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腰椎横突起単独骨折の一例
金沢大学医学部整形外科教室(主任 高瀬武平教授)
山 田 浩
(昭和31年10,月27日受付)
ACase of the Isolated Fracture of the Transversq
Processes of Lumbar Vertebra
Hiroshi Yamada
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(この論文の要旨は第78回北陸外科語談会にて発表した)
緒
腰椎横突起骨折は,近年産業医学の発展につれて外 国及び本邦においても多数の報告がなされており,今 日では必ずしも稀な疾患とはいえないが,その発生機 転や後胎症が興味ある問題と考えられている.
言
最:近私も両側性に6個の腰椎横突起単独骨折を起し た患者に遭遇したので,その概要を報告し多少の考察 を加えたいと思う.
患者:
初診=
主訴:
症
現病歴:
身を前屈した姿勢で作業中に左側上方より畳2枚ほど の岩石が滑り落ち腰背部を強打した.意識は2時間ば かり消失したが,意識回復後は腰痛が強度で起立歩行 共に:不可能であった.当夜は安静を保ち翌日当科を訪 れた.なおこの間に自然排尿は可能であった.
既往症,家族歴=共に特記するものはない.
現症: 患者は体格栄養中等度,腰痛が強度のため 起立不能で仰臥位をとる.意識は明瞭で瞳孔脈搏血圧 呼吸に特記所見はない.腹部は平坦で腫脹抵抗などを 触れず内臓諸臓器に著変は認めない.下肢の運動及び 知覚は異常なく腱反射も正常であるが,左下肢つ伸展 位挙上に際して腰痛は増強す.腰背部には第1腰椎の 高さに相当する位置より左側外下方に擦過創が点在し 軽度の腫脹を認める.両側腰背筋は強度に緊張し圧痛
木○栄○,18歳,男子,土工 昭和30年7月28日
腰部激痛
昭和30年7.月27日燧道内で膝を曲げ上半
例
を認めるが,これは左側に著しい.第X胸椎から第皿 腰椎までの棘突起に叩打痛及び圧痛を認める.尿は黄 色透明であるが,沈渣に白血球が1視野に2個,赤血 球が2〜3視野に1個認あられる.
レソトグン所見(図1,]1):第工腰椎から第V腰 椎までの左側横突起のほほ中央に骨折を認め,骨折片 の転移は第謡曲突起の場合に最も著しく第IV,第]1の 場合がこれに次ぎ第工,第Vε順序である.第IV腰椎 右側横突起の中央にほぼ垂直の骨折線が認められるが 転移はない.椎体棘突起には骨折,脱臼は認あない.
入院後τ経過:左側腰部に冷湿布を施し,左股関 節屈曲位でギブス床に静臥させた.腰痛は日々に軽快 し,顕微鏡的血尿も第9病日には全く認めなくなっ た.便通は秘結がちで涜腸の施行が約3週間続いた が,この間下肢に発汗異常,冷感などは認あなかっ た.受傷後5週目のレ線像では(図皿)第1,第V横 突起の骨折片には骨性癒合が認められ,他の骨折片は 接近はしているが,なお癒合は認められない.約7週
【47】
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間のギブス床静臥により起立歩行に際しての苦痛はな く軟性コルセットを装用して退院した.
退院後の経過:退院後も軟性コルセットを装用し 同時に背筋の運動を行った.受傷5カ月後のレ線像で は(図IV)丁丁,第皿,第IV横突起の骨折片はなお離 開しておりその程度は受傷5週後のそれと比べて殆ん ど同程度で,これらの骨折片は将来も遊離骨片として
残るものと思われる.この事より骨折片の癒合は可成 り早期に行われ(少なくとも5週以内),その時期に 未癒合の骨折片は遊離骨片として残るものと考えてよ いのではないだろうか.
受傷後9カ月目に障害補償12級の認定を受け,受傷 1年4カ月後の現在労作後に多少の腰痛を認めるが,
土木作業に従事している.
一考
腰椎横突起骨折は,他の骨折の;場合と同じく青年男 子に多く見られるが,特に坑内作業に従事する労働者 モに落盤外傷として比較的多いものである.
この骨折の発生機転に関しては 1.直達外力によるもの 2.介達外力によるもの
3.この両外力の共働作用によるもの に大別される.
直達外力によるとする諸家の多くは坑山に従業する 医家のようである(Niedlich, Ott,渡辺など).その 根拠とする所は,本疾患の多くの患者の腰背部には直 達外力による創傷溢血腫脹が見られること,本骨折が 全腰椎横突起中最大最長でしかも直達外力を最も受け 易い腰背部のほぼ中央に位置する第皿腰椎横突起に最 多数頻発すること及び重篤な脊椎骨折の合併症として 横突起骨折が多く見られることなどである.
これに対して横突起骨折の発生が介達外力即ち腰椎 横突起に附著点を有する腸腰筋,腰方形筋などが突発 的攣縮を起したための筋牽引力によるとする.医家も多 いのである.長坂,Magnusは内臓諸臓器や椎体棘突 起に何の異常もなく,内臓々器や厚い筋肉に保護され ている横突起を単独に骨折(時には両側にまたがって)
せしめるような小局部に働く直達外力は思惟出来ない として,多くの骨折線の走向が横撃は斜方向で筋走向 に一致することを介達外力による骨折の根拠としてい る.成松は多くの患者がその発生時において膝を曲げ 上半身を前屈した姿勢にあることを指摘し,この姿勢
は腸腰筋腰方形筋のある程度の攣縮状態を意味し,
そこに加わった外力が刺戟となってこれらの筋肉に所 謂重複攣縮を起し強大な筋牽引力を起すと述べてい る.これらの筋肉が極度に攣縮を起した場合,幾何の 力を生ずるかの精密な測定は困難であるが,可成り膨 大な力のようである.長坂は攣縮を起した腓腸筋は単 位平方糎当り約10kgの重さに当相すること(Zuntz)
察
より考えて,腸腰筋や腰方形筋が攣縮した場合の牽引 力は数百キログラムにも及ぶと述べている.この筋牽 引力が腰椎横突起に作用する分力を考えると,これら の筋肉の附著が広いものほど又牽引方向に対して直角 に近いものほどその分力を大きく受けることは当然 で,この点第皿腰椎横突起が最もこの条件に近く第 皿,第IVがこれに次ぎ第1,第Vの順序となる(長 坂).腰椎横突起骨折の部位を諸家の報告より綜合す れば「表」の如くとなり,この間の事情のうなずける
ものがある.
〔腰椎横突起骨折の部位〕
報告者 Niedlich 長 坂 Ott L量now 喜 多 成 松 藤 木 九州労災 病院
年代 1924 1927 1928 1930 1932 1934 1937 1952
:L.工
4 0 7 10 10 4 34 140
:L.皿
4 2 11 21 26 10 63 288
L.皿:
8 5 14
ε0
42 12
94、
442
:L.IV
7 5 8 18 23 6 60 290
:L.V
4 3 5 3 6 3 15 79
合司 レ・g14251647i4・71・・8
註:椎体棘突起の脱臼,骨折などを 合併せる症例も含む.
Stemmler, Max Ernstなどはこのような筋牽引力 が充分に骨折を起し得ると認めながら「であるからと いって直達外力に全く意義がないといえるだろうか.
私は直達外力による骨折も充分に可能であると信ず る」と述べている.
前述¢成松や島田などは横突起骨折は直達,四達両 外力2共働作用により発生すると考えるのが最も妥当 で,しかもこの共働作用による場合が最も多レ)と述べ
ている.
【 48 】
山 田 論 文 附 図
灘
懲纏
総身麟
棊錘
鞍
三
舞睡・
欝欝
図1受傷時腹背撮影
第IV腰椎右側横突起骨折は存在するが,図で は判然としない.
,税以耀
図■同時側方撮影
椎体練突起に異常は認めない,
図1正受傷5週そ妾1
離開していた骨折片は著しく接近している.
右第IV腰椎横突起の略ヒ中央に仮骨の形成を 見る.(図1参照).
遡
欝摯褥,
灘
響
図IV受傷5ヵ月後
骨折片の離開の程度は5週後のそれ と殆んど変っていない.
腰椎横突起単独骨折の一例 979
このようにして発生した腰椎横突起骨折の症候には 必ずしも特異なものはなく,確実な診断はレ線撮影に よらねばならないが,これも必ずしも容易でないよう である.
これらの点に関してはしばらく措くこととして,そ の後冷症としての腰痛又は坐骨神経痛様症状について 一言したい.これらは本疾患が労働者の作業申に多く 見られる関係上補償費などに関係して外傷性神経症の 発展する場合も多いようであるが,その他の原因とし ては横突起骨膜に密接して走る腰神経の伸展又は断裂
(Nied】ich,島田),転移骨折片や過剰仮骨による神経 の圧迫(Bδhler, Max Ernst&R6mmelt),二次的の 腰椎側轡又は大なる血腫による神経の圧迫などが多い ものと思われる.長坂,成松はこれらの後胎症の発現 は不充分なる治療によるものであるとして,従来の一 致した意見として述べられている所の平均3週間の静 臥とその間早期よりの背筋萎縮に備えてのマッサー ジ,ギムナスチックなどの施行に反対している.彼等 は,比較的長期の静臥即ち3個以上の横突起骨折の場 合は最小限5週間のギブス床静臥が必要でその間のマ
ッサージなどは有害で,ベットを離れてもコルセット を装用して背筋の異常緊張を除くのが後胎症を最小限 に停あ得る治療法だと述べている.特に再び坑内など に働かんとする労働者にとっては長期の安静が必要の ようである.成松はこのような比較的長期の静臥によ り患者の61%が旧の坑内労働に従事出来たと報告して いる.岩崎の「福岡県下の労災による脊椎損傷患者の 調査」によれば,腰椎横突起単独骨折患者は3〜4カ 月後に最:も多く障害補償等級の認定(一般に治療後直
ちに行われる)を受けている.
なお腰椎骨突起骨折に対する手術的療法の可否であ るが,これは後払症発現の場合に考慮される問題であ る.即ち転移骨折片や過剰仮骨が腰神経を圧迫してい る場合には手術の余地があろうと思われ,渡辺は3例 の患者に骨折片除去を行って腰痛を相当に軽減したと 報告しているが,成松は骨折片の除去は反って症状を 悪化させる:場合が多いと手術施行に反対を唱えてい る.:B6hlerは骨折片の手術的除去は何の治癒も期待 出来ないが,第V横突起の場合は仮骨が時に神経根を 圧迫し波及痛を惹起することがあるからその場合にの み神経学的,レントゲン学的検査の綜合の結果始めて 手術が適応されるべきてあると,手術的療法には極め て慎重な態度を示している.
これらの考察より顧みて本症例を再検討すると,患 者が腰背部に強力な打撲を受けたことは疑いのないこ とである.しかしながら横突起骨折が両側性に存在し ながら椎体棘突起及び内臓々器に異常を認めなかった こと,その発生時において患者は腸腰筋,腰方形筋の 緊張状態にある姿勢で打撲を受け,このためにこれら の筋肉が極度の攣縮を起す可能性の強いことは長坂,
Magnus,成松などの介達外力による骨折の根拠と一 致を見るものである.このことより本症例の場合の発 生には介達,直達両外力が作用したものと思われる が,四達外力が主で直達外力はむしろ従であるとした 方が妥当のように思われる.
後胎症に関しては,前述の如く3個の骨折片が遊離 して存在し将来も残るものと思われるが,それによる 神経の圧迫症状は受傷1年4ヵ月後¢現在では認あな い.Ottによれば遊離骨片は吸尽されることもあると
いう.
結 落盤外傷により両側性に6個の腰椎横突起単独骨折 を起し,受傷1年4カ月後の現在土木作業に復帰して いる患者の経過の概要を報告した.さらに本疾患の発 生機転,後詰症及び治療法に関しての文献考察を試
警
み,併せて本症例の発生機転について推論した.
稿を終るに際して御校閲をいただいた高瀬教授に謝 意を表します.
参 考 1)Bδbler: Technik d. Knochenl)ruch一:Be・
handlung Bd. 1, 476−480, (1950). 2)
岩崎3整外と災外,4,84−88,(正954)・
3)Magnus:Archiv. f. Klin. Chir.152,
55−57, (正928). 4) Max Ernst&
R6mmelt 3 Dtsch・Zschr. Chir.237,580−
601,(1932)・ 5)長坂:福岡医科大学
文 献
雑誌,20,1096−1113,(1927). 9)成松:
グレンツゲビート,9,468−487,(1934)・
7)Niedlich 2 Zb1. Chir.41,2268−2269,
(正924). 8)島田2昭和医学会誌,9,
9−15,(1947)・ 9)島田:外科の領域,
3,23−25,(1955). 10)Stemm!er=
13eitr. 1(Iin. Chir. 118, 216−221, (1920).