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1.欧米先進国の福祉国家観と少子化対策   

欧米先進国の福祉国家観は、大きく 4 つのグループに整理することができると考えられる。

横軸は社会の基本単位で、家族主義(個人よりも家族を重視。子育ての担い手は女性。)と個人 主義(個人を重視。自立した男女が共に子育てを行う。)に分かれる。縦軸は家族政策(少子化 対策)に積極的か消極的かに分けられる(図表 1-1)。なお、各国をこの4つのグループに厳密 に区分けすることはできない。

図表 1-1 欧米先進国の福祉国家観

社会の基本単位   

家族主義 

(子育ての担い手は女性) 

  個人主義 

(子育ての担い手は男女) 

積極的

 

積極保守的福祉国家観(フランス語圏) 

「出生促進型」 

(イ) 手 厚 い 児 童 手 当 な ど 家 族 に 寛 大 な所得移転 

(ロ) 保 育 サ ー ビ ス を 充 実 さ せ 、 母 親 の就労を支援 

普遍的福祉国家観(北欧諸国) 

「男女共同参画型」 

(イ) 保 育 サ ー ビ ス を 充 実 さ せ 、 母 親 の 就労支援 

(ロ) 育 児 休 業 で 父 親 し か 取 得 で き な い 日 ( パ パ ク ォ ー タ ー ) を 設 け る な ど、育児面での男女平等を促進  (ハ) 雇用面での男女平等 

少子化対策に積極的か

  消極的

 

消極保守的福祉国家観(ドイツ語、南欧圏) 

「母親家庭保育型」 

保育サービスは少ないので、フルタイ ム就業が困難 

 

不介入型国家観(米国、英国) 

「不介入型」 

(イ) 政 府 に よ る 家 族 へ の 介 入 を で き る だけ排除 

(ロ) 社 会 保 障 給 付 お よ び 民 間 福 祉 サ ー ビスへの補助金は最低限に抑制 

( 資 料 ) 各 種 資 料 に 基 づ き 、 富 士 通 総 研 が 作 成 。

英米は、不介入型国家観と考えられ、国が家族に介入していないにもかかわらず、出生率 は 高い。特に、アメリカは合計特殊出生率が 2.07(2003 年)と先進国の中でも高い1。ここで、

注意が必要なのは、国家が家族に不介入とはいえ、ボランティアや NPO の活動がきわめて発

達している側面があるため、育児支援が全くないわけではない点である。また、企業が人材確 保のための福利厚生の一環として子育てとの両立支援も行なっていることが多い。

フランスは、家族政策に積極的で、家族主義をとるタイプと考えられる。日本は家族に積 極 的に国家が介入すべきかどうかについてコンセンサスがなく、フランスのように積極的な出生 促進型の政策を打ち出すことが難しい状況にあるとも考えられる。

2.福祉国家観別にみた出生率の推移 

この4つの分類を見ると、消極保守的福祉国家観と考えられる国(ドイツ、イタリア)で は 少子化が進んでおり合計特殊出生率(以下、出生率)が低迷しているが、残りの3つの分類に 属する国(アメリカ、フランス、スウェーデン、イギリス)は、出生率は高いか、回復してい る状況にある(図表 1-2)。

図表 1-2 福祉国家観別にみる出生率の状況

( 資 料 )Council of Europe “Recent demographic developments in Europe,2002”等 を 基 に 、富 士 通 総 研 が 作 成 。

 

3.性別役割分業が強い国では、出生率が低い 

性別役割分業に対する意識が強い国(「男性は金銭を稼ぐことが仕事で、女性は家と家族の世 話をすることが仕事である」と考える人の割合が高い国)では出生率が低く、性別役割分業に 対する意識が強くない国では出生率が高く、2 つのグループに分かれる傾向が見られる(図表 1-3)。日本はドイツ、イタリアなどと同様に、性別役割分業に対する意識が強い国家グループ

1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0 2.2

 1980  85 90 95 2000

合 計 特 殊 出 生 率

(年)

(人)

アメリカ

フランス スウェーデン

日本 ドイツ イタリア イギリス

生率も高い。しかし、女性が社会に進出するようになると、女性が家と家族の世話をするとい う役割を果たしにくくなり、子どもを産みにくい社会になると考えられる。その後、ある時点 を超えると制度的対応がなされ、性別に関係なく働いて子どもを育てることが可能になる場合 もある。その結果、出生率が回復していく可能性もある。

図表1-3 出生率と性別役割分業意識

「 男 性 は 金 銭 を 稼 ぐ こ と が 仕 事 で 、女 性 は 家 と 家 族 を 世 話 す る こ と が 仕 事 で あ る 」と い う 考 え に 、「 強 く 賛 成 」 又 は 「 賛 成 」 と 答 え た 人 の 割 合

  ( 資 料 )Council of Europe “Recent demographic developments in Europe,2002”、German Social Science Infrastructure Services International Social Survey Programme2002 - "Family and Changing Gender Roles II"2に 基 づ き 、 富 士 通 総 研 が 作 成 。

4.女性の就業率と出生率の関係 

女性の就業率と出生率の関係について、OECD諸国では 1970年に負の相関が見られ、1985 年にはそれが横ばいになり、2000年には正の相関に変わった(図表1-4)。

国別に見ると、ドイツでは女性の就業率が増加するとともに出生率が低下し続けているが 、 フランス、スウェーデン、アメリカでは時期や女性の社会進出の度合いが異なるものの、女性 の就業率が高まるにつれ、一度は出生率が低下したものの、その後回復している傾向が明らか

である(図表1-5)。

こ れ ら を 踏 ま え て 日 本 の 状 況 を 見 る と 、 日 本 は 他 国 と 異 な る 動 き を 示 し て い る 。 日 本 で は 1960年から74 年にかけて、男性就業者に対する女性就業者の割合が低下した。これは、専業 主婦化の進展によるものである。農家の数が減少し、雇用者として働く人が増加したことが専 業主婦化の背景にある。日本の専業主婦化は、戦後ややゆとりができてきた高度経済成長期に 起きた現象であると考えられる。その後、女性の高学歴化、社会進出が著しく進むとともに急 激に出生率が低下しており、その傾向は今日まで継続している。(図表1-6)。

(図表1-4)OECD諸国における女性の就業率と出生率の関係 − 時 系 列 推 移 −

(資料)Council of E urope “Recent demographic developments in Europe,2002”等 を 基 に 、 富 士 通 総 研 が 作 成。

図表1-5  欧米先進国の福祉国家観別にみた「女性の社会進出と出生率」

1.5 2 2.5 3

40% 60% 80% 100%

フランス

女性就業者数/男性就業者数 1956

1975

1993 1.5

2 2.5

40% 60% 80% 100%

女性就業者数/男性就業者数×100

スウェーデン

1983 1991 1963

1 1.5 2 2.5

40% 50% 60% 70% 80% 90%

女性就業者数/男性就業者数

ドイツ

1956

1994 1.5

2 2.5 3 3.5

40% 60% 80% 100%

女性就業者数/男性就業者数×100

アメリカ

1956

2002 1975

  ( 資 料 )WHO、ILOデ ー タ ベ ー ス に 基 づ き 、 富 士 通 総 研 が 作 成 。

図表 1-6 女性の社会進出と出生率 (日本)

( 資 料 )WHOILOデ ー タ ベ ー ス に 基 づ き 、 富 士 通 総 研 が 作 成 。

このような日本の状況については、別の見方もできる。女性の社会進出は対男性比でみると、

現状で 70%という割合である。他の国がこの割合に到達した時点をみると、フランス、アメリ カ、スウェーデン、ノルウェーでは、いずれも女性就業者数が対男性比 70%に達した時点では まだ出生率の低下が進んでいる(図表 1-7)。したがって、今後日本も、他の国のように制度的 対応がなされると、出生率が回復をする可能性もあると考えられる。日本は現在、今後回復を するか否かの分岐点にあると思われる。

1.0 1.5 2.0 2.5

40% 60% 80% 100%

合 計 特 殊 出 生 率

女性就業者数/男性就業者数×100 1974年

1960年

2003年

 0

専業主婦化

女性の社会進出

図表 1-7 女性の社会進出と出生率 (各国比較)

1 1.5 2 2.5 3

40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

日本 合

計 特 殊 出 生 率

女性就業者数/男性就業者数×100

スウェーデン ドイツ

アメリカ

フランス 1956

1991

1983 2002 1956

1960

2004

2002 2002

( 資 料 )WHOILOデ ー タ ベ ー ス に 基 づ き 、 富 士 通 総 研 が 作 成 。

第 2 章 スウェーデン概況