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スウェーデン企業におけるワーク・ライフ・バランス調査-従業員の育児休業にどう対応しているのか-

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(1)

スウェーデン企業におけるワーク・ライフ・バランス調査

−従業員の育児休業にどう対応しているのか−

主なポイント

1.スウェーデンの育児休業制度と取得状況

○ 民間企業に勤務する女性も 8 割以上が育児休業を取得している

○ 女性の取得日数も公的機関と大きな差はない

2.育児休業取得に対する職場の対応

○ 育児休業中は約 4 分の 3 の企業が臨時契約社員を雇用

○ 9 割近くの従業員は、育児休業を取得することについて同僚等との間で人間関係

上の困難を感じたことはない

3.育児休業中の従業員に対する対応

○ 7 割の企業は育児休業中の従業員に対する人事評価を行わない

○ 85%の企業が育児休業を取得しても昇進・昇格で差はないと考えている

4.職場復帰後の仕事と育児の両立の見通しのたちやすさ

○ 育児休業後の配属先は元の職場である場合がほとんど

○ 勤務時間短縮制度、フレックスタイム制度、テレワークの活用、高い有給休暇取

得率

5.我が国への含意

○ 育児休業の取得を促進するためには、(1)代替要員の確保による休業しやすい職場

づくり、(2)人事評価、(3)職場復帰後の両立の見通しの立ちやすさという 3 つの

面において、対応が必要。

平成17年7月20日

内閣府経済社会総合研究所

株式会社富士通総研に委託した平成 16 年度内閣府経済社会総合研究所委託調査をもとにまと

(2)

スウェーデン企業におけるワーク・ライフ・バランス調査♦ ---従業員の育児休業にどう対応しているか 1 スウェーデンの育児休業制度と取得状況 (1)スウェーデンの育児休業制度 (イ) 育児休業制度の概要 ・ 育児休業は両親合わせて480 労働日(約 1 年 10 ヶ月に相当)取得できる。 ・ 「両親保険」によって休業直前の8 割の所得を 390 労働日(約 1 年半に相当)にわ たり支給される。残りの90 日は、日額 60 クローナ(約 860 円)支給される。 ・ 両親保険の財源は、事業主が支払う社会保険拠出(支払い給与の2.20%)である。 (ロ) 企業による独自の上乗せ スウェーデンの企業等では、両親保険から支払われる8 割の公的所得補償に上乗せして、 9 割あるいはそれ以上の所得補償としている企業等も 24.4%ある。特に、従業員が 50 人以 上の民間企業と公的機関では、約3 割の企業で所得補償の上乗せ制度の導入が進んでいる。 31.2 29.5 9.8 24.4 70.5 68.8 90.2 75.6

0

20

40

60

80

100

公的機関 民間企業(50人以上) 民間企業(10-49人) 全体

はい いいえ

ワーク・ライフ・バランス(work-life balance)とは、近年 OECD や諸外国で提唱されてい

る概念で、職業生活における各段階において、「仕事」の時間と「生活」の時間(家庭生活、地 域活動、学習等)をさまざまに組み合わせ、調和のとれた働き方ができるようにすることである。

(3)

(ハ) 上乗せの程度 所得補償の上乗せ制度を導入している企業のうち、最大で 90%の所得補償としていると ころが約8 割を占めるが、最大で 100%以上補償している企業も約 1 割存在する。 80.6 85.7 61.5 81.0 11.1 8.6 23.1 3.6 15.4 10.5 8.3 10.7

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100

公的機関 民間企業(50人以上) 民間企業(10-49人) 全体

最大で90%まで 最大で100%まで 最大で100%以上 (2)取得状況 (イ) 育児休業取得率 民間企業に勤務する女性でも、84.0%の人が育児休業を取得しており、公的部門(89.3%) との差はほとんどない。男性でも、民間企業、公的機関どちらの場合でも、約 8 割が育児 休業を取得している。 75.7 79.2 89.3 84.0 0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0 公的機関 民間企業 公的機関 民間企業 男性 女性 (%) (参考)日本の育児休業取得率 日本の民間企業で働く女性の育児休業取得率は、女性 73.1%、男性 0.44%。(厚生労働省 「平成15年度女性雇用管理基本調査」)。 図表 2 80%以上の上乗せ補償の割合(企業等調査) 図表 3 育児休業取得率(官民別、男女別)(従業員調査)

(4)

(ロ) 育児休業取得期間 育児休業取得期間は、女性の場合、民間企業と公的機関との間で差はほとんどない。男 性の場合は、公的機関の方が民間企業よりも育児休業取得期間が長い傾向が見られる。 6.0 70.1 69.4 16.4 11.6 20.6 22.1 38.8 30.2 6.2 19.4 19.4 1.4 2.7 22.9 1.0 1.6 33.9 2.1 4.3 0% 20% 40% 60% 80% 100% 公的機関 民間企業 公的機関 民間企業 男性 女性 1年以上 6-11ヶ月 3-5ヶ月 2ヶ月 1ヶ月 1年以上 6-11ヶ月 3-5ヶ月 2ヶ月 1ヶ月 (参考)日本の女性の育児休業取得期間 女性の育児休業取得期間は「10 ヶ月~12 ヶ月未満」が 41.4%と最も多かった。(厚生労 働省「平成 14 年度女性雇用管理基本調査」)。 (ハ) 民間企業の役員・中間管理職の女性も、8 割以上が育児休業を取得しており、役職によ る差はない。また、ホワイトカラーとブルーカラーとの間に大きな差はない。したがって、 育児休業の取得は一部の職種のみということはない。これは男性についても同様である。 取得日数も同じ性別の中では、役職による差は大きくないが、女性では管理職に就いてい ない従業員の方が長い傾向が見られる。 77.1 80.0 83.3 79.7 87.5 88.2 0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0 ブルーカラー ホワイトカラー 役員・中間管理職 ブルーカラー ホワイトカラー 役員・中間管理職 男性 女性 (%) 民 間 企 業 図表 5 育児休業取得率(役職別、男女別、官民別)(従業員調査) 図表 4 育児休業取得日数(官民別、男女別)(企業等調査)

(5)

74.4 67.1 58.3 13.6 10.8 8.7 18.3 23.3 31.0 30.6 33.3 26.8 21.7 24.2 23.9 33.6 30.0 37.7 0.4 1.7 2.9 3.2 1.4 2.4 1.4 2.7 1.2 2.7 5.5 7.1 0% 20% 40% 60% 80% 100% その他の男性社員 男性中間管理職 男性役員 その他の女性社員 女性中間管理職 女性役員 民間企 業 1年以上 6-11ヶ月 3-5ヶ月 2ヶ月 1ヶ月 1年以上 6-11ヶ月 3-5ヶ月 2ヶ月 2 職場における対応 (イ) 代替要員の確保 従業員が育児休業を取得した場合の職場の対応をみると、臨時契約社員を雇用するとい う企業が4 分の 3 を占め、空席を現在いる人員だけで対応するよりも、新たな社員を雇用 して対応する場合が多い。

74.4

19.2

2.1

21.9

54.2

0

20

40

60

80

100

他のセクションからの異動

臨時契約社員を雇う

他の従業員の一時的昇進

業務を分担する

その他

複数回答

図表 7 育児休業中の人員の空きへの対応(企業等調査) 図表 6 育児休業取得日数(役職別、男女別)(企業等調査)

(6)

(参考)日本での育児休業中の人員の空きへの対応 日本では、派遣労働者やアルバイトを代替要員として雇用する場合は 39.7%である。 また、代替要員の補充を行わず、同じ部門の他の社員で対応する場合が51.7%を占める。 (厚生労働省「平成 14 年度女性雇用管理基本調査」) 5.3 39.7 19.4 51.7 0 10 20 30 40 50 60 その他 派遣労働者やアルバイトを雇用 他の部門又は他の事業所からの異動 代替要員の補充を行わず、同じ部門の他の社員 で対応 (%) なお、我が国の現行法においては、従業員が育児休業を取得する場合、育児休業に係る 給付は雇用保険から支給され、社会保険料も事業主、被用者とも支払い免除となるため、 育児休業中の従業員に対する労働費用は原則としてかからない。 しかしながら、現時点で我が国では社外からの雇用による対応が少ない背景には、以下 のような事情があると推測される。 (a) 個々人の仕事の範囲が不明瞭であったり、マニュアル化されていないために、派遣や 契約社員等が直ちに対応しにくい状況にある場合があること (b) 時間外勤務手当の割増賃金率が 25%と国際的にみて低い水準にあることや、いわゆる サービス残業の存在のため、新たな人員を雇い入れるよりも、既にいる従業員の時間外勤 務によって対応した方がコスト面で割安であること (c) まだ個々の職場では育児休業取得の事例が少ないため、とりあえず現員で対応するこ とが可能である場合もあること (参考図表) 育児休業取得者があった場合の対応 (複数回答)

(7)

(ロ) 代替要員への円滑な引継ぎ 後任者への引継ぎ方法は、対面で行う場合がほとんどである。また、約 7 割の企業が、 後任者への訓練や研修は十分に行われていると考えている。育児休業に入った後も、その 代替要員との間で電話、電子メール等で連絡を取り合っていることが多い。 69.9 30.1 0 20 40 60 80 100 % (注)育児休業のための人員の空きへの対処法は、「他のセクションからの 移動」、「臨時契約社員を雇う」、「他の従業員の一時的昇進」と回答した場 合のみ。 はい いいえ 69.1 30.9 0 20 40 60 80 100 % はい いいえ 図表 8 後任者への訓練や研修などは十分に行われているか(企業等調査) 図表 9 育児休業中の従業員と臨時従業員との通常連絡の有無(企業等調査) 注:育児休暇のための人員の空きへの対処法は、「他のセクションからの移動」、「臨時契約社員を雇う」、 「他の従業員の一時的昇進」と回答した場合のみ

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(ハ) 他の従業員の負担感 このため、自分が育児休業を取得した際、同僚の業務負担が増えなかったという者が 68.4%を占める。一方で、同僚の負担が増えたと感じる人も約 3 割いるが、実際に不満を言 われた者はほとんどいない。また、育児休業を取得した者の約 9 割が、育児休業取得につ いて同僚や雇用主との間で人間関係での困難を感じたことはないとしている。 3.4 2.5 3.9 28.2 41.7 20.4 75.6 55.9 68.4 0% 20% 40% 60% 80% 100% 女性 男性 全体 はい、同僚が不満を言っていた 誰も不満を言わなかったが、負担は増えただろう いいえ、負担は増えなかった 87.9 9.9 3.2 0 20 40 60 80 100 % はい、同僚との間で はい、雇用主との間で いいえ (参考)職場で育児休業をとりやすい雰囲気(日本) 日本では育児休業を取得しなかった理由として、43.0%の人が「職場の雰囲気」を、 40.2%の人が「経済的に苦しくなる」を挙げている(複数回答)。(労働省女性局「育児・ 介護を行う労働者の生活と就業の実態等に関する調査」(2000 年)) また、日本では、職場で育児休業を「どちらかといえばとりにくい」雰囲気と感じて いる人が、女性が取得する場合で22.6%、男性が取得する場合で 52.2%いる。(日本労働 研究機構「育児や介護と仕事の両立に関する調査」(2003 年)) 図表 10 育児休業取得による同僚への負担(従業員調査) 図表 11 育児休業取得による同僚や雇用主との人間関係での困難の有無(従業員調査)

(9)

(ニ) 育児休業取得に対する評価 このため、育児休業取得に対する評価は、「非常に肯定的」、「肯定的」を合わせると、ど の役職においても9 割を超えている。男女間でも大きな差はない。 35.4 21.0 30.3 20.6 38.0 33.8 26.7 17.2 60.4 72.2 67.4 72.0 62.0 64.7 71.8 75.6 6.9 0.8 1.5 6.3 2.8 1.1 7.0 0.3 0.8 0.4 0.6 1.4 0 20 40 60 80 100 役員(公的機関) 役員(民間企業) 中間管理職(公的機関) 中間管理職(民間企業) 女性従業員(公的機関) 女性従業員(民間企業) 男性従業員(公的機関) 男性従業員(民間企業) % 非常に 否定的 肯定的 否定的 非常に肯定的 (ホ) 育児休業取得による差別 また、育児休業取得により雇用主からの差別を受けた人はほとんどいない。自分やパー トナーが実際に差別を受けた人は5%に満たない。 1.9 3.6 2.9 5.0 11.1 8.5 93.0 85.2 88.6 0 20 40 60 80 100 % 総数 女性 男性 はい、差別を受けた女性従業員の話を聞いたことがありますが、 個人的には私は差別を受けたことがありません いいえ はい、私と私のパートナーが差別を受けたことがあります 図表 13 育児休業取得による雇用主からの差別の経験(従業員調査) 図表 12 育児休業取得に対する評価(企業等調査)

(10)

3 育児休業中の従業員に対する対応 (イ) 育児休業中の人事評価 育児休業中の従業員に対する人事評価は行わないという企業が約 7 割を占める。特別な 考慮が行われる場合も約 1 割ある。一方で、マイナスに評価するという企業は皆無に等し い。 18.1 9.5 72.0 0.4 0 20 40 60 80 100 % 他の従業員と同様に扱う 特別な考慮が払われる 評価は行なわない マイナスの評価がされる (ロ) 昇進・昇格への影響 育児休業を取得しても昇進・昇格等での差はないと考える企業は、「非常にそう思う」、「そ う思う」をあわせると85%を超える。従業員でそのように考える人は約 65%であり、企業 よりは低い割合だが、多数を占める。 育児休業の取得後に仮に昇進・昇格等で遅れたとしても、後で取り戻す機会があると考 える企業の割合も9 割近い。従業員でも 70%以上の人がそのように考えており、キャリア 形成上の影響はないと考える企業が多く、従業員の大多数も同様の認識をしている。 。 34.6 50.5 35.8 30.8 7.4 12.8 4.2 14.1 7.7 2.1 0 20 40 60 80 100 % 企業等調査 従業員調査 非常にそう思う そう思う どちらともいえない そう思わない 決してそう思わない 図表 14 育児休業中の従業員に対する人事評価(企業等調査) 図表 15 「育児休業を取得しても昇進・昇格等での差はない」と考える人の割合

(11)

32.9 51.1 37.2 40.5 7.4 15.2 3.1 6.3 1.2 5.1 0 20 40 60 80 100 % 企業等調査 従業員調査 非常にそう思う そう思う どちらともいえない そう思わない 決してそう思わない (ハ) 育児休業中の情報提供 また、育児休業中の従業員が電子メールや社内イントラネットへのアクセス等を通じて、 仕事に関する情報を得ることができるようにしている企業が約4 割ある。 42.6 57.4 0 20 40 60 80 100 % はい いいえ 4 職場復帰後の仕事と育児の両立の見通しのたちやすさ (イ) 育児休業後の配属先は元の職場である場合がほとんどである。支社や子会社へ配属さ れることはほとんどない。 1.7 1.4 2.7 5.4 95.8 99.0 2.0 1.2 0 20 40 60 80 100 % 従業員調査 企業等調査 元の配属先 あまり業務がハードではない部署への配属 支社、関連会社、子会社など その他 図表 18 育児休業取得後の従業員の配属先 図表 16 「育児休業を取得後に仮に昇進・昇格等で遅れたとしても、後で取り戻す機会が ある」と考える人の割合 図表 17 育児休業中の従業員が情報伝達技術(IT)により仕事に関する情報を得られるか (企業等調査) 複数回答

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(ロ) フレックスタイム制度 フレックスタイム制度が企業全体の約8 割に導入されており、よく利用されている場合 も半数を超える。従業員50 人以上の民間企業、公的機関の方が、小規模の企業と比較して、 制度が導入されており、よく利用もされている。 また、勤務時間短縮制度を利用したことがある人は、女性で4 割程度である。 63.9 23.8 12.2 16.4 33.6 20.2 52.6 32.2 59.2 27.1 34.2 24.4 0 20 40 60 80 100 公的機関 民間企業(50人以上) 民間企業(10-49人) 全体 % 制度があり、よく利用されている 制度はあるが、あまり利用されていない 制度はない 7.4 40.2 27.1 92.6 59.8 72.9 0 20 40 60 80 100 男性 女性 全体 % はい いいえ 図表 20 勤務時間短縮制度の利用経験(1~8 歳までの子どもを持つ従業員に対して) 図表 19 フレックスタイム制度の普及率及び利用状況(企業等調査) (注)両親休暇法により、1 歳半から 8 歳もしくは小学校 1 年終了まで、労働時間を 4 分の 1 短縮できる 権利が認められている。

(13)

(ハ) テレワーク制度(情報通信技術を利用した場所・時間にとらわれない働き方)も、56.0% の企業で導入されている。約半数の従業員がこの制度を活用しており、利用経験率に男女 間で差はない。 56.0 44.0 0% 20% 40% 60% 80% 100% はい いいえ 48.1 50.5 49.4 51.9 49.5 50.6 0 20 40 60 80 100 % 全体 男性 女性 はい いいえ (ニ) 有給休暇の取得率 年次有給休暇(法定では年 25 日付与)の取得率は、70%以上取得している人が男女 ともに 8 割を超える。 39.1 49.4 44.8 39.5 38.1 41.3 10.1 5.4 7.5 8.2 7.1 9.4 0 20 40 60 80 100 % 総数 女性 男性 平均 83.8% 81.5% 85.6% ほぼ100% 70~90% 50~69% 50%以下 (参考)日本の有給休暇の取得率 日本では、年次有給休暇の平均的な付与日数(繰越日数は含まない)は18.0 日、その うち実際に取得した日数は8.5 日で、取得率は 47.4%である。(厚生労働省「就労条件総 合調査」(2004 年)) 図表 21 テレワーク制度の有無(企業等調査) 図表 22 テレワーク制度の利用経験(従業員調査) 図表 23 有給休暇(法定を超える部分も含む)の取得率(従業員調査)

(14)

(ホ) 育児休業取得による不安感 こうしたことから、従業員は民間企業、公的機関ともに職場復帰後の働き方について大 きな不安をもつことはなく、出産前に仕事を辞めたりすることはない。 7.2 6.2 92.8 93.8

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20

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100

男性

女性

はい いいえ 7.0 93.3 93.0 6.7 0 20 40 60 80 100 公的機関 民間企業 % はい いいえ (参考)日本の女性の出産前後の就業状況 日本では出産前に就業していた女性の7 割弱が、仕事を辞めている。(厚生労働省「第 1 回 21 世紀出生児縦断調査」(平成 14 年)) 図表 24 育児休業取得への不安の有無(性別/従業員調査) 図表 25 育児休業取得への不安の有無(経営形態別/従業員調査)

(15)

5 企業業績への影響 (イ) 生産性への影響 育児休業を取得した後の仕事の生産性については、変わらないという従業員が全体の 7 割以上を占めた。時間内に処理する仕事量が増え、生産性が上がったとする者も約4 分の 1 いる。女性の方が、生産性が上がったとする人の割合が高い。 15.1 29.4 24.0 80.0 66.4 71.6 4.9 4.2 4.5 0 20 40 60 80 100 % 全体 男性 女性 上がった 下がった 変わらない 18.6 27.7 28.3 35.3 78.1 65.0 71.7 64.7 3.4 7.3 0 20 40 60 80 100 % 中間管理職 役員 ホワイトカラー ブルーカラー 上がった 変わらない 下がった 図表 26 育児休業取得後の仕事の生産性の向上(性別/従業員調査) 図表 27 育児休業取得後の仕事の生産性の向上(役職別/従業員調査)

(16)

(ロ) 仕事と家庭の両立に対する評価 仕事と家庭の両立を図ることは企業の業績に対してプラスであると考える企業が、「非常 にそう思う」、「そう思う」を合わせて9 割近くと圧倒的に多い。 46.0 41.5 7.9 2.6 2.0 0 20 40 60 80 100 % 非常にそう思う そう思う どちらともいえない そう思わない けっしてそう思わない (ハ) 企業業績との関係 この数年の企業業績の状況との関係をみると、育児休業に肯定的な企業と否定的な企業 の間では業績に統計的に有意な差はみられなかった。 図表 28 「仕事と家庭の両立を図ることは企業の業績に対してプラスである」 と考える企業の割合 育児休業に肯定的(275社) 業績悪 化 14% 業績悪 化なし 86% 育児休業に否定的(46社) 業績悪 化 17% 業績悪 化なし 83% 図表 29 育児休業に肯定的な企業と否定的な企業の業績変化(企業等調査) (注)「育児休業取得に肯定的な企業」とは、「育児休業を取得しても昇進・昇格等での差はない」 という問に対し、「非常にそう思う」又は「そう思う」と回答した企業を指す。

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6 我が国への含意 (1) 育児休業を取得しやすい環境づくり (イ) 代替要員の確保による休業しやすい職場づくり • 育児休業中の従業員の業務は、臨時契約社員を雇用し、研修、引き継ぎ等を十分行うことに よって対応できる。スウェーデンで育児休業について肯定的な考え方をもつ従業員が多いの は、それによって職場の他の従業員の負担が増えないようにしていることも一因。 • このため、育児休業代替要員確保等助成金の拡大、活用促進も一案。 • また、我が国の時間外賃金の割増率が低いことや、いわゆるサービス残業の存在が、企業に 代替要員確保よりも現員の残業増による対応を選好させ、結果として育児休業を取得しにく い職場環境をもたらしていないか更に検証する必要。 (ロ) 育児休業中の従業員に対する対応 • 育児休業中の従業員に対しては人事評価を行わず、また、復帰後に成果によってはキャッ チアップできる機会を与えるようにするなど、人事評価上の対応も必要。 • また、育児休業中の従業員が電子メールや社内イントラネットへのアクセス等を通じて仕事に 関する情報を入手できるようにするなどの措置により、従業員が不安なく育児休業を取得でき る。 (ハ) 職場復帰後の育児と仕事の両立の見通しのたちやすさ • 勤務時間短縮制度やフレックスタイム、テレワーク等、育児と仕事の両立がしやすい環境が 整っており、育児休業後の働き方について見通しが立てやすくなっていることも、育児休業取 得を促進する上で重要。 • 男女ともに長時間労働を是正することも必要。 (2) 「よく働き、よく休む」休みやすい職場づくり • スウェーデンでは、育児休業取得日数が多いだけでなく、有給休暇の取得率も高い。 • 育児休業取得を促進するためには、人事管理、仕事の進め方、組織のあり方等全般につい て見直し、育児休業に限らず休暇をとりやすい職場にすることが本筋。これにより、「よく働き、 よく休む」適切なワーク・ライフ・バランスを実現すべき。

(18)

0 10000 20000 30000 40000 50000 60000 フランス ドイツ 米国 イギリス 日本 スウェーデン 労 働 費 用   ( U S ド ル ) 55,513ドル  9.4% 15,071ドル 28.2% 5,237ドル 9.8% 28,111ドル 52.6% 6,892ドル 16.2% 7,360ドル 17.3% 7,360ドル 17.3% 20,931ドル 49.2% 1,825ドル 5.2% 3,896ドル 11.1% 3,616ドル 10.3% 25,766ドル 73.4% 6,264ドル 18.1% 8,513ドル 24.6% 1,834ドル 5.3% 17,995ドル 52.0% 5,243ドル 14.5% 3,254ドル 9.0% 2,820ドル 7.8% 24,841ドル 68.7% 5,791ドル 15.4% 2,670ドル 7.1% 2,670ドル 7.1% 26,475ドル 70.4% 53,443ドル 42,543ドル 35,103ドル 34,606ドル 36,159ドル 37,606ドル 手取り賃金 従業員 負担 雇用者 負担 所得税 スウェーデン(%) (参考) 日本(%) 老齢年金 遺族年金 健康保険 労災保険 両親保険 失業その他の労働市場対策費用 給与比例分 10.21 1.70 11.08 0.68 2.20 3.70 3.25 厚生年金 健康保険 介護保険 雇用保険 6.967 4.1 6.25 1.15 合計 32.82 合計(労災保険 を除く注) 18.467 (参考図表1)スウェーデン企業の法定負担比率(支払い給与に対する比率) (参考図表 2)各国の労働費用の内訳(2004 年)

(出所)OECD “Taxing Wsges 2003-2004” より作成

1 スウェーデン企業の雇用者に係る社会保険料等の使用者負担(両親保険、年金、健康 保険等)は、日本に比べ大きい。

2 ただし、スウェーデンでは、雇用者の手取り賃金の水準が低いので、労働費用全体で みると、日本とほぼ同じ水準である。

(参考) スウェーデン企業の負担と競争力

(資料)スウェーデン:『Labor cost in Sweden』(スウェーデン企業連盟資料を基に、スウェーデン大使 館投資部が作成)、日本:厚生労働省、社会保険庁のホームページを基に作成

(19)

27.98 28.00 0 10 20 30 40 50 日本 スウェーデン (%) 地方政府 中央政府 11.56 順位 国名 国際競争力 11 台湾 78.3 1 米国 100 12 アイルランド 77.8 2 香港 93.1 13 オランダ 77.4 3 シンガポール 90.0 14 スウェーデン 76.3 4 アイスランド 85.3 15 ノルウェー 76.2 5 カナダ 82.6 16 ニュージーランド 75.5 6 フィンランド 82.6 17 オーストリア 74.3 7 デンマーク 82.5 18 ドイツ 74.1 8 スイス 82.5 19 チリ 72.2 9 オーストラリア 82.0 20 中国 69.7 10 ルクセンブルグ 80.3 21 日本 68.7 (参考図表 3)スウェーデン企業および日本企業の法人税の実効税率

(資料)日本;財務省「国際比較に関する資料」、スウェーデン:OECD Tax Database より作成。 (注)スウェーデンでは、地方政府による法人課税はない。 (参考図表 4)国際競争力の比較 (資料)IMD(経営開発国際研究所)の国際競争力ランキング 2005 年版 (注)米国を 100 とした指標 3 また、スウェーデンの法人税負担は日本よりも低い。 4 このため、スウェーデンは、国際的にみても比較的高い競争力を維持している。

(20)

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 フ ラ ン ス ア メ リ カ イ ギ リ ス ド イ ツ ス ウ ェ ー デ ン 日 本 (%) 1990-95年 1995-2001年 全体 (括弧内は企業によるR&D) スウェーデン 4.2 (3.0) フィンランド 3.4 (2.4) 日本 3.1 (2.2) アイルランド 3.0 (1.5) 韓国 2.9 (2.1) (参考図表 5)R&Dへの投資水準(対GDP比) (単位:%)

(資料)OECD Economic Surveys Sweden、2005.

(参考図表 6)各国のTFP(全要素生産性)上昇率

(出典)OECD Productivity database (2004 年) (注)1990-95 年のドイツのデータは存在しない。 5 特に、スウェーデン企業の研究開発投資(R&D)の水準は高く、高度な技術をもつ高 付加価値企業が成長している。 6 スウェーデンの全要素生産性上昇率をみると、1990 年代後半に伸びが高まっている。 これは、1990 年代初頭のバブル崩壊、金融危機による景気低迷の後、1990 年代後半から ICT(情報通信技術)を軸とした経済活性化に成功したことが背景にある。

(21)

合計特殊出生率の推移

1.0

1.2

1.4

1.6

1.8

2.0

2.2

2.4

2.6

2.8

3.0

1.29

(日)

1.89

(仏)

1.71

(ス)

日本

スウェーデン

フランス

合計特殊出生率

<「スウェーデン企業におけるワーク・ライフ・バランス調査」背景説明資料>

平成17年7月20日 内閣府経済社会総合研究所

(22)

女性労働力率の高い国の方が

出生率が高い傾向がある

合計特殊出生率と女性労働力率

データ出所:OECD

1.00 1.20 1.40 1.60 1.80 2.00 2.20 40.0 45.0 50.0 55.0 60.0 65.0 70.0 75.0 80.0 85.0 女性労働力率(%) 合計特殊出生率 フランス スウェーデン ドイツ 日本 韓国 イタリア アメリカ イギリス カナダ デンマーク フィンランド ギリシャ アイスランド アイルランド ルクセンブルグ オランダ ニュージーランド ノルウェー ポルトガル スペイン スイス オーストラリア オーストリア ベルギー

(23)

年齢別女性労働力率

年齢別女性労働力率:スウェーデン、フランス、日本

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

20-24 25-29 30-34 35-39 40-44 45-49 50-54 55-59 60-64

65-フランス 日本 スウェーデン

(%)

(歳)

(24)

スウェーデンでは、出産した

7割以上の

女性が

1年以上の育児休業を取得

女性の育児休業取得日数:スウェーデン 12.9% 28.5% 5.2% 3.3% 2.9% 3.8% 43.5% 出所:内閣府経済社会総合研究所編「スウェーデン家庭生活調査」 注:1990年(回答者22-31歳)∼2003年(回答者35-44歳)の14年間に子供を産んだ延べ697人の取得日数の分布 0日 65日以下(65日は休日を入れると、ほぼ3ヶ月) 130日以下(130日は休日を入れると、ほぼ半年) 195日以下(195日は休日を入れると、ほぼ9ヶ月) 260日以下(260日は休日を入れると、ほぼ1年) 320日以下(320日は休日を入れると、ほぼ15ヶ月) 321日以上

(25)

スウェーデンの男性の育児休業取得状況

男性の休業取得日数:スウェーデン 11.3% 23.1% 28.1% 20.4% 17.0% 出所:内閣府経済社会総合研究所編「スウェーデン家庭生活調査」 注:1990年(回答者22-31歳)∼2003年(回答者35-44歳)の14年間に妻が子どもを産んだ延べ705人の休業取得日数の分布 0日 10日以下(10日は休日を入れると、2週間) 30日以下(30日は休日を入れると、6週間) 60日(60日は休日を入れると、11週間程度) 61日以上

(26)

スウェーデンの女性は、出産期に非労働力化せず

休業する女性が多い

(出所)総務省「労働力調査」、スウェーデン

SCB ”Labour Force Survey”(いずれも2003年)

60.1

57.0

4.5

4.5

33.4

18.4

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 日本 スウェーデン

従業者

休業者

失業者

非労働力

人口

20.1

1.9

労働力人口

25-34歳女性の就業状況

(27)

スウェーデン企業における

ワーク・ライフ・バランス調査

平成 17 年 7 月

内閣府経済社会総合研究所編

(28)

目 次

序章 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 第 1 章 日本と欧米諸国の少子化対策と出生率の概況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 第 2 章 スウェーデン概況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10 第 1 節 スウェーデンの政治経済一般事情・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10 第 2 節 スウェーデン人口の長期的推移と政策的対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14 第 3 節 スウェーデンの就業構造の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18 第 4 節 スウェーデンの育児支援制度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21 第 5 節 スウェーデンの労働・ 職場環境・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29 第 6 節 スウェーデンと日本の国民負担の比較・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34 第 7 節 企業の負担と競争力・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40 第 8 節 スウェーデンの家庭と結婚観・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 50 第 9 節 スウェーデンの家計と税負担・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 61 第 10 節 少子化と移民・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 71 第 3 章 スウェーデン企業の従業員の育児休業への対応 ―「スウェーデン企業におけるワーク・ ライフ・ バランス調査」から― ・・・・・・・・・・・・ 76 第 1 節 調査の目的・ 方法・ 時期・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 76 第 2 節 対象者の基本属性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 78 第 3 節 育児休業の取得状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 88 第 4 節 育児休業取得に対する職場の雰囲気・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 100 第 5 節 育児休業取得中の職場の対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 108 第 6 節 育児休業取得者に対する人事評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 112 第 7 節 育児休業取得後の職場復帰・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 114 第 8 節 生産性と企業業績への効果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 120 第 9 節 その他の諸制度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 123 第 10 節 従業員の意識からみた実態分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 129 第 4 章 計量分析 ―「スウェーデン企業におけるワーク・ ライフ・ バランス調査」から― ・・・・・・・・・・・ 132 終章 スウェーデンの取り組みが日本企業・ 政府に与える示唆 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 143 調査票 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 148

(29)

序章

1.問題意識 近年、少子化対策の一つの柱として、ワーク・ライフ・バランス(仕事と家庭生活の調和1)の重要 性が指摘されている。日本では、ワーク・ライフ・バランスは企業の高負担と伴うものであるという 認識が見られるが、出生率が回復しているスウェーデンをはじめとする欧米諸国の企業等の取り組み をみると、生産性の向上を図るために、また人材確保の観点から、積極的にワーク・ライフ・バラン スに取り組んでいる事例を見かける。 昨年の内閣府経済社会総合研究所編「スウェーデン家庭生活調査」において、スウェーデンでは、 育児休業中の収入補填は休業直前の給料の 8 割と、日本が 4 割であることと比較しても非常に高く、 育児休業取得日数も女性の大多数が 1 年以上に及び、男性でも 0 日という人は 1 割に過ぎないことが 分かった。一方、日本の民間企業で働く女性の育児休業取得率は、女性 73.1%、男性 0.44%。(厚生労 働省「平成 15 年度女性雇用管理基本調査」)とスウェーデンと比較して低い。また帰宅時間もスウェ ーデンでは、男女共に多くが午後 6 時までに帰宅していた。昨年の調査から、上記をはじめとする様々 な結果が得られたことから、本年は以下の問題意識に基づき、スウェーデンの企業・従業員を対象に 新たな調査を行なうこととした。 (イ) 日本と比較して高い保障、長い休業、早い帰宅時間でありながら、経済が順調に推移しているの はなぜか。従業員が休業を取得することにより、企業の業務や業績に大きな支障はないのか。支 障がないのならば、それはなぜか。 (ロ) 育児休業取得率が高い背景には何があるのか。人々の育児休業取得に対する意識が肯定的である からか。それとも、例えばテレワークの普及等、育児休業中の従業員をサポートする制度や、育 児休業取得後の職場復帰を円滑に行う雇用環境が整っているためか。 (ハ) 育児休業の取得によりにできた空席を職場でどのようにカバーしているのか。育児休業取得者の 割合が高いほど、従業員の稼働率(実際に従業している者の割合)は下がってしまうと考えられ るが、企業はどのように対処しているのか。 (ニ) 育児休業を取得しているのは、公務員や特定の職種に偏っているといったことはないか。また、 昇進の妨げになるという考えから、役員は取得していないということはないか。 1 仕事と家庭生活との調査のみならず、仕事と、地域社会における活動、ボランティア活動、自己啓発・学習、能力開

(30)

(図表 0-1)日本と欧州諸国における出生率の動向

1.0

1.2

1.4

1.6

1.8

2.0

2.2

1980

85

90

95

2000

(年)

(人)

アメリカ

フランス

スウェーデン

フィンランド

イギリス

ドイツ

日本

イタリア

ノルウェー

(図表 0-2)日本と欧州諸国における労働生産性の上昇率 1990−2002 年

2.9

2.6

2.2 2.1 2

1.7 1.6 1.5

0.7

0

1

2

3

4

フィ

ラン

ノル

ェー

ェーデ

フランスイ

リス

ドイ

日本

デン

イタリ

(%)

(資料)OECD‶ GDP per hour worked, productivity database″に基づき、富士通総研が作成。 (資料)Council of Europe,Recent demographic developments inEurope,2003、OECD 資料を基に、

(31)

2.研究の目的 以上の問題意識に基づき、本調査では、次の 3 点を目的とする。 (イ) スウェーデンでは家族政策に関連する制度の活用が公務員といった特定の業種や、 単純作業を行う労働者に限られていないか分析する。 (ロ) スウェーデン企業では家族政策を充実させる一方、企業としての経営力を落とさな いため、どのような方策が企業内でとられているのか解明する。 (ハ) 育児休業の取得と企業の利益や、経営者の家族政策に関する意識と企業の利益、育 児休業の取りやすさと子どもの数等の相関関係について、計量経済学を用いて分析 する。

(32)

第 1 章 日本と欧米諸国の少子化対策と出生率の概況

1.欧米先進国の福祉国家観と少子化対策 欧米先進国の福祉国家観は、大きく 4 つのグループに整理することができると考えられる。 横軸は社会の基本単位で、家族主義(個人よりも家族を重視。子育ての担い手は女性。)と個人 主義(個人を重視。自立した男女が共に子育てを行う。)に分かれる。縦軸は家族政策(少子化 対策)に積極的か消極的かに分けられる(図表 1-1)。なお、各国をこの4つのグループに厳密 に区分けすることはできない。 図表 1-1 欧米先進国の福祉国家観 社会の基本単位 家族主義 (子育ての担い手は女性) 個人主義 (子育ての担い手は男女) 積 極 的 積極保守的福祉国家観(フランス語圏) 「出生促進型」 (イ) 手 厚 い 児 童 手 当 な ど 家 族 に 寛 大 な所得移転 (ロ) 保 育 サ ー ビ ス を 充 実 さ せ 、 母 親 の就労を支援 普遍的福祉国家観(北欧諸国) 「男女共同参画型」 (イ) 保 育 サ ー ビ ス を 充 実 さ せ 、 母 親 の 就労支援 (ロ) 育 児 休 業 で 父 親 し か 取 得 で き な い 日 ( パ パ ク ォ ー タ ー ) を 設 け る な ど、育児面での男女平等を促進 (ハ) 雇用面での男女平等 少 子 化 対 策 に 積 極 的 か 消 極 的 消極保守的福祉国家観(ドイツ語、南欧圏) 「母親家庭保育型」 保育サービスは少ないので、フルタイ ム就業が困難 不介入型国家観(米国、英国) 「不介入型」 (イ) 政 府 に よ る 家 族 へ の 介 入 を で き る だけ排除 (ロ) 社 会 保 障 給 付 お よ び 民 間 福 祉 サ ー ビスへの補助金は最低限に抑制 ( 資 料 ) 各 種 資 料 に 基 づ き 、 富 士 通 総 研 が 作 成 。 英米は、不介入型国家観と考えられ、国が家族に介入していないにもかかわらず、出生率 は 高い。特に、アメリカは合計特殊出生率が 2.07(2003 年)と先進国の中でも高い1。ここで、 注意が必要なのは、国家が家族に不介入とはいえ、ボランティアや NPO の活動がきわめて発

(33)

達している側面があるため、育児支援が全くないわけではない点である。また、企業が人材確 保のための福利厚生の一環として子育てとの両立支援も行なっていることが多い。 フランスは、家族政策に積極的で、家族主義をとるタイプと考えられる。日本は家族に積 極 的に国家が介入すべきかどうかについてコンセンサスがなく、フランスのように積極的な出生 促進型の政策を打ち出すことが難しい状況にあるとも考えられる。 2.福祉国家観別にみた出生率の推移 この4つの分類を見ると、消極保守的福祉国家観と考えられる国(ドイツ、イタリア)で は 少子化が進んでおり合計特殊出生率(以下、出生率)が低迷しているが、残りの3つの分類に 属する国(アメリカ、フランス、スウェーデン、イギリス)は、出生率は高いか、回復してい る状況にある(図表 1-2)。 図表 1-2 福祉国家観別にみる出生率の状況

( 資 料 )Council of Europe “Recent demographic developments in Europe,2002”等を基に、富士通総研が作 成 。 3.性別役割分業が強い国では、出生率が低い 性別役割分業に対する意識が強い国(「男性は金銭を稼ぐことが仕事で、女性は家と家族の世 話をすることが仕事である」と考える人の割合が高い国)では出生率が低く、性別役割分業に 対する意識が強くない国では出生率が高く、2 つのグループに分かれる傾向が見られる(図表 1-3)。日本はドイツ、イタリアなどと同様に、性別役割分業に対する意識が強い国家グループ 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0 2.2 1980 85 90 95 2000 合 計 特 殊 出 生 率 (年) (人) アメリカ フランス スウェーデン 日本 ドイツ イタリア イギリス

(34)

生率も高い。しかし、女性が社会に進出するようになると、女性が家と家族の世話をするとい う役割を果たしにくくなり、子どもを産みにくい社会になると考えられる。その後、ある時点 を超えると制度的対応がなされ、性別に関係なく働いて子どもを育てることが可能になる場合 もある。その結果、出生率が回復していく可能性もある。 図表1-3 出生率と性別役割分業意識 「 男 性 は 金 銭 を 稼 ぐ こ と が 仕 事 で 、女 性 は 家 と 家 族 を 世 話 す る こ と が 仕 事 で あ る 」と い う 考 え に 、「 強 く 賛 成 」 又 は 「 賛 成 」 と 答 え た 人 の 割 合

( 資 料 )Council of Europe “Recent demographic developments in Europe,2002”、German Social Science Infrastructure Services International Social Survey Programme2002 - "Family and Changing Gender Roles II"2に 基 づ き 、 富 士 通 総 研 が 作 成 。

4.女性の就業率と出生率の関係 女性の就業率と出生率の関係について、OECD 諸国では 1970 年に負の相関が見られ、1985 年にはそれが横ばいになり、2000 年には正の相関に変わった(図表 1-4)。 国別に見ると、ドイツでは女性の就業率が増加するとともに出生率が低下し続けているが 、 フランス、スウェーデン、アメリカでは時期や女性の社会進出の度合いが異なるものの、女性 の就業率が高まるにつれ、一度は出生率が低下したものの、その後回復している傾向が明らか

(35)

である(図表1-5)。 こ れ ら を 踏 ま え て 日 本 の 状 況 を 見 る と 、 日 本 は 他 国 と 異 な る 動 き を 示 し て い る 。 日 本 で は 1960 年から 74 年にかけて、男性就業者に対する女性就業者の割合が低下した。これは、専業 主婦化の進展によるものである。農家の数が減少し、雇用者として働く人が増加したことが専 業主婦化の背景にある。日本の専業主婦化は、戦後ややゆとりができてきた高度経済成長期に 起きた現象であると考えられる。その後、女性の高学歴化、社会進出が著しく進むとともに急 激に出生率が低下しており、その傾向は今日まで継続している。(図表1-6)。 (図表1-4)OECD 諸国における女性の就業率と出生率の関係 −時系列推移−

(資料)Council of E urope “Recent demographic developments in Europe,2002” 等を基に、富士通総研が作 成。 図表1-5 欧米先進国の福祉国家観別にみた「女性の社会進出と出生率」 1.5 2 2.5 3 40% 60% 80% 100% 合 計 特 殊 出 生 率 フランス 女性就業者数/男性就業者数 1956 1975 1993 1.5 2 2.5 40% 60% 80% 100% 合 計 特 殊 出 生 率 女性就業者数/男性就業者数×100 スウェーデン 1983 1991 1963

(36)

1 1.5 2 2.5 40% 50% 60% 70% 80% 90% 合 計 特 殊 出 生 率 女性就業者数/男性就業者数 ドイツ 1956 1994 1.5 2 2.5 3 3.5 40% 60% 80% 100% 合 計 特 殊 出 生 率 女性就業者数/男性就業者数×100 アメリカ 1956 2002 1975 ( 資 料 )WHO、ILO データベースに基づき、富士通総研が作成。 図表 1-6 女性の社会進出と出生率 (日本) ( 資 料 )WHO、ILO データベースに基づき、富士通総研が作成。 このような日本の状況については、別の見方もできる。女性の社会進出は対男性比でみると、 現状で 70%という割合である。他の国がこの割合に到達した時点をみると、フランス、アメリ カ、スウェーデン、ノルウェーでは、いずれも女性就業者数が対男性比 70%に達した時点では まだ出生率の低下が進んでいる(図表 1-7)。したがって、今後日本も、他の国のように制度的 対応がなされると、出生率が回復をする可能性もあると考えられる。日本は現在、今後回復を するか否かの分岐点にあると思われる。 1.0 1.5 2.0 2.5 40% 60% 80% 100% 合 計 特 殊 出 生 率 女性就業者数/男性就業者数×100 1974年 1960年 2003年  0 専業主婦化 女性の社会進出

(37)

図表 1-7 女性の社会進出と出生率 (各国比較) 1 1.5 2 2.5 3 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 日本 合 計 特 殊 出 生 率 女性就業者数/男性就業者数×100 スウェーデン ドイツ アメリカ フランス 1956 1991 1983 2002 1956 1960 2004 2002 2002 ( 資 料 )WHO、ILO データベースに基づき、富士通総研が作成。

(38)

第 2 章 スウェーデン概況

第 2 章第 1 節 スウェーデンの政治経済一般事情

スウェーデン王国(以下、スウェーデン)は面積約 45 万 km2(日本の約 1.2 倍)、人口約 894 万人(日本の約7%)の北欧に位置する国である。1 人種は北方ゲルマン民族、言語は スウェーデン語で、宗教は福音ルーテル教である。通貨はクローナで、2005 年 2 月末時点 で 1 クローナ 15.71 円である。主要産業は機械工業(自動車を含む)、化学工業、林業、そ して IT 関連産業で、ボルボ(自動車)やエリクソン(通信機器)など国際的な大企業も存 在する。人口 900 万人弱の小国スウェーデンの経済・社会情勢は、これまで多くの人々の 関心を集めてきた。 スウェーデンは第 2 次世界大戦後、1950 年から 1970 年の間の実質 GDP 成長率年平均が 4%と、比較的高い経済成長を遂げた。スウェーデンの高経済成長率を説明する要因として は、一般的に、開かれた自由な経済であったこと、人的資源やインフラストラクチャーへ の投資が大きかったことなどが挙げられている。 スウェーデンでは、1960 年代中頃から 1970 代前半以降、「スウェーデン・モデル」とも 呼ばれる大規模な社会・雇用政策がとられるようになった。この時期に、「ゆりかごから墓 場まで(cradle to grave)」といわれる手厚い福祉政策や、「同一労働同一賃金(equal pay for equal work)」から「全労働同一賃金(equal pay for all work)」へと後に移行する賃金格差解 消政策などが打ち出され、政府支出、租税が劇的に増加し、規制も強化された。これら政 策を支える公共部門の規模は、2003 年時点で、中央・地方政府合わせて約 132 万 9 千人、 就業人口の 29.9%に達している。2 一方、経済成長は 1970 年以降低迷し、OECD 内における経済的地位も低下していった。 OECD(25 カ国)における一人あたり GDP(名目)のスウェーデンの順位は 1970 年に 4 位 だったのに対し、1990 年には 9 位、そして 1995 年には 16 位に低下した。3 このような経 済停滞と大規模社会政策との関係については多くの議論があるが、例えば、Lindbeck (1997) は、経済停滞の原因は高福祉政策だけでなく、高齢化、技術変化、経済のグローバル化な ど様々な要因が重なった結果であると指摘している。 スウェーデン経済は、1990 年代初頭のバブル崩壊後、金融危機により実質 GDP 成長率 1 以下、データ等については外務省ホームページ「各国・地域情報」および Lindbeck (1997)を参照した。 2 Statistical Year Book of Sweden 2005 による。

(39)

が1991 年から 3 年連続のマイナス成長を記録するなど深刻な経済危機を経て、それを契機 とした構造改革もあり、90 年代半ば以降には回復軌道に戻った。2000 年から 2001 年にか け、主な輸出先である欧州大陸諸国等の景気低迷によって輸出が減少し、経済成長率は 4.4% から 1.2%と大きく落ち込んだが、その後は個人消費や設備投資など内需に支えられる形で 回復し、以降、比較的安定的に推移している。2002 年の実質 GDP 成長率は 2.0%、2003 年 は 1.7%、2004 年は EU 諸国でも景気回復が見られ始めたことから 3.3%となった(図 1)。 一人あたり GDP(名目)は 2003 年時点で OECD(30 カ国)中 9 位である。4 図 1a 実質 GDP 成長率(北欧 4 カ国) 図 1b 実質 GDP 成長率(EU、米国、日本、スウェーデン)

データ:OECD Economic Outlook No.76

-8 -6 -4 -2 0 2 4 6 8 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 Japan United States Euro area Sweden (%)

データ:OECD Economic Outlook No.76

-8 -6 -4 -2 0 2 4 6 8 1991 1992 199 3 1994 1995 199 6 1997 1998 199 9 2000 2001 2002 200 3 2004 Denmark Finland Norway Sweden (%)

(40)

また、スウェーデンは 1990 年代前半に他の先進諸国と比べて非常に高い物価上昇率を経 験したが、欧州通貨危機を契機に 1993 年に金融政策の枠組を変え、インフレ・ターゲティ ングを導入したこともあり、その後低下し、2002 年 2.2%、2003 年 1.9%、そして 2004 年 0.4% と比較的安定的に推移している(図 2)。 図 2a 消費者物価指数伸び率(北欧 4 カ国) 図 2b 消費者物価指数伸び率(EU、米国、日本、スウェーデン) 失業率は 1993 年以降低下傾向にあったが、2002 年以降上昇に転じ、2002 年 4.0%、2003 年 4.9%、そして 2004 年 5.6%となった。しかし、2000 年以降 8%台で推移している EU 全体 の失業率に比べれば低水準である(図 3)。

データ:OECD Economic Outlook No.76

-2 0 2 4 6 8 10 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 Denmark Finland Norway Sweden (%)

データ:OECD Economic Outlook No.76

-2 0 2 4 6 8 10 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 Japan United States Euro area Sweden (%)

(41)

図 3a 失業率(北欧 4 カ国) 図 3b 失業率(EU、米国、日本、スウェーデン) 以上のような好調な経済を背景に、2002 年、政権与党であった社会民主労働党が総選挙 に勝利し、高福祉政策が維持されることとなった。なお、スウェーデンでは 1932 年以降、 1976∼82 年、1991∼94 年を除き、高福祉政策を掲げる社会民主労働党が政権与党である。 参考文献

Lindbeck, Assar (1997) “The Swedish Experiment.” Journal of Economic Literature, Vol. 35, pp. 1273-1319.

データ:OECD Economic Outlook No.76

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 Denmark Finland Norway Sweden (%)

データ:OECD Economic Outlook No.76

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 199 1 1992 1993 199 4 199 5 1996 1997 199 8 1999 2000 200 1 200 2 2003 2004 Japan United States Euro area Sweden (%)

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第 2 章第 2 節 スウェーデン人口の長期的推移と政策的対応

スウェーデンの人口は1870年には約417万人であった。当時、貧しい農業国であったスウ ェーデンではその後経済危機と食料不足により、19世紀後半から20世紀初頭にかけて約100 万人が移民としてアメリカに渡った(詳しくは、第2章10節を参照)。一方、19世紀末か ら急速な工業化が進展し1、人口は500万人を超えた(図表2-2-1)。 図表2-2-1 スウェーデン人口の時系列推移 (資料)スウェーデン統計局(http://www.scb.se/templates/Product_25799.asp)より作成。 スウェーデンの合計特殊出生率の状況を見ると、今世紀の初めは4.0を超えていたが、そ の後急速に下がり、1928年に2.07となった。1930年代の世界大恐慌と大量失業の後、出生 率はさらに大きく低下し、1930年代半ばには1.70まで下がった。このような状況の下で、 1935年には政府に人口問題審議会がつくられるなど、人口政策が論議されるようになった。 その結果、1939年には12週間の出産休暇制度が導入された。人口問題審議会は1947年にす べての児童を対象とした児童手当の支給を答申し、翌48年には児童手当法が施行された。 それ以来、スウェーデンでは「人口問題の解決は政府に責任がある」という考えが主流 となるとともに、子どもがいる家族向けの社会的な手当は常に優先事項として扱われて 1 人口転換理論によると、「工業化が始まる前の伝統的農業社会では、飢饉、疫病、戦争等のために死亡 率が高い状態にある。その一方で、農業が主体である社会であるために、労働力確保の観点から高い出生 率が維持されている。このほかに、宗教や社会制度などによって高出生率が維持されることもある。その 結果、近代化前の社会では死亡率と出生率が高く(多産多死)、大きな変動を保ちつつ、平均的には人口 増加率は低い状態にある。 次に、工業化・都市化が進むと、人口増加の状況は変化する。所得水準の上昇、医学や公衆衛生の発達 により、乳児死亡率などが低下することで、社会全体の死亡率が低下する。しかし、出生率は依然として 高水準にある。その結果、高い出生率と低い死亡率の社会(多産少死)が実現し、人口は増加する。」(内

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きた2 その後、合計特殊出生率は回復に向かい、1960年代にはベビーブームが到来し、1969年 には1.93まで上昇した。しかしながら、その後再び合計特殊出生率は低下し始め、1978年 には1.60まで低下した。このため、1970年代には再び家族政策が議論された。 1970年代以降、「経済的に負担が最も重いのは子供を扶養している家庭である」という 考えの下で、子どもを持つ家庭と持たない家庭の負担を等しくするための社会政策の一部 分として、家族政策は大幅に拡充された。1970年代末に行なわれた家族・育児に対する諸 制度の整備と、良好な経済状況により、スウェーデンの合計特殊出生率は1980年代の初め に急速に上昇し、1990年には2.13となった。 しかし1990年代に入ると、スウェーデンの景気が悪化した。失業率は他のヨーロッパ諸 国並の約10%まで高まり、失業は1990年代の半ばには、深刻な社会問題となった3女性の 雇用の多い公共部門も財政難から不況の打撃を受けた4 経済問題と失業問題は、特に若い世代に深刻な打撃を与え、出生率も下がった。スウェ ーデン統計局のBritta Hoem は、スウェーデンでの出生率と経済変動の関連性を調査し、 出生が労働市場の状況に大きく関連しているという結論を出した。その理由として、Hoem はスウェーデンの家族政策、特に両親保険給付が両親の収入をベースに換算されるため、 労働市場の変化による収入の増減が直接的に出生率に影響を及ぼすとしている。つまり、 経済状況が両親、特に母親に大きな影響を与えていると指摘している5 1990年代後半には財政再建のため、家族政策における様々な給付が削減されることにな った。両親が育児休業を取得する場合には、休業直前の所得の9割が両親保険で補償され ていたが、1995年には一時期75%に削減された。児童手当も削減され、第3子以降の増額分 は減額され、1996年には増額分は一時期廃止された。両親が学校での参観日、行事に参加 するために年に数日認められていた「ふれあいの日」も1996年には廃止された。先述の Britta Hoemは、「児童手当は、削減後も国際水準より比較的高額だったものの、子どもを 持っている家族は生活水準が落ちるのを実感していた」と述べている6。同論文によると、 1990年代に第3子、第4子を産む率は、80年代の水準の3分の1まで下がった。同時に第1子 を産む時期を遅らせる女性も増加した。経済問題や失業により所得が伸び悩む局面では、 多くの女性が第1子をもうける時期を遅らせ、第2子、第3子も産まないようにする人が増え

2 Columbia University(2003)The clearinghouse on international developments in child, youth and family policies, http://www.childpolicyintl.org/countries/sweden.html#intro

3 1990 年から 1993 年の間、失業率は 2%から 8%へと、4 倍に上昇した。これは 1930 年以来、最高とな る高い失業率であった。

4 Palme J. (2002), The Welfare Commission Report,

http://www.sweden.gov.se/content/1/c6/01/74/80/9b69f34c.pdf

5 Hoem B. (2000), Vol.2, “Entry into motherhood in Sweden: the influence of economic factors on the

rise and fall in fertility 1986-1997”. Demographic Research,

http://www.demographic-research.org/volumes/vol2/4/2-4.pdf

6 Hoem B. (2000), Vol.2, “Entry into motherhood in Sweden: the influence of economic factors on the

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たことになる。その後、経済状況の好転とともに、家族・育児に対する諸制度も再び整備 され、出生率は急速に回復基調にあり、2004年は1.76となる見込みである。スウェーデン 統計局では、2004年以降も合計特殊出生率は緩やかに回復を続け、2019年に1.85となった 後、2050年までその水準を維持すると予測している(図表2-2-2)。 図表2-2-2 合計特殊出生率 (注)将来予測の部分は、スウェーデン統計局(http://www.ssd.scb.se)のデータベースに基づく。 (資料)スウェーデン統計局 1990年代から2000年代初頭にかけて、わずか10数年間の間に起こった出生率の大幅な減 少、そしてその後の回復は、スウェーデン研究者に「経済状況や子どもを持つ親に対する 政府からの手当が出生率の変動に大きな影響を与える」という知見を与えた。例えば、こ の時期に30歳以下の女性で初めて出生率は急激に低下した理由について、Britta Hoem7は、 国民は今後の経済情勢が厳しくなることを予測すれば、若者は厳しい経済状況の下では子 どもを持つことを懸念するため、就職が有利になるよう、子育てよりも学業を選んだ結果 であると考えている8 また、ストックホルム大学のEva Bernhardt教授は、労働市場の厳しさが若者の出生率に 大きく影響しているのではないかと考えている。スウェーデンでは、出産前に母親が収入 を得ていない場合は、最低限の両親手当を受けることが保障されている。しかしながら、 最低保証額は1日あたり180クローネ(約2,700円))に過ぎない(詳しくは、第2章4節を参

7 Hoem B.(2000), Vol.2, “Entry into motherhood in Sweden: the influence of economic factors on the

rise and fall in fertility 1986-1997”. Demographic Research,

http://www.demographic-research.org/volumes/vol2/4/2-4.pdf

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照)。Bernhardtは、このため失業中である場合や、高等教育を受けていない場合等には、 若者は子どもを持つことに抵抗を感じ、2000年以降晩産化が進行している、と指摘してい る9 Britta Hoemは、2000年以降の好景気を背景にスウェーデン政府は年々、両親手当の基準 となる金額を引き上げるなど育児支援の面で寛大な社会保障政策を採っているために、出 生率が再び上昇したと指摘している10。ただし、ストックホルム大学のLiva Sz. Oláhは、 現在のスウェーデン経済は順調に推移しているが、これから先の経済情勢を懸念する声も 少なくなく、今後の経済情勢や両親保険をはじめとする家族政策の動向が直接的、間接的 に出生率を影響する可能性があると指摘している11 参考文献 経済企画庁(1992)『平成4年版 国民生活白書』

Bernhardt,E. (2000) “Sweden – Low fertility”, Gateway to the European Union, European Observatory on Family Matters, (2000),

http://europa.eu.int/comm/employment_social/eoss/downloads/sweden_2000_fertil_en.p df

Hoem, B. (2000). "Entry into Motherhood in Sweden: The Influence of Economic Factors on the Rise and Fall in Fertility, 1986-1997." Paper presented at the Conference on Lowest Low Fertility. Rostock, Germany: Max Planck Institute for Demographic Research.

http://www.demographic-research.org/volumes/vol2/4/2-4.pdf

Hoem B. and Bernhardt, E., (2000)

,

Välfärdsbulletinen, Number 1, ,

“Barn?

Ja kanske” ”(Children? Yes, maybe)”

,

Statistics Sweden

,

http://www.scb.se/Grupp/allmant/_dokument/A05ST0001_08.pdf

Palme J. (2002), The Welfare Commission Report,

http://www.sweden.gov.se/content/1/c6/01/74/80/9b69f34c.pdf

コロンビア大学(2003)The clearinghouse on international developments in child, youth and family policies, http://www.childpolicyintl.org/countries/sweden.html#intro

9 Bernhardt,E. (2000) “Sweden – Low fertility”, Gateway to the European Union, European Observatory on Family Matters, (2000),

http://europa.eu.int/comm/employment_social/eoss/downloads/sweden_2000_fertil_en.pdf

10 Hoem Britta, (2000), Vol.2, “Entry into motherhood in Sweden: the influence of economic factors

on the rise and fall in fertility 1986-1997”. Demographic Research, <http://www.demographic-research.org/volumes/vol2/4/2-4.pdf>

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第 2 章第 3 節 スウェーデンの就業構造の変化

1965 年から 2004 年 の 30 年間に おけ る就 業 人口 の 推移 をみ る と、民間 部 門は 30 万 人減 少 し た 一 方 で 、 公 共 部 門 は 70 万 人増 加 した 。そ れ ぞれ の全 就 業人 口に 占 める 割 合をみる と 、公 共 部 門 は15% から 32% へ と大 き く上 昇し た (図 表 2-3-1)。同 じ 時期 に労 働 力率は、 男 性 は90% から 79.7% へ低 下 し、 女性 は 55% から 75.7% へ と上 昇し た1 図 表 2-3-1 スウ ェ ーデ ンに お ける 就 業構 造の 変 化 ( 各 部 門 の 就 業 者 の 全 就 業 者 に 占 め る 割 合 ) ( 注 ) 国 有 企 業 は 、「 公 共 部 門 」 の 中 に 含 ま な い 。「 製 造 業 等 」 は 、 鉱 業 、 製 造 業 の ほ か 、 電 力 、 ガ ス 事 業 、 地 域 暖 房 、 水 道 事 業 等 を 含 む 。「 民 間 サ ー ビ ス 業 等 」 と は 、 建 設 業 、 商 業 、 宿 泊 業 、 飲 食 業 、 輸 送 、 通 信 、 郵 便 、 金 融 等 を い う 。

( 資 料 )Swedish Institute (1994 & 2001)‘Swedish Labor Market Policy’

県 ・ 市 町 村 に お け る 公 務 員 の 部 門 別 比 率 に 関 し て は 、 医 療 ・ 介 護 、 児 童 福 祉 、 教 育 が 全 体 の 73% を 占め て おり 、そ の 8割 が女 性 であ る( 図 表 2-3-2)。

1 ス ウ ェ ー デ ン 統 計 局 ( 2005) Labour Force, by sex 2000-2004

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図 表2-3-2 県 ・市 町 村に おけ る 公務 員の 部 門別 比 率( 1998 年) 行政 9.3% 教育 22.7% 児童福祉 18.6% 技術サー ビス 15.5% 医療・介 護 34.0%

( 資 料 ) ス ウ ェ ー デ ン 統 計 局‘Labour Force Survey 2003’

雇 用 政 策 で は 、 衰 退 産 業 か ら 生 じ る 離 職 者 を 訓 練 し 、 成 長 産 業 に シ フ ト さ せ る こ と を 重 視 し て お り 、職 業 訓 練 の 質 も 高 く 、訓 練 期 間 、失 業 給 付 期 間 も 長 い 。こ の 背 景 に は 、1990 年 代 に 急 激 に 高 ま っ た 若 年 失 業 率 の 問 題 が あ る 。ス ウ ェ ー デ ン で は 、16∼24 歳 の 若年 層失 業 率 は 、1990 年に は 4.5%で あ った が、 93 年に は 22.7%に ま で達 し た。 その 後 、若 年者 に 対 す る「 積 極 的 労 働 市 場 政 策2」が 講 じ ら れ た こ と に よ り 若 年 失 業 率 は 低 下 傾 向 に あ る も の の 、 日 本 よ り も 高 い 水 準 に あ る ( 図 表 2-3-3)。 な お 、「 積 極 的 労 働 市 場 政 策 」 に 係 る 費 用 は 、 社 会 保 障 給 付 費 の 1.96% を 占め てい る (日 本は 0.25%)。 図 表2-3-3 若 年失 業 率の 推 移 0 5 10 15 20 25 1990 1995 2000 (%) (年) スウェーデン 日本 ( 注 ) ス ウ ェ ー デ ン は 16∼ 24 歳 、 ド イ ツ 、 日 本 は 15∼ 24 歳 が 対 象 。 ( 資 料 ) OECD「 Labour Force Statistics 1982-2002」 か ら 作 成 。

2 職 業 訓 練 な ど 、労 働 者 の 能 力 向 上 に 比 重 を 置 い た 労 働 市 場 政 策 。こ れ に 対 し 、「 消 極 的 労 働 市 場 政 策 」

参照

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