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学位論文審査の要旨 主査

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Academic year: 2021

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(1)

     博 士 ( 水 産 学 ) 武 藤 文 人 学 位 論 文 題 名

形態学的,集団遺伝学的および個体発生学的にみた      日 本 産 ギ ス カ ジ カ 属 4 種 の 分 類 学 的 研 究      学位論文内容の要旨

  ギスカジカ属魚類Myoxocephalusは北半球の北方海域の浅海域から大陸棚 に生息するカジカ科に属する魚類で、世界で約13種群が知られている。本 属魚類の中には体長70cmに達する大型種も合まれ、冷水域の沿岸生態系の 中で高次消費者として重要な位置を占めている。日本周辺海域の本属魚類 の分 類は19世紀初頭から行われたが、Jordan&Starks (1904)および松原 (1955)は日本産本属魚類を2属8種に分類し、渡部(1958)は4新種を含む3属 14種に分類した。これらの研究は属群あるいは科群の定義に関わる問題を 多く合んでおり、本属の分類学的問題の解決をいっそう困難にしてきた。

Neelov (1979)はギスカジカ亜科の分類学的再検討を行い、その中で日本に分 布あるいはその可能性の高い種として5種を示したが、この研究に用いられ た 日 本 周 辺 海 域 の 標 本 は 極 め て 限 定 さ れ た も の で あ っ た 。   このように日本産ギスカジカ属魚類は成魚においても仔稚魚においても 分類学的に極めて混乱した状態にある。そこで、本研究は日本産の本属魚類 を対象として計量形態学を中心とする形態学的解析、集団遺伝学的解析およ び個体発生学的解析を行い、分類学的に再検討し、それぞれの種の特徴を明 らかにし、仔稚魚から成魚を通して全ての成長段階に有効な分類・査定方法 を確立するとともに、国際動物命名規約上の問題点を解決することを目的と して行われた。

1.形態学的解析

  日本産本属魚類4種について計数・計測形質の分類形質としての有効性を 統計学的解析法を用いて検証し、またこれらの形質を用いた簡便な判別式 について検討した。計数値としては腹鰭および臀鰭を除く各鰭の鰭条数と 脊椎骨数の7形質を用いた。計測値としては伝統的測定法を用いるために新

(2)

た に 厳 密 に 定 義 を 与 え た 体 各 部 の22測 定 形 質 と 、 単 一 平 面 上 に 設 定し た 10測 点に よ る21のト ラ ス測 定 値 を用 い た。 日本産4種に東 部北太平洋 産のM.

polyacanthocephalusを加え、計数値、計測値、計測値を変換したBookstein形 状 座 標 、お よ びそ れ らを 混 合し た 場合 の 判別 分 析を 行 った 。 総 脊椎 骨 数を 除 く 計 数値 では、10組 の線形判別 分析のうち4組で 誤判別率は5%を超 え、特 に トゲカジカ とM. polyacanthocephalusでは計数値のみでは判別することが不 可 能 と 判断 された。 鰭条数のみ で判別分析 を行った場 合、ギスカ ジカ‐オク カ ジ カ の判 別 以外 で は全 て 誤判 別 率が5%を 越え、こ れらのデー タセッ卜で 種 判 別 を行 う こと は 危険 性 が高 い こと が 明ら か にな っ た。 計 測 形質 の 線形 判 別 分 析 で は 、 ト ラ ス 測 定 値 を 用 い た 場 合 の 線 形 判 別 分 析 の 誤 判 別 率は 0.01‑1.91%、伝統的な測定値を用いた場合は誤判別率の0.00%‑ 2.24%で、.両 測 定 値 共に 低 い誤 判 別率 を 示し た 。ト ラ ス法 と 伝統 的 な方 法 の 計測 値 を重 複 を 避 けて 組 み合 わ せた33形 質 では 誤 判別 率 は 極め て 低く 、 更に こ れら に 計 数 値 を合 わ せた47形 質 では 誤 判別 率 は事 実上Oとなっ た。これら の47形質 か ら 主 成分 分 析に よ って 選 択し た28形 質を 用 い た判 別 分析 で は、 誤 判別 率 は0.00 ‑ 0.06%と低い値を示し、最もに実用的な判別式であると判断された。

2.集団遺伝学的解析

  日 本産 ギ スカ ジ カ属4種の 集 団遺 伝 学 的特 性を検討す るためにア 口ザイム 多 型 解 析を 行 った 。 サン プ ルと し て4種 がほ ぽ同所的 に生息する 北海道東部 か ら 得 られ た 標本 を 用い 、 筋肉 、 眼球 、 肝臓 お よび 心 臓の 組 織 を解 析 に供 した。ア口ザイム多型解析の結果、Acp 、Mdhーヱ゛、およびSod゛遺伝子座で 顕 著 な 種間 の 対立 遺 伝子 頻 度の 差 異が 認 めら れ、Sod゛ では全種間 で完全な 対 立 遺 伝子 置 換が 確 認さ れ た。 こ れら の 遺伝 子 座は 単 独で 各 種 の判 別 に有 効 な こ とが 示 され た 。仔 稚 魚で はAcp゛ で成 魚と同様な 活性が見ら れ、これ ら の 標 本は ギスカジ カとシモフ リカジカに 査定され、 イcp は本属 の仔稚魚 サ ン プ ルの 種 判別 に 有効 で ある こ とが 示 され た 。ア 口 ザイ ム 多 型解 析 で得 ら れ た10遺 伝 子 座 で 推 定 し たNei (1972)の 遺 伝距 離 によ るUPGMAデ ン ド口 グ ラ ム から こ れら4種の 類 似性 を 検討 し たと ころ、オ クカジカと ギスカジカ が 最 も 高い 類 似性 を 示し 、 次に シ モフ リ カジ カ とト ゲ カジ カ が 高い 類 似性 を 示 し た。 これらの 類似関係はAcp とMdh‑l*の対 立遺伝子頻 度によると 考 えられた。

3.個体発生学的解析

  日 本産 ギ スカ ジ カ属4種の 仔 稚魚 の 分 類を 明らかにす るために、 形態解析

(3)

を 行 っ た 結 果 、 こ れ らの 仔 稚 魚 は体 形、 体側 および 腹部 の正 中線 上の黒 色 素 胞 の 分 布 お よ び 頭 部の 突 起 の 状態 に明 瞭な 種的特 徴が 認め られ た。ま た 仔 稚 魚 お よ び 幼 魚 の 鱗を 透 明 二 重染 色を 用い て観察 した 結果 、各 種の鱗 の 分 布 に は 種 的 特 徴 が 認め ら れ 、 それ らの 鱗は 成長に 従っ て消 失す る傾向 に あ り 、 そ れ ら の 消 失 過程 に も 種 的特 徴が 認め られた 。こ れら の鱗 は幼魚 期 ま でに 見られ る独 特の 鱗で あり、 成魚 の鱗 とは非相同であると判断された。

4.分類学的問題点の整理

  日 本 産 ギ ス カ ジ カ 属魚 類 に 関 連す る種 の模 式標本 およ び原 記載 の調査 を 行 い 、 日 本 産4種 の 学 名を 検 討 す る と 共 に シ ノ ニ ム関 係 の 整 理 を おこな っ た 。 そ の 結 果 、 種 群 、 属 群 お よ び 科 群 の 学 名を 以 下 の ご と く 提 唱 し た 。 カジカ科Family COTTIDAE Bonapart 1831

  ギ ス カ ジ カ 亜 科 Subfamily MYOXOCEPHALINAE Taranetz, 1941     ギスカジカ族Tribe MYOXOCEPHALINI Taranetz,1941

    ギ ス カ ジ カ 属Genus Myoxocephalus Jordan& Gilbert, 1899     ギ ス カ ジ カMyoxocephalus stelleri Jordan&Gilbert, 1899     シ モ フ リ カ ジ カMyoxocephalus brandti (Steindachner,1867b)     ト ゲ カ ジ カMyoxocephalus ensiger (Jordan&Starks, 1904)     オクカジカMyoxocephatus jaok (Cuvier,1829)

  ギスカジカに従来用いられてきた学名Myoxocephロlus stelleri Tilesius, 1811は 不 適 格 名 で あ るこ と が 判 明し たが 、国 際動物 命名 法審 議会 の強権 発 動によってこの学名の安定をはかることを提唱する。Cottus sinensis Sauvage, 1873、CI dybowskii Hilgendorf, 1875およびMyesoensis Snyder,1911が本種の新 参 シ ノ ニ ム で あ り 、 従来 本 種 の 新 参 シ ノ ニ ム と さ れたM. mednius Bean, 1898は 別 属 で あ る こ とが 判 明 し た。 シモ フリ カジカ の学 名は 審議 会の強 権 発動などを経てSteindachner (1867b)に基づくM. brandtiを使い続けることを提 唱 する 。M. matsubarai Watanabe,1958は 本種のシノニムであると判断され た。トゲカジカとM. polyacanthocephalusは同種と考えられてきたが、両者は 別 種で あるこ とが 判明 した 。トゲ カジ カの 学名としてM. ensiger (Jordan& Starks,1904)を用いることが妥当と判断された。

5.形態記載および検索

  本 研 究 で 得 ら れ た 新知 見 を 踏 まえ て日 本産 ギスカ ジカ 属魚 類4種お よびM p〇ルロcanめocephロlusの形態記載を改めて行うと共に、形態形質を用いた検 索 、 ア 口 ザ イ ム 多 型 によ る 検 索 、計 数形 質を 用いた 判別 式お よび 仔稚魚 形 質による検索を提示した。

    ―48―

(4)

学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 助教授 助教授

尼 岡 邦 夫 菅 野 泰 次 仲 谷 一 宏 矢 部    衞

学 位 論 文 題 名

形態学的,集団遺伝学的及 び個体発生学的にみた 日本 産ギ スカ ジカ 属 4 種の分類学 的研究

  ギ ス カ ジ カlIvIyoxocephalus属 魚 類 は カ ジ カ 科 に 属 し 、 世 界 か ら 約13種 群 が 知ら れ 、 北 半 球 の 北 方 海 域 の 浅 海 域 か ら 大 陸 棚 に 広 く 生 息 す る 。 日 本 周 辺 海 域 の本 属 魚 類 に 関 す る 分 類 の 研 究 は 古 く か ら な さ れ て い る が 、 研 究 者 間 で 見 解 が 異 な り、 仔 稚 魚 を 含 め 、 極 め て 混 乱 し た 状 態 に あ る 。

  本 研 究 は 日 本 産 本 属 魚 類 を 形 態 学 的 、 集 団 遺 伝 学 的 及 び 個 体 発 生 学 的 に解 析 し 、 分 類 学 的 に 再 検 討 を 加 え 、 仔 稚 魚 か ら 成 魚 を 通 し て の 全 成 長 段 階 に 有 効 な 分類 を 確 立 し 、 国 際 動 物 命 名 規 約 上 の 諸 問 題 を 解 決 す る こ と を 目 的 と し て 行 わ れ た 。   1. 形 態 学 的 解 析 : 本 属 魚 類 を4種 ( ギ ス カ ジ カ 、 ト ゲ カ ジ カ 、 オ ク カ ジ カ 、 シ モ フ リ カ ジ カ ) に 分 け て 、 東 部 北 太 平 洋 産 のM. polyacanthocep瓜 出sを 加 え 、 計 数 ・ 計 測 形 質 の 分 類 形 質 と し て の 有 効 性 を 統 計 的 に 検 証 し た 。 計 数 値 と し て鰭 条 数 及 び 脊 椎 骨 数 の7形 質 、 そ し て 計 測 値 と し て 伝 統 的 測 定 部 位 に よ る22形 質 及 びlO 測 点 に よ る21の ト ラ ス 測 定 値 を 用 い て 、5種 の 計 数 値 、 計 測 値 、 計 測 値 を 変 換 し た ゛Bookstein形 状 座 標 、 及 び そ れ ら を 混 合 し た数 値 に つ いて そ れ ぞれ の 判 別分 析 を 行 っ た 。 計 数 値 ( 総 脊椎 骨 数 を除 く ) では ほ と んど の 組 み合 わ せ で 誤判 別 率 は高 く 、 ギ ス カ ジ カ と オ ク カ ジ カ を 除 く と こ れ ら の デ ー タ セ ッ ト か ら 種 判 別 を 行 う こ と 不 可 能 に 近 い 。 計 測 値 では 伝 統 的部 位 の 誤判 定 率 はO00224% 、 ト ラス 法 の それ は O01191% で 、 両 測定 値 は 低い 誤 判 定率 を 示 した 。 両 測 定値 を 組 み合 わ せ た33 質 で は さ ら に 低 く 、 こ れ に 計 数 値 を 加 え た47形 質 で は 誤 判 定 率 はOと な っ た 。 さ ら に 実 用 性 を 高 め る た め に 、 主 成 分 分 析 に よ っ て28形 質 を 選 択 し た 結 果 、 誤 判 定 率 は O 00 O. 06% と な り 、 最 も 簡 便 な 判 別 式 が 得 ら れ た 。   2. 集 団 遺 伝 学 的 解 析 :4種 の 集 団 遺 伝 学 的 特 性 を 検 討 す る た め に ア ロ ザ イ ム 多 型 解 析 を 行 っ た 。4種 が ほ ば 同 所 的 に 生 息 す る 北 海 道 東 部 か ら 得 ら れ た 標 本 を 用 い

(5)

て 、 筋 肉、 眼球 、肝 臓及 び心 臓の 組織 を分 析し た。 その結 果、AcpへMdh‑l゛ 及び

. 動ず遺伝子座で顕著な種間の対立遺伝子頻度の差異が認められ、S。ぴでは全種間 で 完全な 対立 遺伝 子置 換が 確認 された。これらの遺伝子座は単独で種の判別に有効 な こ と が 判 明 し た 。 仔 稚 魚 で は4ザ に 成魚 と同 様な 活性が 認め られ 、仔 稚魚 の種 判 別 に 有効 であ るこ とが 確か めら れた 。次 に、 得ら れた10遺伝 子座 を用 いた 遺伝 距 離 に よ るUPGMAデ ン ド 口 グ ラ ム か ら4種 の 類 似 性 を 検 討 し た 。 オ ク カ ジ カ と ギ スカジ カが 最も 高く 、次 にシ モフリカジカとトゲカジカが類似した。これらの関 係は4ザと朋ぬ^の対立遺伝子頻度によると考えられた。

  3. 個 体 発生 学的 解析 :4種 の仔 稚魚 の一 連の 発育 段階か らそ れぞ れの 特徴 を明 ら かにし 、分 類を 確実 に行 うた めに解析を行った。これらの仔稚魚は体形、体側と 腹 部の正 中線 上の 黒色 素胞 の分 布、頭部の突起の状態などに明瞭な種的特徴が認め ら れた。 次に 、仔 稚魚 から 幼魚 について鱗の発育過程を透明二重染色法を用いて観 察 した結 果、 各種 の鱗 の分 布域 に種的特徴が認められた。また、これらの鱗は成長 に 伴 っ て 消 失 す る 傾 向 に あ り 、 そ の 過 程 に も 種 的 な 特 徴 が 認 め ら れ た 。   4.分 類学 的問 題点 の整 理: 日本産 ギス カジ カ属 魚類 に関 連する種の模式標本及 び 原記載 を調 査し て日 本産4種 の学名 を検 討し 、シ ノニ ムの 整理を行い、種群、属 群 及 び 科 群 名 を 次 の ご と く 提 唱 し た 。 カ ジ カ 科FamiCOTTIDAEBonapart 1831; ギ ス カ ジ カ 亜 科SubfamilyMYOXOCEPHALINAETaranetz1941; ギ ス カ ジ カ 族TribeMYOXOCEPHALINITaranetz1941; ギ ス カ ジ カ 属 Genus

」 蜘 閉c印 五asJ0rdanGilbert1899; ギ ス カ ジ カ 秘 如 閉 鱈 幽 甜wsぬ ぬ ガ J0rdan&Gilbert,1899;シモフリカジカ九〔如xロ仇え幽aんs6噸ぬ庇f(Steindachner 1867);トゲカジカM如x・D飴pゐaんseね釦氈ピ(Jordan&Starks,1904);オクカジカ A珈閉c¢幽aんsカaな(Cuvier,1829)。

  従来、ギスカジカに用いられてきたみ珈珊魍p轟a丿珊s紿ぬfTnesius,1811は動物 命 名規約 上不 適格 名で ある こと が判明した。しかし混乱を避けるために、国際動物 命 名 法 審議 会の 強権 発動 によ り本 学名 の安 定を はか ること を提 唱す るこ とで 解決 する。シモフリカジカの学名はfめ′〇閲魍p五日んs6朋ロ施´を用いるべきであるが、

審 議 会 の 強 権 発 動 に よ り 彪6朋 ロ 施 で 安定 をは かる ことを 提唱 する 。ト ゲカ ジカ AZp心 聞 飽nDp五aんsと 同種 とさ れて きた が、 両者は 別種 であ るこ とが 判明 し た 。 よ っ て 前 種 に 対 し て 彪eロ 師 加rを 用 い る こ と が 妥 当 で あ る 。   5. 記 載 と検 索: 本研 究で得 られ た新 知見 をふ まえ て日 本産 ギス カジ カ属 魚類4 種 及び彪p心 悶飴 口めDce. 幽a血sを記載すると共に、形態、アロザイム多型、計数 形質による判別式及び仔稚魚形質に基づく検索表を提示した。

  以 上 によ り申 請者 の研 究成 果は 魚類 の系 統分 類学 及び水 産学 の分 野に おい て大 きく貢献したものと高く評価され、審査員一同は本研究の申請者が博士(水産学)の 学位を授与される十分な資格を有すると判定した。

参照

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