博 士 ( 工 学 ) 上 田 幹 人
学 位 論 文 題 名
アルミニウム・スクラップの溶融塩電解精製に関する基礎的研究
学位論文内容の要旨
現 在、 アル ミニ ウム ・ス クラ ップ の再 生 技術 の主 流は 、回 収ス クラップに新地金あるい は不 純物 の少 ないアルミニウムを添加し、 それらを再溶融し、 成分調整後、再生地金とし て出 荷す る、 いわ ゆる ブレ ンデ イン グ技 術 によ るも ので ある 。し かし、ブレンデイングに よる りサ イク ルが 繰り 返さ れる と、 将来 的 には 、根 本的 に不 純物 を分離する新たな再生技 術が 必ず 必要 にな る。 本論 文は 、こ の観 点 より 着手 した もの であ る。すなわち、スクラッ プの 新し い再 生技 術の 確立 を目 指し 、現 行 のア ルミ ニウ ム三 層電 解精製法を改良し、より 省電 力、 高生 産性 にな りう る積 層型 二重 電 極電 解槽 型式 にす るた めの必要な基礎的知見を 得るため、実験的に検討したものである。
す なわ ち、 第1章 にお いて は、 アル ミニ ウム電解製錬の歴史についてまとめ、現在および 将来 にお ける アル ミニ ウム ・ス クラ ップ の 再生 技術 およ びそ の問 題点を示した。また、本 研究 が目 指し てい る二 重電 極電 解槽 型式 で は、 現行 電解 槽構 造と 異なるため、槽壁材料に 対 し て 低 侵 食 性 の 新 た な 電 解 浴 の 開 発 が 必 要 に な っ た 経 緯 に つ い て 述 べ た 。 第2章 では 、 三層 電解 精製 用電 解浴 の必 要条件である密度、浴中Al成分の安定性、ならび に浴 の初 晶晶 出温 度に 注目 し、 電解 浴組 成 とそ の調 製手 法の 実験 的探索を行い、新たな電 解浴の槽壁材料に対する侵食性についても検討し た。
す なわ ち、 溶媒塩として、BaCI2 ‑NaCl=元系溶融塩を選定し、考案した差圧式の密度測定 セルを用いて、溶融アルミニウム(密度2. 35g.cm3,800℃)以上の密度を有する組成条件を 探索 した 。そ の結果、少なくともBaCl2 50 m0196以上含有する組成が必要であることを明ら かにした。750℃にお けるBaCl2‑NaCl等モル混合塩にAICl3の導入を種々試みた結果、 いずれ の場 合も 、そ の蒸 気圧 のた め定 常的 溶存 濃 度が 小で あっ て、 三元 系塩化物のみの電解浴は 採 用 し 得 な い と 結 論 し た 。 次 い で、800℃に お けるBaCl 2‑NaCI等モ ル溶 媒 塩へ のAIF3成 分導 入を 試み た。AIF3単独およぴAIF3‑NaFの混合粉体を溶媒塩に添加しても均一な電解浴は 得ら れず 、40〜43mol%AlF3・NaF複塩の限 定組成のみが溶媒塩に均一溶解しうることを見出 した。この最終的に得られた四成分系溶融塩例え ば10mol%A1F3.15mol%NaF.41mol%BaC12
・34mol%NaCl)は、密度2.67g.cm13を有し、初晶晶出点が610℃であって、石英質材料に対し ても、実験室的研究には十分使用できることを示 した。
第3章 にお い ては 、前 章で 見出 した 四成 分系溶融塩電解浴の電気化学的挙動を検討した。
すな わち 、800℃に おい てグ ラフ ァイ ト製 アノ ードおよびカソード を用いて電流と電圧との 関係 を測 定し た結 果、Al照 合 電極 に対 し、 アノ ードでは十1.8Vか ら貴な電位域で酸化物イ オン の放 電反 応、 +2. 4Vから貴な電位域で塩素ガス発生反応が起 こり、カソードではOvか ら卑な電位域でAlの電析反応、―O.4Vから卑な電位域で溶媒塩カチオ ンの共析反応が進行す る事を明らかにした。
次 いで 、電 解槽 底部 のAl ‑Cu合金アノードと逆漏斗形状のグラフ ァイトカソードとの間に 電流 を印 加す ると 、電 解浴 調 製時 に含 まれ る不 純物 、槽 壁か ら溶 出す るSi02成分により、
槽電 圧の 上昇 が認 めら れた 。 これ は、 合金 アノ ード 表面 に酸 化物 被膜 が形 成されるためと 考察 した 。こ れを 避け るた め 、よ り耐 浴性 に優 れた 高純 度ア ルミ ナセ ラミ ックスを槽壁材 料と して 用い るこ と、 さら に 調製 した 電解 浴の 適切 な予 備電 解処 理の 手法 を提案した。ま た、Al ‑ Cu合 金か らAl成分 のア ノー ド溶 解に 伴うCu成分濃縮の許 容限界を調べた結果、50 wt% Cuま で は 、 ア ノ ー ド 溶 解 反 応 に 影 響 し な い こ と を 明 ら か に し た 。 一 方、 カソ ード 反応 に関しては、電解浴中AIFa濃度とAl電析だけ が進行する電流密度との 関係 を検 討し た。 その 結果 、 槽壁 材料 の保 護な らびに生産性の維持を考慮し、5moI% AlF含 有の電解浴組成にすぺきであると提案した 。
第4章で は、 電解 槽サ イズ を任 意に スケ ール アップした際の印加 電流と槽電圧との関係を 予 測 す る た め 、 電 解 精 製 用 電 解 浴 の 導 電 率 を 明 ら か に す る こ と と し た 。 本 溶融 塩系 では 、印 加電 流 と電 圧変 化と の間 に直 線関 係が 成立 する 。こ の関係は電解浴 の抵 抗に よっ て決 まる ので 、 この 浴抵 抗の 極間 距離 依存 性か ら導 電率 を確 定した。その結 果、40〜60mol%BaC12・NaCl二成 分系 溶媒 塩に 、浴 中AlF3濃 度が5〜15mol%になるように 40mol%AlF3.NaF複塩 を添 加 した12種 類の 電解 浴の導電率を明らかにした。いずれも750〜 850℃において 、2.0〜2.8S.cm−1の範囲にある。なお、40mol%BaC12.NaCl溶媒塩の場合を 除い て、 浴中AlF3濃度 の増 加 とと もに 導電 率が 増大 する のは 、浴 中Na成分 のモル分率増大 によ るも のと 考察 した 。なお、導電率の温度依存性、すなわち、見 かけの活性化エネルギー は、1.9〜2.8kJ.mlI・1程度である。また、これら四成分系電解浴の導電率は、現行のGadeau 浴のそれに比ペ、約2倍である。
第5章に おい ては 、回 収し たア ルミ ニウ ム・ スクラップを想定し 、Fe、Si、Mgを含有する 各種 アル ミニ ウム ・ス クラ ッ プか らア ノー ドCu合金 を溶 製し 、長 時間 電解 精製実験を行つ た。 浴中 およ び電 析Al中の 不 純物 濃度 の経 時変 化を 調べ 、不 純物 成分 の系 内物質収支を検 討し た。9時間 以上 電解 精製 を継 続す ると 、ス クラ ップ 中10,000pmのFe成 分は、合金成分 で あ るSi、Mgの 存否 に関 わら ず、 電析Al中で100pm以 下に なる 。こ の よう な回 収ス クラ ッ プか らのFe成 分の 分離 は、 こ れま での 金属 学的 手法 によ る問 題を 根本 的に 解決する手段に なり うる もの とぃ える 。ま た 、ス クラ ップ 中のSi成分は、添加量の異なる2種のAl材料の場 合 、 そ れ ぞ れ50,oooppmか ら922ppmま で 、4,200ppmか ら70ppmま で 除 去 可 能 で あ り 、 Mg成 分は 、ア ノー ド反 応に よ って 合金 から 溶出 する けれ ども 、カ ソー ドで の電析反応には 関与 しな いこ とが 明ら にな っ た。 また 、電 解浴 中のAl成 分は 、長 時間 極め て安定であって
継続的な工業電解精製にも使用できることを示した。
第6章は 、本研究 の総括を 述べたも のである。
学 位 論 文 審 査の 要 旨
学 位 論 文 題 名
アルミニウム・スクラップの溶融塩電解精製に関する基礎的研究
現 在 ア ル ミ ニ ウ ム ・ ス ク ラ ッ プ の 再 生 は 、 回 収 し た ス ク ラ ッ プ に 一 次 地 金 あ る い は 不 純 物 の 少 な い ア ル ミ ニ ウ ム を 添 加 し て 再 溶 融 す る 、 所 謂 ブ レ ン デ イ ン グ 技 術 が 主 体 を な す 。 し か し 、 こ の よ う な り サ イ ク ル 技 術 が 繰 り 返 さ れ る と 将 来 的 に は 、 順 次 蓄 積 し た 不 純 物 を 不 連 続 的 に 分 離 する 新た な再 生技 術が 必ず 必要 にな る。
本 論 文 は 、 こ の よ う な 将 来 展 望 に 立 っ て 、 現 在 行 わ れ て い る 高 純 度 ア ル ミ ニ ウ ム 製 造 の 溶 融 塩 三 層 電 解 精 製 法 を 改 良 し 、 回 収 ス ク ラ ッ プ か ら 一 次 地 金 程 度 の 純 ア ル ミ ニ ウ ム を 得 る 電 解 精 製 法 を 開 発 す る た め 、 実 験 的 研 究 を 行 っ た も の で あ る 。 こ の 際 、 よ り 省 電 力 、 高 生 産 性 が 達 成 で き る よ う 、 外 熱 式 積 層 型 二 重 電 極 電 解 槽 型 式 の 適 用 を 念 頭 に し て い る と こ ろ が 独 創 的 と 評 価 で きる 。本 研究 にお ける 主要 な成 果を 要約 して 以 下に 示す 。
◎ 現 行 の 電 解 精 製 法 は 内 熱 式 で あ っ て 、 槽 壁 材 料 は 凝 固 塩 で 保 護 さ れ て い る 。 こ れ を 外 熱 式 に す る と 、 凝 固 塩 の 形 成 は 許 容 で き な く な る の で 、 ま ず 酸 化 物 系 槽 壁 材 料 に 対 し て 侵 食 性 の 少 を い 電 解 浴 組 成 の 探 索 を 目 指 し 、 生 成 ア ル ミ ニ ウ ム が 浮 上 す る 条 件 を 明 ら か に す る た め の 溶 融 塩 密 度 測 定 法 を 新 た に 考 案 し た 。 さ ら に 、 基 本 組 成 の 溶 融 塩 へ の ア ル ミ ニ ウ ム 成 分 の 添 加 手 法 を 種々 試み 、最 終的 にはAIF3‑NaF ‑ BaCl: ‑NaCl四 成分 から 成る 新た な組 成 の電 解浴を確定し た。
◎ こ の 新 電 解 浴 に お け る 電 流 と 電 圧 と の 間 に は 、 直 線 関 係 が 成 り 立 つ。 この こと を利 用し て、
電 極 間 距 離 を 定 量 的 に 変 化 さ せ る 手 法 に よ り 、 各 種 組 成 の 溶 融 塩 電 解 浴 の 導 電 率 を 精 度 良 く 確 定 し た 。 さ ら に 、 導 電 率 の 値 が 浴 中 の Na分 率 と 極 め て 強 い 相 関 の あ る こ と を 示 し た 。 ◎Al ‑Cu合 金 の ア ノ ー ド 溶 解 特 性 お よ ぴ 、 グ ラ フ ん イ ト カ ソ ー ド のAl電 析 特 性 を 精 査 す る と と も に 、 回 収 し た ス ク ラ ッ プ を 想 定 し た 溶 融 塩 電 解 精 製 を 長 時 間 に わ たっ て行 った 。そ の結 果、
回 収 過 程 で 混 入 す るFe成 分 は 、 ア ノ ー ド 溶 解 す る こ と な く 、 浴 中 の 一 部 の み がAlと 共 電 析 す る こ と 、 合 金 成 分 で あ るSi成 分 お よ びMg成 分 は 溶 解 す る け れ ど も 、 電 析Al中 に は 共 析 せ ず 、 ほ ぼ 完 全に 分離 除去 でき るこ とを 明ら かに した 。
以 上 要 す る に 著 者 は 、 将 来 必 ず 必 要 に な る ア ル ミ ニ ウ ム ・ ス ク ラ ッ プ の 新 し い 再 生 技 術 と し て 、 外 熱 式 三 層 溶 融 塩 電 解 精 製 が 可 能 な 新 た な 組 成 の 電 解 浴 を 開 発 し 、 そ の 密 度 お よ ぴ 導 電 率