• 検索結果がありません。

本章では、「マネジメント」について、先行研究をレビューし、マネジメント の一般的な考え方を整理して、その概念を明らかにする。

1.中小企業の現場の「マネジメント感」

「マネジメント」という言葉は、中小企業の現場や会議の場などでも頻繁に 使われている。

ただ、よく使われている割に、その意味は曖昧であり、経営者以下、マネジ ャーや現場の従業員は何となく使っているように見受けられる。彼らに「マネ ジメント」の意味を質問しても、おそらく明確に答えることはできず、また、

仮に答えることができても、その答えは皆それぞれ違うと思われる。要するに、

中小企業の現場ではよくわからずに「マネジメント」という言葉を使っており、

裏を返すと、「マネジメント」はよくわからずとも使える便利な言葉なのである。

ただ、はっきりと定義付けて使われていない中でも、筆者がその文脈から認 識できているのは、「マネジメント」を「管理」と結び付けて使っているという ことである。またそれは、「管理」だけでなく、そこに強制的に動かすニュアン スが加味された「統制(コントロール)」に近い場合もある。いずれにしても、

少なくとも、現場を枠にはめ込み、その中からはみ出ないようにするような、

窮屈で、堅苦しいイメージが「マネジメント」にあるのは確かである。

そして、言葉としては頻繁に使われているものの、基本的には、中小企業の 現場は、マネジメントが嫌いである。自分たちが「管理される」からである。

また、マネジャーたちもマネジメントが嫌いである。自分たちが「管理させら れる」からである。それが中小企業の実情である。

2.さまざまなマネジメントの捉え方

前述のように、中小企業の現場での「マネジメント」は、主に「管理」とい う捉え方をされていることが多いが、一般的には「マネジメント」とは、どの ような意味であり、どういった使われ方をされているのかを明らかにするため

に、先行研究をレビューし、マネジメントの一般的な定義付けを図る。

ここでは、本研究の「中小企業におけるマネジメントと業績との関係の明確 化」というテーマに合わせて、大きく中小企業論と管理会計論におけるマネジ メントの議論を見ていくこととする。

(1)マネジメントの古典的な議論

まずは、マネジメント論の原点とも言える、テイラーとファヨールによる古 典的な議論を確認する。

①F.W.テイラー(Frederick W.Taylor)

テイラー(1911)は、従来のマネジメント方法の課題について述べた上で、

これからのマネジメント方法について展開している。テイラーは、従来のマネ ジメントを「自主性とインセンティブを柱としたマネジメント」と呼び、それ を「働き手が最大限の自主性を発揮して仕事に取り組み、雇用主がその見返り に特別なインセンティブを与える仕組み」と定義付けている (Taylor,1911,邦 訳,p.41)。

一方、これからのマネジメントを「科学的管理法(課業タスクのマネジメン ト)」と呼び、「これまでは人材が第一に据えられてきたが、これからは 仕組みシ ス テ ムを 第一に据えなければいけない」とシステムの重要性を主張する。続けて、「最高 の管理(マネジメント)とは紛れもない科学であり、明快に定められた作法、

決まり、原則をよりどころとする」、「科学的管理法の基本原則が、一人ひとり のごく何気ないふるまいから、きわめて緻密な協力体制を必要とする大企業の 業務まで、あらゆる種類の人間活動に当てはまる」としている( 同書,pp.6-7)。

そして、マネジメントの目的は、「雇用主に『限りない繁栄』をもたらし、併せ て、働き手に『最大限の豊かさ』を届けることであるべき」と言う( 同書,p.10)。

②H.ファヨール(Henri Fayol)

ファヨール(1916)は、企業の活動を技術的活動、商業的活動、財務的活動、

保全的活動、会計的活動、管理的活動の 6 つに分け(Fayol,1916,邦訳,p.17)、

中でも「管理的活動」について言及している。管理的職能は「その他の五つの

本質的な職能とはっきりと区別される」とし、「経営、、

と混同しないことが重要で ある」と言う(同書,p.22)。そして、管理することは、「予測し、組織し、命令 し、調整し、統制すること」であるとする( 同書,p.21)。ファヨールは、マネ ジメントにおいて、この一連の「プロセス」を重視しているのである。また、

ファヨールは、管理について、分業、権限、規律といった 14 の一般的な原則 を示している(同書,pp.41-76)。

(2)中小企業論におけるマネジメントの議論

次に、中小企業論におけるマネジメントの議論を確認する。あくまでも「マ ネジメントとは何か」を考察するためのレビューであるため、たとえば、製造 業や小売業など業種ごとの課題についての議論、生産や営業、人事、情報など 個別の経営機能などについての議論など、本研究のテーマと関連性の低いテー マを扱っている議論は、ここでは対象外とする。

我が国における中小企業の議論のあり方をよりわかりやすくするためにも、

まずは海外における中小企業の議論を概観する。

スタインドル(Joseph Steindl, 1947)は、企業規模の違いによる経済的な 問題について論じている。その中で、小規模企業が不利な状況にも関わらず、

根強く残存していることを強調し、その背景として、大資本の発展する過程、

不完全な競争、寡占的状態、小企業家の賭博的な態度の 4 つを挙げている。ス トーリー(David J. Storey, 1994)は、イギリスにおける小規模企業の編成や 発展、貢献、そしてマネジメントについて分析をしており、大企業と比較する ことによって、その成功要因と失敗要因を明らかにしようとしている。また、

経営資源に関する雇用や金融の面からも小規模企業の課題を整理している。ス トーリー&グリーン(David J. Storey and Francis Greene, 2010)は、具体的 な事例を挙げながら、中小企業とアントレプレナーシップ(企業家精神)につ いて述べている。そこでは、中小企業にとって、不確実性、市場力、ライフス タイルという 3つの概念を理解することが必要であることを明らかにしている。

アントレプレナーシップに関する議論は活発であり、たとえば、ティモンズ

(Jeffery A. Timmons,1994)は、アントレプレナーシップの本質は創造的活

動であることを定義した上で、起業のプロセスを述べ、その中で、創業者のあ

り方や、人的資源や財務資源の必要性、ビジネスプランの重要性などについて 明らかにしている。また、ティモンズ&バイグレイブ(Jeffery A. Timmons and

William D. Bygrave, 1992)では、1980 年以降、米国において、成長の早いア

ントレプレナーシップを持つ企業が新規事業を創造しており、ベンチャーキャ ピタルと新規事業の創造におけるその役割を調べている。そこで、新規事業の 地域経済への影響やベンチャーキャピタルの利益率などについて明らかにして いる。

アントレプレナーシップに関して、ミラー(Danny Miller, 1983)は、企業 の 3つタイプから言及している。単純な企業は小規模であり、その権限はトッ プに集中されている。また、計画的企業は、より大規模であり、統制と計画に よって、効率よく、効果的に運営をすることを目指している。有機的企業は、

環境対応に努めており、専門的知識と開かれたコミュニケーションを強調する。

そして、それぞれのアントレプレナーシップについて、単純な企業ではリーダ ーの個性、計画的企業では製品・市場戦略、有機的企業では環境と構造の機能、

と結び付いていることを明らかにしている。また、ミラー(2011)では、これ らの内容を踏まえて、EO(entrepreneurial orientation)についての議論を行 っている。アントレプレナーシップと業績の関係も議論されており、ザハラ&

コビン(Shaker A. Zahra and Jeffrey G. Covin, 1995)は、縦断的な分析を行 い、アントレプレナーシップが企業業績に好影響を与えることを明らかにして いる。

中小企業の社会的役割については、アントレプレナーシップによる社会的な 革新性だけでなく、雇用創出の視点からも議論されている。たとえば、バーチ

(David G. W. Birch, 1987)は、雇用がどのように創出されるかを小規模企業

などとの関係で調査している。その中で、雇用は流動的になっており、それは 会社の成長性、特に小規模企業のそれによるものであることを明らかにしてい る。そして、経営革新は、アメリカにおいてサービス産業を牽引する、先端技 術と高い革新性を持った企業から生じていることなどにも触れている。小規模 企業がその成長性によって、雇用の創出に貢献することは、世界銀行のレポー トとして、アヤガリーら(Meghana Ayyagari et al.,2011)も明らかにしてい る。

中 小 企 業 に お け る 戦 略 の 視 点 で の 議 論 も な さ れ て い る 。 コ ビ ン & ス レ ビ ン

(Jeffrey G. Covin and Dennis P. Slevin, 1989)は、小規模メーカーから集め たデータに基づき、小規模企業における環境の違いによる戦略を議論している。

敵対的な環境では、小規模企業のパフォーマンスは、有機的な組織構造や企業 家的な戦略姿勢、長期方針による競争的なプロフィールなどと関連がある。ま た、好意的な環境では、それは、機械的な組織構造や保守的な戦略姿勢、保守 的な財務管理と短期的な財務方針などによる競争的なプロフィールと関係する。

また、コビン&スレビン(1991)では、戦略的な姿勢に関して、組織レベルに おける企業家的な行動の概念モデルを明らかにしている。アントレプレナーシ ップは戦略的な姿勢としての次元であり、あらゆる種類の組織が企業家的に行 動するべきであるとする。この戦略的な姿勢には、企業としてのリスクをいと わない傾向、競争に勝ち抜くための能力、率先する意識、製品の革新などを含 む。組織モデルの内的変数をトップのマネジメントの価値、哲学、組織的な資 源と能力、組織文化、そして組織構造とすると、外的変数は、環境技術の精巧 化、環境的な活力、環境としての敵対関係、そして工業的なライフサイクルの 段階で構成される。

また、中小企業の成長モデルに関する議論もある。マクマホン(Richard G. P.

McMahon, 1998)は、中小企業の成長モデルを議論し、その概念のフレームワ

ークを検証している。中でも、ハンクスら(S. H. Hanks et al.,1993)の提唱 したライフサイクルモデルに信頼を寄せている。そして、そのモデルが中小企 業の観察で見られる 2 つの乖離した構成を採用しているとする。それは、ライ フスタイルにおけるビジネスと制約された成長のために選択したビジネスであ る。バーレイ&ウェストヘッド(Sue Birley and Paul Westhead, 1990)は、

小規模企業の成長段階について議論を展開している。成長を比べるものとして、

従業員数と売上高、収益性の 3 つの要素を用いている。そして、分析により、

小規模企業の 8つの異なるタイプを確認している。その際の内部変数は、所有、

管理、生産構造であり、外部変数は、製品と市場のポジショニングである。

さらには、中小企業に特有の同族会社の視点から議論をしているものもある。

たとえば、クリスマンら(James J. Chrisman et al.,2005)は、同族会社の戦 略的管理の理論について議論をしている。そこでは家業を定めるにあたり、そ