博 士 ( 工 学 ) 古 崎 毅
学 位 論 文 題 名
デ ィ ッ プ コ ー テ ィ ン グ 法 に よ る 機 能 性 酸 化 物 薄 膜 の 作 製 に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
ディップコーティング法では,水酸化物や水和酸化物のゾルあるいは金属アルコキシド などの金属有禰化合物の溶液から比較的容易に酸化物薄膜が作製できる。ゾルを用いる竭 合には、塗布液中でコロイド粒子の凝集や沈降が生じない安定なゾルを調製することが不 可欠である。一方、金属有機化合物の溶液を用いた方法では、分子レペルでの原料の均一 な混合が可能であるが、二種類以上の金属有機化合物を組合わせると、それぞれの加水分 解速度や熱分解温度が異なり均質な組成を持つ薄膜を得るのが困難となるので、適切な溶 媒等を用いてそれらを制御する必要がある。
ディップコーティング法による機能性酸化物薄膜の作製例はこれまでにも報告されてい るが、さまざまな出発原料を使用して薄膜を作製し、それらを系統的に整理して生成機構 まで明らかにしているものはない。本研究ではSn0, 薄膜およびITO ( IndiuN Tin Oxide) 薄膜を無槻塩および金罵石鹸の溶液から作製するとともに、その生成機構ならびに性質を 比較検討し、それぞれの特徴を明確にした。さらに、ディップコーティング法を均質な組 成を持つCd:Sn04 および LiTa0 |複合酸化物薄膜の作製に応用しその有効性を確かめた。
Sn0: 薄膜を作製するために、まずSrlCl4 − SbCIi 水溶液にアンモニア水を滴下して得られ た水和酸化スズコロイド粒子を蒸留水中に超音波分散してゾルを調製した。これにポリピ ニルアルコール( PVA )を添加すると、膜の乾燥の際クラックの発生を抑制でき、その後 の焼成により基板に強固に密着した Sn0, 薄膜を作製できた。 800 ℃、30 分の焼成により得 られた薄 膜の可視 領域にお ける光透過串は90 %であり、比抵抗は約3x 10‑'Q ci に違し た。また、Sn0, 薄麒は 550 ℃付近までに物理吸着水およびコロイド粒子表面に化学的に結 合した0II 基の脱缶に伴う願の収縮と粒成長により生成した。
ITO の燭合、出発原料の塩の種類によって得られた水酸化イン゛ジウムコロイド粒子の性 状が大きく異なっていた。すなわち、Iri (N08 )i −SrlCl4 水溶液から調製したコロイド粒子
(N ‐コロイド粒子)は微細な粒子が約50n ■の大巻さに凝集した二次粒子であるのに対し
て、Ini (SO, ) ‑Sfi (S04) |水溶液からのコロイド粒子(S ‐コロイド粒子)は凝集せず微細
な粒子が網目状に連結していた。これらのコロイド粒子から安定なゾルを調製するために
は、いずれも塩化インジウム水溶液中に分散する必要があった。Sn0, 薄膜の壜合と同様
に、ゾルヘの PVA の添加は乾燥時のクラックの生成を防ぎ、焼成により基板に強固に密着
した透明導亀性を有するITO 薄膜の作製を可能にした. 800 ℃、30 分の焼成により得られ
た薄膜は可視領域で 90 %以上の光透遇率を示し、比抵抗はN‑ コロイド粒子では約 2xio‑'
Qc 一、 S −コロイド粒子では約 3 XlO'Qc ■であった・1 回の塗布一焼成で得られる最大の
膜厚は N ―コロイド粒子を用いた鳩合では約2 肛■、S ‐コロイド粒子では0 .2 弘■であり、
コロイド粒子の性質に大巻く依存していた。水酸化インジウムコロイド粒子は所定の温度 に達して数分以内に熱分解を終了し、ひき続き分散荊として加えた塩化インジウムが徐々 に熱分解してモれぞれ酸化インジウムになることがわかった。また、この塩化インジウム から生成した酸化インジウムはコロイド粒子から生成した粒子同士や基板と粒子とをっな ぎ 合 わ せ る な ど 成 膜 性 に 対 し て 重 要 な 役 割 を 累 た す こ と を 明 ら か に し た 。 金■有援化合物溶液を用いたITO 薄膜の作製では、金I 石鹸(2 −エチルヘキサン酸イン ジウムと 2 −エチルヘキサン酸第一スズ)のぺンゼン溶液を基板に塗布し550 ℃以上で焼成 すると 、透明導 電性を有す るITO 藩膜が得られた。550 ℃、30 分の焼成で得られたITO 薄 膜の比抵抗は7x 10‑'Q c ■であり、同じ焼成条件でゾルを用いて作製したITO$lltll のそれ
(2x 10‑'Q cI 冫より優れていた。金属石鹸の燕分解により生じたITO 粒子は非常に微細 で あ り 、 粒子 が よ り密 に 充填 し た 薄膜 の 作製 に は 有効 で あ るこ と が示 唆 さ れた 。 複合酸化物薄腰については、酢酸カドミウムとスズエトキシドのエタノール溶液を用い て透明導電性を有するCd2Sn0 薄膜、さらにりチウムエトキシドとタンタルエトキシドの エタノール溶液を用いて強誘亀性のLiTa0 |薄膜をそれぞれ作製できた。酢酸カドミウムと スズエ卜キシドをエタノールのみに溶解すると、スズエトキシドが選択的に加水分解する ので、エチレングリコールを添加してスズエトキシドの加水分解を抑制し安定な塗布液を 調製した。これを基板に塗布し550 ℃以上で焼成すると、2 −4x 10‑:Q ci の比抵抗を有す るCd:Sn04 薄膜が作製でき、その生成機構も明らかにした。一方、 LiT80 |薄膜は、リチウ ムエ卜キシドとタンタルエ卜キシドをエタノールに溶解した溶液を基板に塗布し、550 ℃ 以上で 焼成する ことにより 作製できた。得られたLiT80, 薄膜は強誘I 体に特有のD ーE 履 歴曲線を示した。
以上、ディップコーティング法では、無機塩から得られた水和酸化物や水酸化物のコロ
イド粒子が安定に分散したゾルからSn0, およびITO 等の導亀性薄膜が、また金属有橿化合
物溶液からは組成の均質性に優れたCd:Sn04 やLiTa0. などの複合酸化物の薄膜が容易に得
られることを明らかにした。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
ディッ プコー ティング 法による機能性酸化物薄膜の 作 製に関 する研究
近 年エ レク トロ ニ クス技術の発展にともない 、機能性薄膜に対するその需 要が高まって きて いる 。薄 膜を 作 製する方法は数多くあるが 、中でもディッブコ―ティン グ法は,水酸 化物 や水 和酸 化物 の ゾルあるいは金属有機化合 物などの溶液を簡単な操作で 比較的容易に 薄膜 化で きる 特徴 が ある。この方法による機能 性酸化物薄膜の作製に関する 研究は最近盛 んに なっ てき てい る が、多くの酸化物薄膜を作 製しその生成機構から性質ま でを系統的に 整理し明らかにした例はまだ ない。
本 論文 は、 ディ ッ プコーティング法により機 能性酸化物薄膜を得ることを 目的として、
その 新し い作 製法 を 確立 する とと もに 、Snoz薄膜 およ びITO(Indium Tin Oxide)薄膜を 無機 塩お よび 金属 石 鹸の溶液から作製した。ま た、その生成機構ならびに性 質を比較検討 し、 それ ぞれ の特 徴 を明確にした。さらに、デ ィップコーティング法を均質 な組成を持つ Cd2Sn04お よ びLiTa03複 合 酸 化 物 薄 膜 の 作 製 に 応 用 し そ の 有 効 性 を 確 か め た 。 Snoz薄 膜を 作製 す るために、SnCl ‑SbCls水 溶液にアンモニア水を滴下し て得られた水 和酸 化ス ズコ ロイ ド 粒子を蒸留水中に超音波分 散してゾルを調製した。これ にポリビニル アル コー ル(PVA)を 添加 す ると 、膜 の乾 燥の 際クラックの発生を抑制でき 、その後の焼 成に より 基板 に強 固 に密 着し たSn02薄 膜 を作製 できた。800℃、30分の焼成 により得られ た 薄 膜 の 可 視 領 域 に お け る 光 透 過率 は90%で あり 、 比抵 抗は 約3xl0‑3QODにな る こと を 明らかにした。
ITOの場 合 、出 発原 料の 塩 の種 類に よっ て得 られた水酸化インジウムコ口 イド粒子の性 状が大きく異なっていた。す なわち、In (N03)3‐SI¥Cl4水溶液から調製したコロイ ド粒子
(N− コ口 イ ド粒 子) は微 細 な粒 子が 約50nmの 大きさに凝集した二次粒子で あるのに対し て、In2 (S04)3−Sn(S04)2水溶液からのコロイド粒子(S‐コロイド粒子)は凝集せず微細な 粒子 が網 目状 に連 結 していた。これらのコ口イ ド粒子から安定なゾルを調製 するには、い ずれ も塩 化イ ンジ ウ ム水溶液中に分散する必要 があった。Snoz薄膜の場合と 同様に、ゾル へのPVAの 添 加は 乾燥 時の ク ラッ クの 生成 を防 ぎ、焼成により基板に強固に 密着した透明 導電 性を 有す るITO薄 膜の 作 製を 可能 にし た。800℃、30分の 焼成 により得 られた薄膜は 可視 領域 で90%以 上 の光 透過 率を 示し 、 比抵 抗はN― コロ イド 粒子 では約2x io‑2Q cmヽ S― コ 口 イド 粒子 では 約3xlo‑3Qcmで あっ た。1回 の塗 布一 焼 成で 得ら れる 最大 の 膜厚 は N― コ 口 イド 粒子 を用 い た場 合で は約2Um、Sーコ ロイ ド粒 子 では0.2uロで あり 、 コロ イ
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平 夫
郎 一
紘 道
志 順
平 垣
田 橋
小
稲
嶋
高
授 授
授 授
教
教
教
教
助
査
査
査
査
主
副
副
副
ド粒子の性質に大きく依存していた。分散剤として加えた塩化インジウムから生成した酸 化インジウムはコロイドから生成した粒子同士や基板と粒子とをっなぎ合わせるなど重要 な役割を果たしていることを明らかにした。
金属有機化合物溶液を用いたITO薄膜の作製では、金属石鹸(2−エチルヘキサン酸イン ジウムと2−エチルヘキサン酸第一スズ)のべンゼン溶液を基板に塗布し550℃以上で焼成 すると、透明導電性を有するITO薄膜が得られた。550℃、30分の焼成で得られたITO薄 膜の比抵抗は7x10‑。Qcmであり、同じ焼成条件でゾルを用いて作製したITO薄膜のそれ
(2 x10‑ Q cm)より優れていた。金属石鹸の熱分解により生じたITO粒子は非常に微細 で あ り 、粒 子 が より密に 充填し た薄膜の 作製に は有効で あるこ とが示唆 された。
複合酸化物薄膜にっいては、酢酸カドミウムとスズエ卜キシドのエタノール溶液を用い て透明導電性を有するCd2Sr104薄膜、さらにりチウムエトキシドとタンタル工卜キシドの エタノール溶液を用いて強誘電性のLiTa03薄膜をそれぞれ作製できた。酢酸カドミウムと スズエトキシドをエタノールのみに溶解すると、スズエ卜キシドが選択的に加水分解する ので、エチレングリコールを添加してスズエトキシドの加水分解を抑制し安定な塗布液を 調製した。これを基板に塗布し550℃以上で焼成すると、2―4xio‑。Q cmの比抵抗を有す るCdzSn0 薄膜が作製でき、その生成機構も明らかにした。一方、LiTa03薄膜は、リチウ ムエ卜キシドとタンタルエ卜キシドをエタノールに溶解した溶液を基板に塗布し、550℃ 以上で焼成することにより作製できた。得られたLiTa03薄膜は特有のDーE履歴曲線を示 し、強誘電体であることを明らかにした。
以上、ディッブコ―ティング法では、無機塩から得られた水和酸化物や水酸化物のコロ イド粒子が安定に分散したゾルからSnozおよびITO等の導電性薄膜が、また金属有機化合 物溶液からは組成の均質性に優れたCdzSn0 やLiTa03などの複合酸化物の薄膜カ溶易に得 られることを実証している。
これを要するに、.著者は、酸化物薄膜および複合酸化物の薄膜の作製にディップコーテ イング法を適用し、実用に供することができるSnoz、ITO、Cd2Sn0 およびLiTa03薄膜の 作製を可能にするとともに、その作製方法に新しい知見を得ており、エレク卜口セラミッ クス技術の進歩に貢献するところ大である。
よって著者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認める。
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