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偶然・曖昧のマネジメント : 中小企業43社の事例にみる、「番頭型マネジャー」と「PDCAサイクル」によるマネジメントの考察

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(1)

偶然・曖昧のマネジメント : 中小企業43社の事例

にみる、「番頭型マネジャー」と「PDCAサイクル」

によるマネジメントの考察

著者

楢崎 賢吾

内容記述

学位記番号:論経第77号, 指導教員:山本 浩二

URL

http://doi.org/10.24729/00000831

(2)

大阪府立大学

博士学位論文

偶然・曖昧のマネジメント

中小企業 43 社の事例にみる、「番頭型マネジャー」と

PDCA サイクル」によるマネジメントの考察 ―

大阪府立大学大学院 経済学研究科

博士後期課程 経済学専攻

楢 崎 賢 吾

― 2016年3月 ―

(3)

― 目 次 ―

序 章 研究の意義

1

1.研究の背景と動機 1 2.研究の方法、フレームワーク等 2 3.研究の意義等 6

第1章 経営者の存在感

10

1.現場から見えてくる疑問 10 2.経営者の存在感の整理 14 3.問題提起と提唱事項 33

第2章 マネジメントをめぐる議論のレビュー

36

1.中小企業の現場の「マネジメント感」 36 2.さまざまなマネジメントの捉え方 36 3.先行研究からのインプリケーション 56

第3章 「マネジメント」と「マネジメントに似て非なるもの」

の考察

59

1.中小企業のマネジメントについての考察 59 2.「意思決定」と「統制」「影響」 66 2-1.意思決定 66 2-2.統制と影響 74 3.「マネジメント」と「マネジメントに似て非なるもの」の考察 81

第4章 番頭型マネジャー(現代版番頭)

91

1.番頭型マネジャーの存在 92 2.「マネジャー像」の考察 93 2-1.ドラッカーとマグレガー 93 2-2.ミンツバーグ 95

(4)

2-3.「マネジャー像」について 98 3.「番頭」の歴史的な流れ 99 3-1.時代ごとの番頭の姿 99 3-2.歴史的な観点からの考察 103 4.「番頭」とは 104 4-1.歴史から見た番頭 104 4-2.日本型補佐役とは 106 4-3.補佐役のタイプと実務 107 5.組織体制と番頭型マネジャーとの関係 110 6.中小企業の事例で見る「番頭型マネジャー」 115 6-1.事例Ⅰ:大番頭モデル 116 6-2.事例Ⅱ:小番頭モデル 118 6-3.事例の整理 120 7.「現代版番頭」についての議論 123 7-1.「現代版番頭」の正体 123 7-2.さまざまな角度からの検討 127 7-3.中小企業に生きる「現代版番頭」の考察 129

第5章

PDCA サイクル

134

1.「PDCA サイクル」とは 134 2.「PDCA サイクル」の課題 138 3.中小企業の現場での PDCA サイクル 141 4.中小企業における PDCA サイクルの考察 145 5.中小企業における会議について 147 6.2大ツールとマネジメントの関係 152

第6章 中小企業

43 社の事例

154

1.本章の位置付け 154 2.事例の項目 155

(5)

第7章 事例分析からの考察

169

1.本章の位置付け 169 2.項目ごとの分析 169

結 章 研究の成果と限界

198

1.中小企業における経営者の存在感 198 2.中小企業におけるマネジメントの捉え方 200 3.マネジメントの2大ツール 203 4.中小企業のマネジメントと業績との関係 205 5.中小企業のマネジメント体制と課題 208 6.中小企業のマネジメント体系 211 7.マネジメントの分類と体系化の意義 213 8.研究の限界と残された課題 213 9.これからの研究の方向性 214 10.最後に:中小企業の経営者への提言 215

■資料「事例

43 社のマネジメントの実態一覧」

217

■引用・参考文献

218

(6)

序章 研究の意義

本章では、研究の背景と動機、また研究方法やフレームワークなどを明らか にするとともに、研究の意義について述べる。

1.研究の背景と動機

経済のグローバル化やそれに伴う産業構造の変化、断続的に訪れる不況の波 など、厳しく、かつ、目まぐるしく変化する経営環境が続く中、息切れし、喘 いでいる中小企業1の姿が目立つ。厳しいだけでなく、そこにはチャンスもある はずであるが、そのチャンスを捉えきれず、またせっかく捉えても活かせず、 あるいはチャンスがあることすら気付かず、身動きできない中小企業の現実が そこにある。縮こまってしまい、元気のない中小企業が多く存在することは、 我が国のこれからにとって、たいへん憂うべきことである。 ただ、中小企業が縮こまって、身動きできないのは、外部環境の影響だけで はない。外部環境はともかく、中小企業が縮こまって、身動きできないという のは、その経営者が何もできていないということである。すなわち、経営者が 何も手を打たず、あるいは手を打てず、厳しい現実に対して、自ら積極的に動 こうとしないところに大きな問題がある。もし、経営者が積極的に動いて、多 様な手を打ったにもかかわらず、その中小企業が縮こまって、身動きできなく なっているのであれば、それは手の打ち方、すなわち、やり方に問題があると いうことになる。要は、「経営者が動かないか」「やり方が下手なのか」のどち らかなのである。「経営者次第」「やり方次第」と言えるで あろう。 筆者は現場のコンサルタントとして長年にわたって多くの中小企業に関与し てきたが、その中から得られたいくつかの経験則がある。前述のように、それ は、大きく「経営者次第」と「やり方次第」というキーワードで表される。 まず 1 点目の「経営者次第」についてであるが、これは、中小企業の業績は 経営者で決まるということである。ただそれは、特定のタイプの経営者しか業 績を上げられないというようなことではなく、それぞれのタイプに合ったマネ 1 本研究において、「中小企業」とは、中小企業基本法に規定されている定義による。

(7)

ジメントができているかどうかがポイントになる。 続いて、そのマネジメントについてであるが、これが「やり方次第」という 2 点目のテーマになる。中小企業を見ていくと、同じような規模、経営資源に 関わらず、上手く利益を上げている企業とそうでない企業がある。それは「や り方」の問題である。「しっかり」と考えて、「きっちり」と管理を徹底するこ とによって利益を上げている企業がある一方、「ちゃっかり」と動いて、「ざっ くり」と適当にやっているにも関わらず利益を上げている企業もある。前者を いわゆる「マネジメント」とすると、後者は何であろうか。マネジメントだけ ではなく、「マネジメントに似て非なるもの」があり、それらが業績に大きく影 響を与えているのである。 中小企業の現場では、マネジメントという言葉がよく使われるが、人によっ て違ったニュアンスで使われているように思われる。マネジメントとは一体何 であろうか。ドラッカーのマネジメントは「経営のすべて」である。確かに「マ ネジメント=経営」というニュアンスもあるが、中小企業の現場で飛び交うマ ネジメントとは違うと考えられる。 そこで独自の切り口で、マネジメントを、「中小企業のマネジメント」という ものを明らかにしたいと考えている。それには、中小企業とイコール、すなわ ち、中小企業そのものである経営者の存在感も明らかにする必要がある。ここ に本研究の動機がある。

2.研究の方法、フレームワーク等

(1)研究方法 本研究は、フィールドワークからの問題提起を行い、それを検証する事例研 究である。具体的には、多数の中小企業における継続的なフィールドワーク( 観 察2、聞き取り、アンケート等)の中から得られたマネジメントに関するさまざ 2 筆者は、中小企業の現場への入り込みもしており、そこで実際に業務を体験しながらの参与観察(参 加 観 察 ) も 多 く 行 っ て い る 。

(8)

まな事象を、問題提起3を交えながら、事実関係として整理する。その際、先行 研究を調査し、これに見解を示していく。これらは次の事例分析の前提となる 作業であり、分析の基準づくりという意味を持つ。そして、実際の中小企業の 事例を整理し、項目(基準)ごとに分析を加え、検証して、結論(問題提起に 対する結論提示)を導き出すというものである【図表序-1】。 また、特に重要な課題であるマネジメントと業績との関係については、仮説 を設定し、それを検証するというスタイルを用いている。 【図表序-1】研究のプロセス 3 「同じ業界で、同じような規模(経営資源)であるのに、業績の違いはどこから来るのか」といっ た 事 項 で あ り 、 詳 細 は 第1 章第 1 節で述べている。 フィールドワーク 問題提起および事実関係の整理 (業績に関する仮説の設定) 事例の整理と分析 考察および仮説の検証 対応する先行研究と見解の提示 結論提示

(9)

本研究は、中小企業の現場レベルの視点から、そのマネジメントの実態ない し本質を明らかにすることを目的の一つとしているため、フィールドワークを ベースにした事例研究というスタイルをとっている。経営者やマネジャーの動 きをはじめとして、現場のマネジメントの詳細を、その雰囲気も含めて、正し く把握する必要があるのである。また、マネジメントと業績との関係を明らか にすることから、多くの中小企業の事例データ(43 社)を活用している。事例 データについては、一覧表に整理することにより、比較検討を行いやすくする とともに、全体を俯瞰することにより、中小企業のマネジメントの実態が把握 できるよう配慮をしている。 (2)研究のフレームワーク 本研究のフレームワークは次の図表のとおりである【図表序-2】。中小企業 のマネジメントを考察し、その実態を明らかにするためには、単純にマネジメ ントの仕組みを捉えるだけでは不十分であり、先述の「経営者次第」で示した とおり、必ず経営者の存在を意識した考察を行う必要があると筆者は考えてい る。そのため、本研究では、第 1 ステップとして、中小企業における経営者の 存在感を明らかにする。 第 2 ステップとして、中小企業におけるマネジメントについて考察を進める が、その前提として、マネジメントの概念を明らかにする。すなわち、先行研 究を調査し、一般的なマネジメントの考え方について整理をする作業である。 それを踏まえ、実際の中小企業のマネジメントのあり方、捉え方について考察 を加え、現実に即したマネジメントのタイプ分けを行う。それが「必然あるい は偶然のマネジメント」であり、また、「確実あるいは曖昧のマネジメント」で ある。ここで本研究において提唱する「アナザーマネジメント」(もうひとつの マネジメント)の概念についても明らかにする。 第 3 ステップとして、マネジメントを動かす「ヒト」と「仕組み」について、 考察を加える。ヒトについては「ベテラン・マネジャー」の存在であり、本研 究では中でも「番頭型マネジャー」について言及している。一方、仕組みにつ いては「PDCA サイクル」である。本研究では、ベテラン・マネジャー(番頭

(10)

型マネジャー)と PDCA サイクルを、中小企業におけるマネジメントの 2 大ツ ールと位置付けており、ツールとしてのあり方を検証するとともに、そこから 洞察できる中小企業のマネジメントの実態についても明らかにする。 【図表序-2】本研究のフレームワーク 番頭型マネジャーの検証 →番頭型マネジャーの概念の明確化 PDCA サイクルの検証 →PDCA サイクルの 3 つのモデルを提示 経営者の存在感の明確化 一般的なマネジメントの概念の明確化 中小企業のマネジメントの捉え方の明確化 →タイプ別の分類(必然・偶然×確実・曖昧) *アナザーマネジメントの概念の明確化 中小企業 43 社の事例の分析、検証 *マネジメントのタイプと業績の関係の明確化 中小企業のマネジメントの実態の解明 *中小企業のマネジメント体系の提示 第3章 第2章 第1章 第4章 第5章 上記の要素を踏まえて、43 社の事例を整理 第7章 第6章 結章

(11)

第 4 ステップでは、実際の中小企業 43 社の事例を明らかにし、分析しなが ら考察を加える。第 1 ステップから第 3 ステップまでで考察してきた内容が、 実際の中小企業ではどうなのか、どういった傾向があるのか、中小企業のマネ ジメントとしてどこまで一般化できることなのか、といったことを要素ごとに 分析していく。 結論として、マネジメントのメカニズムを解明するとともに、中小企業のマ ネジメントの実態を明らかにする。それらをまとめ、中小企業のマネジメント 体系として提示する。

3.研究の意義等

(1)研究の意義 本研究では、「マネジメント」と「マネジメントに似て非なるもの」からなる 「やり方」によって、中小企業を 2×2 の切り口で、大きく 4 つのタイプに分 けて考察していく。中小企業も人間と同じように生き物であり、人間と同じよ うにさまざまなタイプがあるが、それらは「やり方」によって大きく 4 つのタ イプに分けることができると筆者は考えている。そして、それぞれの特徴を上 手く活かして生存しているのである。どのタイプが良い悪いではなく、それぞ れが個性的に生きている。それが中小企業の現実である。そこをしっかりと踏 まえ、実際の中小企業の視点と、現場レベルの発想から、「やり方」のメカニズ ムの解明を図っていく。 そして、観察や面談などのフィールドワークを踏まえ、中小企業の実態をベ ースに体系を構築していく。それは、中小企業のマネジメントの実態を、「ベテ ラン・マネジャー」と「PDCA サイクル」という 2 つのツールを軸にビジュア ル化し、「中小企業のマネジメント体系(経営体系)」として提示するという試 みである。 中小企業の経営を考える際は、経営の構成要素ごとの機能の吟味も必要だが、 それ以上に全体として機能しているかどうか、全体のバランスはどうかの方が 重要である。全体として機能していなかったり、バランスが悪かったりすると、 せっかくの中小企業の良さである「柔軟で迅速な動き」ができないからである。

(12)

そこで、本研究においても、マネジメントの構成要素の細部を一つひとつ深掘 りすることに執着するのではなく、マネジメント全体を俯瞰し、そのバランス を見ながら、大きな枠組みとして捉えることに主眼を置いている。また、中小 企業の事例を検証し、その実態を明らかにして、中小企業にふさわしいマネジ メントの概念を確立するとともに、マネジメントという視点を通じて、中小企 業そのものの在り方やこれからの生きる術を考察する。 あわせて、マネジメントと業績との関係の解明を図る。経営にとって業績は 最大の関心事であり、ゴーイング・コンサーンの源泉である。経営に関するす べての議論は業績に帰着すべきであり、何らかの形で、業績との関係を考察し なければ、その議論は現実的ではない。したがって、マネジメントと業績との 関係については、あらためて焦点を当て、議論を展開させる。 本研究の意義は、次の通りである。 <学問的な貢献> マネジメント論として、「マネジメントに似て非なるもの」という新しいマネ ジメントの概念を提唱するとともに、次の①②のような貢献がある。 ① 管理会計研究における、マネジメント・コントロールに関する新たなフレ ームワークを提供するとともに、中小企業の業績要因の新たな視点を提供す る。 …新しい視点によるマネジメントのタイプ分けをベースにしたフレームワー クを提供することにより、マネジメント・コントロールの概念をこれまでと は違った視点から考察することができる。また、そのタイプごとの業績を見 ることにより、中小企業の新たな業績要因を明らかにすることができ、より 多角的な業績検討が可能になる。 ② 中小企業研究における、中小企業を分類する新たな基準を明らかにし、中 小企業のマネジメントのフレームワークを提供する。 …中小企業を分類する際の基準の一つとして、マネジメントのタイプという

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新たな基準を明らかにする。中小企業の経営課題について考察するに当たり、 そのマネジメントのフレームワークを活用した考察を行うことができ、その 背景や要因などをより明確に検証することが可能になる。 <実務的な貢献> 中小企業のマネジメントの実態を明らかにし、その特徴ごとにタイプ分けす ることにより、中小企業のマネジメントの発展に寄与する。 …マネジメントのタイプによって、自社のやり方の特徴を知り、自社に合っ たやり方を行い、さらにはそれを高めていくことによって、中小企業は確実 に成長できる。 本研究によって、中小企業にとって、上手い「やり方」を明らかにし、それ を経営者に提言し、業績の向上に向けて共に実践していくことを想定している。 経営者を勇気付け、組織を活性化し、関西の中小企業を元気にすることが本研 究の意義である。 (2)本研究の特徴 本研究は、そのテーマや目的などにより、次のような特徴を内含している。 ① 本研究の最大の特徴は、「マネジメントとは何か」を真正面から捉えよう としていることである。すなわち、「マネジメントそのもの」を研究対象に している。具体的には、マネジメントの機能(要素)のうちの一つあるい は一部分を取りあげて、それを掘り下げるのではなく、それらが一体とな った、中小企業におけるトータルでのマネジメントを考察することに主眼 を置いている。そのため、考察すべき範囲が非常に広くなるとともに、そ の分、各機能からの影響や印象は平準化されること。 ② 前述のように、マネジメントという「考え方」や「捉え方」に関する考 察が主眼であるため、必然的に、議論の展開において抽象的な部分が生じ ること。 ③ 実際の中小企業の現場で、長期間に渡って継続的に行ってきた観察や聞 き取りといったフィールドワークによって得られた事実やデータに基づく

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事例を検証しながらの考察であること。

④ マネジメントに関わっているのは、結局のところ経営者やマネジャー、 従業員といったヒトであるため、価値判断等においては定性的な分析にな ること。

(15)

第1章 経営者の存在感

本章では、大きく二つの事項について述べる。一つは、本研究の問題提起に ついてである。それをわかりやすく整理するために、中小企業の現場を通じて 見えてくる疑問を明らかにするとともに、必要なキーワードを抽出する。 もう一つは、経営者についてである。本研究のメインテーマは「マネジメン ト」であるが、中小企業においては、経営者の存在は絶対的なものであり、マ ネジメントの議論においても経営者を外して考えることはできない。そこで、 中小企業における経営者の存在感を考察する。

1.現場から見えてくる疑問

まず、中小企業の現場から見えてくる疑問について明らかにする。業績をめ ぐる疑問を考察するとき、序章で触れた「やり方次第」と「経営者次第」とい う 2 つのキーワードが見えてくる。 (1)業績の違いはどこから来るか 同じような業種、業歴、規模の会社なのに、業績の良い会社と悪い会社があ るのはなぜであろうか。それは、経営環境(外部環境)の違いによるものか、 それとも経営資源(内部環境)の違いによるものであろうか。 通常、経営戦略などはライバル企業を意識しての議論になる。ただ、同じ業 界で同じようなビジネスモデルでやっている以上、経営環境的なものに、あま り違いは生じない。実際、筆者がさまざまな中小企業の経営環境を見る中で、 経済動向や社会情勢といったマクロ環境はもちろん、顧客や同業他社の動向と いったミクロ環境にもあまり大きな違いを見出すことはできなかった。 一方、経営資源に目を向けても、組織形態を含め、ヒトの能力やモチベーシ ョン4、機械・設備の性能などにもあまり違いはない。どこの中小企業にも、能 力の高い従業員もいれば、低い従業員もいる。モチベーションも同様である。 平均してみると、経営資源であるヒトとして、どの中小企業も極端に大きな違 4 特に現場に近くなればなるほど、元々のレベルにあまり違いは見られない。

(16)

いはないように思われる。仮に経営資源に差があるとしても、多くの経営資源、 優秀な経営資源を持っている中小企業が常に業績がいいとも限らない。 また、経営資源のレベルが総じて高かろうが低かろうが、それをその企業が 望んだかどうかはともかくとして、それぞれのレベルに応じた商売をしている。 つまり、技術レベルが低い中小企業は簡単にできる製品を扱い、技術レベルが 高い中小企業は高度な製品を扱っている。そして、世に中には、その両方の製 品が必要なのである。ここに中小企業の棲み分けが存在する。つまり、中小企 業には、それぞれ身の丈に合った経営資源があり、それに応じて自社のドメイ ンで生きているのである。 このように考察してくると、中小企業の業績の良し悪しを根本的に分けてい るのは、経営環境でもなく、経営資源でもないことがうかがえる5 同じような経営環境に置かれ、同じような経営資源であるにも関わらず業績 に差があるとすると、あとは、「やり方」の上手い下手の差である。上手くやれ る中小企業は効果的なアクションを選んで、効率的に行い、結果として、高い 業績を上げている。一方、下手な中小企業も何らかのアクションは行っている が、なかなか業績が伴わない状態である。それは、効果的なアクションを選ぶ ことができず、さらにそれを効率的に行えないのである。業績の良くない中小 企業も良い企業と「似たような」ことを「似たように」はやっているのである。 であれば、やはり違いは、「やり方」の問題であり、似てはいるが、ちょっとし たやり方の違いが、結果的に大きな業績の違いになっているというのが実状で あると考えられる6 (2)やり方の上手い下手 それでは、この「やり方の上手い下手」とは何であろうか。この「やり方の 上手い下手」はどこから来るのであろうか。 そのことを考えるきっかけであり、ヒントとなった大阪の中小企業の経営者 5 そういう経営環境や経営資源についての差がないというもっとも顕著な例は、いわゆる下請の中小企 業 で あ り 、業 種 的 に は「 加 工 業 」と な る で あ ろ う 。そ れ は 、下 請 と い う 立 場 に 起 因 す る ビ ジ ネ ス モ デ ル の 類 似 性 、 ま た 、 同 じ よ う な 機 械 ・ 設 備 を 使 っ て い る と い う 作 業 環 境 の 類 似 性 に よ る と こ ろ が 大 き い 。 6 この段階では、「やり方」とは、大きく「マネジメント」ということになる。ただ、第 3 章でのマネ ジ メ ン ト の 考 察( 定 義)を 踏 ま え る と 、そ れ は「 ア ク シ ョ ン の 決 め 方 と 実 行 の 仕 方 」と い う こ と に な り、 そ れ は、「( 狭 義 の ) マ ネ ジ メ ン ト と ア ナ ザ ー マ ネ ジ メ ン ト か ら な る も の 」 と 言 え る 。

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の言葉がある。その中小企業は創業来 30 年以上、東大阪市で製造業としてモ ノづくりをしてきたのであるが、あるとき、2 代目に当たる現経営者が、父親 (先代社長)の頃までは、「製造業」という感じであったが、いつの間にか、「管 理業」になってしまった気がする、とつぶやいたのである。 この言葉は非常に印象的であった。ここに「管理」という大きなキーワード が登場する。つまり、製造業であるにも関わらず、「製造」ではなく、「管理」 が会社の根幹だと言うのである。「やり方=管理の仕方」ではないが、「やり方 の上手い下手」の中には、「管理の上手い下手」が含まれると考えられる。 同じような機械・設備で、同じようなスキルでモチベーションの作業者が作 業しても、生産の成果(QCD:品質・コスト・納期)に差が出てくる。同じよ うな営業ツールで、同じようなスキルでモチベーションの営業担当者が営業し てもその成果に差が出てくる。「管理」という表現が適切かどうかはこれから議 論していくことになるが、仮に「管理」という言葉を使うのであれば、中小企 業において、その差を生むのは、この「管理力」の違いである。同じようにや っても、「管理力」で差がついてしまうのである。 これは、製造業に限ったことではない。小売業であれ、卸売業であれ、管理 業にならざるを得ず、もっと言うと、管理業にならなければ生き残っていけな いのである7 管理が重要だとする考え方がある一方、管理とはほぼ無縁の会社運営をしな がらも、高い業績を上げている中小企業もある。「管理」ということをせず、自 由奔放というか、適当というか、人間で言うと、「器用に」「要領よく」やって いるのである。 このように考えてくると、「やり方の上手い下手」の差は、次の二つに集約し て考えることができる。 一つは、管理ができているかどうか、つまり、何をすべきかを「しっかり」 7 冒頭で中小企業の元気の無さを憂いたが、特に「モノづくり」に元気が無いような印象を受ける。そ の 大 き な 要 因 の 一 つ が 、こ の「 い つ の 間 に か 管 理 業」で あ る 。中 小 製 造 業 の 現場 が「 管 理」に よ っ て 手 に 入 れ た も の も 多 い が 、 逆 に 、「 管 理 」 に よ っ て 失 っ た も の も 多 い よ う に 思 わ れ る 。 そ れ は 、 人 間 が 作 業 す る こ と か ら 来 る 精 緻 さ と い い 加 減 さ 、曖 昧 さ 、型 破 り 、荒 っ ぽ さ 、ダ イ ナ ミ ッ ク さ と い っ た「 モ ノ づ く り 本 来 の 面 白 さ」で あ る 。管 理す る こ と に よ り 、現 場 が 変 に ま と ま っ て し ま い 、小 さく な っ て し ま っ た 。活 性 化 さ れ な く な り 、個 々 の 創 意 工 夫 や 職 人 な ら で は の 技 術 が 求 め ら れ る の で は な く 、「 画 一 化 」 「 標 準 化 」 が 求 め ら れ 、 現 場 の モ チ ベ ー シ ョ ン が 下 が っ て し ま っ た の で あ る 。

(18)

考え、そのアクションを「きっちり」と確実に仕上げることができるかどうか によって生じた差である。 もう一つは、抜け目なく、うまく立ち振る舞うことができているかどうか、 つまり、「ちゃっかり」動いて、「ざっくり」と適当にこなすことができるかど うかによって生じた差である。 ここで「しっかり-きっちり」の方は「管理」、もう少し大きな概念で言うと、 いわゆる「マネジメント」という概念に関連するであろう。では、「ちゃっかり -ざっくり」というのは、どういった概念と結び付くのであろうか。 さらに、筆者が長年現場を見てきて強く確信しているのは、「中小企業=経営 者」8だということである。そのイメージは、図表 1-3 の通りであり、中小企 業を経営者の身体に見立て、その様子を表現している。 中小企業は経営者の身体の全体から成り立っており、経営者は自分の身体を 動かすように、その気になれば自由にそのパーツ(機能)を動かすことができ るのである。すなわち、中小企業にとっては、経営者の存在がすべてであり、 業績が上がるも下がるも経営者次第ということである。かといって、経営者が 「しっかり」しているとか、「ちゃっかり」しているとかという性格の問題では ない。「しっかり」「ちゃっかり」していない経営者でも業績を上げている中小 企業はいくらでもある。 8 先述した、中小企業とイコ ール、すなわち、中小企業そ のものである経営者ということを表している。 そ れ ぞ れ の 中 小 企 業 の 現 実 を 鏡 に 映 し 出 し た 像 が 、 個 々 の 経 営 者 の 姿 で あ る 。

(19)

【図表1-3】「中小企業=経営者」のイメージ (出所:筆 者 作 成) 中小企業の業績に差をつけているのは、「やり方の上手い下手」とその前提と なる「経営者」である。つまり、中小企業の業績は、「やり方次第」、「経営者次 第」なのである。であれば、それらの概念をどのように捉えればいいのであろ うか。それらについて次節以降で考察を加える。

2.経営者の存在感の整理

中小企業の現場から導かれるキーワードが前節で見た「経営者次第」と「や り方次第」である。「やり方」は次章以下のマネジメントの議論を進める中で、 必然的に整理されるため、ここでは、その前段階である経営者の存在感の整理 を中心に進める。 (1)A 力-B 機能 前述のように、中小企業において、経営者の違いが業績に大きな影響を与え 脳 心臓 脳:経営者によ る意思決定 ト ッ プ セ ー ル ス : 中 小 企 業 で は 、 窓 口 ・ 営 業 は 経 営者のみのところ も多い(経営 者の み 情 報 収 集 で き る立場にある) また、情報発信も 可 能 で あ る ( HP 等もあるが) → 現 場 は 情 報 に は 無 関 心 な 場 合 が 多 い ( 積 極 的 な 学 習 に 疎 い 場 合 も多 く見 受 けら れる) 口:情 報 発 信 、 コミットメント 心 臓 : 血 液 を 流 す = コ ミ ュ ニケーション → 中 小 企 業 においては主 に 経 営 者 の 役 割 (番 頭 や 工 場 長 の 場 合もある) 腕 や 足 が 各 現場、 指 が 各 作 業 者 胴 体 が 工 場 や 店舗 腕 や 足 の 関 節 が 各 レ ベ ル の マネジャー 目 や 耳 : 意 思 決 定 の た め の 情報収集

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ていると考えられる。では、経営者の何が違うのであろうか。経営者の性格や 個性、考え方やキャリアなどが違うのは当然である。しかし、それらが直接的 に業績に影響を与えているとなると、経営者の個性次第ということになり、そ れ以上、議論を深めるのが難しくなる。 そこで、違う角度から考えてみる。経営者の「能力」だとどうであろうか。 たとえば、経営者自らの営業力(トップセールス力)やネットワーク力などは どうであろうか。それらが違うと、業績に大きな差が出てくるのは確かである。 ただ、実際にはそんなに強力な営業力やネットワーク力をもつ経営者はなかな かいない。また、営業力やネットワーク力のない経営者でも高い業績を上げて いる経営者はいくらでもいる9 そこで、中小企業の業績に大きな影響を与えているのは、経営者の「A 力」 である、と捉えてみる。中小企業においては経営資源の最たるものである「経 営者」というものを、構成する一つひとつのパーツから解き明かすのではなく、 それらが複雑に絡み合い、相互に連動して作用している集合体として捉える概 念が「A 力」である。では、それは具体的には、どのようにイメージすればい いのであろうか。 ここで A 力を説明するには、「B」という機能の説明が必要である。 B とは、経営を順調に行う機能である。順調とは、思い通りにという意味で ある。すなわち、ここでは、「経営者が自分の思い描く通りに会社を経営する機 能」、さらには、「会社の状態を自分のイメージ通りにし、その状態を続ける機 能」を「B 機能」と定義付けることとする。 ここで重要なことは、中小企業の経営者にとって大事なのは、B 機能だとい うことである。中小企業の経営者にとっては、要は自分の思い通りの経営がで き、思い通りの会社になればいいのである。 その「思い通り」には、一人ひとりの経営者ごとにさまざまな内容、レベル での基準があるであろう。たとえば、売上もあれば、利益もある。企業規模の 場合もあれば、シェアや業界でのポジションなどもある。また、経営者個人の 9 経営者自らの営業力(トップセールス力)やネットワーク力なども違うが、中小企業において、もっ と 言 う と、中 小 企 業 に 多 く 見 ら れ る「 受 託 型 」の ビ ジ ネ ス モ デ ル で や っ て い る 企 業 に と っ て、そ れ ら が 大 き く 作 用 す る こ と は 考 え 難 い 。む し ろ 、そ れ ら が な い か ら 、受 託 型 の ビ ジ ネ ス モ デ ル で や っ て い る の で あ る 。

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願望を達成するというようなものもあれば、会社としての社会貢献という崇高 な理想を実現しようとするものもあるであろう。 それらを客観的に見た場合、その「思い通り」の基準の良否についての評価 は分かれるが、中小企業にとって大きなポイントとなるのは、「経営者が良けれ ば、それで良い」という点である。この点に中小企業の脆さがあり、また面白 さがある。たとえば、株主利益の最大化を図るという使命を担う公開企業や、 市場や顧客にブランドが浸透している有名企業と違い10、ステークホルダーか らの目をあまり気にせず、経営者が自分の思うようにできるところが中小企業 経営の醍醐味であり、中小企業のダイナミズムの源泉なのである。 明確に意識して行っているかどうか、また経営者自ら行っているかどうか、 あるいはどういったやり方で行っているかどうかはともかく、会社で B を機能 させているかどうかがポイントになる。すなわち、中小企業の業績に大きな影 響を与えているのは、経営者の A 力であり、A 力は、B をきちんと機能させる ことができる能力なのである。 (2)A 力を構成する 4 つの要素 A 力はマネジメント11を機能させる力であり、純然たる能力だけでなく、経 営者の性質や人望なども含まれるところにその特徴がある。ある意味、経営者 の「人となり」と言ってもいい。トップ・マネジメントとは、経営体系の中で 上位に位置付けられる、高所からの視点のマネジメントということであって、 それを行うのが経営者かどうかは別である。 たとえば、プロ野球選手は全員、間違いなく野球が上手い。野球が下手なプ ロ野球選手はいない。しかし、経営者は全員にマネジメント力があるわけでは なく、マネジメント力がない経営者もたくさんいる。また、野球に興味のない プロ野球選手は皆無であろうが、会社経営にほとんど何の興味もない経営者も いる。では、なぜそういった能力も意欲もない経営者でも業績を上げることが できるのか。そこには、何かがあるはずである。その何かが「A 力」である。 10 公開企業や 有名企業 がす べて大企業 とは限 らないが 、少なくと も中小 企業より は大企業の 割 合 が 多 い こ と は 確 か で あ る 。 11 この段階では、B 機能とマネジメントの関係は不明確であるが、説明の便宜上、ここではマネジ メ ン ト と い う 言 葉 を 使 う こ と と す る 。

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中小企業で観察してきた経営者たちの姿をもとに考察した結果、A 力は次の 4 つの要素を中心に構成されると考えることができる。それは、①夢(利益) の提示力、②人間としての魅力、③現場の把握力、④トップとしての権力であ る。 1 つ目の「夢(利益)の提示力」であるが、これは、トップとして、ビジョ ンを提示する力である。この夢は、将来の理想であり、会社生活を通じて実現 したい希望である。ワールドワイドな事業展開であったり、新製品を開発した りしての社会貢献である。ただ、それらは理想としての側面だけでなく、社員 にとっては、現実的な利益としての側面もなくてはならない。なぜなら、その 利益、もっと言うと「賃金」を得るがために、従業員は働いているからである。 2 つ目の「人間としての魅力」であるが、これは、文字通り、トップの人間 としての魅力である。常に力強く、頼もしく映る経営者もいれば、弱々しく感 じる経営者もいる。明るい経営者もいれば、表情の暗い、大人しい経営者もい るであろう。経営者も人間である以上、さまざまな個性があるのであるが、そ こに、従業員を引き付ける何か「魅力」があるかどうかである。この人に付い て行こう、この人を支えようという何かである。 3 つ目の「現場の把握力」であるが、これは、経営者がどれだけ現場を理解 し、わかっているかである。それは、表面的な問題だけでなく、常に現場の真 の課題を理解し、その思いも共有できているかである。その現場を自ら作り上 げた創業者の多くは、現場の把握力を持っているが、後継者である 2 代目、3 代目の経営者には現場の把握力がほとんどない者もいる。 4 つ目の「トップとしての権力」であるが、これは、経営者が組織を動かす 最高の指揮命令者であるとともに、その会社のオーナーでもあるという立場か ら生まれるものである。従業員に対する圧倒的な力であり、経営者の力の源泉 とも言える力である。 この 4 つの要素が中心となって絡み合い、A 力を構成している。必ず 4 つの 総合力ということではない。夢(利益)の提示力が強い経営者もいれば、現場 の把握力が強い経営者もいる。あるいは、それらは弱いが、人間としての魅力 がある経営者もいるであろう。どういうタイプの経営者が良いとか悪いとかで なく、それぞれの A 力のタイプと B 機能とがマッチしているかどうかである。

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それぞれの A 力に合った B を機能させているかどうかが重要なのである。中で もカギを握るのが「人間としての魅力」であり、何らかの魅力によって、従業 員を引き付けることができるかどうかがポイントとなる。「現場の把握力」と「ト ップとしての権力」を組織へ押し込む力とすると、「夢(利益)の提示力」と「人 間としての魅力」は、組織を引き付ける力ということになる【図表 1-4】。 【図表1-4】A力を構成する4つの要素 (出所:筆 者 作 成) この「人間としての魅力」について、従業員が引かれる魅力とは何であろう か。感覚的な概念であるため、具体的な列挙を試みる。切り口は、①性格的な もの、②雰囲気的なもの、③見た目的なもの、④対話的なもの、⑤経営感覚的 なもの、の 5 つである。 ①性格的なもの…謙虚さ、健気さ、豪胆さ、豪快さ、厚かましさ、親しみ、 馴れ馴れしさ、包容力、暖かさ、優しさ、根っからの明る さ、粘り強さ、辛抱強さ、おっちょこちょい、慌てん坊、 飽きっぽい ②雰囲気的なもの…熱さ(情熱)、テンションの高さ(低さ)、冷徹さ、クー ルさ、知的、理性 ③見た目的なもの…おしゃれセンス、身体の丈夫さ(屈強さ) ①夢(利益)の提示力 ②人間としての魅力 ④トップとしての権力 ③現場の把握力 A 力 組織・現場を引き付ける力 組織・現場に押し込む力

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④対話的なもの…相談のしやすさ、コミュニケーションの上手さ、聞き上手、 話し上手、会話の面白さ ⑤経営感覚的なもの…視点の独特さ、感覚の鋭さ、発想の斬新さ、直感の鋭 さ、察知する能力の高さ、理想の高さ いずれも従業員からすると、それが積極的誘因か消極的誘因かはともかく、 経営者の魅力である。ただ、①や②は人間性に関するものだが、④や⑤はかな り能力的な要素になってしまう。したがって、ここでは、やはり持って生まれ た性格的なものや雰囲気的なものを人間的な魅力として 捉えることとする12 そこには、何らかのプラス要因があるから..「この人について行きたい」という 積極的なものから、マイナス要因があるけど..「助けてあげないと仕方がない」 という消極的なものもあるであろう。要は「人柄」なのである。 (3)「空気感」による間接的な影響 このように考察してくると、次のような考えに帰着する。すなわち、中小企 業の業績を決定付ける要因を明らかにするには、「A 力」と「B 機能」による二 層構造のロジック(「A 力-B 機能」とのつながり)を明らかにする必要がある ということである。マネジメントなどだけでなく、その前提である「A 力-B 機能」が大きく作用するところに中小企業の特徴がある。 そして、この経営者の A 力は、文字通り「経営者」としての立場(側面)で のものであるが、それを「オーナー」としての立場(側面)で見たときは、そ の「威光」も相まって「わがまま力」と置き換えることができるであろう。そ のとき、B 機能は、オーナーとしての「思い通り機能」になる。具体的には、 主に 4 つの要素によって構成された「わがまま力」が、思い通り機能によって 「空気感」や「雰囲気」に変換され、これにより、独自の色に染められていく のである。すなわち、B 機能を通じて、会社の方向性を間接的に支配し、マネ ジメント(マネジメントに似て非なるものを含む)にも影響を与えているので 12 伊 丹 敬 之 (2007) は 、 こ の 人 につ い て い こ う と思 わ せ る 基本 は 「 信 頼 感 」で あ り 、 それ は 、「 人 格 的 魅 力 」と「 ぶ れ な い 決 断 」か ら 生 ま れ る と す る( 伊 丹,2007,pp.44-46)。清水龍瑩(1982)は、「人間 的 魅 力 こ そ リ ー ダ ー シ ッ プ の 本 随 で あ る 」 と し て い る ( 清 水,1982,p.10)。また、松下幸之助(2006) も 、 指 導 者 に は 「 こ の 人 の た め に は … 」 と 感 じ さ せ る よ う な 魅 力 が 必 要 だ と 説 い て い る ( 松 下,2006,pp.174-175)。

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ある。 【図表1-5】「A力-B機能」のイメージ (出所:筆 者 作 成) 図表 1‐5 は「A 力-B 機能」のイメージを示したものである。左側の「一 般的なイメージ」は、中小企業のマネジメント体系である。非常にシンプルで あるが、経営理念に基づき、「何をするか→どうするか」でというやり 方(マネ ジメント)で、企業が事業活動している様子を表している。右側は、「A 力-B 機能」がもたらす空気感や雰囲気が、「何をするか→どうするか」のマネジメン トに影響を与え、その方向性に間接的に支配している様子を表している13 13 経営者の「A 力-B 機能」は、マネジメント体系の上にふわりとかかっている「雲」のようなも の で あ る 。晴 天 に ぽ っ か り と 浮 か ぶ 雲 か ら 、激 し い 雨 を 降 ら す 雲 ま で さ ま ざ ま で あ る が 、そ の 日 の 雰 囲 気 何をするか どうするか 経営理念 経営者の A力 B機能 ① ② ③ ④ 何をするか どうするか 経営理念 【一般的なイメージ】 【A 力-B 機能のイメージ】 ①夢(利益)の提示力 ②人間としての魅力 ③現場の把握力 ④トップとしての権力

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(4)経営者の資質・能力について 以上のように、本研究では、A 力-B 機能という枠組みで、経営者について 議論をしていくが、一般的にそれはどういった議論の仕方になっているのであ ろうか。先行研究も踏まえ、ここで確認しておきたい。 A.資質と能力 人はすべて違う個性を持っており、二人として同じ人はいない。経営者も人 である以上、同じパーソナリティはなく、すべて違った存在である。それは、 業績のいい企業の経営者も同様であり、業績のいい企業の経営者は必ずこうで あ る と い う 決 定 的 な 要 素 が あ る わ け で は な い 。 ド ラ ッ カ ー ( Peter F.Drucker,1966)は、次のように述べている。「成果をあげるには、近頃の意 味でのリーダーである必要はない。…(中略)…私がこれまでの六五年間コン サルタントとして出会った CEO(最高経営責任者)のほとんどが、いわゆるリ ーダータイプでない人だった。性格、姿勢、価値観、強み、弱みのすべてが千 差万別だった。外交的な人から内向的な人、頭の柔らかい人から硬い人、大ま かな人から細かな人までいろいろだった」(Drucker,1966,邦訳,p.2)。確かに、 経営者は「千差万別」であり「いろいろ」なのである。 ただ、前述のように、業績のいい企業の経営者にもその業績を決定付ける唯 一の要素はなくとも、いくつかの共通点はあるのではないだろうか。そういっ た共通点を見出すことが経営者をめぐる議論のベースにあると考えられる。そ の共通点を探索する中で、ポイントとなるのが、経営者の持つ資質であり、能 力なのである。そのため、経営者については、その資質や能力の視点から議論 されることが多い。 たとえば、『中小企業白書(2013 年版)』では、中小企業の大きな課題となっ ている事業承継における後継者の資質等について、次のような議論を展開して いる(pp.149-152)。 まず、事業承継の準備として取り組んでいることを見てみると、「後継者の資 を 演 出 し て い る の は 確 か で あ り 、何 ら か の 形 で 人 間( 組 織 だ と 構 成 員 )に 影 響 を 与 え て い る の も 確 か で あ る。「 ク ラ ウ ド 構 造 」 と 言 え る 。

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質・能力の向上」を挙げる企業がもっとも多いことがわかる【図表 1-6】。ま た、規模別では、小規模事業者の方が準備が遅れている。 【図表1-6】規模別の事業承継の準備として取り組んでいること 項 目 小規模事業者 (n=1,424) 中規模事業者 (n=2,440) 後継者の資質・能力の向上 50.8 60.2 取引先との関係を維持すること 41.2 34.1 後継者を支える人材を育成すること 26.2 43.0 債務・借入金を圧縮すること 26.7 27.9 金融機関との関係を維持すること 23.3 27.7 役員・従業員から理解を得ること 14.0 29.7 相続税・贈与税への対応を検討すること 13.3 20.3 自社株式の後継者への移転方法の検討 11.9 20.9 事業承継計画を策定すること 10.0 16.5 親族間の相続問題を調整すること 5.8 7.7 自社の株主から理解を得ること 2.9 8.6 特にない 16.9 10.5 複 数 回 答 (単 位 :%) 資 料 :中 小 企 業 庁 委 託 「中 小 企 業 の事 業 承 継 に関 するアンケート調 査 」( 2012 年 11 月 、㈱野 村 総 合 研 究 所 ) (注)1.経 営 者 の年 齢 が 50 歳 以 上 の企 業 を集 計 している。 2.小 規 模 事 業 者 については、常 用 従 業 員 数 1 人 以 上 の事 業 者 を集 計 している。 3.「その他 」は表 示 していない。 4.事 業 承 継 の準 備 として取 り組 んでいることには、取 り組 む予 定 にしていることを含 む。 (出所:『中 小 企 業 白 書(2013 年 版)』p.150) 経営者が重視する「後継者の資質・能力」について、図表 1-7 によると、 中規模事業者と小規模事業者で多少の違いはあるが、「リーダーシップが優れて いること」「経営に対する意欲が高いこと」「決断力・実行力が高いこと」「自社 の事業・業界に精通していること」「役員・従業員からの人望があること」「営 業力・交渉力が高いこと」などが挙げられている。決断力や実行力、営業力と いった能力と並んで、「人望」というキーワードが出ているところに注目すべき である。

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【図表1-7】規模別の後継者を決定する際に重視すること 項 目 小規模事業者 (n=1,242) 中規模事業者 (n=2,256) 親族であること 57.3 42.6 自社の事業・業界に精通していること 48.0 50.9 経営に対する意欲が高いこと 38.6 54.3 リーダーシップが優れていること 33.6 57.2 決断力・実行力が高いこと 37.5 51.7 コミュニケーション能力が高いこと 30.4 43.6 判断力が高いこと 29.5 42.5 営業力・交渉力が高いこと 33.0 38.0 役員・従業員からの人望があること 23.8 45.5 経営理念が承継されること 24.3 38.1 事業運営に役立つ人脈やネットワークがあること 22.7 28.4 技術力が高いこと 30.0 17.0 財務・会計の知識があること 21.2 25.8 現経営者との相性が良いこと 15.8 16.4 複 数 回 答 (単 位 :%) 資 料 :中 小 企 業 庁 委 託 「中 小 企 業 の事 業 承 継 に関 するアンケート調 査 」( 2012 年 11 月 、㈱野 村 総 合 研 究 所 ) (注)1.小 規 模 事 業 者 については、常 用 従 業 員 数 1 人 以 上 の事 業 者 を集 計 している。 2.「その他 」は表 示 していない。 (出所:『中 小 企 業 白 書(2013 年 版)』p.151) 次に、後継者に不足している能力等を見ると、「財務・会計の知識」「自社の 事業・業界への精通」「次の経営者としての自覚」といった項目が並ぶ【図表 1 -8】。前項までの内容と一変して、「財務・会計の知識」という実務的なスキ ルがトップに来ているところが注目である。また、企業規模別に大きな違いが 出ているのは「リーダーシップ」と「営業力・交渉力」である。これについて、 中小企業白書は、図表 1-7 の内容も踏まえて、「小規模事業者では、経営者自 身の実務能力が期待されているのに対し、中規模企業では、役員・従業員を統 率して経営を方向付ける能力が、より重視されていることが分かる」と分析し

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ている(p.151)。 【図表1-8】規模別の後継者に不足している能力等 項 目 小規模事業者 (n=903) 中規模事業者 (n=1,624) 財務・会計の知識 39.8 43.0 自社の事業・業界への精通 31.3 28.9 次の経営者としての自覚 28.8 26.5 リーダーシップ 16.9 30.2 営業力・交渉力 30.2 15.7 決断力・実行力 17.8 20.8 事業運営に役立つ人脈やネットワーク 17.9 18.5 技術力 20.2 11.0 コミュニケーション能力 13.6 13.0 判断力 10.7 12.9 役員・従業員からの人望 6.0 15.1 (単 位 :%) 資 料 :中 小 企 業 庁 委 託 「中 小 企 業 の事 業 承 継 に関 するアンケート調 査 」( 2012 年 11 月 、㈱野 村 総 合 研 究 所 ) (注)1.最 大 3 項 目 までの複 数 回 答 。 2.小 規 模 事 業 者 については、常 用 従 業 員 数 1 人 以 上 の事 業 者 を集 計 している。 3.「その他 」は表 示 していない。 4.後 継 者 には、後 継 者 候 補 を含 む。 (出所:『中 小 企 業 白 書(2013 年 版)』p.152) ここで確認しておきたいのが、中小企業白書でも使用されていた「経営者の 資質・能力」の「資質」や「能力」である。特にわかりにくいのは資質である が、『広辞苑』によると、資質とは「うまれつきの性質や才能。資性。天性」で あり、能力とは「物事をなし得る力。はたらき」である。そこから、資質のポ イントは、「うまれつき」であり、「性質」であることが わかる。能力は後から 身に付くものであるが、資質は生まれつきもっているものであり、また、能力 だけでなく広く性質を表しているのである。 これまで A 力-B 機能の議論で見てきたように、筆者はこの「性質」に着目 している。これが性格であり、人となりであり、人間性なのである。中小企業

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白書の中にあった、経営者が重視する「後継者の資質・能力」の中の「人望」 は、まさにこの「持って生まれた性質」によるところが大きいと考えられる。 ただ、議論を進める上で支障となるのは、そういった要素は抽象的であり、明 確な概念として表すことが非常に困難だということである。 その点、能力は、性質よりは明確に表すことができるが、この能力にもさま ざまなものがあり、なかなか上手く表せない場合も多い。たとえば、先述の「財 務・会計の知識」などは、わかりやすいスキル(技能)であり、レベルの測定 や評価も容易である。これが「営業力・交渉力」や「技術力」となるとやや抽 象的になり、「決断力・実行力」や「判断力」となるともっと抽象的になる。す なわち、具体的な測定や評価ができなくなるのである。さらには、「リーダーシ ップ」14や「コミュニケーション能力」となると、 その抽象度はますます高く なるのである。 ただ、大事なことは、性質や、能力の中ではリーダーシップなど、抽象度の 高い要素こそ経営者を考察する上でのカギになるということである。曖昧で、 定量的な評価が難しく、具体的な記述が難しいものにこそ、中小企業のマネジ メントのポイントが隠されているのである。 そういった曖昧な概念をどうやって表現してきたのかに注意しながら、経営 者の資質等をめぐる先行研究を以下に確認する。 B.先行研究からの考察 ①C.I.バーナード(Chester I.Barnard) バーナード(1938)は、管理者(経営者)の持つリーダーシップに着目して お り 、「 リ ー ダ ー シ ッ プ は 協 働 諸 力 に 不 可 欠 な 起 爆 剤 で あ る 」 と 言 う (Barnard,1938,邦訳,p.270)。そのリーダーシップを語る上でのキーワードが 「道徳」である。バーナードの言う道徳とは、「個人における人格的諸力、すな わち個人に内在する一般的、安定的な性向であって、かかる性向と一致しない 直接的、特殊的な欲望、衝動、あるいは関心はこれを禁止、統制、あるいは修 正 し 、 そ れ と 一 致 す る も の は こ れ を 強 化 す る 傾 向 を も つ も の 」 で あ る ( 同 14 中小企業白 書での扱 いは ともかく、 リーダ ーシップ が能力かど うかは 判断の分 かれるとこ ろ で あ ろ う が 、 少 な く と も 、 後 か ら 身 に 付 け る こ と が で き る と い う 点 で 、 こ こ で は 能 力 と 考 え る 。

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書,p.272)。そして、「リーダーシップの質、その影響力の永続性、その関連す る組織の持続性、それによって刺激される調整力など、これらすべてが道徳的 抱 負 の 高 さ と 道 徳 的 基 盤 の 広 さ を あ ら わ す の で あ る 」 と し て い る ( 同 書,pp.296-297)。すなわち、バーナードは、経営者の資質の一つとして、道徳 性を説いているのである。 ②D.マグレガー(Douglas McGregor) 前項のバーナードと同じように、マグレガー(1960)も「道義」について述 べている。「経営者は社会一般の道義に通じていることもさることながら、自分 自身の会社の従業員を使おうとするときも道義的でなくてはならない」とする (McGregor,1960,邦訳,pp.14-15)。そして、「利潤を追求するのが経営権だと いってみても、それは人間の尊厳を傷つけぬ範囲で認められたもの」であり、 「企業においても、現代社会における一般の場合と同じく自由にふるまおうと すれば責任という代償を払わねばならないのである」と説いている(同書,p.16)。 マグレガーも経営者に高い職業倫理を求めているのである。 また、マグレガー(1960)は、「経営者の態度は柔軟であれ」とも説く。「経 営者の役目というものは唯一不変のものではなくて、いろんな役目の複合体な のである」とし、「経営者の果たす役目にこのような15柔軟さがあってこそ、人 を動かすことができる」と言う(同書,pp.32-33)。そして、「人を動かす力は自 分の使う権限の多寡によって決まるものではない。むしろその場その場に応じ て、どんなうまい方法を選び出して人を動かすかによって決まるものである」 としている(同書,p.37)。「腕づくで人を使うやり方から相手に応じた人の使い 方」へ変えていくことの必要性を述べているのである(同書,p.35)。 ③P.F.ドラッカー(Peter F.Drucker) 先述のドラッカー(1974)は、経営管理者の唯一の要件は「人柄」だと言う (Drucker,1974,邦訳[下],pp40-41)。経営管理者が人間を管理するために要求 される根本的な資質は「人間としての誠実さ」であるとする。経営管理者が「学 15 引用者注「 このよう な」:「その場その 場で行動 ・態 度あるいは また、 それに対 する相手の 行動 に 大 き な 変 化 が 生 ず る こ と」( 同 書,p.33)。

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びとることができない資質、すなわち後天的に獲得することはできないが、身 につけていなければならない資質が一つだけある。それは天賦の才ではない。 それは人柄である」と述べている(同書,p.41)16 また、ドラッカー(1974)は、トップ・マネジメントの課題に関して、「そ れらの課題が、多種多様な能力、とりわけ多種多様な体質の持主を要求してい る」と述べている(同書,p.395)。トップ・マネジメントには、「能力と体質の 多様性が必要」と言うのである。そして、トップ・マネジメントの課題は、少 なくとも四種類の人間を要求しており、それは「思考する人」「行動する人」「人 間味のある人」「表看板になる人」である。「だが一人の人間がこれら四つの体 質を兼備していることは、まずないといってもよい」としている(同書,p.395)。 ④H.ミンツバーグ(Henry Mintzberg) 経営者だけに限った議論ではないが、マネジャーの資質に関して、ミンツバ ーグ(2009)は、慎重で分析重視の「頭脳型」、アイデアとビジョンを重視し、 直感的性格の強い「洞察型」、経験を重視し、部下を助けつつ、自分で業務を処 理 し よ う と す る 傾 向 の 強 い 「 関 与 型 」 の 3 つ の タ イ プ を 明 ら か に し て い る (Mintzberg,2009,邦訳,pp.192-194)。これは、ミンツバーグが提唱するマネジ メントの 3 つの要素であるサイエンス(分析)、アート(ビジョン)、クラフト (経験)の 3 つの要素にそれぞれ対応するものである。そして、「マネジメン トを成功させるためには、アートとクラフトとサイエンスの三要素をブレンド しなくてはならない。マネジャー個人が三要素をあわせもつか、そうでなけれ ばマネジメントチーム全体として三要素をすべてもっている必要がある」とし ている(同書,p.194)。 ⑤清水龍瑩 清水(1981)は、「トップマネジメントの意思決定のパラダイムは2段階から なる」とする。具体的には、「 第1 段階は、社長、役員が企業外環境、企業内 条件、従来からの経営理念を、自らの価値観・使命観を通じて知覚、認識し、 16 本研究では、第 4 章第 2 節において、経営者ではなく、マネジャーとしての資質を確認しているが 、 そ こ で は こ の 「 人 間 と し て の 誠 実 さ 」 は 「 真 摯 さ 」 と い う 言 い 回 し に な っ て い る 。

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将来構想を不断に構築していく過程である。第2 段階は、第1段階で構築され た将来構想をもっている社長、役員が企業経営についての問題を把握し、検討 しながら解決案を模索し、意思決定していく過程である。第1 段階は個人の沈 思黙考の過程であり、第2 段階は複数の人々の同意をうる融和統合の過程であ る」としている(清水,1981,p.52)。そして、そこから、経営者の機能として、 将来構想の構築、意思決定、経営管理173つを挙げている。 清水(1982)は、この経営者の3つの機能と個人特性のフレームワークから、 発揮される経営者能力を考察している( 清水,1982,pp.3-4)。その前提として、 「これらの機能は、企業経営の状況に応じて異った対応の仕方を要求する」と し、そのため、「望ましい経営者能力とは、ある条件に適合し、効率よく機能 し、企業成長に貢献する能力である」としている(同論文,p.19)。そして結論 として、「野心、使命観、理念、信念、直観力、想像力、洞察力、判断力、危険 をおかす力、不連続的緊張を自らつくり出す力は、どちらかと言えば企業家型 の社長に多くそなわり、将来構想の設定、意思決定に大きな役割をはたし、包 容力、人間的魅力、人柄、倫理感、道徳的リーダーシップ、システム意思、時 間の有効利用、計数感覚、統率力・リーダーシップ能力、責任感、連続的緊張 に耐えうる力は、どちらかと言えば管理者型の社長に多くそなわり、意思決定、 経営管理に大きな役割をはたす。健康、知識はいかなる経営者にもそなわって いる能力であり、またそなわっていなければならない能力であり、将来構想の 構築、意思決定、 経営管理のすべての局面で大きな役割をはたしている」と述 べている(同論文,p.19)。 さらに、清水(1995)では、経営者能力を「企業家精神に関連する能力」、 「管理者精神に関連する能力」、 「リーダーシップ能力」の3つに大別し、議 論している。企業家精神とは、「不連続的緊張を自らつくり出す能力」であり、 管理者能力とは、「連続的緊張に耐えうる能力」であり、リーダーシップ能力 とは、「企業家精神に関連する能力と管理者精神に関する能力とを、より高い 視点から止揚統合する能力」である( 清水,1995,p.29)。そして、組織の成長 17 清水(1995)では、「将来構想の構築」と「経営理念の明確化」を合わせ、一体として捉えている 。 ま た 、「 経 営 管 理 」 は 「 執 行 管 理 」 と 言 い 換 え ら れ て お り 、 財 務 管 理 や 組 織 の 活 性 化 を 指 す ( 清 水,1995,pp.2-3)。

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段階によって、経営者に求められる能力も異なることを明らかにしている(同 論文,p.30)。 ⑥伊丹敬之 伊丹(2007)は、経営者には 3 つの機能的役割があるとする。それはリーダ ー、代表者、設計者の 3 つである(伊丹,2007,pp.41-44)。さらに、第四の役割 として「経営理念の策定者・伝道者」を挙げている( 同書,pp.55-63)。そして、 そういった役割を果たすには、「エネルギー」、「決断力」、「情と理」の 3 つの 資質が必要としている。すなわち、「エネルギー水準が高い」こと、「決断力が 高い」こと、「情と理の両方に深い理解をもつ」ことである( 同書,pp.77-78)。 また、第四の資質として、経営者のタイプ別に、事を興す人-構想力、事を正 す人-切断力、事を進める人-包容力の 3 つを挙げている(同書,pp.94-95)。 また、伊丹(2007)は、経営者に向かない人についても論じており、「次の 五つの性癖を一つでもかなり強く持っている人はよき経営者にはなれそうもな い」としている。それは、「私心が強い」、「人の心の襞がわからない」、「情緒的 にものを考える」、「責任を回避する」、「細かいことに出しゃばる」の 5 つであ る(同書,pp.100-101)。 ⑦その他の見解 米谷(1996)は、アンケートによる経営者意識調査の結果から、経営者の資 質について次のような解説をしている(米谷,1996,pp.97-98)。経営者が必要と 思っている資質は、「意思決定力」「先を見通す力」「斬新な企画力と行動力」で ある。また、必要な資質で自分に最も欠けている ものとして、「対外折衝力の巧 さ」「企画力・行動力」「先見性」を挙げている。「多くの経営者は、経営者とし て最も不可欠な資質である意思決定力を自らは保持していると思っている」と 述べている(同論文,p.98)。 松原(2009)は、21世紀に「求められる経営者・管理者の資質・特性」とは 何であるかを、能力的側面、性格的側面、経営哲学的ないしは倫理的側面に分 け、先行研究を踏まえながら議論をしている。そして、「これらの経営者に求 められるもの、それはアクション・ラーニングで求められる貴重な体験と、そ

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