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1.労働環境   

(1)雇用契約   

 通常スウェーデンの雇用契約では、「任期付きの契約」は雇用者が一時的に臨時労働 者を雇う必要が生じた場合等特定の場合しか認められていない1。また雇用者は、仕事 が減り、労働者を解雇する必要性が生じた場合、法律に従って解雇することが定められ ている。まず解雇されるのは、その担当部署で最も最近雇われた者である。もし、組織 内に同じような職種分野に欠員があれば、解雇の対象となっている労働者には異動する 権利がある。また、仕事の不足が原因で解雇された労働者は、通常、企業が受注する仕 事の量が回復した場合、再雇用の優先権を与えられる。 

 雇用者と労働者間における軋轢(労働者が病気休暇の権利を濫用していると雇用者が みなしている場合など)を理由とした解雇の場合、雇用者には労働者に警告をする、異 動させる等、問題解決への積極的な姿勢が要求されている。雇用者が即時に労働者の契 約を終了できるのは、労働者が職務や指示を著しく怠った場合のみである。 

 

(2)賃金設定   

スウェーデンの法律は、一律に法律で最低賃金を規定していない2。これは、労働組 合や雇用者団体が職種別に最低賃金を規定しているためである。雇用者と労働組合等と の交渉では、労働組合等は常勤労働者に対して最低賃金を通常 月額13,000クローネ(約 19万5,000円)に設定しており、大多数の団体労働協約には最低賃金に関する規定が盛 り込まれている。ちなみに、スウェーデンの平均的な月額賃金は(2002年)男性が19,150 クローネ(約28万7,250円)、女性が17,410クローネ(約26万1,150円)となっている。 

 

(3)高い労働組合組織率   

スウェーデンは労働組合の組織率が非常に高く、ブルーカラーで約85%、(事務職の) ホワイトカラーで約75%となっている。ブルーカラーのほとんどがスウェーデン労働組

1  任期付きの契約が認められている場合は、任期が終了すれば勤務態度が勤勉であっても雇用を継続する 義務は生じない。

2 EUは、労働者の雇用条件に関する指令(96/71/EC)で最低賃金について定めている。スウェーデンで は、法律で明示されているわけではないものの、実質的に団体労働協約で最低賃金について定めているた

合連合(LO)の中にある労働組合に属し、ホワイトカラーの多くは、スウェーデン職業 雇用者連合かスウェーデン職業団体連合の中にある労働組合に所属している。労働組合 は、2003年には一般的に、最大5パーセントから最低2.6パーセントの賃金引き上げを要 請した。2004年には、最大5パーセントから最低2パーセントの引き上げ要請となってい る。企業レベルでの労働組合による交渉制度が主流になりつつあるが、伝統的な業界全 体の中央労働組合協約も、各産業部門への指標となっている。 

 

(4)団体交渉    

スウェーデンでは、企業と労使協定の交渉を進めるのは、企業ごとの労働組合ではな く、業界全体の労働組合である。労使協定は基本的に賃金と就労規則のみを対象として いる。もし、企業と労働組合が交渉で同意に達しない場合、労働組合は労働者にストラ イキまたは工場閉鎖を呼びかけることができる。ただし実際には、ストライキや工場閉 鎖の頻度は、スウェーデンでは日本よりも少ない。企業と労使協定の交渉を進めるのは、

企業ごとの労働組合ではないため、企業レベルでの労働争議発生は非常に少ない。2002 年における労働争議による労働損失日数をみると、日本が12000日であったのに対して スウェーデンでは1000日となっている3。 

 

(5)社会保障制度   

スウェーデンでは社会保障を通して、安全かつ安定した社会福祉を全ての人に与える ことを目指している。スウェーデンの社会保障制度は広範囲にわたるものであり、育児 休業、保育から医療保険、障害者援助、老人介護といった日本にも存在するものの他、

子どもの医療費免除、子どもの数に応じた住宅手当など多岐にわたる。社会保障制度は、

国家社会保障局(Försäkringskassan)の管轄のもと、基本的に全ての在住者を対象とし ている。社会保障の財源は、主として雇用者社会保障拠出金、年金、税金や基金の運用 利益等である。従業員自身も、給与の7%を、健康保険や年金として支払っている(雇 用者負担および従業員負担については、第2章7節で詳述している)。 

 

(6)失業手当     

 失業手当は、企業拠出と国庫負担を財源とし、労働組合の管轄である4。失業手当は 個人の前年度で得た収入の80パーセントと定められており、手当の一日における上限は

3 厚生労働省『2003〜2004年 海外情勢報告』(2004年)付属統計表付5−(2) より。

4 スカンディナビアcomHP(http://www.scandinavica.com/culture/society/working.htm)より Working in Sweden

680クローネ(約1万200円)(給付期間の最初の100日間は730クローネ(約1万950円)

である。補償は最大300日間であるが、57歳以上の失業者の場合には450日間補償される。 

 失業手当は、各従業員が所属する労働組合ごとに定められているが、スウェーデン政 府は1997年に保険基金を設立し、全ての従業員に対して最低保証を行なうようになった。 

 

(7)賃金保証   

 雇用者が破産宣告を受け、資金の不足で従業員の賃金が支払えない場合、国は賃金保 証議定という法律(Wage Guarantee Act)に従って支払金を受け持っている。これらの 支払金は、破産の申請をする直前の3ヶ月前にさかのぼって要求できる。また、解雇通 知は、6ヶ月前にさかのぼって要求できる。賃金保証は企業拠出金を財源としている。 

   

2.職場環境   

(1)職場での差別に対する法律   

スウェーデンでは、職場の差別を禁じる特別な法律が四つあり、それらの法律は就職 希望者や従業員に対して、男女雇用機会均等、民族差別、性的嗜好、機能的障害による 直接的、間接的な差別を禁止している。さらに、雇用方法においても差別は禁止されて おり、昇進や昇進につながる研修の候補者選び、雇用条件や給与の調整、そして一時解 雇や契約解除についても規定されている。 

 

(2)労働市場における男女平等   

国家労働市場審議会(AMS)は、男女不平等撤廃にむけて特別プログラムと基金を設 けている。これは男女間の賃金格差の問題も対象にしている。他国と比較すると、男女 間の賃金の格差は少ないが、平均的に女性の方が収入は少ないのが現状である。EU諸 国では原則として同一の労働に対しては同一の時間当たり賃金が支払われなくてはならな い。男女の平等も労働協約で確約されている。 

スウェーデンの労働市場は約420万人の労働者から成り立っているが、その約半分は女 性が占めている。2003年における、男性の労働力率79%に対して、女性の労働力率は75%

であった5。また、仕事と育児を両立するために、約4割の女性が週35時間未満のパート タイム労働者として働いている。 

 

 

(3)多文化的環境   

スウェーデンには多国籍企業も多く、国際的なビジネスを長年にわたって経験してい る。ホワイトカラーの多くは英語を話し、仏語や独語も習得している者も少なくない。 

 およそ労働者全体の約5.2%にあたる、約22万人の外国人がスウェーデンの労働力に含 まれている。そのうち、約40パーセントが北欧諸国、約13パーセントが旧ユーゴスラビ アからである。移住許可証を持つ外国人は、労働市場でスウェーデン人と同じ権利を持 っている。失業率は外国人の方がスウェーデン人より高いが、特に非ヨーロッパ人で著 しく高いと言われている6。 

 

(4)労働時間   

スウェーデンでは法律で、法定労働時間は週40時間と定められている。所定外労働時 間は4週間で48時間に限定し、また年間では200時間以上の所定外労働は認められていな い。これは管理職を含め、基本的に全ての従業員に適用される。多くの労働者は所定外 労働の埋め合わせとして、数日休暇を取っている。ほとんどの職場では労働時間が柔軟 であり、フレックスタイムなどが導入されている。この背景には、パソコンの利用の定 着により、従業員がテレワーク等を活用して家で働くことが可能になったことがある。 

 

(5)有給休暇とバカンス7   

従業員の休職と休暇については、法律が定められている。スウェーデンの全ての勤続 1年以上の従業員は、年間最低5週間(25日)の有給休暇が与えられる。それ以上の有給 休暇日数は各会社の裁量にまかせられており、40日以上の有給休暇を定めている企業も ある。任期付き契約の場合は、企業の判断によって従業員は先述の有給休暇の代わりに、

休暇手当を支給されることがある。有給休暇は5年間にわたって、年間1週間ずつ繰り越 すことができる。つまり、従業員は最大10週間の休暇をとることができる。またスウェ ーデンでは、有給休暇を取得した際、企業から給与外の金銭をもらうことができる。こ れは有給休暇1日あたり月の給料の0.8%と法律で定められている。 

通常、従業員は4週間連続してバカンスを取得できる8。従来のバカンスの時期は7月

6 スウェーデン統計局ヒアリング調査、20052月。

7 スウェーデンの公休日は年間で12日ある。これらのほとんどは宗教(ルター派)祭日に関連している。年 間でみた公休日の順番は;元日、主顕祭、聖金曜日、復活祭の日、復活祭の月曜日、メーデー、キリスト 昇天祭、聖霊降臨祭、ウィット・マンデー、万聖節、クリスマス、ボクシング・デーである。

8バカンスは、法定の有給休暇25日の中に含まれる。