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コ ラ プ シ ョ ン の 人 類 学 一 若 干 の覚 え書 き 一 石 田 慎 一郎 ・吉 元 菜 々子

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コ ラ プ シ ョ ン の 人 類 学 一 若 干 の覚 え書 き 一

石 田 慎 一郎 ・吉 元 菜 々子

1は じめに

2000年 代 半 ば に 、 コ ラ プ シ ョ ン の 人 類 学 を テ ー マ と した 三 冊 の 論 文 集 が た て 続 け に 出 版 さ れ た 。す な わ ち 、2004年 刊 行 のBetwθenMora7ityandtheLawCorruρtion,AntinropologyandCon2ρarativeSoeiety

(以 下BMLと 表 記)[Pardoed.2004]、2005年 刊 行 のCorruρtion:Anthropo70gr'ealPerspeetives(以 下 CAP)[HallerandShoreeds.2005]、 そ し て2007年 刊 行 のCon'uρtionandtheSecretofLavv'ALegal

Anthroρologr'ea1Perspeetive(以 下CSLと 表 記)[NuijtenandAnderseds.2007]で あ る 。CSLの 編 者 で あ る ゲ ハ ー ド ・ア ン ダ ー ス とモ ニ ー ク ・ナ ウ テ ン に よ れ ば 、1993年 に 国 際NGOト ラ ン ス ペ ア レ ン シ ー ・ イ ン タ ー ナ シ ョナ ル が 発 足 す る な ど、 特 に1990年 代 以 降 、 コ ラ プ シ ョ ン は 重 要 な 政 治 的 概 念 と な っ て お

り、 政 治 学 ・経 済 学 ・社 会 学 等 に お い て も そ れ に 呼 応 して1990年 代 以 降 コ ラ プ シ ョ ン研 究 が 多 くの 関 心 を 集 め た[AndersandNuijten2007:3‑5]。 対 して 、 人 類 学 に お い て は 、 い わ ゆ る コ ラ プ シ ョ ン に 相 当 す る 社 会 的 現 象 が 長 ら く扱 わ れ て き た と い っ て よ い に も か か わ らず(た と え ば1960年 代 か ら1970年 代 に か け て の パ ト ロ ン 、ブ ロ ー カ ー 研 究 や 、賄 賂 を 互 酬 性 や 贈 与 の 視 点 で と ら え る 研 究)、 明 確 に コ ラ プ シ ョン に 言 及 す る 研 究 は 近 年 に 至 る ま で ご くわ ず か で あ っ た[AndersandNuijten2007:4‑5]。 こ の こ と の 理 由 と し て 、CAPの 編 者 ク リス ・シ ョ ア と デ ィ ー タ ー ・ハ ラ ー は 、 ナ ン シ ー ・ボ ス テ ロ の 論 文 に 依 拠 し て 次 の 三 点 を 指 摘 し て い る 。 す な わ ち 、 人 類 学 者 が イ ン フ ォ ー マ ン トを 批 判 の 対 象 と し に く い こ と、 コ ラ プ シ ョ ン の 調 査 が 研 究 を 危 険 に 陥 れ る こ と 、 イ ン フ ォ ー マ ン トが 事 実 を 隠 蔽 し よ う と す る こ と 、 の 三 点 で あ る [ShoreandHaller2005:7;Postero2000]。 しか し 、1980年 代 以 降 は 、 研 究 支 援 財 団 や 研 究 機 関 が 応 用 的 性 格 の 強 い 研 究 を 好 む よ う に な っ て き た こ と 、 ア ン チ コ ラ プ シ ョ ン を め ぐ る 世 界 的 な 言 説 が 人 類 学 者 の 対 象 とす る よ うな 地 域 に ま で 拡 散 した こ と、 人 類 学 者 が 国 家 を 、 し か も グ ロ ー バ ル な 規 模 で 研 究 し始 め た こ と等 の 理 由 か ら[AndersandNuijten2007:5]、 人 類 学 に お い て も コ ラ プ シ ョ ン あ る い は 収 賄 と い っ た 概 念 を 用 い た 人 類 学 的 著 作 が 増 加 して お り、 特 に1990年 代 後 半 以 降 は そ の 傾 向 が 顕 著 に な っ て い る 。

本 稿 で は 、 以 上 の よ うな 背 景 の も と で 新 た に 登 場 しつ つ あ る コ ラ プ シ ョ ン の 人 類 学 に つ い て 、 上 記 論 集 を 手 が か り に い く つ か の 議 論 の 方 向 性 を 紹 介 す る 。 上 記 論 集 は ど れ も 、 こ れ ま で の 社 会 科 学 や 国 際 的 な 政 策 サ ー クル に お い て 用 い ら れ て き た よ う な 狭 義 の コ ラ プ シ ョ ン 概 念 を 相 対 化 し 、 コ ラ プ シ ョ ン を 非 西 洋 国 家 あ る い は 脆 弱 国 家 に 特 有 の 現 象 だ とす る 見 方 を 批 判 し て い る 。 そ う した 批 判 的 考 察 は 、 コ ラ プ シ ョ ン を 根 絶 した 先 に 目指 され る と こ ろ の 、 ア カ ウ ン タ ビ リテ ィ あ る い は トラ ン ス ペ ア レ ン シ ー 重 視 の 健 全 な 民 主 主 義 と は 何 か と い う 問 い に もつ な が る 。 本 稿 は 人 類 学 的 な コ ラ プ シ ョ ン研 究 の 動 向 に つ い て の 包 括 的 な レ ビ ュ ー を 目 的 と す る も の で は な い が 、 上 記 論 集 を 手 が か り に 、 そ う した 議 論 の 展 開 可 能 性 を 含 め て 、 コ ラ プ シ ョ ン の 人 類 学 を め ぐ る 方 法 と 課 題 に つ い て 若 干 の 予 備 的 考 察 を お こ な う。

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44 コ ラプ シ ョ ンの 人 類 学 一 若 干 の覚 え書 き 一

皿 コラプションの 人類 学 一 方 法 論 的特 徴

コ ラプ シ ョン は、 辞 書的 に は腐 敗 した状 態 も し くは腐 敗 ・汚 染 させ る行 為 で あ り、 収賄 ・汚職 ・濱 職 を 含 意 す る。 そ う した 定義 で は 、 も っぱ ら物 質 的 ・金 銭 的 な や りと り等 を伴 う不正 行 為 の側 面 が 想 定 され て い る。 三冊 の論 文 集 は 、い ずれ も人 類 学的 ・比 較分 析 的視 点 か らそ う した 「 狭 義 」 の コラプ シ ョン概 念 を 再 考 し、 コ ラプ シ ョンに対 す る 多元 的 ・複 合 的 理解 の必 要性 を議 論 す る と ころ か らは じめて い る。 た とえ ば、BMLの 編 者 で あ るイ タ ロ ・パ ル ドは 、 「コ ラプ シ ョン」 を め ぐる現 実 は 、狭 義 の コラプ シ ョン概 念 を こ える複 合 的 な もの で あ り、厳 密 な カ テ ゴ リー 化 を拒 む もので あ る と指 摘 して い る 〔Pardo2004:1]。 ま た 、CAPの 編者 で あ るシ ョア とハ ラー は 、思 考 カテ ゴ リー や 組 織原 理 と して現 実 規 定 力 を もつ コ ラプ シ ョ ン概念 につ い て考 察す る と述 べ て い る[ShoreandHaller2005:2]。 す な わ ち 、 コラ プ シ ョンに相 当す る とみ な され る現 象 を観 察 す る だ けで な く、 コラ プ シ ョン とい う概念 それ 自体 につ い て検 討 す る必 要 性 を説 い て い る。 こ うした三 冊 の論 文 集 に 共通 す る、従 来 の コラ プ シ ョン概 念 に 対す る距 離 の取 り方 に は、 従来 の研 究 あるい は 法や 公 共 政策 にお け る諸 概念 が 「コ ラプ シ ョン」 の現 実理 解 に とっ て不 十 分 な もの だ った とい う背 景 が あ る。

ア ンダ ー ス とナ ウテ ンに よれ ば 、 これ ま で の政 治 学 的、 経 済 学的 コ ラプ シ ョン研 究 は コ ラプ シ ョン の普 遍 的 定義 を求 め 、 コラ プ シ ョン の実 態 とそ の影 響 を評 価 す る の に適 した 方 法 を模 索 す る傾 向 が強 か った [AndersandNuijten2007:6]。 た と えば 、両 者 は 、政 治 学や 経 済 学 には 、職 権 ・公 益 ・市場 の それ ぞ れ を基 準 と した 三 つ の定 義 が あ る と指 摘 す る[AndersandNuij七en2007:7]。 これ ら社 会 科 学 にお け る従 来 の定 義 の試 み 、お よび ア ンチ コ ラプ シ ョン の言 説 を め ぐる世 界 的動 向 に は 、 コ ラプ シ ョンを第 三 世 界 の脆 弱 国家 あ るい は文 化 的他 者 に特有 の現 象 と して 捉 え る見 方 が あ った 。 コラプ シ ョン を他者 化 す る見方 は二 つ に大別 で き る。 一 つ は 、現 在 の世 界 的 な ア ンチ コラ プ シ ョン政 策 に お いて 一 般 的 な考 え方 で あ り、発 展 途 上 国 に は コラ プ シ ョン が蔓 延 してお り、そ れ が 貧 困や 低 開発 の主 要 な要 因 とな って い る と仮 定す る もの で あ る[AndersandNuijten2007:8]。 この 見 方 で は、 コ ラプ シ ョン を 「 ネ ガ テ ィ ブ」 な効 果 を持 つ もの として捉 えて い る。 そ して 、 も う一 方 は コ ラプ シ ョン を 「 ポ ジテ ィブ」 な もの と して 捉 え る見 方 で あ る。

これ は 、ア ジ ア ・ア フ リカ ・中南 米 地域 にお い て の低 開 発 国家 の機 能 不全 を補 完 す る存在 と して コ ラプ シ ョンを位 置 づ け、 そ う した機 能 不 全 が解 決 されれ ば コ ラプ シ ョン も同時 に解 消す る と仮 定 す る。 つ ま り、

そ れ は 、コ ラプ シ ョンを 「国家 形成 の初 期段 階 」 に伴 う現 象 と理 解 す る もの で あ り、 「 良い 統 治」 の概 念 の 普 遍 性 を仮 定す る開発 の 言説 とも重 な る[Shoreand且aIler2005:3‑4;AndersandNuijten2007:8・10]。

CAPの 編 者 で あ るシ ョア とハ ラー は 、こ の双 方 の見 方 に 基づ く社 会科 学 的研 究 を構 造論 的 ア プ ロー チ と し て批 判 的 に 言及 して い る[ShoreandHaller2005:3‑4]。 この 構 造論 的 ア プ ロー チ は 、 コ ラプ シ ョンを低 開発 ・貧 困 ・女 性の抑 圧 な ど と同 列 に扱 い 、 文化 的 他者 に特 有 の 問題 と見 な して お ρ、 この 点 に 関 して は BML、 の編 者 、CSLの 編者 も同様 に批 判 して い る[Pardo2004:5;AndersandNuijten2007:3,6]。 ま た、

シ ョア とハ ラー は構 造 論 的 ア プ ロー チ の他 に も う一 つ 、 社 会 科 学 にお け るコ ラプ シ ョン研 究 の視 点 と して、

行為 論 的 ア プ ロー チ につ い て言 及 してい る。 行 為 論 的 ア プ ロー チ とは、 特 定 の職 務環 境 に お け る人 間 の具 体 的行 動 に焦 点 を あわ せ た もの で あ る。 この アプ ロー チ に よ る研 究 は 、 コ ラプ シ ョン を 自己 の公 的 ・法 的 義務 に反 し、 他者 の権 利 を犯 して私 的利 益 を はか る行動 と と らえ るが 、 こ こで い う 「 公 」 「 私j「 利 益」 等 が何 を意味 す るのか につ いて は 自明 の事柄 で はな い。 た とえ ば政 治 家 に よ る公 金流 用 が発 覚 した 際 に 、本 人 はそ れ が私 的利 益 をは か る 目的 で はな か っ た と反 論す る場 合 、そ こで い う私 的利 益 とは金 銭 的 な 次元 の み の問題 なの か とい う点 には 議論 の余 地 が あ る[ShoreandHaller2005:4‑6]。

シ ョア とハ ラー は、 以上 の よ うに従 来 の社 会 科 学 にお け る コラ プシ ョン研 究 に は構 造 論 的 アプ ロー チ と

行 為 論 的ア プ ロー チ が存 在 す る と述 べ た うえで 、 両 アプ ロー チ に共 通す る問 題 と して 、 どち ら も多様 性 を

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単純 化 して い る点 を指 摘 し、そ の例 と して 、公 私 の 二元 論 を無 批 判 に適 用 して い る点 を挙 げ て い る[Shore andHaller2005:5‑6]。 ア ン ダー ス とナ ウテ ン も、従 来 の コ ラプ シ ョン研 究 にお ける 問題 点 の一 つ と して 、 国家 と社 会 の二 元論 を前 提 と して い る こ と を指摘 して い る[AndersandNuijten2007:8・10]。

で は、 コラ プ シ ョン の人 類 学 的研 究 は 、 どの よ うな方 向性 を も ち うる の か。 例 え ば、BMLは コ ラプ シ ョン実 践 の複 雑性 と多 様 性 を 明 らか に しよ う とす る試 み で あ り[Pardo2004:4]、CSLは コ ラプ シ ョンを め ぐ る 民 族 誌 的 ア プ ロ ー チ を発 展 させ よ うとす る も の で あ る と、 そ れ ぞ れ の序 論 で 言 及 され て い る [AndersandNuij七en2007:2]。 しか しな が ら、 三冊 の論 文集 は 、上 記 の よ うな アプ ロー チが観 察 対 象 と す る コ ラプ シ ョン につ い て 、 ただ ち に経 験 的 な事 例研 究 に よっ てそ の 実態 と社 会 的 ・政 治 的文脈 を明 らか にす る こ とを 目指 して い る わ けで は な い。 む しろ、 参 与観 察 を含 む コラ プ シ ョン の実 証研 究は 困難 で あ る こ と を率 直 に認 め てい る[Pardo2004:3;ShoreandHaller2005:7‑8]。 もっ とも 自 らの コ ラプ シ ョン行 為 に対 す る弁 明 の語 り自体 が 制度 化 され て い る事 例 に論 及 す る研 究[Znoj2007]等 は あ る ものの 、 秘密 裏 にお こなわ れ る コ ラプ シ ョンの 直接 的 な観 察 は容 易 では な い し、 ま た非 合 法 な行 為 につ いて質 問を いか に投 げ か け るの か、 とい う問 題 も存 在 す る。 そ れ に か わっ て背 景 的 ・間接 的 な 出来 事 を記 録 す るか 、 あ る いは 報道 資 料 等 か ら情報 を得 る手法 が ある。 また 、人 び とが他 者 の コラ プ シ ョン につ い て、 も しくは コ ラ プ シ ョン にお け る 自 らの役 割 に つ いて い か に語 るの か に焦 点 を 当て る 手法 もあ る[Pardo2004:3]。 この よ うに コ ラプ シ ョン研 究 にお い て可 能 な方 法 の ひ とっ は二 次 的デ ー タ の分 析 あ るい は語 りの 分析 で あ り、

そ う した語 りの なか で育 まれ るもの(た とえば 国家 ・権 力 を め ぐ る想 像 力)に つ い て の分 析 へ と向 か う。

CAPの 編 者 は 、そ の点 をふ くめて コ ラプ シ ョン研 究 と、セ ク シ ュア リテ ィ研 究 あ るい は妖 術研 究 との類 似 性 を指 摘 す る[ShoreandHaller2005:14]。

三冊 の 論 文集 の うちCAPな らび にBMLの 各 々の 編者 は、コ ラプ シ ョン行 為 を告発 す る場合 に想 定す る 正 しさの 基 準 につ い て地 域 的 多様 性 が あ る こ と、 さ らに は法 が 措 定す る正 しさ と人 び とが理 解 す る道 徳 的 な 正 しさ との あい だ に ズ レが あ る こ とを指 摘 す る。 す な わ ち、 人 び と は コラ プ シ ョン と見 な して い るが 法 で はそ う捉 え られ て い ない行 動 形 態 が あ る こ と、 も し くは法 で は コ ラプ シ ョン と して定 義 され て い るが道 徳 的 に は正 当 で あ る と考 え られ て い る行 動 形 態 が あ る こ と を上 記 の 二 冊 は認 め て い る の で あ る[Pardo 2004:6;ShoreandHaller2005:17]。BMLの 編 者 で あ るパ ル ドに よれ ば、 そ もそ も法 は 限 られ た利 害や

限 られ た集 団の道 徳 的 態度 の特 徴 を持 っ 傾 向 が あ るた め、 エ リー ト集 団 以外 の 人び との 正義 感 覚 とは ズ レ が生 じる のだ とい う[Pardo2004:6]。 ま た 、彼 は 道徳 的 な正 しさに も複 数 性 が あ る こ とも認 め てい るよ うに[Pardo2004:6]、 あ る行 動形 態 が コラ プ シ ョン か否 か を判 断 す る の に用 い られ る基 準 は 法的 な もの と道 徳 的 な もの の二 つ に 限 られ るわ けで は な い。 例 え ば シ ンテ ィア ・ウェル ナ ー がカ ザ フ ス タン の事 例 で 示 した よ うに 、贈 与 か収 賄 か を 区 別 す るに は 時 に矛 盾 す る複 数 の基 準 が用 い られ る の で あ る[Werner 2000]。 さ らに 言 うな らば 、疑 わ しい 実践 が 必 ず しも コ ラプ シ ョンか そ うでな い か の二 分 法 で 区別 され る わ けで は ない。 す なわ ち コ ラプ シ ョンに も程 度 が あ り、 正 しい コ ラプ シ ョン と誤 った コラプ シ ョン、受 容 可 能 な コ ラプ シ ョン等 の判 断 が な され るこ ともあ る ので あ る[ShoreandHaller2005:17;Pardo2004:

13‑15]

さ らに、「コラプ シ ョン とは 私 的利 益 の た めの公 職 乱 用 で あ る」とい う世 界 銀行 に よる 定義 とは対 照 的 に、

上 記 三冊 の論 文 集 は コラプ シ ョン を単 な る個 人 の違 背 行 為 と捉 える の では な く、 よ り制 度 的 、組 織 的 、構 造 的 な もの と して 捉 え てい る[ShoreandHa11er2005:2‑3;AndersandNuij七en2007:15‑16]。 ア ン ダー ス とナ ウテ ン は、 例 と して 、 交通 違 反 の罰 金 を 交渉 す るた め に警 察 官 に話 しか け るに は、 個人 的 ス キル だ け で な く、 い かに 警察 官 に 話 しか け るか とい う知 識 も必要 で あ る と述 べ て い る。 す な わ ち、 コ ラプ シ ョン の実 践 に お け る定 式化 したや り方 に 関す る研 究 も また 、人類 学 的 コ ラプ シ ョン研 究 の射 程 に 入 るの で あ る。

ま た、 両者 は さ らに 巨視 的 な視 点 か ら、 コ ラプ シ ョンの背 後 に あ る 、固 定 的か つ 階層 的 な 関係 性や 覆 しが

た い地位 とい った構 造 を分析 す る必要 性 を説 いて い る。 個 々 の コ ラ プシ ョンの 取 引 は、 よ り大 きな権 力構

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コ ラプ シ ョ ンの 人 類 学 一 若 干 の 覚 え書 き 一

造 に埋 め込 まれ た制 度化 され た諸 実 践 の一 部 で あ る とい う事実 は 、 コラプ シ ョンは 一 部 に限 られ た もの で は な く、ま た外 科的 に取 り除 か れ うる 「 ガ ン」の よ うな もので もな い こ とを示 唆 して い る とい う[Anders andNuijten2007:15‑17]。

以 上 の よ うな点 で 、 三冊 の論 文集 は人 類 学 の伝 統 的 な文 化 相 対主 義 的態 度 を表 明 して い る が 、BMLと CAPは そ れ と同時 に相 対 主 義 的 あ るい は文 化 論 的誤 解 の陥 穽 に つ い て も言及 して い る。た と えば 、政 治 経

済 的 な 力 関係 に 由来 す る コ ラ プ シ ョ ン を地 域 固 有 の 交 換 規 範 と して 説 明 して は な らな い[Shoreand Haller2005:17コ 。 コ ラプ シ ョンの 多元 的 ・複 合 的 理解 は、 コラ プ シ ョン を文 化 的性 向 と して語 る こ とで 不 正 行為 を黙認 す るもの で は な く、 む しろ コラ プ シ ョン に立 ち向 か うた め に必 要 な深 い理解 を 目指す もの で あ る[Pardo2004:11・12]。 この 二 冊の論 集 序 論 と異 な り、CSLの 編 者 は、 法 とコ ラプ シ ョン との あい だ の連 続 性 を 「 法 の秘 め 事」 と して 問題 化 す る視 点 か ら、 あ らゆ る政 治秩 序 にお い てそれ ぞれ の か た ちで コラ プ シ ョンが 必然 的 に 存在 す る と述 べ る[AndersandNuijten2007:7]。 そ れ は コ ラプ シ ョンの普 遍 的 定義 が不 可能 で あ る こ との言 い換 え であ る以 上 に 、政 治 的 正 しさ をめ ぐる多 様 な語 り口の うちの ひ とつ の み を法 が 代表 して い る こ とを踏 み込 んで 批判 しよ う と して い る。 上 記BMLの 編 者 は 、 あ らゆ る政 治 体 制 にお い て コ ラプ シ ョンは 不可 避 だ とす る語 り口 自体 が、 不 正行 為 を生み 出す ネ ガテ ィブ な効 果 を持 つ 点 に つ い て議論 して い る[Pardo2004:9]。BMLの 序 論 とCSLの 序 論 とを比 較 して い えば 、前 者 が根 絶 す べ き具 体 的 ・個 別 的な 不 正行 為 を い か に見 定 めて い くか とい う実践 的課 題 を想 定 して い る の に対 して、 後者 にそ の よ うな 議論 の 方 向性 は な く、 む しろ上 述 の よ うな 意 味 で法 あ る いは 国 家 の現 実規 定 力 に対 す る批判 的考 察 を主 軸 と して い る。

皿 コラプション研 究 の 展 開 一 国 家 ・ 権 力 をめ ぐるロー カル/グ ロー バ ル な言 説

本稿 冒頭 で述 べ た とお り、コ ラプ シ ョンを め ぐる理解(ロ ー カ ル な理 解 と研 究 者 の理 解 との 両面 を含 む) は、 アカ ウン タ ビ リテ ィあ る いは トラ ンス ペ ア レンシ ー重 視 の健 全 な 民 主主 義 とは何 か とい う問 い につ な が る。 さらに い えば 、CAPの 編者 が 議論 す る よ うに、 コ ラプ シ ョンを め ぐ る理解 のあ り方 は、政 治 あ るい は国家 をめ ぐる理解 の あ り方 で もあ り、 ネ ー シ ョンあ るい は 国家 に対 す る市 民 を め ぐ る想 像 力 に も結 び っ い て い る[ShoreandHaller2005:17‑18]。

コラプ シ ョンを め ぐ る人類 学 の 先行 研 究 と して 三冊 の論 集 の序 論 す べ てが 引用 して い る ア キール ・グプ タの論 文[Gupta1995]は 、現代 イ ン ドにお け る コ ラプ シ ョンの 実践 と、大 衆文 化 に お け る コラ プ シ ョン の語 りを分 析 す る こ とに よ って 、 いか に 国家 が 想像 され て い る のか を描 き出 してい る。 イ ン ドの あ る村 に お いて 村人 が 頻繁 に コラ プ シ ョン につ い て語 る姿 に強 く印象 づ け られ た グプ タ は、 は じめに村 レベ ル に お い て官 僚制 が い か に実 践 され て い るの か に 目を向 け る。 グプ タは 三 つ の事 例一 賄 賂 を求 め る末端 の 官僚 に対 して うま く立 ち回 る こ とが で きな い若 者 、ヘ ッ ドマ ン と村 落 開発 人 の 契約 違 反 を彼 ら よ りも職 階 が上 の官 僚 に直 訴 す る こ とで問題 解 決 をは か った 男性 、イ ン ド農 家 連 合(BharatiyaKisanUnion)に よ る様 々 なデ モー を通 して 、 国家 とは統 一 的 な存 在 で は な く、 断片 的 に経 験 され る のだ とい う点 を指 摘 し、従 来 の国 家研 究 にお け る国家 と社 会 の 二 分法 を批 判す る。 さ らに グプ タ は、 大衆 文 化 、特 に新 聞 にお け る コ ラ プ シ ョン表 象 に 目を 向 け る。 英 字 新 聞 と地 方 新 聞 とで は手 法 が 異 な る もの の 、双 方 とも に国家 役 人 を市 民 の 不満 に対 して何 の対 応 も しない者 と して 描 きだ して い る こ と、 そ して コラプ シ ョン に反応 す る もの と し て の 「 大 衆 」 を強調 し、 構築 して い る とい う特徴 を見 い だす 。 そ の上 で 、人 々の コ ラプ シ ョン をめ ぐる語 りと大 衆 文化 にお け る コラ プ シ ョン表 象 とを比 較 し、両者 に連続 性 が あ る こ と を指 摘 し、人 々 は大 衆文 化 、 す なわ ちメデ ィア を媒 介 と して国 家 を想 像 してい るの だ と結 論づ けて い る[Gupta1995]。

グ プ タ論文 が コラプ シ ョンの 語 りが国 家 を め ぐ る想 像 につ な が る様 態 を描 き出 した の に対 して 、CSL所

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収 の サイ モ ン ・ター ナ ー の論 文[Turner2007]は 、 フ トゥ系 ブ ル ン ジ人 に よ る コ ラプ シ ョンの語 りが究 極 の 支配 者 と して の 「 ツチ 」 を め ぐ る想像 力 につ な が る様 態 を描 き出 してい る。 内戦 終結 後 もひ きつ づ き 離 散 生活 を続 け る フ トゥ系 ブ ル ン ジ人 は 、和 平 合意 に参加 した フ トゥ系政 治指 導 者 た ち が、 そ の見 返 りと して政 治 的 地位 や 金 品 を得 て い た こ と、 そ う した プ ロセ ス に よ って 手 に した政 治 的 権 力 が 「 ツ チ」 に よ る 究極 の政 治支 配 に 支 え られ た偽 りの 存 在 で あ る こ とを語 る。 だ が 同 時 に、 そ う した 権 力 を偽 り と して語 る フ トゥ系 ブル ン ジ人 た ちは 、短 期 的 視 点 でみ れ ば それ が 目に見 える カ を発 揮 し うる とい う現 実 があ る こ と を よ く理解 してい る。 では 、 現実 の 政 治権 力 を 、短 期 的 に しか 存 在 しえな い偽 りの 存在 とみ なす 語 りは、

内 戦後 の移 行 期 社 会 とい う文脈 に特 有 の もの で あ る のか。 本 来 、移 行 期 社 会 とは、 将来 確 立す べ き政治 体 制 を別 の か た ちで 想像 す る暫 定的 な 政 治体 制 の こ とで あ る。だ か らとい っ て、 「 コ ラプ シ ョン」をそ う した 移 行 期 に特有 の権 力 の必 要悪 と して理 解 す る こ とは、 コラ プ シ ョン を脆 弱 国家 の 問題 と して他 者 化 す る こ とに な りかね ない。 本 論 文 にお い て ター ナ ー は 、む しろ 、上 記 の よ うな 語 りをブ ル ン ジ人(ひ い て は ア フ リカ人)の 権 力観 あ るい は世 界 観 を反 映す る もの と して描 いて い る。

CAP所 収 のキ ャ ロル ・マ ク レナ ンの論 文[MacLennan2005]は 、 コラ プ シ ョン を非 西洋 の脆 弱 国家 に 特有 の 現象 で は な く、 欧 米 の現 代 社会 にお け る歴 史 的 必然 と して考 察 す る論 文 の 一例 で あ る。 マ ク レナ ン は 、2002年 にア メ リカ で 起 こ った エ ン ロ ン事件 に言 及 しつ つ 、ア メ リカ にお け るコ ラプ シ ョンの 政治 経 済 的 、歴 史 的 コ ンテ ク ス トを考 察 す る。 ア メ リカ は、 市場 経 済 を支 え る価値 観 と民 主 主義 を支 え る価 値 観 と の あい だ の根 深 い対 立 の うえ に、 両者 のあ い だの バ ラン ス を維 持 す るた め のア メ リカ型福 祉 国 家 を必 要 と した。企 業 に対 す る法 規 制 は、 消 費者 ・市 民 を保 護 す る点 で 経済 的 弱 者 に対 す るセー フテ ィネ ッ トであ る の と同 時 に、 富裕 層 や 大企 業 の 健 全 な経 済活 動 を さ さえ る もの で な けれ ば な らな か った。 エ ン ロン事 件 を は じめ 明 らか に な った 一連 の企 業 不正 は、 この よ うな規 制 が そ の とお りに機 能 しな かっ た こ とを意 味 して い る。マ ク レナ ン は 、1960年 代 か ら1970年 代 に か け ての ア メ リカ の 政治 経 済 に 関す る著名 な 先行 研 究一 一 チ ャ ール ズ ・ライ ト ・ミル ズ 、 ウィ リアム ・ダ ンホフ、 ラル フ ・ネーダーの著書 に依 拠 して、 企業 エ リー トに よる支 配 の 肥大 化 と規 制 メカ ニ ズ ムへ の組 織 的 介入 に よ り、上 記 の よ うな福祉 国家 を維 持 す る バ ラン スが 徐 々 に蝕 ま れ てい く歴 史的 過 程 を論 じて い る。

コラ プ シ ョン は秘 密裏 に行 われ る(と 考 え られ る)こ とが 多い た め 、 トラン スペ ア レン シー とい う問題 系 に つ なが っ て い る。す で に触 れ た よ うに、1993年 に トラ ンスペ ア レ ンシー ・イ ン ターナ シ ョナル が発 足

\す るな ど

、 世 界 中で トラ ンス ペ ア レンシ ー を求 め る動 きが加 速 して い る。 だ が 、 この 点 につ い て は、 ハ リ ー ・ウェス トと トッ ド ・サ ンダ ー スが 、2003年 刊行の論集7}anspareneyand6b塑 ρ舶(y[Westand Sanderseds.2003]の 序論 にお い て 、この よ うな トラ ンスペ ア レ ンシー を求 め る言 説 の グ ローバ ル な流 通 は 、権 力 の行 使 にお け る透 明性 の確保 に はつ な が って い な い こ とをす で に論 じて い る[SandersandWes七 2003]。 彼 らは 、例 え ばア メ リカで は第41代 大統 領 ジ ョー ジ ・H・W・ ブ ッシ ュが冷 戦 終 結 時 に唱 えた 「 新 世 界秩 序 」 が 、国 際 政治 上 の トラ ンスペ ア レンシ ー を実 現す る もの と して で は な く、 エ リー ト ・マ イ ノ リ テ ィに よ る新 たな 世 界支 配 の た めの 陰謀 論 と して解 釈 され た例 を 挙 げ る。 両者 は、 陰謀 論 と、妖 術信 仰 を 含 む オカ ル ト的 世 界観 とに共通 す る権 力へ の懐 疑 とい う次元 を強 調 しつ つ 、 イデ オ ス ケー プ と して の トラ ンスペ ア レン シー が 、地 域 に よ りさま ざま に理解 され るこ と、 そ して また それ に対 して多様 な陰 謀論 的 反 応 が存 在 し うる と述 べて い る[SandersandWest2003]。 妖 術 告 発 とコ ラプ シ ョンの告 発 との類 似 につ い て はCAPな らび にCSLの 論 者 た ち も指 摘 して い るが[ShoreandHaller205:13‑14;AndersandNuijten

2007:19]、 いず れ もエ リー トの政 治 経 済活 動や 権 カ へ の懐 疑 的 態度 がそ の根 底 に あ る と認 め られ るの であ る。

アナ リー ス ・ライル ズ の 民族 誌Co17atera1Kinow7edge[Riles2011]は 、現 代 日本 の金融 取 引 にお ける

トラ ンスペ ア レ ンシー へ の 要請 が 、 規制 解 除 よ りもむ しろテ ク ノク ラー トに よ る新 た な 「 再規 制 」 に帰 結

す る側 面 を描 い て い る。1990年 代 後 半 、「 汚職 事 件 」の報 道 を 中心 とす る官僚 バ ッシ ン グが 高 ま るな かで 、

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コラ プ シ ョ ンの 人 類 学 一 若 干 の覚 え書 き 一

従来 の イ ン フォー マ ル なか た ちで の市 場介 入 を改 め るべ きだ とす る 自己反 省 が 官僚 た ち の問 に 広 ま って い た。 この時 期 は 「フェ ア ・フ リー ・グ ロー バ ル 」 を基 本 方針 と した 日本 型 ビ ッグバ ン と重 な る。 ライ ル ズ は、 そ の よ うな 自 己反 省 にお い て官 僚 た ちが ハ イエ クの 政治 理 論 や公 共 選択 論 に関 心 を持 っ よ うにな っ た こ とにっ い て 、そ してそ の よ うな 関心 が市 場 規制 政 策 に 対 して どの よ うな影 響 を与 えた のか につ い て 考察 す る。 公 共選 択 論 を独 自に 内 面化 した官 僚 は 、従 来 とは 異 な る 「目的 」 を 手 に した。 彼 らが新 た に発 見 し た 目的 とは 、利 益 最 大化 を指 向す る合理 的 個 人 と して 市場 参 加 者 た ち がふ る ま うよ うな世 界 をつ く りあ げ

へほ ず 

る こ とで あ る。 見せ か けの トラ ンスペ ア レン シー を見 出す ライ ル ズ は、 官僚 支 配 か らの脱 却 に 向か うか の よ うにみ え る改 革 が 、新 しい社 会 関係 の設 計者 かっ 新 しい合 理 的 主体 の創 造 主 と して のテ クノ ク ラー トの 新 た な役割 を基 礎 づ け る もの だ った と指 摘 す る。

四 むすび

以 上 、本 稿 は 、 コ ラプ シ ョンの人 類 学 に お け るい くつ か の議 論 の方 向性 を概観 した 。 ひ とっ の 重要 な方 向性 と して、 コラ プ シ ョン をア ジ ア ・ア フ リカ ・中 南米 の 脆 弱国 家 特有 の問 題 とみ な した うえで 開発 の 語 り 口に委ね る こ とな く、 コ ラプ シ ョン、 ア ン チ コラ プ シ ョン 、 トラ ンスペ ア レン シー とい う言 説 が もつ 現 実規 定力 を批 判 しよ うとす る視 点 を い くつ か の研 究 に見 出す こ とが で き る とい っ て よい だ ろ う。 ま た 、 CSLは 法人 類 学 的視 点 に よ る コ ラプ シ ョン研 究 で あ る こ とを表 題 で示 してい るが 、コ ラプ シ ョ ン と法 との 関係 に つい て踏 み 込 ん でい うな らば、「コラプ シ ョン」問題 にお い て はふ た つ の意 味 で の法 の 補助 線 一 法 に対 す る補 助線 、法 に よ る補助 線 一 が等 しく重 要 で あ る。 す な わ ち 、 コ ラプ シ ョンを め ぐ る法 的定 義 が 人類 学 的補 助線 を必 要 とす るのみ な らず 、 コ ラプ シ ョンの 人類 学 的理 解 は 法 を め ぐる批 判 的 視 点 を必 要 と す るの であ る。

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コ ラ プ シ ョン の人 類 学 一 若 干 の 覚 え書 き

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