ダンパーブレースのダンパー部要素試験体を用いた繰返し載荷実験
三菱重工業 正会員 ○加藤 基規 同 正会員 森下 邦宏 同 正会員 井上 幸一 同 正会員 上平 悟 同 正会員 四條利久磨 菱明技研 正会員 村瀬 良秀
1.はじめに
橋梁の制震構造化の一手法として,制震ブレースを組み込む工法が注目されている
1)
.著者らは,この制震 ブレースとして部材両端に軸降伏座屈拘束型ダンパーを組み込んだ制震部材(以下,ダンパーブレース)を開 発し2)
,エネルギー吸収部材(芯材)の材料として低降伏点鋼(LY225)を用いた試験体を製作して,繰り返し変形 性能などに関する実験的研究を行ってきた3)
.一方,近年,このような制震ブレースの長大橋梁などへの適用 も検討されており,要求される降伏軸力も増大する傾向にある。そこで本報では,従来と同じ断面積で荷重を 増加できるように,芯材の使用材料として高強度鋼であるSM490
材を使用した場合の実験的研究を行った。実験ではダンパーブレースのダンパー部のみの要素試験体を数体製作して,繰返し載荷試験を行った。
2.試験体
試験体として,表
1
に示す6
体を製作した.試験体の構造概要を図1
に示す。試験体名のDS
は芯材材料がSM490
であることを,次の60, 50
などの数値は後述する十字芯材の幅厚比(設計値)が6,5
であることを意味している.その後に
A, B
については後述する.本ダンパーブレースのダンパー部芯材の断面形状は十字形であ り,芯材の座屈を拘束する拘束部材としては角形鋼管を使用している.また,文献2),3)に示す構造とは異な
り,突合せ溶接箇所を削除して接合部まで一体化した構造としている.よって,角形鋼管から外部に出る部分 については十字芯材の局部座屈を防止するために,補剛用プレートを溶接した構造としている.十字芯材の材 質は前述のようにSM490
を使用し,角形鋼管も同様にSM490
を使用した.着目パラメータとしては,文献3)と同様に十字芯材の自由突出板の幅厚比(=B d /(2t d ),B d
:十字断面幅,td
:板厚)とし,表1
に示すように4.3,5.4,6.5,7.1
の4
種類を製作した.また,本実験では座屈拘束条件に関しても従来と異なった方法 を検討しており,従来と同様に十字芯材端部と角形鋼 管の間の隙間で座屈拘束するタイプ(試験体名の
A),
角形鋼管の内部に
4
つのアングル部材を挿入して十 字芯材の板面とアングル材の板面で座屈拘束するタ イプ(B)の2
種類を製作した.3.試験装置および載荷パターン
試験装置および試験体を設置した状況写真を図
2
に示す.試験は±1000kN疲労載荷試験機を用い,繰 返し載荷は変位制御(ダンパー部十字芯材ひずみ制御
キーワード ダンパーブレース,制震,要素試験,繰返し載荷試験
連絡先 〒730-8642 広島市中区江波沖町 5-1 三菱重工業株式会社 広島研究所 鉄構・土木研究室 TEL 082-294-3626 表 1 ダンパー部試験体諸元
板幅
B
d(mm)
板厚
t
d(mm)
幅厚比
B
d/(2t
d)
降伏応力度 σy
(N/mm
2)
降伏軸力
N
y(kN)
芯材長
L
d(mm)鋼管幅
D
r(mm)
板厚
t
r(mm)
鋼管内部 補剛条件
十字芯材〜
補剛部材間 隙間(mm)
DS60-A 96 7.38 6.50 428 584 530 93.5 9.0
鋼管のみ3.1
DS60-B 96 7.38 6.50 428 584 530 110.0 4.5
アングル挿入4.0
DS50-A 80 7.38 5.42 428 482 530 82.0 9.0
鋼管のみ2.9
DS50-B 80 7.38 5.42 428 482 530 110.0 4.5
アングル挿入4.0
DS40 64 7.38 4.34 428 381 530 64.0 6.0
鋼管のみ3.9
DS65 104 7.38 7.05 428 634 530 99.0 9.0
鋼管のみ2.9
拘束鋼管諸元(SM490) 座屈拘束条件 試験体名称
十字芯材諸元(SM490)
ダンパー長
L d
十字芯材
角形鋼管 ベース
プレート
補剛用 プレート
図 1 試験体構造図 図 2 載荷装置 土木学会第60回年次学術講演会(平成17年9月)
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:ひずみ=ダンパー部十字芯材の軸変位/ダンパー長
L d =530mm)にて行った.載荷パターンとしては,2
回 繰返し漸増載荷(±0.5,1.0,1.5,2.0%)を行った後,定振幅での疲労試験(±2.0%)を実施した.4.載荷試験結果 4.1 履歴特性
図
3,図 4
に各試験体の漸増載荷試験および疲労試験の軸応力σd
−ダンパー部十字芯材軸ひずみεd
関係の 比較を示す.これらの結果より,漸増載荷時にはすべての試験体でほぼ同等の安定した履歴特性を示している ことがわかる.一方,疲労試験時には試験体毎で異なった挙動を示していることがわかる.DS50-A, DS60-A,
DS65
では圧縮側(図中の負側)において十字芯材と角形鋼管の内部での接触に起因する荷重増加傾向が現れ ているが,幅厚比が4
と最も小さいDS40
についてはその傾向が非常に小さい.また,同じ幅厚比5
のDS50-A
と
DS50-B
の比較より,座屈拘束のために内部にアングルを挿入することでDS40
と同等の履歴性状を示すことが確認できる.また,これらの安定した履歴性状は
LY225
材を芯材として使用した場合と同様である.4.2 繰返し変形性能の評価
図
5
にDS40,DS50-B
の累積塑性変形倍率η−軸力関 係を示す.図中には引張軸力が最大値からその95%, 90%
に低下した点を破線,実線矢印にて示している.これら の結果より,角形鋼管内にアングルを挿入するのみで繰 返し変形性能が大きく向上することがわかった.また,
図
6
にプロットした上記95%評価時のηと幅厚比の関係
より,幅厚比の増加に伴いηが減少する傾向が見られた.5.まとめ
本試験結果より,芯材材質として
SM490
を使用した場合でも,従来の
LY225
を使用した場合と同等の安定した履歴特性を示すことが確認できた.また,突合せ溶接を削除した構造でも問題ないことがわかった.
さらに角形鋼管内部にアングルを挿入するだけで,繰返し変形性能が大 きく向上することが確認できた.
参考文献
1)
日本鋼構造協会:土木構造物の動的耐震性能照査法と耐震性向上策,2003.10
.2)
村瀬ら:両端に軸降伏ダンパーを組込んだ長尺ブレースの座屈拘束条件(その1)
設計法,(
その2)
模型実験,日本建築学会近畿支部研究報告集,pp.293-pp.300
,1999.
3)
森下ら:両端に軸降伏ダンパーを組込んだ長尺ブレースのダンパー部復元力特 性試験,2000年度日本建築学会大会学術講演梗概集,pp.903-pp.904,2000.–3 –2 –1 0 1 2 3
–600 –400 –200 0 200 400 600
σd(MPa)
εd(%)
–3 –2 –1 0 1 2 3
–600 –400 –200 0 200 400 600
σd(MPa)
εd(%)
–3 –2 –1 0 1 2 3
–600 –400 –200 0 200 400 600
σd(MPa)
εd(%) –600–3 –2 –1 0 1 2 3
–400 –200 0 200 400 600
σd(MPa)
εd(%)
–3 –2 –1 0 1 2 3
–600 –400 –200 0 200 400 600
σd(MPa)
εd(%)
DS60-A DS50-A DS50-B DS40 DS65
–3 –2 –1 0 1 2 3
–800 –600 –400 –200 0 200 400 600 800
σd(MPa)
εd(%)
–3 –2 –1 0 1 2 3
–800 –600 –400 –200 0 200 400 600 800
σd(MPa)
εd(%)
–3 –2 –1 0 1 2 3
–800 –600 –400 –200 0 200 400 600 800
σd(MPa)
εd(%)
–3 –2 –1 0 1 2 3
–800 –600 –400 –200 0 200 400 600 800
σd(MPa)
εd(%)
–3 –2 –1 0 1 2 3
–800 –600 –400 –200 0 200 400 600 800
σd(MPa)
εd(%)
DS60-A DS50-A DS50-B DS40 DS65
図 3 漸増載荷試験結果
図 4 疲労試験結果
0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000
–1000 –800 –600 –400 –200 0 200 400 600 800 1000
累積塑性変形倍率η
軸力(kN)
0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000
–1000 –800 –600 –400 –200 0 200 400 600 800 1000
累積塑性変形倍率η
軸力(kN)
DS50-B DS40
図 5 累積塑性変形倍率ηの比較
4 5 6 7 8
0 500 1000 1500
幅厚比
η
B
d/(2t
d)
DS40 DS50–A
DS50–B
DS60–A DS60–B
DS65
図 6 繰返し変形性能指標
アングル挿入 土木学会第60回年次学術講演会(平成17年9月)
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