• 検索結果がありません。

メガジャーナルに関する諸問題

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "メガジャーナルに関する諸問題"

Copied!
12
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

メガジャーナルに関する諸問題

井上, 奈良彦

九州大学大学院言語文化研究院言語環境学部門

https://doi.org/10.15017/2740986

出版情報:言語科学. 55, pp.75-85, 2020-03-19. 九州大学大学院言語文化研究院 バージョン:

権利関係:

(2)

メガジャーナルに関する諸問題

井 上 奈 良 彦 合

1.序論

学術出版をとりまく事情は、従来の伝統的な出版社が発行する図書と学会が発行する学術誌(さ らに日本では特に大学が発行する「紀要J)に研究成果を発表し、それを個人で購入したり図書館 で閲覧する、という形態から、大きく変容を遂げてきた。個人がインターネットで自由に発信で きるようになる一方、世界的な大手出版社による電子ジャーナルの提供とその購読料が図書館の 予算を圧迫すると、著者から比較的高額の投稿料金を取ることで購読は無料とするオープンアク セス(OA)出版の台頭、その仕組みを利用する「ハゲタカjと呼ばれる詐欺的な出版社やジャー ナルの登場など、混沌とした状況にある。研究者の側においては、大学や国家からその成果、 業 績の数値化を求められ、「査読付国際誌」 への出版が義務的になり「あせり」となるという背景も

ある。1

九州大学においても、「ハゲ、タカジャ一ナノレJへの投稿がメディアに取り上げられたのを機に、

研究成果の公開方法について、次のような注意喚起が研究担当理事名で行われた。

対処方法として、エルゼビア社のScopus論文データベース(研究者プロファイリング ツール Pure、研究力分析ツール Scival)を利用されることをお勧めします。 これらは一 定の評価基準の下、審査(査読)を受けた論文のみ登録されており、世界大学ランキング 等に様々な形で活用されていることから、 一定の保証を得ていると思われます。投稿先の ジャーナル選択のみならず、共同研究の相手方の選考などにもご活用下さい。

(井上和秀2018)

本稿では、ここで推奨されているエノレゼピア社が発行するメカeジャーナノレ『Heliyon.B誌がある 意味では「ハゲ、タカ」行為を行っているのではなし、かという疑念を検討する。暫定的な結論とし ては、一般的に非難されている 「ハゲタカジャーナル」「ハゲタカ出版Jではないが、研究者から 見れば不快な存在である。一方、研究者や研究者集団(九州大学であれば、教員の所属組織であ る「研究院」)は、戦術的に利用すべき手段と考えることもできる。

*九州大学大学院言語文化研究院・教授。 [email protected]‑u. ac.jp 

1こういった出版事情の変化については、栗山(2015)、佐藤(2018)、Lawrence(2020)など参照。ま た、本稿の基になった原稿および研究会での発表(井上,2019)に際して、九州大学図書館の芦北卓 也氏、上土井宏太氏から貧重な示唆をいただし、た。

(3)

2.メガジャーナルへの誘導のしくみ

九州大学の推奨に従い、エルゼピア社が発行するジャーナノレに投稿しようとすると、著者向け のページ(https://www.elsevier.com/j a ・jp/ authors)から「論文を投稿する」をクリックすると、 次 の よ う なペ ージ で 出 版 の プ ロ セ ス が 提 示 さ れ 、 投 稿 先 を 検 索 す る こ と が で き る (https://www.elsevier.com/authors/journal・authors/submit・yourpaper)。そのページの下部に ある「JournalFinder」とし、うページに飛び、論文のタイトルや要旨を入力すると、投稿可能性が あるジャーナルの一覧が表示される。その末尾や特定分野のジャーナルがヒットしない場合にい くつかの「汎用」ジャーナルが提示されていて、その一つが『HeliyonJl誌である。.

もう一つは、「カスケード査読Jとしづ道筋で、他のジャーナルの査読で掲載不可となった場合、

同じグ予ルーフ。の別の、ジャーナノレへの紹介が行われる。著者自身が別のジャーナノレを探すという手 聞が省ける一方で、グ?ループ内のジャーナノレへ囲い込み、 投稿料を確保しようという仕組みと見 ることもできる。『Heliyon』誌の場合も、この方法について研究者の間で疑問の声も上がってい る 。 た と え ば 、 ResearchGate に 「Have you been cheated by Elsevier  yet?」

(http s ://www.researchgate.net/post/Ha ve ̲you̲been̲ chea ted̲by ̲Elsevier̲yet)とし、うスレッ ドがあり、騎されたという投稿やそれに対して、現在では当たり前の査読方法だという回答など が寄せられている。

エルゼピア社自身は、次のように、研究の健全性を確保する取り組みの一部として次のように 宣言している。

再現性のある論文を公表する

研究を再現できるようにすることは、 研究に信頼性を与え、 他の研究者、資金提供者、一 般の人々に対して科学が信頼できると提示するための大きな一歩となります。 これが科学 を守るために必要なことです。にもかかわらず複製研究は次のような理由から、滅多に出 版されることはありません:

一部は、そのような研究では 飛躍的進歩」が見られないため、このため著者はほとんど 認識されず、関連引用はオリジナルの論文に行くことが多し、からです。

また、これに関連して、ジャーナルや編集者も複製研究、特に以前の結果を検証する研究 には興味を持たない傾向があります。

有力な出版社として、エルゼピアは出版物に対するこのような認識されている障害を取り 除くサポートを行います。

エルゼピアは再現性を推進する研究の拠点を提供します:

H t l

立♀旦などのジャーナルでは、

結果がどうであれ、良質の研究を歓迎します。

またエノレゼビアでは、再現性を取り上げたバーチャル特集号シリーズも編集しました:例 えばその1つの号では神経科学、神経学、心理学、精神医学について特集し、また亙盟蛙

2

重重:止を取り上げた号もあります。

現在は、再現研究専門の新しい論文タイプに取り組んでいて、さまざまなジャーナルで使 用可能になります。

(https:/1 www.elsevier.com/ja ・jp/about/research ・integrity) 

この方針自体は必ずしも悪いことではないが、結局、論文数などを優先する成果主義の偏重を利 用して、これまで学会誌などでは出版されなかった論文を、お金を払えばエルゼ、ビア社のジャー

(4)

ナルで出版するとし、う見方もできる。

『Heliyon』誌は Elsevierから独立したサイトもあり、その中の記述でも他のジャーナルの査 読に落ちた原稿を受け付けるとしていた。

Manuscripts are rejected for many reasons other than lack of quality; most likely your  research did not fit the journals scope. Heliyon has partnered with over 1000 journals  including some published by Cell Press and The Lancet to provide you with a fast and  easy route to submit your manuscript using Elseviers Article Transfer Service. If you  receive a decision that includes an invitation to move your submission to Helグ・on,the  email will contain a link allowing you to accept or decline. 

(https://www.heliyon.com/article・transferservice 閲覧日 2019年6月 12日)

現在、『Heliyon』はエルゼビア社傘下のCellPress (自然科学系の有力誌『CelUlの出版社)に移 っている(https://www.cell.com/heliyon/)が、同様にエノレゼビアグループの「Articleτ'ransfer Service」に組み込まれている。

3.メガジャーナノレ掲載論文の例

本節では、『Heliyon』誌に掲載された論文のうち、比較的筆者の専門分野に近い論文を取り上 げ、その質を検討する。

3.1.論文 1.

Jabali, 0. (2018). Students' attitudes towards EFL university writing:Acase study at An・  N句ahNational University, Palestine. Heliyon, 4(11), e00896. 

https://doi.org/10.1016/j .heliyon.2018.e00896 

一読して、つぎのような点で、自分が査読者であれば修正を求めるであろうと判断した。

( 1 )内容、文章とも全体的に質が低い、例えば、 Abstractの官頭は次のように始まる。

Writing has always been seen as the most troublesome and challenging area of  language learning for all students without exception especially if it  is to be done in a  foreign language. 

例外なしの一般化であり、本文中でも根拠なく同じ文章がある。さらに下記(3)参照。

また、論文の構成(少なくともセクションの名称とその構造)が不適切である。通常、序論の 中に含めるであろう研究の意義などが、方法論のセクションの下位に配置されている。

(5)

1.  Introduction  2. Background 

3. Materials and methods  3.1.  Problem of the study  3.2. Purpose of the study  3.3. Research questions  3.4. Significance of the study  3.5. Methodology 

3.5.1. Participants and instructional context  3.5.3. Data collection 

3.5.4. Detailed questions of the study  3.5.5. Data analysis 

4. Results and discussion  5. Discussion & conclusions 

!Results & discussion」セクション中のデータ解釈と結論部分に混乱が見られる。

The researcher also noticed that students are against the idea that writing in English  is not a dicultskill to master; they stated that it is an enjoyable activity to do. 

とし、う結果(考察)は「15.I do not enjoy writing in English because it is a veηdifficult skill  for me.」としづ説聞の回答平均(5点中2.21)に基づいている(Table3とその下の段落)が、

「難しいから楽しくなし、」という設問への回答から、ライティングを楽しいと考えているのかは 判断できず、また、ライテイングが難しいということを否定しているのかどうかも不明である。

また、論文では、ライティングは難しくないという考えに反対している、つまり難しいと考えて いる、という指摘になるが、「Discussion& Conclusions」セクションではライティングやライテ イング科目に対する肯定的な態度のみを列挙しているので、否定的設問文に対して5点尺度の平 均が2.21とやや同意しない側にあることに基づいて、上記引用部分とは逆の解釈をしていると考

えられる。

( 2)誤植、誤記(下線は井上)

例えばAbstractの中に

If writing is seen as an act of communication,主主皇旦morecommunication in the written  form is being employed 

… 

本文中で

(6)

Those students are, in fact of varied backgrounds, different learning methodologies,  varied levels of language skills and experience, let alone出些盟旦旦insights,attitudes  and conceptions about the writing skill.  (3.1節。Abstractにも同様の記述があるが、こ ちらはdifferentと正しし、)

結論部分でも

The study findings showed that the participants had positive attitudes toward the主ill of writing, the various writing courses offered by the English Department at the  university, the type of textbooks or teaching methods used, and their writing skills and  strategies. 

というような、すぐに気づく明らかな間違いが複数ある。

3)キーワードが一般的すぎる

Keywords: Sociology, Psychology, Linguistics, Education 

( 4)結論部分の内容

研究の限界と今後の示唆についての記述が一般的であり内容に即していない。

There were several limitations of this study. Firstly, there was no comparison group  employed in this study. Therefore, using a control group was strongly suggested for  future studies. 

何と比較しようとしているのか(他の大学の学生、他の英語科目を履修した学生、違う学年、な ど)不明。「controlgroupJは実験的研究デザインから用語だけ利用したように推測できる。この 研究のような質問紙調査で統制群を設けるというのはどのようなことを想定しているのか不明で ある。

このように、 一読したところ問題が多くあり、日本国内の英語教育系学会の支部紀要やSIGジ ャーナノレ、学内の査読無紀要掲載論文よりも質は低いのではなし、かと評価した。2

2このような論文といわゆるハゲタカ出版に掲載される論文の質の比較は、稿を改め検討したい。

(7)

3.2.論文2.

Banguis‑Bantawig, R. (2019). The role of discourse markers in the speeches of selected Asian  Presidents. Heliyon, 5(3), eO 1298. https://doi.org/10.1016/j.heliyon.2019.eO 1298 

こちらも、内容的に通常の学術誌では出版しないようなものである。アジア各国の大統領の英 語スピーチで使われる談話標識(接続語句など)を数えると、「追加」の機能を示すもの (Also、 Besides、など)が多かったというのが結果の一部である。十分予想できる結果であるが、そのこ

とを実際に数えて示したことに、『Heliyon』誌などメガジャーナルが出版する価値があるとする

「再現可能な研究」ということはできる。ただ、それが一流の査読付国際誌に掲載されました、

と高く評価される研究とは言い難い。3

また、文献レビューの部分では引用の相当数がインターネット上のサイ ト(専門家が実名で書 いている学術的なものではあるが)からの孫引きというのが、評価を下げる。次の部分を見てみ よう。

1.1. Discourse analysis: literature and studies 

Linguistically, discourse analysis is  the study of rules or patterns of connected speech  or writing longer than a sentence (Nordquist, 2017; Ali, 2016; Crane, 2016; Alghamdi,  2014; Gang and Qiao, 2014; Tannen, 2012; Slembrouck, 2014). The two of the specifiβ  theoretical perspectives and analytical approaches employed in linguistiβdiscourse  analysis are cohesion and relevance theory, as well as functional grammar (Sharif,  2015; Crane, 2016), which investigate the relationship between form and function in  verbal communication such as the relationships between language forms (grammatical,  lexical,  and phonological ones) and discourse functions (Renkema, J. in Nordquist,  2017;rayao, Ignacio & Gonzales, 1998). However, Bloor and Bloor (2013) explicates  that  discourse is sometimes used in contrast with textwhere textrefers to actual  written or  sooken data.  and discourse refers  thewhole act of communication  involving oroduction and comorehension. not necessarilv entirelv verbal. The studv of  discourse. then. can involve matters like context. background information or knowledge  shared between a sneaker and hearer' Gn Nordquist, 2017). 

(第2パラグラフ。下線は井上)

何度か言及されている 「Nordquist,2017」は文献リストに次のように記載されている。

3この評価は、圏内の言語系学会の査読誌には掲載されないが、その学会誌がScopusにインデック スされていなければ、九州大学や多くの機関における数値評価には計上されない、という皮肉な状況 を生むことになる。

(8)

Nordquist, Richard, 2017. Discourse. Retrieved from 

https://www.thoughtco.com/discourse‑language‑term ‑1690464 

このサイトは学習者向けの専門用語集としては便利であるが、そこから孫引きするのは論文の評 価を下げる。ただし、著者のNordquistはサイ ト内に記載されている経歴では英語英文学の元大 学教授であり、専門家の署名入りの文書として、現代において伝統的な印刷メディアの辞典類と 同等と考えることもでき、その点はd情報の評価基準が変わってきたと言えなくもない。4

さらに、当該の孫引き部分が不正確である。5

Discourse is  sometimes used in contrast with  text,'  where  text refers to  actual  written or spoken data,  and  discourse refers to  the whole act  of communication  involving production and comprehension, not necessarily entirely verbal. ... The study  of discourse,  then,  can involve  matters like  context, background 

m

rmation or  knowledge shared between a speaker and hearer. 

(Meriel Bloor and Thomas Bloor, The Practi ofCritical Discourse Analysis: an  Introduction. Routledge, 2013) 

Bloor & Bloor (2013)の原文は次の通り。省略部分(下線部)は、原文中での相互参照であり、 ブログ記事でも『Heliyon』論文でも不要であるが、途中省略「...」を削除してしまうのは直接 引用としては不正確。

Discourseis sometimes used in contrast with 'text' ,where textrefers tοactual written  or spoken data, and 'discourserefers to the whole act of communication involving  production and comprehension,  not necessarily entirely verbal. (τ'ext  is  discussed  further  below.)  The study  of discourse,  then, can involve  matters  like  context,  background information or knowledge shared between a speaker and hearer. 

(Bloor & Bloor, 2013, p. 7.  https/:/books.google.co.jp/books?id=8K8uAgAAQBA.J 

&lpg=PP1&hl=ja&pg=PA7#v=onepage&q&f=false) 

このように、論文2も複数の問題を指摘できる。

4査読も編集もしないこの『言語科学』掲載の論文とネット上の署名入りのブログは、その意味では 同じレベルの信頼性しか有しないと言える。

202010月15日の保存ページでは引用が短くなっている (https://web.archive.org/web/20191015021539/https://www.  term‑1690464)。2017年10月14日のページでは引用部分が確認できる

( (https://web.archive.org/web/20171014185706/https://www.thoughtco.com/discourse‑language 

term‑1690464)。

(9)

3.3.論文3.

Fanani, A., Setiawan, S., Purwati, 0., Maisarah, M. ,& Qoyyimah, U. (2020). Donaldτ'rumps  grammar of persuasion in his speech. HJiyon,6¥1), e03082. 

https://doi.org/10.1016/j.heliyon.2019 .e03082 

この論文は『HeliyonJIがCellPressに移行した後発行されたものである。やはり伝統的な学術 誌では出版不可となる可能性が高い問題を指摘することができる。編集方針が継続されているこ との傍証となるだろう。量的研究だが、データは1スピーチ70個程度の文(節)が対象である。

コーディングの方法は比較的単純である(だから悪いというわけではないが、エトス、 パトス、 ロゴスというアリストテレス伝来のレトリックの観点との関係が妥当かには疑問符が付く)。

また、引用文献は論文2と同様玉石混交である。 Hallidayなど言語学系の主要文献あれば、6

簡単なインターネットサイトもある。分析の枠組みとなるアリストテレスは信頼できる英訳(オ ックスフォード出版局) も文献として言及しているが、直接の説明や説明のための例文は著者名 なしの簡単なサイ ト(http://pathosethoslogos.com/)に拠っている。

また、説明のための例文の一つ、「However,although private final demand, output,…」(アメ リカ連邦準備制度理事会議長 Bernankeの発言を公式サイ ト(https://www.federalreserve.gov /newsevents/speech/bernanke20100827 a.htm)から引用せずに、説明を引し、たサイトから孫引き

している安易さが気になる。この引用自体はネット上に多数あるので、共有知識としてその存在 自体問題視はされないが、著者も連絡先もわからないインターネットサイトから引用するのは、

論文2の場合よりも質が低い。

さらに、文献リストの20番、「PowerM.R. Working through Communication. Bond University,  Gold  Coast  1998」 は 大 学 リ ポ ジ ト リ に あ る 学 部 生 用 の 教 材 で あ る

( https://scholar.google.com/scholar̲lookup?hl=en&publication̲year=l998&author=Power+ 

M.R.&title=Working+through+Communication)。

直接の方法論の根拠としている論文の掲載誌も疑問符が付く。研究の再現性を大事にして掲載 するとしづ方針自体が悪くなくても、もとの論文自体が怪しく、 再現論文も怪しいということに なるとイ可をしているのかわからなくなる。 例えば、

Ko, H. C. (2015). Political Persuasion: Adopting Aristotelian rhetoric in public policy  debate strategies. International Journal of Humaniti.θs and Social Science, 6(10), 114‑ 123. 

この論文は、semanticscholar.orgからダウンロード可能なものがGoogleScholarでヒットする ものの、元のジャーナル(http://www.ijhssnet.com/)は誠実な新興勢力、第三世界の巨大資本へ の抵抗といった種類の出版社なのか、それともハゲタカ、もしくは安価なOpenAccess誌か見極

6本稿執筆時点では、言及箇所と本文の内容の関係などを検討する時間はなかった。

(10)

め る 必 要 が る。こ れ ら は 、 ハ ゲ タ カ 出 版 の ブ ラ ッ ク リ ス ト と し て 有 名 な Beall'sList  (https:/fbeallslist.net/)に掲載されている出版社である。7

Feniie,L ,.Jia, R., & Yingying, Z. (2016). Analysis of the rhetorical devices in Obamas  public speeches. Internationalεlournal of Language and Linguistics, 4(4), 141. 

この論文の出版社SciencePublishing Group (Science PG) (www.sciencepublishinggroup.com)  もBeall'sListにある出版社である。

4.査読の質の問題

以上のように、 『HeliyonIJ誌掲載の論文は必ずしも高い質を維持しているとは言い難い。少な くとも言語学・応用言語学系の論文においては上の実例が示す通りである。その原因の一つは、

編集委員の構成である。おそらく編集チームの偏りがあると思われる。エノレゼピア社の直接傘下 にあった2019年前半では、編集長は理系(BiophysicsのPhD)で、名前が挙がっている編集チ ームの分野も理系ばかりである (https://www卯urnals.elsevier.com/heliyon/editorial ・ board)。推 測すると、他の分野の論文は編集助手(EditorialAssistants)などが担当して査読者を割り振っ ているのであろう。そこでどの程度丁寧な査読を行っているか、査読結果をどの程度反映すると 出版可能と判断するのか、商業的な判断が働かないとは言い切れない。編集助手は 3名いるが言 語系の専門はいなかった。 CellPressに移った現在でも、編集委員会のメンバーのリストを見る と理系中心であることに変わりはなく、分野ごとの編集チームのうち、人文系と社会科学系の編 集 チ ー ム は 現 在 編 成 中 と し て 編 集 委 員 の 名 前 は 挙 げ ら れ て い な い

(https://www.cell.com/heliyon/editors. 2020年1月30日閲覧)

もう一つの考え方は、査読基準の分野による違いである。敢えて単純化すると、論文によって 報告される情報(実験結果や発見)が重要な分野においては、その記述の文章に少々難があって も出版する価値はある、記述の細部を修正する過程に時間を取られるよりも、結果を早く公表す ることに意義がある。一方、論文の文章がどのように書かれているかというテクスト自体が重要 な分野にあっては、発表が遅れても文章の推敵のために時間を取ることに意義を見出す。また、

新発見の公表に一刻を争うということ(に価値)がなければ、文章や参照文献の質を高める時間 を十分に取ることができる。 8

Bealls Listをはじめハゲタカジャーナノレやハゲ、タカ出版を定義しようという試みは数多くあるもの の、単純な定義やリスト作りは不可能である(例えば、 Grudniewiczet al. (2019)の試み)。これと Cell  Pressのサイトを比べると何となくよく似た印象であるのも興味深い。有名な出版社のサイトに 似せるというのも「ハゲタカ」の特徴の一つである。ただし、オープンアクセスジャーナルサイト作 成のフリーシステム(https://pkp.sfu.ca/ojs/)を使用していると、まともな中小出版や独立した学会 誌と 「ハゲ、タカ」は同じような外観を呈するので、単純な判断基準にはならない。

8この点において、本稿が文章の推敵と質の高い参照文献の探索に十分な時間を割けなかったこと は、一種の皮肉である。

(11)

5.結論

『Heliyon』誌は結局「ハゲタカ」なのか、「捕食性Jがあるのか、という聞いに対する答えは、

判断基準次第である。本稿で取り上げたような、伝統的な学術誌の査読基準からすれば出版でき ないかもしれない論文を高額の投稿料(2020年 1月時点では$1,750)を払って出版するという意 味では猛禽である。しかし、著者がその出版に価値を見出すことができれば問題はなくなる。20 万円近い投稿料も個人が貧しい研究予算から支出するなら搾取であろう。 大きな資金を有する研 究組織が負担するなら過重な負担ではないだろう。特に、九州大学のように、 Scopusに掲載され た論文に大きな価値を置く制度の下にあっては、 「一定の保証を得ているJと判断され「ご活用下

さい」と公的に推奨される出版先である(井上和秀,2018)。

学術的見地から判断して、今回取り上げたような論文を出版する価値があるのか。当該分野の 研究成果として貢献する内容かと問えば、否定的な判断をせざるを得ない。しかし、研究の透明 性を維持するために、研究資金を得て行った活動の結果を記録し、公表すべきである、と答える

こともできる。

研究組織はこのような論文の投稿をそのメンバーに奨励すべきか。費用対効果どしづ観点から は十分に検討する価値のある選択肢である。制度的な保証を得た国際的査読誌に論文を掲載する ことで評価され、研究資金の獲得に反映される状況においては合理的な判断である、文科省の試 みとして、 大学に対する予算配分の基準のーっとして次のような指標が公表されている。

重点支援評価において③(世界・卓越等)を選択している16大学及び4大学共同利用機関 についてのみ、教育研究に係る指標として、 「運営費交付金等コスト当たり TOP10%論文 数」を試行的に適用させることとした。

(文部科学省2019) この「TOP10%論文数」は次のように定義される。

※TOP10%論文数は、(株)クラリベイト ・アナリティクス ・ジャパン提供のデータを参 考としつつ、(株)エノレゼ、ビア ・ジャパン提供のデータベースを基に算出

(文部科学省2019) 

九州大学ではすでに「教員活動進捗・報告システム(Q‑RADeRS)」において入力時に Scopus の基準に基づく論文数が表示され、 Pureによって外部にそういった数値が公開されている。さら に文科省の方針によってこういった数値の「効果」が強まってし、く可能性がある。当然そのよう な基準を画一的適用することに反対することもできれば、その基準に基づく評価を如何にしてあ げるかという戦術(「戦略」ではなし、かもしれないが)を検討することも可能である。

このような基準に関する議論(例えば、国立大学協会(2019))を十分に検討することは本稿で はできなかった。今後の課題としたい。

(12)

参考文献

井上和秀.(2018).研究 論 文 の投 稿にあたって.九州 大学 学 術 研 究 ・産学 官 連 携本部.

https://airimaq.kyushu・u.ac.jp/ja/topics/index.php?code=35&cat=l 

井上奈良彦.(2019).  「Is*Heliyon*, a mega journal from Elsevier,predatory?Jと考えてみた.

第182回 言 語 研 究会例会.九州大学言語文化研究院.

栗山正光.(2015).ハゲタカオープンアクセス出版社への警戒.情報管理,58(2),92・99.  国立大学協会.(2019). 2020年度の運営費交付金の配分における共通指標の活用について(考え

方の整理). https://www.janu.jp/news/files/20191115‑wnew・ kyotsushihyo. pdf 

佐 藤 朔.(2018).オープンアクセスメガジャーナルの興隆,と,停滞.情報の科学と技術, 68(4), 187・  188. 

文部科学省.(2019).令和元年度国立大学法人運営費交付金における新しい評価・資源配分の仕組 み に つ い て ( 成 果 を 中 心 と し た 実 績 状 況 に 基 づ く 配 分 の 仕 組 み の 創 設 ) https://www.mext.go.jp/content/1417264 001.pdf 

Grudniewicz, A., Moher, D., Cobey, K. D., Bryson, G. L., Cukier, S., Allen, K.,…& Ciro, J.B. 

(2019). Predatory journals:  no definition,  no defence.λTature, 576,  210212. doi:  10.1038/d41586019・03759y

Lawrence, Rebecca. 2020.ジャーナルを超えた動き:出版者、資金提供者、機関の変わりゆく役 割(第2回SPARCJapanセミナー2018における講演) . SPARC Japan NewsLetter, 37,  6

  15. https://www.nii.ac.jp/sparc/publications/newsletter/PDF /sj ・ N ewsLetter 37 .pdf 

参照

関連したドキュメント

Abbreviation: s-IgG4: Serum IgG4; HT: Hashimoto Thyroiditis; GD: Graves’ Disease; RT: Riedel Thyroiditis; IgG4: Immunoglobulin G4; IgG4+cells: IgG4-positive plasma cells;

environmental consequences of automobile lifetime extension and fuel economy improvement: Japan's case. Economic System Research, vol. Does product lifetime extension increase

In this thesis, feasibility study on the stable operation of the conduction-cooled superconducting magnet for high intense muon beam line (COMET-PCS) regarding the coil

 Positioning  linguistic  landscape  in   the  multilingual  campus  context,  this  study  enriches  people’s  understanding  of   linguistic

The concept used for this study is based on the cultural based contextual backgrounds of westerners existing within the construct of the Japanese host culture..

The study of non-anonymous Internet communication on social media confirms that the same trend is also present in this area of natural language, and that

These aspects are particularly relevant in Chapter 2, where we conducted a development and validation of a high-throughput method for metabolite analysis using

A small surface coverage via gold nanoparticles obtained by HPS-Au (2-3nm), evaporated Au (2-3nm) and APG-Au (1nm and 1.5nm) sparsely dispersed on ITO can act as