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前章の先行研究からのマネジメントの一般的な考え方を踏まえて、中小企業 のマネジメントについて考察を行う。筆者による中小企業の現場でのフィール ドワークに基づき、さまざまな場面を想起して、中小企業のマネジメントを考 察する。

1.中小企業のマネジメントについての考察

中小企業のマネジメントについて、次のような視点からの考察に基づいて定 義付けを行い、その概念を明らかにする。

(1)「経営資源」からの考察

経営資源を現場にインプットし、何らかの作業を行った結果、アウトプット が生まれる。これが現場の基本的な流れであるが、マネジメントを行うことに より、マネジメントを行わない場合により、アウトプットの成果が高まる。こ の場合の成果向上は、たとえば、量のアップ、質のアップ、スピードのアップ、

経営資源(たとえば、作業員、機械設備、原材料、エネルギー)の削減などで あり、その結果、売上アップ、利益率アップにつながるのである。このように 考えると、

定義①:マネジメントとは、経営資源に作用し、アウトプットの成果ないし 精度を高めるもの

という定義付けができる。この場合の「経営資源」で特に大事なものは、当然 に「ヒト」である。組織はヒトで構成され、他の経営資源(ヒトを含む)を動 かすのはヒトだからである。現実的に、マネジメントをその対象で考えるとき には、焦点をヒト(あるいはその集合体である組織)に絞る必要がある。

(2)「基準」からの考察

実際の経営の中では、さまざまな基準が設けられる。たとえば、経営目標(売 上、利益、シェアなど)、行動目標(活動指標、成果指標)、作業基準(時間当 たり生産個数、不良品発生率など)などである。そういった、何らかの基準を クリアするために行うもの、それがマネジメントである。このように考えると、

定義②:マネジメントとは、設定した基準と現実(結果)を比較し、そのギ ャップ(差異)を埋めるためにアクションを起こすことを要求する もの

という定義付けができる。ここでのポイントは、アクションを「起こす」ので はなく、起こすことを「要求する」という部分である。マネジメントする者が 自らアクションを起こす必要はなく、現場にアクションを起こすことを要求す るのである。

(3)「やり切ること」からの考察

さまざまな現場を観察してきた中で、もっとも難しいと思われるのは、最後 までやり切ることである。その視点から考えると、

定義③:マネジメントとは、事業活動や行動、作業を最後まで継続させるも の

という定義付けができる。戦略的な目標を伴うものについては、その達成まで、

戦略的な目標を伴わない日常的な作業については、その業務がなくなるまで、

やり切らせるということが必要である。

ここまで 3 つの定義を確認したが、この 3 つは関係しており、定義①の「ア ウトプットの成果の向上」が、定義②の「何らかの基準(目標)」になる場合も あり、また、その「何らかの基準(目標)」の達成まで継続させるというのが、

定義③と結び付くこともあることがわかる。

その中でもマネジメントにとって重要な要素は、「継続」であると考えられる。

継続することによって、成果が高まり、また、継続することによって、目標も 達成できるのである。これは、見方を変えると、達成できるまで継続するとい うことでもある。

そうやって突き詰めていくと、マネジメントとは、定義③のように、「続けさ せること」、「継続させること」であり、マネジメント力とは、「最後までやり切 らせる力」と定義できるのである。【図表 3‐1】。まさに「継続は力なり」であ り、継続させることによって業績も向上するのである24

【図表3-1】マネジメントのイメージ:「成果」と「目標」と「継続」の関係

(出所:筆 者 作 成)

そうであるならば、マネジメントの勘所は、組織内に継続できる仕組みを持 っているか、そういった仕組みを作ることができるかということになる。後述 のように、実際の中小企業においてマネジメントの方法は大きく 2 通りあり、

1 つはマネジャーの感覚など個人に頼ったものであり、もう 1 つは、会議など を通じて行おうとする仕組みによるものである。人間には寿命があり、いくら 素晴らしいマネジャーといえど、いつかは引退するということを考えると、継

24 会 社 の 究 極 の 目 的 は 、ゴ ー イ ン グ・コ ン サ ー ン で あ る が 、そ の 視 点 か ら 定 義 付 け る と、「 マ ネ ジ メ ン ト と は 、ゴ ー イ ン グ・コ ン サ ー ン を 実 現 す る も の 」で あ る 。ゴ ー イ ン グ・コ ン サ ー ン の た め に マ ネ ジ メ ン ト を 行 う の で あ る 。

目標 成果

マネジメント 継続

続という点からは、仕組みによるマネジメントが重要ということになる。

(4)「マネジメントの目的」からの考察

中小企業の実際の現場レベルの視点でさらにもっと考察し、「マネジメントの 目的」という視点から見直してみる。

中小企業に限ったことではないが、企業にとってもっとも重要な課題は、い かに最大のパフォーマンスを引き出すかである。つまり、業種業態や規模はす べて違うものの、それぞれにとっての「組織としてのパフォーマンスの最大化」

がマネジメントの目的と言える。そこに組織の関心が集中し、さまざまなビジ ョンと思惑が発生することになる。

そこで企業は、経営資源の最たるものであるヒトが発揮するマンパワーの最 大化を図るために適材適所を実現し、その最適化した組織を狙い通りに機能さ せるために PDCA サイクルを回すのであるが、ポイントは、その PDCA サイ クルの回し方にある25

PDCA サイクルは、サイクルとして「回し続ける」という部分が勘所なので ある。この「回し続ける」というポイントが、先述の「継続させる」に重なっ てくる。つまり、PDCA サイクルという管理手法を使ってマネジメントを説明 すると、

定義④:マネジメントとは、PDCA サイクルを回し続けさせるもの と定義付けることができる。

この PDCA サイクルは、現場にとっても有効である反面、それをきちんと遂 行するのは、非常に面倒なものである。その理由は、具体的には、PDCA サイ クルを回すためには、①余計な会議が増える、②各種のレジュメを作らなけれ ばならない、③データの収集が必要になる、などである。つまり、現場の従業 員からすると、PDCA サイクル、すなわちマネジメントは、非常に 厄介で面倒

25 PDCAサ イ ク ル に つ い て は 、 第5章 で 詳 細 に 検 証 し て い る 。

なものという認識があるのである。そういった視点から、マネジメントを捉え ると、

定義⑤:マネジメントとは、会議の開催や書類の作成、データの収集などの 作業を伴う、あるいは作業を発生させる、非常に面倒なもの

と定義付けできる。前章第 1 節の中小企業の現場の「マネジメント感」でも触 れたが、マネジメントは現場からすると両手を挙げて歓迎されるものではない というのが実情である。

(5)「組織全体」からの考察

マネジメントの定義について考察を進めてきたが、前述の 5 つの定義26を一 体として見てみると、「中小企業のマネジメント」という視点からは 、やや違和 感を覚えるのも確かである。それは、いずれも中小企業の「現場」を中心とし た見方になり過ぎてしまっているからではないかと考えられる。本研究で明ら かにすべきは、「現場のマネジメント」ではなく、「中小企業のマネジメント」

である。したがって、「マネジメントの定義」を議論する上では、あまりにも現 場に近づき過ぎるのではなく、もう少し大所高所に立った視点が必要である。

確かに現場が大事であり、現場力が中小企業の源泉ではあるが、会社は現場 だけで成り立っているわけではない。現実対応の中小企業だけを議論するので あれば現場だけの視点でもいいが、将来に向けての中小企業を議論するには、

もっと全体を意識した、マネジメントの捉え方をしなければならない。それに は、中小企業の全体構造を明らかにし、その構造とリンクさせながら、マネジ メントを考察する必要がある。

26 も ち ろ ん 、 こ の 5つ の 定 義 が す べ て だ と い う こ と で は な い 。 さ ま ざ ま な 角 度 か ら 考 察 を 加 え て い く と 、マ ネジ メ ン ト の 定 義 は 無 限 に あ る よ う に 思 わ れ る 。実 際、研 究 者 に よ っ て 、あ る い は 同 じ 研 究 者 で も そ の 使 わ れ る 場 面 ご と に 、 さ ま ざ ま な 捉 え 方 を し て い る こ と が う か が わ れ る 。

【図表3-2】中小企業の構造とマネジメントの関係

(出所:筆 者 作 成)

大企業とは違い、図表 3‐2 の左側のように、多くの中小企業は単純な構造 で成り立っている。一見複雑に見える中小企業もあるが、実際は「経営者-マ ネジャー-現場」という単純な構図ないし機能に整理できる場合がほとんどで ある。そして、その構造に基づき、事業活動を行っている。それは、経営者が 思い、マネジャーなどが何をするかを考え27、現場がそれを上手くやる、とい う単純な活動で成り立っているのである。第 1章でも同様のことを既述したが、

結局、中小企業のすべての活動は、経営者の経営理念を実現するために「何を するか」28と「どうするか」という単純なロジックで成り立っていることに行 き着き、これがマネジメントのテーマになるのである。すなわち、

定義⑥:(中小企業にとって)マネジメントとは、アクションの決定と、その 実行を司ること

と定義付けることができる。「何をするか」というアクションの決定は、意思決

27 「 何 を す る か 」 は マ ネ ジ ャ ー だ け が 決 め る の で は な く 、 経 営 者 が 決 め る 場 合 な ど も あ る 。 ま た 、 後 述 す る よ う に、い わ ゆ る「 意 思 決 定」だ け で ア ク シ ョ ン が 決 ま る わ け で は な く、本 研 究 に お い て は そ の 点 が た い へ ん 重 要 な 意 味 を 持 つ 。

28 端 的 に 言 う と 、 定 義 ① ~ ⑤ の 議 論 に 欠 け て い た の が 、 こ の 「 何 を す る か 」 の 視 点 で あ る 。

何をするか

どうするか 経営理念

マネジャー

現場 経営者