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前章の番頭型マネジャー(現代版番頭)に続き、本章では PDCA サイクルを 考察する。ここでもマネジメントとの関連だけでなく、PDCA サイクルの存在 そのものを一から検証し、その全容と本質の明確化を図る。

これまでも述べてきたように、中小企業のマネジメント のツールの一つとし て、仕組みとしての PDCA サイクルがある。この PDCA サイクルは、確かに 企業活動の基本であり、実際、多くの企業で日常的に行われている。ただ、そ の回し方は企業によって千差万別であり、企業の数だけ PDCA サイクルが存在 すると言ってもよい。それぞれの企業が独自の PDCA サイクルを持っており、

特徴的なマネジメントを行っている。中小企業には、大企業とはまた違った、

ユニークで、個性的な PDCA サイクルがある。大企業の PDCA サイクルが会 社全体の組織的な仕組みとして機能するものだとすると、中小企業の PDCAサ イクルは、会社全体ではなく部分ごとで機能する仕組みであり、それが現場で はさらに個人的な側面の強い仕組みになっている。

本章では、そういった中小企業の現場での PDCA サイクルの実態を明らかに するとともに、そのモデル化を図り、代表的なパターンをわかりやすい形で提 示する。そして、それらを踏まえて、PDCAサイクルの視点から、中小企業の マ ネ ジ メ ン ト の 特 徴 と 課 題 を 明 ら か に し て い く 。 中 小 企 業 の 現 場 に 相 応 し い PDCA サイクルの回し方を考察する。

1.「 PDCA サイクル」とは

PDCAは、Plan→Do→Check→Action の略であり、実行の前にあらかじめ「計

画」し、「実行」した後にその出来を「評価」し、その評価に基づいて必要な「改 善」を図るという管理の仕組みを言う。PDCA サイクルという言葉からもわか るように、サイクルとして環状的に、継続的に回すところに特徴がある。本節 では、まずその PDCA サイクルのこれまでの流れと、今日での使われ方を確認 する。

(1)PDCA サイクルの流れ

「科学的管理法の父」と呼ばれるテイラーは、その著『工場管理法』(1903)

の中で、工場の管理は「計画部」がすべきとし、「計画→実行」という基本概念 を確認した上で、その計画部の機能として、分析、(時間)研究などを行い、標 準をつくって管理することの必要性を述べている。テイラーのそういった生産 現場での作業管理の理論に対して、組織全体としての管理についての理論を展 開したのが、管理過程学派の始祖であるファヨールである。第 2 章でも触れた が、ファヨールは、その著『産業ならびに一般の管理』(1916)の中で、企業 の活動を技術的活動、商業的活動、財務的活動、保全的活動、会計的活動、管 理的活動の 6 つに分類した上で、特に管理的活動の重要性に着目し、「管理」

を「予測、組織、命令、調整、統制」の 5つの要素(プロセス)からなると定 義付けた。

このような古典的な管理の理論を前提に、統計的管理の概念を構築したのが シューハート(Walter Andrew Shewhart)である。石川(1984)らによると、

シューハートは、1920 年代~30 年代にかけて、「管理図」の基本を生み出し、

統計的管理の考え方を製造工程に持ち込み、統計的品質管理を行うことを提唱 した。このシューハートとともに、その考え方をさらに発展させたのがデミン

グ(William Edwards Deming)である。デミングは、シューハートの統計的

品質管理に影響を受け、それを応用して工業生産の効率化を図ることに尽力を 注いだ。そして、1950 年、日本で統計的管理と品質の講演を行い、その重要性 を経営者に説いた。その際、我が国に持ち込まれたのが「デミング・サイクル」

と言われる品質管理の概念であり、これが今日の PDCAサイクルの考え方のベ ースになっている。1980 年代になって、デミングは、評価をより詳しく行うと いうニュアンスから、Check ではなく Study とした「PDSA」という考え方を 用いるようになっている71

71 デ ミ ン グ(1994)で は、「 製 品 や 工 程 を 検 討 し 改 善 す る た め の フ ロ ー ダ イ ヤ グ ラ ム 」と し て 、PDSA サ イ ク ル 」 が 紹 介 さ れ て い る 。「S」 は 「Study」 を 表 し 、 結 果 の 検 討 を 意 味 し て い る (Deming,1994, 邦 訳,pp.150-151)。

(2)PDCA サイクルの今日的意義

前 項 の よ う に 、 元 々 は 工 業 生 産 の 現 場 に お け る 品 質 管 理 の た め に 発 達 し た PDCA サイクルであるが、今日ではさまざまな場面で PDCA サイクルが活用さ れ、またそれを応用した考え方も多岐にわたって生み出されている。具体的な いくつかの例を見ていく。

たとえば、国際標準化機構(ISO)が定めた品質マネジメントシステムの規

格である ISO9000 や、環境マネジメントシステムの規格である ISO14000 に

も PDCAサイクルの考え方が取り入れられていることもその一つである。同様 に、食の安全を守るシステムにも共通することから、ハサップ(HACCP:Hazard Analysis Critical Control Point)にも取り入れられている。

また、PDCA サイクルが元々得意としていた品質管理においては、1980 年代 にシックスシグマという手法が開発された。これは品質管理において、エラー やミスの発生率を下げ、バラつきを抑制しようというものであるが、そのプロ セスは MAIC と呼ばれるプロセスを通じて行われる。Mは Measurement(測 定)、Aは Analysis(分析)、I は Improvement(改善)、C は Control(改 善結果定着のための管理)であり、MAIC プロセスはPDCA サイクルの発展形 と言えるものである。

もう少し企業経営の全体に目を向ける。昨今、IT 業界を中心にさまざまなビ ジネスシーンでも取り入れられているプロジェクトマネジメント(PM)もそ の基本は PDCA サイクルを回すことである。このプロジェクトマネジメントに ついては、プロジェクトマネジメント協会(PMI)が提供する知識体系である PMBOK(Project Management Body of Knowledge)が知られているが、そ の中ではプロジェクトの流れを 5 段階で捉えており、「立ち上げ→計画→実行

→監視・コントロール→終結」というプロセスとしてまとめられている。同様 に、企業にガバナンス重視の経営を促す日本版 SOX 法(2006 年成立)に基づ く「内部統制」の整備においても、いかに的確に PDCAサイクルを構築できる かどうかがカギを握るとされている。また、バランスト・スコアカード(BSC)

との関係付けもされてきた。ここ数年来、経営手法の一つとして、BSC の活用 が多くの企業で検討されている。この BSCと PDCAの関係について、櫻井(2 004)は、従来の中期経営計画のやり方では、PDCA サイクルにビジョンや戦

略を効果的に統合させることができなかったが、BSCを導入することによって、

PDCAサイクルにビジョンや戦略を効果的に統合することが可能になるとして いる(櫻井,2004,pp.24-25)。

それでは、組織文化の成り立ちと PDCA サイクルの関係はどうであろうか。

組織文化の構成要素のうちキーとなる「知識」に目を向けると、ナレッジ・マ ネジメントの考え方が浮かぶ。野中・竹内(1996)では、「形式知」と「暗黙 知」が「4 つの変換モード」によってスパイラルに高められ、組織としての知 識を創造することが述べられている(野中・竹内,1996,pp.91-109)。それを踏 まえ、井上(2005)は標準(計画)を作り、それを実行、評価、改善(標準の 改定)する中で、標準がメンバーに共有され、想像性や創造性となって、新た な価値が創造されるとする。このとき、標準書に明文化されるのが「形式知」

であり、明文化されないのが「暗黙知」である( 井上,2005,p.58)。PDCA サイ クルを回す中で、知識が共有され、組織の文化として形成されるのである。

(3)PDCA サイクルの応用

PDCA と 似 た よ う な 概 念 に SDCA が あ る 。PDCA の P の 代 わ り に S

(Standard:標準化)を入れたものである。PDCA が計画(目標)を立て、そ

れに向かって「改善」するためのサイクルだとすると、SDCA は標準を決め、

それを「維持」するためのサイクルと言える。PDCA で改善し、SDCA でそれ を維持し、また必要に応じて PDCA で改善するという、2 つのサイクルに交互 に取り組み、それをサイクル化することが大切である。

一方、C(Check)の評価から先にすべきだという考え方もあり、それは CAPD

というサイクルで表される。PDCA と SDCA、CAPD という 3 つのサイクルに ついて、高橋(1991)は、活動のタイプによって回し方が異なるとし、維持活 動の場合は SDCA、改善活動の場合は CAPD、開発活動の場合は PDCA と整理 している(高橋,1991,pp.76-77)。また、PDCA と CAPD については、どちら が効 果 的か と いう 研 究も な され て おり 、 たと え ば、 椿 ら(2010)は 、 学習 型 PDCA と CAPD を比較し、どちらか効果的に学習できるか等を検証している。

2.「 PDCA サイクル」の課題

本章においては、中小企業の現場のPDCA サイクルの実態を明らかにすると いう目的からも、もう一度 PDCA サイクルの原点に立ち返り、その本質の明確 化を図っていく。そういった意味でも、ここで少し先行研究を確認しながら、

PDCA サイクルの課題を考察する。

(1)PDCA サイクルの曖昧さ

前述のように PDCA サイクルはさまざまな場面で活用され、その場面に応じ てさまざまな顔を持つ。使う人、使う企業の数だけ、それぞれの PDCA サイク ルがあると言っていい。それは、裏を返せば、PDCA サイクルの曖昧さでもあ る。この点について、藤田(1990)は、「管理をする」という活動を統制、管 理、経営の 3つのレベルで捉えて、研究者ごとの「PDCAを回す」の使い方や 言葉の定義を整理した上で、「PDCA を回す」ということは、「基本的な行為の 手順を示すもので、定義も不明確であり、使う人の考え方でどのようにでも使 うことができる、あいまいな概念なのである」(藤田,1990,pp.64-65)と結論付 けている。使う者を選ばない柔軟さと、捉えどころのない曖昧さが PDCA サイ クルの魅力なのである。

(2)PDCA サイクルの限界

PDCAサイクルの曖昧さだけでなく、その限界を考察する議論も行われてい る。小室(2009)は、リスクマネジメントシステムの視点から PDCA の限界 を論じており、「PDCA は、あくまで斬新的に変化する状況において有効なマ ネジメントサイクルであり、状況の変化に応じて大きな変革をもたらすのに有 効なものではない」とし、こうした PDCA の限界は、PDCA の持つ 3 つの前提 に起因するものだとする。その 3 つの前提とは、「組織をクローズドシステム ととらえていること、トップダウンの命令系統という特徴を有すること、計画 と執行が分離されていること」である。その上で、計画の妥当性の評価や計画 に外部の視点を入れるといった課題克服の方向性を示している(小室,2009,pp.

7-11)。PDCA サイクルには限界がある ので、それを否定しようということで なく、その課題を克服し、より良い PDCA サイクルの構築を目指すべきなので