博 士 ( 医 学 ) 北 田 雅 子
学 位 論 文 題 名
大学生の喫煙行動とその関連要因に関する研究
学位論文内容の要旨
【背景と目的】
喫煙は全ての疾患の単一で最大の原因であり,青年期における喫煙開始はニコチンへの 薬物依存を早期に形成し,禁煙を困難にするばかりか成人期以降の生活習慣病のりスクを 格段に高 める。 WHO はタ バコを 「世界の 疫病」 と表し, 世界で年 間 500 万人と推定され る喫煙関連死に対する世界規模の対策を講じるため,2005 年には国際条約である「タバコ 規制枠組 み条約 (FCTC) 」を発効した。日本国内では2003 年に健康増進法が施行されて以 来,公共空間の喫煙規制が急速に進み,特に多くの医療機関と小中高校などの教育機関で は敷地内禁煙ヘ移行している。さらに,2005 年に9 学会による禁煙ガイドラインの作成,
2006 年には禁煙治療への保険適用が決まり,禁煙支援環境も整ってきている。成人喫煙率 は2000 年を ピークに 低下に転じており,中高生の喫煙経験率も1996 年に実施された横断 調査以来減少傾向にあり,2010 年には急激に減少している。しかし,その一方で大学キャ ンパスの禁煙化は一律には推進されず,大学生の喫煙率は在学中に増加する傾向が全国的 に見られている。さらに,大学生を対象とした喫煙行動とライフスタイルとの関係につい ては十分な調査研究並びにその分析が行われていない。高校までの喫煙防止教育と環境の 禁煙化に伴い,中高生の喫煙率は低下しているが,その抑止カは大学まで持続されていな い。また,大学在学中に成人を迎える学生に対して法律遵守を求めた喫煙防止教育を行う のは不可能である。しかし,喫煙行動は飲酒行動と並び危険行動との関連が強く,違法薬 物の乱用リスクを押し上げる事から,喫煙防止教育を軸とした健康教育の実施は急務であ る。そこで,本研究では大学生への効果的な喫煙防止教育を検討するために大学生の喫煙行 動とその関連要因を明らかにすることを目的とした。
【対象と方法】
本研究 は 3 部 から構成され,調査対象者は全て総合文系大学であるA 大学の学部生であ
る。最初に,大学生のライフスタイルの特徴,喫煙開始の保護因子・促進因子としてのラ
イフスタ イル, ならびに健康教育の介入時期を明示する事を目的に,2006 年(316 名)と
2009 年(3 .752 名)にBreslow らが提唱した健康習慣に基づぃて作成したライフスタイル
調査票およぴタバコ製品や喫煙に対する心理社会的依存を評価する指標として作成された
加濃式社 会的ニ コチン依 存度調 査票(KTSND) を用いた自記式質問紙調査を実施した。次
に,喫煙 未経験 者の喫煙開始予測因子を検討するために,2008 年から2009 年にかけて追
跡調査を 実施し ,2008 年時に1 年生だった934 名を対象に上記の自記式質問紙調査を実施
した。最 後にKTSND の信頼 性と妥 当性の検 討を行 った。この尺度は,喫煙者の心理社会
的依存を評価する尺度して開発されたもので喫煙状況によって得点が異なる。多くの異な
る集団における調査が蓄積されており,この調査票は喫煙者に限らず全ての対象において
調査が可能であることから,禁煙教育や喫煙防止教育の現場において教育効果を評価する
ーっの指標としても期待されている。しかし,先行研究が多数蓄積されているものの,本
調査票の信頼性と妥当性にっいて全て同一集団を用いて検討した研究はなぃため,2006 年,
2007年 , 2009年 の 調 査 か ら 本 調 査 票 の 信 頼 性 と 妥 当 性 に つ い て 検 討 し た 。
【 結 果お よ び 考 察 】
大 学 生 の 喫 煙 行 動 と ラ イ フ ス タ イ ル と の 関 係 を 検 討 し た 結 果 , 大 学 生 の 喫 煙 者 は 複 数 の 不 健 康 な ラ イ フ ス タ イ ル ( 飲 酒 頻 度 や 炭 酸 飲 料 の 摂 取 頻 度 が 多 , 朝 食 の 欠 食 頻 度 が 多 , 野 菜 や 果 物 の 摂 取 頻 度 が 少 , 運 動 実 施 頻 度 が 少 , 不 規 則 な ラ イ フ ス タ イ ル ) を 有 す る 者 が 多 か っ た 。 さ ら に , 喫 煙 者 は 不 健 康 な ラ イ フ ス タ イ ル を 継 続 す る こ と に 対 す る り ス ク 認 知 が 低 か っ た 。 そ し て , 大 学 生 の ラ イ フ ス タ イ ル は1年 時 が 良 好 で あ る が 学 年 を 経 る 毎 に 不 健 康 な ラ イ フ ス タ イ ル を 有 す る 者 が 多 く な る 傾 向 が 明 ら か と な っ た 。 以 上 の こ と か ら , 大 学 入 学 後2年 生 ヘ 進 学 す る ま で の 間 に 健 康 教 育 を 積 極 的 に 実 施 す る こ と は , 良 好 な ラ イ フ ス タ イ ル の 維 持 に 貢 献 す る だ け で な く , 将 来 の 喫 煙 開 始 や 習 慣 的 飲 酒 の 防 止 , 違 法 薬 物 の 乱 用 防 止 に っ な が る 可 能 性 が 高 い 。 さ ら に , 教 育 普 及 内 容 は 喫 煙 に 限 定 せ ず , 飲 酒 に 関 わ る 問 題 と ス ト レ ス 対 処 法 を 含 め , ス ト レ ス 管 理 を 主 軸 と し た 健 康 教 育 の 実 施 が 効 果 的 で あ る と 考 えら れ た 。
次 に , 大 学1年 生 の 追 跡 調 査 か ら 喫 煙 予 測 因 子 を ロ ジ ス テ ィ ッ ク 回 帰 分 析 に よ り 検 討 し た 結 果 , 喫 煙 未 経 験 者 の 喫 煙 行 動 予 測 要 因 と し て , ラ イ フ ス タ イ ル の 中 で 最 も 強 い の は 飲 酒 で あ り , 次 い で 野 菜 の 摂 取 不 足 , 朝 食 の 欠 食 で あ っ た 。 さ ら に , 喫 煙 を 文 化 的 嗜 好 品 と み な し , 喫 煙 の 効 用 を 過 大 評 価 す る 認 知 や 態 度 と タ バ コ 規 制 に 反 対 す る 態 度 は , 将 来 の 喫 煙 意 図 を 持 っ て い な い 場 合 に お い て も , 強 い 喫 煙 予 測 因 子 と な っ た 。 以 上 の こ と か ら , 喫 煙 を 防 止 す る た め に は 習 慣 的 飲 酒 の 問 題 へ の 教 育 介 入 が 必 須 で あ り , さ ら に 健 康 的 で バ ラ ン ス の 良 い 食 生 活 を 推 進 す る こ と も 喫 煙 開 始 の 抑 止 カ と な る と 考 え ら れ た 。 ま た , タ バ コ や 喫 煙 を 肯 定 的 に 捉 え , タ バ コ 規 制 へ 反 対 す る 態 度 そ の も の が , 喫 煙 予 測 因 子 と し て 極 め て 重 要 で あ る 事 か ら , こ れ ら の 態 度 形 成 と 関 連 す る 認 知 の 是 正 に 焦 点 を 当 て た 教 育 介 入 プ ロ グ ラ ム を 構 築 す る と 同 時 に , キ ャ ン パ ス 内 の 禁 煙 化 を 推 進 す る こ と が 急 務 で あ る と 思 わ れ た 。
最 後 に ,KTSNDの 信 頼 性 と 妥 当 性 の 検 討 を 実 施 し た 。 信 頼 性 に 関 し て 尺 度 の 内 的 整 合 性 お よ び再 テ ス ト 法 によ り 検 討 し たと こ ろ ,KTSNDの 尺 度と し て の 信 頼性 が 明 ら か とな った 。妥当 性 に 関 し て は , 弁 別 的 妥 当 性 ( 身 体 的 依 存 の 尺 度 で あ るFagerstrdmニコ チ ン 依 存 度指 数 の 改 訂 版 で あ るFTNDと の 相 関 無 ) , 収 束 的 妥 当 性 ( 禁 煙 へ の 意 思 , 非 喫煙 者 の 将 来 の喫 煙 の 意 図 と 喫煙 経 験 と 関 連 有 ) が あ る 事 が 明 ら か と な っ た 。 し か し , 構 成 概 念 妥 当 性 に つ い て は ,KTSNDの1 項 目 を 置 換 し た 改 定 版 の 方 が 望 ま し い こ と が 明 ら か と な っ た 。 以 上 か ら ,KTSNDを 尺 度 し て 用 い る 場 合 に は , 能 動 ・ 受 動 喫 煙 の 害 の 評 価 と い う 要 素 を 補 完 す る 質 問 票 を 用 意 す る 必 要 があ る と 思 わ れた 。
【 結 論】
本 研 究 か ら, 大 学 生 の 喫煙 開 始 に は ,不 健 康 な ラ イフ ス タ イ ル , 喫煙 へ の 肯 定 的な 態 度 , タ バ コ 規 制 へ の 否 定的 な 態 度 が 強く 影 響 す る こ とが 明 ら か と なっ た 。 喫 煙 行動 の 保 護 要 因と し て は 問 題 飲 酒の 防 止 と 食 生活 を 中 心 と した 良 好 な ラ イ フス タ イ ル の構 築を強 く推奨 する こと, 喫煙が 文化 的 嗜 好 品 で あ ると い う 認 知 の是 正 , な ら び に受 動 喫 煙 対 策と し て , 副 流煙 が マ ナ ー では 防 止 不 可 能 で ある こ と を 伝 えて い く こ と が必 要 で あ る 。 特に 初 年 時 教 育と し て 入 学 後か ら2年生 ヘ移行 する 期 間 に , 喫 煙 防止 教 育 を 健 康教 育 の 一 環 と して 包 括 的 に 行う と 共 に , キャ ン パ ス 内 の禁 煙 化 も 迅 速 に 推 進 す べ き で あ る 。KTSNDは 喫 煙 者 の 心 理 的 依 存 , 非 喫 煙 者 の タ バ コ 製 品 や 喫 煙 を 受 容 す る 態度 を 評 価 し てお り , 尺 度 とし て の 信 頼 性 と妥 当 性 も 概ね 確認で きた。 喫煙 予測因 子とし て,
喫 煙 の 意 図 を 介 さ ず と も ,KTSNDで 評 価 さ れ る 喫 煙 を 受 容 す る 態 度 が 強 く 関 与 す る こ と か ら,
KTSNDを 用 い た 喫 煙 防 止 教 育 , タ パ コ 対 策 を 実 施 す る 事 で そ の 集 団 の タ バ コ 製 品 や 喫 煙 へ の 受 容 度が 定 量 化 さ れ, 介 入 効 果 が評 価 で き る と 思わ れ た 。
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学位論文審査 主査 教授 武 副査 教授 玉 副査 教授 大
学 位 論 文 題 名
大学生の喫煙行動とその関連要因に関する研究
暁 唖 を 原 因 と す る 悪 性 新 生 物 な ど に よ り 世 界で 年間 約600万 人も の人 が 死亡 して お り、 これ を 予防 す る た め の 法 的 根 拠 と し て 、 健 康 増 進 法 やWHO主 導 の タ バ コ 規 制 枠 組 み 条 約(FCTC)が 施 行 さ れ 、 わ が 国 の 喫 煙 率 は 全 体 的 には 低 下傾 向に あ る。 しか し 、大 学生 に 関し ては 入 学時 には 数 %の 喫煙 率 が卒 業 時 に は10 30% 以 上 に 上 昇 す る こ と が 全 国 的 に認 め られ てお り 、大 学生 の 喫煙 を如 何 に防 止す る かが 大 き な 課 題 と な っ て い る 。 本 研 究 は1) 大 学 生 の喫 煙 行動 に関 連 する ライ フ スタ イル ( 生活 習慣 ) とし て 2年 次 以 降 に 増 加 す る 頻 回の 飲酒 と 朝食 の欠 食 を明 らか に し、2)暁 匿の 社 会、 ´心 理 的依 存を 測 定す る 加 濃 式 社 会 的 ニ コ チ ン 依 存 度 調 査 票Kano Test釦socialN缸 血eDependenceQ四SND) を 用 い た 調 査 で 、KTmmス コ ア ー は 喫 煙 者 が 高 く 、 過 去 に 喫 煙 し て い た が 現 在 は 喫 煙 し て い な ぃ 者 が こ れ に 次 ぎ 、 非 喫 煙 者 は 低 い こ と 、 非喫 煙 者の 中で も 比較 的ス コ アー が高 く 喫煙 に対 す る容 認性 が 高い と判 定 され る 者 は 喫 煙 を 開 始 し 易 い こ と 、 な ど を 明 ら か に し た 。 さ ら に3) 喫 煙 未経 験者 の 調査1年後 の喫 煙 開始 に 関 連 す る 要 因 の 追 跡 調 査 で は 、 朝 食 の 欠 食 と 飲 酒 、Krm佃 で は 喫 煙 を 文 化 と し て と ら え る、 タ バコ の 効 用 を 認 め る 、 な ど が 相 関 し て い た 。4) 最 後 に 大 学 生 の 調 査 で は 検 討 さ れ て い な か っ たKrSNDの 信 頼 性 と 妥 当 性 の 検 討 を 行 い 、 内 的 整 合 信 頼 性 (Cmロbachのロ 係数 =O.82)と 再テ ス ト信 頼性 維 閤係 数 卸,72) に 示さ れる 十 分な 信頼 陸 、お よぴ 構 成既 念妥 当 性、 弁別 的 妥当 性、 収 束的妥当性がある ことを示 ,
した 。
口 頭発 表 に続 き、 副 査の 大滝 純 司教 授よ り 、ラ イフ ス タイ ルの 具 体的 な質 問 項目と参照した先 行研究、
ク ラ ブ 活 動 な ど の 大 学 生特 有 のラ イフ ス タイ ルに つ いて の調 査 の有 無、 全 国の 大学 等 の敷 地内 禁 煙化 実 施 状 況 、 こ れ ま で に 報 告さ れ てい る喫 煙 者の 生活 習 慣特 性、 生 活習 慣の 悪 化が 喫煙 開 始に 影響 を 与え る と の 先 行 研 究 の 有 無 、 今回 の 研究 結果 に 基づ く具 体 的な 禁煙 教 育の 内容 と 実施 方法 、 など につ い ての 質 問が あっ た 。続 いて 副 査の 玉城 英 彦教授か らは、プレゼンテ ーションの 時報 量過多、ロジスティ ック回帰 分 析 で は 調 整 前 の デ ー タ も 提 示 す る 必 要 性 が あ る こ と 、 本 論 文 の 順 序 に っ い てKrSNDの 信頼 性 と妥 当 性 の 検 討 が 最 初 で は な い か 、 と の 指 摘 が あ り 、 次 い でWHOが タ バ コ 規 制 枠 組 み 条 約 を 制 定し た 背景 お よぴ その 必 要性 につ い ての 質問 が あっ た。
大 滝 教 授 の 質 問 に 対 し 、 申 請 者 は ラ イ フ ス タ イ ル の 質 問 項 目 はB地s10wら が 提唱 した7つの 生 活習 慣 と 森 本 ら が 作 成 し た ラ イフ ス タイ ル調 査 票の 項目 を 参考 にし た こと 、パ イ ロッ ト研 究 でク ラブ 活 動へ の 参 加 や 寮 生 活 、 一 人 暮 らし な どの 学生 特 有の ライ フ スタ イル は 生活 の不 規 則性 に反 映 され てい た ため 、
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今 回 の調 査 で は 直 接そ れ ら に つ い ては 尋 ね な か った こ と 、 全 国の 大学 等の敷 地内禁 煙化に ついて は学 陵 保 健 学会 の ホ ー ム ペー ジ に キ ャ ン パス 内 禁 煙 実 施状 況 の 記 載 があ り、 それに よると 医療系 や小規 模大 学 を 中 心に 敷 地 内 禁 煙化 は 進 ん で い るが 文 系 大 学 や総 合 大 学 で はそ の率 が低い こと、 先行研 究によ り明 ら か に され て い る 喫 煙者 に 特 徴 的 な ライ フ ス タ イ ルと し て は 不 規則 な生 活、少 ない睡 眠時間 、多い 飲酒 機 会 、 ビタ ミ ン や ミ ネラ ル の 摂 取 が 少な い 食 事など である こと 、生活 習慣特 性と将 来の喫 煙と のt鞨 係に つ い て 明ら か に し た 縦断 的 研 究 は な いこ と 、 今 後 行う べ き 禁 煙 教育 は 入 学 後2年 次 進 学 まで の期間 に、 飲 酒 、 暁唖 、 違 法 薬 物を 「薬物 」と包 括して 、「 薬物」 に依存 しなぃ スト レスマ ネージ ング法 やタバ コ会 社 の 販 売促 進 活 動 に 対し て「騙 される な!」 とい うカウ ンター マーケ ティ ング法 などを 教育す ること が考 え ら れ ると 回 答 し た 。玉 城 教 授 の 質 問に 対 し て 、 申請 者 は 一 国 でタ バコ 販売や 消費を 規制し ても、 低中 所 得 国 での タ バ コ 販 売の 増 加 と い う 結果 を も た ら すの で 、 多 国 間条 約と したも のと考 えると 回答し た。 こ の よ う に 申 請 者 は 自 己 の 研 究 結 果 お よ び 文 献 的 考 察 に 基 づ き 、 概 ね 適 切 に 回 答 し た 。 本研 究 は 、 わ が国 に お け る 喫煙 率 低 下 の ため の 大 き な 課 題で あ る大学 在学中 の喫煙 者の 増加に 対して 有 効 な 対 策 を 示 す も の で あ り 、 今 後 の 禁 煙 教 育 に 生 か さ れ る こ と が 期 待 さ れ る 。 審査 員 一 同 は これ ら の 成 果 を高 く 評 価 し 、申 請 者 が 博 士 (医 学 )の学 位を受 けるの に十 分な資 格を有 す る もの と 判 定 し た。
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