プ ラ ズ マ C V D に よ る カ ー ボ ン 膜 の 生 成
松 島 久 夫
1. ま え が き
カーボン膜 に関す る研究 は.従 来 よ り広 く行 なわれ,硬 質性 カーボン, ダイヤモ ン ド状 カ ーボン(1〜4)な ど超硬質性を有す る もの, また. カーボンお よび カーボン化合 物 の電子 デノミイ ス‑ の応 用 な ど興味あ る報 告が な され てい る.硬質膜 については.耐摩耗性 な ど機械 的強度 のあ る被膜 へ の応 用 が検討 され,電子 デノミイスに向け られた研究 としては非 晶質 カーボン膜 のスイ ッチ ング素子(5〜6), カーボンー シ 1)コソ‑ テ ロ接 合(7). カーボン金属化合物 の 超電導 膜(8).半導 体材料 としての シ リコンカーJIイ ト膜(9)の生成 な どをあげ る ことが で きる. この よ うに カーボンは単体 として また化合 物 として も使 用 され.資源的 に も豊富 で あ るこ と, 容 易 に得 られ ることな ど従 来か ら半導体材料 として使 用 され てい るシ リコン と同様,電 子,機 械材料 としての応 用開発 が望 まれ る.
一般 に, カーボン膜 を得 る方法 としてほ,炭化水素 ガスを常圧 あ るいは減圧下 で熱分解 す るCVDQ功, イオ ン ビ‑ム蒸着 (1‑2). 真空蒸着(5)等 が あ るがいずれ も1100oC以上 の 高温 を 必要 とす る. カーボ ン膜 を常温 で生成 した場合 は.非晶質か あ る い は高抵抗 (抵抗率 :1012
E2‑cm)の もの とな る.
本研究 においては, プ ラズマエ ソ‑ ソス メソ ト下 にお け る低圧 プ ラズマCVDに よ り気 相 炭化水素 (ガス化C6HO)を熱 分解 し, 低温で カーボン膜 を生成 させ, さ らに太陽電池用電 極 な どえ使 用で きる高導電性を持 つ カーボ ン膜 を得 るた めの生成条 件,結 晶構造.電気 的特 性 な どにつ いて考 察を行 った.
2.試 料 生 成
図1に示 す よ うに炭化水素 ガスは. ニー ドル,:ル ブに よ り反応 容器内に導 びかれ,圧 力 は ほぼ1.2Torrに保たれ る.反応 容器は外径42mmの石英管 で この周 囲には誘 導 コイルが巻 か れ てい る. これ に高周波発振器 (IMHz)の出力 (約50W)を加 え ることに よ り, 石英管 内 に無電 極放電を生 じ炭化水素 ガスは プ ラズマ化 され る. また,石英管 の一端 は ロー タ T)‑ポ ンプに接続 され て排気 が行 なわれ るが,石英管 の排気 口には ピラニ真空 計が接 続 され てい る.
使用 した基掛 ま石英板 (10×10×1mm8), シ リコン板 な どで これ らの基板 を, 反応管 の 中央部 に設 けた モ 1)プデ ソ ヒーターに よって加熱 し, そ の温 度を400oC〜1000oCの範 囲で 変化 させ試 料を生成 した.
* 昭和57年4月 第29回応用物理学関係連合会話浜会で発表 榊 電気工学科 助教授
原稿受付 昭和58年9月30日
Induction Coil Quarヒ・L Tube
Thermocouplc BZH 火映,y<作図
(uT∈\V)#jfy也
ユ01
10L
1.1 1.2 1.3 1.i 1.5
1Jス 圧 力 (Torり
図2 カーボソ股成長特性
3.実験結果お よび考察
図2に熱分節温度400oC,R.F.山力42Wの もとにおけ るカーポソ膜 の成長速度 とガス圧 の関係を示 してあ る.図 よりガス圧1.2Torrの ところで/生長速度 が最大 とな ってい るが, こ れ とJ・.‑J様 な現象がCVDに よるシ リコソー カーバイ ド膜 の生成時 に も存在す ることが報告 さ れてい る的.
3‑1結晶性
生成 した カーボン脱 の結lTIl性を検討す るため 電子線 回折を行 った.回折 /くクーンを図3に示 l す. これ に よ り熱分脈温度が700oC以 ヒで生成 された カーボン膜 については三つ の(,il折 リング が明瞭に認め られ,内側 の リングよ りそれ ぞれ グラフ ァイ ト結 晶の (002),(100),(l上o)に対 応す るものであ り, グラフ ァイ トの面h'即宿とほ ぼ一致 してい る.
単結晶 シ リコン基板上 に生成 した カーポソ膜 を 刺離 して試料 とした ものの透過像であ る.図に おいて微細結 晶粒子が観察 され るがその大 きさ は,20‑30Å と推測 され る.以上 より熱分解温 度 が700oC以上 で得 られた カーボン膜 は,か な り結晶化が進 んでお り, グラファイ トの微細結
(a)b‑ 3日 印 ・ ( 'O。.亡,
竺 透過電子管讐鏡像亨図4に示す・ これは 暮華
図 4 透過電子顕微鏡像 国 3 電子線回折像
プラズマCVDによるカーボン膜の生成 57
晶の集まりか らなっていると考えられる.
3‑2赤外線吸収
カーボン膜中の水素結合の状態は膜の性質はもとよりその生成過程を検討するうえにも重 要である.そこで赤外線吸収の測定により水素結合の状態を しらべた.
図5,6に400oC,700oCの各熱分解温度に対す る赤外線吸収スペ ク トルを示す.図に示 す ようにカ‑ボン膜はい くつかの吸収ディップを持 っているが, これを回申の記号に対応 さ せると次のようになる.
糾波数3410 C‑H伸縮振動 (B) 波数1610 C‑C環伸縮振動 (C)波数1000 C‑H面内変角振動 脚 波数 785 C‑H面外変角振動
液相などの芳香族は,非常に急峻なディップを持つが.固相であるカ‑ボン膜は液相ほど自 由度がないため図のようにブロー ドな吸収スペ ク トルが得 られている.以下.各デ ィップに ついてその温度による影響をみると,紬の伸縮振動による吸収は熱分解温度が低 くなるにつ
5 6& 長 EPm7 8 10 14
0087
(%)絡照相
3200 2000 禁oS {cm‑i,1290 図5 赤外線吸収スペクトル(400oC)
800
れて次第に大 きくなっている.これは.カーポ'/膜中の結合水素濃度が増加 しているためで ある.僻の環伸縮振動による吸収は熱分解温度にかかわ らずほぼ一定である. よって低温熱 分解か ら炭素六員環が形成されていることが分かる.(C),031の変角振動は特に低温で著 しい.
このことか ら炭素六員環の水素置換数が増大していることが分かる.
以上より低温でカーボン膜中に含まれているC‑H結合の水素基は.熱分解温度が高いほ ど カーボン膜中より離脱 していることを示 している.
3‑3電気的特性
図7に生成 カーボン膜の抵抗率の熱分解温度依存性を示す.図 より熟分解温度が低いとカ ーボ./膜の抵抗率は非常に大きく,その値はほぼ102(S1‑cm)に達する.また,熱分解温度
5 6& 長(pm) 8 10 14
0032(ゞ一緒増村
3200 2000 1600 1200
汲 政 (cm‑1)
図6 赤外線吸収スペクトル(700oC) 800
が高 くなるにつれ カーボン膜 の抵抗率は.急激に低下 して103(S1‑cm)程度になる.
低温熱分解で生成 した カーボン膜は,その中に多 くの水素結合を含む.また,ダイヤモン ドと黒鉛いづれ も炭素結晶であるが, ダイヤモン ドは共有結合性結晶で炭素原子が三次元的 に広がった構造の絶縁体であ り. グラファイ トは六方晶系の二次元的な層状をなした構造で 導電性を 持つ.a軸方向の 導電率は室温で2.6×104(Stlm)1,C軸方向では 1×10(Sh
cm)‑1と異方性であることが報告 されている的.このことか らカーボン膜 は結晶化されてい ない状態,つ ま り. グラファイ ト構造‑移行途中であると考 えられ アモルファスカーボンの 状態にあると思われ る.
高温熱分解の場合は,温度上昇につれて赤外線吸収スペ ク トルで示 した ようにカーボン膜 中の水素原子が離脱 し. 結晶化が進行するため 図7のように 抵抗率は 急激に低下 しお よそ lo一a(sl.cm)の値 となる. これ と同 じ オーダーの値を持っカーボン膜を一般的な方法で得 る ためには, 常圧 または 減圧下で1200oCの熱分解温度を加えては じめて 得 られ る値であ り的, 1000oC以下ではカーボン膜 の生成は認められていない. 以上のように プラズマエソ‑ンス メソ トに より高導電性 カーボン膜 を低温で得ることができる.
図8にカーボン膜 の導電率‑周囲温度特性を示す.熱分解温度が高 くなるにつれて結晶化 が進み金属導体的な特性を示す. また,熱分解温度が低いと半導体的な特徴をみることがで
きる. この様子は.それぞれ次式であ らわせる.
熱分解温度 900‑1000oC ♂‑βT+r (1) ここで β,㍗:定数である. この場合導電率 αは 一次式で与えられ るが温度係数 βは,依然 正であ り不純物の多い半導体のように振 る舞 う.
熱分解温度 400‑500oC α‑のeXp (Eai/kT) (2)
プラズマCVDによるカーボン膜の生成 59
ここでk.・ボルツマン定数,Eai:活性化エネルギーである.
カーボン膜のバン ドモデルと伝導 との関係については,以前か ら研究が行なわれ明 らかに されている的.それによるとカーボン膜のフェル ミレベルは熱分解温度により変化 し. 低温 では禁止帯中にあ り温度上昇 とともに禁止帯か ら価電子帯へ移動 し,1200oCでは 伝導帯 と 価電子帯は重なるといわれている. また,活性化エネルギーもこれに対応 して変化す ると考 えられる.図9は周囲温度の低温 (T<‑100oC).高温 (T>OoC)の各領域での活性化エ ネルギーを求めたものである.熱分解温度が低い場合はカーボン膜の活性化エネルギ‑が高 く半導体的特徴が強 くあ らわれている.
図10は,図8の熱分解温度400oC,700oCについて導電率を温度 T 1/4に関 してプロッ ト しなお したもので400oCの場合,‑4oC以下の領域では近似的に次式で与えられ る.
1nq‑A+B・T‑1h (3)
ここでA.B:定数である. この関係を満足す ることは.ホッピング伝導であることを示 し 700oCの場合はこの領域が低温側へ大きくずれていることが分かる.
次に図11はカーボン膜 のホール係数一温度特性を示す.熱分解温度が700oCの場合,測定 温度領域 (‑73‑162oC)の範囲で正孔伝導を示 したが,600oC以下の場合は,図に示す よ
うに測定温度を (‑73oC)か ら(162oC)‑上げた 場合 (70‑135oC)の間で 正孔電導か
'一0.O.仰b・(uuItqo)蛤岩封
400 600 800 1000 基碇も庶 (OC) 図7 抵抗率温度特性
げ.53101TI(ulUItuLIO)繍伊廿
4 6
10㌢T 【K1 回8 導電率温度特性
8 10
JiOO 600 800 1000
基 板 温度 (OC) 図9 活性化エネルギー温度特性
ml抄〃U1(U\Mu3)屯埠〜1毛 灯が
2 1 6 8 10 103/T(KII) 図11 ホール係数温度特性
0.22 0.24 0.26 q28 q30 7‑1/4(K‑1/4) Egl10導電率‑T‑1/4特性
ら電子伝導‑の反転が見 られる. これは,非 補償ダンプリングポン ドが存在 しアクセプタ として僅かのエネルギーで正孔を供給するこ と,お よび測定温度上昇にともない,電子一 正孔対の発生 と,電子.正孔の移動度に差が あるためホール係数が反転すると考えられる.
4.あ と が き
炭化水素ガスをプラズマエソ‑ンスメソ ト による低圧CVD法により.比較的低温(400
‑1∞OoC)の熱分解温度で 高導電性のカー ボン膜を得た. このカーボン膜は黒鉛の致細 結晶粒子か ら構成され,熱分解温度が高いと 正孔伝導 とな り,抵抗率は1.75×10‑8血ICm で この値は従来.常圧ある い は 低 圧,1200 oCで得 られたものに近い. また, 熱分解温 度が低い と半導体的特性を示す.以上のこと か らこの方法により得 られたカーボン膜は, 各種高導電性電極.複合膜の主材料などとし て有用 と思われる.おあ りに本研究は.信州
プラズマCVDによるカーボン膜の生成 61
大学工学部小沼義治教授 との共同研究 として行なわれた ものであることを付記 します.
参 考 文 献
(1)E.G.Spencer,P.H.Schmid亡,D.C.JoyandF.∫.Sansalone:Appl.Pbys.Lett. 29(1976)118.
(2) S.AisenbergandR.Chabot:∫.Appl.PllyS.42(1971)2953. (3)佐藤,加茂,神田,瀬高 :表面科学1(1980)60.
日) 冗.Enke,H.DimigenandHめsh:Appl.Phys.Lett.36(1980)291. (5) K.AntonowiC2;,A.Jesmanowic2;andJ.Wieczorek:Carbon.10(1972)81.
(6) H.Morisaki,K.Saigo,S.ShitaniandK.YaZaWa:J.Non・Crys.Solid.15(1974)531. (7) G.K.BhagvatandK.D.Nayak・.ThinSolidFilms.64(1979)57.
(8) M.L.Kaplan,P.H.Schmi dt,C.H.ChenandW.M.WalshJr.:Appl.Phys.Lett. 36(1980)867.
(9) Y.MurayamaandT.Takao:ThinSolidFilms.40(1977)309.
80) A.H.WhiteandL.H.Germer:J.Chen.Phys.9(1941)492.
的 M.Katz,D.Ithak,A.GrillandR.Avni:ThinSolidFilms.72(1980)497. 的 P.R.Wallace:Phys.Rev.71(1947)622.
的 S.Moro2:OWSki:Carbon.9(1971)97.