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米 国 反 ト ラ ス ト 法 に お け る リ バ ー ス ペ イ メ ン ト の 規 制

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(1)

   同志社法学 六八巻一号三六一三六一

           

     Actavis 

(2)

   同志社法学 六八巻一号三六二三六二

はじめに

  わが国と同様、米国でも、医薬品をはじめとする医療費価格の高騰が問題となっている

)1

。その一因として、反トラスト政策が十分に機能していないのではないかとの指摘もある 2

。次の行為も、医薬品にかかわる反トラスト政策の大きな問題のひとつとして、議論されてきた。

  製薬メーカーAが、人気医薬品aの特許権を有し、その製造販売を行っている。このとき、メーカーBが、aの特許を無効であるとして、aの特許存続期間中にもかかわらず、aの後発医薬品bを製造しようとする。これを聞いたAは、Bに対して特許侵害訴訟を提起する。その後、この特許侵害訴訟にAとBは和解することにした。この和解合意で、AはBに多額の金銭を支払い、Bはbの販売開始を一定期間遅らせることを約束した。このようなAとBとの和解合意は、反トラスト法に違反するであろうか。

  このAとBとの合意のような和解合意は、一般に、リバースペイメント(﹁

pa y fo r d ela y

﹂ともいう。以下、﹁RP﹂という。)と呼ばれる 3

。RPとは、先発医薬品メーカー(以下、先発医薬品を﹁ブランド薬品﹂、先発医薬品メーカーを﹁ブランドメーカー﹂という。)が、後発医薬品メーカー(以下、後発医薬品を﹁ジェネリック薬品﹂、後発医薬品メーカーを﹁ジェネリックメーカー﹂という。)に対し、金銭等 4

を支払い、その代償として、ジェネリックメーカーが、ジェネリック薬品の市場参入を一定期間見合わせるなどすることをいう。

  米国では、このRPが反トラスト法に違反するかどうかが長らく議論になってきた 5

。RPは、(aを販売するAとその後発品bを販売するBという)潜在的競争事業者間での競争制限合意であるから、反トラスト法に違反するのか。あるいは、RPは、特許侵害訴訟の和解であり、RPによって排除されるのは、有効な特許を侵害する行為であるから、

(3)

   同志社法学 六八巻一号三六三三六三 反トラスト法は適用されないのか。さらに、反トラスト法が適用されるとして、反トラスト法のもとでいかに評価されるべきかが争われてきた。

  連邦裁判所においても 6

、RPについての判断は分かれてきた。後述のように、六つの連邦控訴裁判所(以下、﹁控訴裁﹂という。)がRPについて判示し、その判断が分かれてきたところ、二〇一三年に連邦最高裁判所(以下、﹁最高裁﹂という。)がRPについての判断を下した 7

。この判決において、最高裁は、RPへの反トラスト法適用を認め、合理の原則により、その違法性を判断するものとした 8

  本稿では、米国において、長らくその違法性が争われてきたRPの評価についての議論を検討する。米国で、RPが行われるのは、後述のハッチワックスマン法によるところが大きい 9

ため、日本で、米国のようにRPが問題となる可能性は低いかもしれない。しかし、ブランドメーカーとジェネリックメーカーとの特許侵害訴訟での金銭による和解というのは、わが国でも行われるであろう。このような和解が独占禁止法に違反するかという基準として、ここでの議論はわが国においても参考になると考える。

  以下では、まず、RPが締結される背景となるハッチワックスマン法を概説した後、RPの評価について何が問題となっているかを明らかにする。

第一章  ハッチワックスマン法とRPについての問題の所在 第一節  ハッチワックスマン法   ジェネリックメーカーの参入を促進することによる医療費の削減は望ましいが、これにより、ブランドメーカーの利

(4)

   同志社法学 六八巻一号三六四三六四

益が確保できなくなり、新薬の開発が滞るのは望ましくない。ジェネリック薬品の参入を促進すると同時に、新薬の開発も進展させたいというのは、わが国でも、米国でも同様である。米国では、このような目的を達成するため ₁₀

、医薬品価格及び特許期間回復法(いわゆる

H at ch -W ax m an

(ハッチワックスマン)法、以下、﹁HW法﹂という。)が制定されている。

  RPは、米国において、通常、HW法にもとづく訴訟の和解において用いられる。以下では、まず、RPの行われる背景となるHW法について概説する。

  HW法は、以下の二つの目的をもつ ₁₁

。第一に、特許を保護し、ブランドメーカーが新薬開発に費やした投資を回収できるよう排他的販売期間を与えることであり、第二に、特許権の存続期間満了後は、速やかに消費者が安価なジェネリック薬品を入手できるようにすることである。

  このようにジェネリック薬品の参入を推進するという目的をもつHW法は、新薬の販売に必要なFDA(アメリカ食品医薬品局)による販売承認に関して、ジェネリックメーカーに、費用と時間のかかる新薬承認申請(NDA)に代わり、簡易新薬承認申請(以下、﹁ANDA﹂という。)を認めている ₁₂

  ANDAを申請する際に、ジェネリックメーカーは、﹁申請者の意見として、知る限り﹂申請薬が、FDAが承認したあらゆる薬の特許に違反しないという証明を提出しなければならない ₁₃

。この要件は、以下の四つのうち、一つを証明することで、充たすとされる ₁₄

。Ⅰ関連する特許情報がいまだ申請されていないこと、Ⅱ関連する特許が失効したこと、Ⅲ関連する特許が失効することとなる日、Ⅳ関連する特許が無効であるか、申請された新薬の製造、使用、販売によっては侵害されないことの四つである。

  このうち、RPでは、Ⅳの、いわゆる﹁パラグラフⅣ証明 ₁₅

﹂の提出が関連する。パラグラフⅣ証明を提出する際に、

(5)

   同志社法学 六八巻一号三六五三六五 ジェネリックメーカーは、ANDAにより影響を受ける特許権者に対し、通知をしなければならない ₁₆

。このパラグラフⅣ証明の通知を受けた特許権者が、ANDAが提出されてから四五日以内に、パラグラフⅣ証明について特許侵害訴訟を提起すると、FDAによる当該ジェネリック薬品の承認は、①三〇か月経過するか、あるいは、②その訴訟において当該特許が無効あるいは侵害されていないと認定されるかのいずれか早い時期まで、できないこととなる ₁₇

。すなわち、その間、ジェネリック薬品が市場に参入することはない。したがって、ジェネリック薬品の参入によって急激に薬価の下がる米国においては、このパラグラフⅣ証明の通知を受けた特許権者は通常、侵害訴訟を提起する ₁₈

  パラグラフⅣ証明は、ジェネリックメーカーが﹁弱い﹂特許にチャレンジするように作られたものである ₁₉

。多くの場合、ブランドメーカーは、開発に成功したひとつの有効成分について、多数の周辺特許を取得する ₂₀

。例えば、成分のコーティング方法や結晶構造など様々な特許を、基礎となる有効成分についての物質特許取得後、一定期間が経過した後に取得する ₂₁

。それにより、当該薬の排他的販売期間をできるだけ延長させようとするのである。しかし、そのような特許は新規性や進歩性の存在が疑しい﹁弱い﹂特許であることも多い ₂₂

。ジェネリックメーカーがこのような﹁弱い﹂特許にチャレンジすることを認めることは、基礎となる有効成分の特許期間満了後早い時期にジェネリック薬品が市場に参入することにつながる ₂₃

  さらに、HW法は、ジェネリックメーカーに薬の特許にチャレンジするインセンティブを与え、その参入を促す。すなわち、最初にANDAとパラグラフⅣ証明を申請したものに対して、FDAが次のANDAを承認するまで一八〇日間の排他的販売期間を与える ₂₄

。この一八〇日間の排他的販売期間は、最初のANDA申請者がその薬を販売した日から始まる ₂₅

。すなわち、最初のANDA申請者がジェネリック薬品の販売を始めて、一八〇日経過しないと、次の申請者はジェネリックの販売を開始することはできない。言い換えれば、最初のANDA申請者がジェネリック薬品の販売を開

(6)

   同志社法学 六八巻一号三六六三六六

始するまでは、ブランドメーカーのみが当該薬を販売することができ、最初のANDA申請者が販売を開始しても、一八〇日間は、ブランドメーカーと最初の申請者の二社だけが販売する複占が続く。一八〇日間の排他的販売期間が過ぎるまで、次の参入(ブランドメーカーがライセンスを認めている場合や、最初の申請者が複数いた場合を除いて)はないということである。この一八〇日間の排他的販売期間は、最初のANDA申請者にとって、何百万ドルもの価値があると言われ、最初のANDA申請者は、その利益の多くをこの排他的販売期間内に稼ぐと言われる ₂₆

  RPはこのような規制のもと、多くの場合、以下のように行われる。ジェネリックメーカーがANDA申請の際、パラグラフⅣ証明を提出し、関係する特許権者に通知する。これを受けた特許権者が特許侵害訴訟を提起する。その訴訟の和解においてRPが行われる。和解の条件として、特許権者であるブランドメーカーはジェネリックメーカーに一定額の金銭を支払い、一方、ジェネリックメーカーは、当該特許が無効であるという主張を取り下げるとともに、ジェネリックの参入を一定期間遅らせることに合意する。結果として、ジェネリックメーカーの一八〇日間の排他的販売期間の開始が遅れ、他の競争者の当該市場への参入は遅れることになる。

第二節  RPに関する裁判所の評価   このRPについて、最高裁は、二〇一三年に初めて評価を示し、RPには、反トラスト法が適用され、(クイックルックではない)合理の原則を採用すべきとした ₂₇

  この最高裁の判断が出るまで、RPの反トラスト法上の評価について、控訴裁の判示は、大きく分かれていた。控訴裁のうち、RPを最初に評価したDCサーキット(二〇〇一年) ₂₈

と次の第六巡回区裁判所(二〇〇三年) ₂₉

は、RPに反トラスト法を適用し、これを当然違法 ₃₀

であるとした。しかし、その後は、第一一巡回区裁判所(二〇〇三 ₃₁

、二〇〇五 ₃₂

(7)

   同志社法学 六八巻一号三六七三六七 二〇一二 ₃₃

)、第二巡回区裁判所(二〇〇六) ₃₄

、連邦巡回区裁判所(二〇〇八) ₃₅

と三つの控訴裁が、RPは、特許権者に認められる特許の排他権の範囲内の行為であるとし、これに反トラスト法の適用をしないものとした。ところが、これに続く第三巡回区裁判所(二〇一二)は、直近の三つの裁判所の判断を覆し、RPには、反トラスト法が適用され、クイックルックによる合理の原則を適用すべきだと判示した ₃₆

  この点、FTCも、第三巡回区裁判所と同様に、RPは違法と推定されるとし、RPにはクイックルックによる合理の原則を採用すべきとしてきた ₃₇

  このようにRPについて控訴裁や当局の判断が大きく分かれていた中で、FTCは、RP規制を最重要課題の一つとし、各控訴裁でFTCの主張が認められるよう挑戦を続けていた ₃₈

。RPが当然違法とされた後、RPは、下火になったが ₃₉

、RPに、反トラスト法の適用はないとする判決が続くようになると、RPの数は、急増した ₄₀

。しかし、結局のところ、このような状況は、RP和解を行う当事者を不安的な状態においていた ₄₁

。そのため、二〇一三年に最高裁による判決がでたことは、大きな前進であった。

  しかし、最高裁は、RPに合理の原則を適用するとしたのみで、どのように適用するかについては、下級裁判所に任せるとした ₄₂

ため、その具体的な適用についてはいまだ不明な点がのこる。以下では、RPについての論点を整理する。

第三節  問題の所在   RPについては、以下のような点が論じられてきた。

(8)

   同志社法学 六八巻一号三六八三六八

⑴   R P に 反 ト ラ ス ト 法 は 適 用 さ れ る べ き か

  RPは、潜在的競争者に金銭を支払い、市場参入を一定期間遅延させるものである。競争者間のこのような合意は競争制限的で、当然に、反トラスト法が適用される行為と考えられうる。

  しかし、三つの控訴裁では、RPに反トラスト法を適用しないとされた。そもそも、RPによって遅れる参入とは、問題となる特許が有効である限り生じえないものである。言い換えれば、RPは、特許権者がその認められた効力の範囲内で侵害者を排除するだけであり、適法に認められた特許権の範囲を超える排除はない。特許権の範囲内の行為に反トラスト法は適用されないのであるから、RPに反トラスト法の適用はないというのである。

  このように意見が対立する中で、RPに反トラスト法を適用するべきか争われてきたが、前述のように最高裁は、RPに反トラスト法を適用するとした。

⑵   当 然 違 法 か 合 理 の 原 則 か

  次に、RPに反トラスト法を適用するとして、当然違法の対象となるのか、合理の原則が適用されるのかが問題となる。前述のとおり、初期の控訴裁判決では、RPに反トラスト法を適用し、その強い反競争効果から、これを当然違法とした。その後、RPに反トラスト法を適用すべきでないとする判決が続いた中で、有力な反トラスト学者らは、RPは、当事者がその正当化事由を主張できない限り、反トラスト法に違反するとするクイックルックの合理の原則の適用を主張してきた ₄₃

。しかし、前述のように、最高裁は、(クイックルックではない)合理の原則の適用が適当であるとの判断を下した。それゆえ、今後問題となるのは以下の⑶である。

(9)

   同志社法学 六八巻一号三六九三六九

⑶   合 理 の 原 則 の 下 で 、 R P は い か に 評 価 さ れ る か

  最高裁は、RPへの合理の原則の適用を下級審にゆだねるとした。現在のところ、下級審でのRPへの合理の原則の適用には、ばらつきが見られ、その適用方法について学説でも議論となっている。合理の原則の下、RPはいかに評価されるべきであろうか。

  以下では、まず、第二章で、過去の五つの控訴裁判決と最高裁判決を概観する。第三章では、最高裁判決後の下級審の判決を検討し、これを踏まえ、第四章において合理の原則の下でのRPの評価方法を検討する。最後に、結びとして、わが国への示唆を述べる。

第二章  控訴裁判所と最高裁判所の判断 第一節  控訴裁判所判決

⑴   D C サ ー キ ッ ト ( 二 〇 〇 一 年 )

  RPについて最初の控訴裁判決は、二〇〇一年のDCサーキット判決である。   この事件は、二番目にANDAを申請したジェネリックメーカーが提起したもので、ブランドメーカーと一番目にANDA申請をしたジェネリックメーカーとが特許訴訟を係属したまま締結したRP合意が、シャーマン法に違反すると主張したものである。この合意で、ブランドメーカーは、当該ジェネリックメーカーがジェネリック薬品の販売を開始する日か、係争中の訴訟において特許侵害があるとされる日かのいずれかまで、毎年四〇〇〇万ドル支払うことを約束した ₄₄

。これにより、一番目にANDA申請したジェネリックメーカーが、ジェネリック薬品の販売開始を遅らせると、

(10)

   同志社法学 六八巻一号三七〇三七〇

二番目以降にANDA申請したジェネリックメーカーは、一番目に申請したメーカーが販売を開始してから、一八〇日経過しないと、ジェネリック薬品を販売できないので、それまで、ジェネリック薬品の自由な参入とそれによる競争は期待できないこととなる。それゆえに、二番目に申請したジェネリックメーカーは、そのRP合意が反トラスト法に違反するとして損害賠償を求めたのである ₄₅

  DCサーキットは、このような合意について、最初のANDA申請者に与えられる一八〇日という排他的期間の始動を遅らせる効果をもち、二番目に申請したジェネリックメーカーをはじめ、その他の潜在的ジェネリックメーカーの参入を遅らせるものとして、この合意を、市場を分割し、独占的状況を維持しようとするものであると判示した ₄₆

⑵   第 六 巡 回 区 ( 二 〇 〇 三 年 )

  この事件は、前述DCサーキット判決で問題となった同じ合意に関して、当該薬の直接・間接の購入者が反トラスト法上の損害賠償を求めたものである。

  第六巡回区裁判所は、当該合意は、最初の申請者に与えられる一八〇日間の排他的期間の発動を遅らせることにより、他のジェネリックメーカーの当該薬市場への参入を妨げ、当該市場における競争を排除するもので、当然違法が適用される水平的協定であるとした ₄₇

。特に、強調されたのは、ブランドメーカーが、ジェネリックメーカーに金銭を支払い、市場へ参入しないようにさせていることそれ自体が問題であるということであった ₄₈

⑶   第 一 一 巡 回 区 ( 二 〇 〇 三 年 ほ か )

  第一一巡回区裁判所は、三つの重要な事件で、RPについて判示している。

(11)

   同志社法学 六八巻一号三七一三七一   最初の事件で問題となった和解合意は、ブランドメーカーがジェネリックメーカーに一定額を支払い、ブランドメーカーの特許が切れるまでジェネリックメーカーの市場への参入を控えさせるというものであった ₄₉

。このRPについて、地裁は、当然にシャーマン法に違反するというサマリージャッジメントを認めた ₅₀

。しかし、第一一巡回区裁判所は、ブランドメーカーは、特許を保有し、それにより競争者を排除する権利を与えられているとして、この地裁の決定を取り消した ₅₁

。判決の中で、裁判所が強調したのは、ブランドメーカーは本件の前提となった特許訴訟で勝つ可能性があるということ ₅₂

、また、特許訴訟においては、和解が好ましいという政策上の配慮であった ₅₃

。同裁判所は、当該合意が、特許による保護の範囲を超えているかどうかをまず判断し、もし合意がその範囲を超えるならば、超える部分についてのみ、反トラスト法の審査を受けることになると示した ₅₄

  次の事件で第一一巡回区裁判所が、評価したのは、後述の第三巡回区裁判所ではクイックルックによる合理の原則で評価するとした同じ和解合意である。第一一巡回区裁判所は、この合意を反トラスト法に違反するとしたFTC決定を、前述第一一巡回区裁判所の最初の判決と同じ基準を用い取り消した ₅₅

。判決の中で同裁判所は、和解を好む司法政策の観点から、RPは認容されるとし ₅₆

、また、当該和解条項は、特許の保護の範囲内であるから、違法ではないと認定した ₅₇

  三つめとなる事件で、第一一巡回区裁判所は、前の二つの判決の基準を明確にした。すなわち、これら判決が示したのは、問題となる和解の前提となる特許侵害訴訟が見せかけであるか、あるいは、その特許が詐欺によって取得されたものでない限り、特許侵害訴訟の和解合意について、裁判所が判断するのは、当該和解合意が特許の範囲を超えないかのみであるということである ₅₈

。つまり、第一一巡回区裁判所は、次に述べる第二巡回区裁判所の﹁特許の範囲基準﹂と同じ基準を採用しているということができる ₅₉

(12)

   同志社法学 六八巻一号三七二三七二

⑷   第 二 巡 回 区 ( 二 〇 〇 六 年 )

  この事件で問題となった合意は、乳がんの治療薬としてもっとも広く処方される

T am ox ife n

についての特許侵害訴訟の和解合意である。この合意は、地裁が当該特許を無効としたのち、上訴中に結ばれた ₆₀

。その合意によれば、ブランドメーカーがジェネリックメーカーに非ブランド版

ta m ox ife n

の販売ライセンスを与えるとともに、ジェネリックメーカーに二一〇〇万ドル支払うとされた ₆₁

  第二巡回区裁判所は、当該合意について、反トラスト原告の申し立てを斥けた地裁判決を肯定し、特許が有効であると仮定し、特許の範囲でのみ競争が制限されている限り、反トラスト法には違反しないと判示した ₆₂

。ただし、その例外として、裁判所が示したのが、特許が詐欺により取得された場合か、侵害訴訟が客観的に根拠のない場合である ₆₃

。この基準は、通常、﹁特許の範囲基準(

sc op e o f t he p at en t t es t

)﹂あるいは﹁

ta m ox ife n t es t

﹂として知られる。

⑸   連 邦 巡 回 区 ( 二 〇 〇 八 年 )

  連邦巡回裁判所は、第二巡回区と第一一巡回区裁判所の判断に同意し、裁判所が判断すべきは、RPが特許の排他的範囲を超えて競争を制限するかどうかであるとした ₆₄

。また、特許庁での詐欺、あるいは、みせかけの訴訟である証拠がなければ、裁判所は、RPの反トラスト分析で、特許の有効性を考慮する必要はないとした ₆₅

⑹   第 三 巡 回 区 ( 二 〇 一 二 年 )

  本件は、RPにクイックルックによる合理の原則を適用すべきとした事件である。この事件以前の第一一巡回区、第二巡回区、連邦巡回区裁判所は、前述のように、二〇〇三年から二〇一二年にかけて、続けて、特許の範囲基準を採用

(13)

   同志社法学 六八巻一号三七三三七三 し、原則としてRPに反トラスト法を適用せず、RPの適法を推定する寛大な政策をとっていた ₆₆

。これに対して、第三巡回区裁判所は、クイックルックによる合理の原則を採用し、RPが基本的に競争を制限するものと判示した。この点で、この判決は、控訴裁によるRPの評価を大きく転換させた判決であった。

  この事件では、前述第一一巡回区裁判所の二番目の事件と同じRP合意について争われた。第一一巡回区の事件はRPを反トラスト法違反としたFTCの決定について争ったものであったが、この事件は、薬の販売業者らが当該RP合意の当事者に対して損害賠償を求めたものであった。

  同じRP合意について、第一一巡回区裁判所が特許の範囲基準を採用し、反トラスト法の適用を否定したのに対し、第三巡回区裁判所は、﹁特許の範囲基準﹂が反トラスト法の適用を不適切に制限するとして、これを採用しなかった ₆₇

  そして、クイックルックによる合理の原則が適用されるべきとした ₆₈

。すなわち、特許権者が参入遅延に合意するジェネリックメーカーに金銭を支払うことは不合理な取引制限の明白な証拠である ₆₉

。ただし、和解当事者は、RPが⑴参入遅延以外の目的をもつことか、⑵なんらかの競争促進的利益のあることを示すことによって反論できるというものである ₇₀

第二節  最高裁判所判決(二〇一三年)   以上のように、控訴裁の判決が、分かれていた中、最高裁がその判断を示した。この判決 ₇₁

(以下、﹁

A ct av is

判決﹂という。)は、前述第一一巡回区裁判所の三つ目の判決についてFTCの上訴を最高裁が受理したものである。

  この判決で、最高裁は、RPについて、第二巡回区、第一一巡回区、連邦巡回区控訴裁判所が採用した、特許権が与える権利の範囲内では反トラスト法が適用されないという﹁特許の範囲基準﹂ ₇₂

を採用しないとした ₇₃

。特許の範囲基準に

(14)

   同志社法学 六八巻一号三七四三七四

よれば、当事者が見せかけの訴訟に和解したか、特許庁での詐欺により取得した特許に関する訴訟で和解したかでない限り、RPは、反トラスト法の適用を受けないことになる ₇₄

。これに対し、最高裁は、RPは重大な反競争効果をもちうるものであるとし、特許の範囲基準を適用せず、反トラスト法を適用すべきとした ₇₅

  特許の範囲基準を採用した三つの控訴裁は、反トラスト法を適用すべきでない理由として、①訴訟における和解の望ましさと、②反トラスト法を適用するとなると特許の有効性を立証する必要が出てくるが、これにはお金と時間がかかるという点を強調していた。

  しかし、最高裁は、これら二点を認めつつも、以下の五つを指摘し、それでも、反トラスト法を適用すべきとした。すなわち、①RPは重大な反競争効果を生じうるということ ₇₆

、②その効果は正当化されえない場合もあること ₇₇

、さらに、③RPが正当化できない反競争的損害をもたらすおそれのある場合、特許権者はその損害を実際に引きおこす力をもつということ ₇₈

、④説明できない多額のRPはそれ自体として、特許権者の特許の有効性への不安を示す。そのようなRPは、競争リスクを避けるためのものであり、反競争的損害をもたらす。したがって特許の有効性を示すことなく、反トラスト法は適用できるということ ₇₉

、また、⑤RPによらずとも和解は可能であることの五つである ₈₀

  さらに、最高裁は、RPの反トラスト法の評価にあたって、クイックルックではない合理の原則を適用するものとした ₈₁

。FTCは、RPの違法を推定し、クイックルックによる合理の原則を採用するよう主張したが、最高裁は、RPは誰が見ても反競争効果を持つ行為とは言えないので、クイックルックによる合理の原則の基準を充たさないとした ₈₂

。すなわち、RPが反競争効果を引き起こす可能性は、今後の訴訟にかかると見積られる費用やその他サービスへの支払いと比較したRPの規模と、その他正当化要因の欠如によって決まるものであり、反競争効果を引き起こす可能性は業界により、大きく異なるからであるとする ₈₃

。また、最高裁は、RPを合理の原則に従って評価する際に、特許の有効性や

(15)

   同志社法学 六八巻一号三七五三七五 特許制度の是非を示す必要はないとした ₈₄

  この判決において注目すべきは、最高裁が、以下のように判示していることである。すなわち、①説明できない多額のRPは、それ自体、反競争的である ₈₅

。②RPが多額で、反競争的といえるかどうかは、将来の訴訟費用、提供されたサービスの価値、その他の正当化要因と比較して判断する ₈₆

。③価値の高い特許を持っていると、少しでもその特許が無効になる可能性があれば、多額の支払いをする価値があるといえるかもしれないが、ほかに正当化要因がないならば、そのような支払いは、競争リスクを避けるためのもので、反競争的である ₈₇

。以上の三つである。最高裁は、合理の原則の適用は、下級審にゆだねるとしたが ₈₈

、これらは、合理の原則の適用を検討する際に指針となる。

第三節  小括   このように、長らく議論となってきたRPの評価であるが、二〇一三年の

A ct av is

判決により、RPには、反トラスト法が適用され、合理の原則が適用されるということについては、決着がついたといえるであろう ₈₉

。しかし、この

A ct av is

判決をいかに解釈するかについては、判例、学説の評価は分かれている。   以下では、まず、

A ct av is

判決後の代表的な下級審の判決を概説したのち、

A ct av is

判決後のRPの評価について検討する。

(16)

   同志社法学 六八巻一号三七六三七六

第三章 

Actavis

後の下級審 第一節  金銭によらないRP   RP和解では、ジェネリックメーカーへの支払いとして、金銭以外のものが、ジェネリックメーカーに提供されることがある。

 

A ct av is

判決は、RPについて、正当化できない多額の金銭支払いには重大な反競争効果があるとしたが ₉₀

、その後の事件では、金銭ではない手段による和解合意がどのように評価されるかが問題となった。

  この点、二〇一四年の

L am ic ta l

事件地裁判決は、

A ct av is

判決の判示が金銭の支払いを含むRPに限定されるとした ₉₁

  この事件で、ブランドメーカーは、多額の金銭の支払いをする代わりに、ブランドメーカー自身が製造するジェネリック薬品であるオーソライズド・ジェネリック ₉₂

(以下、﹁AG﹂という。)の販売を一定期間差し控えること(以下、AGの販売を一定期間差し控えることを﹁

no -A G

﹂という。)とした。すなわち、ジェネリックメーカーは、無効となりそうなブランド薬品の特許の有効性について争うことをやめ、その代わりに、ブランドメーカーは、

no -A G

を和解において約束した ₉₃

  近年、多くのRPに、組み込まれるようになっているといわれる

no -A G

₉₄

は、ブランドメーカーからジェネリックメーカーへ金銭ではない形で多額の価値を移転するものである。一番目にANDA申請したジェネリックメーカーには、一八〇日の排他的販売期間が認められるが、この間も、AGの参入は認められる ₉₅

。研究によれば、その期間におけるAGの参入は、ジェネリックメーカーの売り上げや利益に大きな打撃を与えるものであり ₉₆

、同時にブランドメーカーにと

(17)

   同志社法学 六八巻一号三七七三七七 っては大きな利益をうむものである ₉₇

。したがって、

no -A G

は、金銭ではないが、ジェネリックメーカーへの大きな価値の支払いであるといえる。

  しかし、

L am ic ta l

事件地裁判決は、このような金銭の支払いを伴わない和解合意には、

A ct av is

判決は、適用されないとする ₉₈

。同地裁判決は、

A ct av is

判決が、

no -A G

によるRPについて言及せず、金銭を支払うRPについてのみ論じていることから、

A ct av is

判決は金銭を支払うものに限定されるとする ₉₉

  一方、

L ip ito r

事件 100

N ex iu m

事件 101

という二つの地裁判決は、FTCと同様の見解をとり 102

、金銭支払い以外の手段による価値移転であっても、金銭支払いによるRPと同様であるとする 103

L ip ito r

事件判決は、

A ct av is

判決は、RPは金銭の支払いに限るとは言っていないとし 104

N ex iu m

事件判決も、

A ct av is

判決は、RPに、ジェネリックメーカー・ブランドメーカー間の何らかの金銭のやり取りを求めてはいないとする 105

L am ic ta l

事件地裁判決が、

A ct av is

判決が金銭を伴わない和解合意に言及していないことから、

no -A G

A ct av is

判決の範囲外としたのに対し、この二つの判決は、

A ct av is

判決がRPを金銭に限るとは言っていないとして、

no -A G

をその範囲内とした。   ただ、これに関連し、金銭以外の形のRPを認めるとしても、その他の形の支払いが、﹁説明できない多額の﹂支払いであるかなど

A ct av is

判決に従った分析をするにあたって、金銭的な価値に置き換えられる必要が指摘されている 106

第二節  合理の原則の適用  

A ct av is

判決は、RPを合理の原則に従って評価すべきとしたが、その評価方法については下級審にまかせるとした。

A ct av is

判決後の下級審による合理の原則の適用方法を見ると、そこには、ばらつきが見られる。  

L am ic ta l

事件地裁判決は、前述のように、当該和解をそもそも、

A ct av is

判決の適用外としたが、当該和解の違法性

(18)

   同志社法学 六八巻一号三七八三七八

評価において、

A ct av is

判決で提示される基準を採用した。すなわち、

A ct av is

判決がRPに反トラスト法を適用する根拠として列挙した①~⑤の五つの要因を、合理の原則を適用する指針であるとする 107

。これに従い、同地裁判決は、当該和解をこの五つの要因に従って評価し、合理的な和解であると結論付けた 108

。しかし、この判決の評価方法は、後述する控訴裁判決で覆された。

  一方、後述の控訴裁判決後の地裁判決である

A gg re no x

事件では、合理の原則について、以下のように述べられた。すなわち、多額の価値の移転を伴うRPが、それ自体として違法となるわけではない 109

。合理の原則のもとで、和解当事者は、特許権者への価値の移転に競争促進的な意味があることを説明し、そのRPを正当化することができる 110

。しかし、それを説明できないのであれば、そのようなRPは、競争リスクを避けるためのものである可能性が高く、反競争的であると結論付けられるとする 111

  さらに、

A gg re no x

事件は、説明できない多額のRPの﹁多額﹂についても言及している。すなわち、支払われた額が、和解をせず特許訴訟を続けた際にかかる費用よりも少ない額であるならば、それは、説明できない多額のRPとは言えない 112

。ただし、それより支払われた額が多かったからと言って、自動的に違法と考えられるわけではなく、さらに、その他の正当化要因が問題となる 113

。一方、特許の期待される価値に関しては、それとRP額とを比較して、和解合意が適法だと言えるかどうかは、わからない 114

。ただし、特許の価値と比べて大きすぎない支払いであっても、特許無効リスクを避けるためのものであるなら、

A ct av is

判決のいう﹁多額﹂に該当するだろうという 115

第三節 

Lamictal

控訴裁判決   前述のように、また、これ以外にも、

A ct av is

判決後、多くの地裁で、RPの評価が争われたが、二〇一五年に初め

(19)

   同志社法学 六八巻一号三七九三七九 て控訴裁の判決が出された。それが、前述の

L am ic ta l

事件が第三巡回区裁判所に上訴されたものである。第三巡回区裁判所は、地裁判決を破棄し、同裁判所の意見にそって手続きを進めるよう地裁に事件を差し戻した 116

  まず、第三巡回区裁判所は、

L am ic ta l

地裁判決が、RPを金銭を含むものに限定したことを覆し、

no -A G

も、

A ct av is

判決の適用を受けるとした 117

。その理由として、第三巡回区裁判所が述べたのは、

no -A G

は、何百万ドルもの価値のある 118

、普通ではない、説明できないブランドメーカーから、ジェネリックメーカーへの多額の価値の移転であり、それゆえ、競争リスクを排除するために支払われたものであると推測されうるということである 119

  また、同裁判所は、

no -A G

について、以下のように評価する。

no -A G

によるRPの反競争効果は金銭によるRPの反競争効果と同様に有害である 120

。ブランドメーカーが、

no -A G

をジェネリックメーカーによる特許へのチャレンジ取り下げに利用すれば、金銭によるRPと同様、疑わしい特許を無効にする機会をなくし、ありえたかもしれない競争もなくす 121

。また、

A ct av is

判決は、RPに代替する適法な和解方法として、ジェネリックメーカーに、より早期の参入を認めることを例示したが、これと

no -A G

とは、異なる 122

no -A G

は競争リスクを排除するものである 123

  さらに、同裁判所は、地裁の合理の原則の解釈も誤っているとする。すなわち、合理の原則はすでに確立したものである。それにもかかわらず、地裁は、

A ct av is

判決が反トラスト法を適用すべき理由として列挙した五つの要因を合理の原則の再定義と誤解した 124

A ct av is

判決が合理の原則適用の参考として示したのは、訴訟費用の節約のためのRP、あるいは、他のサービスの対価としてのRPは、当該RPの正当化事由となりうることである 125

。結論として、第三巡回区裁判所は、

L am ic ta l

地裁判決を破棄し、伝統的な合理の原則により手続きを進めるよう地裁へ差し戻した 126

(20)

   同志社法学 六八巻一号三八〇三八〇

第四節  小括  

A ct av is

判決後、多くの地裁がRPについて評価し、その評価には、ばらつきがある。特に、

no -A G

A ct av is

判決のいうRPに該当するかという問題と合理の原則の適用方法について争いが見られた。

  現在のところ、控訴裁判決は、第三巡回区裁判所によるもののみである。この第三巡回区裁判所の判決によれば、

no -A G

は、大きな価値の移転を伴うものであり、

A ct av is

判決の言うRPである。また、合理の原則による評価は、従来通りの方法で行われるが、訴訟費用回避、あるいは、提供されたサービスの対価というのが、RPの合理の原則における正当化事由となりうる。

  しかし、もちろん、この評価は定まったものでなく、今後もより発展し、あるいは、異なる裁判所による異なる評価が出され、また、多くのRPが締結される 127

中で、新たな問題も生じてくるであろう。

  以下では、現在までの裁判例と議論を踏まえて、RPの合理の原則による評価を検討する。

第四章  合理の原則のもとでのRPの評価 第一節  金銭支払いを伴わない形のRPの評価  

A ct av is

判決後、前述のように、複数の地裁、控訴裁で、

no -A G

によるRPの反トラスト法違反が争われた。地裁レベルでは、

no -A G

のような金銭の支払いを伴わないRPが、

A ct av is

判決のいうRPに該当するのかどうかについて意見が分かれている。

  しかし、

A ct av is

判決後初の控訴裁判決で、第三巡回区裁判所は、地裁の判決を覆し、金銭の移転でなくても、説明

(21)

   同志社法学 六八巻一号三八一三八一 のできない多額の価値を移転するRPは、競争を制限するものであるとして、

A ct av is

判決の言うRPに該当するとした 128

。この控訴裁判決後の地裁判決である

A gg re no x

事件も、同様に、多額の正当化できないRPは、移転する価値の形式を問わず、たとえ金銭の移転でなくとも、重大な反競争効果をもたらしうるとした 129

  また、FTCも控訴裁と同意見である。FTCは、

L am ic ta l

控訴裁事件のアミカスにおいて、次のように述べている。すなわち、RPの形式が金銭の移転を伴うかそれ以外の形をとるかは、法的にも経済学的にも何ら意味がない 130

。問題なのは、そのRPが消費者厚生に与える影響であるとし 131

、RPは金銭の支払いによるものに限らないとする 132

  金銭を用いないRPとして特に問題となったのが、

no -A G

である。研究によれば、AGの参入により、ジェネリックメーカーの産出量も、価格も減少するとされており、ジェネリックメーカーにとって

no -A G

は、大きな利益となる 133

。一方で、ブランドメーカーにとって

no -A G

は、得られるはずの大きな利益を逸することになる 134

。したがって、

no -A G

は、明らかに、ブランドメーカーからジェネリックメーカーへの価値の移転であり、このような価値の移転は、特許の有効性に不安があるからこそ行われるのであろう。さらに、

no -A G

は、産出量の制限であり、それにより価格を引き上げるものであるので、金銭によるRPよりも反競争的で消費者に有害であるという 135

。したがって、

no -A G

は、反競争効果をもつブランドメーカーからジェネリックメーカーへの価値の移転であり、RPと同様

A ct av is

判決にしたがって判断されるべきであろう。

第二節  合理の原則の適用   前述のように、金銭の支払いを伴わなくとも、ジェネリックメーカーの参入遅延の見返りとして、ブランドメーカーからジェネリックメーカーに価値の移転があれば、RPとして合理の原則の適用を受けると考えられる。

(22)

   同志社法学 六八巻一号三八二三八二

  では、合理の原則はいかに適用されるのであろうか。   まず、

A ct av is

判決は、合理性を評価する反トラスト法分析は、当然違法、クイックルック、合理の原則の三つに明確に分かれるのでなく 136

、状況に応じて必要とされる証拠の質が変化するスライド制(

sli din g sc ale

)をとるという 137

。その上で、RPについては、詳細な(

lo ng fo rm

)合理の原則分析を必要とはしないとし、具体的には、説明できない多額のRP自体から、市場支配力と反競争効果を推定できるとする 138

。逆に、支払いが、訴訟費用の節約のためであるか、あるいは、サービスの対価として支払われた場合には、RPを正当化する要因となる 139

 

L am ic ta l

控訴裁判決が言うように、伝統的な合理の原則に従えば、まず、反トラスト訴訟の原告が市場支配力と反競争効果を立証し、その後、被告は、当該合意が競争促進目的を達成するものであることを立証することになる 140

  この点、

A ct av is

判決は、RP和解における説明のできない多額の支払いを市場支配力と反競争効果の十分な証拠であるとしているので 141

、原告が立証すべきは、説明のできない多額の支払いがあったことである。この多額が、どの程度の額を指すのかという点については争いがある 142

が、

A ct av is

判決は、その中で、RPが多額であるかどうかは、予想される訴訟費用、提供されるサービス、その他の正当化要因によって決まるとしている 143

。また、

H ov en ka m p

ら有力な反トラスト法学者らは、経済学的なモデルを用い、特許訴訟にかかると想定される費用とジェネリックメーカーから受けるサービスの対価の合計額を超えれば、多額といえるという 144

。これに従えば、

A ct av is

判決の言う多額のRPとは、予想される訴訟費用と提供されるサービス等の対価を超えるかによって判断されると考えられる。

  したがって再び、

H ov en ka m p

らの提案を参考にすれば、RPの違法性判断について立証すべきは、①和解を締結した当事者らが一定期間、競争を差し控えることに合意していること、②ジェネリックメーカーへの説明のつかない支払いがあることである 145

。この説明のつかない支払いは以下のように立証する 146

。①金銭にしろ、それ以外にしろ、ジェネリ

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Department of Central Radiology, Nagoya City University Hospital 1 Kawasumi, Mizuho, Mizuho, Nagoya, Aichi, 467-8602 Japan Received November 1, 2002, in final form November 28,

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(1)東北地方太平洋沖地震発生直後の物揚場の状況 【撮影年月日(集約日):H23.3.11】 撮影者:当社社員 5/600枚.

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と判示している︒更に︑最後に︑﹁本件が同法の範囲内にないとすれば︑

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化 を行 っている.ま た, 遠 田3は変位 の微小増分 を考慮 したつ り合 い条件式 か ら薄 肉開断面 曲線 ば りの基礎微分 方程式 を導 いている.さ らに, 薄木 ら4,7は