窒化物半導体中のキャリアダイナミクスに関する研究
Study on carrier dynamics in nitride semiconductor
2003 年 3 月
早稲田大学大学院理工学研究科
物理学及応用物理学専攻半導体デバイス工学研究
黒田 剛正
目次
第
1
章 序論5
第
2
章 内部電場遮蔽効果の発光過程への影響2.1
背景2.1.1
窒化物半導体発光デバイスの問題点9
2.1.2
内部電場9
2.1.3
量子閉じ込めシュタルク効果11
2.1.4
キャリアによる内部電場の遮蔽効果15
2.2
実験の概要2.2.1
時間分解測定16
2.2.2
実験系16
2.2.3
サンプル構造19
2.3
実験結果2.3.1
発光エネルギーの励起光強度依存性20
2.3.2
キャリア寿命の励起光強度依存性25
2.4
考察2.4.1
量子閉じ込めシュタルク効果と遮蔽効果による説明28
2.4.2
数値計算による解析28
2.5
温度依存性33
2.6
まとめ36
2.7
参考文献37
第
3
章 拡散したMg
が活性層へおよぼす影響3.1
背景39
3.2 InGaN
多重量子井戸サンプル構造と時間分解フォトルミネッセンス測定
3.2.1
サンプル構造42
3.2.2
時間分解フォトルミネッセンス測定系43
3.3
実験結果44
3.4
考察48
3.5
まとめ51
3.5
参考文献52
第
4
章 InGaN 量子井戸のエレクトロルミネッセンス測定4.1
背景53
4.2
エレクトロルミネッセンススペクトルの温度依存性4.2.1
サンプルと実験装置55
4.2.2
実験結果58
4.2.3
考察62
4.3
時間分解エレクトロルミネッセンス4.3.1
サンプルと実験装置66
4.3.2
実験結果および考察71
4.4
まとめ76
4.5
参考文献77
第
5
章 総括79
付録
A
内部電場の遮蔽効果の数値計算プログラム81
付録
B
ストリークカメラの動作原理97
謝辞
101
研究業績
103
序論
現在、赤、緑、青などの可視光で発光する発光ダイオード
(LED)
は大型街頭デ ィスプレー、信号機などに幅広く利用されている。このうち、赤や赤外のLED
は1960
年代に開発されたが、青色など短波長で発光するLED
の開発は容易で はなかった。当時、青色発光素子の材料としてはGaN
系とZnSe
系の半導体が あった。1969
年に初めてGaN
の単結晶成長が可能になり[1]
、1971
年にはmin
構造のLED
が実現した[2]
。しかし、より発光強度の高いpn
構造のLED
作製 に不可欠なp
型結晶ができず、結晶欠陥の密度も高いため、多くの研究者はGaN
系半導体の研究をあきらめ、青色発光素子研究の主力はZnSe
系半導体となった。このような中、
1991
年には3M
社によりZnSe
系半導体を用いて、低温(77K)
でのレーザ発振が実現された[3]
。しかし、現在でも室温連続発振での寿命は500
時間程度であり[4]
実用寿命(5000
時間)
にはほど遠い。1989
年、名古屋大学の赤 崎らは窒化物半導体であるGaN
にMg
をドープし、低速電子線照射処理を行う ことで初めてGaN
のp
型化に成功し、GaN
のpn
接合型青色LED
を実現した[5]
。日亜化学工業の中村修二らは1993
年にInGaN
を、独自のツーフロー有機 金属化学気相成長装置で成長させ、電子線照射よりも単純で大量処理が可能な 熱処理によってp
型化を行うことで高輝度青色LED
の開発に成功した[6,7]
。中 村らはさらに青色LED
の技術を基礎に、青色レーザーダイオード(LD)
の開発を 進め、1995
年にパルス発振に成功し、翌年には室温連続発振にも成功した[8,9]
。2002
年現在、波長405 nm
、出力55 mW
のLD
が実現されている。レーザ光の集光時のスポットサイズは、波長が短いほど小さくなるため、短 波長の
LD
を用いれば記録用光ディスクの高密度化が可能である。次世代DVD
規格(Blu-ray Disc)
では発光波長405 nm
のLD
を採用し、現在のDVD
の約5
倍(
片面27 GB)
の記録容量を達成する。しかし、記録層の2
層化には出力100 mW
のLD
が必要と言われており、現在もなおLD
の高出力化、長寿命化に向けた研 究が行われている。窒化物半導体はまた、大きなバンドギャップや高い電子飽 和移動度などのすぐれた半導体特性を持つため、高出力、高速トランジスタな どの電子デバイス実現にも応用できる可能性が高い[10-12]
。このように現在、窒化物半導体である
InGaN
が注目され、多くの研究が行わ れているが、半導体物性、特に発光再結合過程については未解明の部分が多い。たとえば
InGaN
ではIn
組成の不均一性によりキャリアの拡散が起こる。また、きわめて高い内部電界が存在するために量子閉じ込めシュタルク効果が発光特 性に大きな影響を及ぼす。
LED
やLD
の発光特性を改善するためには、このよ うな複雑な特性を持つInGaN
中でのキャリアの挙動(
キャリアダイナミクス)
を 解明する必要がある。このため、我々は、時間分解測定法を用いて光励起され た(
あるいは電流注入された)
キャリアが、発光再結合する過程を調べた。本論文 は、その研究成果をまとめたものである。まず、本章では研究の背景を述べ、研究の目的を明らかにする。また、章末 に本論文の構成を示す。
InGaN
量子井戸のキャリアの再結合過程には2
つの現象の関与が報告されている。一つは歪みによって発生するピエゾ電場などの内部電場によって生じる 量子閉じこめシュタルク効果である
[13-16]
。内部電場により、量子井戸のポテ ンシャルが傾くと、実効的なバンドギャップが小さくなるとともに、電子と正 孔が空間的に分離するため再結合レートが減少する。その結果、発光エネルギ ーは低エネルギーにシフトし、キャリア寿命は伸びる。この現象を量子閉じ込 めシュタルク効果というが、井戸中にキャリアが生成されると内部電場は遮蔽 され、量子閉じ込めシュタルク効果は抑制される。このため、発光エネルギー とキャリア寿命はキャリア濃度に依存して変化する。もう一つの現象は半導体 内でのキャリアの移動である[17,18]
。InGaN
ではIn
組成の均一な膜が成長で きないため、ポテンシャルエネルギーの揺らぎが面内に存在する。このため、In
組成が低くポテンシャルの高い領域から、In
組成が高くポテンシャルエネルギ ーの低い領域へ、キャリアは拡散し発光する。したがって、キャリアの移動に ともなって、発光エネルギーは低エネルギー側へとシフトする。本論文第
2
章では、キャリア濃度を系統的に変化させて行った時間分解フォ トルミネッセンス測定の結果と量子閉じ込めシュタルク効果と内部電場の遮蔽 効果の計算結果を示し、InGaN
量子井戸中の発光過程における量子閉じ込めシ ュタルク効果とキャリアによる内部電場の遮蔽効果の関わりを明らかにする。
LED
やLD
は量子井戸構造の活性層をp
型およびn
型半導体で挟んだpn
ダ イオード構造を有する。外部電源からp
型半導体を通じてホールが、n
型半導 体を通じて電子が供給される。これらの電子とホールは活性層にある量子井戸 で再結合し発光する。p
層のアクセプタとしてMg
が用いられているが、InGaN
半導体では結晶欠陥によりp
層にドープしたMg
が活性層にまで拡散する場合 があることが報告されている[19]
。しかし、これまで拡散したMg
が活性層のキ ャリアの再結合過程におよぼす影響は明らかではなかった。第3
章では、量子井戸に隣接する
GaN
層がp
型であるかないかで量子井戸のキャリア寿命が温度 に依存してどのように変化するかを時間分解フォトルミネッセンス測定で調べ、拡散した
Mg
が活性層のキャリアの再結合メカニズムに及ぼす影響について調 べた。第
4
章ではエレクトロルミネッセンススペクトルの温度依存性、時間分解エ レクトロルミネッセンス測定について述べる。従来、非常に高速な現象である キャリアの振る舞いを調べるためには、主に光パルスによってキャリアを生成 する時間分解フォトルミネッセンス測定が行われてきた。電気パルスを用いた 時間分解エレクトロルミネッセンス測定では、実際のデバイスと同じく、電流 注入でキャリアを生成し、再結合過程を調べられる。したがって、より直接的 にデバイス動作中のキャリアの挙動を観測できるという利点を有する。しかし、エレクトロルミネッセンスでは高い時間分解能を得ることが難しく、これまで 窒化物半導体の時間分解エレクトロルミネッセンスの報告は京大の川上らによ る
1
件のみであり、時間分解能は10 ns
である[20]
。本研究では時間分解能3 ns
の時間分解エレクトロルミネッセンス測定系を構築し、InGaN
発光デバイスに おける電流注入過程を観測した。第
5
章では本論文で得られた知見をまとめた。参考文献
[1] H. P. Marusaka and J. J. Tietjen, Appl. Phys. Lett. 15, 327 (1969).
[2] J. I. Pankove, E. A. Miller, D. Richman and J. E. Berkeyheiser, J. Lumin. 4, 63 (1971).
[3] M. A. Haase, J. Qiu, J. M. DePuydt, and H. Cheng, Appl. Phys. Lett. 59, 1272 (1991).
[4] S. Itoh, K. Nakano and A. Ishibashi, Journal of Crystal Growth
、214/215, 1029(2000).
[5] H. Amano, M. Kito, K. Hiramatsu, I. Akasaki Jpn. J. Appl. Phys. 28, L2112 (1989).
[6] S. Nakamura, T. Mukai and M. Senoh, Jpn. J. Appl. Phys., part 2 30, No. 12A, L1998 (1995).
[7] S. Nakamura, M. Senoh, N. Iwasa and S. Nagahama, Jpn. J. Appl. Phys., part 2 34, No. 7A, L797 (1995).
[8] S. Nakamura, M. Senoh, S. Nagahama, N. Iwasa, T. Yamada, T. Matsushita, H.
Kiyoku and Y. Sugimoto, Jpn. J. Appl. Phys., part 2 35, No.1B, L74 (1996).
[9] S. Nakamura, M. Senoh, S. Nagahama, N. Iwasa, T. Matsushita and T. Mukai, Appl. Phys. 76, 22 (2000).
[10] M. Asif Khan, A. Bhattarai, J. N. Kuznia, and D. T. Olson, Appl. Phys. Lett. 63, 1214 (1993).
[11] Y. Ohno and M. Kuzuhara, IEEE Trans. Electron Dev. 48, 517 (2001)
[12] S. Arulkumaran, T. Egawa, H. Ishikawa, and T. Jimbo, Appl. Phys. Lett. 80, 2186 (2002)
[13] T. Takeuchi, S. Sota, M. Katsuragawa, M. Komori, H. Takeuchi, H. Amano and I.
Akasaki, Jpn. J. Appl. Phys. Part 2 36, No. 4A, L382 (1997).
[14] F. D. Sala, A. D. Carlo, P. Lugli, F. Bernardini, V. Fiorentini, R. Scholz and J.
Jancu, Appl. Phys. Lett. 74, 2002, (1999).
[15] T. Kuroda, A. Tackeuchi and T. Sota, Appl. Phys. Lett. 76, 3753 (2000).
[16] Y. Narukawa, Y. Kawakami, S. Fujita S. Fujita and S. Nakamura, Phys. Rev. B, 55, R1938 (1997).
[17] S. Chichibu, T. Azuhata, T. Sota and S. Nakamura, Appl. Phys. Lett. 70, 2822 (1997).
[18] S. Chichibu, K. Wada and S. Nakamura, Appl. Phys. Lett. 71, 2346 (1997).
[19] N. Kuroda, C. Sasaoka, A. Kimura, A. Usui and Y. Mochizuki, J. Cryst. Growth 189/190, 551 (1998).
[20] Y. Kawakami, Y. Narukawa, K. Sawada, S. Saijyo, S. Fujita, S. Fujita and S.
Nakamura , Mater. Sci. Eng.B, 50, 256 (1997).
第 2 章 内部電場遮蔽効果の発光過程への影響
2.1
背景2.1.1
窒化物半導体発光デバイスの問題点青色発光ダイオード、青色レーザダイオードなどの高輝度発光デバイスの材 料としてワイドギャップ半導体である
InGaN
が用いられている。しかし、その 基礎物性は未解明な部分が多く、発光波長がキャリア濃度に依存してシフトす ることや、レーザダイオードではGaAs
系材料に比べて発振しきい電流密度が一 桁大きいなど、デバイス応用上の問題がある[1-4]
。このため、InGaN
量子井戸 を用いた青色発光デバイスではこれらの問題を回避するために経験的に井戸幅2~3 nm
程度の非常に薄い量子井戸が用いられてきた。1999
年、ローマ大学のCarlo
らはInGaN
レーザにおける、非常に高い発振しきい電流密度、エネルギーシフトなどが、量子閉じ込めシュタルク効果とキャリアによる内部電場の遮蔽 効果によって理論的に説明できる可能性を示した
[5]
。2.1.2
内部電場厚さ
40 nm
程度のInGaN
層(
井戸層)
をGaN
層(
障壁層)
上に成長した場合、InGaN
は下地のGaN
の格子定数に整合して成長し、大きな歪みを持つ[6, 7]
。成長方向を
z
軸と置くと、井戸層の歪ε
ijは、( : : )
b w
xx yy
w
b w
a a a
a a
ε = ε = −
障壁層の格子定数、 歪のない場合の井戸層の格子定数
(2.1)
13 23 13
33 33 33
2
( )
zz xx yy xx
ij
c c c
c c c
c
ε = − ε − ε = − ε
:弾性定数(2.2)
ij
0
i ≠ j
のとき、ε = (2.3)
と、書ける。
GaN
、InN
の格子定数、弾性定数を表2.1
に示す。ウルツ鉱構造の
InGaN
は対称性が低くGaAs(
ピエゾ定数e
31=-0.12, e
33=0.06)
な どと比較して大きなピエゾ定数をもつため、歪により非常に大きなピエゾ電場 が誘起される。歪とピエゾ分極の関係は次式であらわされ、歪の増大とともに 分極は大きくなる。15 15
31 31 33
0 0 0 0 0
0 0 0 0 0
0 0 0
xx yy x
zz y
yz z
zx xy
p e
p e
p e e e
ε ε ε ε ε ε
=
(2.4)
式
(2.1)
、(2.2)
、(2.3)
を式(2.4)
に代入すると、z
軸方向のピエゾ電場E
zは、31 33
31 13 33
33
( )
( )
2
( : )
z z r
xx yy zz
r
b w
r w
r
E P
e e
e c e
c a a
a ε
ε ε ε
ε
ε ε
= −
+ +
= −
− −
= −
井戸層の誘電率
(2.5)
となり、井戸層と障壁層の格子定数
a
bとa
wの違いによって大きさが決まること がわかる。表
2.1 GaN
およびInN
の格子定数、ピエゾ定数、弾性定数、比誘電率[8-11]
格子定数
a
(Å) [8]ピエゾ定数
e
33 (C/m2) [9]e
31(C/m2) [9]弾性定数
c
13 (GPa) [10]c
33 (GPa) [10]比誘電率 [11]
ε
GaN 3.188 1.46 -0.6 103 405 8.9
InN 3.540 0.97 -0.57 92 224 15.3
In
xGa
(1-x)N
格子定数a
wをGaN
、InN
の格子定数a
GaNとa
InGaNを使って3.188 3.540(1 )( )
a
w= x + − x
Å(2.6)
とし
(
ベガード則)
、GaN
上に成長したInN
モル分率10
%のIn
0.1Ga
0.9N
井戸層 のピエゾ電場の大きさを計算すると、2.74 MV/cm
と非常に大きな値となる。(
た だし、In
0.1Ga
0.9N
の弾性定数、比誘電率、ピエゾ定数、比誘電率にはGaN
の値 を用いた。)
このように、InGaN/GaN
量子井戸では非常に大きなピエゾ電場が 存在する。2.1.3
量子閉じ込めシュタルク効果本 節 で は 量 子 井 戸 中 の ピ エ ゾ 電 場
(
内 部 電 場)
の 井 戸 に 垂 直 な 成 分 がInGaN/GaN
量子井戸の発光過程に与える影響について述べる。Figure 2.1(a)
に内部電場が存在しないと仮定した場合の、井戸幅L
W= 4.0 nm
のInGaN/GaN
量子井戸のバンド構造と電子、正孔の分布を示した。ここでは、バンドギャップの不連続値
Δ E
c=280 meV
、電子、正孔の有効質量はそれぞれ0.20 m
0、0.54 m
0とし、シュレーディンガー方程式とポアソン方程式を連立させて解いてキャリア分布
<φ
e(h)>
2(φ
e(h)は電子(
ホール)
の波動関数)
を求めた。(
計算の詳細は付 録に記す)
。 内部電場が存在しない場合、電子、正孔ともにキャリア分布は左右 対称となり、そのエネルギー差はバンドギャップエネルギーE
gと閉じ込めエネ ルギー∆E
の和となる。しかし、内部電場(500 kV/cm)
が存在すると(fig. 2.
1(b))
、 ポテンシャルの傾きにより実効的なバンドギャップが小さくなる。このため、発光エネルギーは低エネルギー側にシフトする。また、電子と正孔はそれぞれ 表面側、基板側に移動し、空間的に分離される。ここで、電子とホールのキャ リア寿命
τ
はフェルミの黄金則により、1 ˆ
2e
H
hφ φ
τ ∝ ′ (2.7)
と、書ける。放射場相互作用ハミルトニアンH ˆ ′
は、ˆ e l
H ′ = mc A P ⋅ (2.8)
である。ここで、
e
は素電荷、m
は電子の質量、c
は光速、A
はベクトルポテン シャル、P l
は運動量演算子である。式(2.8)
を式(2.7)
に代入して2 2 2
1
e h e h
e
mc φ φ φ φ
τ
∝ A ⋅ p ∝ A ⋅ p (2.9)
波動関数
φ
e(h)をブロッホ関数( )
ke h
u
、包絡関数φ
e(h)を用いて、( ) ( ) e h( )
e h e h
u
kφ = ϕ (2.10)
と、書き、式
(2.9)
に代入すると、 2{
*}
2 21
e h
e h e h
u
ku d
k e hφ φ ϕ ϕ ϕ ϕ
τ ∝ A ⋅ p ≈ A ⋅ ∫
unit cellp r ∝ (2.11)
となり、キャリア寿命τは波動関数
(
包絡関数)φ
e、φ
hの重なりの2
乗に反比例す る。内部電場により電子と正孔が空間的に分離すると、電子とホールの波動関 数の重なり<φ
e|φ
h>
2が小さくなるため、キャリア寿命が延びる。この量子井戸の 傾きによる発光波長のシフト、キャリア寿命の長寿命化を量子閉じ込めシュタ ルク効果と言う。また、
fig. 2.2
に内部電場の大きさを一定(500 kV/cm)
にし、井戸幅L
Wを2.5 nm
、4.0 nm
、5.5 nm
と変化させたときの量子井戸のポテンシャルと電子、キャリア分布の計算結果を示す。この図から明らかなように、量子閉じ込めシュタルク効 果は井戸幅が広いほど大きくなる。
(b)Well width: 4.0 nm, internal electric field: 500 kV/cm
(a) Well width: 4.0 nm, internal electric field: 0 kV/cm
Figure 2.1 Band edge profile of 4.0 nm InGaN well (a) without internal electric field and (b) with internal electric field of 500 kV/cm.
Conduction band
Valence band Electron
Hole
Barrier Well Barrier
Band gap
z z
Conduction band
Band gap
Valence band Barrier Well Barrier
Energy Energy
Figure 2.2 Well width dependences of Quantum confined Stark effect. (a)well width: 2.5 nm, (b)well width: 4.0 nm, (c)well width, 5.5 nm with internal electric field of 500 kV/cm.
( c ) Well Width, L
W= 5.5nm ( b ) Well Width, L
W= 4.0nm (a)Well Width, L
W= 2.5nm
Energy Energy Energy
Conduction band
Valence band
Conduction band
Valence band
Conduction band
Valence band
2.1.4
キャリアによる内部電場の遮蔽効果内部電場の存在する量子井戸中にキャリアを生成した場合を考える。キャリ アは内部電場により空間的に分離されるが、空間的に分離したキャリアは内部 電場とは逆方向の静電場を形成する。この結果、量子井戸中の内部電場は小さ くなり、量子閉じ込めシュタルク効果が抑制される。この効果はキャリア濃度 を高くするほど大きくなるが、内部電場が完全に遮蔽されると飽和し、それ以 上キャリア濃度を高くしても変化がなくなる。
量子閉じ込めシュタルク効果とキャリアによる内部電場の遮蔽効果を考える
ことで、
InGaN
半導体レーザの発振しきい電流密度が高いのは、発光効率を高めるために量子井戸にキャリアを生成し、内部電場を遮蔽する必要があるため であり、また、キャリア密度により実効的なバンドギャップの大きさが変わる ため発光波長のシフトが起こると定性的に説明可能である。
これまで、
InGaN
量子井戸における量子閉じ込めシュタルク効果と内部電場 の遮蔽効果は、井戸幅と発光波長の関係を中心に調べられてきた[7, 12]
。この結 果、内部電場の大きさが1 MV/cm
程度であることが明らかとなったが、どの程 度のキャリア濃度で遮蔽効果が飽和するのかなど、キャリア濃度と遮蔽効果の 定量的な関係や、遮蔽効果がキャリア寿命におよぼす影響は不明であった。本 研究では初めてキャリア濃度を系統的に変化させて内部電場の遮蔽効果を実測 した。←Low Carrier density High→
Low (Short) Small (Long)
Band gap energy (Wave length)
Overlap of wave function (Lifetime)
High (Long) Large (Short) 5×10
17/cm
32×10
18/cm
30 /cm
3Figure 2.3 Carrier density dependences of screening effect.
2.2
実験の概要2.2.1
時間分解測定本研究では低温での
InGaN
量子井戸中のキャリアの振る舞いを観測するため に時間分解フォトルミネッセンス測定を行った。はじめにフォトルミネッセン スについて簡単に説明する。半導体中では価電子帯の電子にバンドギャップエネルギー以上のエネルギー を与えると伝導帯に励起される。この励起された電子は時間とともに価電子帯 の正孔と再結合し、エネルギーを放出する。このエネルギーの放出過程の一つ として
GaN
、GaAs
系の直接遷移型半導体では「発光(
ルミネッセンス)
」がある。この発光を伴う緩和を発光再結合、それ以外の緩和過程を非発光再結合と呼ぶ。
この半導体のルミネッセンスのスペクトルを観測すればバンドギャップの大き さや、励起子や不純物準位の存在など、半導体のバンド構造に関する様々な情 報を引き出すことが可能である。さらに、このスペクトルの時間変化を観測す れば半導体中の電子や正孔
(
キャリア)
の緩和過程や拡散などの振る舞いを観測 できる。2.2.2
実験系Figure 2.4
に測定系を示す。ワイドギャップ半導体であるInGaN
を光励起するためにモードロックチタンサファイアレーザ
(
波長768 nm)
によって生成された 光パルス(パルス幅約100 fs
、出力300 mW
、繰り返し100 MHz)
を第二高調波発 生装置で波長変換し(
波長384 nm
、パルス幅約200 fs
、出力20 mW)
励起光とし て用いた。この波長の光のエネルギーは井戸層のバンドギャップより大きく、障壁層のバンドギャップより小さいため、キャリアは井戸層にのみ生成される。
この励起光を焦点距離
10 cm
のレンズでサンプル上に集光した。サンプル上で のスポットサイズは7.58×10
-6cm
2 であった。量子効率を1と仮定すると、1 mW
の光で生成されるキャリア密度は2.0×10
17cm
-3と計算される。励起光強度を減光 フィルタで0.5 mW
〜15 mW
の範囲で調整し、キャリア濃度を系統的に変化させ た。サンプルの温度はクライオスタットで10K
に保った。フォトルミネッセン スは発散光であるので、焦点距離14 cm
のレンズで平行光にし、さらにもう一 枚の焦点距離14 cm
のレンズで分光器に集光した。分光器の焦点距離は250 mm
、 回折格子は600 g/mm
、波長分解能は1 nm
である。 分光器で波長分解した光を ストリークカメラで時間分解測定した。ストリークカメラ本来の時間分解能は5
ps
であるが、分光器内の光路長差による分散のため時間分解能が落ちる。この 計測系全体での時間分解能は15 ps
である。Monochromator Chromex
250is Streak scope
Hamamatsu Photonics C4334
Excitation pulse
Photoluminescence Sample
Cryostat
Daikin V202C5LR
Variable filter
Figure 2.4 Experimental setup.
Ti:saphire laser
Second harmonic generator
Ar laser
Monochrometer Streak scope
Cryostat Ti:sapphire laser
Second harmonic generator (BBO crystal)
Figure 2.5 Experimental setup.
2.2.3
サンプル構造本実験で用いたサンプルは全て有機金属気相成長
(MOCVD)
法でSiC
基板上に 成長した。表2.2
にサンプル構造の設計値を示す。井戸幅はサンプルA
、2.5 nm
、サンプル
B
、4.0 nm
、サンプルC
、5.5 nm
と3
種類の厚さのものを成長した。成長メカニズムが複雑であるため実際の
InN
モル分率とは異なっている可能性が 高い。表
2.2
サンプル構造(
設計値)
サンプル 井戸層の組成 井戸層の厚さ 障壁層の組成 障壁層の厚さ 周期数
A In0.2Ga0.8N 2.5 nm In0.03Ga0.97N 2.5 nm 10 B In0.12Ga0.88N 4.0 nm In0.03Ga0.97N 5.0 nm 3 C In0.12Ga0.88N 5.5 nm In0.03Ga0.97N 8.5 nm 3
Sample B
In
0.12Ga
0.88N(4.0 nm) /In
0.03Ga
0.97N(5.0 nm)
SiC
GaN
In
0.03Ga
0.97N(5.0 nm) In
0 12Ga
0 88N(4.0 nm) In
0.03Ga
0.97N(5.0 nm) In
0 12Ga
0 88N(4.0 nm) In
0.03Ga
0.97N(5.0 nm) In
0 12Ga
0 88N(4.0 nm) In
0.03Ga
0.97N(5.0 nm)
GaN
Figure 2.6 Sample stracture.
Well
Well
Well Barrier
Barrier Barrier
Barrier
Energy
2.3
実験結果2.3.1
発光エネルギーの励起光強度依存性Figure 2.7
にサンプルB(
井戸幅4.0 nm)
の弱励起(1 mW)
と強励起(15
mW)
に おける励起直後(
励起後0.5 ns)
のフォトルミネッセンススペクトルを示した。こ の図から従来のCW
計測で測定されたスペクトル[7]
と同様、強励起では弱励起 に比べ発光エネルギーが50 meV
程度高エネルギー側にシフトしていることが わかる。さらに本研究では、キャリア注入後の発光エネルギーの変化を調べた。Figure 2.8
に発光スペクトルの時間変化を示す。各スペクトルは強励起における(
励起光強度15 mW)
励起後0.5 ns(
励起後0.2 ns
から0.8 ns
までの0.6 ns
の時間幅 で積分した)
、4.5 ns(4.2~4.8 ns)
、8.5 ns(8.2~8.8 ns)
のものである。この図より時間 発展とともに、発光強度が下がり、フォトルミネッセンスピークが低エネルギ ー側へシフトしていることがわかる。キャリア濃度と発光エネルギーの関係を 調べるため、励起光強度を変えて測定した発光ピークのエネルギーと発光強度 の時間変化をfig. 2.9
に示す。Figure 2.8
と同様に、全ての励起光強度で時間発展 とともに発光強度が下がり、それとともに発光ピークのエネルギーが低エネル ギー側へシフトしている。ここで、発光ピークのエネルギーと発光強度の関係 は励起光強度によらず一つの軌跡を取る点が特徴的である。たとえば励起光強度
15 mW
における励起後2.5 ns
の発光ピークエネルギーと発光強度は、励起光強度
7.5 mW
の励起後0.5 ns
の値と同等である。この依存性は発光ピークのエネルギーがキャリア濃度によって決まることを示している。
発光エネルギーシフトの井戸幅依存性を調べるため、井戸幅の違うサンプル の発光ピークのエネルギーの励起光強度依存性を調べた
(fig. 2.10)
。全てのサン プルにおいて励起光強度を上げると発光ピークのエネルギーが大きくなるが、井戸幅の広いサンプルほど励起光強度依存性が大きい。
Figure 2.7 PL spectra of sample B (L
w= 4.0 nm) for 15 mW pumping and 1 mW pumping.
10K
0 500 1000 1500 2000
2.9 2.95 3 3.05
PL In tensity (a rb. units )
Energy (eV)
15 mW 1 mW
2.90 3.00
×25
Figure 2.8 Time dependence of PL spectra of sample B (L
w= 4.0 nm) for 15 mW pumping.
15 mW 10K
0 500 1000 1500 2000
2.9 2.95 3 3.05
PL In tensity (a rb. units )
Energy (eV)
0.5 ns
8.5 ns
4.5 ns
2.90 3.00
Figure 2.9
Trajectories of PL intensity and PL peak energy at 2ns time intervals for various pump powers. The open icons show a time delay of 0.5 ns.
2.93 2.94 2.95 2.96 2.97 2.98 2.99 3
15
mW 7.5
mW 3.5
mW 1.0
mW 0.5
mW
0 500 1000 1500 2000
3.00
PL Intensity (arb. units)
PL En ergy (eV)
0.5
ns
8.5
ns 6.5
ns
4.5
ns
2.5
ns
Figure 2.10 Pump power dependence of PL peak energy.
2.85 2.9 2.95 3 3.05 3.1
0 5 10 15
PL En ergy (eV)
Pump power (mW)
Sample C L W =5.5 nm
Sample B L
W =4.0
nm
Sample A L
W =2.5
nm 3.10
3.00
2.90
2.3.2
キャリア寿命の励起光強度依存性Figure 2.11
はサンプルB(
井戸幅4.0 nm)
の発光減衰特性である。キャリアの寿命
τ
を一定とすると、半導体中のキャリア数N
は簡単な二準位系のレート方程 式(
速度式)
で表され、dN N
dt = − τ (2.12)
と、書ける。このレート方程式を解くと、
exp( t )
N ∝ − τ (2.13)
となり、キャリア数
N(
発光強度)
の時間変化は時定数τの単一指数関数になる。しかし、
fig. 2.11
のグラフは単一指数関数になっておらず、時間とともにキャリア寿命が長くなっている。単一指数関数近似によって求めたキャリア寿命はキ ャリア励起後
0.5 ns
では2.3 ns
であったのに対し、励起後7.0 ns
では5.8 ns
であった。
Figure 2.12
に各サンプルのキャリア寿命の励起光強度依存性を示す。Figure
2.11
よりキャリア寿命が時間とともに変化することが明らかになったため、こ こでは励起直後(
励起後0.5 ns)
の時定数を単一指数関数近似により求め、キャリ ア寿命の代表値として用いた。全てのサンプルにおいて励起光強度を小さくす るとキャリアの寿命が長くなっており、また、井戸幅の広いサンプルほど励起 光強度依存性が大きい。最も井戸幅の広いサンプルC(
井戸幅5.5 nm)
では、励起 光強度を下げると10 ns
を超える長いキャリア寿命が観測された。20 40 60 80 100
‑2 0 2 4 6 8
PL Int ensity (ar b. units)
Time (ns)
τ= 2.3 ns
τ= 5.8 ns
Figure 2.11 Decay curves of sample B (L
w= 4.0 nm).
10K
15 mW
Figure 2.12 Pump power dependence of lifetime.
0 2 4 6 8 10 12 14
0 5 10 15
L ifet i me (ns)
Pump power (mW) Samle A L
W =2.5
nm
Sample C L
W =5.5
nm Sample B L
W =4.0
nm
much longer than 10 ns
2.4
考察2.4.1
量子閉じ込めシュタルク効果と遮蔽効果による説明これらの実験結果は量子閉じ込めシュタルク効果とキャリアによる内部電場 の遮蔽効果により、定性的に説明できる。励起光強度を上げるとキャリア濃度 が高くなり、内部電場が遮蔽される。このため量子閉じ込めシュタルク効果が 抑制されるので発光エネルギーが大きくなり
(fig. 2.10)
、キャリア寿命が短くなる
(fig. 2.12)
。シュタルク効果は井戸幅の厚いサンプルほど大きくなるため、発光エネルギーとキャリア寿命の励起光強度依存性が大きくなる。
キャリアによる内部電場の遮蔽効果は
2.4
節で述べたように高キャリア濃度で 飽和する。実験では励起光強度7.5 mW
以上ではキャリア濃度を変化させてもキ ャリア寿命は変化しなくなっている(fig. 2.12)
。このことから励起光強度7.5 mW
以上ではフラットバンドが実現されていると考えられる。しかし、fig. 2.10
では7.5 mW
以上でもなお発光エネルギーが増えている。これはキャリアによる内部電場の遮蔽効果が飽和した後、バンドフィリングの効果による発光エネルギー のシフトが現れているためと考えられる。
以下ではこの仮説を定量的に検証する。
2.4.2
数値計算による解析定量的な解析を行うため、量子閉じ込めシュタルク効果とキャリアの遮蔽効果 の大きさを包絡関数モデルを用いたシュレーディンガー方程式とポアソン方程 式
2
* 2
( ) ( ) ( ) ( )
2
e ex U x
e ex E
e ex
m ∂ x ϕ ϕ ϕ
− + =
∂
= (2.14)
2
0 0
2
( ) ( )
d x x
dx
σ ρ
= − ε (2.15)
を連立させ、自己無撞着に解いて求めた。計算手順およびプログラムの詳細は 付録に記した。電子の有効質量
0.20 m
0、正孔の有効質量0.54 m
0、比誘電率ε=9.5
はそれぞれGaN
の値を用いた。バンドギャップの不連続値は発光エネルギーより
150 meV
とした。キャリア濃度は2.3
節で述べたように1mW
の励起光強度で
2.0×10
17cm
-3となる。Figure 2.13
に発光エネルギーシフト量の実験結果と計算結果の比較を示す。各 プロットは励起光強度15 mW
の発光エネルギーを基準とした発光エネルギーの シフト量の実験値である。破線は量子閉じ込めシュタルク効果と内部電場の遮 蔽効果による発光エネルギーシフト量の計算値である。ここで、内部電場のみ がフィッティングパラメータとなり、それぞれ300 kV/cm(
サンプルA)
、650
kV/cm(
サンプルB)
、800 kV/cm(
サンプルC)
としたときもっともよく実験値を反映した。これらの内部電場の大きさは他の研究グループから報告されている内 部電場の大きさと同等である
[7,13]
。2.2
節で計算した値に比べて小さいが、これは、実際の
InGaN
の格子定数が式(2.6)
のような単純な線形変化をしないことや、何層も
InGaN
量子井戸を成長するため、成長中に格子緩和が生じ、歪が小さくなっている可能性が考えられる。また、弱励起でのエネルギーシフトはよく一 致するものの、内部電場の遮蔽効果が飽和する強励起でのエネルギーシフトは 量子閉じ込め効果とキャリアによる内部電場の遮蔽効果のみでは説明すること はできない。このエネルギーシフトは、キャリア濃度が増えることによって生 じるバンドフィリング効果であると考えられる。そこで、各サンプルの状態密 度を計算し、バンドフィリングによる発光エネルギーのシフト量を計算した。
伝導帯、価電子帯のバンドフィリングによるエネルギーシフト量
∆E
e、∆E
hおよ び発光エネルギーのシフト量∆E
は、2
, *
( )
,2
( : )
e h W
e h
e h
W
L
E N N
g E m
E E
E L
∆ = = π
∆ + ∆
∆ =
=
井戸幅
(2.16)
と書け
[14]
、キャリア濃度N
に比例することがわかる。図中の実線は量子閉じ込めシュタルク効果と内部電場の遮蔽効果によるエネ ルギーシフト量に、バンドフィリングによるエネルギーシフト量を加えたもの である。弱励起から強励起までの全ての領域で実験値とよい一致を示している。
本研究では電子の波動関数
φ
eと正孔の波動関数φ
hの重なりを計算し、その逆 数1/<φ
e|φ
h>
2からキャリア寿命の変化率を求めた。Figure 2.14
に各サンプルのキ ャリア寿命の変化率の実験値と計算結果を示した。実験値のキャリア寿命の変 化率は、強励起でのキャリア寿命を基準として正規化した。内部電場の大きさ は全て発光エネルギーシフトの計算と同じ大きさ(300 kV/cm(
サンプルA)
、650
kV/cm(
サンプルB)
、800 kV/cm(
サンプルC))
を用いた。図のように弱励起から強 励起まで全ての領域で実験結果とよい一致を得ることができた。以上のように低温での
InGaN
量子井戸の発光エネルギー、キャリア寿命のキ ャリア濃度依存性は量子閉じ込めシュタルク効果と内部電場の遮蔽効果で定性 的だけでなく、定量的にもよく説明できることが分かった。Figure 2.15 Pump power dependence of the PL peak energy shift. The dashed curves represent the calculated PL energy shift of the screening effect assuming internal electric fields of 300 kV/cm, 650 kV/cm and 800 kV/cm for samples 1,2 and 3, respectively. The solid curves represent the calculated PL energy shift including the screening effect and the band-filling effect.
10K
‑120
‑100
‑80
‑60
‑40
‑20 0
0 5 10 15
Sample A L
W =2.5 nm Sample B L
W =4.0 nm Sample C L
W =5.5 nm R
状態密度考慮 状態密度考慮 650kV/cm
900(状態密度あり)
E
Energ y (meV)
Pump power (mW)
0 1 2 3
Carrier density (×10 18 /cm 3 )
Results of calculation (Screening effect)
Results of calculation (Screening effect
+Band filling effect)
Figure 2.16 Pump power dependence of the carrier recombination rate. The solid curves represent the calculated recombination rate.
10K
0 1 2 3 4 5
0 5 10 15
1/o*o D D レート 1/τ D
No rma liz ed l ifet im e
Pump power (mW)
0 1 2 3
Carrier Density (×10 18 /cm 3 )
Sample A ( L
W= 2.5 nm) Sample B (Well Width 4.0 nm) Sample C (Well Width 5.5 nm)
Results of calculation (Screening effect)
2.5
温度依存性次に応用上重要な室温
(300K)
での発光エネルギー、キャリア寿命のキャリア濃 度依存性を調べ、低温(10K)
との比較を行った。サンプルとしては最も量子閉じ 込めシュタルク効果の大きなサンプルC(
井戸幅5.5 nm)
を用いた。Figure 2.15
に低温と室温で計測した発光エネルギーの励起光強度依存性を示す。
300K
では発光エネルギーの励起光強度依存性は小さく、励起光強度を2 mW
から
10 mW
まで変化させても15 meV
程度しか変化しない。したがって、量子閉じ込めシュタルク効果によるエネルギーシフトはほとんどなく、バンドフィ リングの効果によるエネルギーシフトのみが効いていると考えられる。
Figure 2.16
に低温と室温でのキャリア寿命の励起光強度依存性を示す。キャリア寿命も発光エネルギーと同様、室温ではほとんど励起光強度に依存しておら ず、量子閉じ込めシュタルク効果がほとんどないといえる。
室温で低温に比べて量子閉じ込めシュタルク効果が小さい理由としては、室 温では不純物キャリアが活性化されるため、キャリア濃度が実効的に増加し、
内部電場の遮蔽効果が大きくなるためだと考えられる。
3 3.02 3.04 3.06 3.08 3.1
0 2 4 6 8 10 12
発 光 エネル ギー (eV)
励起光強度 (mW)
300K 10K
Figure 2.15 Pump power dependence of PL peak energy of sample C (L
w= 5.5 nm) measured at 10 K and 300 K.
En ergy (eV)
Pump power (mW)
0 2 4 6 8 10
0 2 4 6 8 10 12
キ ャ リ ア寿命 (ns)
励起光強度 (mW) 10nsより長いキャリア寿命
300K 10K
Figure 2.16 Pump power dependence of carrier lifetime of sample C (L
w= 5.5 nm) measured at 10 K and 300 K.
Li fet ime (ns)
Pump power (mW)
Much longer than 10 ns
2.6
まとめInGaN
量子井戸では内部に大きな電場が存在し、量子閉じ込めシュタルク効果が発光波長に大きな影響を及ぼすことが知られていた。また、
InGaN
量子井 戸を用いた発光デバイスでは発光特性を改善するために、経験的に井戸幅の狭 い量子井戸が活性層に用いられてきたが、その物理的な理由は不明であった。ローマ大学の
Carlo
らは、量子閉じ込めシュタルク効果のほかに内部電場の遮蔽 効果を考えれば、InGaN
レーザの高い発振しきい電流密度や発光波長のシフト を理論的に説明できる可能性を示した。この遮蔽効果は量子閉じ込めシュタル ク効果を抑制する方向に働く。本章ではこの遮蔽効果が、
InGaN
量子井戸中のキャリアの再結合過程に及ぼ す影響を調べるため、初めてキャリア濃度を系統的に変化させて、発光エネル ギー、キャリア寿命のキャリア濃度依存性を調べた。その結果、キャリア濃度 が高いほど発光エネルギーは大きくなり、キャリア寿命は短くなることが分か った。また、この依存性は井戸幅の厚いサンプルほど大きかった。これらの現象は
InGaN
特有の非常に大きな内部電場による量子閉じ込めシュタルク効果と、キャリアによる内部電場の遮蔽効果を考えることで定性的だけでなく、定量的 によく説明できることがわかった。
応用では、量子井戸を薄くすることで、量子閉じ込めシュタルク効果を抑制 し、発光再結合レートをあげる必要がある。
2.7
参考文献[1] Y. Narukawa, Y. Kawakami, S. Fujita, S. Fujita and S. Nakamura, Phys. Rev. B 55, R1938 (1997).
[2] P. Lefebvre, B. Gil, J. Allegre, H. Mathieu, N. Grandjean, M. Leroux and J.
Massies, MRS Internet J. Nitride Semicond. Res. 4S1, G3.69 (1999).
[3] W. Fang and L. Chuang, Appl. Phys. Lett. 67, 751 (1995).
[4] M. Osinski, P. Perlin, P. G.Eliseev, J. Lee and V. A.Smagley, J. Cryst. Growth 189/190, 803 (1998).
[5] F. D. Sala, A. D. Carlo, P. Lugli, F. Bernardini, V. Fiorentini, R. Scholz and J.
Jancu, Appl. Phys. Lett. 74, 2002 (1999).
[6] T. Takeuchi, H. Takeuchi, S. Sota, H. Sakai, H. Amano and I. Akasaki, Jpn. J.
Appl. Phys. 36, L177 (1997).
[7] T. Takeuchi, S. Sota, M. Katsuragawa, M. Komori, H. Takeuchi, H. Amano and I.
Akasaki, Jpn. J. Appl. Phys. 36, L382 (1997).
[8] Michael S. Shur and M. Asif Khan, Mat. Res. Bull. 22, 44 (1997).
[9] F. Bernardini, V. Fiorentini, D. Vanderbilt, Pys. Rev. B 56, R10024 (1997).
[10] A. F. Wright, J. Appl. Phys. 82, 2833 (1977).
[11] S. N. Mohammad and H. Morkoc, Prog. Quant. Electron. 20, 361 (1996).
[12] J. S. Im, H. Kollmer, J. Off, A. Sohmer, F. Scholz and A. Hangleiter, Phys. Rev. B 57, R9435 (1998).
[13] T. Takeuchi, C. Wetzel, S. Yamaguchi, H. Sakai, H. Amano, I. Akasaki, Y.
Kaneko, S. Nakagawa, Y. Yamaoka and N. Yamada, Appl. Phys. Lett. 73, 1691 (1998).
[14]
小長井 誠、 「半導体超格子入門」、倍風館, 69 (1987).
第 3 章 拡散した Mg が活性層へおよぼす影響
3.1
背景発光ダイオードやレーザダイオードなどの半導体発光デバイスは、量子井戸 構造の活性層を
p
型とn
型半導体で挟んだpn
ダイオード構造を有する。外部電 源からp
型半導体を通じてホールが、n
型半導体を通じて電子が供給される。これらの電子とホールは活性層の量子井戸で再結合し、発光する。現在、
InGaN
半導体デバイスでは主にSi
をドナーとしてドープすることでn
型化を、Mg
を アクセプタとしてドープすることでp
型化を実現している[1, 2]
。
NEC
の黒田らはサファイア基板上に成長したInGaN
量子井戸を活性層とす るレーザダイオード(
結晶欠陥密度〜10
9cm
-2)
のSIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy)
計測を行い、Mg
の拡散を調べた[3]
。そのSIMS
計測の結果をFig.
3.1
に示す。Mg
をドープしていないn
層全域で、バックグラウンドレベル(
〜10
16cm
-3)
より高いレベル(
〜10
17cm
-3)
のMg
が観測されている。また、黒田らはEBIC(Electron Beam Induced Current)
計測を行い、Mg
拡散の場所依存性を調 べた。そのEBIC
計測の結果をFig. 3.2
に示す。EBIC
計測では電子ビームを照 射する位置がpn
接合面に近いほど誘起電流が大きくなる(
図中の実線)
。また、少数キャリアの拡散長が長いほど誘起電流は大きくなる。
Figure 3.2
の波線(
等 高線)
は電子ビームの照射位置をy(pn
接合面に平行)
方向にスキャンした時に誘 起電流の大きさが一定(
最大値の70
%、50
%、30 %)
となるx(pn
接合面からの 距離)
を表す。n
層中に局所的に等高線がpn
接合面から離れている領域が存在す る(
図中の矢印)
。これはn
層中にMg
が局所的に拡散し、少数キャリアの拡散 長に影響を及ぼしているためであると考えられる。また、この拡散長の変化(Mg
の拡散)
している領域の密度は結晶欠陥密度と同等であることから、Mg
の拡散 は結晶欠陥付近のみで起こっていると考えられる。しかし、
SIMS
、EBIC
計測では活性層のキャリアの振る舞いを観測すること はできない。このため、拡散したMg
が活性層の再結合メカニズムにおよぼす 影響は不明であった。本研究では、時間分解フォトルミネッセンス測定を用い て拡散したMg
が活性層のキャリアの再結合メカニズムに及ぼす影響を調べた。Fig 3.1 SIMS depth profiles of Mg for InGaN laser diode on a sapphire
substrate. [3]
Fig. 3.2 Contour lines and line-scans of EBIC measurements for laser diode on
a sapphire substrate. An inset shows sample configuration for EBIC. Arrows
indicate where large amount of Mg diffused. [3]
3.2
InGaN
多重量子井戸サンプル構造と時間分解フォトルミネッ センス測定
3.2.1
サンプル構造サンプルは
Fig. 3.3
に示すようにサファイア基板上にMOCVD
法でSi
をドー プしたn-GaN
バッファ層とIn
0.16Ga
0.84N (1.5 nm)/In
0.03Ga
0.97N(8.0 nm)
多重量 子井戸活性層(5
周期)
、およびMg
をドープしたp
層からなる。n
層のSi
濃度は およそ10
19cm
-3、p
層の厚さは350 nm
、Mg
濃度はおよそ10
20cm
-3である。井戸層の厚さは
1.5 nm
であり量子閉じ込めシュタルク効果はほとんど無視でき るぐらい薄い[4]
。また、p
層の代わりにノンドープのキャップ層を持つ参照用 のサンプルも測定した。サンプルは、スタンレー電気研究所の佐藤 均氏に提供 していただいた。Substrate
(Sapphire) buffer n-GaN
(Si doped GaN)
p-contact layer (Mg doped GaN)
Substrate (Sapphire) buffer n-GaN
(Si doped GaN)
nondoped GaN
In
0.16Ga
0.84N (1.5 nm) In
0.03Ga
0.97N (8.0 nm)
×5 periods MQWs layer
Mg concentration 〜10
19cm
-3Figure 3.3 Sample structures.
3.2.2
時間分解フォトルミネッセンス測定系測定方法は
2
章と同様のストリークカメラを用いた時間分解フォトルミネッ センス測定である(Fig. 3.4)
。励起光強度は10 mW
、波長は395 nm
である。こ の波長の光は障壁層では吸収されず、井戸層内のキャリアのみ励起する。サン プルはクライオスタット内のサンプルホルダーに銀ペーストで接着し、温度10K
から室温300K
まで温度を変えて、発光強度およびキャリア寿命の変化を 調べた。Monochromator Streak scope
Pulse width 〜200 fs Wavelength 395 nm Excitation power 10 mW
10 K〜300 K
Figure 3.4 Experimental Setup.
3.3
実験結果
Figure 3.5
にp
層つきの量子井戸、Fig. 3.6
にp
層なしの量子井戸の発光減衰 特性の温度依存性を示す。200K
以下では両サンプルはほぼ同等の発光減衰特性 を示す。10K
でのp
層つき量子井戸のキャリア寿命(
単一指数関数近似)
は8.3 ns
、 p層なしの量子井戸のキャリア寿命は8.1 ns
でありほとんど差がなかった。し かし300K
では、p
層なしの量子井戸のキャリア寿命は6.9 ns
であるのに対し、p
層つきの量子井戸では5.3 ns
でり、p
層つきの量子井戸はキャリア寿命が短く なった。発光強度の温度依存性を
Fig. 3.7
に示す。200K
以下では発光強度も発光減衰 特性と同様に両量子井戸でほぼ同じであるが、300K
ではp
層つきの量子井戸の ほうが発光強度が下がっている。このように、
p
層つきの量子井戸はp
層なしのサンプルに比べて300K
でキャ リア寿命が短くなり、発光強度が減少していることがわかった。0 2 4 6 8
PL in tensity (a rb. units )
Time (ns)
In
0.16Ga
0.84
N / In
0.03
Ga
0.97
N MQWs with p-contact layer
10K
100K 200K 300K τ 300K =5.3 ns
Figure 3.5 PL Decay curves for MQWs with p-contact layer.
0 2 4 6 8
PL int ensity (ar b. units )
Time (ns)
10K
100K 200K
300K τ 300K =6.9 ns
In
0.16Ga
0.84N / In
0.03Ga
0.97N MQWs with nondoped GaN layer
Figure 3.6 PL Decay curves of MQWs with nondoped GaN layer.
0 50 100 150 200 250 300
PL In tensity (a rb. u nits)
Temperature (K) MQWs with p‑contact layer MQWs with nondoped GaN layer
Figure 3.7 Temperature dependences of PL intensities.
3.4
考察本実験では、室温で
p
層つきの量子井戸はp
層なしの量子井戸に比べ、キャ リア寿命が短くなり、発光強度が減少していた。実験で観測されるキャリア寿命τは発光再結合寿命
τ
rad と非発光再結合寿命τ
nonradに分けることができ、その関係はrad nonrad
1 1 1
τ τ = + τ (2.17)
となる。式(3.1)
よりキャリア寿命τが短くなる場合、発光再結合寿命(
発光再結合の寄与
)
か非発光再結合寿命(
非発光再結合の寄与)
のどちらかが短く(
大きく)
なる必要がある。ここで、発光で消滅するキャリア数N
radと非発光で消滅する キャリア数N
nonradの比はnonrad rad
rad nonrad
N N
τ
= τ (2.18)
となり、発光再結合寿命が短くなる場合、発光強度の増大が期待されるのに対 して、非発光再結合寿命が短くなる場合、発光強度は減少する。したがって、
実験における発光特性の劣化は非発光再結合の寄与の増大を意味する。
この非発光再結合の起源は、
p
層から拡散したMg
と考えられる。InGaN
はInN
モル分率揺らぎによりInN
モル分率が高くポテンシャルの低い領域や、逆 にInN
モル分率が低くポテンシャルが高い領域が形成されることが知られている
[5-7]
。このため、低温ではキャリアはInN
モル分率の高い領域に局在し、非発光再結合中心である結晶欠陥が高い密度
(
〜10
9cm
-2)
で存在するにもかかわら ず、その影響を余り受けないため、発光再結合が支配的になると考えられてい る[8]
。本実験で、低温ではp
層つきの量子井戸とp
層なしの量子井戸のキャリ ア寿命に違いが見られなかった。Mg
の拡散は結晶欠陥付近でのみ起こるため、低温では再結合過程
(
発光再結合過程)
に与える影響が小さいと考えられる。しかし、温度をあげると、キャリアは熱エネルギーにより運動し、結晶欠陥 で非発光再結合するキャリア数が増える。この結果、室温では非発光再結合過 程が支配的になる。さらに
p
層つきの量子井戸では結晶欠陥だけではなく、結 晶欠陥付近に拡散したMg
が非発光再結合中心として働くため、非発光再結合 の寄与が大きくなり、非発光再結合時間が短くなる。この結果、p
層つきの量子井戸は
p
層なしの量子井戸に比べ、キャリア寿命が短くなり、発光強度が弱く なったと考えられる。本研究により
InGaN
半導体デバイスの発光効率の改善にはMg
の拡散の抑制 が不可欠であり、拡散を抑えるためには結晶欠陥を低減する必要があることが わかった。InGaN
発光デバイスの結晶欠陥の原因のひとつは、現在一般的に用いられているサファイア基板と
GaN
との格子定数差が13.8
%と非常に大きいことであ る。GaN
結晶を基板として用いれば、格子定数差の問題が解決され、結晶欠陥 密度の低いInGaN
デバイスの作製が可能である。NEC
の黒田らは結晶欠陥密 度とMg
拡散の関係を調べるため、GaN
基板上に欠陥密度の低い(6
×10
7cm
-2)InGaN
レーザダイオードを作製し、サファイア基板上のレーザダイオード(
欠陥密度~10
9cm
-2)
と同様にSIMS
計測、EBIC
計測を行った[3]
。その結果をFig. 3.8
に示す。GaN
基板上のInGaN
レーザダイオードではMg
の拡散が抑制 されており、SIMS
計測ではバックグラウンドレベルの信号しか観測されていな い。また、EBIC
計測でもMg
の拡散による誘起電流の変化は観測されていない。現在、高品質の
GaN
基板を低コストで作製する結晶成長技術の研究開発が続け られており、今後の進展が期待されている。(
市販のGaN
基板は一枚50
〜100
万円と非常に高価である。)
他に結晶欠陥密度を低減するために二つのアプローチが試みられている。一 つは基板として
GaN
との格子定数差の小さなSiC(GaN
との格子定数差3.4 %)
などの基板を用いる結晶成長法である。現在この方法を用いてInGaN
レーザダ イオードの室温連続発振が実現している[9]
。また、サファイア基板上に成長する
InGaN
結晶の欠陥密度を低減する方法と してはELOG (Epitaxial Lateral Over Growth)
法[10]
が最もよく用いられる。ELOG
法では基板として従来のサファイアを用い、基板上に成長したGaN
層に ストライプ状のSiO
2マスクを形成する。その後、結晶成長を再開すると結晶成 長が通常の縦方向だけでなく、マスクを覆い隠すような形で横方向に成長する ため、縦に走っていた結晶欠陥が横方向に曲げられ、結晶成長方向に伝播しな い。結晶表面では10
6cm
-2以下の従来の結晶成長方法に非常に小さな結晶欠陥 密度が報告されている[11]
。現在、このような結晶欠陥密度の低い結晶成長法はレーザダイオードの長寿 命化を目的に研究が行われている。レーザダイオードは発光ダイオードに比べ て電流密度が約
2
桁大きく(
〜3 kA/cm
2)
、結晶欠陥が寿命に及ぼす影響は大きい。しかし、発光ダイオードにおいても結晶欠陥密度の低いデバイスを作製するこ とで