九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
窒化物半導体の表面構造と成長過程に関する理論的 研究
草場, 彰
http://hdl.handle.net/2324/2236233
出版情報:Kyushu University, 2018, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
(様式2)
氏 名 : 草場 彰
論 文 名 : 窒化物半導体の表面構造と成長過程に関する理論的研究 区 分 : 甲
論 文 内 容 の 要 旨
窒化ガリウム(GaN)は低損失な電力変換を担う次世代のパワーデバイス用材料として期待され ている.特に,電気自動車・ハイブリッド自動車のメインモーター駆動用インバータに使用される 縦型GaNパワーデバイスが,近年精力的に研究されている.このデバイスは工業的には,有機金属 気相成長法によって作製される.ここで課題となるのは,高耐圧化のために低い炭素不純物濃度を 実現しながら,低コスト化のために高速成長を行うという,相反する要求をともに満足することで ある.本研究では,上記課題の解決に向けて,理論的に成長条件を検討する解析手法の開発を行っ た.ここでは,表面構造(成長面方位・表面再構成)を考慮することで,より詳細な検討が行える ようになる.
本論文は全5章から構成される.以下に,各章ごとの概要をまとめる.
第1章 緒言
低損失電力変換素子(パワーデバイス)用材料であるワイドバンドギャップ半導体に関して,特 に窒化物半導体に注目し,その材料特性と結晶成長についてまとめた.縦型GaN パワーデバイス作 製における高純度かつ低コストなエピタキシャル成長の技術課題を示した.上記課題に対して,最 近報告されている炭素不純物に関する研究成果について述べた.本研究の目的は「表面構造を考慮 し,(i) 成長駆動力(成長速度)および(ii) 炭素不純物濃度を理論的に定量解析する手法の確立」で あることを示した.また,本研究の位置づけとアプローチを明らかにし,本論文の構成を示した.
第2章 有限温度・圧力条件における極性面の絶対表面エネルギー
本研究で用いた理論解析手法である,第一原理計算および表面相図作成手法の理論的背景および 具体的な適用方法をまとめた.また,表面ウェッジモデルを用いた絶対表面エネルギー計算手法を InNおよびGaNの極性面(III族極性面およびN極性面)に適用した.InN極性面の絶対表面エネル ギーは本研究で初めて計算された.さらに表面相図作成手法と組み合わせて,有限温度・圧力条件 と対応させた.有限温度・圧力条件における極性面の絶対表面エネルギーが,結晶成長機構の議論 に有用であることを示すために,InN 成長における異相混入機構の検討を例に述べた.ウルツ鉱型 構造(WZ)の成長島ファセットと閃亜鉛鉱型構造(ZB)の成長島ファセットのエネルギー比較を 行った結果,計算において ZB ファセットの方が安定となる成長条件と,実験において ZB が混入 する成長条件が一致した.このことから,ZBファセットの安定性が高い成長条件では,ZB初期成 長島の発生割合が増加し,ZB の混入が生じると考えられる.以上の絶対表面エネルギー計算結果 の活用から,その計算値の妥当性も示された.
第3章 表面構造(成長面方位・表面再構成)を考慮した熱力学解析
本章で提案する「表面構造(成長面方位・表面再構成)の影響を考慮し,成長駆動力(成長速度)
を理論的に定量解析する手法」の枠組みは熱力学解析手法に基づいており,この提案する解析手法 の実行には第2章で計算した絶対表面エネルギーが必要になる.はじめに,従来の熱力学解析手法 の理論的背景および具体的な適用方法をまとめた.続いて,提案する解析手法および解析結果の解 釈について詳細に議論を行った.提案する解析手法を GaNおよびInNのIII族極性面,N極性面お よびm面の有機金属気相成長に適用した.解析結果は以下のとおりである.GaNとInNに共通して,
III 族極性面と m 面においては,モデルの解析結果から十分な成長駆動力が存在すると予測される 最高の温度と,実際に実験で利用されている成長温度は良く一致した.N極性面においては,III族 極性面やm面よりも,高温まで成長駆動力が存在するという解析結果が得られた.この場合の成長 可能な最高温度は,分解反応(GaN(s) → Ga(g) + 1/2 N2(g))が成長反応(Ga(g) + NH3(g) → GaN(s) +
3⁄2 H2(g))よりも優位になりはじめる温度であると考えられ,分解反応の抑制による高温成長の可
能性が示された.
第4章 最急エントロピー勾配量子熱力学に基づく化学吸着
本章で提案する「表面構造(成長面方位・表面再構成)の影響を考慮し,炭素不純物濃度を理論 的に定量解析する手法」の枠組みは最急エントロピー勾配量子熱力学に基づいている.はじめに,
最急エントロピー勾配量子熱力学の理論的背景および具体的な適用方法をまとめた.続いて,化学 吸着モデリングを提案した.この手法を,主要な炭素不純物源分子である CH4の GaN 成長表面へ の吸着に適用した.まず,第一原理計算による全エネルギー比較から Ga極性面とN 極性面におけ るCH4の吸着構造を調べた.次に,吸着自由エネルギー比較から吸着構造の安定化機構について議 論した.Ga極性面では 1配位 → 2配位 → 3配位の吸着構造へと変化し,N 極性面では1配位の 吸着構造から変化しない結果を得た.吸着量の定量的な議論を行うには,吸着自由エネルギー比較 では困難であること,提案する化学吸着モデリングが有用であることを説明した.提案する解析手 法から,Ga極性面では N 極性面よりも, CH4が吸着し易い(3 桁以上,吸着確率が高い)ことが わかった.最後に炭素不純物混入モデルを提案し,報告されている炭素濃度の成長面方位依存をよ く説明できた.
第5章 結言
本章では,本研究の結論を述べた.