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1.本章の位置付け

これまで中小企業のマネジメントの概念について考察を重ねてきたが、その 実態はどうなっているのかを明らかにする必要がある。本章では、その検証を するために、実際の中小企業 43社の事例を見ていく。この 43社は筆者がこれ まで現場のコンサルタントとして関わってきた中小企業約 500社の中から、以 下のような基準 1~5 でスクリーニングし、抽出したものである。なお、筆者 は大阪を中心とする関西エリアで活動しているため、この 43 社はいずれも関 西84の中小企業である。

基準 1:筆者が、会社の全体的なことを把握していること

筆者がコンサルタントとして中小企業に関わる場合、会社全体(事業活動全 体)について、総合的に関わる場合と、営業部門や工場など特定の部分だけに 関わる場合とがある。特定の部分だけに関わっている会社については、その部 分からの判断しかできない。本研究は、会社全体のマネジメントを対象として いるため、筆者が全体的なことを把握している会社のみとする。

基準 2:筆者が、会社の経営方針や事業の方向性などを把握していること

前項の全体の把握にも関係するが、筆者がフィールドワークを通じて、経営 方針や事業の方向性などを把握している会社のみとする。具体的には、経営理 念や経営ビジョン、経営戦略、事業計画などを把握しているかどうかである。

ただし、それらは必ずしも文書化されているとは限ら ず、そういったものが「な い」や、「不明確」「曖昧」ということも実態の把握であ る。

基準 3:経営者や従業員と直接やり取りができていること

経営者との打ち合わせや、管理職や一般従業員との面談など、筆者がその会 社で働く人たちと、直接話しができていることである。これには、メールなど

84 事 例 43社 の 所 在 地 は 、 大 阪 府 、 兵 庫 県 、 奈 良 県 で あ る 。

でのやり取りも含まれる。また、就業時間内の公式な場だけでなく、就業時間 外の食事や飲み会などでの本音での話しもある。

基準 4:本研究に関するマネジャーや PDCA サイクルなどの実態を把握できて

いること

この基準が何より大事であるが、本研究のテーマであるマネジメントに関す る実態を、筆者がフィールドワークを行う中で正しく把握できていることであ る。具体的には、前項で述べた内容に加え、経営者の社内や客先での様子やマ ネジャーの言動などを観察したり、各種の会議に参加したり、現場でのミーテ ィングなどに立ち会ったりする中で、それらがどのように機能してマネジメン トを構成しているかの把握である。

基準 5:その他、次のような条件が整っていること

上記以外に、①筆者が、ある程度の期間(少なくとも 3 年以上)にわたって の会社の業績などの推移を把握できていること、②一般的に馴染みのない、あ まり特殊な業種業態ではないことなどがある。

2.事例の項目

中小企業 43 社の事例について、本研究では以下のような項目で見ていくこ ととする。これらの項目は、中小企業のマネジメントの実態を分析していく上 での視点であり、かつ基準でもある。次章では、これらの項目にしたがって分 析を行い、その実態を明らかにすることになる。なお、これらの項目は、巻末 に資料「事例 43社のマネジメントの実態一覧」として整理している。

(1)企業の概要

企業の概要については、以下の①~⑤の項目で表す。その前提となる「対象 期間」は、43 社それぞれの本研究での分析の対象となっている期間であり、「① 業種」以外は、当該期間の期末時点のものである。

①業種

…1:小売業、2:卸売業、3:製造業、4:加工業、5:サービス業、6:その他

*2 つの業種を兼業している場合は、その 2 つの番号を記入する

②従業員数(パート等含む)

…1:10人まで、2:11~20人まで、3:21~30人まで、4:31~50 人まで、5:

51~100人まで、6:100人超

③業歴(創業からの年数)

…1:10年まで、2:11~20年まで、3:21~30年まで、4:31~50 年まで、5:

51~100年まで、6:100年超

④資本金

…1:1,000 万円まで、2:1,000 万円超~5,000万円まで、3:5,000万円超~1

億円まで

*個人事業は、「―」を記入

⑤売上高(年間)

…1:5,000 万円まで、2:5,000 万円超~1 億円まで、3:1 億円超~3 億円ま

で、4:3億円超~10 億円まで、5:10億円超~15億円まで、6:15億円超

(2)事業の特徴

事業の特徴については、以下の①~③で表す。「①ビジネスモデル」は、業種 業態に関わらず、自立・提案型でやっているのか、下請・受託型でやっている のかで区分する。この場合の「自立・提案型」とは、いわゆる「下請」でなく、

流通体系の中で独立したポジションを築き、自社主導の価格決定権があり、顧 客の顕在的ニーズに訴え掛けるやり方をしているビジネスモデルを言う。一方、

「下請・受託型」とは、文字通り「下請」の立場であり、取引先の業績(仕事 量)によって自社の生産量が決まり、また価格設定をする際も取引先の意向や 同業他社の横並び意識に強く影響を受け、顧客のニーズに合わせたり、振り回

されたりするようなビジネスモデルを言う。

また、それに関連して、営業のタイプと、研究・企画・開発機能を保有して いるかどうかも表す。「②営業のタイプ」は、新規開拓も手掛ける攻めの営業(新 規開拓型営業)なのか、既存顧客の維持に重きを置く守りの営業(既存維持型 営業)なのか、そもそも営業機能自体を持たないかである。「 ③研究・企画・開 発機能」は、新技術の研究や新サービスの企画、新製品の開発などの機能を保 有しているかどうか、あるいは、それを専門に担当する部署があるかどうか、

専門の担当者がいるかどうかを表す。

①ビジネスモデル

…1:自立・提案型、2:下請・受託型

②営業のタイプ

…1:攻めの営業、2:守りの営業、3:営業機能無し

③研究・企画・開発機能の有無

…1:有り、2:無し

(3)経営者の関係

経営者については、以下の①~⑤で表す。「①何代目の経営者か」は、現在の 経営者が何代目であるかを示す。「②就任前の状況」は、社長に就任する前に、

どういう立場で仕事をしていたかである。社長に就任する会社に、就任前から 勤めている場合で、取締役や部長などの立場で上位のマネジメントに関わる仕 事をしていたのか、現場のマネジャーや従業員として現場で仕事をしていたの か、あるいは、社長就任前は他社で仕事をしていたかである。

「③経営者を経営資源として捉えた場合のタイプ」は、経営者をヒトという 経営資源とした場合に、組織の中でどういった役割ないし機能を担っているか を示す。大きくは、工場や売場などを自ら差配する「親方タイプ」(現場のボス)、

研究・開発等に没頭する「研究者タイプ」、トップ営業などを積極的に行う「営 業マンタイプ」、総務などで地道に事務を行う「事務員タイプ」の 4 タイプで

あり、加えて、何もしない「オーナータイプ」もいる。「④経営者の管理のタイ プ」は、経営者自らきちんと管理しないと気の済まないタイプなのか、放任主 義でマネジャーや現場に任せているのかを表す。

「⑤A力を構成する 4 つの要素」は、第 1 章で提示した「A 力-B 機能」に 関するものである。経営者が A 力を構成する主な 4 つの要素のうちどれを持っ ているかを表す。

①何代目の経営者か

…1:創業者、2:2 代目の経営者、3:3代目の経営者、4:4 代目の経営者

②就任前の状況

…1:自社で、上位マネジメントの仕事、2:自社で、現場の仕事、3:他社で

仕事、4:その他

③経営者を経営資源として捉えた場合のタイプ

…親方タイプ(現場のボス)、研究者タイプ、営業マンタイプ、事務員タイプ、

オーナータイプ(何もしない)

*該当するタイプすべてに○を付ける(完全に該当するところまではいかないが、

ほぼ該当する場合は、△を付ける)、また特に強く当てはまるものには◎を付け る

④経営者の管理のタイプ

…管理タイプ、放任タイプ

*完全に該当するところまではいかないが、ほぼ該当する場合は、△を付ける

⑤A力を構成する主な 4つの要素

…夢(利益)の提示力、人間としての魅力、現場の把握力、トップとしての権 力

*当てはまる要素すべてに○を付け、そうでない要素に×を付ける(完全に当て はまるところまではいかないが、ほぼ当てはまる場合は、△を付ける)、また特

に強く当てはまるものには◎を付ける

(4)マネジャーの関係

マネジメントの 2大ツールの一つである「マネジャー」については、以下の

①~⑦で表す。「①ベテラン・マネジャーの存在」は、会社の中にベテラン・マ ネジャーがいるかどうかである。この場合のベテラン・マネジャーは、原則と して、上位のマネジメントのマネジャー歴が 10 年以上あり、複数のマネジャ ーがいる場合にその取りまとめができ、社長や現場の信任を得ているマネジャ ーである。その基準を完全に満たさないまでも近い存在である場合は、準ベテ ラン・マネジャーとする。「②ベテラン・マネジャーの昇進ルート」は、①のベ テラン・マネジャーがどういうルートで昇進して、そのポジションについたか である。社長の息子など、経営者の一族なのか、一般の従業員から内部昇格し たのか、外部(他社)からの登用なのかである。

「③ベテラン・マネジャーのタイプ」は、①のベテラン・マネジャーがどう いうタイプのマネジャーなのかを示す。具体的には、現場の指揮命令を行う「監 督型」、取引先とのやり取りに長ける「外交型」、管理が得意な「役人型」、経営 者の言いなりで動く「下請型」の 4 タイプである。「④経営者の相性」は、ベ テラン・マネジャーと経営者との相性を示す。この場合の相性は、補完関係に あるかどうかである。前項「③経営者を経営資源として捉えた場合のタイプ」

と前目「③ベテラン・マネジャーのタイプ」とを比較して判断する。

「⑤『番頭型マネジャー』かどうか」は、そのベテラン・マネジャーが、第 4 章で定義付けた「番頭型マネジャー(現代版番頭)」に該当するかどうかであ る。さらに、「⑥『補佐役』として、どのタイプか」は、前目で番頭型マネジャ ーであった場合、青野(1997,pp.70-81)の言う「補佐役の 5 つのタイプ」の どれに該当するかである。また、「⑦『小番頭』の存在」は、これも第 4 章で 定義付けた、組織内部の交通整理をする番頭型マネジャーである「小番頭」が、

会社に存在しているかどうかを表す。

①ベテラン・マネジャーの存在

…○:いる、△:準ベテラン・マネジャーがいる、×:いない