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博 士 ( 理 学 ) 松 本 尚 之

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Academic year: 2021

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博 士 ( 理 学 ) 松 本 尚 之

学 位 論 文 題 名

Kondo lattice model in infinite dlmensions

(無限次元近藤格子模型)

学 位 論 文 内容 の 要 旨

  希土類やアクチナイドのイオンを含むある種の合金の電子状態を表す言葉と して「重い電子系」と言う言葉が使われる。低温でのこの系の振舞いは、定性 的Iくは通常の金属と同じで、フェルミ液体的である。比熱は温度に比例し、帯 磁率は温度依存性の弱いパウリ常磁性的となる。ただし、例えば、比熱の比例 係数の 大き さは、 通常 の金属 に比べて100〜1000倍大きい。このことは電子 の有効 質量 が、通 常の 金属に 比べて100〜1000倍重いことを意味する。高温 ではこのフェルミ液体的な振舞いはなくナょる。例えば、帯磁率はキュリ−・ワ イス則に従うようにナょる。高温では、通常の有効質量を持つ電子と局在スピン という描像が当てはまる。

    「重い電子系」を記述するモデルとして、この論文で扱う近藤格子模型があ る。このモデルでは、各サイトに存在する局在スピンと、それらと交換相互作 用で結合する伝導電子の集まりとして系を記述する。近藤格子模型では、局在 性の強い電子を局在スピンとして扱っているので、低温のフェルミ液体をいか に記述するのかがーっの問題である。例えば、近藤格子模型でのフェルミ面総 和則がどうなっているのか、というのは長い間論争になっている重要な問題で ある。Lut tingerの理論によれば、解析接続が妥当ナょ限り、フェルミ面によっ て囲まれる部分の体積は系の全電子数によってきまり電子間の相互作用にはよ らない。近藤格子模型の局在スピンは電子相関により電荷の揺らぎが抑えられ た電子状態を表しているのであるから、近藤格子模型のフェルミ面は局在スピ ンの数も含めて決まる「大きな」フェルミ面を持っと考えることができる。最 近の変分法等の理論もこれを支持する。一方、フェルミ面というのは動き回る

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電子の持つ特性であるから、局在スピンからの寄与のない「小さな」フェルミ 面であるという主張もある。最近のCeRu‑‑Si2のドファース・ファンアルフェ ン効果に関する実験は、この「小さナよ」フェルミ面の考え方を示唆している。

  近藤格子模型にっいては様々ナよ研究が行われているが、2‑3次元系にっい て 近似 なしに得られた結果は少ない。このような状況は近藤格子模型に限ら ず強相関電子系一般に言えることである。従って現時点では、意味がわかりや す く、 一貫性 のあ る近似 が望 まれる 。最 近MetznerとVollhardtによっ て、

空間次元無限大での格子フェルミオン模型が導入された。さらにそめ模型にも と づい てl/d展開法 が開 発され た。 ここでdは空 間次 元数で ある 。この 方法 はl/dを展開パラメー夕―としているので、その零次項を考えると空間次元無 限大で厳密となる解が得られる。l/d展開法は強相関電子系を扱うーつの有カ ナよ手法である。実際3次元系に対する数値計算結果はl/dの最低次近似である 無限次元系の解に近い事が知られている。したがって無限次元系を考えること で 有 限 次 元 系 に つ い て 有 カ な 情 報 が 得 ら れ る も の と 期 待 で き る 。   このl/d展開法を応用するには、グリーン関数を摂動論を使って取り扱うの がーっのやり方である。電子の自己エネルギーのダイアグラムでサイト対角的 ナよものだけをすべて拾うと、l/dの零次項をすべて集める。この近似をーサイ ト近似と呼ぷ。Ohkawaによってーサイト近似でハバ―ド模型、あるいは周期的 アンダーソン模型を解く問題が、アンダーソン模型を条件付きで解く問題に帰 着されることが示された。この取り扱いの利点は、アンダ―ソン模型が現在で は解けてしまっている事にある。アンダーソン模型について開発された手法、

またその手法を用いて得られている様々ナよ結果、等をそのまま利用することが できる。

  この論文では、上記の手法を無限次元近藤格子模型に応用する。無限次元近 藤格子模型の解を得るためにはーサイト近似を考えればよい。その結果、無限 次元近藤格子模型を解く問題をs―d模型を条件っきで解く問題に帰着すること ができる。さらにsーd模型とァンダーソン模型がShrief fer―Wolff変換でつ ながっていることを利用して、問題をァンダーソン模型を解く問題にまで帰着 させることができる。

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具 体 的 に は 以 下 の3っ の 問 題 を 取 り 扱 っ た 。

( 1)フェルミ面総和則

  フェルミ面総和則にっいて調べた。局在スピンの数も含めて決まる「大きな」

フェルミ面が得られた。近藤格子模型では、局在スピンと伝導電子が各サイト で一重項を形成することにより、重い準粒子バンドが形成されると考えられて いる。  「大きな」フェルミ面は、この物理像で理解できる。CeRu2Si2の実験で は一部の重,い電子のフェルミ面が観測されていない可能性がある。より詳細な 実験が望まれる。

(2)近藤絶縁体の安定性

  フェルミ面総和則により、伝導電子パンドが一枚で伝導電子の数が格子点当 り1個、すなわち半分詰まった場合、系は絶縁体になることが示された。この 絶縁体の安定性を議論した。一サイト近似で帰着されるs−d模型での問題は、

絶縁体中の近藤効果の問題とは異なり、基底状態は常に一重項である。最近発 見されたCeNiSn等の近藤絶縁体と呼ばれる一群の系の安定性にっいての物理 機構を与えた。

( 3)近藤絶縁体の低エネルギ励起

  最近、高温超伝導機構の理論のーっに刺激されスピン・電荷分離と言う考え が注目を浴びている。事実、ー次元近藤格子絶縁体でスピン・電荷分離が実現 しているという、少数系に対する数値的対角化の結果がある。この問題意識か ら、無限次元近藤絶縁体の低エネルギの電荷励起とスピン励起を調べた。いず れの励起もギャップを持ち、その大きさはほば等しい。この結果は無限次元系 での近藤絶縁体ではスピン・電荷分離は起きていナょいことを示唆する。無限次 元の解 を出 発点にl/dの 摂動 が使え る範 囲では 、こ の結果 は正 しい。2‑3次 元でどうナょっているかは興味ある将来の問題であるが、他の物理量からの類推 からは少なくとも3次元では、スピン・電荷分離が起きていナょい事が類推され る。

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学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査 副査

教授 教授 助教授 助教授 助教授

大川房義 和田   宏 榊原俊郎 根本幸児 北   孝文

     学位論 文題名

Kondo lattice model in infinite dimensions

(無 限次 元近 藤格 子模 型)

  希 土 類 原 子 の4f電 子 と ア ク チ ナ イ ド 類 原 子 の5f電 子 は 局 在 性 が 強 く 、 強 相 関 効 果 の 最 も 強 い 電 子 で あ る 。 希 土 類 合 金 と ア ク チ ナ イ ド 類 合 金 に お け る 強 相 関 電 子 系 の 問 題 は 、 「 重 い 電 子 系 」 の 問 題 と し て 近 年 活 発 に 研 究 が 進 ん で い る 。 強 相 関 電 子 は そ の 強 い ク ー ロ ン 斥 カ の た め 電 荷 揺 動 が 抑 え ら れ る 。 電 荷 揺 動 が 抑 え ら れ た 極 限 で は 、 強 相 関 電 子 は ス ピ ン の 自 由 度 し か 持 た な い 。 こ の よ う な 強 相 関 電 子 系 の ー つ の 重 要 な 有 効 ハ ミ ル ト ニ ア ン と し て 近 藤 格 子 模 型 が あ る 。 こ の 模 型 で は 強 相 関 電 子 の ス ピ ン 自 由 度 を 表 す 局 在 ス ピ ン が 各 格 子 点 に あ り 、 そ れ と 反 強 磁 性 的 に 結 合 す る 伝 導 電 子 が あ る 。 強 相 関 電 子 を 局 在 ス ピ ン で 書 い て し ま う と 、 そ れ は も は や フ ェ ル ミ 粒 子 で な い 。 こ の 模 型 に お い て フ ェ ル ミ 面 で 囲 ま れ た 体 積 は 伝 導 電 子 の み で 決 ま る 「 小 さ な フ ェ ル ミ 面 」 な の か 、 そ れ と も フ ェ ル ミ 粒 子 で な く か つ 動 け な い 局 在 ス ピ ン の 数 も 含 め て 決 ま る 「 大 き な フ ェ ル ミ 面 」 な の か ど う か が 、 フ ェ ル ミ 面 総 和 則 の 問 題 と し て 「 重 い 電 子 系 」 で 長 い 間 論 争 な な っ て い る 問 題 で あ る 。 ま た 、

「 重 い 電 子 系 」 ば か り で な く 銅 酸 化 物 系 で の 高 温 超 伝 導 の 機 構 に 間 連 し た 問 題 と し て も 論 争 に な っ て い る 問 題 で あ る 。

  フ ェ ル ミ 面 総 和 則 と は 、 フ ェ ル ミ 面 で 囲 ま れ た 波 数 空 間 の 体 積 は 全 電 子 数 に よ っ て の み 決 ま り 、 電 子 間 の 相 互 作 用 に 依 ら な い と ぃ う 「 定 理 」 で あ る 。 こ の 「 定 理 」 は ラ ン ダ ウ の 現 象 論 的 フ ェ ル ミ 液 体 論 に お い て は 仮 定 で あ る 。 そ の 後Luttingerに よ り 微 視 的 に 証 明 さ れ て い る 。 た だ し こ の 証 明 に は 、 相 互 作 用 の 無 い と き か ら 断 熱 的 に 相 互 作 用 を 入 れ て い っ た と き 系 に 不 連 続 な 変 化 は 起 き な い と ぃ う 「 解 析 接 続 」 が 仮 定 さ れ て い る 。 「 解 析 接 続 」 が 電 荷 揺 動 が 抑 え ら れ た 極 限 で も 使 え れ ば フ ェ ル ミ 面 総 和 則 か ら 近 藤 格 子 の フ ェ ル ミ 面 は

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「大きなフェルミ面」であると議論できる。

  この 問題 に対 して 、申 請者は無限大次元模型をとり理論的検討を行った。無限大次元で は 単一 サイ ト近 似が 厳密 になることは既によく知られている。この単一サイト近似はワイ ス の分 子場 の拡 張で ある が、ワイスの静的分子場とは異なり「動的な分子場効果」として 取 り込 む必 要が ある 。申 請者 は近 藤格子 模型 に対 する 単一サイト近似はs‑d模型を解く問 題に帰着できることを示した。さらにs‑d模型がアンダーソン模型にSchrieffer‑wolff変換で 写 像で きる こと はよ く知 られている。アンダーソン模型については既によく理解されてい る 。た とえ ば相 互作 用が 有限なかぎりいかに大きくとも相互作用のないときからの「解析 接 続」 が妥 当で ある こと は示されている。アンダーソン模型についての結果を使い、フェ ル ミ面 総和 則を 証明 した 。すなわち、局在スピンの数を含めた電子数により決まる「大き なフェルミ面」であることを示した。

  この 学位 論文 以前 にな され た研 究、1次元 近藤 格子 模型で反強磁性結合が無限大の場合 の 研究 、ま た2次 元系 での 有限 サイ ズの 系に たい する 変分理論等も同じ結論を得ている。

こ れら の低 次元 での 結果 と、この学位請求論文の無限大次元の結果とをあわせ、一般の次 元でも「大きなフェルミ面」であることが推論される。

  伝導 電子 バン ドが1枚で 伝導 電子 数が 単位 胞当 たり1個の 場合 、フ ェル ミ面 総和 則から の 理論 的帰 結と して フェ ルミ面で囲まれた体積は第一ブリリアン域と同じであることを示 し た。 すな わち フェ ルミ 面の消えた絶縁体である。この絶縁体は最近発見された常磁性的 な 近藤 絶縁 体と 呼ば れる 一群のモデルの可能性があることを指摘した。するとひとつの問 題 が生 じる 。近 藤効 果に おいて局在スピンが遮蔽されて常磁性的になるためには、フェル ミ 面の 存在 が不 可欠 であ り、単純に考えれば提案されている近藤絶縁体は安定でないよう に 見え る。 この 点に 関し て、申請者は写像されたs.d模型は絶縁体中の局在スピンの問題 で なく 、局 在ス ピン との 相互作用を無視した時の伝導電子の状態密度としてフェルミ準位 上 にデ ル夕 関数 的な もの を持つ特異的なものであることを示した。このデル夕関数的な状 態 密度 が系 を常 磁性 的に 安定化する効果がある。単一サイト近似は回りの強相関電子の効 果 をい わば 「分 子場 」と して取り込む近似であるので、この特異的なフェルミ準位上のデ ル 夕関 数的 状態 密度 は回 りの局在スピンとの相互作用の効果を表している。ただし、サイ ト 間の 交換 相互 作用 によ って引き起こされる磁気的不安定性については、この論文では議 論 さ れ て い な い 。 近 藤 絶 縁 体 の 磁 気 的 安 定 性 に つ い て は 今 後 の 検 討 課 題 で あ る 。   さら に応 用と して 、近 藤絶縁体の低エネルギの電荷励起とスピン励起を考察し、二種類 の 励起 工ネ ルギ はほ ぽ等 しい こと を示し た。 この 結果 は既に報告されている1次元近藤格 子 模型 に対 する 結果 と全 く異 なる 。1次 元近 藤格 子模 型で推論される電荷・スピン分離は 無限大次元ではおきていないと推論できるとしている。

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  以上、申請された学位論文は、無限大次元近藤格子模型についての新しく重要な理論結 果を報告していると判断でき、高く評価できる。審査員一同は博士(理学)の資格が十分 にあると判定した。

参照

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