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中小企業のマネジメントは、「しっかり-きっちり」に代表されるマネジメン トと、「ちゃっかり-ざっくり」に代表される アナザーマネジメントの大きく 2 つから成り立つことを見てきた。ただ、いずれのマネジメントであれ、現場に おいてそれが実際に機能しているということは、それを動かしている何かがあ るのである。

その何かは、「仕組み」と「ヒト」である。つまり、マネジメントには、仕組 みで動いている場合と、ヒトが動かしている場合の 2 つがあるのである。この 場合の仕組みは、「PDCA サイクル」であり、この PDCA サイクルをいかに回 すかがその論点になる。一方、この場合のヒトは、マネジメントを動かす、す なわちマネジメントをすることから、基本的には、いわゆる「マネジャー」と いうことになる。

実際の中小企業では、そのどちらかに頼りながら、マネジメントを行ってい る。もちろん、必ずどちらか一方だけということではないが、その企業の置か れている状況や成長段階によってどちらかに片寄りがちになるのが実際のとこ ろである。わかりやすいイメージで言うと、経験豊富なベテラン・マネジャー がいれば、仕組み(PDCAサイクル)など気にせずとも、そのマネジャーの感 覚的な差配で、現場はしっかりと回るはずである。逆に、現場を引っ張ってい くような強力なマネジャーがおらず、一般的なマネジャーの下、全員で話し合 いながら進めていくような現場であれば、きちんと仕組 み(PDCA サイクル)

で回すやり方の方が適しているであろう。

つまり、経験豊富なベテラン・マネジャーの存在の有無が、その中小企業の マネジメント・スタイルを決めることになるのである。そのベテラン・マネジ ャーの中でもより強烈な個性を放つ「番頭型マネジャー」は注目に値する。仕 組み(PDCA サイクル)に頼らずとも、その存在感で組織をマネジメントして いける力強さが番頭型マネジャーにはある。本章では、本研究においてマネジ メントの 2 大ツールの一つと位置付ける番頭型マネジャー(現代版番頭)につ

いて考察する52

番頭型マネジャーと PDCAサイクルは、中小企業のマネジメントの 要諦であ るため、マネジメントとの関連性だけを議論するのではなく、いったん視点を 大所高所に移し、番頭型マネジャーの存在そのものを一から徹底的に検証し、

その概念について明確化を図る。マネジメントとの関連性にこだわって議論す ると、番頭型マネジャーと PDCA サイクルの全容と本質を明らかにすることが できず、結果、マネジメントとの関係付けを誤ってしまうおそれがあるからで ある。2 大ツールである番頭型マネジャーと PDCA サイクルの実態を徹底的に 検証することが、本研究のテーマであるマネジメントの本質に迫る近道なので ある。また、この考察を進める中では、マネジメントだけでなく、さまざまな 視点から中小企業の実情と可能性が明らかにされるが、本研究の目的にもつな がる部分なので、ここで合わせて確認をしておく。

1.番頭型マネジャーの存在

これまでさまざまな中小企業の現場でフィールドワークを行ってきたが、そ こでは幾人もの特徴的なマネジャーの存在を確認してきた。その中で、筆者が

「大番頭」、「小番頭」と位置付けているマネジャーたちがいる。本章では、そ の大番頭型マネジャー、小番頭型マネジャーの特徴を見ながら、実際の中小企 業におけるマネジメントのツールとしての機能を考察していく。

この考察で特に重要なのは、「現代版番頭」という概念の構築である。番頭に ついて、過去の研究では、歴史を調べ、その流れの中で実在した大物番頭たち の実像に迫り、その共通項をエッセンスとして解釈するというものが多く見受 けられる53。ただ、いずれも大規模組織での話であり、中小企業の普通の...

番頭 たちにスポットを当てた考察を試みるところに本章の特徴がある。また、番頭 だけを捉えてその特徴を議論するのではなく、一般的な「マネジャー」との相

52 本 章 で は「 現 代 版 番 頭 」と「 番 頭 型 マ ネ ジ ャ ー 」と い う 2つ の 語 句 を 使 用 し て い る 。現 代 版 番 頭 は 、 江 戸 時 代 に 発 生 し た 商 家 等 の 番 頭( 一 般 的 に イ メ ー ジ さ れ る 番 頭 )に 相 対 す る 新 し い 概 念 の 番 頭 と し て の イ メ ー ジ を 表 し た も の で あ り 、番 頭 型 マ ネ ジ ャ ー は 、マ ネ ジ ャ ー の 類 型 の 一 つ と し て 表 し た も の で あ る 。ま た、大 き く は 組 織( 経 営 者 )か ら見 た 存 在 と し て 現 代 版 番 頭、職 務( 役 割 )か ら 見 た 存在 と し て 番 頭 型 マ ネ ジ ャ ー と 言 う こ と も で き る 。 そ の よ う に 視 点 は 違 う が 、 同 じ 人 材 を 表 し て お り 、 本 章 で は 、 文 脈 に よ っ て 適 宜 使 い 分 け て 用 い て い る 。

53 本 章 で 引 用 し た 青 野 (1997) の 他 、 佐 藤 (1983) や 山 本 (1984) な ど が あ る 。

違比較によってその特徴を明らかにする。さらには、番頭が存在するという中 小企業の現実を明らかにし、番頭という視点から中小企業が抱える諸問題も、

ここで合わせて議論していく。実際の事例も確認しながら、現代の中小企業に 生きる番頭たちの姿を追究する。

2.「マネジャー像」の考察

本章のテーマである「現代版番頭」の概念を明らかにするために、まず「マ ネジャー」という概念を明らかにしていく。ここでは、特に、マネジャーの役 割ないし仕事という視点からいくつかのマネジャー論を確認し、具体的にイメ ージできる、わかりやすい「マネジャー像」というものの構築を試みる。

2-1.ドラッカーとマグレガー

ファヨールの古典的な管理論から始まり、さまざまなマネジメント論やマネ ジャー論が展開されてきた。本章では、前述のように、具体的にイメージのし やすい「マネジャーの役割」という視点から考察する。その中で、たとえば、

ドラッカーのマネジャーに関する見解は、次のようなものである。ここでは、

マグレガーの見解と合わせて見ていく。

(1)P.F.ドラッカーの見解

ドラッカー(1954)は、マネジメントの適性として「真摯さ」を挙げる。す なわち、真摯さに欠ける者が経営管理者になることにより、組織が腐敗し、人 材が台無しになり、組織の文化が破壊され、業績が低下する、と言う。マネジ ャ ー と し て の 資 質 と し て 、 真 摯 さ の 重 要 性 を 強 調 し て い る の で あ る

(Drucker,1954,邦訳[上],pp.218-220)。

その上で、経営管理者には 2 つの特有の課題があるとする。第 1 の課題は、

「経営管理者は、部分の総計を超える総体、すなわち投入された資源の総計を 超えるものを生み出さなければならない」ということである。第 2 の課題は、

「経営管理者はあらゆる意思決定と行動において、当面するニーズと長期のニ ーズを調和させなければならない」ということである。そして、これらの課題

は、経営管理者以外の者では果たせない課題であり、これらを課された者は、

すべて経営管理者であると言う(Drucker,1954,邦訳[下],pp.210-213)。ドラッ

カー(1954)は、課題という視点から、経営管理者、すなわちマネジャーを定

義付けているのである。

ドラッカーは、経営管理者の仕事には基本的な活動が 5 つあるとしている。

それは、①目標を設定すること、②組織すること、③動機付けを行い、コミュ ニケーションを行うこと、④評価測定すること、⑤部下を育成することの 5つ である(同書,pp.213-217)。

これらを総合すると、ドラッカーの描くマネジャー像が見えてくる。すなわ ち、真摯さを持ち、5 つの基本的な活動(仕事)を行って、2 つの課題をクリ アするのがマネジャーなのである。

ただ、注目すべきは、ドラッカーは「経営管理者を経営管理者たらしめるも の」として、経営管理者の定義付けを行っており、「誰が経営管理者であるかは、

役割と期待される貢献によってのみ定義される」とする。経営管理者を他の人 から区別するものとして、教育的な役割の有無があり、経営管理者だけに期待 される貢献が、他の人にビジョンと能力を与えることであるとしている。そし て、「つまるところ、経営管理者を経営管理者たらしめるものが、彼自身のビジ ョンと責任である」とまとめている(同書,pp.222-223)。

(2)D.マグレガーの見解

マグレガー(1967)は、管理者の役割について、実際の管理者の行動は、職 位明細書などに定義された公式的な役割からはほど遠いことを指摘し、その理 由を「役割に対する圧力」という視点から考察している。この役割上の圧力は、

企業内部に存在するものと企業外の社会に存在するものの大きく 2 種類あると する。そして、「一方では、管理者は企業の経済的遂行に貢献するという唯一の 責任を負っているという見解がある。他方では、管理者は経済的責任のほかに、

社会的責任を負っている」とし、管理者の典型的なタイプは、「矛盾の多い、二 面的なもの」であるとしている(McGregor,1967,邦訳,pp.65-72)。

さらに、役割上の圧力だけでなく、管理者自身の特性によっても影響される ことを指摘している。ここで言う特性とは、管理者の世界観、価値観、欲求、