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1.子どもがいる家計の状況   

(1)子どもの成長に伴う父母の就労状況   

子どもが1歳になるまでは、母親が育児休業を取得する場合が大多数である。その後は父 親がフルタイムで、母親がパートタイムで働き、子供が大きくなるにつれ、フルタイム(週 35 時 間以上)働く母親の割合が増えている。父親の働く割合は、子供の年齢にかかわらず同程度 であり、フルタイムで働く父親が 8 割近い(図表 2-9-1)。 

 図表 2-9-1  子供の年齢別にみた父母の就労状況、2003 年 

0 20 40 60 80 100

0 1 2〜3 4〜5 6 7〜9 10〜12 13〜15 16〜17

労働市場に 入っていない 失業中 学生 休業中 週1-19時間 週20-34時間 週35時間以 上

(%)

子どもの年齢 (歳)

【母親の就労状況】

 

0 20 40 60 80 100

0 1 2〜3 4〜5 6 7〜9 10〜12 13〜15 16〜17

労働市場に 入っていない 失業中 学生 休業中 週1-19時間 週20-34時間 週35時間以

(%)

子どもの年齢 (歳)

【父親の就労状況】

 

(資料)SCB、労働力調査 2003 年。 

(2)子どもの年齢別にみた家計の状況   

通常、子どもが成長するにつれ、親が働きに出やすくなり、多くの場合、賃金も上昇してい るため、家計は向上する。 

SCB(スウェーデン統計局)の推計では、10 代の子供を持つ家庭の方が、それよりも小さな 子どもを抱える家庭よりも世帯全体の所得が高い。2002 年において家計所得の水準が最も 高いのは、家族と同居する子供の年齢が 13-17 歳と最も高い家族のグループであった。ただ し、家計可処分所得について見ると、その水準は子供の年代によって大きく異なるわけでは ない(図表 2-9-2)。このような結果になる理由は、第 2 章 4 節で述べたように、各種制度によ り子どもがいる世帯への所得再分配が行なわれているためである。 

 

 図表 2-9-2  0-17 歳の子供のいる世帯の経済状況、2002 年   

子供の年齢 所得水準(中央値)  家計可処分所得(中央値) 

0-5 歳  1.55  11,900 クローナ(約 17 万 8,500 円)

6-12 歳  1.56  11,500(約 17 万 2,500 円) 

13-17 歳  1.67  11,900 クローナ(約 17 万 8,500 円)

0-17 歳  1.59  11,500(約 17 万 2,500 円) 

 

(注)1. 所得水準=基準生活費に対する可処分所得の割合。「基準生活費」は 2002 年水準として算出された生 活保護基準と、実際の住宅費および子育て費用の合計からなる(子どもの年齢等によって 変動する)。 

2. 所得水準 1.0 は、その家族が「合理的な最低水準」の限界にあることを示す。この値が 2.0 であれば、そ の所得は2つの家族が「合理的な最低水準」を下回ることなく扶養できる水準であるということになる。 

(資料)SCB、家計調査、2002 年より   

(3)子どもの数による家計の変化   

子どもがいる世帯の5%は 0.75 未満の所得水準にある。ただし、多くの場合、様々な社会 保障によって、子どもがいる世帯が長期的に最低所得水準に陥らないようにしている。 

また、家族の所得水準が1を超えている場合でも、経済的な懸念を抱えていることがある。

0-17 歳の子供の 17%は「現金限界1」を満たせない家庭に育っている。 

子どもがいる世帯の中で最も苦しい状況にあるのは、ひとり親世帯および稼ぎ手が 1 人の 同居世帯、つまり収入源が1つしかない世帯である。とりわけ母子家庭は苦しい経済状況に ある。このグループの消費単位当たりの可処分所得は 88,000 クローナである(0-17 歳の子供

1 スウェーデン語の直訳。1週間以内に 14,000 クローナ(約 21 万円)の現金を用意することができるかという、

家計の状況を示す1つの指標。

を有する世帯の平均値は 117,000 クローナ)2。 

また、子どもの数が多い世帯は一般的にみて苦しい状況にある。3 人以上の子供を有する 世帯の可処分所得は 100,000 クローナ(約 150 万円)となっており、同居している子どもが1人 の場合(133,000 クローナ)、2 人の場合(124,000 クローナ)と比較して低い(図表 2-9-3)。 

 

 図表 2-9-3  子どもの数別にみた世帯の経済状況、2002 年   

子供の数 

所得水準 

(中央値) 

消費単位当たり可処分所得

(中央値、クローナ) 

全世帯   

0-21 歳の子供 1 人が同居 1.69 133,000(約 199.5 万円)  0-21 歳の子供 2 人が同居 1.68 124,000 (約 186 万円)    0-21 歳の子供 3 人以上が同居 1.44  100,000 (約 150 万円)  両親世帯の子供 1.68 123,000 (約 184.5 万円) 

0-21 歳の子供 1 人が同居 1.89 148,000 (約 222 万円)  0-21 歳の子供 2 人が同居 1.75 131,000 (約 196.5 万円)    0-21 歳の子供 3 人以上が同居 1.49  104,000 (約 156 万円)  ひとり親世帯の子供 1.21 91,000 (約 136.5 万円)  母子家庭 1.16 88,000 (約 132 万円)  就労している親 1.25 97,000 (約 145.5 万円)    子供1人 1.33 108,000 (約 162 万円)   

(資料)SCB、家計調査、2002 年より。 

   

(4)家族に対する支援の意義   

子どもがいる世帯の可処分所得のうち、平均して 18.1%が「移転所得」3によるものである。

つまり社会保障システムのあり方が子供とその家族に大きな効果をもたらしている。 

可処分所得に占める社会保障給付の割合は、ひとり親世帯か両親世帯かによって異なり、

ひとり親世帯の方が割合が高い。ひとり親世帯においては、維持支援金4と児童手当が高い 割合を示しており、それぞれ可処分所得のおよそ 11%ずつとなっている。ひとり親世帯では、

住宅手当も所得の 7.3%を占めており、両親世帯では、0.8%であることと比較すると非常に高 い。両親世帯においては児童手当が移転所得の中では最大で、可処分所得の約7%を占め

2  SCB、家計調査、2002 年。

3 児童手当、住宅手当、維持支援金(注4参照)、社会保険、生活保護等。

4 公的介入により養育費を支払義務のある者から徴収したり、低額の場合にこれを補助するシステム。

ている(図表 2-9-4)。 

 

 図表 2-9-4  子どもの年齢・人数別にみた世帯の経済状況、2002 年   

可処分所得に占める社会保障給付の割合(パーセント) 

 子供の年齢・数 

    児童手当 住宅手当 維持支援

金  両親保険 生活保

護 

  合計 

総平均  8.0  2.0  2.7  3.5  1.8  18.1 

0-5 歳  6.7 1.8 2.0 9.0 2.3 21.8 

6-12 歳  9.1 2.1 3.1 1.9 1.6 17.7  年

齢  13-17 歳  7.4 2.0 2.9 0.5 1.8 14.7  0-21 歳の子供

1 人が同居  4.0 2.2 2.5 4.3 1.7 14.8  0-21 歳の子供

2 人が同居  6.6 1.5 2.3 3.5 1.3 15.2  同

居 人

数  0-21 歳の子供

3 人以上  12.1 2.6 3.5 3.1 2.7 23.9  両親世帯の子供  7.2  0.8  0.7  4.0  1.5  14.1 

0-21 歳の子供

1 人が同居  2.7  0.6  0.4  5.8  1.1  10.6  0-21 歳の子供

2 人が同居  5.7  0.4  0.5  3.8  0.9  11.4   

0-21 歳の子供

3 人以上が同居 11.2  1.3  1.3  3.3  2.4  19.4  ひとり親世帯の子供 11.3  7.3  11.2  1.6  3.5  34.8  母子家庭  12.1  8.3  11.8  1.7  4.1  37.9  父子家庭  10.1  5.5  10.5  1.8  1.4  29.3    子供1人  6.7  5.5  7.1  1.1  3.1  23.6 

(資料)SCB、家計調査、2002 年より。 

 

(5)1990 年代における変化   

1990 年代の半ば以降、経済問題や失業により所得が伸び悩んだことから、多くの女性が 第1子を産む時期を遅らせ、第2子、第3子も産まないようにする人が増加した。その後、

経済状況の好転とともに、家族・育児に対する諸制度も再び整備され、出生率は急速に回 復基調にある。

このような動きは、家計、とりわけ子供のいる家庭に影響を与えた。1996 年には 0-17 歳 の子供の 21%が、所得水準 1.0 未満の家族に属していた。しかしその後、所得水準は向上し、

2002 年にはほとんどの家族タイプで 93 年以降平均所得水準が上昇した(図表 2-9-5)。これ に伴い、「所得水準が 1.0 未満の家族に属する 0-17 歳の子供の割合」も時系列で減少傾向 にある(図表 2-9-6)。ただし、母子家庭は例外であり、93 年から 2002 年にかけて所得水準が 改善していないため、所得水準が 1.0 未満の家族に属する母子世帯の割合も減少してはい ない。 

 

図表 2-9-5  1990 年代における家計の平均所得水準の変化、2002 年   

  1993 1994  1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 0-5 歳  1.25  1.27  1.24 1.20 1.23 1.30 1.34 1.44 1.52 1.55 6-12 歳  1.24  1.26  1.24 1.20 1.24 1.30 1.35 1.43 1.52 1.56 13-17 歳  1.36  1.38  1.34 1.35 1.36 1.39 1.43 1.58 1.65 1.67 年

齢 

0-17 歳  1.28  1.29  1.26 1.23 1.26 1.32 1.36 1.47 1.54 1.59 0-21 歳の子供

1 人が同居 1.46 1.51 1.44 1.45 1.49 1.51 1.58 1.61 1.71 1.69 0-21 歳の子供

2 人が同居 1.33 1.34 1.32 1.29 1.34 1.37 1.41 1.52 1.61 1.68 同

居 人

数  0-21 歳の子供

3 人以上 1.20 1.20 1.16 1.13 1.16 1.22 1.27 1.34 1.38 1.44 両親世帯の子供  1.34  1.35  1.32 1.30 1.35 1.40 1.46  1.54  1.62 1.68

0-21 歳の子供

1 人が同居  1.56  1.62  1.56 1.55 1.62 1.65 1.71  1.74  1.87 1.89 0-21 歳の子供

2 人が同居  1.37  1.37  1.35 1.33 1.41 1.43 1.51  1.59  1.67 1.75  

0-21 歳の子供

3 人以上が同居 1.20  1.22  1.18 1.16 1.17 1.26 1.31  1.40  1.43 1.49 ひとり親世帯の子供 1.17  1.16  1.11 1.07 1.08 1.08 1.13  1.14  1.20 1.21 母子家庭  1.16  1.15  1.11 1.05 1.08 1.08 1.11  1.12  1.19 1.16 父子家庭  1.17  1.18  1.13 1.13 1.13 1.12 1.15  1.20  1.25 1.25   子供1人  1.24  1.20  1.18 1.19 1.14 1.16 1.23  1.26  1.26 1.33

(注)1. 所得水準=可処分所得に対する基準生活費の割合。「基準生活費」は 2002 年水準として算出された生 活保護基準と、実際の住宅費および子育て費用の合計からなる(子どもの年齢等によって変 動する)。 

2. 所得水準 1.0 は、その家族が「合理的な最低水準」の限界にあることを示す。この値が 2.0 であれば、そ の所得は2つの家族が「合理的な最低水準」を下回ることなく扶養できる水準であるということになる。 

(資料)SCB、家計調査、2002 年。 

 

図表 2-9-6  1990 年代における家計の経済状況の変化(所得水準が 1.0 未満の家族に属する 0-17 歳の子供の割合)(%) 

 

  1993 1994  1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 0-5 歳  14  14  18 24 20 19 16 13 10 13  6-12 歳  14  14  17 22 19 16 13 10 10 11  13-17 歳  11  10  15 17 15 13 10  7  6  8  年

齢 

0-17 歳  14  13  17 21 19 16 13 10  9  11  0-21 歳の子供

1 人が同居  9  9  11 12 13 11 10  7  6  7  0-21 歳の子供

2 人が同居  9  10  13 17 13 11 10  9  7  9  同

居 人

数  0-21 歳の子供

3 人以上  20  16  23 30 28 24 17 14 12 15  両親世帯の子供  11  9  14  16  15  12  10  7  6  8 

0-21 歳の子供

1 人が同居  7  6  8  7  7  7  8  4  3  6  0-21 歳の子供

2 人が同居  7  7  9  13  9  8  8  6  5  7   

0-21 歳の子供

3 人以上が同居 19  14  22  26  26  20  14  11  10  11  ひとり親世帯の子供 19  26  27  36  33  33  22  22  19  22  母子家庭  21  27  26  40  34  33  24  24  19  24  就労している親 19  21  22  29  27  23  16  16  12  15    子供1人  14  19  19  23  26  23  15  13  13  11   

(資料)SCB、家計調査、2002 年。 

 

(6)学生・家庭への援助   

先述のように、子どもが 16 歳に達するまで全ての家庭に児童手当(月額 950 クローネ=約 14,000 円)が支給されている。さらに、子どもが三人以上いる家庭に対しては、第 3 子に対し て月額 254 クローネ(約 4,000 円)、第 4 子に対して月額 760 クローネ(約 11,000 円)、第 5 子 以降に対して月額 950 クローネ(約 14,000 円)の多子加算がある。 

スウェーデンでは、教育にかかる費用は大学・大学院に至るまで全て公費でまかなわれて おり、学生に無料で提供されている。また、義務教育は 16 歳までであるが、スウェーデン政府 は、全ての子どもが 18 歳まで(日本の小・中学校にあたる 9 年間の義務制基礎学校と、日本 の高校にあたる 3 年間の後期中等教育)は、教育を受けるべきであるとの見解を示している5。 スウェーデンでは、学生に対する奨学金は非常に一般的である。例えば、大学進学について

5  保健・社会問題省(2003)”Swedish family policy”, Ministry of Health and Social Affairs, no.14,

は、学生は補助金とローン6という 2 通りの援助−を受けることができる。まず、学生は、年齢、

家庭状況、居住地に関わらず、スウェーデン国立学生支援機構(CSN;Centrala Studiestöds  Nämnden)から援助を受けることができる。一般的に、スウェーデンの学生は有利子返済の借 用部分 1132 クローネ(約 1 万 6,980 円、返済義務あり)と、返済不要の奨学金 593 クローネ

(約 8,895 円)、最高で合計週 1725 クローネを受け取ることができる7。有利子返済の借用部 分を受け取るか、受け取る場合の額といったことは、個人で選択ができる。 

CSN(20058)のレポートによると、スウェーデンの女子大学生の 28%、男子大学生の 13%が 子どもを育てながら学業に励んでいる。スウェーデン政府は、2006 年度より子どもがいる大学 生全員に対し、月額 480 クローネを支給することを 2005 年 2 月に決定した9。 

こうした充実した支援制度を導入している背景には、子どもも社会の一員であり、機会均等 に育てられるべきであり、両親が仕事と育児の両立ができるような環境づくりこそが、社会にと って必要不可欠であり、男女問わず、仕事と家庭の両立を図れることが望ましいという、スウェ ーデン政府の考えがある。 

充実した資金援助などの政策があるにも関わらず、子どものいる多くのひとり親世帯は経済 的に苦しい生活を送っているという指摘もある。スウェーデン統計局の Anna Marnell と Katarina Hansson が 4000 世帯を対象に行った調査によると、ひとり親世帯の家庭の方が他の 家族形態と比較して、経済的に苦しい状況に置かれていると強く感じていることがわかった10。 例えば、調査対象となったひとり親世帯のうち 8 割の親が最大限倹約した生活を心がけ、4 割 が経済的困難からローンなどに頼らざるをえない状況にあり、ひとり親世帯全体の 3 割の親が 貯蓄もなく、また銀行からの融資を受けらない状況にあった(図表 2-9-7)。 

 

6 ローンで資金援助を受けられるのは、大学生以上である。高校生については、家庭に対し、1世帯あたり年間総額

950クローネを支給することとした。

7 スウェーデン奨学金協会HPの中の「Student aid amounts」

http://www.csn.se/English/Students/ThisIsHowMuchStudentAidYouCanReceive/StudentAidAmounts.asp?MenyIdnr=1077 

8 CSN(2005)(20053月)  www.csn.se 

9 スウェーデン政府– Ministry of finance Sweden(2005), “Budget Statement – economic and budget policy guidleines”

http://www.sweden.gov.se/content/1/c6/04/37/74/7b943c5c.pdf 

10 Marnell, A. And Hansson, K. (2004)  “Räcker pengarna?”,スウェーデン統計局; Välfärd number 2, 2004 (アクセス:2005