製
生後1週齢の C57BL / 6J 系統マウス、生後8週齢の ICR 系統マウス、生後 36 週齢の ICR 系統マウスよ り生殖巣、胸腺を摘出した。摘出した組織は PBS で洗浄した後、OCT コンパウンド(SAKURA)に包埋し、
液体窒素を用いて急速に凍結した。
・マウス組織切片スライドの作製
作製した凍結ブロックはミクロトーム(LEICA CM1800:Leica)を用いて 8μm の厚さにスライスし、
切り出した組織切片は APS コート付スライドグラス(MATSUNAMI)に貼り付けた。なお、作製した組織 切片スライドは風乾処理せず、すぐに染色(前処理)に用いた。
・ES 細胞の調整
本研究では、dish(60φ×15mm dish)で培養した 129 Sv 系マウス由来 ES 細胞(CMTI-1A 株:大日本 図1 Nuclear dots の模式図及び免疫蛍光抗体染色像
Nuclear dots の模式図を左側に、免疫蛍光抗体染色像を右側に示した。模式図において、
細胞核を青色、Nuclear dots を緑色で示した。免疫蛍光抗体染色像は、実際に成体マウス 胸腺において染色を行い、撮影したものである。
住友製薬)を用いた。まず、培養した ES 細胞を PBS で洗浄した後、0.25% トリプシン / EDTA 処理により dish から剥離した後、ゼラチンコートした新しい dish に播種し、37℃で約 50 分間培養した(この培養に より、Feeder 細胞は dish 底面に接着し、ES 細胞は培養液中に浮遊した状態となる)。次に、dish 内の ES 細胞浮遊液を回収、遠沈(1000 rpm、5 分間)した後、PBS で懸濁した(ES 細胞の洗浄)。ES 細胞の洗浄 を2回行った後、PBS で 0.5 ×106〜 1.0 ×106cells/100μl になるように ES 細胞液を調整した。
・ES 細胞スライドの作製
サ イ ト ス ピ ン(CYTOSPIN4:Thermo Shandon) に 専 用 ス ラ イ ド グ ラ ス を セ ッ ト し、ES 細 胞 液 を 100μl / slide 加えた。次に、遠沈(1000 rpm、5 分間)し、ES 細胞をスライドグラスに貼り付けた。ES 細胞スライドは 60 分間自然乾燥させた後、染色(前処理)に用いた。
・染色の前処理
まず、マウス組織切片スライド、ES 細胞スライドをそれぞれアセトンにより ‑ 20℃で5分間固定した。
次に、0.1%Triton X ‑100 / PBS によりサンプルスライドを3回洗浄した後、1 %Triton X ‑100 / PBS により 細胞膜透過処理を室温で 10 分間行った。0.1%Triton X ‑100 / PBS によりサンプルスライドを2回洗浄し た後、5 %スキムミルク/ 2 % ロバ血清 / 0.1%Triton X ‑100 / PBS を用いて、室温で 60 分間ブロッキング 処理を行った。ブロッキング処理後、スライドを 0.1%Triton X ‑100 / PBS で洗浄し、免疫蛍光抗体染色に 用いた。
・免疫蛍光抗体染色
一次抗体反応:スライド上のサンプルに 5 %スキムミルク/ 2 % ロバ血清 / 0.1%Triton X ‑100 / PBS で 100 倍希釈したヤギ IgG 抗マウス AIRE ポリクローナル抗体(Santa Cruz)を 100μl/sample 加え、4 ℃で 一晩反応させた。反応後、0.1%Triton X ‑100 / PBS で4回洗浄し、余分な抗体液を除去した。
二次抗体反応:10 % ロバ血清 / 0.1%Triton X ‑100 / PBS で 300 倍希釈したロバ抗ヤギ IgG ‑ FITC 標識抗 体(Santa Cruz)を 100μl / sample 加え、室温で 45 分間反応させた。反応後、0.1%Triton X ‑100 / PBS で 6 回 洗 浄 し た 後、VECTASHIELD with DAPI(Vector Laboratories) で 封 入 し、 蛍 光 顕 微 鏡(LEICA DMRXA : Leica)でサンプルを観察した。
3.結 果
マウスの胸腺、精巣、卵巣、そしてマウス ES 細胞を用いて、免疫蛍光抗体染色により AIRE の検出を試 みた。染色では、AIRE 陽性反応を検出するために FITC(緑色)で標識した二次抗体を使用した。また、
サンプルの全体像を把握するために DAPI(青色)により細胞核を染色した。AIRE は細胞核内で発現して いるため、FITC の蛍光反応が AIRE 特異的なものかどうか判断する手段として、FITC 蛍光と DAPI 蛍光が 重なっているかどうかを確認した。なお、一次抗体(ヤギ IgG 抗マウス AIRE ポリクローナル抗体)をサ ンプルに添加しない実験区を設け、これをネガティブコントロールとした。また、すでに AIRE が確実に 発現することが報告されている胸腺をポジティブコントロール区として用いた。
生後1週齢マウス胸腺においては、AIRE 特異的な陽性反応が検出された。なお、AIRE 陽性反応は非常 に微弱であり、陽性反応を検出するために蛍光顕微鏡の検出感度を高くする必要があった(図2:a )。
一方、生後 36 週齢マウス胸腺では、AIRE 陽性細胞は観察されなかった(図2:d )。
生後8週齢マウス卵巣においては AIRE 陽性細胞が検出された(図2:g )。DAPI の蛍光反応と比較した
結果、AIRE 陽性細胞は卵胞に存在していると考えられる。成熟している大きな卵胞では、ごくわずかな数 の AIRE 陽性細胞しか検出されなかったが、未成熟な小さい卵胞では比較的多数の AIRE 陽性細胞が検出さ れた。一方、生後8週齢マウス精巣においては AIRE 陽性細胞は検出されなかった(図2:j )。なお、胸腺 と同様に卵巣においても、陽性反応を検出するために蛍光顕微鏡の検出感度を高くする必要があった。
図2 マウス組織における免疫蛍光抗体染色像
生後1週齢マウス胸腺、生後 36 週齢マウス胸腺、マウス卵巣、マウス精巣において、免疫蛍光 抗体染色により AIRE の検出を試みた。図2は最上段から順に生後1週齢マウス胸腺( a ‑ c )、生 後 36 週齢マウス胸腺( d ‑ f )、マウス卵巣( g ‑ i )、マウス精巣( j ‑ l )の染色像を示している。
また、各マウス組織ごとに、左列から順に AIRE 検出像( a , d , g , j )、AIRE 陽性反応と DAPI 蛍光 を組み合わせた染色像( b , e , h , k )、DAPI 蛍光のみの染色像( c , f , i , l )をそれぞれ示した。
生後1週齢マウス胸腺及びマウス卵巣においては AIRE 陽性細胞が検出された(矢印)が、生後 36 週齢マウス胸腺、マウス精巣からは検出されなかった。(スケールバー : 200μm)
ES 細胞においても AIRE 陽性細胞は検出された。すべての ES 細胞が AIRE を発現しているわけではない ようだが、多くの ES 細胞が AIRE 陽性反応を示した(図3:g )。
AIRE 陽性細胞が検出された各サンプル(生後1週齢マウス胸腺、生後8週齢マウス卵巣、ES 細胞)を、
蛍光顕微鏡により 1000 倍率で観察したところ、AIRE 陽性反応を示す FITC 蛍光と細胞核を示す DAPI 蛍 光が重なっており、AIRE が細胞核内で発現している様子が確認できた(図3)。また、すべてのサンプル から AIRE の局在形態である Nuclear dots が確認された(図3: j l )。
図3 AIRE 陽性サンプルの免疫蛍光抗体染色像
最上段から順に生後1週齢マウス胸腺( a ‑ c )、マウス卵巣( d ‑ f )、マウス ES 細胞( g ‑ i )の 染色像をそれぞれ示している。また、各サンプルにおける AIRE 陽性細胞核中で Nuclear dots が 検出されていることを示すために、各サンプルの AIRE 陽性像内の白い四角で囲った部分を拡大し、
最下段に載せた( j:生後 1 週齢マウス胸腺サンプル( a )の拡大像、 k:マウス卵巣サンプル( d ) の拡大像、 l:マウス ES 細胞サンプル( g )の拡大像)。(スケールバー : 20μm)
4.考 察
本研究において行った免疫蛍光抗体染色により、生後1週齢マウス胸腺から AIRE が検出された。一方、
生後 36 週齢マウス胸腺からは AIRE は検出されなかった。AIRE が最も強く発現している組織であるにも かかわらず、生後 36 週齢マウス胸腺から結果的に AIRE が検出されなかったことから、AIRE が胸腺にお いて時期特異的な発現をしていることが示唆された。また、AIRE の発現が胸腺の発達・退縮に対応してい る可能性も考えられる。マウス胸腺は生後 4 〜 6 週齢で最も発達し、その後は週齢が進むにつれて徐々に 退縮していく。胸腺は未熟T細胞の教育をする免疫系組織であるが、その働きは退縮とともに低下してい くと思われる。AIRE は未成熟T細胞のネガティブセレクションに関与していると考えられており(3 ‑ 4)、 胸腺の退縮に伴って AIRE の発現も低下していく可能性はある。つまり、生後 36 週齢マウス胸腺は退縮が 進行していたため、AIRE 発現も検出限界以下であったと思われる。
生後8週齢マウス卵巣においても、卵胞部位で AIRE 陽性細胞が検出された。成熟している大きな卵胞 では、ごく少数の AIRE 陽性細胞しか検出されなかったが、小さい未成熟卵胞では AIRE 陽性細胞は比較的 多かった。AIRE ノックアウトマウス解析では、卵胞が欠損することが報告されている(10)が、そのこと から、AIRE が初期の卵胞(未成熟卵胞)または卵胞形成の段階において何らかの働きをしている可能性あ る。マウス ES 細胞においても AIRE の発現が検出された。このことから、ES 細胞において AIRE が何らか の機能を果たしている可能性が考えられる。AIRE はマウス胚盤胞期胚の内部細胞塊において発現するとい う報告があるが、aireノックアウトマウスが作製可能であることから、AIRE が胚発生において重要な役割 を果たしているかどうかは疑問である。今後、aireをダブルノックアウトした ES 細胞を解析することによ り、ES 細胞における AIRE の働きを解明する手がかりが得られると思われる。なお、AIRE はもともと末梢 組織でしか発現しない組織特異的遺伝子群を胸腺で異所的に発現させる機能を有しており、その機能によ り自己抗原に対する免疫寛容を確立させる役割を担っているという報告(11)があることから、卵巣や ES 細胞においても膜タンパク質のように細胞表面抗原になりうるようなタンパク質の発現に関与しているか もしれない。
5.謝 辞
本研究の一部は、文部科学省 21 世紀 COE プログラム「食資源動物分子工学研究拠点」および日本学術 振興会科学研究費補助金(15580251)の助成により行われた。
参 考 文 献
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英 文 要 旨
Localization of the autoimmune regulator(aire)protein in the gonads and embryonic stem cells in mice.
A Masuda 1 , T Mitani 2 , H Kato 2 , K Matsumoto 1 , 2 , K Saeki 1 , 2 , Y Hosoi 1 , 2 , A Iritani 1 , 2
Autoimmune polyendocrinopathy-candidiasis-ectodermal dystrophy(APECED)is a monogenic autoso- mal recessive disease caused by mutations in the aire gene. Because it was reported that aire deficient mice lacked ovarian follicles, aire gene may have crucial function in the ovary. However, the expression level of aire is very low and the tissues which express aire are restricted. To date, therefore, the expression profile of the aire gene is discordant except thymus and spleen. In this study, we investigated localization of AIRE protein in the thymuses from adult and newborn mice, ovary, testis and embryonic stem cells(ES cells)using immunohistochemistry. In the adult thymus and testis, AIRE protein was not detected, while it was observed in the newborn thymus, ovary and ES cells. In these organs, it was confirmed that AIRE protein located in nuclei with punctate pattern termed nuclear dots. These results suggest that AIRE pro- tein has certain function in the ovary and / or ES cells in mice.
1. Division of Biological Science, Graduate School of Biology-Oriented Science and Technology, Kinki University.
2. Institute of Advanced Technology, Kinki University.